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第162話 各地確認業務
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色々とお買い物をしながら予定していた行事を熟した5日間。
ラザーリアの実家方面では大きな出来事は無く。粛々と来年2月の即位&生誕&婚礼式典の準備が進められていた。
重ね過ぎだろ、と思ったが経費削減の一環だと言われれば文句の付け様が無い。
神経質なサンが溜息を何度も吐き、ハルジエが慰める構図が確立していた。
「ハルジエは帰国した?」
「いいえ。念には念をと控えて居ります」
慎重派だな。勿論良い意味で。
「明後日に帝都へ伺うけど。一緒に行く?」
「それは是非とも!」
「じゃあスタルフに連絡と配下の護衛集めといて」
「はい。サンもお休みさせないと壊れてしまいそうで」
「お言葉に甘えます…」
胃薬を1週間分渡して。
「考え過ぎるのが悪い癖だぞ。今からそんなんじゃ持たないって」
「悪い病気に成っちゃうよ」
皆で慰めてみたが根本は変えられない。どうにか乗り切って欲しい所。
蛇肉のあっさりスープも鍋毎プレゼントしてみた。
「他の野菜も入れて煮込み直して皆で食べな。多少は気分が晴れると思うから」
「美味しそうな香り…。頑張れそうです」
「頑張らなくていいってば」
駄目だこりゃ。
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アッテンハイムの首都ではちょっとしたサプライズが待っていた。仁王立ちで、何時もの部屋の前に。
「やい!お前がスターレンだな」
見た事無い小っちゃい子が頑張って虚勢を張っていた。
「違う。誰だスターレンって」
「なんだ違うのか。だったら専用の来客室で何をやっているんだ」
「部屋の掃除だ」
「そうだったのか。掃除の使用人だったか。それは悪かったな。おっかしいなぁ、姉上はどうして怒ったんだ…」
怒られたんだ。
少年は首を捻りながら帰って行った。
対応を済ませて室内に戻ると皆が口を押さえ、笑いを堪えていた。
「あー苦しかった。よく咄嗟に嘘が吐けるわね」
「服装からして弟君かなって。お供が居なかったから内緒で来たんだろうと」
「どうせあの位のガキは面倒臭え事しか言わねえもんな」
「それな。客だと知ってて挑戦的な態度を取った罰だ」
もし違っても大した影響は無い。
でもやっぱ正解だったようで。暫く歓待部屋で寛いでいるとペリーニャと修女が走って来た。
珍しく息を切らせて。
「ハァ…ハァ…。今、いえさっき。弟がこちらに、来ませんでしたか」
「あぁ来た来た。それっぽいのが。何君だっけ」
「先代教皇の名からグラハムと。何か失礼を」
「特に。お前がスターレンかって。違うよって教えたら信じてどっか行った」
「あの子ったらもう。まだ早いと何度言っても理解してくれなくて。申し訳ありませ…」
席に座り、水を飲もうとした所でロイドと目が合った。
「何故…ロイド様が平然とそこに居らっしゃるのですか?」
背後に控える修女2人もロイドを見て驚いていた。
この反応、ペリーニャの母親と似ていると言うのは本当らしい。
「この度、晴れて合流したのですよ」
降臨とは言えないよな。
ロイドの隣に座り直し手を握り合った。
「二度と、お会い出来ないと思っていました」
「今後は大概スターレンの自宅の居候です。これからは何時でも会えますね。所でグラハム君は何用でこちらに?」
「あ、あぁそうでした。最近外出や外泊が多くなった私を見て自分も遊びに出たいと言い出しまして。スマホでシュルツ様とお喋りしているのを偶々聞かれてしまい…」
「グラハム君は今幾つ?」
「今年暮れに六歳です」
「五歳は無理だな。年齢よりは賢そうだけど。勝手に出歩いて簡単な嘘を信じるようじゃ」
「ですからまだ早いと」
なるほろ。でも前にもっと小さい話を聞いたような…。
自分の経過時間を入れなかったとか?
連れて行くと、王都やラフドッグで迷子になられて俺たちが探し回る光景が目に浮かぶ。
フラグメンツは叩き折る主義です。
修女の1人に廊下を見張らせて打ち合わせ。
「国内に目立った動きは有りません。偶然か、スターレン様たちがクワンジアを撤収直後に西部に滞在していた二つの行商隊が戻ったと言う情報が上がった程度です」
敵だったとしても西か北に流れたか。北っぽいな。
「何れにしろ今更何も出来ないさ」
話題を変え、行程表を渡し。
「ペリーニャの組は真ん中の週で最大5日設定。シュルツと合わせてるから全部使うかは任せる」
「半月以上先ですので問題有りません。折角なので全部使用させて頂きます。王女様のお二人は」
「前半の2日は被ってるから会食やお喋りは出来ると思うよ」
「前半は譲れませんね」
さらっと1週目はロロシュ邸カメノス邸の関係者ご招待。
2週目はアッテンハイム組とその他。
3週目はご新規様やタツリケ隊の関係者で分けた。
連れて行くのみで後はほぼ自由解散の予定。
新店ホテルのエリュロンズの説明をして
「部屋数は確保してるからペリーニャの護衛隊の人選は任せる。20人までは余裕」
クワンジアからハイネのタツリケ隊と同じ区域に引っ越しが完了したハイマン一家を加え。前半部の自宅邸内周辺警備をタツリケ隊に依頼済み。後半部は戻ったメメット隊メンバーに引き継ぐ。
新規組でクワンジアの港方面の出身者に一度ラフドッグを見て貰って移住先を確定させるプランを組んでいる。メインの案内役はソプランとアローマが担当。
ぶち抜きでホテルに滞在するのはレイルとメリリー。レイルが出掛ける間はソプランの組に合流する流れ。
特殊イベントはバインカレ婆ちゃんにライラが曾孫を見せるのと、見事成立したクラリアがポレイスを連れて交際宣言をしに行く。口喧嘩にならないよう健闘を祈る。
俺たちは迷宮探索と造船技術のお勉強がメイン。
お勉強は好奇心の塊なシュルツが興味津々なので滞在期間中に合わせる。
「行程表。グラハム君に見られるなよ」
「当然です。最近私の入浴中に突入しようとしたり。就寝中にバッグに触れ様としたり。困ったもので、将来がとても不安です」
やるなグラハム。思わず笑ってしまった。
「笑い事では有りませんよ。ホントにもう」
「ごめんごめん。男はグラハム君に絡まれる前に帰るよ。予定の件はグリエル様に伝えるようにな」
「父はグラハムに激甘ですので。直前まで詳細は伝えません。最悪無許可でゼノン隊を連れてラフドッグに飛んで行きます」
そうなっちゃいそう…。
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ハルジエの一団をラザーリアで拾い、訪ねた帝都。帝都内が所々、宮廷周囲が特に荒れ気味な様相。
「少々…じゃないなこれ」
「うわぁ、外壁がボロボロ…」
「確かにこの様子では帰って来るなと言われる訳です」
皇帝宮に直行で通されアストラ皇帝と接見。
痛々しい満身創痍な包帯姿で玉座に座った。
「大丈夫、ではなさそうですね」
「ハルジエの同行には感謝する。怪我は大事ではない。実際折れたのは左腕のみ。後は掠り傷。
