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第189話 初舞台お披露目会
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昼も早からミーシャを拉致してこちらの自宅で着替えさせた。
逃げないように。逃げるような子じゃないが。
落ち着いたベージュ系のイブニングドレス姿のミーシャが上から降りて俺の前でクルリと回った。
「ど、どうでしょうか」
「そんな緊張するなって。可愛いよ。慣れないヒールで転ばないように注意。心配ならフィーネの腕持って」
「腕でも肩でも貸すわ。もう少ししたら早めに行ってお茶会よ」
「はい…。流石に緊張します」
「4日後のここの応接室でやるお見合いは手持ちの普段着でもいいからさ。楽に自然体でな」
「そっちも緊張します。まさかこんなにも早いとは…」
「紹介しろって言ったのはミーシャだぞ。俺に食って掛かる度胸は何処行った」
「う…。何にも言えません」
「まずは座って」
対面ではなく隣の席に座らせ清浄の手袋を装着。
「今からミーシャを鑑定します。信用するしない以前に病気とかの有無を見たい。いいかい?」
「どうぞ。存分に揉んでやって下さい」
胸元を開いて…。
「ちょっと」
「ドアホが!肩に触るだけだ。なんで嫁さんを背にした状態で御婦人の胸を触診せねばならんのだ」
「失礼しました。フィーネ様」
「気を付けなさい。故意にやったら腕折るわよ」
「済みませんでした!」
背中に回って軽く両肩を解して鑑定。
状態:肩凝り。偏頭痛。胃腸虚弱
「肩凝り、偏頭痛、胃腸虚弱。まあ酒場での仕事や一般的なストレスが原因の病気かな。他は特に変な呪いや病気は出なかった。
アローマからプレゼントさせたリゼルオイルとかを試してカメノス医院に行くといい。良い胃薬出してくれるから」
「有り難う御座います!」
「鑑定は終わった。ここでとても失礼な質問をする」
「何でしょう」
「ハイネ、マッサラ、ラッハマなどの娼館で働いた経験は有るか」
「…マッサラで数日間。経験が有ります」
「それで妙に男慣れしてるのか。まあそれを咎める資格は俺には無いし。悪い事だと言う積もりは毛頭無い。
過去は過去。病気も貰ってないみたいだし何か不安なら婦人科も受診してみて」
「はい」
「過去を見合い相手に話すのか」
「上手く行って。深いお付き合いに発展する前には話そうかと考えてます」
「俺は止めといた方が良いと思う。フィーネとアローマのご意見は」
「私も必要無いと思う」
「同じです」
「…」
「俺みたいに過去は関係無いって言う男も居れば。それを嫌う男も居る。今度の見合い相手は感覚的に後者だ。
接客業に従事してる人だから潔癖ではないだろう。でも女性には不自由してない言い寄られるタイプだ。
忘れろとは言わないが。ロルーゼから来る時に変な男に引っ掛けられた位に留めた方が良いと思うぞ」
「…はい。そうします」
「ごめんごめん。泣くな。お化粧が崩れる」
ポンポンと頭を撫でた。
「エドワンドと同じ3区のトワイライトで働いた経験は」
「あのお店は倍率が別格に高いので選考に落ちました。客として入った事も無いです」
「良し。次は王女様とお近付きなる上で重要な質問だ。
今まで振り返って妙な奴に付き纏われた経験は有るか。老若男女問わず」
「……」
目を深く閉じて検索中。
「一人だけ…居ます。装飾店に良く来ていた初老の男性が名前を一切名乗らず。毎回現金払いで娘への土産だと言って小物を大量に買って帰る客で。自宅から店の通路や買い物に行った先で見掛けた事も」
ヤバいじゃない。
「それって最近も?」
「いえ…。思い返せばカラトビラの挙兵前後からパッタリと来なくなりました」
これはセーフなのか。
ミーシャも俺たちの関係者として張られてたみたいだな。
「今度何処かで見掛けたら全力で逃げろ。話を聞く必要も無い。人通りの多い場所。ロロシュ邸。今度紹介するカメノス邸。巡回してる衛兵や駐屯所。
何処でもいいから兎に角逃げろ。それだけは絶対に守ると約束してくれ」
「はい。お約束します」
「私たちを見掛けたら私たちでも」
「取り敢えず昨晩に怪しい接近者は居りませんでした」
話の折りに丁度ソプランが迎えに来た。
「おーい。向こうの準備出来たってよ」
「安心して行って来い。城は安全。王女様は優しい。俺たちも付いてる」
「はい…。これ以上は止めて下さい。スターレン様に惚れてしまいそうです」
「それは駄目ね。今日は特別にお城への直通路を通ります。途中目隠しさせて私がお姫様抱っこでミーシャを運ぶから身を任せて。
スタンたちはお茶会終わりに他の人たちと来るから」
「フィーネ様にも惚れそうです」
「しっかりして。そんなんじゃお見合い相手に逃げられるわよ」
「心を入替え臨みます!」
頑張れよ。
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何もかも。そう何もかもが不思議だった。
どうして平民の私が。異国の地から出稼ぎに来た平凡で粗末な私がここに居るのか。
王宮へ入る事すら烏滸がましい。まして王族が住まう後宮に立ち入れるだなんて。
百人に問えば百人が答えるに違い無い。場違いだと。
フィーネ様の腕に抱かれて運ばれている間。私は不思議な高揚感と安心感に包まれていた。
本気で惚れてしまいそう…。いや違う。
今は其れ処ではない。
切っ掛けはと振り返らなくても直ぐに浮かぶ。
昨年の二月。商業ギルドの掲示板の片隅でお気持ち無料講習の張り紙を見た時だ。
講習内容は基本算術と商売のあらまし。それを無料で聞けると見て会議室の扉を叩いた。
あの時あの扉を叩いていなければ。今の私は有り得なかった。どうせ無料だ。時間が無いし忙しい。そうやって通り過ぎていたら。私はあの時人生を詰んでいた。
真に運命の分岐点はあの場所。
室内にはメメット商隊の面々が居て。大きな仮面で顔を覆い隠したフィーネ様が居て。ストアレン商会のスターレン様が居た。
合計しても一週間に満たない講習。初期から聞けた私は幸運だった。
回を重ねる度に聴衆は立ち見になるまで増えたが。スターレン様の解り易い講義を理解出来ていた者は少ない。
理解した振りをして帰った人たちは二度と見てはいない。
恐らく王都を去ったんだと思う。
スターレン様を毎回誘惑しようとした一区の二人の女も名前すら覚えて貰えなかったと嘆いていた。
それまで日雇いの仕事ばかりを点々としていた私に住居付きの服飾店の販売員の仕事を紹介してくれたのも、同じ講習を最後まで受けていた人だ。
色々な人の運命が折り重なって私も救われた。
要するに…。下手は打てない!
不敬罪でこの首が刎ねられようとも前のめりにぶち当たるしかないのだ。
そう固く決意したのに。最奥の席に王妃様をお見掛けして心が折れた。
土下座でご挨拶をしようとした私をフィーネ様が止めた。
「ダメダメ。お裾が乱れちゃう。私と一緒にお辞儀をすれば良いのよ。公式な接見ではないから」
「はい…」
後ろを歩いていたアローマさんが扉付近に立つ近衛兵たちと同じ並びに控えて離れた。
心細さから思わずフィーネ様の腕を取った。
「大丈夫。私に任せて」
惚れてまうやろー。いやもう性別度外視で本気で大好きになってしまった。
自分がこんなにもチョロい女だっただなんて。
横並びで深く礼をしてフィーネ様に引かれるままに奥へと進んだ。
てっきり私は下席に座るのだと構えていたら!
「違うよ。私とミーシャはこっち」
何とメルシャン様の二つ手前の椅子を引いてしまった。
死んだ…。今夜が最期の夜となるのでしょう。
嫌よ!四日後にまだ見ぬ男性を紹介して頂くんですもの。
生きてやるんだから!
我ながら情緒不安定だ。
「はい座って。自己紹介」
フィーネ様に促され席に着いた。
「お、お初にお目に掛かります。五区の装飾店に従事して居ります。ミーシャと申します。出身はロルーゼの王都となります」
重厚な白塗りの長テーブルの角にミラン様。対面にメルシャン様。その隣にフィーネ様。隣が私。
私の右にシュルツ様…。何故私が左に!
