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第165話 聖女の嘆き

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夕食会が始まった頃は平和的に。ペリーニャとゼノンたちの間の微妙な距離感は感じつつも、そこは大人の皆様で聖女を命懸けで守るガーディアン。

口数は少ないものの滑り出しは先ず先ず順調。

ここで俺が軽口を叩こうものなら自己株価大暴落の憂き目に遭う。

無難に。
「ペリーニャ。スープはどう?俺の作品ではないけど」
「先回より酸味が利いて。スパイス感が…。私にはちょっとケホッ。酸っぱいですね」
目に涙を溜めて!そっちだったんかーい。

俺の所為だったのかも。

「でも慣れて来ると大変美味しいです。癖になるお味ですね」

「ゼノンたちは?あんまり口に合わないなら変えて貰えるよ」
「いえいえ。そんな贅沢な。魚介自体を食べられる機会がこれまで少なかったもので。スターレン様に教わったスープカレーともまた違う。食欲が落ちる夏場に持って来いの美味です」
他の隊員も満足そう。

なーんだ普通じゃん。と内心ホッとしていると。突如ペリーニャが噛み付いた…。

「何時にも増して饒舌ですね、ゼノン」
「え…」
何気ない感想だったのに?俺たちも隊員も目が点。

「私に言いたい事が有るなら仰って下さい!」
怒ってる?いったい何処でスイッチが入ったんだ?
「いえ特に何も…。ペリーニャ様?」
「何も…。でしたら、昨日今日とどうして私を避けるのですか!」
「避けるなどと。その様な」

ペリーニャが可笑しい。隣のフィーネも首を捻る。

スープの食材を確認。何だ?興奮するような食材が…?

奥に香る仄かな苦み…クミン?いやしかしカレーにも良く使われていて自宅に遊びに来た時にもペリーニャは何度も食べている。

他に興奮作用を促す食材は入ってない。


ラウンジは貸し切りにしてあるので大声で叫ばなければ然程声は外に漏れない。

右席のロイドにちょっとペリーニャのおでこ触ってみてと頼んだ。

「ペリーニャ様。少し失礼します。…あ」
ロイドが抜けた声を出した。
「何でしょうか、ロイド様」

「少々お熱が有る様です。疲れから来る夏風邪の初期症状ですね。お食事を食べ終わったらお薬を飲みましょう」
「はい…」
冷たいロイドの手が気持ち良かったのか目がトロン。

急遽ペリーニャのパンを麦粥に変更。スープも香辛料を抑えたクリームタイプに変えて貰った。

「外出すのも何だし。今夜はこっちに泊めるよ。付いてた女性騎士に聞くけど。海で遊んだ後とかお風呂とか。ちゃんと拭いてあげた?」
「いえ…。最近は何でも御自分でやると言って拒絶されていまして」

これはアレだな。遅れて来た反抗期だな。

「何時も…そう。何時も!何時も何時も何時も」
荒ぶるペリーニャは終わっていなかった。

心配したフィーネも駆け寄り。
「どうしたの?興奮すると良くないよ」
肩に置かれたフィーネの手を払い除け。
「止めて下さい!何時も…誰も…。誰も私を怒って下さらない!」
「え?」

「私が我が儘を言っても。どんなに理不尽な事を叫んで言っても!誰も怒ってくれないんです…」
「それは皆がペリーニャを大切に」

「違います!違うんです!拉致される前も後も!誰も彼も私を…私を聖女だと言って!聖女に成る者だと言って!
どんなに嫌だと言っても!成りたくなんか無いと言っても」
「え…」
成りたく、ない?
「誰も私の声を…、聞いてはくれないんです…」

薄々とは感じてはいたが実際の言葉で聞くのは初めて。

「監禁されていた二年を耐え続け。お二人に救われ自由になれた…。やっと地獄のような鳥籠から出されたのに!
また、別の籠に入れられた…」
「な…」
言葉を失ったのはゼノンたち。
「絶望です…。私は少しも清くない。でも清いと言われ。
正しい事など何もしていないのに、正しいと言われ。逃げ出したい…。外に出たいと願えば。信者が居る。犠牲になった民が居る。私を救わんと散った騎士たちが居る。
そんな棘のような言葉で、私を縛り付け。私が、求めていた自由を。皆が奪う」
「…」

「私は…聖女なんかじゃ…ありま…」
言い終えない内に。ペリーニャは意識を失い。テーブルに倒れそうになった所をフィーネとロイドが支えた。
「ちょっと上で寝かせて来る。薬は起きてから。汗掻かせれば収まるでしょ」

2人に運ばれるペリーニャを見詰めるゼノンたちは。誰一人動けずに居た。

「今日は預かります。明日の状態を見て帰るかどうか相談しましょう。アッテンハイム以外の方。今の話は胸の内に。当事者には…。言うべき事は何も有りません」

ゼノンが重く口を開く。
「スターレン様…」
「愚痴や思う事なら。本人に伝えてあげなよ」
「違います。ペリーニャ様を交えて。スターレン様にご相談したき事象が有ります」
「団長。それは…まさか」
抗議を示したのは副長のリーゼル。

「いや駄目だ。御本人の誤解を解かねば国に帰せない。
このままでは我らはあの外道と一緒だ。全責任は私が取る」
「くっ…」

「何か重要そうな話みたいだけど。明日朝押し掛けても混乱させるだろうから。俺の用事を済ませてからでいいか」
「それでお願い致します」
「遅くとも夕方前には戻る。呼びに行かせるからロンズで待ってて」
「はい」

重たい空気の中。我関せずでレイルは優雅に食べていた。
でしょうねぇ。

「では皆さん。少し冷めてしまいましたが食材を捨てる何て勿体ないのでしっかり食べて帰って下さい」

「食べましょう!」
と笑顔で元気良く言ってくれたのはシュルツ。

余計なお世話をする積もりは無かったが。結果的にこうなってはゼノンの話も聞かなきゃ駄目なんだろう。




---------------

ゼノンの話は気になるがやるべき事は山積みだ。

ペリーニャは起き抜けに何処かへ転移しようとしたらしいがロイドの「スターレンに任せなさい」一言で落ち着いたそうな。

また仕事が増えました。

彼女は嫁さんとロイドとアローマに任せ。ソプランを連れて財団宿舎に向かった。

どうせ男は役に立たない。

着替え等々は女性騎士たちも居るんだし…。会いたくないと言われる気もするが。


帰宅前の最後の昼食会(シュルツとピレリの)を離れて見守り一緒にお昼。

昼メニューにも有った蒟蒻田楽を手土産に帰宅準備完了。

予定していたよりも早い帰宅となり。
「お兄様の大切なお仕事が有りますので今日はこれで帰ります。また来ます。そして王都にも来て下さい」
「必ず伺います。仕事の名目ですがお嬢様に会いに」
多くの関係者が居る中での交際宣言。

清々しい。2人の情熱と勢いを感じた。

一旦離れた所でシュルツがピレリを振り返り。自分から抱き着き初々しい口吻を交わした。あらあら大胆。

「お嬢様…」
「シュルツと呼んで下さいな」
「シュルツ様。私が怒られるのはご承知で」
「勿論承知で。私もペリーニャ様と同じく。自分で自由を掴み取りに行くと、昨日決めました。ピレリ様も早く御爺様を説得なさって下さいね」
「それが一番の難題です。では、また後日」
「はい」

シュルツが護衛隊の輪の中に入り。宿舎前から王都に転移した。


ロロシュ邸内、本棟前に出て。
「ソプラン。ロロシュ氏が何処に居るか聞いて来て」
「おーけー」

本棟に入ろうとしたシュルツを引き留め。
「シュルツはペリーニャとスマホで何か話した?」
「いいえ。直接的な言葉では何も。常に修女さんに張り付かれていた様子で。何時も世間話を」
「そっか」

「時折冗談交じりに私が羨ましいと漏らす事は有りました」
「シュルツを?」
「お兄様とお姉様が傍に居て。何でも話せる侍女も居て羨ましいと」
アッテンハイムでの孤独感か…。
「向こうでの友達が欲しかったのかもな」
「きっと。私もそう感じました」

ソプランが玄関ホールから出て来た。
「おーい。氏は在宅だ。今書斎に居る。時間も有るって」
「直ぐ行くー」
シュルツに向き直り。
「同席する?」
「当然です。船工房への依頼なら、窓口はピレリ様ですから」
「そうでしたそうでした。では、お嬢様。お手を拝借」
「喜びまして」

久々にシュルツと手を繋いで邸内を歩いた。


シュルツが田楽土産を出した所で仕事の話を。
「ちょっとご相談が」
「何だ」

イメージ絵を見せながら経緯からご説明。

………

「当初は自作してみようと財団の船工夫数人に意見を頂戴した所。素人には無理だと判断に至り正式に製作依頼をしたいなと思い直して」

ロロシュ氏が画板を掴み大きく唸った。
「またわしに内緒でやろうとしていたな」
「そりゃそうでしょ、こんな面白そうな事。もっと時間が有ればやってました」
「まあ良い。しかし…これまでに類を見ない斬新な形だ。シュルツも初めてか」
「はい。お話だけで絵の方は今初めて見ました」