説明する迄も無いが帝都は見ての通りの有様だ。貴公の予想通りに中央塔地下の宝物庫が重点的に狙われた。
貴公らが居ないのを良い事に、遠距離系の魔道具の嵐が飛来した。何とか防ぎ、敵組織と手引き者は殲滅してやったがな。それが先月末頃。以降はピタリと止んだ」
「被害状況は」
「建物の倒壊と兵が三百の死傷者。一方で狙われた帰還者数名が軽傷。エンバミルが足を砕いて療養中だな」
新作の傷薬と回復剤をご提供。
「これは助かる。兵の損傷が激しくてな」
区切りでハルジエが。
「帰還者。御姉様方とは会えますでしょうか」
「問題無い。今は仮で新設した白銀宮で怪我人を一手に集めている。後で向かってくれ。してスターレン殿。
襲撃が止んだ原因に心当たりは」
「有りますね」
教団組織が帝都を諦め、欲した道具は自作した模様。損失を見切り総員でメレディスから北に向かったようだと。
「成程、それでか。得心した」
「クワンジアでもメレディスの隠者が多数。大会内外で襲って来ました。途中で本国と分離してしまった様子で。半ば自棄での行動だと」
「メレディスか。野放しにするとは忌々しい!」
痛めている左手で肘掛けを叩いた。
「いっ!たくはない!そうと解れば今度はこちらから打って出る」
「戦争を仕掛けると?」
「それはモンターニュの出方次第だ。国内部の立て直しと残党の掃気にも時を要するしな。西部国境を封鎖し、通告状を送るに留める。今の所はな」
案外冷静みたいで安心した。
「懸命な判断です。エンバミル氏の意見もご参考に」
「うむ」
接見後にハルジエと一緒にお見舞いを。
白銀宮は以前泊まっていた建物の隣で傷病患者を受け入れる病棟と化していた。
一般兵、中級職、上級職に区分けされ、向かうは玄関から最奥の上級職が集まる部屋。
簡単な帰還者たちとの挨拶に留め、ハルジエが挨拶回りを終えるのを廊下で待ち惚け。
各所から呻き声が聞こえ冗談を言い合える雰囲気ではなかった。
「戦争になっちゃうのかな」
「さあ。モンターニュが噂通りの腰抜けなら何も起こらないと思う。メレディス内の組織が綺麗に捌けた前提で」
「止め様が無いね」
「エンバミル氏が生きてるのが救いかな」
これ以上加担する理由も無い。
軍国の意地と誇りの話だ。
結局町中でも食糧品を取り止め、買い物はお茶っ葉だけに控えた。
ハルジエはかなり名残惜しそうにしていたが、やがて決意を固め。
「私が残っても出来る事は有りません。来年には平定されていると信じてラザーリアへ帰ります」
帰る、と言ってくれた事は嬉しい台詞。表情が固くなければ尚良かった。
「だな」
戻りは宮内の広間から転移した。
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南東のローレライ方面は順調。然り気無く各所の統廃合が進められていた。
維持費も馬鹿にならないそうで。
各地での活躍も伝わっていて簡素な報告会で済ませた。
久し振りにマタドルとメイズに挨拶し、納豆や米類を買って帰宅。
やはり問題が有ったのは南西。サンタギーナのサダハんのご立腹。
ニーナが居る島に説得部隊を何度も送り込んでいるんだそうな。
「親子でも余りひつこいと嫌われますよ」
「既に嫌われているでしょうけど」
「喧しいわ!元はと言えばお前たちが」
「御自分の失態を俺たちに押し付ける?」
「ヘルメン陛下にご報告しないと」
「止めてくれ。い、今のは私情で公式ではない」
「本人が王位継承を放棄したんですから。元々居た他の候補者を繰り上げるだけでは?」
「正式に発布される前の離脱なら誰の迷惑にもなっていない気がするのですが?」
「会いたいのだ…」
「「ん?」」
「ニーナに会いたいのだ!」
玉座に座る駄々っ子の姿。隣のイプシス様も他3人も。
玉座の間に集まる下々の者たちが唖然呆然とする言葉を高らかに言い放った。
「親、馬鹿?」
「余に向かって馬鹿とは何だ!」
「失礼。思わず口が滑ってしまって。訂正します。子煩悩なのは痛く理解しました。が、成人を過ぎた娘を溺愛されるのは流石に行き過ぎでは?」
「愛される割には危険な迷宮に突撃させたり、お止めにならなかったり。今更では?」
俺たちのではでは口撃に身悶えるサダハん。キモい。
「今更気付いたのだから仕方有るまい」
遂に開き直った。
「素直になられるのは大変結構。ならば尚のこと御自分の足で向かい、御自分の口からお気持ちを話されれば良いかと進言致します」
「正式な査察団を編成して指揮を執れば宜しいかと。往復で1週間前後の距離ですし。遠く離れたタイラントに赴く訳でもないのですから」
「…船が、沈没したらどうしてくれる」
「「へ?」」俺たち。
「は?」イプシス様。
今、何て言った?聞き間違いじゃなければ沈没?
「沈没?確かに可能性は零では有りませんが。それは自国の造船工夫たちの腕や心意気を汲んで、堂々と安全性を謳うべき所ではないかと愚考します」
「ふ…」
「ふ?」
「船酔いが激しいのだ!」
「……」
場に居る全員が言葉を失った。この様子だと誰も知らなかった模様。
「そ…こは努力で何とか」
「他に比べ穏やかな海。船内で横になって寝ていれば慣れて来ると」
「吐くのは嫌だ」
遂には泣き出した。絶望的だな。
「従者を町で待たせて居ります故。帰っても宜しいでしょうか?」
イプシス様が見かねて手を挙げた。
「お待ちを。正直私も娘に会いたい気持ちは有ります。私たちを含めた査察団を転移で島まで運んでは貰えますまいか」
どうすっかな。
「少し隣の妻と相談させて頂いても」
「どうぞ」
誰も居ない壁際に寄って密談。
「どうしたらいいっすかね、これ」
「会いたいって気持ちは解ったし。悪い話ではないわ。和平じゃないけど何か保証が欲しいね」
「おーけー」
再度元の位置で跪き。
「承知しました。護衛を含めて50名迄ならお運びします。それを踏まえ、隣接する島々の自治区許可と粛正の意図は無しと銘打った正式文書を発行。公表して頂きたい」
「他国の民事介入に当たります故。私共の署名は控えますが。公表が為されなければこのお話は聞かなかった事にさせて頂きます」
「解りました。直ぐに取り掛かりましょう」
「な、何を勝手に」
「嫌なら付いて来なくて宜しいのですよ。団を組まず、私個人として赴くなら手続きは不要。国王である貴方も行くなら必要。それだけの事です」
「くっ…」
「一国の主が他国の高官を前に。しかもこの玉の間に配下の者たちが居る前で。巣立った娘に会いたいと涙を見せてしまうとは何事ですか。真に恥ずべき行為。
ここで認めなければ王としての器が問われ揺るぎます。
弾劾されたいのですか。国政への反乱を起こさせたいのですか。王足る威厳を示し為さい」
サダハんがサンドバック。今まで溜め込んで来た物を一気に大放出されていた。
「済まん…」
「多くの面前です。夫婦喧嘩はその辺りで。此度の件はヘルメン陛下には内密に致します。どの程度の時が必要でしょうか」
「二日も有れば」
「では明後日の同じ時間に参ります。姫様や島には事前に予告して置きます」
「頼みましたよ」
「「はい」」
もうイプシス様が女王様でいいんじゃね?