フィーネ様の対面には銀髪の美少女。恐らくライザー殿下の御婚約者のダリア様。お姿は下々では誰も知らない。
発表されたのはお名前だけ。
ダリア様の隣、私の対面はご出産を機に育児休職中のライラ様。軍服姿のライラ様は何度か町中でお見掛けした事が有る。
メメット隊のゴンザ様と仲睦まじく歩いている所も。
ライラ様の隣、シュルツ様の対面には存知上げない女性。溢れ出る気品と冷たさを感じるオーラから間違い無くお貴族様の匂いがする。
計八名の女性の中でド平民は私のみ。急にお腹が痛くなって来た…。
「これはミーシャからのお土産です」
フィーネ様が預けた贈答用の箱を収納バッグから出し提示して開封。私が持っていたのでは王族の目の前で開く事は適わない。
「あら可愛い。フィーネやシュルツが着けているシュシュと同じなのかしら」
最初にミラン様からお褒めに預かった。
「はい。原形は同じで今年の新作の型です。配色のバリエーションも増えました。店主で工房主のロレーヌが織った品となります」
「店主さんが自分で織ってたんだ」
「はい。とても人見知りで内向的なお人で主に私が店番や接客対応を」
メルシャン様が黒を手に取り。
「昨年の型はもう無いのですの?」
「残念ながら…大人気の品切れで。昨年までだと黒色の揃えも無かった物で。御所望であれば復刻オーダーが可能か明日にでも聞いて参ります」
「お願いしますわ。これも可愛いですが出来ればフィーやシュルツと同じ形が良いの」
フィー…。あぁフィーネ様の事か。
「我が儘言わないのメル。嫌な金持ち女に見えるわよ」
凄いな。王女様ともこんなに親密に話されるなんて。
「だってぇ」
「メルシャン。客人の前です。姿勢を正しなさい」
「お義母様が気を楽に過ごしなさいと仰ったのではないですか」
「弛んだ姿を下に見せよと言った覚えは有りませんよ」
「はーい…。では私はこの黒色で。お茶と茶菓子を運ばせてから本題へと入りましょう」
シュシュを手首に巻いて手を挙げ控えの者に合図した。
紅茶とクッキーが運び入れられ国の上位のお茶会が始まった。
茶にはリゼルオイルが垂らされ。
「良い香りですね。病み付きになりそうです。さて置きミーシャが知らない顔は有りますか」
「ミラン様のお隣がダリア様で合っているのなら。前端の方は存知上げません。ライラ様は町中でお見掛けを」
「私から手短に。彼女はペルシェ・キャンペラ。カメノス商団の子女です。貴族では有りませんが貴女の力となってくれる強い味方です。そちらは後に挨拶を」
スターレン様が紹介すると言っていたのはこの方か。
お互いに会釈に留めた。
「件の概要はギルド局長からスターレンの相談を受け取った父やフィーネから聞き及んでいます。
建前上私が城下でお忍び買い物中に立ち寄った店。ロレーヌ服飾店でミーシャを気に入り友人とした、となっています。
フィーネの友人なら私の友人。ここでは気は休まらないでしょうがどうぞ楽に」
「あ、有り難う御座います」
リゼルオイル入りのお茶が内臓に染み渡る。
「友人である貴女を今日の特別な日。城では初の演劇お披露目会に私情で招いた。その認識は共有して」
「はい。スターレン様からもそう伺いました」
「どうしてこの茶会に招いたのかは理解出来るかしら」
どうして?王女様との顔合わせ、の意味だけじゃない。
「…ロルーゼとタイラントの。政治的な問題へと発展するから。でしょうか」
「頭が回りますわね。流石はスターレンが見込んだだけは有ります。その通り。これは貴女個人の問題ではなく国際問題へと発展する要素を孕みます。
だからと言って貴女に何かをさせる訳では有りません。程なくミーシャの生家プラド家の負債も消える。
問題なのはそのローデンマンの動き。現マッハリアの最高権力を握るフリューゲル家の分家に居た男。もしも前女王フレゼリカの犬であったなら。フレゼリカの命を受け力を蓄えたままロルーゼで待機していたのだとしたら。解を問う迄も有りませんね」
二国間では収まらない。
「三国での摩擦になると…」
「ご安心為さい。タイラントとマッハリアの関係性が揺らぐ要素は有りません。何せ現暫定王はスターレンを敬愛する弟君なのですから。
導き手の御父上様も大変立派な御方。
最悪想定でローデンマンがロルーゼが衰退した今この時を待っていた場合。何が起きるのか誰にも読めない。
なので最初スターレンは自ら叩き潰しに行こうと考え。
それを察した父がまだ国外から安全に潰せると踏んで私を盾にしろと諫めた。
真実はその様な流れです」
そんな重大な局面を迎えていただなんて…。
「私は…いったい何をすれば」
「何もしてはいけません。後に来るご家族や関係者に私に会わせろと言われても。決して応じては為りません。
城下の友人。これから親密になるかも知れない男性。誰かにこの流れを話す事も禁じます。聡明な貴女ならそれがどれ程に危険な行為かは解るでしょう。
私やスターレンやフィーネ。この三人に対して接触を希望する人物が現われたら。この中の誰かの所へ駆け込み為さい。この茶会はその為の顔合わせです。
良いですね」
「はい。それが例え親や弟で有ろうとも。全てを捨てて迷わず走ると誓います」
ダリア様が柔やかに。
「大丈夫ですよ。それらは最悪ケースです。只、ミーシャさんは若干体力に難がお有りです。今の内から鍛錬を。
ロロシュ邸の運動器具をお借りするのが良いでしょう。その上でシュルツ様の特製ブーツが有れば安心です」
何を言われているのか良く解らないが。兎に角何時でも走れるように体力を付けなさいと。
「解りました。シュルツ様。お願い出来ますでしょうか」
「勿論です。誰も居なくても邸内の修練所とお風呂を使えるよう手配をします。ブーツは完成したらお店にお持ちしますね」
感動で泣きそうです。許されるなら抱き締めたい。
「有り難う御座います」
ダリア様はこうも付け加えた。
「来年…。珍しく王都で雪が降る日。慌てて転ばないようにご注意を」
口には出来ないけれど。可愛らしくて不思議な人だ。
「はい。足元には充分な注意を。実家で雪は多少慣れて居ます故」
メルシャン様がちょっと怒りながら。
「私の未来予想はまだ見えませんの」
「見えたとしてもお教え出来ません。予想が外れて御姉様から平手を頂戴する未来が見えます」
占いみたいな物だろうか。
「むぅ~」
「好い加減にしてメル。ダリアに暴力を振うなんて最低よ。王女の前に人として」
「叩かれたら私の所へ来なさい」
ミラン様がダリア様の頭を撫でた。
「直ぐに駆け込みます」
「うぅ…。皆して酷い…」
「駄々っ子は放って置いて。ミーシャの故郷。王都ベルエイガの良い思い出話を聞かせてくれない?」
私の緊張は何時の間にか消えていた。
「そうですね…。少ないですがお話を。今思えば中央は砂上の城。先代正王が残された多くの遺産を余さず食い潰そうとしていたのでしょう。
あれは十年前の短い夏の時期……」
それから時間まで。僅かばかりの思い出を披露した。
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茶会終わりにダリアが話が有ると明るい表情を浮べるミーシャと入れ替わりで後宮に入った。
ミーシャ以外の茶会メンバーはそのまま。
ダリアが神妙な面持ちで。
「ミーシャさんを見詰めていたら別の要素が浮かびました」
「別の要素?本人にじゃなくて?」
「はい。ミーシャさんのご家族の前に来る。ペルシェ様の姉君アルシェ様が連れて来られる数名の中に。顔が全く浮かばない人物が一人。けれどミーシャさんに強い執着を感じます。
繋がりが有るとすればローデンマンとも無関係では無いと思われます。
アルシェ様御本人の背中にも妙な黒い影が垣間見えました。呪いの類なのか人影なのかはまだ遠くて見えません」
「そっちでも繋がったか…」
「以前にミーシャを付け狙ってた男で間違いないわね」
ペルシェがダリアに問う。
「私の姉をご存じで」
「いいえ。浮かんだお顔立ちがペルシェ様と双子かと思える程そっくりでしたので」
「あぁ…。それは確かに」
「それに何処か懐かしさを感じました。もしかしたら私がロルーゼから逃げ延びる時に擦れ違っていたのかも知れないですね」
「へぇ。でもどうすっかなぁ」
「面倒は重なる物ね」
2人で腕を組んで悩んでいるとダリアは笑顔で。
「お二人共お忘れですよ。こちらには真実しか話せなくなる怖ーい黄金の椅子が有るではないですか」
「「あ!」」
暫く使ってなくて忘れてた。
「今は俺が持ったままだったわ。忘れてた」
城から返却されて其れっ切り。
「それさえ有れば二つの案件は楽勝で解決出来ますよ」
