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第175話 東の町へ

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フラーメの帰郷は再来週以降で確定され。温泉郷打ち合わせも明日のこちら時間で9時で決定。

3財団代表とシュルツと関係者がロロシュ邸の会議室に介する。その関係者の中にサプライズが居るが何も発言しないと宣言したそうで空気と認識する。

お忍びミラン様とヘルメンちとムートンとか。

お爺ちゃんが邪魔するなら帰らせると強気でお任せ。


エリュトマイズとサンメイルに会議決定連絡をして本日は1日お休みデー。

のんびり優雅に温水プールを堪能。

水深1.4m。幅16✕奥行30の小中学校に有りそうなプール容積。

水質は水魔石循環で清潔。塩素臭がしないのが良い。
水温は38度前後と体温よりはやや高め。
浮きと防水ロープが張られて4レーンに分割。
ペットも入場可能。

掘りは全アクリル板とネジ埋め接着剤。板の裏は御影石と粘土埋め。

床面中央に2✕2の排水口。対角2カ所に吸水口と水深調節弁。

端は水深高から3cmで丸角。飛び込み用の台は無し。

プールサイドに横になれるデッキチェアーが5脚と小テーブル2つ。

地下なので窓は無く、柔らかい魔光ランプ照明。全灯かナイトモードの間接照明&アクリル板裏のランプが点灯。

お子様のみやお一人様では監視員が入る。

複数人の場合は誰も入らない。男女別の更衣室前の廊下に常駐で係員。

ドリンクは注文し放題でアルコールは出ない。

「監視員付きでも小さな子供だけってのは不安だな」
「設定も大人向けだしね。全般的に」

クワンは水上を高速移動。グーニャは潜水して追従。

フィーネさんには懇願して際どい新作水着を着て頂いた。

「これ着るのはスタンだけの時限定だよ」
「重々承知して居ります」

立ち泳ぎには向かない水深で。ウォーキングしたり泳ぐ練習したり息継ぎの練習したり嫁さんを泳いで追い掛け回したり。

ナイトモードで幻想的な雰囲気を味わい。
「うわぁ。ちょっとエッチぃ」
「カップル以上推奨ね」
「入ったことないけど。ラブホのお風呂てこんなかな」
「私も経験無いので知りません!」

サイドに上がってシャツ着て廊下へ出てドリンク注文。

出戻り。チェアーで寛ぐ嫁にキスして隣の椅子へ。

「注文は付き人が居ないと面倒だな」
「そうねぇ。…今のキスは?」
「只今のチュー」
「次からは行って来ますのチューからで」
「了解です」

届けられたドリンクで一休憩。
俺たちはアイスティー。クワンはオレンジジュース。グーニャは低脂肪乳。

「あ、アクリル板の接着剤が何か聞いてないや」
「おぉ失念。夕方にサンメイルさんに聞いてみよ」

ペッツたちは自分たちのドリンクを飲み終えると直ぐ様遊泳再開。元気じゃのぉと見ていたら。クワンも潜水して水中鬼ごっこ。プール内に大渦が発生した。

「こらこら」
「お止めなさい。スタンが泳げないでしょ」

主の言葉は絶対。立ち所に沈静化した。子供みたいだ。

「嬉しいのは解るけど。程々に遊ぶのよ」
「クワァ~」
「ごめんニャ~」

波や水圧に負けない接着剤…大事だな。


もう一泳ぎしてから昼前に上がり。そう言えばステーキ屋しか行ってないよなとペットOKな店をフロントで聞いてお出掛け。

入ったのは内陸王都では珍しい海の干物を扱う店。
ペッツたちには脱塩処理された鯵の解し身が提供された。

クワンは不満顔だったが食べやすい解し身で最終的に満足そうにしていた。

グーニャは相当不味い物でない限りは何でも美味しそうに食べる。

「クワン用のメニューも考えて行かないとな」
「そうねぇ。もう成鳥になったし。長生きして欲しいもんね」
「クワァ…」


ホテルで着替えてクワンジアのソーヤンを訪ねた。

結局大ルビーは無くターマインの東部仕入れ担当ウィンキーと言う陽気な名前の人に賭けるしかないと。

小粒原石のホワイト、ブルー、イエローダイヤを数粒ずつとイエロー真珠を5粒貰って帰還。

「粒が大きいのは出荷済だったかぁ」
「イエロー以外の真珠もね」
制約は有るが全部使える物。加工依頼して宝飾品で贈答しても良し。
「イエロー同士でアクセサリーにしてペリーニャへの誕生月プレゼントにしても良いわね」
「運気上がりそうだし。良さげやね」