シャインジーネでお買い物中だった4人とペットたちと合流し、お昼を適当に食べて島に立ち寄った。
島内には立派な建物が増え、家畜の豚や鶏が育っていた。
そこには作業着のニーナやサドバドが居て…。あんまし会いたくなかった人まで。
「スターレン様~♡」
モメットに犬ダッシュ&強烈なタックルで押し倒された。
「止めろ!」
「離れなさい。ちょっとお話だけって約束だったでしょ」
「いや~。折角お会い出来のに!もうちょっとこの温もりを感じさせてぇ」
「間近に見ると強烈じゃのぉ」
「ええ全く」
「退け!離せって!この馬鹿力。俺たちはニーナに会いに来ただけだ」
「いけずぅ。私に会いに来たって言って下さいまし」
「居ると解ってたら来なかった」
「ひーどーいぃー」
状況に戸惑うニーナが。
「私にお話とは」
「本気で怒るぞ、モメット」
「はーい…」
島長宅で淹れ立ての紅茶を頂きながら。
「初めては左がレイル。右がロイド。2人は買い物に付いて来ただけだから気にするな」
「何も無い島と言うのも乙な物じゃな」
「お見知り置きを」
「はあ」
サドバドは2人の見慣れぬ美人度に顔を赤くしていた。隣のニーナが彼の太腿を抓って正した。
玉座でサダハんがニーナに会いたくて泣いちゃった事件を話して。2日後に視察団。最低でもイプシス様が来訪する事を伝えた。
「王が人前で泣いた…?」
俄には信じ難い。そんな顔。
「玉座の間でだよ。詳しくはイプシス様に聞いてみて」
「お昼時に転移で連れて来る予定。迷惑だったら時間変更するよ」
「母にはお会いしたいので大丈夫です。ちゃんと近隣と連携して健全に自活出来ている所を見て貰います」
「それがいいよ。大分物資も届いてるみたいだし」
モメットが照れてナヨナヨ。
「もっと褒めて。私たちの物資だけじゃなく。国の偵察船に上陸の交換条件で持って来させましたから」
ふむふむ。それは賢い選択だ。
「褒めんがな」
区切りに割って入ったサドバドが。
「スターレン様。島内を見て何か御助言は有りませんか」
「そうだなぁ。小さいなりに鶏が増えてるみたいだから。小屋を雌鶏だけの物を造って食用の無精卵を取れるようにするといいかも。放し飼いで取れる卵って偶に中がアレじゃない?」
「アレですね…。勉強に成ります」
「後は小川の北側に分流して岩を詰めた溜め池を作ると運が良ければ魚が増やせる。羽虫も増えちゃうけどね」
「ほほぉ。良いですね、やってみます」
「海辺に堀を作って海魚を釣り易くするのもいいな。調子に乗って大きくすると魚が生息場所変えるから程々に」
「成程ぉ」
乗せ上手だな。
「素潜りが得意な人が居るなら。深い岩場で牡蠣や鮑や海胆獲るのもいいね」
フィーネが即座に反応。
「鮑!獲ってないなら大きいのが居そうね」
「牡蠣と海胆は兎も角。アワビ、とは何ですか?」
「あれ?知らない?牡蠣に似て岩に張り付いて剥がすとウネウネしてる平ぺったい貝類」
「さあ。存じませんね。ニーナは知ってる?」
「私も。初耳です」
これは居たら大漁確定。フィーネと目を合わせて。
「ちょっと実演してみようかしら」
泳ぎが得意な島民を連れて浜辺に大移動。フィーネが薄着に着替えマスクを装着。
陸地から双眼鏡でポイントを選定。島の真西辺りが一番多く獲り易い場所だった。
「居た居た。牡蠣は居ないけど栄螺は居るわね」
「ちょい下にウツボも居るから注意な」
「はーい。序でに獲っちゃいます!」
ナイフを腰に銛を片手に海に飛び込んだ。
潜ってる間に上から見える位置に居た鮑をロープで剥がした。掌サイズの大きな鮑だ。
「これが鮑です。良く似た小さい物は稚貝かトコブシと呼ばれる仲間です」
掲げて本体側を見せると歓声が上がった。
「それが美味しいのかえ?」
「真ん中の吸盤がコリコリして美味しいんだよ。外周の紐には砂が溜り易いんで軽く水洗い。苦いのが苦手なら間に在る肝は外して豚君の餌や飼料にでも」
即席で焼き台を組み、焼き網をセット。
「生食では食べない物で。焼かないと殻が外れません。基本的に栄螺と同じで網焼きがお勧めです」
香ばしい音と匂いが漂い、ウネウネと藻掻く鮑君。こんな拷問してごめんな。
「食感と薄い磯味が特徴で。物足りなければ食塩を少々。手に入るならバター。モメットにタイラントで製造してる醤油を取り寄せさせて焼くと同時に加えると、もうそれだけで逸品料理に変化します。今回はちょっとだけ塩を振りましょう」
焼き上がりと同じ位にフィーネが大きくなった網袋を担いで上がった。
「大漁だぁー」
「出来したぁー」
追加も焼き上げ皆で試食会。即座に酒盛りへと発展。
「鮑は付近の3~4m地点。そこから下にはこの極太のウツボが居ます。噛まれると指が取れる位に強力です。コツは見付かる前に見付けて銛で首か胴体を狙い撃ち!
蛇と一緒で巻き付いて来るのでご注意を」
集落に戻ってウツボを鰻の要領で捌いて見せ、焼き上げ試食二次会。
「こいつの皮は上手く焼かないと臭みが出るんで身を削いで食べるのがお勧め。生焼けだと多分お腹壊します。これも塩少々で充分だと思います」
「鰻の食感に似ておるが脂が少し重いかのぉ」
「少し持って帰ってラメル君に焼いて貰う?」
「最近食したから要らぬ。鰻の方が好みじゃの」
肉厚だから難しいんだよなぁ。
鮑と栄螺を半分持ち帰って自宅でも夕食を省いて宴会三昧で夜も更けた。
四次会はデニスさんの店で終結。
理由も無く飲み倒すのも久々で楽しかった。
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お城に上がってさあ報告。
サンタギーナの一件もフィーネが後宮に向かった隙に内緒にすると言う約束を破って詳細に暴露した。
ヘルメンち失笑。
「港の王が船と娘に弱いとは。何の冗談か解らぬな」
「そちらは笑い話にもなりますが」
「帝国とメレディスか。歯痒いがタイラントとしては関与は出来ん。北から逃げ帰って来る者共と二国間の折衝の時期が被れば決裂。開戦する、か」
「外れてくれる事を祈るのみです」
「マッハリアには影響は有りそうか」
「北部の町に多少は。軍人の誇りを掲げた帝国が他国に救援を求める事は有り得ません」
「まあな。それには同意する」
報告を終えて席を立とうとした時に止められた。
「どうだスターレン。外交官の札。随分と役立ったのではないか」
ん?何を今更?
「大変に。無ければ数倍の時間を要したでしょう。…何か返礼の要求でしょうか」
「私にも鰻を持って来い!」
食いしん坊か!