「アルシェ隊の面接会場はカメノス邸内。ミーシャの実家組はモヘッドの管轄。カエザール家の近くの空き屋敷に設けよう。どの道住居と工房はそっちに作る流れだしな」
「ムートン卿にはメルから伝えて。ペルシェさんはお姉さん帰って来たら速攻教えて」
「承知しました。前回帰宅時にお二人に会いたがっていたので逆に助かります」
「今、父の屋敷には身重の姉が居りますしね。仕方有りませんわ。構える服飾店には興味が有りましたが」
「それはマリーシャさんの担当よ。こっちから繋がり示してどうするの」
「ですわね」
かなり残念そう。
「ありがとダリア。助かったよ」
「ありがとね。今度何か沢山お礼をするわ」
少し考え。
「でしたら…。ミラン様と御姉様と私とシュルツ様を例のステーキ屋さんへご招待願えませんでしょうか。お暇な時に」
マジかぁ。
「おぉ…。ダリアが言うなら可能なのか」
「ちょーっと作戦練らないといけないから待っててね」
「はい」
「例の…。あの三区の」
「そうです」
「それは楽しみですわ」
「楽しみにして居ますよ」
「待ってました!何時連れて行ってくれるのかと」
父上たちやペリーニャたちを招待した時は無理言って店の1階に壁作ったからな。
今度はどーすべーか。護衛を厳選して階段下付近席に固めて座らせるか。何となく行けそうな予感。ダリアに何が見えたのか聞いてから考える。
そうこうしている内に。
「宴会場の準備が整いました」
係の給仕が呼びに来た。
会場へと移動中。
「そういや馬肉は買えるんだっけ」
「専用牧場で今は頭数も少ないから御免なさいって泣かれちゃった」
「モーランゼアで忘れず購入だな」
「最悪野良のお馬さん仕留めて自分たちで処理するかね」
山神様にお祈りしよう。
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舞台背後には景観を描いた緞帳数種。前面は初期から解放され大道具無し小道具有りの立ち演技。
楽団は右手奥の定位置。早着替えの控えブースは反対側に設置された。
舞台ナレーションと進行役等の台詞付きエキストラ数名はマリーシャが追加した。
フィーネとロイドが内密に俺実家へ飛び。風魔石を渡して反響マイクも必要分増やした。
観客側前列中央は勿論ヘルメン陛下とミラン様。両サイドの小卓はメイザーとメルシャン。帰城中のライザーとダリアのカップル席。
後列は俺たちと茶会メンバーとその他関係者席。
出席者が全員席に着いた所からスタート。
フィーネとマリーシャが舞台の前に立ち陛下と王妃にご挨拶。
「ヘルメン陛下、ミラン様、両殿下と両王女。年の瀬迫るこの多忙な時期に時間を設けて頂き恐縮です」
「演じる彼らも初舞台。多少のお目汚しは寛大なお許しを願い。ご批判、ご不満、ご感想はこのマリーシャが一括で賜ります。開演をする前に。
陛下、ミラン様。こちらの反響道具はお耳触りではないでしょうか」
問われた二人も反響マイクを手に胸元へ。
「今日は無礼講だ。どの様な台詞を挟もうとも許す。余計な気を張らずに伸び伸びと演じるが良い。
音は問題無い。これは良い道具だな。語気を強めても勝手に抑えられて聞き取り易い」
「挨拶や演説。会議や打ち合わせ。宴会の進行にも広く使えますわね」
「今回の件とは違うが。メイザーとスターレンは来年に幾つか買って帰れ」
名指しされた俺たちは手を挙げて了承。
多分お土産に渡されると思う。フィーネが魔石を大量に渡したらしいし。
気になっていた演目は。俺(自意識過剰)とは無関係な物だった。良かったぁ。
演目「眠れる森の美女と王子様」
そうっす。俺に内緒にしてたのは元世界の超有名童話のパクりだったから。
内容はシンデレラと眠れる森の美女と他の要素を足して贅肉を削ぎ落とした物。
控えブースを覗いたマリーシャが一礼し開演宣言。
「それでは善きご鑑賞を」
田舎町に住む貧しい1人の町娘。
その町娘は幼少の頃に顔に大火傷を負い、醜く爛れた顔をしていた。普段は大きな仮面で顔を覆い。とある貴族家の侍女として働いていた。
娘の名はジュリエッタ。
ある日、彼女が働く貴族の屋敷をロミオ王子が訪ねた所から物語は始まる。
…ロミオとジュリエットも入ってました。
暇が余った王子は裏庭へ行き。そこで2人は出会う。
容姿に囚われない心の広い王子は卑屈に塗れない心清き娘を気に入り。時間が空く度に彼女を呼んで話を重ね屋敷で数日を過ごした。
「何時か我が城へも来て欲しい」
と一枚の招待状を手渡して。
けれどジュリエッタは悩む。
「私が表に出る何て。まして城に入るなど身分不相応。
でも…。それでももう一度、ロミオ様にお会いしたい」
ロミオとの縁談を破棄された貴族子女は一方で仲良くなったジュリエッタに強い嫉妬を抱き。
彼女を屋敷から追放。
仕事も住む場所も同時に失った彼女は途方に暮れ。なけなしの金で魔女が住むと言われる森へと向かった。
運良く魔女に出会えたジュリエッタは懇願した。
「私の命と引換に。この顔を治して頂けませんか」と。
命を賭してもう一度ロミオと出会う為に。
気紛れな魔女は赤い林檎と青い林檎を出して彼女にこう告げた。
「賭けをしようじゃないか。両方顔は治る。だが何方かの林檎は二週間後に死に絶え。もう一方の林檎は二週間以内にここへ戻らねば重い呪いが掛かる。選ぶが良い」
王都までは乗り合い馬車で5日間。
ジュリエッタは迷わず答えた。
「二週間後に死ぬ方の林檎を下さい」
「ほぉ…。それは何故だい」
「私はロミオ様ともう一度お会いし、お話し出来れば良いのです。この森に戻れば私の追手が魔女様にご迷惑をお掛けしてしまいます。
選べるのなら前者で」
気が変わった魔女は別の呪いを掛けた林檎を差し出し。
「じゃあこの赤林檎をお食べ。その心意気に免じて路銀も幾らかくれてやろう」
「この上無い感謝を」
真っ赤な林檎を受け取り。跪いて魔女の手の甲にキスを捧げた。
「優しき魔女様よ」
「何だ」
「路銀の代価として一週間。ここで働かせて下さい。料理に掃除。風呂焚きでも何でも致します」
「一週間?」
「私は道の途中で土に還るのです。直ぐに出発しては貴族様の追手に阻まれます。五日有れば王都へ着けます。もし間に合わなければそれもまた天命」
「…変わった子だね」
「良く言われます。昔からこの顔でしたから」
仮面が外れた娘と魔女。不思議な共同生活は口約通りに一週間続き。ジュリエッタは王都へと出発した。
「優しき魔女様。二度と会えぬのが残念で為りません。どうぞお身体にご自愛下さい」
「…」
魔女は晴れやかに胸を張る娘を無言で見送った。
無事に王都へと着いたジュリエッタは。期限が迫る7日目に漸く王子との接見が叶い。最期の茶会に招かれた。
林檎を食べたのは夕刻。
その時が刻々と近付き。空は彼方まで茜色に染まった。
「ロミオ様。最期にお話出来て嬉しかったです」
「何を、言っているんだい?ジュリエッタ。もう二度と会えないような…」
「私はもう直ぐ死ぬのです」
「どうして…」
「私は貴族様の追手から逃れる為。命を代償に顔を治して頂きました。その期限が今日」
「駄目だ…。そんな事はこの僕が許さない。こんなにも温かい頬をしているのに。信じられないよ」
頬に添えられたロミオの左手に手を重ねて。
「明日の朝には誰とも知らぬ元の顔で朽ちるのです。その様な姿をロミオ様には見せたくは有りません。どうかお許しを。そして私の事などお忘れ下さい」
「嫌だ。この城から出すものか。僕はもう君を。ジュリエッタをあ…」
ロミオが庭園の門に向かうジュリエッタを呼び止めようとしたその刹那。
彼女は忽然とその場から姿を消した。
ヒラリと舞う一枚の手紙を残して。
「私は東の森に棲む悪い魔女。ジュリエッタはたった一人で森に入った。それに見合う勇気を示せ。娘は森の奥で預かった。
娘を真に求めるならば。彼女を捨てた貴族女を葬り。一人で森に来ると良い。
大勢で入れば。そこに在るのは彼女の骸」
脅迫めいた挑戦状にロミオは歓喜した。
「ジュリエッタはまだ、生きている!諦めるものか。僕は彼女をこの手で取り戻す!」
その夜にロミオは私兵を連れてジュリエッタと出会った町へと向かった。
だが使用人を正当に解雇したのであれば貴族家を糾弾は出来ない。
ロミオは子女を問い詰め。私怨で退職金すら払わず殆ど荷物も持たせず追い出したと言質を取った。
それを元に子女を降格謹慎処分とし私兵たちに拘束させ。腰にした国剣を兵に預けて一人で森へ入った。
昼間でも薄暗い森の中。
ジュリエッタが付けたと思われる大木の幹の小さな傷跡。
その目印を頼りに奥へと進んだ。
「こんな獣道をたったの一人で…」
そのジュリエッタの勇気に感動し、恐怖は消え益々ロミオは奮い立った。