夕食前にサンメイルを呼んでリサーチ。
「風呂場の天板とか地下のプールの樹脂板を繋いでる接着剤に付いて聞きたいんだけど。秘密じゃないなら教えて欲しいな」

「特に秘密でも有りませんし。多くのお客様からもお問い合わせ頂くので。あの接着剤は一般的な天然ゴムの樹液にアロワルド・メンダ原産のブートストライトの樹皮から絞った樹液を等比で混ぜると簡単に作成出来ます。
ブート樹皮の香りで生ゴム独特の臭いも消え。ゴムが固まるまでの時間延長と伸びが良くなります。耐水性は勿論耐久性にも優れ。塩害にも非常に強い。
本当は果実も納入したいのですが運んでいる間に腐り果ててしまうのです」
「へぇ。あの樹皮にそんな隠し要素が有ったんだ」
「捨てる所が殆ど無い木ね」
「木をご存じなのですか?」

「タイラントでも栽培を始めたんだ。実は今果実も持ってたりします」
「ねー」
「それはそれは。あれは現地民でも栽培が難しくて苦労されていると耳に挟みましたが成功されているのですね」
「まだ試作段階だけど一応成功と言えるかな」

「羨むばかりで。私も現地調査で一度だけ食しましたがとても美味だったと記憶して居ります」
「増産に成功してたら。今度タイラントに行ったお土産に少しお裾分けしますよ」
「大人数だと厳しいですが」
「それは楽しみです。現在の予定人数は六名。最大でも十名未満の見込みで御座います」

「全然余裕やね。後2つ聞きたいんだけど」
「何なりと」
「アロワルドってどんな国だった?」
「私が訪れたのは五年程前。その当時と今現在聞こえて来るお話も然程変わらず。メレディス側と不仲で。国境周辺では通年で小競り合いを。一方的にメレディスが攻めていますが一向に入植には至っていないと。
山神教が主神で普段は温厚な国民性なのですが。一度火が付くと狂人に近い状態に化けるとか。触らぬ神に祟りなしと言われておりますね。
独特な香水をお召しのメレディス人以外にはとても優しく接してくれると思われます」
「メレディスの人ってそんな変な香水を付けるんですか?」

「一説に依ると。戦闘時に相手の人間の鼻を潰す為だとか噂され。申し上げ難いのですが…。腋臭の方が多いとか何とか。私も密接に接した事が御座いませんので何とも。
鼻が利く動物や魔物が特に嫌う香水と聞きました」
動物や魔物ね…。北に持って行ったな、確実に。

「何時かアロワルドにも遊びに行ってもいいかな。友好的に」
「そうね。ブートが育つなら割に温かいかも知れないし」
「全域を知る訳では有りませんが。昼夜の寒暖差は大きい土地柄かと存じます」
逆に厳しい環境で育ったからブートは色々強いのかも。

「最後に。ミキサーって。果物や野菜と粉砕出来る調理道具使ってると思うんだけど。宿泊特典で貰えたりします?」
「流石はスターレン様。お目の付け所が違いますね。しかしあれは外販用に作られた物ではなかった気が…。名前もミキサー?ではなかったと。
そろそろ御夕食の時間です故。デザートの頃までには確認して参ります」
「無理に見せろなんて言いませんから。可能ならお願いします」
「部屋に置いてないから。元々量産してないのかもね」


ブルーベリージャムのケーキを食べ終えた頃にサンメイルがこのホテルの料理長を連れて来た。

料理長は円柱型の小鍋を抱えて。

「それが、もしかして?」
「はい。これに目を付けられるとは思いも寄らず。
私の発案で隣本部の工房で作って貰ったジェイカーと名付けた代物で。ご指摘の通りに野菜や果物の種や皮まで液状に粉砕出来ます。
主に濾したり磨り潰したりする手間と時間を省く為に」

「ジェイカーね。特許は取ったんですか?」
「つい先々週完成したばかりでまだ」
「急いだ方が良いよ。絶対売れる。単品売りしてもいい位に」
「私は欲しいし絶対買います。それの為に泊まりに来てもいいです」