「耐久性や車体強度、材質は一旦無視して空気抵抗のみを考えた結果です。説明した通り動力はそれを支える車輪本体。回転速度に限界が無いんで他にも色々な対策機構を考案しないといけません。素案は兎に角目立つ物をとそれにしました」

「車輪の複製や変更は原本を預かる私が。製作するラフドッグの窓口と陣頭指揮をピレリ様が。では駄目でしょうか御爺様」
「ピ…。あぁ、そう言う話か。計りおったなシュルツ」
「嫌ですわ御爺様。仕事は仕事。秘密を握るのも信用の置ける方でないと」
「まぁ、そうなるか」

絵を置きお茶で一服するロロシュ氏にシュルツが更なる追加願い。
「このお話と平行して。港との往き来をお兄様から転移道具をお借りして私が担いたいのです。お許しを、頂けませんでしょうか」
大きなお強請りだな。

「むぅ…。移動時間の短縮。連絡員を置くよりは詳細を把握するシュルツが飛ぶ方が早い。行った事がないから国外は出られぬだろうが。
行き先と行動予定を必ず事前にわしに連絡すると約束出来るか」
「はい。例え御爺様と喧嘩をしていたとしても。それだけは必ず守ります」
「口が達者になったな」
「ずっと御爺様のお側に居ますもの。他に何方の影響かは言う迄も有りません」
「わしの所為か…」
嬉しいやら悲しいやら。複雑そうに俺が睨まれた。
「俺の所為…は多少は有るでしょうが。親と離れ離れで暮らしているんですから。ロロシュさんの影響ですよ」

「話は理解した」
切り上げやがった。
「成人する迄は国内限定。同行護衛は五人以上でカーネギを必ず入れる事。その他色々条件は付けるが。肝心の転移道具に空きは有るのか」
「休暇明けに1つは空く予定です。今貸してる人が返さないと言ったら。実はここだけの話。小規模の道具なら自作でも可能なんですよ」
「ほぉ」

「物自体はシュルツが作るんで。俺とフィーネで追加工するだけで完成します」
ペリーニャの手も借りなきゃいかんが。

「解った。詳細は休暇明けに詰めるとするか。それと偶にで良いからわしを温泉郷の計画地に連れて行ってくれ」
「偶にと言わず何度でも。前回の現地視察でも御爺様のお足がとてもお辛そうでしたから」
「足もそうだが体力もな。年には適わん。己の墓穴が見える頃に。こんなにも働くとは夢にも思わなかったぞ」

「まだまだ死んで貰っては困ります。それはそうと温泉郷の名称を考えて来ました」

地名はオリオン。財団直営第一号店名はアワーグラス。と明記した証文を提示した。

「フィーネと相談してこれに決めました」
「オリオン…とは?」
「完全な創作名称です」
いいえ丸パクリです。
「素朴で短く、素敵な響きですね。砂時計の意味合いも」

「オリオン…。良いな。文句は無い」
「では決定で。車の件と合わせて陛下に報告しに行きたいんですがロロシュさん、時間有ります?」
「わしは構わんがヘルメンなら。今は風邪で寝込んで居るわ」
「風邪?」
夏風邪流行ってるの?
「お加減は重いのですか?」

「いやあれは仮病だな。わしがサルベインに主要業務を引き継げたから城を降りると告げたのと。先日休暇から帰ったメルシャンが王宮にプールを作りたいと言い出したのを聞いて。そこへミランが自分も泳ぎたいと言い出し。
ショックを受けて寝込んだ。振りをしている」
なんでヘルメンちがショックを受けるんだろう。謎
「なら王代行は今誰が」
「ミランとメイザーに決まっておろうが。彼奴は偶にやるんだ。特にミランが絡むと途端に腑抜けになる。まあ周りが好き勝手やるから自分も休もう。そんな所だろう。
週明けには起きると思う。わしとシュルツで報告は片付けて置くから君はしっかりと休め。何故か半分以上仕事をしているようだがな」
「外務と商人は別腹ですよ。報告の件はお願いします。休暇明けには俺も行くんで」

シュルツとハイタッチして打ち合わせを終えた。


早速転移道具のベースを作りに工房へ向かったシュルツと別れ自宅にIN。

時刻は15時前。風邪の時に元気が出る物でも…何がいいかなぁ。

思い切ってペリーニャに直接通話。数コール後
「はい…」
「悩み多い話は一旦置いて。まずは腹拵えをしよう。今一番に食べてみたい物は何?」
考え中…。
「酒精の無い。甘酒が、飲みたいです」
「おぉいいな。今から自宅で作って持ってく。絶対にそこに居てくれ。何処にも行くな。俺に任せろ」
途端に泣き始め。
「助けて…ください」
男足る者。美少女の頼みは断りません。

直後にフィーネたんのお叱りが。
「病人泣かさないでよスタンさん。それから今の台詞。私にも後で言いなさい。愛情たっぷりで」
「ふぁい!」
欲しがられてしまった。

南東で先月買った酒粕をじっくりコトコトしているとフィーネが様子を見に帰宅。

「熱は下がってた?」
「うん。今は食欲が落ちてるだけ。ウィンザートに行った辺りから体調が悪かったみたいで。真贋スキルが悪い方向に働いてたみたい。ちょっとした人間不信みたいな」
「何気無い言葉に噛み付いてたからなぁ。それでか」

「さっきなんであんな事言ったの?」
「夕方にゼノンとリーゼルがペリーニャ含めて俺に話が有るって約束してるんだ。今会うと逃げると思って」
「あぁそれで。嫉妬深くてごめんなさい」
「愛するフィーネさんは最初からトップギアだからもう慣れましたさ。そんな気に入った?あの台詞」
「最近言われてまーせーんー」

などと痴話喧嘩を演じつつ2人で配れる位沢山の甘酒を煮立たせ、アルコールをしっかりと飛ばし、鍋毎粗熱を取って作り込んだ。




---------------

ゼノンとリーゼルとホテルのロビーで待ち合わせ、上級部屋へ。

目が合うなり嫌そうに視線を逸らす本心剥き出しのペリーニャがそこに居た。

「ゼノンたちは話をしに来ただけだ。取り敢えず甘酒飲んで落ち着いて」

ベッドの上でロイドがぴったり寄り添い、ペリーニャの頭や肩を撫で続けた。

甘酒をゆっくり飲み下している間。
「ロイド様も同席されるのですか」
馴染みの薄いロイドをゼノンが気にして。
「この光景が見えんのか。それにロイドの素性は俺とフィーネが保証する。外させるなら俺も出るぞ」

「解り、ました。私も腹を括ります」

コップ一杯の飲み終わりを待ち。少しだけ水で口内を流すと普段の落ち着いた表情に戻った。

「お話とは、何でしょうか。私に?それともスターレン様にですか?」

「お二人。両方にです」
「取り敢えず椅子を並べて下さい。首を振るのも億劫なので」

ベッドの周りに椅子を並べてロイド以外全員着席。

「では、前置きとして。微熱の影響でスキルが鈍っているご様子ですので。何も見ずに話す言葉だけを聞き流して下さい。宜しいでしょうか」
「はい。続けて下さい」

「これからお話する内容に付いて。
一つ目は聖女がどの様に選出されているか。
二つ目に聖女の使命とは何なのか。
三つ目にどうして歴代聖女は短命だったのか。
四つ目に何故、成人である十七歳を待つのか。
五つ目に…。話の最後に一つのご提案をします」
何故最後を言い替えたのかが気になる。

ゼノンは一呼吸置いて。
「一つ目の選出方法は歴代の教皇様だけが受け取れる女神様からのご神託より選ばれます。過去には姉妹が生まれ妹君が選ばれた事例も有ります。
ですので聖女は生まれた時に決まってしまい。後から誰でも成れる者では有りません。

二つ目の聖女の使命とは何か。
表向きは信仰の象徴。各地の寺院や教会を巡り信者を癒すだけの存在。
真の使命はたった一つ。とある場所に設置されている宝具に聖女の魔力を定期的に注ぎ入れる事。周期は十年置きに一度。先回は今から七年前となります。

三つ目の聖女の短命に付いて。
これは二つ目に挙げた魔力消費が要因。文字通り聖女の寿命を削り入れる為です」
「私を…。私に、命を捧げさせる為に救い出したと言うのですか!」

「どうかお願いします。私の話を最後まで聞いてから、お怒りを」
「…聞きます。済みません…」

「先代聖女。ペリーニャ様の実母で有らせられたフレアメリル様は魔力儀式を二度、ご行使されました。その二度目が七年前。儀式を終え、首都に戻られて程なく天に帰られました。

しかし。フレアメリル様は今のペリーニャ様と比べ。魔力保有量も少なく。特別なスキルも持たず。自己で転移魔法も使えませんでした。
歴代聖女の文献に記す所でも真贋スキルと転移スキルを同時取得された御方は居りません。
その何方かを持たれた聖女は五十前後は生きたとされ。それは当時の平均寿命と同等。天寿を全うされたと言い替える事も可能かと存じます。
加えてペリーニャ様は治癒魔法にも目覚め。高い魔力も保有されています。後一年で更に高め。スターレン様が持つ多くの消費軽減道具をお借りすれば。具体的な数字では申せませんが。削られるお命も少ないのではないかと類推出来ます。

四つ目の聖女の成人を待つ由縁。
これは宝具が納められている場所の扉が。十七を迎えた聖女でなければ開けられないからです。教皇様で有ろうと誰で有ろうと開く事は適いません。

最後のご提案の前に。宝具とは何かを加えます。
正しい名称は不明です。実物は聖女以外誰も見た事が無いからです。
文献の中で通称は古代樹の杖とされています」
こ…。古代樹の杖!?