「彼女と会うまでは帰らない。必ず連れて帰る」
やがてロミオは小さく粗末な小屋に辿り着いた。
テーブルも無ければ箪笥も無い。在るのは床に横たわるジュリエッタの姿だけ。
「ジュリエッタ…」
顔は元の火傷の顔に戻っていた。それでも変わらず美しいとロミオは心の底から想う。
胸の上で握る彼女の手から手紙を見付け出した。
「真実の愛を示せ。さすれば彼女は目覚めるだろう」
ロミオは迷わなかった。
「僕は君を。ジュリエッタを愛している。許可無く…失礼するよ」
彼女の後頭に手を添えて。優しく重ねる口吻をした。
薄目を開けたジュリエッタは。
「聞こえていました。ロミオ様のお言葉は大変に嬉しく。でもこの顔では王子の妃は務まりません」
「それよりも君の気持ちを聞かせてくれないか」
「私は…。一目お会いした時から。ロミオ様をお慕いして居りました。私も愛しています」
身体を起こして両手を握り合う。
「ならば王位なぞ要らぬ。二人で平民として暮らそう。愛しいジュリエッタ」
「はい…。愛しきロミオ様」
抱き締め合い。長いキスで舞台の幕は下りた。
陛下から始まり。観客も楽団員も壁際に控える従者や近衛たちも場の全員で割れんばかりの拍手を送った。
隣のフィーネに小声で。
「いいじゃん。面白かった。ペルシェさんとシナリオ考えたの?」
「そうだよ。ラフドッグであの二人を見た時から何となく決めてたし。ぶっちゃけパクりだしね」
小さく笑い合っていると陛下の総評。
「大変に良い出来映えだ。楽団の音楽も演技を彩った。口出しはせぬが来年の晩餐会では何か別の物を頼めるか。マリーシャ」
「仰せのままに。フィーネ様は不在でも。近々部下が脚本が上手そうな女性を捕まえそうなので…」
目の端がキラリと。ミーシャ逃げてぇぇぇ。
本人全く気付かぬ顔。そりゃそうですわ。
「本人の了承を得られましたら色々手を加えて無理なく拡充し。正規の劇団を立ち上げたいと考えます」
「うむ。自由にな。資金が足りなければモヘッドに伝えろ。人材は送れぬが金なら援助はする」
「有り難き幸せ」
主演の2人もマリーシャの後ろでお辞儀。
「隣の会場に夕食を用意させた。早めに帰る人間以外は食べて行くと良い。主演の二人はクワンジアではどの様な演目が披露されていたのか。少し話を聞きたい」
「「ハッ!」」
その場で跪いた。
ヘルメンちノリノリやないか。
マリーシャ劇団が俺たちの手を離れ、一人歩きを始める瞬間だった。
半端無く上機嫌な陛下に誘われ。俺たちも夕食に預かった。
「ミーシャも帰りたいだろうがこんな機会は二度と無い。フィーネと一緒に王女様のお側に居とけ」
「はぁ…。もう吐きそうです。助けて下さいフィーネ様」
「私と居れば大丈夫よ。背中に吐かれても困るから気持ち悪かったら先に言ってね」
「はい…」
ミーシャは真っ青な顔して隣会場へと移動した。
隣会場は昨年の晩餐会でフレゼリカと対決した場所。
騒がしい会場内を抜け出て1人でテラスへ出た。かなり寒くなった風が身体の火照りを鎮める。
ワイングラスを片手にボーッと夜空を眺めていると後ろからソプランに声を掛けられた。
「何を惚けて居られるのですか?お調子者の馬鹿主殿」
「ひでぇ。強ち間違いじゃないけど」
「あれから一年半強。色々有ったし色んな場所にも行ったなぁ。てな感じか」
「それそれ。同じ場所なのに随分と遠い気がするよ」
グラスの残りを一気飲み。
「男二人で何をやられて居るんだか。暴走元王子殿」
珍しい人物。ライラもテラスに出て来た。
「俺を慰めに来たのか貶しに来たのかどっちだよ」
「両方ですね。懐かしい。丁度この場所でしたか」
「あぁライラは周辺警備だったよな」
「懐かしいな。執事としては全く成長してねえが」
「自覚有ったんだ」
「チッ。柄じゃねえんだよ、ったく」
「ライラはラフドッグであんま話せなかったけど最近調子はどう?子育て大変?」
「それはもう。屋敷に移って正解でしたよ。一人やご近所さんと子育てしている方が神様に思えます。調子は良いですよ。自分も周りも。多分…二人目入ったかも…」
お腹をスリスリ。
「「おぉ!」」
「悪阻が来ない内に飲み倒す!訳にも行かず程々に」
「御目出度う」
「めでてえな。ゴンザは今何処だ」
「当然屋敷でアンネをあやしてますとも」
「本格的に寒くなる前に久々に墓参りでも行くか。皆で」
「いいね。邸内の花摘んで持って行こう」
「私たちも明日の午前なら。今時分鈴蘭は花屋では手に入らないんで」
「じゃあ明日。お屋敷寄るよ」
「お願いします」
「なら俺はお嬢様そろそろ帰してデニスさんとこ行くわ」
「あ、俺も後で行こ」
「私も行こうかな。ゴンザに内緒で。偶には私だって」
力説してる。子育てって相当ストレス溜まるんだなぁ。
---------------
ロイドはペッツを連れてシュルツと一緒に帰宅。フィーネとアローマはボロボロのミーシャを家まで送り届け。入店はバラバラだったが何時もの4人にライラを加えた5人で程良く飲もうと。
入った頃にはピークが過ぎて他の客も疎ら。
空いていた奥のテーブル席で軽く飲んで談笑していると後方の青年が徐ろに席を立った。
「おい!それは止めろと言っただろ」
デニスの強めの声が飛んだ。
「何?」
振り返ると見覚えの無い青年が俺の真後ろに。
「ス、スターレン様。ですよね」
「誰だっけ?」
「止めろと言っている。済まない。直ぐに摘まみ出すから」
カウンターを出て青年の肩を掴んだ。
「ま、待って下さい!少し。少しだけでいいのでスターレン様とお話を!」
「まあ待ってデニスさん。他の客も帰ったことだし」
「しかし一人許せば切りが無くなるぞ。今来てる客の大半が君狙いだ。会わせて欲しいだの。今度何時来るかだのそればかりを聞いて来る。こいつも最近ずっと入り浸って中々帰らない」
「うーん。まあねぇ。今俺私用で来てるんだ。これから子育ての大変さを友人ママさんからご教授願うとこなんだけど。お仕事の話ならギルド経由で送って貰える?毎日山の様に届く手紙にはちゃんと目は通してるし。9割以上ファンレターだけども。
それともお悩み相談?か俺と握手したいだけとか?」
「その…紙の問題なんです…」
それは聞き捨てならないぞ!
「ごめんデニスさん。思ったよりも重要そうだ。店締められる?」
「解った。どの道君らが帰ったら締める所だったしな」
看板を下げ。玄関と窓にカーテンが掛かった。
席を入替え俺の対面にその青年を座らせ。ライラは後ろのテーブル席でアローマと並んだ。
「初めまして。僕は王都に在る三つの製紙工房の一つ。
ライリー工房の長男。マイリーと申します」
「紙の問題。手紙の中にあったっけ?」
「私は見てない」
「僕も他も商品である紙が使えません。それ程までに危険水域に達しています」
「おぉ…」
「上質紙は城、両ギルド、貴族、上位富裕層で押さえられ一般販売は品薄状態。先々月だったかのフィーネ様の大量購入で最後だったと言っても過言では有りません」
「まぁ…」
2人で顔を見合わせやっちまった状態。
「商品なのですから買って頂けるのは大変有り難い事ですので文句は言えません。
紙の原料には主に南西部の湿地帯に自生している柔木を使っているのですが。数ヶ月前にグエインウルフが突如として姿を消し。繁殖力が強いトードがその柔木を食い荒らしている状況です」
「…」
お話の流れが拙い。これはもしや…。
「グエインが姿を消した、と言う報告は。ソプラン様がなさったとか」
「あぁ、確かにしたな」
「それから数週間後に冒険者の討伐隊が入るようになって繁殖は以前の水準まで収まりました。ですがそこまでの捕食で原料が枯渇。このままでは養生期間である冬を乗り切れず。来年の春を待たずに王都、ハイネ、マッサラから新紙類が消え去ります」
「拙いね」
間違い無く俺たちの所為です。
「非常に拙いです。ソプラン様が悪いなどとは言いません。でも出来る事なら商業ギルドと城へも報告を上げて欲しかったです」
「済まん…」
「今紙類の主流は機密保持の為に使い捨て。古紙を集め溶かして再利用しても低質紙しか作れないのです。
ポム工房やハイネなどの木材加工工房で扱う木は紙の原料としては使えませんでした。
このままでは三工房が全休。少なくとも半年は失業状態に入ります」
拙いとかのレベルを越えてました。
「どうしよう…」
「困ったわね」
「そこでご相談です。ロロシュ財団とカメノス財団共同でハイネの西で栽培を始めたあの柔らかそうな木を試させては貰えませんでしょうか。どうかお願いします!スターレン様の御力で何とかお口添えを!」
額をテーブルにくっ付けて。
ブートストライトの木か。
「頭上げて。一因は俺たちにも有るんだし」
全面的にだけどな!