「総帥に報告しなくては」
「中の構造はご覧になりますか?」
「いやいいよ。見たらパクっちゃうから」
「未認可品を人に見せちゃ駄目ですよ」

給仕係と入れ替わりに慌てて退出した2人。
「まあ、あの様子だと帰国する頃には買えそうかな」
「持ち帰れなくてもヤンさんに部品頼んで私がミキサー作るわ。原理と動作は知ってるし。スタンが時計に専念してる間に」
「宜しく頼んじゃう。ヤンにも加工とか治具作りの練習して貰いたいしな」
「頼まれました」

団欒の後でクワンが不満顔。
「どした?クワン。不機嫌そうにして」
「どうしてあたしに拾って来いと指示しないのですか?」
拾う?
「ルビーの事か」
「はい。大自然は誰の物でも有りません。強いて言えば山神様の物だとスターレン様は言いました。あたしも同意します。
勝手に入植し。山を切り開き。動物たちを押し退け。自分の土地だと占領し。食糧や資源を商品だと定義したのは人間です。
それが許されるなら。あたしが露出した手付かずの単なる石を。拾って持ち帰るのも正当な行為です」

「そう…言われちゃうとなぁ」
「反論の余地が無いね。でも私たちはクワンティが心配なのよ」

「過保護すぎます。あたしは鳥。大空を舞ってこその鳩。大丈夫です。旅には慣れました。逃げる手段も有り。ソラリマだって使えます。大陸間だって飛び越える体力も付きました。大きなルビーが見付からなければ帰ります。
あたしに任せて下さい」
「先輩は常々。大きな仕事が欲しいと言ってますニャン」
「クワッ」

「そっかぁ。クワンももう大人だしな」
「寂しいけど。任せてみよっか」

「明日の打ち合わせが終わったら東に飛んで貰おう。俺たちもグーニャに乗って森林地帯を突っ切るから。ターマインの町で合流な」
「それより早く見付かったらスマホで連絡してね。それと悪い人間には気を付けて」
「クワッ!」

モーランゼアの地図を広げてルート確認。
「あー。でも東部ってあんま深い森無いな」
「久々に自走しちゃう?全力で。かなーり身体も鈍ってるしさ」
「よーし。俺たちと。グーニャの足と。遠出するクワン。誰が一番早いか競争だ」
「中の装備整えないと負けちゃいそう」
「クワックワッ」
「ニャ…。我輩が転移道具を使えば良いのでは?」

「「あ…」」「ク…」

「いやいや。偶には運動しないと」
「そうよ。人間は怠けると直ぐに体力落ちるから」
「なら我輩も全力で走るニャン」
トップを独走するのはグーニャだと解っちゃいるけど。何事も挑戦だ。

俺たちがまだ見ていない東のあれこれを聞きながら。仲良く就寝。




---------------

打ち合わせはシュルツのスマホを繋いで滞り無く纏まり再来週の帰国時にエリュダーの視察団を案内すると議決された。

向こう側のロロシュ氏が。
「エリュダーの代表と対面するのは初めてだな。楽しみにしているぞ」
「お手柔らかに。当系列のお得意様には何か手土産を持って行きませんと。何かご所望の品など有れば伺いたいのですが」
「私からは特に無い。現地は小山だ。入って問題無い服と靴は自前で用意すると良いだろう」
「心得ました」

「コマネさん。時間が許すなら樹脂板見に来ますか?丁度こちらのホテルの地下に大きなプールが有るんで」
「おぉ。それは是非見たい。時間には余裕が有る」

「私も見たいです!御爺様。プールだけですので…」
「むぅ。仕方ない。ならばわしも行く」
シュルツには全然弱いなロロシュ氏。
「エリュトマイズさん。ちょっと人数増えそうですけど。見せても大丈夫ですか?」
「本日まではご夫妻の貸し切りですので何名様でも構いませんよ。ロロシュ卿やシュルツお嬢様とのご挨拶も早々に叶いますし。両得です」

「なら、さんに」
「お待ちを!ロロシュ様。発言のお許しを」
後ろからメルシャンの声が…。
「口を挟まぬと…。何だ」
「私もプールが見たいのです。新設する参考に」

「ちょっとメル。半分は私に任せるって約束したでしょ。どうして我慢が出来ないの」
「酷いですわフィー。シュルツは良くて私は駄目だなんて」
「メルは立場が」
「嫌です!フィーとは絶交しますよ」