思わずフィーネとロイドと顔を見合わせた。
先週、出たんですけど…。大きな木材の巻き巻きが。

「その杖の役割は。一言で全ての魔物と魔族の弱体化。
効果範囲は猫の鉤爪から首都西部一帯までと南北の町を覆う、大規模な結界だと捉えて下されば結構です。
嘗て一度だけ現われたビッグベアゴッズを態と結界内に引き入れて倒したとの記録も有ります」

フィーネがあぁと小さく声を漏らした。

効果対象は定かでないが。確かにレイルやグーニャはアッテンハイムの町に行くのを拒否していた。

クワンジアへ首都から向かう時もグーニャは気怠そうにしてた気がする。

猫っぽい仕草が増して気付かなかった。

レイルが無理矢理入ったら杖の方が砕けそう。だから入らない方が良いとも言ったのか。

どうなるか解らんよと。

「最後にご提案です。
ペリーニャ様が自由に。御自分の好きな道を歩める方法は唯一つ。現勇者であるスターレン様がその杖を、完膚無きまでに叩き壊して抹消するのです。やがて手にされるであろう初代聖剣でなら、可能かと」

ドロップした杖は特に効果は示してない。追加工が要るんだと思う。詳しくは明日の鑑定会にて。

ゼノンの話を聞き終えても。ペリーニャは俯いたまま自分の答えに悩んでいる様子だった。


「要するにあれだ。ペリーニャと一緒にこっそりそこ入って聖剣で壊せば良いと。来年の11月までに最低でも聖剣取りに行って中央大陸丸ごと掃除しとけって話ね。
はいはい頑張りますよ~…何て言えるか!!」

「恐らく教皇グリエル様は。スターレン様が勇者になってしまったと聞いて。その可能性に気が付き。余計にペリーニャ様へ詳細を話せなくなったんだと考えます。
この情報も各師団の副長クラスまでしか公開されて居りません。当然箝口令も敷かれています。
私とリーゼルはペリーニャ様の本心を聞き。思わず口に出してしまった、と言う具合です」

「来年メチャメチャ忙しくなるじゃん」
「ちょっと困るなぁ。お休み欲しいなぁ。ペリーニャちゃーん。次の行使までに成人から2年間は猶予が有るのよね。ちょっとだけ。もうちょっとだけ我慢とか、出来ないかなぁ」
「フィーネ様…」
ペリーニャ涙目。
「無理よねぇ。そうよねぇ…」

「待て待て泣いちゃダメだ。やらないとは言ってないぞ。俺に任せろ!なんて豪語したからにはやっちゃうんだが。
そうだ、こうしよう」

先週のドロップ品の杖を取り出し頭上に掲げ。
「この大っきな古代樹の杖、の原木?を改良し捲ってだな。
その宝具と同等以上の性能を叩き出してだね。誰かの犠牲の要らない恒久対策品に仕上げれば。本物と擦り替えるだけでお終いさ」

ゼノンとリーゼルが呆然。
「スターレン様。そんな…物を、何処で」
「先週道端で拾った。のは嘘で。先週潜った南東大陸の迷宮で巨大な大木の化け物割ったら出て来たんだ」
「割ったらって…」

「どうかなペリーニャちゃん。泣かないで。
来年のお誕生月に1回だけスタンと入って。宝具の性能を丸裸にしてさ。それを参考に改良して行くってのはどうかなぁ~?
原木も2度と手に入らないから失敗したくないのよ」

ベッドの上で。ロイドの手から離れ。ゆっくりとしたモーションで正座。からの土下座。
「正直に言います。命を削る儀式なんて怖くてやりたく有りません!だからと言って国民を危険に晒したくも有りません!何とか次の儀式までに。擦り替えの方向で。
宜しくお願いします!」

「よーし。これで余裕が出来た。と言うより元に戻った。
出来る限り早く完成させて。終わった後でグリエル様に。
杖腐ってたんで新しいのに取り替えました。聖女は誰でも良いですよーってお伝えしちゃおう」
「そうしましょう!」

「有り難う、御座います」
の直後にペリーニャのお腹が大きく鳴った。
恥ずかしそうにお腹を押さえて。
「安心したらお腹が…」

「注文しよっか。何が食べたい?」

「昨日食べ損ねた。クリーム色のスープがまだ有れば。無ければ消化に良い物を」
「スープも具材無しの方が良いから聞いてみるよ。ロイドは悪いけどこっちで食べて。俺たちは上で。
ゼノンたちはロンズに戻って1日延長して…。ペリーニャの反抗期が収まったって隊員に伝えてみたら?」
ゼノンは笑って。
「反抗期。真に、ですね」
リーゼルも釣られて笑い。
「そうさせて頂きます」

「お止め下さい。恥ずかしいです」
と布団に潜って隠れた。

照れた素顔のペリーニャは。誰よりも明るく可愛かった。


しっかしあの腐れ外道。ペリーニャの声だけでもなく。
命だけでもなく。アッテンハイムの宝具まで狙ってたとは。

初回を逃すと倒せない。ベルさんの言う通りだった。




---------------

本日の無人島鑑定会はシュルツを加えた前回と同じメンバーにて。

病み上がりで本調子でないペリーニャは不参加。

本人は参加を強く願ったが誤判定が失敗品に繋がったら泣くに泣けないよと説得してゼノンたちと一緒に。午前の早い段階でお土産持たせてアッテンハイムに送り届けた。

最も気になる古代樹関連の品は樹液以外、名称と特徴に
古代の木材と出るだけで誰が鑑定してもそれ以上何も出なかった。

古代樹の杖を一度掴んでポイ捨てしたレイルが。
「他の同素材に比べれば。少しだけ強い聖属性を帯びておるのは確かじゃ。聖女のスキルを磨かせて本人に鑑定させるのが良いじゃろな」
「まぁその流れだよなぁ。て貴重品なんだからもうちょい丁寧に扱えよ」
「手が痺れたのじゃ」
「ならしゃーなし。宝具の杖は女神様自身が使っていたか作った物と見て間違いと思う。古代樹関連は来年まで温存しよう」

唯一性能が出た樹液。

名前:古代樹の樹液
性能:木材等の防腐処理に適する
   表面材使用時:各種性能3倍
   環境耐性向上
特徴:生物が負う外傷に塗れば傷は即座に塞がる
   但し内部に入った細菌は死滅しない
   応急処置にも使えるが勿体ないと思われる

「確かに勿体ない。普通の人間で消毒せずに使ったら患部から腐る」
「怖ーい。性能通り表面処理で使うのが一番ね。プレドラが持ってた杖に使われてたんじゃないかな」

疑問を覚えたフィーネが地面に。輪切り状態の長杖を順に並べて置いた。

名前:世界樹の枝(輪切り損壊状態)
特徴:再生連結不能。何て事を…
   各種合成素材として使用推奨
   火炎属性系魔獣の食用餌にも使える
   (一度に大量摂取は命の危険:暴走モード突入)
   暴走モード:摂取から48時間暴れ狂う

「やっちゃった♡」
「可愛いから許しちゃう♡」
「バカかお前ら」
ソプランが冷やかな目でマジツッコミ。

真面目にやろう。
「グーニャ。端っこ囓ってみるか?」
「い、今は止めて置いた方が良いと思うニャ…。美味しくなさそうニャン」
「これも緊急時ね。火力が足りない時に食べてみよっか」
「ハイニャ!良かった…」
あんまし食べたくないらしい。

「これは古代樹方面と相性良さげだな。名前からして親戚ぽいし」
「進化素材だったらいいね」

全体の5割は温存。2割を何かと合成使用で決定。後はグーニャの試食品。


16層のゴーレムから出た大量の貴金属の塊。

白金、金、銀、銅、鉄、生アルミ、チタン、セラミック。
アルミやセラミックがどうして精製済みで塊なのかはとても謎です。

「新規の車部品に使えそうだから全部シュルツに丸投げしよう。一部トーラスさんとこに流してアクセサリー依頼するのもいいかな」
「はい!色々出来そうで楽しみです。…セラミックとは何ですか?」