「解りましたよ。休暇前には後宮分焼いて…。折角ですので下の料理長に伝授します。クワンジアから連れて来た料理人志望の少年と一緒に。彼は焼きに関して秀でた才能に恵まれ、既に私たちを越えています。以前にお出しした物よりも段違いに美味しいですよ」
「ほぉ。それは楽しみだ」
メイザーもキャルベも深く頷いていた。キャルベスタの分もかよ。
10匹以上は必要だな。
帰宅前にノイちゃんの執務室に足を運ぶと空席だった秘書官席に嫁のマリカが座っていた。
「お。代理?それとも恒久?」
「育成枠の人材が育つまでの繋ぎだ。育休中のライラも復帰するかは解らんしな」
「お久し振りです。お仕事と私用の線引きはきっちりして居りますのでご心配には及びません」
「仕事も家庭も混合してる俺は何も言えないよ」
「自覚は有ったんだな。それで今日の用事はあれか」
自覚て何だよ。
「そうあれ。シュルツの改造と魔力の書き換えがやっと終わった」
前から気に入らなかったノイちゃんの蝶眼鏡。国の高官が辺鄙な眼鏡を常用していては格好悪くて仕方なかった。
リニューアル蝶眼鏡、もとい銀縁眼鏡。マウデリン分薄らレンズに黒が入ったデザイン。
「跡形も無いな。これでやっと解放される…」
「自覚有ったんだ」お返し。
「当然だろ」
新生眼鏡を早速装着してマリカに見せていた。
「良かったです…」
小さく呟き胸を撫でていた。
「陛下にも上位互換の鑑定眼鏡渡せたし。それも中級以上には強化して疲れ目軽減機能と視力補正を添付した」
「有り難い。最近老眼が入り始めてな」
あーあれって40代位からだっけか。
「マリカも眼鏡欲しい?事務仕事も大変でしょ」
「頂けるでしたら♡」
「俺からって言うとまた嫁さんが怒るからノイちゃんからのプレゼントって事で一つ」
「はい。勿の論で」
「今度のラフドッグ休暇に間に合うように頼んどくよ」
「是非!」
眼鏡のレンズは何処から?それはクワンジアのバザーで購入した硝子粉からっす。
半分はコマネ氏にあげちゃったが眼鏡レンズ如きじゃ全然減らない減らない。大半は今度作る車に使う予定。てかそうなる。
中から見えて外からは全く見えないマジックグラスを目指します。
眼鏡のフレームはシュルツからフローラに依頼。完成部品に手を加えレンズを整え嵌める流れ。
自動車はヤンが継ぎ目部を作り、組立式にするのが理想。
なので勉強会にはヤンも参加して貰う。
出来上がりに妄想を膨らませ。軽い足取りで帰宅した。
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久々の親子対面は滞り無く…。
跪くサドバドの前で書状を読み上げるサダハん。
「この島、及び一帯の諸島を自治区と認め。サドバド列島と命名する!」
「有り難き幸せに御座います。王、サダハ様」
頭を垂れ、外周を囲む島民たちから拍手が上がった。
「今後は島同士の連携を密にし。二度と海賊が湧かぬ様心して治安維持に努めよ」
「ハッ!」
「だがしかし!ニーナとの婚姻は認めぬ。否!断じて認めぬぞ」
「御父様!」
「それは…。私が罪を償っていないから、でしょうか」
「貴方と言う人は…」
イプシス様が頭を抱えて項垂れていた。
「違う!償いは今後の働きを鑑みて相殺される。認めぬのは…。認めぬのは、何時まで待っても許可の伺いに来ぬからだ!」
詰り挨拶に来ないなら認めないと。王であり父として挨拶に来るのは当然の理だと。
そこでサドバドが行きますと答えればハッピーエンド、だったのだが勝気な娘ニーナは反論してもーた。
「御父様。いえ、「元」父上。私はカラードキャメオの迷宮で果てたのです。この世にニーナは存在しない。そうお考えに為られれば胸の痛みも拭えましょう」
「へ…え?」
「私はニーナ様に良く似た一介の島民。故に他人で有らせられる王に許可を頂戴する必要は御座いません」
「へ、屁理屈を捏ねるな!」
「王とは赤の他人でも。イプシス様とは良き友人関係であると自負して居ります。行く先で何度か城へお伺い致す事も有るかと存じます」
「ならば、その時私とも」
「どうして下民の私が一国の王に会えるのですか。今こうしてお話が適うのは島の副代表であるからして。離れてしまえばお声も届かぬ民草」
父ちゃんとは二度と会いたくないけど母ちゃんとこには遊びに行くよと告げた。
サダハん陥落。ニーナを前に膝を崩した。
「どうすれば。どうすれば私を許してくれるのだ…」
「お認め下さい。全てを、今ここで。私を自由にして下さい。貴方様が拵える鳥籠の中に。戻らなくとも良いと」
逆を言えば全てを放棄したんだとニーナは訴えている。
王様って何処も大抵独占欲の塊だもんなぁ。
サダハんは絞り出すような声で。
「認めよう…」
「では書状に追記願います。フィーネ様、筆をお貸し頂けませんか」
「白紙と一緒にそのまま進呈するわ。予備も何本も持ってるから」
新品のインク瓶と万年筆を紙束を一緒に渡した。
「有り難う御座います。一生の宝にしますね」
「その様な事まで書かねば為らぬのか」
「お言葉ですが。口約束が守られた試しを知りません。ですよね、イプシス様」
「ええ。秘密主義、利己主義、人の話を聞かず。欲しい物が現われると一目散。コロコロと発言内容を変え。異国のスターレン様まで平気で裏切る。誰が信用出来ますか」
サンドバッグ再び。今度は嫁と長女にボッコボコ。
「解った。解ったから、それ以上は止めよ」
生温かな聴衆たちの目が見守る中で調印式が行われ、正副2枚の書状が起こされた。
「介入では有りませんが」
自分の名前入り額縁ケースを2つ取り出し。
「特別確認者としてこのケースを進呈します。1つを王宮の人目に付く所。1つはここへ。ケースには探知道具が仕込まれています。持ち去り等で大きく移動すれば確認しに参ります。2つ共に消失する様な事が起きれば協約違反と見做し、原因究明を求める書状を送ります。
常に私が見ていると心に留め、大切に保管して下さい」
「感謝致します。スターレン様」
「ここまでするか…」
「ここまでしないと信用されなくなっている、と認識を改めて頂けると幸いです」
「くっ…。言いたい放題言いおって」
一風変わった調印式を経て。
「直ぐにお戻りになりますか?」
「少し四人だけで話がしたい。このまま帰ってしまうと暫くは会えぬだろうからな」
親子と新たな義息を交えてね。
1時間後に戻ると伝え、島長宅を離れた。
「ま、迷宮潜れだの南の部族を撃退しろとかじゃなくて良かったな」
「時間と手間は掛かったけどねぇ」
モメットは帰港の途。ソプランたちとグーニャは自宅方面で自由行動。
詰り今はクワンとフィーネオンリー。
クワンを肩に乗せたフィーネと恋人繋ぎで手を重ね、浜辺を散策して時間潰し。
「これも何だか懐かしい」
「懐かしいね。出会いから本当に色々有ったけど。過ぎてみれば一瞬で。ずーっと走りッ放しな気がする」
「気の所為ではないな」
「ちょっとだけ立ち止まってみても良いのでは?」
「モーランゼアの見学と視察が済んだら。来年のスタルフ即位式まで長期で休むか」
「良いですねぇ」