「あの木は実は俺の主導で主に建築材として使おうと思って蓄積中なんだ。繁殖力が異常に高くて大体1週半で成木なる優れ物。取り敢えず紙に出来るかと1本で何枚作れるか試そう。ライリー工房の場所は?」
「有り難う御座います!工房の場所は五区の南東。外壁付近に三つ固まっています。出来れば全てに。
ロロシュ様やカメノス様には直接お会いするのも難しかったんです。二度程ロロシュ邸を訪ねましたがご不在で。
それでこちらに良く来られる噂を頼りに仲間たちと入り浸っていました。デニスさんの言う大半は、僕らです」
「オッケー。朝一番で3本ずつ持ってくよ。悪いけど皆に伝えて貰えるか」
「はい!お待ちして居ります!」
一礼して全力ダッシュで玄関を飛び出した。
「彼の勘定は俺が払うよ。ごめん」
「構わんさ。彼は殆ど飲んでない」
「ライラもごめん。明日遅くなりそうだ」
「お墓参りは明後日でも。明日の昼は子供と使用人だけになるんで昼食誘おうと思っただけですから」
「ならお土産持ってお昼頂きに行くよ」
「行く行く。アンネちゃんも見に」
「飲み処じゃなくなっちまったな…」
「帰りましょうか。ライラ様は私がお送り致します」
「私も!」
「また来ます。それからこれ」
胚酢漬けとリゼルオイルの瓶を置いて説明。
「おぉ助かる。最近パメラの食欲が落ちててね。悪阻はそれ程でもないんだが」
「酷くなったら教えて。温存してる魔物肉とか。消化に良い米粥作って運ぶから」
「あぁ。そうさせて貰うよ」
ライラが先輩らしく。
「無理な時は少しずつ回数を増やして良く寝てお散歩すると良いですよ。十人十色で正解は無いですが」
「ハイネの奥さん連中にも言われたよ。寝た切りは逆に駄目だと」
病気じゃないってのはホントみたいだな。勉強になる。
逃げないように。逃げるような子じゃないが。
落ち着いたベージュ系のイブニングドレス姿のミーシャが上から降りて俺の前でクルリと回った。
「ど、どうでしょうか」
「そんな緊張するなって。可愛いよ。慣れないヒールで転ばないように注意。心配ならフィーネの腕持って」
「腕でも肩でも貸すわ。もう少ししたら早めに行ってお茶会よ」
「はい…。流石に緊張します」
「4日後のここの応接室でやるお見合いは手持ちの普段着でもいいからさ。楽に自然体でな」
「そっちも緊張します。まさかこんなにも早いとは…」
「紹介しろって言ったのはミーシャだぞ。俺に食って掛かる度胸は何処行った」
「う…。何にも言えません」
「まずは座って」
対面ではなく隣の席に座らせ清浄の手袋を装着。
「今からミーシャを鑑定します。信用するしない以前に病気とかの有無を見たい。いいかい?」
「どうぞ。存分に揉んでやって下さい」
胸元を開いて…。
「ちょっと」
「ドアホが!肩に触るだけだ。なんで嫁さんを背にした状態で御婦人の胸を触診せねばならんのだ」
「失礼しました。フィーネ様」
「気を付けなさい。故意にやったら腕折るわよ」
「済みませんでした!」
背中に回って軽く両肩を解して鑑定。
状態:肩凝り。偏頭痛。胃腸虚弱
「肩凝り、偏頭痛、胃腸虚弱。まあ酒場での仕事や一般的なストレスが原因の病気かな。他は特に変な呪いや病気は出なかった。
アローマからプレゼントさせたリゼルオイルとかを試してカメノス医院に行くといい。良い胃薬出してくれるから」
「有り難う御座います!」
「鑑定は終わった。ここでとても失礼な質問をする」
「何でしょう」
「ハイネ、マッサラ、ラッハマなどの娼館で働いた経験は有るか」
「…マッサラで数日間。経験が有ります」
「それで妙に男慣れしてるのか。まあそれを咎める資格は俺には無いし。悪い事だと言う積もりは毛頭無い。
過去は過去。病気も貰ってないみたいだし何か不安なら婦人科も受診してみて」
「はい」
「過去を見合い相手に話すのか」
「上手く行って。深いお付き合いに発展する前には話そうかと考えてます」
「俺は止めといた方が良いと思う。フィーネとアローマのご意見は」
「私も必要無いと思う」
「同じです」
「…」
「俺みたいに過去は関係無いって言う男も居れば。それを嫌う男も居る。今度の見合い相手は感覚的に後者だ。
接客業に従事してる人だから潔癖ではないだろう。でも女性には不自由してない言い寄られるタイプだ。
忘れろとは言わないが。ロルーゼから来る時に変な男に引っ掛けられた位に留めた方が良いと思うぞ」
「…はい。そうします」
「ごめんごめん。泣くな。お化粧が崩れる」
ポンポンと頭を撫でた。
「エドワンドと同じ3区のトワイライトで働いた経験は」
「あのお店は倍率が別格に高いので選考に落ちました。客として入った事も無いです」
「良し。次は王女様とお近付きなる上で重要な質問だ。
今まで振り返って妙な奴に付き纏われた経験は有るか。老若男女問わず」
「……」
目を深く閉じて検索中。
「一人だけ…居ます。装飾店に良く来ていた初老の男性が名前を一切名乗らず。毎回現金払いで娘への土産だと言って小物を大量に買って帰る客で。自宅から店の通路や買い物に行った先で見掛けた事も」
ヤバいじゃない。
「それって最近も?」
「いえ…。思い返せばカラトビラの挙兵前後からパッタリと来なくなりました」
これはセーフなのか。
ミーシャも俺たちの関係者として張られてたみたいだな。
「今度何処かで見掛けたら全力で逃げろ。話を聞く必要も無い。人通りの多い場所。ロロシュ邸。今度紹介するカメノス邸。巡回してる衛兵や駐屯所。
何処でもいいから兎に角逃げろ。それだけは絶対に守ると約束してくれ」
「はい。お約束します」
「私たちを見掛けたら私たちでも」
「取り敢えず昨晩に怪しい接近者は居りませんでした」
話の折りに丁度ソプランが迎えに来た。
「おーい。向こうの準備出来たってよ」
「安心して行って来い。城は安全。王女様は優しい。俺たちも付いてる」
「はい…。これ以上は止めて下さい。スターレン様に惚れてしまいそうです」
「それは駄目ね。今日は特別にお城への直通路を通ります。途中目隠しさせて私がお姫様抱っこでミーシャを運ぶから身を任せて。
スタンたちはお茶会終わりに他の人たちと来るから」
「フィーネ様にも惚れそうです」
「しっかりして。そんなんじゃお見合い相手に逃げられるわよ」
「心を入替え臨みます!」
頑張れよ。
---------------
何もかも。そう何もかもが不思議だった。
どうして平民の私が。異国の地から出稼ぎに来た平凡で粗末な私がここに居るのか。
王宮へ入る事すら烏滸がましい。まして王族が住まう後宮に立ち入れるだなんて。
百人に問えば百人が答えるに違い無い。場違いだと。
フィーネ様の腕に抱かれて運ばれている間。私は不思議な高揚感と安心感に包まれていた。
本気で惚れてしまいそう…。いや違う。
今は其れ処ではない。
切っ掛けはと振り返らなくても直ぐに浮かぶ。
昨年の二月。商業ギルドの掲示板の片隅でお気持ち無料講習の張り紙を見た時だ。
講習内容は基本算術と商売のあらまし。それを無料で聞けると見て会議室の扉を叩いた。
あの時あの扉を叩いていなければ。今の私は有り得なかった。どうせ無料だ。時間が無いし忙しい。そうやって通り過ぎていたら。私はあの時人生を詰んでいた。
真に運命の分岐点はあの場所。
室内にはメメット商隊の面々が居て。大きな仮面で顔を覆い隠したフィーネ様が居て。ストアレン商会のスターレン様が居た。
合計しても一週間に満たない講習。初期から聞けた私は幸運だった。
回を重ねる度に聴衆は立ち見になるまで増えたが。スターレン様の解り易い講義を理解出来ていた者は少ない。
理解した振りをして帰った人たちは二度と見てはいない。
恐らく王都を去ったんだと思う。
スターレン様を毎回誘惑しようとした一区の二人の女も名前すら覚えて貰えなかったと嘆いていた。
それまで日雇いの仕事ばかりを点々としていた私に住居付きの服飾店の販売員の仕事を紹介してくれたのも、同じ講習を最後まで受けていた人だ。
色々な人の運命が折り重なって私も救われた。
要するに…。下手は打てない!
不敬罪でこの首が刎ねられようとも前のめりにぶち当たるしかないのだ。
そう固く決意したのに。最奥の席に王妃様をお見掛けして心が折れた。
土下座でご挨拶をしようとした私をフィーネ様が止めた。
「ダメダメ。お裾が乱れちゃう。私と一緒にお辞儀をすれば良いのよ。公式な接見ではないから」
「はい…」
後ろを歩いていたアローマさんが扉付近に立つ近衛兵たちと同じ並びに控えて離れた。
心細さから思わずフィーネ様の腕を取った。
「大丈夫。私に任せて」
惚れてまうやろー。いやもう性別度外視で本気で大好きになってしまった。
自分がこんなにもチョロい女だっただなんて。
横並びで深く礼をしてフィーネ様に引かれるままに奥へと進んだ。
てっきり私は下席に座るのだと構えていたら!
「違うよ。私とミーシャはこっち」
何とメルシャン様の二つ手前の椅子を引いてしまった。
死んだ…。今夜が最期の夜となるのでしょう。
嫌よ!四日後にまだ見ぬ男性を紹介して頂くんですもの。
生きてやるんだから!
我ながら情緒不安定だ。
「はい座って。自己紹介」
フィーネ様に促され席に着いた。
「お、お初にお目に掛かります。五区の装飾店に従事して居ります。ミーシャと申します。出身はロルーゼの王都となります」
重厚な白塗りの長テーブルの角にミラン様。対面にメルシャン様。その隣にフィーネ様。隣が私。
私の右にシュルツ様…。何故私が左に!