「通常塊としては自然界に存在しない筈の物なんだけど。特殊な砂を溶かして固めて高温窯で再度焼き上げた陶磁器みたいな物。質量はそれなり。絶縁性、耐熱性、対衝撃性に優れる。このままじゃ使えないから一度上小麦粉並みの粉に戻して最初からやり直し。タイル状にして色々試作してみるのがベストかな」
「難しそう…ですが頑張ります!」

「金属でないなら妾でも使えそうじゃな」
「グーニャが倒した分は抜いて3分の1はレイルの権利だから今の内に持ってって。金も白金もお金に困ったら売れば良いしさ」

「金に困ったらお主が居るじゃろ」
「まあそだね」
俺が死んだら子孫にせびりに来る気か。

白金や金には興味を示さず。セラミック塊を大体3分の1をその場に固め。一部を影に仕分けると。
「ふん!」
気合いの籠った一声を発した。

レイルが作ったのは、大きなバスタブ。大人5人は余裕で寝られる程の…。

「バスタブが欲しかったんだ」
「おぉ滑らかじゃあ。タイルは肌触りが気になってのぉ」
風呂好きな不死王ってのもこの世界だけかも…。

フィーネが素朴に。
「その大きさ。レイルのあの自宅に入るかな。東の旧城なら兎も角」
「あ!」
半分の大きさに縮小。
「多分これ位じゃて。帰ったら調整して入替えるから手伝うのじゃ」
「ん?私?」
「スターレンを扱き使ってええならええが?」
「わ、解ったわよ。でもスタンが一番綺麗で早いから2人でね」
「へーい」
序でに補修もしてみるか。大して時間掛からんし。

「人間工夫の存在意義が…」
「気に為さってはいけませんよ、お嬢様。夢でも見ているのでしょう。たった今」
「そうですね」


出した分は片付いた所でお昼にサンドイッチを。

テーブルとベンチとパラソルを並べての寛ぎタイム。

「風が気持ち良いねぇ」
頬を擽る穏やか涼しい潮風と柔らかな潮騒。それぞれが思い思いに身体を解した。

「後は。何が残ってるんだっけ」とフィーネが口にした。
「残ってるのは17と18層分。17はマウデリンオンリーだから良いとして18のだけか」

「うぅ~。さっさと」
フィーネが腰を浮かし掛けた所で今日は比較的静かだったソプランが。
「なぁスターレン」
「何かあった?金の塊欲しかったとか」

「ちげーよ。ちょっと欲しいが今は違う。なぁ、初代聖剣てのは人間界で最強の武器なんだよな」
「らしいね。実物見るまでは解らんけど。ソラリマ以上は強いと思う」

「お前。それ装備したまんま。東の最宮入るのか?」
「だね。だって順番待ちしなくてす…ありゃ?」

「だよな。敵のレベル。最強なんじゃねえか?」
「それは入る直前でバッグに納めれば」
「そんなんで他の順番飛ばされた奴らが納得すんのか。前に見た時、扉の真ん前でテント張ってたんだぞ。あそこで構えてんなら。中が空になったら扉が勝手に開くんだよな」
「ん~。詰り何が言いたいの?」

「お前らのスフィンスラーの話聞いてて疑問が湧いた。迷宮はどの時点で、誰の装備を、何処で認識してるんだ?」
「あー…。あっれぇ?」
問われてみれば。不明点だらけ。

「しっかりしてくれよ。こっちは命懸けなんだ。自分だってそうだろ。レイルやロイド様は兎も角。生きて帰れる保証はねえんだ。へらへら遊び感覚でやってんじゃねえ!!」
本気で怒られた。主にさっきまでの遣り取りを。
「「御免なさい!」」
素直に俺とフィーネで謝罪。

「スフィンスラーは勇者の証を手に入れる為の迷宮で。証を取ったお前が再突入したから最高設定になった。それは本当なのか。違うんじゃねえのか。俺はそうは思わねえ。
証を誰かが取り。外に持ち出されたから最高設定に切り替わったんじゃねえのか」
「有り得る…。寧ろそっちの方がしっくり来る」

ソプランがベンチに座り直して。
「じゃあ東の最宮の目的は何だ。英雄が残した本か。仮にその本だったとしよう。最下層のボスを倒し。本を手に入れたお前はそこから離脱する。で地上の扉が開く訳だ。
次に待ってた何も知らない冒険者が入るよな。スフィンスラー以上の。世界最高難度に変更された誰も見た事が無い迷宮に。次から次へと」
「行き成り離脱せずに入口から出てギルドに踏破報告をする」
「英雄の本が取れましたってな。それで、お前が敵の幹部だったらどうする?」
「疲れ切った踏破者たちを。最高戦力で叩いて本を奪う」

「俺もそう思う。グーニャ。大狼様に聞いてみてくれ。メレディスから出た奴らが、全部北に向かったのかを」
「ちょっと待つニャ」

……

緊張の一時。そして出された答えは。
「ざっくり二千の内、五百が東に向かってるらしいニャ」
2000…て。
「だってよ。中央大陸の戦力の殆どをメレディスに固めてたんだろうな。まあそれは東に行った時に考えりゃいいさ。で、話を戻す。俺の中で最大の疑問だ」
「何でしょう先生」

「せ…まあいいや。どうしてスフィンスラーで。転移した先の中間層の下の扉が開いてたんだ」
何故だ!
「解りません!」
「早ーよ!明日潜るんならそこら辺探って来てくれよ。それと地上の穴が塞がってるのが気になる。最初の入口扉の前後の状態を見てくんねえか」
「はい!しっかり確認して来ます!序でに1層の状態も」
「駄目だねぇ。迷宮の謎を解くよりも。層を突破する方ばっかり気にしてた。猛省…」

「はぁ。ロイドにも慎重に当たれって言われてたのに。格好悪い」
「明日が終わってから指摘しようかと。先にソプランさんに言われてしまいましたが」
そうなのねぇ。怒られるのも早い方が良い。

「良し!反省は帰ってから。鑑定の続きを片付けよう」


18層から出たのは。
氷蝋の新品、氷壁の欠片、氷の最上位魔石の3つ。

何れも明日行く19層で役に立つアイテム。氷魔石のストックは既に有るものの何時落下ロスするかは解らない物なのでシュルツが持参してくれた工具で加工して増産。

前回は氷蝋1つで突破出来たが次は何か対策されている。
ここで妄想を膨らませても時間の浪費以外の何物でもない故に最善手として残りの氷蝋と新品をフィーネが合成。

名前:氷蝋・朧
性能:本体周囲外気の温寒操作(吸収・放出・拡散)
   下部回転で機能切替(上下マーカーセット)
   吸収量:最終所持者の最大魔力保有値に依存
   (余剰分は破棄)
   放出開始:10秒後
   放出量:最終操作者の任意
   拡散開始:12秒後、即時室内全域解放
   温室:零度以上用
   寒室:零度未満用
   現在蓄積量:温・空 寒・空
特徴:未使用時は下部マーカーを空白位置にすること
   分別有る大人が扱うと吉。盗難注意

合成して加えた部分が蝋燭の下部となって回せる形に変化した。

マーカーを空白にすれば機能停止する簡単設計。

「機能別で使い易くなったけど」
「子供に渡すと大惨事ね。大人のうっかりミスも有るし」

「ほぉ。強化されるのではなく進化したか。面白いのぉ」
レイルが興味を持ってしまった。
「悪戯する気なら渡さないぞ」
「妾を子供扱いするなと言うに!」
それが子供っぽい。


本日最後の氷。

氷壁の欠片と謳いながら長方形の石版のような厚みの有る水色透明な綺麗な大判板。

厚みは約8cm。60✕80cm位の長方形。

持つ手は冷やか。霜焼けにならない程度の熱さ。氷のようで氷でない。これ如何に。

インテリア兼スポットクーラーみたいな使い方も出来るし。装具品付けて中盾としても使えそう。

名前:氷壁の欠片
性能:防御性能は本体厚みに比例
   高温干渉中和
   衝撃・斬撃中和
   耐熱性:摂氏2000度(非融点)
   水氷攻撃無効(浮水)
   主要属性:氷
特徴:獄炎と対比性能を誇る氷の塊
   どの様な環境でも溶ける事はないが
   高温遮断は耐熱温度域迄。残温は通過
   爆炎の斧の進化素材

「来た来た。爆炎斧の進化素材。でも配分が解らんな」
「お兄様。ロイド様。物を並べて見ても良いですか?」

是非にと妹の自主性を重んじます。

上を片付けたテーブルに2つ並べてシュルツが交互にじっくりと再鑑定。

大きくウンと頷き。
「氷板の四隅から切片を取れば間に合います。後、世界樹枝とも相性が良さそうなので輪切りを加えてみては如何でしょうか」
「全面的に採用します。失敗しても消えはせん!シュルツは氷板お願い」
「はい!」