「外務はセーブして温泉郷手伝ったり。人員の配置替え提案してみたり。自動車展開したり。細々した物で完全休業とは行かないけど」
「充分でしょ。長らく離れてた商人さんやらせて貰おうよ。平和的に」
「ふむふむ。商いが出来る様に頑張ろう」
「おー」
意味も無く繋いだ手を天に掲げ。
「クワンさん。ちょっとだけお散歩して来てくれない?」
「ちょーっとだけね」
「クワァ」
音も無く飛翔する鳩の背を見送り。誰も居ない岩場に隠れて唇を重ねた。
岩に打ち付ける潮騒が。柔らかく耳に残るサドバド島の浜辺で。
ラザーリアの実家方面では大きな出来事は無く。粛々と来年2月の即位&生誕&婚礼式典の準備が進められていた。
重ね過ぎだろ、と思ったが経費削減の一環だと言われれば文句の付け様が無い。
神経質なサンが溜息を何度も吐き、ハルジエが慰める構図が確立していた。
「ハルジエは帰国した?」
「いいえ。念には念をと控えて居ります」
慎重派だな。勿論良い意味で。
「明後日に帝都へ伺うけど。一緒に行く?」
「それは是非とも!」
「じゃあスタルフに連絡と配下の護衛集めといて」
「はい。サンもお休みさせないと壊れてしまいそうで」
「お言葉に甘えます…」
胃薬を1週間分渡して。
「考え過ぎるのが悪い癖だぞ。今からそんなんじゃ持たないって」
「悪い病気に成っちゃうよ」
皆で慰めてみたが根本は変えられない。どうにか乗り切って欲しい所。
蛇肉のあっさりスープも鍋毎プレゼントしてみた。
「他の野菜も入れて煮込み直して皆で食べな。多少は気分が晴れると思うから」
「美味しそうな香り…。頑張れそうです」
「頑張らなくていいってば」
駄目だこりゃ。
---------------
アッテンハイムの首都ではちょっとしたサプライズが待っていた。仁王立ちで、何時もの部屋の前に。
「やい!お前がスターレンだな」
見た事無い小っちゃい子が頑張って虚勢を張っていた。
「違う。誰だスターレンって」
「なんだ違うのか。だったら専用の来客室で何をやっているんだ」
「部屋の掃除だ」
「そうだったのか。掃除の使用人だったか。それは悪かったな。おっかしいなぁ、姉上はどうして怒ったんだ…」
怒られたんだ。
少年は首を捻りながら帰って行った。
対応を済ませて室内に戻ると皆が口を押さえ、笑いを堪えていた。
「あー苦しかった。よく咄嗟に嘘が吐けるわね」
「服装からして弟君かなって。お供が居なかったから内緒で来たんだろうと」
「どうせあの位のガキは面倒臭え事しか言わねえもんな」
「それな。客だと知ってて挑戦的な態度を取った罰だ」
もし違っても大した影響は無い。
でもやっぱ正解だったようで。暫く歓待部屋で寛いでいるとペリーニャと修女が走って来た。
珍しく息を切らせて。
「ハァ…ハァ…。今、いえさっき。弟がこちらに、来ませんでしたか」
「あぁ来た来た。それっぽいのが。何君だっけ」
「先代教皇の名からグラハムと。何か失礼を」
「特に。お前がスターレンかって。違うよって教えたら信じてどっか行った」
「あの子ったらもう。まだ早いと何度言っても理解してくれなくて。申し訳ありませ…」
席に座り、水を飲もうとした所でロイドと目が合った。
「何故…ロイド様が平然とそこに居らっしゃるのですか?」
背後に控える修女2人もロイドを見て驚いていた。
この反応、ペリーニャの母親と似ていると言うのは本当らしい。
「この度、晴れて合流したのですよ」
降臨とは言えないよな。
ロイドの隣に座り直し手を握り合った。
「二度と、お会い出来ないと思っていました」
「今後は大概スターレンの自宅の居候です。これからは何時でも会えますね。所でグラハム君は何用でこちらに?」
「あ、あぁそうでした。最近外出や外泊が多くなった私を見て自分も遊びに出たいと言い出しまして。スマホでシュルツ様とお喋りしているのを偶々聞かれてしまい…」
「グラハム君は今幾つ?」
「今年暮れに六歳です」
「五歳は無理だな。年齢よりは賢そうだけど。勝手に出歩いて簡単な嘘を信じるようじゃ」
「ですからまだ早いと」
なるほろ。でも前にもっと小さい話を聞いたような…。
自分の経過時間を入れなかったとか?
連れて行くと、王都やラフドッグで迷子になられて俺たちが探し回る光景が目に浮かぶ。
フラグメンツは叩き折る主義です。
修女の1人に廊下を見張らせて打ち合わせ。
「国内に目立った動きは有りません。偶然か、スターレン様たちがクワンジアを撤収直後に西部に滞在していた二つの行商隊が戻ったと言う情報が上がった程度です」
敵だったとしても西か北に流れたか。北っぽいな。
「何れにしろ今更何も出来ないさ」
話題を変え、行程表を渡し。
「ペリーニャの組は真ん中の週で最大5日設定。シュルツと合わせてるから全部使うかは任せる」
「半月以上先ですので問題有りません。折角なので全部使用させて頂きます。王女様のお二人は」
「前半の2日は被ってるから会食やお喋りは出来ると思うよ」
「前半は譲れませんね」
さらっと1週目はロロシュ邸カメノス邸の関係者ご招待。
2週目はアッテンハイム組とその他。
3週目はご新規様やタツリケ隊の関係者で分けた。
連れて行くのみで後はほぼ自由解散の予定。
新店ホテルのエリュロンズの説明をして
「部屋数は確保してるからペリーニャの護衛隊の人選は任せる。20人までは余裕」
クワンジアからハイネのタツリケ隊と同じ区域に引っ越しが完了したハイマン一家を加え。前半部の自宅邸内周辺警備をタツリケ隊に依頼済み。後半部は戻ったメメット隊メンバーに引き継ぐ。
新規組でクワンジアの港方面の出身者に一度ラフドッグを見て貰って移住先を確定させるプランを組んでいる。メインの案内役はソプランとアローマが担当。
ぶち抜きでホテルに滞在するのはレイルとメリリー。レイルが出掛ける間はソプランの組に合流する流れ。
特殊イベントはバインカレ婆ちゃんにライラが曾孫を見せるのと、見事成立したクラリアがポレイスを連れて交際宣言をしに行く。口喧嘩にならないよう健闘を祈る。
俺たちは迷宮探索と造船技術のお勉強がメイン。
お勉強は好奇心の塊なシュルツが興味津々なので滞在期間中に合わせる。
「行程表。グラハム君に見られるなよ」
「当然です。最近私の入浴中に突入しようとしたり。就寝中にバッグに触れ様としたり。困ったもので、将来がとても不安です」
やるなグラハム。思わず笑ってしまった。
「笑い事では有りませんよ。ホントにもう」
「ごめんごめん。男はグラハム君に絡まれる前に帰るよ。予定の件はグリエル様に伝えるようにな」
「父はグラハムに激甘ですので。直前まで詳細は伝えません。最悪無許可でゼノン隊を連れてラフドッグに飛んで行きます」
そうなっちゃいそう…。
---------------
ハルジエの一団をラザーリアで拾い、訪ねた帝都。帝都内が所々、宮廷周囲が特に荒れ気味な様相。
「少々…じゃないなこれ」
「うわぁ、外壁がボロボロ…」
「確かにこの様子では帰って来るなと言われる訳です」
皇帝宮に直行で通されアストラ皇帝と接見。
痛々しい満身創痍な包帯姿で玉座に座った。
「大丈夫、ではなさそうですね」