フィーネ様の対面には銀髪の美少女。恐らくライザー殿下の御婚約者のダリア様。お姿は下々では誰も知らない。
発表されたのはお名前だけ。
ダリア様の隣、私の対面はご出産を機に育児休職中のライラ様。軍服姿のライラ様は何度か町中でお見掛けした事が有る。
メメット隊のゴンザ様と仲睦まじく歩いている所も。
ライラ様の隣、シュルツ様の対面には存知上げない女性。溢れ出る気品と冷たさを感じるオーラから間違い無くお貴族様の匂いがする。
計八名の女性の中でド平民は私のみ。急にお腹が痛くなって来た…。
「これはミーシャからのお土産です」
フィーネ様が預けた贈答用の箱を収納バッグから出し提示して開封。私が持っていたのでは王族の目の前で開く事は適わない。
「あら可愛い。フィーネやシュルツが着けているシュシュと同じなのかしら」
最初にミラン様からお褒めに預かった。
「はい。原形は同じで今年の新作の型です。配色のバリエーションも増えました。店主で工房主のロレーヌが織った品となります」
「店主さんが自分で織ってたんだ」
「はい。とても人見知りで内向的なお人で主に私が店番や接客対応を」
メルシャン様が黒を手に取り。
「昨年の型はもう無いのですの?」
「残念ながら…大人気の品切れで。昨年までだと黒色の揃えも無かった物で。御所望であれば復刻オーダーが可能か明日にでも聞いて参ります」
「お願いしますわ。これも可愛いですが出来ればフィーやシュルツと同じ形が良いの」
フィー…。あぁフィーネ様の事か。
「我が儘言わないのメル。嫌な金持ち女に見えるわよ」
凄いな。王女様ともこんなに親密に話されるなんて。
「だってぇ」
「メルシャン。客人の前です。姿勢を正しなさい」
「お義母様が気を楽に過ごしなさいと仰ったのではないですか」
「弛んだ姿を下に見せよと言った覚えは有りませんよ」
「はーい…。では私はこの黒色で。お茶と茶菓子を運ばせてから本題へと入りましょう」
シュシュを手首に巻いて手を挙げ控えの者に合図した。
紅茶とクッキーが運び入れられ国の上位のお茶会が始まった。
茶にはリゼルオイルが垂らされ。
「良い香りですね。病み付きになりそうです。さて置きミーシャが知らない顔は有りますか」
「ミラン様のお隣がダリア様で合っているのなら。前端の方は存知上げません。ライラ様は町中でお見掛けを」
「私から手短に。彼女はペルシェ・キャンペラ。カメノス商団の子女です。貴族では有りませんが貴女の力となってくれる強い味方です。そちらは後に挨拶を」
スターレン様が紹介すると言っていたのはこの方か。
お互いに会釈に留めた。
「件の概要はギルド局長からスターレンの相談を受け取った父やフィーネから聞き及んでいます。
建前上私が城下でお忍び買い物中に立ち寄った店。ロレーヌ服飾店でミーシャを気に入り友人とした、となっています。
フィーネの友人なら私の友人。ここでは気は休まらないでしょうがどうぞ楽に」
「あ、有り難う御座います」
リゼルオイル入りのお茶が内臓に染み渡る。
「友人である貴女を今日の特別な日。城では初の演劇お披露目会に私情で招いた。その認識は共有して」
「はい。スターレン様からもそう伺いました」
「どうしてこの茶会に招いたのかは理解出来るかしら」
どうして?王女様との顔合わせ、の意味だけじゃない。
「…ロルーゼとタイラントの。政治的な問題へと発展するから。でしょうか」
「頭が回りますわね。流石はスターレンが見込んだだけは有ります。その通り。これは貴女個人の問題ではなく国際問題へと発展する要素を孕みます。
だからと言って貴女に何かをさせる訳では有りません。程なくミーシャの生家プラド家の負債も消える。
問題なのはそのローデンマンの動き。現マッハリアの最高権力を握るフリューゲル家の分家に居た男。もしも前女王フレゼリカの犬であったなら。フレゼリカの命を受け力を蓄えたままロルーゼで待機していたのだとしたら。解を問う迄も有りませんね」
二国間では収まらない。
「三国での摩擦になると…」
「ご安心為さい。タイラントとマッハリアの関係性が揺らぐ要素は有りません。何せ現暫定王はスターレンを敬愛する弟君なのですから。
導き手の御父上様も大変立派な御方。
最悪想定でローデンマンがロルーゼが衰退した今この時を待っていた場合。何が起きるのか誰にも読めない。
なので最初スターレンは自ら叩き潰しに行こうと考え。
それを察した父がまだ国外から安全に潰せると踏んで私を盾にしろと諫めた。
真実はその様な流れです」
そんな重大な局面を迎えていただなんて…。
「私は…いったい何をすれば」
「何もしてはいけません。後に来るご家族や関係者に私に会わせろと言われても。決して応じては為りません。
城下の友人。これから親密になるかも知れない男性。誰かにこの流れを話す事も禁じます。聡明な貴女ならそれがどれ程に危険な行為かは解るでしょう。
私やスターレンやフィーネ。この三人に対して接触を希望する人物が現われたら。この中の誰かの所へ駆け込み為さい。この茶会はその為の顔合わせです。
良いですね」
「はい。それが例え親や弟で有ろうとも。全てを捨てて迷わず走ると誓います」
ダリア様が柔やかに。
「大丈夫ですよ。それらは最悪ケースです。只、ミーシャさんは若干体力に難がお有りです。今の内から鍛錬を。
ロロシュ邸の運動器具をお借りするのが良いでしょう。その上でシュルツ様の特製ブーツが有れば安心です」
何を言われているのか良く解らないが。兎に角何時でも走れるように体力を付けなさいと。
「解りました。シュルツ様。お願い出来ますでしょうか」
「勿論です。誰も居なくても邸内の修練所とお風呂を使えるよう手配をします。ブーツは完成したらお店にお持ちしますね」
感動で泣きそうです。許されるなら抱き締めたい。
「有り難う御座います」
ダリア様はこうも付け加えた。
「来年…。珍しく王都で雪が降る日。慌てて転ばないようにご注意を」
口には出来ないけれど。可愛らしくて不思議な人だ。
「はい。足元には充分な注意を。実家で雪は多少慣れて居ます故」
メルシャン様がちょっと怒りながら。
「私の未来予想はまだ見えませんの」
「見えたとしてもお教え出来ません。予想が外れて御姉様から平手を頂戴する未来が見えます」
占いみたいな物だろうか。
「むぅ~」
「好い加減にしてメル。ダリアに暴力を振うなんて最低よ。王女の前に人として」
「叩かれたら私の所へ来なさい」
ミラン様がダリア様の頭を撫でた。
「直ぐに駆け込みます」
「うぅ…。皆して酷い…」
「駄々っ子は放って置いて。ミーシャの故郷。王都ベルエイガの良い思い出話を聞かせてくれない?」
私の緊張は何時の間にか消えていた。
「そうですね…。少ないですがお話を。今思えば中央は砂上の城。先代正王が残された多くの遺産を余さず食い潰そうとしていたのでしょう。
あれは十年前の短い夏の時期……」
それから時間まで。僅かばかりの思い出を披露した。
---------------
茶会終わりにダリアが話が有ると明るい表情を浮べるミーシャと入れ替わりで後宮に入った。
ミーシャ以外の茶会メンバーはそのまま。
ダリアが神妙な面持ちで。
「ミーシャさんを見詰めていたら別の要素が浮かびました」
「別の要素?本人にじゃなくて?」
「はい。ミーシャさんのご家族の前に来る。ペルシェ様の姉君アルシェ様が連れて来られる数名の中に。顔が全く浮かばない人物が一人。けれどミーシャさんに強い執着を感じます。
繋がりが有るとすればローデンマンとも無関係では無いと思われます。
アルシェ様御本人の背中にも妙な黒い影が垣間見えました。呪いの類なのか人影なのかはまだ遠くて見えません」
「そっちでも繋がったか…」
「以前にミーシャを付け狙ってた男で間違いないわね」
ペルシェがダリアに問う。
「私の姉をご存じで」
「いいえ。浮かんだお顔立ちがペルシェ様と双子かと思える程そっくりでしたので」
「あぁ…。それは確かに」
「それに何処か懐かしさを感じました。もしかしたら私がロルーゼから逃げ延びる時に擦れ違っていたのかも知れないですね」
「へぇ。でもどうすっかなぁ」
「面倒は重なる物ね」
2人で腕を組んで悩んでいるとダリアは笑顔で。
「お二人共お忘れですよ。こちらには真実しか話せなくなる怖ーい黄金の椅子が有るではないですか」
「「あ!」」
暫く使ってなくて忘れてた。
「今は俺が持ったままだったわ。忘れてた」
城から返却されて其れっ切り。
「それさえ有れば二つの案件は楽勝で解決出来ますよ」
「アルシェ隊の面接会場はカメノス邸内。ミーシャの実家組はモヘッドの管轄。カエザール家の近くの空き屋敷に設けよう。どの道住居と工房はそっちに作る流れだしな」
「ムートン卿にはメルから伝えて。ペルシェさんはお姉さん帰って来たら速攻教えて」
「承知しました。前回帰宅時にお二人に会いたがっていたので逆に助かります」
「今、父の屋敷には身重の姉が居りますしね。仕方有りませんわ。構える服飾店には興味が有りましたが」
「それはマリーシャさんの担当よ。こっちから繋がり示してどうするの」
「ですわね」
かなり残念そう。
「ありがとダリア。助かったよ」
「ありがとね。今度何か沢山お礼をするわ」
少し考え。