「解ったわよ…。宜しいのですか。後ろの方々」
「宜しい…訳が有るか!本来越国には手続きと言う」
「頭の固い事を」
ミラン様がご立腹。
「多寡が施設内の設備の一つを見せて貰うだけに。総帥殿が許可されたのなら他は不要。手を踏めば大事になってしまいますよ。文句を言うならいっそこの場の皆で行きましょう。他の方々も興味がお有りの様ですし。
私もプールを拝見したいのです!」
「ま、待た」
「待てません!」
既に大事になってますがな。

「申し訳ない。地下階段の手前から封鎖って出来ますか」
「大人数になるのなら致し方有りませんな。いったい何方がお越しになるのですか」

「タイラントの王族です」
「お、王族!?それは一大事です」
でしょうとも。
「サンメイル!ラウンジを一時閉鎖。他のお客様の入退出を控える様願い。玄関前に人を立たせて外からの入場をお待ち頂け!」
「た、直ちに!」

全ての準備が整ったのは30分後。

「今回限りですよ。こんなの」
「ミラン様が出席されると聞いた時から。嫌な予感はしてました」
「広い心で許しなさい。フィーネ、スターレン」
「「はぁ…」」


タイラント上層とエリュトマイズの挨拶から始まり。男女別に更衣室を抜けて地下プールへご案内。

こっそりメイザーも居るし!廊下から護衛がゾロゾロ。

主にコマネ氏とメルシャンを先頭に据え、設備説明。を自分たちで。

エリュトマさんに頼むのは酷ってもんです。

「この半透明の壁が樹脂板です。厚みを10cm程に作れば深海200m圧まで余裕で耐えられます。継ぎ目の接着剤も海水に強く。全ての工法と必要部材は学びました。
東に行って足りない物は買い増し。他はタイラントに有る物で間に合います。詳細は俺たちが帰国してから」

「プールレベルなら総大理石でも造れます。ですが照明器具を取り入れるなら」
ナイトモードに切替。
「おぉ~」

「この様にしたいのなら樹脂板形成がお勧めです。
排水、給水、水深調整、浄化循環、清掃の観点からも断然樹脂板の方が楽ですね。これを小さく造ってメルに見せようと思ってたのに」
「御免なさい」
全灯モードに切替。

「各所のステン網に大人でも指が入ってしまうので安全面は改良の余地は有ります。まあ網目を小さくするだけなんで難しい問題ではないと考えてます」
水面や縁板を触っていたコマネ氏。
「天板や窓にも使えるそうだが。重さは問題無いのかね」

面取りされた1m✕4m✕8cmのまな板樹脂板を壁に立て掛けて持ち上げて貰った。

「大きさの割に軽い」
「その大きさでも約3kg。同じ厚みでもっと軽くする工法も聞いてます。但し今回購入して帰る部材で王宮分を差し引くと。コマネさんの施設の天板まで間に合うかは少し微妙です。計画するにしても天井の一部と出窓位までで留めた方が良いでしょうね」
「了解した。メインは下に配置する中身だしな」

コマネ氏の後で順に板を持ち上げ、おぉおぉと感想を漏らした。

「さてと。長らくタイラントを空っぽにしてはいけないのでロビーの時計を眺めてから帰りましょう。それと同じ系統の低級品は購入済ですのでそれも帰ってからご堪能を」

中まで入った護衛兵たちも色々興味を示していたが。そんな時間ねえよ!

半ば強引に引き連れロビーから強制送還。


ロロシュ邸本棟のロビーの壁際に1つ柱時計を置き。時差の調整タイミングを確認した。

出した途端に針が回り出し、安置した時にはタイラント時間を示した。

「腐っても時計か」
「品質は最低限ね」

まだ帰らないヘルメンちが後ろから。
「私には無いのか」
「中型の置き時計なら予備が有りますが」
「それで良い」

時計を直置き。
「精密品なんで激しく揺らすと壊れます。まだ自力では直せないので取扱にはご注意を。壁に置いた柱時計よりも中型の方が高くて。これには金900枚掛かりました。
特別経費でお願い出来ます?」
「多目に振り込んで置く」
ちょっと回収出来たぜ。