「ハルジエの同行には感謝する。怪我は大事ではない。実際折れたのは左腕のみ。後は掠り傷。
説明する迄も無いが帝都は見ての通りの有様だ。貴公の予想通りに中央塔地下の宝物庫が重点的に狙われた。
貴公らが居ないのを良い事に、遠距離系の魔道具の嵐が飛来した。何とか防ぎ、敵組織と手引き者は殲滅してやったがな。それが先月末頃。以降はピタリと止んだ」
「被害状況は」
「建物の倒壊と兵が三百の死傷者。一方で狙われた帰還者数名が軽傷。エンバミルが足を砕いて療養中だな」
新作の傷薬と回復剤をご提供。
「これは助かる。兵の損傷が激しくてな」
区切りでハルジエが。
「帰還者。御姉様方とは会えますでしょうか」
「問題無い。今は仮で新設した白銀宮で怪我人を一手に集めている。後で向かってくれ。してスターレン殿。
襲撃が止んだ原因に心当たりは」
「有りますね」
教団組織が帝都を諦め、欲した道具は自作した模様。損失を見切り総員でメレディスから北に向かったようだと。
「成程、それでか。得心した」
「クワンジアでもメレディスの隠者が多数。大会内外で襲って来ました。途中で本国と分離してしまった様子で。半ば自棄での行動だと」
「メレディスか。野放しにするとは忌々しい!」
痛めている左手で肘掛けを叩いた。
「いっ!たくはない!そうと解れば今度はこちらから打って出る」
「戦争を仕掛けると?」
「それはモンターニュの出方次第だ。国内部の立て直しと残党の掃気にも時を要するしな。西部国境を封鎖し、通告状を送るに留める。今の所はな」
案外冷静みたいで安心した。
「懸命な判断です。エンバミル氏の意見もご参考に」
「うむ」
接見後にハルジエと一緒にお見舞いを。
白銀宮は以前泊まっていた建物の隣で傷病患者を受け入れる病棟と化していた。
一般兵、中級職、上級職に区分けされ、向かうは玄関から最奥の上級職が集まる部屋。
簡単な帰還者たちとの挨拶に留め、ハルジエが挨拶回りを終えるのを廊下で待ち惚け。
各所から呻き声が聞こえ冗談を言い合える雰囲気ではなかった。
「戦争になっちゃうのかな」
「さあ。モンターニュが噂通りの腰抜けなら何も起こらないと思う。メレディス内の組織が綺麗に捌けた前提で」
「止め様が無いね」
「エンバミル氏が生きてるのが救いかな」
これ以上加担する理由も無い。
軍国の意地と誇りの話だ。
結局町中でも食糧品を取り止め、買い物はお茶っ葉だけに控えた。
ハルジエはかなり名残惜しそうにしていたが、やがて決意を固め。
「私が残っても出来る事は有りません。来年には平定されていると信じてラザーリアへ帰ります」
帰る、と言ってくれた事は嬉しい台詞。表情が固くなければ尚良かった。
「だな」
戻りは宮内の広間から転移した。
---------------
南東のローレライ方面は順調。然り気無く各所の統廃合が進められていた。
維持費も馬鹿にならないそうで。
各地での活躍も伝わっていて簡素な報告会で済ませた。
久し振りにマタドルとメイズに挨拶し、納豆や米類を買って帰宅。
やはり問題が有ったのは南西。サンタギーナのサダハんのご立腹。
ニーナが居る島に説得部隊を何度も送り込んでいるんだそうな。
「親子でも余りひつこいと嫌われますよ」
「既に嫌われているでしょうけど」
「喧しいわ!元はと言えばお前たちが」
「御自分の失態を俺たちに押し付ける?」
「ヘルメン陛下にご報告しないと」
「止めてくれ。い、今のは私情で公式ではない」
「本人が王位継承を放棄したんですから。元々居た他の候補者を繰り上げるだけでは?」
「正式に発布される前の離脱なら誰の迷惑にもなっていない気がするのですが?」
「会いたいのだ…」
「「ん?」」
「ニーナに会いたいのだ!」
玉座に座る駄々っ子の姿。隣のイプシス様も他3人も。
玉座の間に集まる下々の者たちが唖然呆然とする言葉を高らかに言い放った。
「親、馬鹿?」
「余に向かって馬鹿とは何だ!」
「失礼。思わず口が滑ってしまって。訂正します。子煩悩なのは痛く理解しました。が、成人を過ぎた娘を溺愛されるのは流石に行き過ぎでは?」
「愛される割には危険な迷宮に突撃させたり、お止めにならなかったり。今更では?」
俺たちのではでは口撃に身悶えるサダハん。キモい。
「今更気付いたのだから仕方有るまい」
遂に開き直った。
「素直になられるのは大変結構。ならば尚のこと御自分の足で向かい、御自分の口からお気持ちを話されれば良いかと進言致します」
「正式な査察団を編成して指揮を執れば宜しいかと。往復で1週間前後の距離ですし。遠く離れたタイラントに赴く訳でもないのですから」
「…船が、沈没したらどうしてくれる」
「「へ?」」俺たち。
「は?」イプシス様。
今、何て言った?聞き間違いじゃなければ沈没?
「沈没?確かに可能性は零では有りませんが。それは自国の造船工夫たちの腕や心意気を汲んで、堂々と安全性を謳うべき所ではないかと愚考します」
「ふ…」
「ふ?」
「船酔いが激しいのだ!」
「……」
場に居る全員が言葉を失った。この様子だと誰も知らなかった模様。
「そ…こは努力で何とか」
「他に比べ穏やかな海。船内で横になって寝ていれば慣れて来ると」
「吐くのは嫌だ」
遂には泣き出した。絶望的だな。
「従者を町で待たせて居ります故。帰っても宜しいでしょうか?」
イプシス様が見かねて手を挙げた。
「お待ちを。正直私も娘に会いたい気持ちは有ります。私たちを含めた査察団を転移で島まで運んでは貰えますまいか」
どうすっかな。
「少し隣の妻と相談させて頂いても」
「どうぞ」
誰も居ない壁際に寄って密談。
「どうしたらいいっすかね、これ」
「会いたいって気持ちは解ったし。悪い話ではないわ。和平じゃないけど何か保証が欲しいね」
「おーけー」
再度元の位置で跪き。
「承知しました。護衛を含めて50名迄ならお運びします。それを踏まえ、隣接する島々の自治区許可と粛正の意図は無しと銘打った正式文書を発行。公表して頂きたい」
「他国の民事介入に当たります故。私共の署名は控えますが。公表が為されなければこのお話は聞かなかった事にさせて頂きます」
「解りました。直ぐに取り掛かりましょう」
「な、何を勝手に」
「嫌なら付いて来なくて宜しいのですよ。団を組まず、私個人として赴くなら手続きは不要。国王である貴方も行くなら必要。それだけの事です」
「くっ…」
「一国の主が他国の高官を前に。しかもこの玉の間に配下の者たちが居る前で。巣立った娘に会いたいと涙を見せてしまうとは何事ですか。真に恥ずべき行為。
ここで認めなければ王としての器が問われ揺るぎます。
弾劾されたいのですか。国政への反乱を起こさせたいのですか。王足る威厳を示し為さい」
サダハんがサンドバック。今まで溜め込んで来た物を一気に大放出されていた。
「済まん…」
「多くの面前です。夫婦喧嘩はその辺りで。此度の件はヘルメン陛下には内密に致します。どの程度の時が必要でしょうか」
「二日も有れば」
「では明後日の同じ時間に参ります。姫様や島には事前に予告して置きます」
「頼みましたよ」
「「はい」」
もうイプシス様が女王様でいいんじゃね?