「でしたら…。ミラン様と御姉様と私とシュルツ様を例のステーキ屋さんへご招待願えませんでしょうか。お暇な時に」
マジかぁ。
「おぉ…。ダリアが言うなら可能なのか」
「ちょーっと作戦練らないといけないから待っててね」
「はい」
「例の…。あの三区の」
「そうです」
「それは楽しみですわ」
「楽しみにして居ますよ」
「待ってました!何時連れて行ってくれるのかと」
父上たちやペリーニャたちを招待した時は無理言って店の1階に壁作ったからな。
今度はどーすべーか。護衛を厳選して階段下付近席に固めて座らせるか。何となく行けそうな予感。ダリアに何が見えたのか聞いてから考える。
そうこうしている内に。
「宴会場の準備が整いました」
係の給仕が呼びに来た。
会場へと移動中。
「そういや馬肉は買えるんだっけ」
「専用牧場で今は頭数も少ないから御免なさいって泣かれちゃった」
「モーランゼアで忘れず購入だな」
「最悪野良のお馬さん仕留めて自分たちで処理するかね」
山神様にお祈りしよう。
---------------
舞台背後には景観を描いた緞帳数種。前面は初期から解放され大道具無し小道具有りの立ち演技。
楽団は右手奥の定位置。早着替えの控えブースは反対側に設置された。
舞台ナレーションと進行役等の台詞付きエキストラ数名はマリーシャが追加した。
フィーネとロイドが内密に俺実家へ飛び。風魔石を渡して反響マイクも必要分増やした。
観客側前列中央は勿論ヘルメン陛下とミラン様。両サイドの小卓はメイザーとメルシャン。帰城中のライザーとダリアのカップル席。
後列は俺たちと茶会メンバーとその他関係者席。
出席者が全員席に着いた所からスタート。
フィーネとマリーシャが舞台の前に立ち陛下と王妃にご挨拶。
「ヘルメン陛下、ミラン様、両殿下と両王女。年の瀬迫るこの多忙な時期に時間を設けて頂き恐縮です」
「演じる彼らも初舞台。多少のお目汚しは寛大なお許しを願い。ご批判、ご不満、ご感想はこのマリーシャが一括で賜ります。開演をする前に。
陛下、ミラン様。こちらの反響道具はお耳触りではないでしょうか」
問われた二人も反響マイクを手に胸元へ。
「今日は無礼講だ。どの様な台詞を挟もうとも許す。余計な気を張らずに伸び伸びと演じるが良い。
音は問題無い。これは良い道具だな。語気を強めても勝手に抑えられて聞き取り易い」
「挨拶や演説。会議や打ち合わせ。宴会の進行にも広く使えますわね」
「今回の件とは違うが。メイザーとスターレンは来年に幾つか買って帰れ」
名指しされた俺たちは手を挙げて了承。
多分お土産に渡されると思う。フィーネが魔石を大量に渡したらしいし。
気になっていた演目は。俺(自意識過剰)とは無関係な物だった。良かったぁ。
演目「眠れる森の美女と王子様」
そうっす。俺に内緒にしてたのは元世界の超有名童話のパクりだったから。
内容はシンデレラと眠れる森の美女と他の要素を足して贅肉を削ぎ落とした物。
控えブースを覗いたマリーシャが一礼し開演宣言。
「それでは善きご鑑賞を」
田舎町に住む貧しい1人の町娘。
その町娘は幼少の頃に顔に大火傷を負い、醜く爛れた顔をしていた。普段は大きな仮面で顔を覆い。とある貴族家の侍女として働いていた。
娘の名はジュリエッタ。
ある日、彼女が働く貴族の屋敷をロミオ王子が訪ねた所から物語は始まる。
…ロミオとジュリエットも入ってました。
暇が余った王子は裏庭へ行き。そこで2人は出会う。
容姿に囚われない心の広い王子は卑屈に塗れない心清き娘を気に入り。時間が空く度に彼女を呼んで話を重ね屋敷で数日を過ごした。
「何時か我が城へも来て欲しい」
と一枚の招待状を手渡して。
けれどジュリエッタは悩む。
「私が表に出る何て。まして城に入るなど身分不相応。
でも…。それでももう一度、ロミオ様にお会いしたい」
ロミオとの縁談を破棄された貴族子女は一方で仲良くなったジュリエッタに強い嫉妬を抱き。
彼女を屋敷から追放。
仕事も住む場所も同時に失った彼女は途方に暮れ。なけなしの金で魔女が住むと言われる森へと向かった。
運良く魔女に出会えたジュリエッタは懇願した。
「私の命と引換に。この顔を治して頂けませんか」と。
命を賭してもう一度ロミオと出会う為に。
気紛れな魔女は赤い林檎と青い林檎を出して彼女にこう告げた。
「賭けをしようじゃないか。両方顔は治る。だが何方かの林檎は二週間後に死に絶え。もう一方の林檎は二週間以内にここへ戻らねば重い呪いが掛かる。選ぶが良い」
王都までは乗り合い馬車で5日間。
ジュリエッタは迷わず答えた。
「二週間後に死ぬ方の林檎を下さい」
「ほぉ…。それは何故だい」
「私はロミオ様ともう一度お会いし、お話し出来れば良いのです。この森に戻れば私の追手が魔女様にご迷惑をお掛けしてしまいます。
選べるのなら前者で」
気が変わった魔女は別の呪いを掛けた林檎を差し出し。
「じゃあこの赤林檎をお食べ。その心意気に免じて路銀も幾らかくれてやろう」
「この上無い感謝を」
真っ赤な林檎を受け取り。跪いて魔女の手の甲にキスを捧げた。
「優しき魔女様よ」
「何だ」
「路銀の代価として一週間。ここで働かせて下さい。料理に掃除。風呂焚きでも何でも致します」
「一週間?」
「私は道の途中で土に還るのです。直ぐに出発しては貴族様の追手に阻まれます。五日有れば王都へ着けます。もし間に合わなければそれもまた天命」
「…変わった子だね」
「良く言われます。昔からこの顔でしたから」
仮面が外れた娘と魔女。不思議な共同生活は口約通りに一週間続き。ジュリエッタは王都へと出発した。
「優しき魔女様。二度と会えぬのが残念で為りません。どうぞお身体にご自愛下さい」
「…」
魔女は晴れやかに胸を張る娘を無言で見送った。
無事に王都へと着いたジュリエッタは。期限が迫る7日目に漸く王子との接見が叶い。最期の茶会に招かれた。
林檎を食べたのは夕刻。
その時が刻々と近付き。空は彼方まで茜色に染まった。
「ロミオ様。最期にお話出来て嬉しかったです」
「何を、言っているんだい?ジュリエッタ。もう二度と会えないような…」
「私はもう直ぐ死ぬのです」
「どうして…」
「私は貴族様の追手から逃れる為。命を代償に顔を治して頂きました。その期限が今日」
「駄目だ…。そんな事はこの僕が許さない。こんなにも温かい頬をしているのに。信じられないよ」
頬に添えられたロミオの左手に手を重ねて。
「明日の朝には誰とも知らぬ元の顔で朽ちるのです。その様な姿をロミオ様には見せたくは有りません。どうかお許しを。そして私の事などお忘れ下さい」
「嫌だ。この城から出すものか。僕はもう君を。ジュリエッタをあ…」
ロミオが庭園の門に向かうジュリエッタを呼び止めようとしたその刹那。
彼女は忽然とその場から姿を消した。
ヒラリと舞う一枚の手紙を残して。
「私は東の森に棲む悪い魔女。ジュリエッタはたった一人で森に入った。それに見合う勇気を示せ。娘は森の奥で預かった。
娘を真に求めるならば。彼女を捨てた貴族女を葬り。一人で森に来ると良い。
大勢で入れば。そこに在るのは彼女の骸」
脅迫めいた挑戦状にロミオは歓喜した。
「ジュリエッタはまだ、生きている!諦めるものか。僕は彼女をこの手で取り戻す!」
その夜にロミオは私兵を連れてジュリエッタと出会った町へと向かった。
だが使用人を正当に解雇したのであれば貴族家を糾弾は出来ない。
ロミオは子女を問い詰め。私怨で退職金すら払わず殆ど荷物も持たせず追い出したと言質を取った。
それを元に子女を降格謹慎処分とし私兵たちに拘束させ。腰にした国剣を兵に預けて一人で森へ入った。
昼間でも薄暗い森の中。
ジュリエッタが付けたと思われる大木の幹の小さな傷跡。
その目印を頼りに奥へと進んだ。
「こんな獣道をたったの一人で…」
そのジュリエッタの勇気に感動し、恐怖は消え益々ロミオは奮い立った。
「彼女と会うまでは帰らない。必ず連れて帰る」
やがてロミオは小さく粗末な小屋に辿り着いた。
テーブルも無ければ箪笥も無い。在るのは床に横たわるジュリエッタの姿だけ。
「ジュリエッタ…」
顔は元の火傷の顔に戻っていた。それでも変わらず美しいとロミオは心の底から想う。
胸の上で握る彼女の手から手紙を見付け出した。
「真実の愛を示せ。さすれば彼女は目覚めるだろう」
ロミオは迷わなかった。
「僕は君を。ジュリエッタを愛している。許可無く…失礼するよ」
彼女の後頭に手を添えて。優しく重ねる口吻をした。
薄目を開けたジュリエッタは。
「聞こえていました。ロミオ様のお言葉は大変に嬉しく。でもこの顔では王子の妃は務まりません」
「それよりも君の気持ちを聞かせてくれないか」
「私は…。一目お会いした時から。ロミオ様をお慕いして居りました。私も愛しています」
身体を起こして両手を握り合う。
「ならば王位なぞ要らぬ。二人で平民として暮らそう。愛しいジュリエッタ」
「はい…。愛しきロミオ様」
抱き締め合い。長いキスで舞台の幕は下りた。
陛下から始まり。観客も楽団員も壁際に控える従者や近衛たちも場の全員で割れんばかりの拍手を送った。
隣のフィーネに小声で。
「いいじゃん。面白かった。ペルシェさんとシナリオ考えたの?」