「何分高級品で出物が少なくて他の人には回せません。奪い合っても責任は持ちませんので悪しからず」

事の序でに会議室でモーランゼアの視察報告を簡単に済ませてエリュライズに戻った。

フロント前のソファーでグッタリするエリュトマイズに声を掛けた。
「御免ね。突発で」
「いやぁ疲れました。変な汗出ましたよ。御出立はどうされますか。延長は可能ですが」

「あんまり余力無いし。予定通り午後のチェックアウトで」
「お城にも寄らないといけないんです」
「畏まりました。再来週の来訪をお待ちしております。ジェイカーが間に合うかはやや厳しいかと」

「無理に間に合わせなくてもいいですよ」
「出来る限りの善処を」


少ない荷物を纏め。定番のお土産を頂き。お昼も部屋で頂いて。

クワンに御握りと水筒持たせて送り出し。俺たちとグーニャはお城の弟ケイルを訪ねた。

怒ってはいないが困り顔。
「俺たちは時計の市場調査を囓っただけです。何か問題でも有りました?」
「いや…それに付いては感謝する。私たちでは中々見えない部分だからな。だが直ぐには潰せない」

「潰して貰っては困ります。大半の職人が金も準備出来ずに放り出されるんですから」
「君の言う通りだ。しっかりと裏取りをしてから監査に入る。事後処理も含めてな。それは良い。
調整器も私用研究の予備が有るから五個は渡せる」
何か引っ掛かる言い方だな。

「他にまだ何か」
「桜の移設先が…フリーメイの屋敷なのだが」
あんだって?
「調整器頂いて!」
「東に向かいます!今直ぐに」

「そうだよな。そうなるよな。私もそう思う」
「正王もケイル様も優しすぎます。貴族階級や金持ち連中には厳しく行かないと。嘗められっ放しですよ」
「もしかして…。裏金が、王家に流れてませんか?」

フィーネの指摘を受けてケイルはテーブルに突っ伏した。
「んなアホな。変な金の流れが有るなら。末端から吸い上がってるって解るでしょ」
「面目ない…。王家は金に無頓着でな。笊だった」
「賢王の国の名が廃れますよ。そんなんじゃ」
長い溜息を吐き出した。

「桜に罪は有りません。即応が困難なら。自力運搬でフリーメイの屋敷に運び。植えた地中に最低4つ。水魔石を埋め込んでみて下さい。それでも駄目なら諦めろと言ってやれば良いんです」
「君らを…。一緒に連れて行くと。話してしまった」
付き合い切れん。
「まあ俺たちで運ぶって話でしたからね。それに付いては咎めませんが」
「急用が出来て私たちは王都から出たとお伝え下さい」

「そうするしかないか。いや済まなかった。調整器は工房内に有る。取りに参ろう」
切替の早さは王様らしい。




---------------

東外門を出る手前で変な集団に絡まれた。

「この私の足止めをするとは良い度胸だな。名を名乗れ」
「申し遅れました。タメリッカ工房の主タメリカントと申します。タイラントの外交官。スターレン様とフィーネ様とお見受けします」
主自らのお出ましか。礼儀は弁えているようだ。
「人違いだ」
「違います」

「真っ赤な子猫を抱えられて徒歩で外に出られる御仁が他に居るとでも。白鳩は…いらっしゃらない様ですが」
ええい鬱陶しい。
「そうだな。鳩は居ない。だったら人違いだ!」
「違います」

「お待ち下さい。万歩譲って人違いだったとしても!数分だけで良いのでお話を!」
回り込まれた。寧ろ囲まれた。
「金なら散財して一文無しだ!だから徒歩で行くのだ」
「空っぽでーす。フリメニー工房にぼったくられて!」

「何と嘆かわしい事か。当店なら無利子の分割払いも可能です故」
しつこい!

「そこまで言うなら良い商談を持って来たのだろうな!この上で粗悪品を売付けるのなら。国家間権力を存分に振り撒いて貴様の工房を潰してやるぞ!」
「嫌ならお引き取りを!」