シャインジーネでお買い物中だった4人とペットたちと合流し、お昼を適当に食べて島に立ち寄った。
島内には立派な建物が増え、家畜の豚や鶏が育っていた。
そこには作業着のニーナやサドバドが居て…。あんまし会いたくなかった人まで。
「スターレン様~♡」
モメットに犬ダッシュ&強烈なタックルで押し倒された。
「止めろ!」
「離れなさい。ちょっとお話だけって約束だったでしょ」
「いや~。折角お会い出来のに!もうちょっとこの温もりを感じさせてぇ」
「間近に見ると強烈じゃのぉ」
「ええ全く」
「退け!離せって!この馬鹿力。俺たちはニーナに会いに来ただけだ」
「いけずぅ。私に会いに来たって言って下さいまし」
「居ると解ってたら来なかった」
「ひーどーいぃー」
状況に戸惑うニーナが。
「私にお話とは」
「本気で怒るぞ、モメット」
「はーい…」
島長宅で淹れ立ての紅茶を頂きながら。
「初めては左がレイル。右がロイド。2人は買い物に付いて来ただけだから気にするな」
「何も無い島と言うのも乙な物じゃな」
「お見知り置きを」
「はあ」
サドバドは2人の見慣れぬ美人度に顔を赤くしていた。隣のニーナが彼の太腿を抓って正した。
玉座でサダハんがニーナに会いたくて泣いちゃった事件を話して。2日後に視察団。最低でもイプシス様が来訪する事を伝えた。
「王が人前で泣いた…?」
俄には信じ難い。そんな顔。
「玉座の間でだよ。詳しくはイプシス様に聞いてみて」
「お昼時に転移で連れて来る予定。迷惑だったら時間変更するよ」
「母にはお会いしたいので大丈夫です。ちゃんと近隣と連携して健全に自活出来ている所を見て貰います」
「それがいいよ。大分物資も届いてるみたいだし」
モメットが照れてナヨナヨ。
「もっと褒めて。私たちの物資だけじゃなく。国の偵察船に上陸の交換条件で持って来させましたから」
ふむふむ。それは賢い選択だ。
「褒めんがな」
区切りに割って入ったサドバドが。
「スターレン様。島内を見て何か御助言は有りませんか」
「そうだなぁ。小さいなりに鶏が増えてるみたいだから。小屋を雌鶏だけの物を造って食用の無精卵を取れるようにするといいかも。放し飼いで取れる卵って偶に中がアレじゃない?」
「アレですね…。勉強に成ります」
「後は小川の北側に分流して岩を詰めた溜め池を作ると運が良ければ魚が増やせる。羽虫も増えちゃうけどね」
「ほほぉ。良いですね、やってみます」
「海辺に堀を作って海魚を釣り易くするのもいいな。調子に乗って大きくすると魚が生息場所変えるから程々に」
「成程ぉ」
乗せ上手だな。
「素潜りが得意な人が居るなら。深い岩場で牡蠣や鮑や海胆獲るのもいいね」
フィーネが即座に反応。
「鮑!獲ってないなら大きいのが居そうね」
「牡蠣と海胆は兎も角。アワビ、とは何ですか?」
「あれ?知らない?牡蠣に似て岩に張り付いて剥がすとウネウネしてる平ぺったい貝類」
「さあ。存じませんね。ニーナは知ってる?」
「私も。初耳です」
これは居たら大漁確定。フィーネと目を合わせて。
「ちょっと実演してみようかしら」
泳ぎが得意な島民を連れて浜辺に大移動。フィーネが薄着に着替えマスクを装着。
陸地から双眼鏡でポイントを選定。島の真西辺りが一番多く獲り易い場所だった。
「居た居た。牡蠣は居ないけど栄螺は居るわね」
「ちょい下にウツボも居るから注意な」
「はーい。序でに獲っちゃいます!」
ナイフを腰に銛を片手に海に飛び込んだ。
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「これが鮑です。良く似た小さい物は稚貝かトコブシと呼ばれる仲間です」
掲げて本体側を見せると歓声が上がった。
「それが美味しいのかえ?」
「真ん中の吸盤がコリコリして美味しいんだよ。外周の紐には砂が溜り易いんで軽く水洗い。苦いのが苦手なら間に在る肝は外して豚君の餌や飼料にでも」
即席で焼き台を組み、焼き網をセット。
「生食では食べない物で。焼かないと殻が外れません。基本的に栄螺と同じで網焼きがお勧めです」
香ばしい音と匂いが漂い、ウネウネと藻掻く鮑君。こんな拷問してごめんな。
「食感と薄い磯味が特徴で。物足りなければ食塩を少々。手に入るならバター。モメットにタイラントで製造してる醤油を取り寄せさせて焼くと同時に加えると、もうそれだけで逸品料理に変化します。今回はちょっとだけ塩を振りましょう」
焼き上がりと同じ位にフィーネが大きくなった網袋を担いで上がった。
「大漁だぁー」
「出来したぁー」
追加も焼き上げ皆で試食会。即座に酒盛りへと発展。
「鮑は付近の3~4m地点。そこから下にはこの極太のウツボが居ます。噛まれると指が取れる位に強力です。コツは見付かる前に見付けて銛で首か胴体を狙い撃ち!
蛇と一緒で巻き付いて来るのでご注意を」
集落に戻ってウツボを鰻の要領で捌いて見せ、焼き上げ試食二次会。
「こいつの皮は上手く焼かないと臭みが出るんで身を削いで食べるのがお勧め。生焼けだと多分お腹壊します。これも塩少々で充分だと思います」
「鰻の食感に似ておるが脂が少し重いかのぉ」
「少し持って帰ってラメル君に焼いて貰う?」
「最近食したから要らぬ。鰻の方が好みじゃの」
肉厚だから難しいんだよなぁ。
鮑と栄螺を半分持ち帰って自宅でも夕食を省いて宴会三昧で夜も更けた。
四次会はデニスさんの店で終結。
理由も無く飲み倒すのも久々で楽しかった。
---------------
お城に上がってさあ報告。
サンタギーナの一件もフィーネが後宮に向かった隙に内緒にすると言う約束を破って詳細に暴露した。
ヘルメンち失笑。
「港の王が船と娘に弱いとは。何の冗談か解らぬな」
「そちらは笑い話にもなりますが」
「帝国とメレディスか。歯痒いがタイラントとしては関与は出来ん。北から逃げ帰って来る者共と二国間の折衝の時期が被れば決裂。開戦する、か」
「外れてくれる事を祈るのみです」
「マッハリアには影響は有りそうか」
「北部の町に多少は。軍人の誇りを掲げた帝国が他国に救援を求める事は有り得ません」
「まあな。それには同意する」
報告を終えて席を立とうとした時に止められた。
「どうだスターレン。外交官の札。随分と役立ったのではないか」
ん?何を今更?