「そうだよ。ラフドッグであの二人を見た時から何となく決めてたし。ぶっちゃけパクりだしね」
小さく笑い合っていると陛下の総評。
「大変に良い出来映えだ。楽団の音楽も演技を彩った。口出しはせぬが来年の晩餐会では何か別の物を頼めるか。マリーシャ」
「仰せのままに。フィーネ様は不在でも。近々部下が脚本が上手そうな女性を捕まえそうなので…」
目の端がキラリと。ミーシャ逃げてぇぇぇ。
本人全く気付かぬ顔。そりゃそうですわ。
「本人の了承を得られましたら色々手を加えて無理なく拡充し。正規の劇団を立ち上げたいと考えます」
「うむ。自由にな。資金が足りなければモヘッドに伝えろ。人材は送れぬが金なら援助はする」
「有り難き幸せ」
主演の2人もマリーシャの後ろでお辞儀。
「隣の会場に夕食を用意させた。早めに帰る人間以外は食べて行くと良い。主演の二人はクワンジアではどの様な演目が披露されていたのか。少し話を聞きたい」
「「ハッ!」」
その場で跪いた。
ヘルメンちノリノリやないか。
マリーシャ劇団が俺たちの手を離れ、一人歩きを始める瞬間だった。
半端無く上機嫌な陛下に誘われ。俺たちも夕食に預かった。
「ミーシャも帰りたいだろうがこんな機会は二度と無い。フィーネと一緒に王女様のお側に居とけ」
「はぁ…。もう吐きそうです。助けて下さいフィーネ様」
「私と居れば大丈夫よ。背中に吐かれても困るから気持ち悪かったら先に言ってね」
「はい…」
ミーシャは真っ青な顔して隣会場へと移動した。
隣会場は昨年の晩餐会でフレゼリカと対決した場所。
騒がしい会場内を抜け出て1人でテラスへ出た。かなり寒くなった風が身体の火照りを鎮める。
ワイングラスを片手にボーッと夜空を眺めていると後ろからソプランに声を掛けられた。
「何を惚けて居られるのですか?お調子者の馬鹿主殿」
「ひでぇ。強ち間違いじゃないけど」
「あれから一年半強。色々有ったし色んな場所にも行ったなぁ。てな感じか」
「それそれ。同じ場所なのに随分と遠い気がするよ」
グラスの残りを一気飲み。
「男二人で何をやられて居るんだか。暴走元王子殿」
珍しい人物。ライラもテラスに出て来た。
「俺を慰めに来たのか貶しに来たのかどっちだよ」
「両方ですね。懐かしい。丁度この場所でしたか」
「あぁライラは周辺警備だったよな」
「懐かしいな。執事としては全く成長してねえが」
「自覚有ったんだ」
「チッ。柄じゃねえんだよ、ったく」
「ライラはラフドッグであんま話せなかったけど最近調子はどう?子育て大変?」
「それはもう。屋敷に移って正解でしたよ。一人やご近所さんと子育てしている方が神様に思えます。調子は良いですよ。自分も周りも。多分…二人目入ったかも…」
お腹をスリスリ。
「「おぉ!」」
「悪阻が来ない内に飲み倒す!訳にも行かず程々に」
「御目出度う」
「めでてえな。ゴンザは今何処だ」
「当然屋敷でアンネをあやしてますとも」
「本格的に寒くなる前に久々に墓参りでも行くか。皆で」
「いいね。邸内の花摘んで持って行こう」
「私たちも明日の午前なら。今時分鈴蘭は花屋では手に入らないんで」
「じゃあ明日。お屋敷寄るよ」
「お願いします」
「なら俺はお嬢様そろそろ帰してデニスさんとこ行くわ」
「あ、俺も後で行こ」
「私も行こうかな。ゴンザに内緒で。偶には私だって」
力説してる。子育てって相当ストレス溜まるんだなぁ。
---------------
ロイドはペッツを連れてシュルツと一緒に帰宅。フィーネとアローマはボロボロのミーシャを家まで送り届け。入店はバラバラだったが何時もの4人にライラを加えた5人で程良く飲もうと。
入った頃にはピークが過ぎて他の客も疎ら。
空いていた奥のテーブル席で軽く飲んで談笑していると後方の青年が徐ろに席を立った。
「おい!それは止めろと言っただろ」
デニスの強めの声が飛んだ。
「何?」
振り返ると見覚えの無い青年が俺の真後ろに。
「ス、スターレン様。ですよね」
「誰だっけ?」
「止めろと言っている。済まない。直ぐに摘まみ出すから」
カウンターを出て青年の肩を掴んだ。
「ま、待って下さい!少し。少しだけでいいのでスターレン様とお話を!」
「まあ待ってデニスさん。他の客も帰ったことだし」
「しかし一人許せば切りが無くなるぞ。今来てる客の大半が君狙いだ。会わせて欲しいだの。今度何時来るかだのそればかりを聞いて来る。こいつも最近ずっと入り浸って中々帰らない」
「うーん。まあねぇ。今俺私用で来てるんだ。これから子育ての大変さを友人ママさんからご教授願うとこなんだけど。お仕事の話ならギルド経由で送って貰える?毎日山の様に届く手紙にはちゃんと目は通してるし。9割以上ファンレターだけども。
それともお悩み相談?か俺と握手したいだけとか?」
「その…紙の問題なんです…」
それは聞き捨てならないぞ!
「ごめんデニスさん。思ったよりも重要そうだ。店締められる?」
「解った。どの道君らが帰ったら締める所だったしな」
看板を下げ。玄関と窓にカーテンが掛かった。
席を入替え俺の対面にその青年を座らせ。ライラは後ろのテーブル席でアローマと並んだ。
「初めまして。僕は王都に在る三つの製紙工房の一つ。
ライリー工房の長男。マイリーと申します」
「紙の問題。手紙の中にあったっけ?」
「私は見てない」
「僕も他も商品である紙が使えません。それ程までに危険水域に達しています」
「おぉ…」
「上質紙は城、両ギルド、貴族、上位富裕層で押さえられ一般販売は品薄状態。先々月だったかのフィーネ様の大量購入で最後だったと言っても過言では有りません」
「まぁ…」
2人で顔を見合わせやっちまった状態。
「商品なのですから買って頂けるのは大変有り難い事ですので文句は言えません。
紙の原料には主に南西部の湿地帯に自生している柔木を使っているのですが。数ヶ月前にグエインウルフが突如として姿を消し。繁殖力が強いトードがその柔木を食い荒らしている状況です」
「…」
お話の流れが拙い。これはもしや…。
「グエインが姿を消した、と言う報告は。ソプラン様がなさったとか」
「あぁ、確かにしたな」
「それから数週間後に冒険者の討伐隊が入るようになって繁殖は以前の水準まで収まりました。ですがそこまでの捕食で原料が枯渇。このままでは養生期間である冬を乗り切れず。来年の春を待たずに王都、ハイネ、マッサラから新紙類が消え去ります」
「拙いね」
間違い無く俺たちの所為です。
「非常に拙いです。ソプラン様が悪いなどとは言いません。でも出来る事なら商業ギルドと城へも報告を上げて欲しかったです」
「済まん…」
「今紙類の主流は機密保持の為に使い捨て。古紙を集め溶かして再利用しても低質紙しか作れないのです。
ポム工房やハイネなどの木材加工工房で扱う木は紙の原料としては使えませんでした。
このままでは三工房が全休。少なくとも半年は失業状態に入ります」
拙いとかのレベルを越えてました。
「どうしよう…」
「困ったわね」
「そこでご相談です。ロロシュ財団とカメノス財団共同でハイネの西で栽培を始めたあの柔らかそうな木を試させては貰えませんでしょうか。どうかお願いします!スターレン様の御力で何とかお口添えを!」
額をテーブルにくっ付けて。
ブートストライトの木か。
「頭上げて。一因は俺たちにも有るんだし」
全面的にだけどな!
「あの木は実は俺の主導で主に建築材として使おうと思って蓄積中なんだ。繁殖力が異常に高くて大体1週半で成木なる優れ物。取り敢えず紙に出来るかと1本で何枚作れるか試そう。ライリー工房の場所は?」
「有り難う御座います!工房の場所は五区の南東。外壁付近に三つ固まっています。出来れば全てに。
ロロシュ様やカメノス様には直接お会いするのも難しかったんです。二度程ロロシュ邸を訪ねましたがご不在で。
それでこちらに良く来られる噂を頼りに仲間たちと入り浸っていました。デニスさんの言う大半は、僕らです」
「オッケー。朝一番で3本ずつ持ってくよ。悪いけど皆に伝えて貰えるか」
「はい!お待ちして居ります!」
一礼して全力ダッシュで玄関を飛び出した。
「彼の勘定は俺が払うよ。ごめん」
「構わんさ。彼は殆ど飲んでない」
「ライラもごめん。明日遅くなりそうだ」
「お墓参りは明後日でも。明日の昼は子供と使用人だけになるんで昼食誘おうと思っただけですから」
「ならお土産持ってお昼頂きに行くよ」
「行く行く。アンネちゃんも見に」
「飲み処じゃなくなっちまったな…」
「帰りましょうか。ライラ様は私がお送り致します」
「私も!」
「また来ます。それからこれ」
胚酢漬けとリゼルオイルの瓶を置いて説明。
「おぉ助かる。最近パメラの食欲が落ちててね。悪阻はそれ程でもないんだが」
「酷くなったら教えて。温存してる魔物肉とか。消化に良い米粥作って運ぶから」
「あぁ。そうさせて貰うよ」
ライラが先輩らしく。
「無理な時は少しずつ回数を増やして良く寝てお散歩すると良いですよ。十人十色で正解は無いですが」
「ハイネの奥さん連中にも言われたよ。寝た切りは逆に駄目だと」
病気じゃないってのはホントみたいだな。勉強になる。
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