「フィーネが合成してる間に手紙書くよ」
「手紙って?」

「レイルは不満だろうけど。ヤーチェへの依頼を中止する」
「あぁ」
「態々救ってやるのかえ」

「流石に小隊規模で500の精鋭部隊探れってのは無理が有るよ。変態でも俺らからすると善良な冒険者。東に詳しい協力者を死なせるのは惜しい。最宮に潜った経験者だったら中の様子も聞いてみたいし」
「好きにせよ。二度と妾が会うことも無いしの」

「ギルド経由で送るのか?」
「いや。手紙も奪われたら内通してるのがバレる。後で直接マスカレイドのギルドに持ち込む。て言ってる間に」
「終わっちゃった」

「レイルの了解得られたから手紙はホテルで書く。試しに暗文でも書いてみるか」
「余計な事は為ぬ方が良いぞ。彼奴らは普段は賢そうでも切り替わると途端に阿呆になる」
「そうなの?じゃ…普通に伏せ名で書こ」


合成の瞬間を見逃してしまったが。全体的に茶褐色で統一されていた物が系統違いの艶やか深緑に変わった。

元の形状は変わらず、重量が体感半分以下に。

名前:氷炎帝の戦斧・爆
性能:攻撃力10000
   氷炎属性付与:装備者の任意
   属性付与時、周辺に各属性追加攻撃
   (推定有効範囲:半径20~30m)
   属性攻撃時消費魔力:100/1撃
   魔力チャージ効率:300%
   (環境、攻撃対象から吸収。反対属性不可)
   投擲時自動帰還機能搭載(装備者判定:武具側)
   物理・魔法攻撃武具破壊無効
   氷属性極大攻撃:絶対零度(1回/1時間)
   炎属性極大攻撃:獄炎焦土(1回/1時間)
特徴:正しき心を持つ者ならば…

ロイドが手に取り一言。
「暫くお世話になりますよ。氷炎帝」
一際深い緑が輝いて見えた。

「ほぉほぉ。益々楽しみじゃ。邪魔者を手懐けたら、一戦興じてみぬか?」
「妙案ですね。私も全開性能を試してみたいので、是非お手合わせを」

「ちょっとレイル。カルも。地上でやるのは止めてよね」

「今なら空いてしまった巨大空間が有るではないですか」
「ほうじゃほうじゃ」

「あぁ、迷宮の中ね。内部が壊れても良い様に16か17層でなら良いかも。スタンはどう思う?」
「俺も良いと思うよ。俺たちは真面目にやらなきゃだけど。レイルは地上の平和な暮らしでストレス溜り捲りだろうから。ガス抜きして貰わんとこっちが困る。それに」
「ちょっと。いやかなり見てえな」
「私も観戦したいです!」
シュルツの好奇心が止まらない。
「お嬢様。それは余りに危険です。安全な場所が確保出来なければ断念を」
「はぁい…」

「まあまあ。将来的にの話だよ。じゃあホテル戻ろっか」
「お待ち下さいお兄様!」
「どうしたシュルツ。俺また何か忘れてる?」

「いえ。先程の古代樹の蔦と獄炎竜のお髭と。お姉様が持つ黒い鞭を並べて見たいのです」
「何か作れそうか。フィーネがいいなら見せたげて」
「私の鞭は危険だから触っちゃ駄目よ」
「眺めるだけですので」

広めの平場を確保して3種を並べた。

傍からレイルがシュルツを見て小さく唸った。
「誘拐すんなよ」
「為ぬわ!本人が妾の弟子を希望するなら考えてやっても良いぞ」
「それだけは無いので結構です!」
「強情な奴め」

シュルツの検分は数分続き。鞭以外を手に取ったり少し伸ばしたり。

最後に一つ頷き。
「蔦とお髭を合成すれば。お兄様と私が持つ白いロープに似た物が作れそうです。攻撃性は未知ですが。お姉様が以前から所望されていた変幻自在の物を」
「あ、それ助かる。転移する時毎回マントを貸し借りしないといけなくて面倒だったのよ」

「そこに水竜様の御鱗を少し加えれば。お姉様だけの専用装備になりますよ」
「ありがとシュルツ♡出来た妹を持って私は幸せだよぉ」
ハグをして顔をスリスリ。
「か、完成してからにして下さいお姉様。擽ったいです」
「そうね。そうよね。私ったらまた」

「それが上手く行くなら。グーニャの巨大化にも対応し得る首輪やクワンティのチョーカーの新調にも使えます」
「成程。チョーカーも大分痛んで来てるからな」
「クワッ♡」
「獄炎竜なら相性バッチリニャ」

「素材は豊富ですが詳しく長さを調べたいので続きは私の工房で。そろそろ戻らねば御爺様がご心配されますから」
「頃合いだね。今日は夕食予約してないから自宅で食べましょ」
「久々に何か作るか。レイルはどうする?」
「一々聞くまでもないじゃろ」
然様で。

「一旦解散してレイルたちは夕方迎えに行くよ。2人でロンズとエリュランテに外泊申請しといて。明日は自宅から出発する」
「了解」
「畏まりました」




---------------

ヤーチェへの手紙をマスカレイドのギルドに預け。戻った自宅で先行してラフドッグから連れて来たラメル君と献立の打ち合わせ。の前に。

「夕食考える前に。レイルが居ないとこで幾つか聞きたいんだけど大丈夫?」
「ご質問、でしょうか」

シュルツの工房に籠ったフィーネとアローマに代わり我が家に参じたミランダとプリタが。
「難しいお話でしたら私共は外しましょう」
「お茶をご用意したら出ますのでー」

「いいよいいよ。そんな深い話しないから気にしなくて。野菜類でも洗ってて」
「承知しました」
「畏まりー」

緊張気味のラメル君に向き直り。
「そう緊張せずに」
「いいえ。普通なら口も利けない身分違い。緊張するなと言う方が無理です」
「ある程度は俺の素性も聞いた訳だ。まあ国の外交官なんて一時的な物だし。それさえ無ければちょっとお金持ってる一般平民だよ」
「お辞めになるのですか?」
「本業は商人だから数年後にはね。それは置いておいて。レイルの事はどの程度知ってる?この邸内の主要な人には話してあるから気にせずに」

一瞬キッチンの2人に視線を送り、小声で。
「東大陸に居られた、吸血姫様だと」
意外だな。もうそこまで話をしたんだ。
「へぇ。そこまで知ってるならいっか。ぶっちゃけて聞くけど怖くはない?」
「それにはもう慣れました。お優しくて。楽しそうにお二人の事や行った事も無い土地のお話をして下さるので怖くは無くなりました」
気に入ったら男にも優しいのか。線引きも気紛れなんだろうなぁ。
「それは良かった。じゃあ料理人を目指す事になった切っ掛けは?」

「姉の前でも散々話をさせられたので今更隠す程ではないですが。姉が、僕の焼き菓子をとても喜んでくれたのが切っ掛けと言えば切っ掛けです。最初の頃は当然失敗したり焦して食材を無駄にしてしまったり。それがとても悔しくて。自分の生業にしたいと考えるようになりました」

「ふむふむ。とても真っ当で真っ直ぐな理由だな。じゃあズバリ聞くぞ」
「はい。何なりと」

「ラメルが刃物を怖がってる、その訳は?」
「え…。どうして、それを」
「調理を見てれば誰でも解るさ。多分お隣家の先輩さんたちも気付いてると思う」
「そう、でしたか…」

「無理に答えなくてもいい。俺には言えなくてもレイルにだけは話して置いた方がいいぞ。後々も考えて。
余計なお世話だけど料理人を目指してるなら、刃物が扱えないのは致命的だからさ」

ラメル君は少し悩み。
「…両親が。僕ら姉弟の目の前で。酔って暴れた兵士に、斬り殺された…光景が…頭から」
なんてこったい。

震えだしたラメル君の手を上から握り。
「ごめんごめん。温かいお茶飲んで落ち着いて。そこまでだとは思ってなくてさ。聞いて悪かった」

プリタがそっと運んでくれた紅茶を飲み。何とか震えは収まった。

「これでもナイフを握れる位にはなったんです。震えない程度には」

これが元世界で言うとこのPTSDだな。根が深すぎる。

「良し!質問は終わりだ。人を雇えば済む話だし。でも今度レイルには必ず相談な」
「はい。次にラフドッグでご一緒したら、必ず」

「今日のメインは俺と嫁さんでやるから見学だけでいい。ラメル君にはデザートのチーズケーキを依頼しよう」
「チーズの、ケーキ?」
砂糖やチーズはまだまだ高級品で王都内でもケーキで出している店は極僅か。