「大変に。無ければ数倍の時間を要したでしょう。…何か返礼の要求でしょうか」
「私にも鰻を持って来い!」
食いしん坊か!
「解りましたよ。休暇前には後宮分焼いて…。折角ですので下の料理長に伝授します。クワンジアから連れて来た料理人志望の少年と一緒に。彼は焼きに関して秀でた才能に恵まれ、既に私たちを越えています。以前にお出しした物よりも段違いに美味しいですよ」
「ほぉ。それは楽しみだ」
メイザーもキャルベも深く頷いていた。キャルベスタの分もかよ。
10匹以上は必要だな。
帰宅前にノイちゃんの執務室に足を運ぶと空席だった秘書官席に嫁のマリカが座っていた。
「お。代理?それとも恒久?」
「育成枠の人材が育つまでの繋ぎだ。育休中のライラも復帰するかは解らんしな」
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「頂けるでしたら♡」
「俺からって言うとまた嫁さんが怒るからノイちゃんからのプレゼントって事で一つ」
「はい。勿の論で」
「今度のラフドッグ休暇に間に合うように頼んどくよ」
「是非!」
眼鏡のレンズは何処から?それはクワンジアのバザーで購入した硝子粉からっす。
半分はコマネ氏にあげちゃったが眼鏡レンズ如きじゃ全然減らない減らない。大半は今度作る車に使う予定。てかそうなる。
中から見えて外からは全く見えないマジックグラスを目指します。
眼鏡のフレームはシュルツからフローラに依頼。完成部品に手を加えレンズを整え嵌める流れ。
自動車はヤンが継ぎ目部を作り、組立式にするのが理想。
なので勉強会にはヤンも参加して貰う。
出来上がりに妄想を膨らませ。軽い足取りで帰宅した。
---------------
久々の親子対面は滞り無く…。
跪くサドバドの前で書状を読み上げるサダハん。
「この島、及び一帯の諸島を自治区と認め。サドバド列島と命名する!」
「有り難き幸せに御座います。王、サダハ様」
頭を垂れ、外周を囲む島民たちから拍手が上がった。
「今後は島同士の連携を密にし。二度と海賊が湧かぬ様心して治安維持に努めよ」
「ハッ!」
「だがしかし!ニーナとの婚姻は認めぬ。否!断じて認めぬぞ」
「御父様!」
「それは…。私が罪を償っていないから、でしょうか」
「貴方と言う人は…」
イプシス様が頭を抱えて項垂れていた。
「違う!償いは今後の働きを鑑みて相殺される。認めぬのは…。認めぬのは、何時まで待っても許可の伺いに来ぬからだ!」
詰り挨拶に来ないなら認めないと。王であり父として挨拶に来るのは当然の理だと。
そこでサドバドが行きますと答えればハッピーエンド、だったのだが勝気な娘ニーナは反論してもーた。
「御父様。いえ、「元」父上。私はカラードキャメオの迷宮で果てたのです。この世にニーナは存在しない。そうお考えに為られれば胸の痛みも拭えましょう」
「へ…え?」
「私はニーナ様に良く似た一介の島民。故に他人で有らせられる王に許可を頂戴する必要は御座いません」
「へ、屁理屈を捏ねるな!」
「王とは赤の他人でも。イプシス様とは良き友人関係であると自負して居ります。行く先で何度か城へお伺い致す事も有るかと存じます」
「ならば、その時私とも」
「どうして下民の私が一国の王に会えるのですか。今こうしてお話が適うのは島の副代表であるからして。離れてしまえばお声も届かぬ民草」
父ちゃんとは二度と会いたくないけど母ちゃんとこには遊びに行くよと告げた。
サダハん陥落。ニーナを前に膝を崩した。
「どうすれば。どうすれば私を許してくれるのだ…」
「お認め下さい。全てを、今ここで。私を自由にして下さい。貴方様が拵える鳥籠の中に。戻らなくとも良いと」
逆を言えば全てを放棄したんだとニーナは訴えている。
王様って何処も大抵独占欲の塊だもんなぁ。
サダハんは絞り出すような声で。
「認めよう…」
「では書状に追記願います。フィーネ様、筆をお貸し頂けませんか」
「白紙と一緒にそのまま進呈するわ。予備も何本も持ってるから」
新品のインク瓶と万年筆を紙束を一緒に渡した。
「有り難う御座います。一生の宝にしますね」
「その様な事まで書かねば為らぬのか」
「お言葉ですが。口約束が守られた試しを知りません。ですよね、イプシス様」
「ええ。秘密主義、利己主義、人の話を聞かず。欲しい物が現われると一目散。コロコロと発言内容を変え。異国のスターレン様まで平気で裏切る。誰が信用出来ますか」
サンドバッグ再び。今度は嫁と長女にボッコボコ。
「解った。解ったから、それ以上は止めよ」
生温かな聴衆たちの目が見守る中で調印式が行われ、正副2枚の書状が起こされた。
「介入では有りませんが」
自分の名前入り額縁ケースを2つ取り出し。
「特別確認者としてこのケースを進呈します。1つを王宮の人目に付く所。1つはここへ。ケースには探知道具が仕込まれています。持ち去り等で大きく移動すれば確認しに参ります。2つ共に消失する様な事が起きれば協約違反と見做し、原因究明を求める書状を送ります。
常に私が見ていると心に留め、大切に保管して下さい」
「感謝致します。スターレン様」
「ここまでするか…」
「ここまでしないと信用されなくなっている、と認識を改めて頂けると幸いです」
「くっ…。言いたい放題言いおって」
一風変わった調印式を経て。
「直ぐにお戻りになりますか?」
「少し四人だけで話がしたい。このまま帰ってしまうと暫くは会えぬだろうからな」
親子と新たな義息を交えてね。
1時間後に戻ると伝え、島長宅を離れた。
「ま、迷宮潜れだの南の部族を撃退しろとかじゃなくて良かったな」
「時間と手間は掛かったけどねぇ」
モメットは帰港の途。ソプランたちとグーニャは自宅方面で自由行動。
詰り今はクワンとフィーネオンリー。
クワンを肩に乗せたフィーネと恋人繋ぎで手を重ね、浜辺を散策して時間潰し。
「これも何だか懐かしい」
「懐かしいね。出会いから本当に色々有ったけど。過ぎてみれば一瞬で。ずーっと走りッ放しな気がする」
「気の所為ではないな」
「ちょっとだけ立ち止まってみても良いのでは?」
「モーランゼアの見学と視察が済んだら。来年のスタルフ即位式まで長期で休むか」
「良いですねぇ」
「外務はセーブして温泉郷手伝ったり。人員の配置替え提案してみたり。自動車展開したり。細々した物で完全休業とは行かないけど」
「充分でしょ。長らく離れてた商人さんやらせて貰おうよ。平和的に」
「ふむふむ。商いが出来る様に頑張ろう」
「おー」
意味も無く繋いだ手を天に掲げ。
「クワンさん。ちょっとだけお散歩して来てくれない?」
「ちょーっとだけね」
「クワァ」
音も無く飛翔する鳩の背を見送り。誰も居ない岩場に隠れて唇を重ねた。
岩に打ち付ける潮騒が。柔らかく耳に残るサドバド島の浜辺で。
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【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた
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社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。
なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。
婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。
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「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」
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◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。
婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。
◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。
◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます!
10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
無能なので辞めさせていただきます!
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ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
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はいはいわかりました。
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退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
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「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
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100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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