「権力と仰ってしまっているではないですか!勿論工房で最上の品をご用意致しました。お時間は取らせません。
直ぐ近くに支店が有りますので!是非に!」

「そっくりな偽物だったらどうするんだ!」
「どうする気だ!」
「まだ仰いますか!」
埒が明かないとはこれに違いない。

30分の約束で外門から程近いタメリッカの6番店に入店。
「静かにしろ」
口に指を当てて耳を澄ませた。

4台置かれた柱時計にズレは無く。サメリー工房製よりは強い音がした。
「悪くないな」
「勇ましい音色ね」

「素晴らしいお耳です。音で判別されるお客様は滅多に居られません」

「国外の商人を馬鹿にするな。見てくれの衣装で取る客を分ける屑に用は無い。商品を見せろ」
「物を見なければ交渉はしませんよ」

「耳が痛みます。それもこれもフリメニーの…。いえ商品は奥に御座います。お話はそちらで。お茶をお淹れしますがお砂糖は御入り用でしょうか」
「砂糖は要らん」
「私も要りません。猫にはお水を」
「フニャ~」ちょっと不満げ。

「畏まりました。お茶とお水と標準計をご用意しろ」
「只今」
標準計有るんだ。独自か俺たちが知らないだけか。


商談室と書かれた部屋を通り過ぎ。奥の工房手前の部屋に入った。

最上級と案内された柱時計は2基壁際に並び。他と比べ背が低く横幅が1.3倍位広い。鮮やかな紅い木目が特徴で軽快で響きの良い音を揃えて奏でていた。

「歯車に真鍮を使っているのか」
「良くご存じで。御明察です。一部真鍮を使用し総重量が重くなり他の品よりも太く足場を広げました」

運ばれて来た酸味の利いた紅茶を飲み。標準器はサメリー工房で見た計測器とはタイプが違う秒間メトロノーム。

何処に置いても音ズレは一切無く。合わさって気持ちが良い反響音が拾えた。

「何処か懐かしい反響音だな」
「鉄琴の打楽器みたいね」それや。

「当工房の自慢は真にその音。内からも外からも反響を拾い拡散する為にも、この寸胴型となっております。
真鍮部品は経年で歯山が舐め易く錆び易い。それも有ってキルワから特別に取り寄せた吸湿性の高い赤木を使用し見た目も艶やかに仕上げています」

「長持ちはしないと聞こえるが」
「その点も考慮し。中の調整器を二つ組み込みました。サメリー工房と同等の百年寿命を目指して居ります。フラメニーの粗悪品と同じと罵るのだけはご勘弁を」

「随分と仲が悪いのね」
「悪いも何も。外装で売り上げだけを伸ばし。当工房に来られるお客様の殆どがフラメニーと同じ物は無いのか無いのかと繰り返し。サメリーを勧めてみれば知名度で劣るから嫌だと。お耳を傾ける間も無く帰られる始末でして。
一般の方も略見た目重視。商品を揺すろうと為さった方も多かったのです。傷付き易い真鍮部品を使っているのにも気付かれず。ご説明しても理解もしてくれない。
仕方なく、お客様を絞らせて頂きました」
殆ど愚痴だが気持ちは解る。

「事情を聞かずに断じて悪かった。だがドレスコードは好ましくない。書くなら正直に購入前の商品に触れたら罰金を取ると明文した方が良いと思うぞ」
「確かに…。仰る通りで。少々頭に血が上っていた様です」

隣の嫁さんに。
「どうする?2つ共買っちゃう?」
「人に見せるなら断然これよね。買っちゃおっか。欲しがりそうな人多そうだけど」
「二つ共ご購入頂けるのですか」

「物が良ければ買うさ。そっちの標準計は量産品?」
「はい。秒間を刻むだけの物なら幾つかご用意が」

「そっちは1つで良いよ。3つでお幾ら」
「標準器は添付品として。一台共通金二千では如何でしょうか」
「ホントは幾ら?」
「単品売りですと、通常二千二百を定価として居ります」

「じゃあ定価価格で。歯切れが悪いから4500で手を打とう。今までの売り上げが落ちてた応援で」
「おぉ何と言えば宜しいのか。非常に助かります」

「優しいぃ。もう1台欲しいと言ったらどの位の期間で作れますか?」
「最上品の予約は有りませんので。一週間程頂ければ確実です」
「なら来週取りに来るから本店に置いておいて。そっちの分は私が前金で払うわ」

「御購入有り難う御座います!」
取り巻き一同90度のお辞儀。

その場で証文を書き書き。
「所でどうして俺たちが東に行くと知っていたんだ」

「それは至極明快で。お二人は食通でも御有名。しかもクワンジアでは他に宝石を買われていたと耳にし。南から回って来られて。北も西も目立つ物産は無く。次に向かうのは東ではないかと。エリュライズの御退去予想で一昨日から山を張って居りました。藁にも縋る想い…ではなく是非とも我が工房の時計をご覧頂きたいとの一心で」
大袈裟に買い叩いてたのがバレてたん。