デザートに塩っぱいチーズを使う認知度はかなり低い。

「タルトの生地を作る要領で上に乗せる果物とかの代わりにクリームチーズを練り込んだ層を重ねて焼くだけの簡単デザートだ。上手く行くと表面は香ばしく中はフワトロ。
使う砂糖を控え目に。ラフドッグで最近手に入れられた蜂蜜を垂らせば」
「あぁ…。チーズの塩味で甘みが際立ち蜂蜜で更に。確かにデザートです」
キッチンの女性2人が喉を鳴らした。

「王都内の少ない店で出されてるのは固形チーズを溶かして練り込んでるから食事に寄ってる。その点塩気が少なく柔らかで発酵の浅いクリームチーズならそのまま使えて塩も砂糖も抑えられるって訳だ」
「発酵が浅いなら匂いも少なく。乳製品が苦手な方にもお勧め出来ますね。更に他の大人向けのケーキのようにブランデーを混ぜれば大人向けにも」

「解ってるじゃない。未成年なのに酒の使い方まで知ってるとは」
「僕ももう十六ですから。舐める程度には味見を。…姉には内緒で」
「おっけー。材料キッチン奥に並べとくから失敗を恐れずやってみよう。俺はちょっと嫁さんの方見に行くから」
「勉強させて頂きます」

キッチンの2人にも声を掛けるとプリタが小声で。
「離れ花壇に植えたブートストライトが急成長を遂げたので後でご一緒に」
「早い?ことも…ない事もない。後で行こう」


自宅を出てシュルツの工房に向かって歩いていると。向かい側からスプリンターソプランが走って来た。

「どったの」
「お嬢が。大変、でもないが。兎に角急げ」
大変?
「解った」


工房に入ると不思議な光景。

自分自身を幾本の蔦で巻き。身動きの取れなくなったフィーネとそれを解こうと慌てるシュルツとアローマ。

「助けてー。スタンさーん」
「何がどうしてこうなった」

「合成に成功したから試そうと思って。最初鉄の塊を持ち上げてみようかなって。巻き付けたら絞め潰れたの」
「鉄の塊が?」
簀巻きの嫁さんと冷静に話しをするおいら。

「これでは人様は巻き取れないなと」
「で自分の身体で試したらこうなったと」
「正解。そして反省中」

「自分にストイックな嫁は嫌いじゃない。なんて事を言ってる場合でもない」
「解けなくなっちゃった」

重なり合った蔦ロープをよく観察…しなくても細部に枝分かれして隣同士から奥へ奥へ絡み合い押し合い圧し合い。

「これって枝分かれしてたの?させたの?」
「標準で小さな枝が幾つも有って。効率考えて。一気に伸ばしてみようかと。何時も使ってる黒鞭みたいに華を咲かせたましたとさ」

「それは段階飛ばし過ぎだよ。最初は先端の長さ延長からだろ」
「欲張り過ぎました。だから反省中」
「まー何てお茶目さん」
「照れるわ」

「取り敢えず。先端が何処に有るか解る?」
「ん~。足元。足首辺りに出てると思う」

シュルツとアローマをソプランの後ろに下げ。

ちょろっと顔を出した先端と思われる部分を触診。
「触ってるの解るか?」
「なんか変な感じ。恥ずかしい。今のこの状況も」
「その感想ではなくて。俺の手が触れてる感触は有る?」

「あー何となく。触れられて…。白い方のロープもこんな感じなの?」
「俺たちロープに触覚は無いよ。蔦は純水な植物だからもしかしたらって。因みに俺は人様を巻く時は羽毛が舞うイメージで何時も使ってる」
「私は柔らかいお布団をイメージしています」

「今、その情報は要らなかったかな」
「いやいや一番重要だって。柔らかい物で柔らかい物を掴むのが。今みたいに。マントの時も言ったけど」

「おぉ…。イメージ力が足りない。お姉ちゃん恥ずかしくて死にそう」
「こんな自爆で死ぬんじゃない」
「頑張ってお姉様」
「クワッ」
「頑張るニャ!我が主」

「そういやロイドは?」
アローマがお答え。
「今はお隣に薬類の補充に。序でにお一人で買いたい物がお有りとかで」

「止めてー。これ以上人目を増やさないでー。心が折れちゃうよ」

「呼んでもどうしようもないから。トイレは大丈夫か?」
「トイレは平気。お腹が空いた。夕食の準備もまだなのに」

「そっちは俺がやるから。丁度今、ラメル君に蜂蜜ソースの極上チーズケーキを依頼した。早くしないとレイルに全部食われるぞ」

「なん…ですって!」
「頑張って縄抜けしよう」
「やるわ。俄然やる気出て来た!」

「その調子だ。まずはケーキ…は違うな。そうだ。フィーネが馴染み深い水海月の触手をイメージしてみよう」
「フワフワ漂う海月…伸び縮みする…触手。うん。何となく掴んだ」

「よし。先端に意識を保ったまま。ゆっくり縮めて」
「縮める…縮める…。あ、何か引っ掛かる」
「先端が枝まで来てるな。じゃあ次にその最寄りの枝に意識を移動させて順番に縮めて」
「移動…縮める」

地道でスローな作業が続き。約10分で膝下までの1割進捗。

「大丈夫そうだな。ちょっと時間押してるから。用事済ませてレイル拾って来る」
「頑張る!」


甘い香りが漂い始めたキッチンでプリタを拾い。自宅裏庭の更に南に設けられた離れ花壇に向かう。間に割と高い納屋が在るのだが…。

遠目に納屋の屋根よりも背の高い放射状のバナナの木に似た頭が見えた。

回り込んで目に飛び込んだのは鮮やかな焦茶と白の縞模様。幹は細いが背が高い。7mは越えているだろうか。

「1月半位前だっけ種渡したの」
「受け取ったのは大体それ位ですね。根張りがとても強いと聞いたので。地下のお堀作りから基礎から何やらで実質一月で種からここまでに。植えたのが一粒だけで良かったです」

「なんちゅー繁殖力。堀が無かったら後ろの菜園が喰われてたな。ナイス判断だ植物博士のプリタ君」
「それ程でも~有ります。スターレン様。上方を良くご覧下さいな」

見上げると茶色い皮のバナナに似た房が茂って小さなお尻を垂れていた。

「もう実まで…。何時頃気付いた?」
「私たちの班がラフドッグから戻った時です。出発前には見えませんでした。五日から七日でああなったのかと」

「色は違うが木の形状も葉の形もバナナの木に似てる。バナナで考えると1木1房だ。しかし根が強いなら違うかも知れない。今から収穫して下ろす。納屋から籠持って来てくれ」
「はいさー!」

ロープで木を撓らせ、房を根刮ぎ収穫。見た目よりも幹が粘り強く、ロープを外すと直立に戻った。

持って来てくれた籠にずっぽり。実は50個以上。
体感6kgは有る。見た目も茶色い小振りバナナ。
1個が凡そ100gで中の実は正味80gと言った所。

「地下蔵に空きは有る?」
「梅干し台を並べているだけなので半分以上はガラ空きです」
「これは食用バナナじゃない。後で鑑定し直すがとても殺菌作用が高くて。多分食べたら腹壊す。梅干しから離して誤って食べないように注意喚起してくれ」
「畏まりー」

「ちょっとラフドッグに飛んで来るから。後宜しく」
「お気を付けて!」


ラフドッグでレイルとメリリーを拾い直ぐ様自宅へ帰還。

「おぉ。甘い香りじゃ。ラメルが焼いておるのかえ」
「はい。先程スターレン様からご教授頂いたチーズケーキを初挑戦で。上手く出来るか解りませんが今の所順調ですよ」
「ほぉほぉ」

「チーズケーキは焼き立てで食べる物じゃないから食後のデザートだ。メインはこれから作る」

手を綺麗に洗っていざ!

と思っていたらソプランが1人で戻った。

「あれ?まだ縄抜け中?」
「まだ腹上で悪戦苦闘中。上の服破れてたから男は退散して来たよ。あめー匂いだな」
「蔦が密集してたからか。この匂いが多分ソプランでも食べられる甘塩っぱいチーズケーキだよ」
「まあ余り物でいいや。どうせそんな食わねえし」

「フィーネは何をやっとるんじゃ?」
「作った蔦を自分の身体で試して蓑虫になってた。今その縄抜け中」
「面白そうじゃの!腹を突いて遊んでやろうぞ。行くぞメリー」
「え?良いのですか?え?レイル様?」
と言いつつ何故か嬉しそうにレイルに付き添って行った。

自由だなみんな…。ここって誰の家だっけ。

よしやろう。

「ミランダ。もうフィーネ待ってる時間無いからスープの野菜を根菜から茹で始めて。最終的に豚汁にする」
「畏まりました!こちらでは久々なので腕が鳴ります」

「頑張れ。レイルは…て居ないんだった。ラメル君。レイルって牛か豚どっちが好きだっけ」
オーブンの窓から一切目を離さず。
「不格好で済みません。何方かで言うと牛ですね。スープに豚肉を使われるならば尚。好みで言えば鶏肉だそうですが」

「今から作るのはハンバーグで鶏肉はちょっと合わない」
「おーそれは見たい。見たいですが…後少し。若干上を盛り過ぎたようです」
「焦らない焦らない。挽肉作りからだからまだまだ」


色々有っても間に合い。
「ましたー」
「準備終わった。後は焼くだけ」
「無念…」

チーズケーキは粗熱も取れて冷蔵庫でお休み中。

「今日はロロシュさんが来られないから適当に食べて。パンはお隣からの貰い物。ケーキ有るから程々に。
お肉は2種類、ではなく向かって左がラメル君。右は俺が焼いた物。
さあどうだ!」

なぜ…だ。
同じ素材。俺が捏ねた物。同じ鉄フライパンを使い、スタートも同じタイミング。仕上がり時間が微妙にズレた。
違いはそこだけ。…でどうしてここまで味に違いが生まれるんだ。

「左…かな。ごめんスタン。嘘は吐けない」
「左じゃな」
「左、ですね」
「左だな」…等々。

ラメル君は返答に困っていたが。以外の人は全員左を選んだ。俺もペッツたちも含めて。

「俺が教えられる事は、もう…何も」
「そんな事は有りません!食材やメニューに関しての知識は遙か高みに」
「それは気休め、と言うのだよラメル君。そんな物は経験を積めば誰でも身に付く。焼きに関しては恐らく世界屈指の逸材。スキルや魔力を使ってる風でもない。
いったい君にはどう見えてるんだ」

「自分でもどう表現したら良いのか…。火が出ない魔石コンロでも。オーブンでも。実際に火を焚く蒔き釜でも。
何時頃からかは定かではないですが。熱の筋、と言いますか赤だったり青だったり白だったり。線や斑点が食材や調理器具に重なるように見えるんです」

「熱の、筋。…駄目だ全然解らん。鑑定眼とは違うよな」
「鑑定眼がどんな物かは存じませんが。見えるのは温度変化だけです」
赤外線センサーみたいな物かな。
「青だったら生焼けか焼き過ぎ。白だと最適。中心が赤のままでも火から下ろすタイミングだったり。お皿に盛り付けて運ばれるまでの時間を計算したり。調理中で同じ鉄鍋で焼いていても位置をズラして温度変化を作ったり。と方法は色々です」

「へぇ、いいなぁ。その新しい眼力」
欲しい。主に明日!
「因みに人や動物や家具とか建物は?」
「意識しなければ特に何も。集中して数秒見詰め続けると見えたりします。でもそれをやり出すと色がグチャグチャになって気持ち悪いです。一度試した事が有って熱が出て数日寝込んだ事も」
「あぁ…。確かにそんな事が有ったような。あれは風邪ではなかったの?」
メリリーが思い返して。

「僕にも解らない。実際喉も痛くて風邪に効く薬草も効果有ったと思うから風邪かな。体調が悪くなったのは間違い無い。あれは仮病じゃないよ、姉さん」
「ごめん…。あれは忘れてよ」
姉弟間で何かが有ったようだ。良く有る光景。

「まあ知恵熱からホントに崩れたのかもな。さーて、お待ち兼ねのデザート出しますか」
「酒も飲まずに待っておったのじゃ。早うせい」
揺らぎ無い催促。寧ろ清々しい。

下げられる皿を流しに下げ。いよいよケーキの登場。

甘いミルクと蜂蜜の香り。
「僕が切り分けます。肉や魚ではないのでお任せを」
「任せた」

人数分の小皿を準備してラメル君がカッティング。

最初はレイルから食べ始め。
「んん!?」
全員同様な反応。

下地の固い層。その上のフワフワ層。そのまた上のフワトロ層。一番上の蜂蜜が浸透したプルプル層。

複雑な食感だが喧嘩は一切していない。焼きの香ばしさも加わって仄かな塩加減が諄さを見事に打ち消していた。
「美味じゃのぉ♡」

「正直驚いた。これで初回とは絶対思えない」
「光栄です」

「美味え。これなら行ける」
ミルキーが苦手なソプランも称賛。

「近場でお店開いてくれたら通っちゃうわ」
蕩けてしまったフィーネの隣のシュルツも。
「太りそう…。でも運動します!」

そんな中。食べ終わったプリタが神妙な面持ちで。
「スターレン様」
「何何?プリタ君」
「蔵のあれがどうしても気になって。収穫して暫くしたあの甘い香りは絶対食べられると思うんです」
「あれって?」
「裏の離れ花壇に植えて育ったブートストライトの果実。見た目がまんま完熟バナナでさ。でも甘い匂いに騙されて人体には毒って事も有るから。ま、鑑定してみよっか」
「お願いします。気になって眠れません」
そんなに?青いバナナも下ろしてから暗所で暫く熟成させると甘くなるけど。

他の人も気になったのかその場を動かない。

「解ったって。念の為シュルツも一緒に見てみて」
「はい!」

プリタと嫁とシュルツとで地下蔵へ降りて隅に置かれた籠を覗き込んだ。

確かに収穫し立ての青臭さが消えて独特な甘い香りを漂わせ。皮の色味も黒さが増した。

「黒っぽいバナナだね」
「だろ」

1本外して鑑定作業。

名前:ブートストライトの果実・完熟
効能:収穫から梅の実の近場に置くと約2時間で完熟
   完熟後1週間以内は食用可
   安息効果、安眠効果、不眠改善、抗酸化作用、
   喘息、呼吸器系障害、味覚障害、難聴、近視等の
   外殻接器官部の疾病改善が期待出来る
   1日1本を強く推奨(過食時、強い解熱作用有)

   それを過ぎると酷い下痢を引き起こす
   重度の脱水症状を併発し、生物なら数日不動

   果肉から果糖を抽出し精製すると強力な殺菌剤、
   殺虫成分を取り出せる
   抽出までの時期不問。房が形成されれば
   取り出しは可能(但し腐敗物は唯々臭いだけ)
特徴:食べて良し使って良し。食べ過ぎ注意
   全ての効能は初回の房限定!
   以降の房は畑の肥やしにしか使えない
   種抜き推奨。難消化で野焼き程度の火にも強い

「梅の実との相性が有ったとは!」
「何て偶然」
「完熟の今なら食べられますね」
「やったー♡私ちょっとだけ不眠症で…」
「それでプリタは匂いに誘われたのかもな」

上に運んで皆にご説明。

「試食してみたい方、挙手!」
ペッツ含め全員。
「もしかしたらレイルには合わないかもよ」
「安心せい。妾は不死身じゃ」
さては美容成分に釣られたな。

各員に1本ずつ配布。

バナナのように皮を剥いてモグモグ…。

「あっまい」
しつこく無い完熟バナナに西洋梨を掛け合わせたような程良い酸味と甘み。チーズケーキを食べた後だと更に。

鼻に抜ける爽やかな香り。内陸が原産地とは思えない極上フルーツだった。

種は1粒だけ中央縦長に配置されていて誤飲する事も無さそう。

「種も貴重品で消化も出来ないんで。恥ずかしがらず皿に吐き出して置いて下さい」

総員の反応も良好で誰も異常を訴える人は居ない。

「次に誰かに提供する時は種を外そうか」
「それがいいわね」

「ではプリタ君。最近植物系の素材も集め出したからあの木は明日の朝に根刮ぎ抜いてみる。今食べた全員、明日迄に異常が出なかったらロロシュさんに試食して貰って本格的な栽培許可を頂いて」
「わっかりました!抜いてしまわれるなら後一本あの場で植えて育つかどうかと。芽が出たら隣で梅干しを干してみて成長期間が短縮されるか実験してみます!」
「完璧なプランだプリタ植物研究員」
「ふぁい!」

ガッチリそっと握手。

「上手く行ったらハイネの彼氏君と協力して林檎の果樹園と梅の木との間の土地で検討を進めてくれ給え」
「感銘の極み!承知であります!」
「エガー君の大出世は間違い無い。絶対に逃すんじゃないぞ」
「全身全霊で臨みます!」

2人だけガハハと大笑い。変なテンションのまま夕食会を解散した。




---------------

メリリーとラメル姉弟は邸内宿舎のラメル君私室へ退場。

シュルツとソプラン、アローマに残って貰い。

「では。自分で自分に辱めを強いてしまったフィーネさん」
「はい…」

「使えそう?それとも2本目の鞭になる?」
「もう少しだけ訓練の時間が欲しいです。今日で感覚はかなり掴めたから」

「じゃあ待ちましょう。触手のイメージだと攻撃性が高まりそうだから…。毛糸の編み物とか罫描き棒で操るイメージなんてどうかな」

「そうよね。咄嗟の時に絞め殺してしまったら謝るに謝れないもん。編み物ねぇ…。うんかなり良いと思う」

「クワンとグーニャの装飾品は出来てる?」
「はい。クワンティの分は手作業改修なので半日チョーカーを借りたいです。グーニャの分は直ぐにでもお渡し出来ますが…。お姉様のプライドがズタズタになってしまいますので修練を積んでからの方が良いかと」
「図星だわ…。シュルツが大人になって行く…」
褒めてるんだか。