「あぁ…。そうね。まあいいや。品質と低価格を目指すサメリー工房と。品質と音響に拘るタメリッカ工房。フラメニーなんて相手にするだけ無駄だ。あんな商売は他国では通用しない」
「二度とあそこの品物は買わないわ」

「サメリーと競い合って腕を磨いて欲しい。名前に踊らない確かな目を持つ客は必ず来るからさ」
「そのお言葉。職人一同で胸に刻みます。お引き留めして申し訳有りませんでした」

「ではまた来週!」


良い物買えば気分も晴れやか。

外門を出て一路東へ。一気に分岐町のヌケルコまで走ってやるぜ、なんて無茶はしない。

東部本街道から遙か北側を迂回。森を抜け林を抜け小川を飛び越え。

途中2回休憩を挟んでサルサイスの町へ日が沈む前に到着した。

新生天翔ブーツはやはり段違いの性能を見せ付け。軽い息切れと気持ちの良い汗を掻いて町中へ。

「いいなぁこのブーツ。一生手放せないぜ」
「ホントそれ。朝から走れば2つ先まで余裕で行けそう」

ギルドで宿を紹介して貰って素泊まり一泊。

交互に庶民派な風呂に入ってディナータイム。

小洒落た店なんて無い。一般的な居酒屋で食事を取った。

「おー姉ちゃん可愛いねぇ」

モーランゼアではジビエ料理が盛んなのか猪や鹿肉の串焼きがメニューに並ぶ。

「ちょい焼き過ぎだけど。これはこれで」
「ジビエなんて滅多に食べないもんねぇ。歯応えが中々」
「ニャン♡」

「おい!聞こえてんのかコラァ」

安酒に溺れた臭い息が舞っているが気にしない。

「一番高いボトルワインなら持ち帰れるって」
「モーちゃんさんのお土産もこっちで買った赤ワインにする?」
「飲んでみて美味しければ追加で買おう」
「ニャ~」

「おいつってんだろうが!!」

「すみませーん。一番高いボトルワイン頂戴」
「グラス2つで。後果実水が有れば平皿で」
「喜んで~。深めのお皿でお持ちしますねー」
「ニャ~ン」

「なんだお前ら!俺が見えてねえのか!!」

「ジビエの良い所は大蒜塩胡椒だけでも肉の味がしっかりしてるとこだよなぁ」
「血抜きとか下処理が上手な店だと一風変わって美味しい物よねぇ」
「ニャ」

「おい!クソッが何なんだ。おい!おい!!」

ヨチヨチ歩きの臭いおじさんが俺たちが注文したボトルに触ろう試みたので。顎側のピンホールをデコピンで撃ち抜き首襟を掴んで店の玄関から摘まみ出した。

涎が付いて手がベチョベチョ。

「お姉さーん。手が汚れたからお絞り頂戴」
「喜んで~。直ぐに持ってきまーす」

トイレ前でしっかり流し、お絞りで手を拭いて着席。

切子状のグラスに半分注いで乾杯。
「おぅ味も香りも濃厚~」
「お肉料理にバッチリね」
「父上の土産もこれにしよかな」
「綺麗なグラスも添えてね」
「うんうん。硝子細工も現地が一番」

デザートなんて無い。今夜は肉三昧だ。

「おー鹿肉ってこんな感じなんだ」
「意外!曲が無くて美味しい。昔食べてたのと全然違う」
「ニャン♡」
「王都のステーキ店。もう一度行ってみよう」
「クワンティにも食べて貰わなきゃ」

ボトルが半分過ぎた所で2本追加してお会計。

「さっきのは何?」
「あの人は酔うと何時もああなんです。誰彼構わず絡み出して。何でも町で自称一番の冒険者だとか。仲間も居ないぼっちなんで放って置いて下さいな。
明日素面の時に請求しに行くんで。お亡くなりでしたらギルドに請求書叩き付けます」

「あれ位じゃ死なないさ」
「あの人が居ない時に寄らせて貰いますね」
「はい。またのお越しを~」

店の前で転がる酔っ払いを仰向けにして即時撤収。
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 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
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社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
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「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

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