「ふむ。クワンのチョーカーは明日の探索が終わってからにして。フィーネの最終試験は…そうだな。ロープ着用無しの海パン姿の俺を上手く掴めるかどうかにするか」
「え…」

「俺以外に最適な実験台は居ないだろ」
アローマが挙手。
「実験台なら私が」
「それじゃ普通に緩く巻くから意味が無い。厳しくキツめに柔らかく。それ位出来ないと人は運べない。誰かに俺を空高くから落として貰って着地寸前でキャッチ出来るかどうかも試す」

「ちょっと…。そこまでしないと駄目なの?」
「自信が無いなら蔦は鞭にして諦めよう。大丈夫だって。
幅広のマントは使えてるんだし。ちょっと細くなっただけじゃん。それにぶっつけ本番でやれって言ってるんじゃなくて。丸太とか藁人形とか案山子とか。練習は何だって出来るさ。期限は区切ってないんだし。明日の19層でも使えるかもよ」
「そう…だけどさ。責めて落下防止の腕輪着けるとか」

「着けません。俺の命をフィーネに預ける。他にも予告無しの項目も用意する」

ロープ無しのバンジーか。我ながら恐ろしい。

「もう。それで皆の前で話したのね。私が逃げない様に」
「そう。2人切りだと喧嘩になるし。これを乗り切って貰わないと蔦は安全じゃ無い、て判断する」

「解ったわよ。練習する。出来るだけ早く。ダラダラやっても意味無いから今月末迄で区切るわ」
「良かった。喧嘩にならなくて」

大体2週間。時間は有るさ。ちょっと眠くなって来た。

「さっきのブートバナナが利いて来たみたいだな。俺は朝風呂にしてもう寝るわ。後はみんな適当に」
シュルツもちょっと眠そう。
「私もです。今夜はこちらにと思っていましたが。自室で寝ます。誰かにお風呂の番を頼んで…」
「私共も退散します。お嬢様をお送りして」
「だな。今後、そう言う状況も零じゃねえし。気張らずに頑張れよ」
「はーい」

「軟弱じゃのぉ。フィーネは風呂じゃぞ。妾の背を流す者が居らん」
「はいはい毎度毎度。カルも付き合って。私もちょっと寝落ちしそう」
「仕方有りませんね」



風呂から上がり同じ布団に潜り込んで来た愛する嫁さんは普段に増して顔が赤かった。
「卑怯者のスタンさん」
「ん?何かな正直者のフィーネさん」

「冗談よ。簡単に命を投げ出す事言われてムカッとはしたけど。みんなに言われた事も一理有るなって」
「ソプランに図星突かれたからなぁ。場を和ませる積もりの冗談が。何時の間にか緩んでた。まだまだ先は長いのに何やってんだろ。格好悪いやら情けないやら」

「ホントだね。…ねえスタン」
「はいはい」
「昔の願望が甦ってない?」
「消滅願望?」

「それ」
「無い無い。女神様と水竜様に誓って。出会ってからずっとフィーネを信じてるから」

「安心した」
と頬に優しくキスをくれた。
「正直に言うと初日の夜は怖かった」
「行き成り首締めちゃったもんね。今更だけどゴメン」

「それも有ったけど。死ぬのが怖いと考えてる自分に驚いてた。やっとここまで来たのに。もうタイラントは目の前なのに。どうしてマッハリアを越えられないんだ。
また振り出しからなんて絶対に嫌だ。まだ終わりたくない死にたくない。死ぬのが怖いって思うと同時に。
なんでこんな事考えてるのか。理解してない自分も居た」
「隣に居た私としては複雑です。何と言って良いやら」

「でも翌朝。スリープから目覚めて。スッキリしてた。
あぁ、俺って生きたかったんだ。て理解出来た。
いや違うか。
そう言う自分もまだ居たんだって納得したんだ」
「難しい人ですねぇ」

「起きたら天国だったりしてと思いつつ。隣には昨日のままの美女が居て。夢じゃなかったと」
「照れますなぁ」
「いやでも待てよ。なんでこの人金取って逃げてないんだろう。アホの子なのか、正直者なのか。
だからロイドは危険じゃないって言ったのかぁ。
この人なら信用(利用)出来る。よっしゃ雇ったろう!
と言う心境でした」

「ちょっと所々に聞き捨てならない言葉が有りましたが。寛大な心で流してあげましょう」
「痛み入ります」

「あの日みたいに背中合わせで寝てみよっか」
「大変良いですね。…スリープは嫌だよ?」
「しませんわ。明日も朝から仕事なんでしょ」

休暇中なのに仕事とかこれ如何に。
夫婦円満、初心忘れず!




---------------

ブートバナナの効果も手伝ってか、目覚めの良い絶好調な朝。

アローマ経由でプリタを呼び立て朝風呂前に庭掘りを。

プリタだけかと思っていたらワラワラと。昨夕の参加者全員が集まってしまった。
「引っこ抜くだけだよ?」
最初にソプランが。
「何て言うか寝覚めが良すぎてよ。暇だし、ブートバナナの木がどんな物かってな」
シュルツも皆も同様に興味津々。
「これも学びの一環です!」

レイルはややご機嫌斜め。
「お主の準備が整わねば出発せぬのじゃろが」
だから早朝を…。
「ま、サクッと」
「ズボッと!」
朝からプリタが元気だ。良く眠れたらしい。

納屋南の独立花壇まで移動。

ブートバナナの木は昨日の収穫時よりも更に上に50cm程。幹の部分も一回り太く成長していた。

「木本体はもっと伸びるみたいだな」
「高さが変わったのは昨夜からの夜間。実りの前後は成長は止まっていました。房に行く栄養が成長を促したんだと思われますです!」
テンションはちょっと変。
「成程成程。次の木が促進出来たら収穫後に何処まで伸びるか数日様子を見てくれ」
「合点承知」

「しっかし夜明かりだけでも成長するとはなぁ」
「物凄い生命力と活力を感じますね。昼夜の温度差と湿度変化も記録します」
「宜しく頼んだ」
何も指示しなくてもプリタは完璧に仕事をしてくれる。知らぬ間にこんな人材を発掘していたなんて。

ロープを上方に巻き付け昨日と同様に下手前に引っ張ってみると。抵抗感も反発力も上昇していた。

撓る撓る。ギシギシと音を立てて縞模様も伸び縮み。

外してみると数回首を振り直立に戻った。ざっと反対側に倒れる度に移動量は半減。

「反発まで抑えられて。根元の地面も割れてない。生木自体が吸収して外皮で拡散してる感じだな」
「ふむふむ」
プリタが見比べて手元のノートに書き書き。

「生木でこれなら芯を乾燥させて建物の基礎や建材。シュルツに依頼した例の案件にも使えるかも知れない。休暇明けにポムさんのとこに持ち込んで調べてみよう。
シュルツとプリタも予定に入れといて」
「「はい!」」

「んじゃ行くぜ!」

木の中段を広めに巻き、上へと押し上げてみると下段部が少し伸び。順番に根元まで伝播。

波が根元まで到達すると地面がごっそり持ち上がった。

「おぉ~」全員等しく。

根張り具合は広めに設置されたお堀の間際まで。

「強い…。繁殖力が半端無い」
「はぁ…。道理で水を与えなくても勝手に育つ訳だ」
「全く?」
「全くではないですが。ガラナの木と同量のペースでしか与えてません。肥料もそこそこに」

「全く以て不可解だ。油断すると直ぐに他が食い潰される」
「種の間隔と収穫後の回収も要注意と…」

根は太い毛管が走り、広がる細網は然程でもないが土を抱え込まんとするド根性は立派。

「よしフィーネさん。早速練習だ。根を切らずに土だけ綺麗に落とせるか」
「やってみる。朝食作ろうと思ってたけど練習の方が今は大事だもんね。ごめんだけどアローマとミランダで朝食の準備お願い。メニューはお任せで」
「「畏まりました」」

「ラメル君は見学だけでいいぞ。料理は俺たちの趣味の一つでもあるから。これ以上、上を行かれるとショックがデカい」
「そうそう」
「先に言われてしまいました。姉と二人で家庭料理の勉強をさせて頂きます」
「対面キッチンだと見易くて良いですよね」

「わ、私たちの方に過大なプレッシャーが…」
「頑張りましょう。普段通りに」

「さーてやりますかぁ。プリタは少しだけ距離取って」
「はい!」

巻き巻き束の蔦ロープをバッグから取り出して。フィーネのコチョコチョ作業が始まった。
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