149 / 303
第147話 ソーヤン・グータ
しおりを挟む
ザッハークには宝石商が大手5軒在り扱う商品も様々。
原石売り、加工売り、装飾品売りなど。
原石売りの店は1軒のみ。部屋に飾る感覚は乏しい。
掘り出し物のパワーストーンが有るかもと最後の楽しみに取って置いた。
変な交渉はしないスタイルを通して監視役は遂に2人だけになった。
ホースキとナーナー。2人は兄妹で仲良くソーヤン直下の部下。役職を与えるなら秘書官クラス。
隙あらば離れようとする2人を捕縛して隣に据え置き商店を回った。
「スターレン様。何故我らを隣に置くのでしょう。居てはお邪魔でしょうし」
「報告なら適当に。毎度の如くお買い物上手とだけ上げますから」
「もう顔見知りだけど。余り知らない人から遠目に監視されるのは好きじゃない」
「監視なら隣に居た方が何をしているか良く見えるでしょ。それとも何?私たちは命を狙われているから近くに居たくない、とでも言うのかしら」
「い、いえ!決してその様な事は」
「滅相も無い」
「だったら文句言うなよ。こっちは護衛減らされて心細いんだ」
「交渉決裂して傷害事案が発生したらどうしてくれるの?
お茶を出されても毒味してくれる人が居ないから飲めないのよ。国属なら武芸も嗜んでるわよね。護衛が減った分はきっちり仕事為さい」
「盾として隣に置くんだからさ。しっかり周囲も監視してくれなきゃ困るよ」
「「はい…」」嫌な仕事引き受けたって顔だ。
意気消沈ながらも職務を全うしようとする姿勢は評価出来るがやはり何かに怯えているようにも見えた。
2人の態度は無視して交渉開始。
だってまだ1軒目の加工卸店だもん。
何れも今一な品揃え。
粒はそれなりに大きいが目にしてクラックが入っていたり手にして心惹かれる物とは巡り会えなかった。
「ここってソーヤン殿が元締めやってるって聞いたけど。
俺たち馬鹿にしてるのか。タイラントが下に見られてるのかどっち?」
「こんな粗末な商品で何時も商売してるの?素人でも解る傷や泡が見えるのにこの値段は無いよ。お客様に失礼だと思わない?」
店主の男はキモい脂汗を垂らして弁明した。
「も、申し訳御座いません!正直に申し上げれば…」
後ろのホースキたちに視線を送り。
「大粒の良品は全てソーヤン様が、独占しておりまして。
値付けもお上が適当に…」
可哀想に。
「後ろの2人は気にしないで。どうせこんなの報告したら自分たちがクビだから」
小さな悲鳴が聞こえた。
「上手く考えてるよ。夫婦だったら裏切りも有り得るけど仲の良い兄妹なら家族包みで抱えて置けば離反の確率は低い。クビになったら国内では二度と働けない。
ソーヤンの保有資産も桁外れで金銭では揺さ振れない。
直球で聞くけどソーヤンの弱みって何か知らない?」
「か、勘弁して下さい。本物の生首が飛ばされます」
「ごめんごめん。知ってても言える訳ないか。じゃあ一番高い商品を上から3つ。9割引きで売ってよ」
「は?」
「粗悪品なんだから買付と運搬費用合わせても1割にも満たない。それを薄利で売れって言ってんだけど?」
損はさせてない。少なくとも店主の腹は痛んでない。
「そんな事をすればソーヤン様に」
「直接抗議に来るだろうね。俺の所に」
「それが狙いだったりするから大丈夫よ。私たちに脅されたって言えば良いじゃない。もしも損足が出るなら1.5割でどうかしら」
根っからの守銭奴なら必ず動く。商売人の爺は大概そう言う生き物。使っても使っても全く減らないロロシュ氏は例外です。
めっちゃ悩ませてしまった。見る見る汗がドバドバと。
「ホースキ殿。これは内密に。我々のような末端が主に矢を射る行為なのは承知の上で。お売りしましょう。
但し一.七割が限度です。上納金と僅かな利益の限界値なんです。やるなら五店舗全てで均一に。原石店では難しいでしょうが通常レベルの値引き交渉は出来ます。
そして。我々を家族を含めて守るとお約束して下さい。飲めないのであれば交渉決裂と成ります」
現時点でその確約は出来ない。
「即答が厳しい条件だね。じゃあ二番目に高い商品を半値で買い取ります。それを5店舗全てで遣ります。それだけでもかなりの打撃になる。動かなかったら一番高いのを後日買いに来ます。値段交渉はその時に」
心底ホッとした表情で汗をハンカチで拭い。
「解りました。直ぐにご用意致します」
「税金に加えて上納金なんて古くっさい制度止めちまえって説教してやりますよ」
「期待して居ります、スターレン様。少ない交渉で内状を丸裸にされてしまうとは…。私もまだまだ勉強が足りませんね。恐れ入りました」
「ご謙遜を。裏の組合長はブルートさんでいいですか?」
「…何のお話かは存じませんが。次の機会が有るならその話も可能かと」
さっきまでの態度とは別人。汗は演技だったか。
「俺も久々に有意義な交渉が出来ました」
購入後、軽く握手を交して退店。
もう1つの加工卸店でも同じ交渉が成立。
4人で宿舎の食堂でランチ。
ホースキとナーナーが同じ質問を繰り返した。
「どう上に報告すれば良いのか迷います。して殊更に我らを交渉の場に置かれたのか。理解に苦しみます」
「今もこうしてお食事を共にするなど。正気の沙汰とは思えません」
「食事は大勢の方が楽しいじゃん。報告は今日明日纏めて上げてくれると嬉しい。
宝飾店は時間掛かりそうだから。内容は俺たちだけ批判的に書けば書き易いでしょ。商人さんが覚悟を決めて話してくれたんだから。そこは汲んであげて欲しいな」
「傲慢で横柄な態度で強引に押し切った。とでも書けば」
「どうしてその様な…上の逆鱗に触れる真似を為さるのですか」
「あの方を潰すお積りで」
「潰れないし潰せないよ。此れしきの痛手じゃ。そもそも死ぬ程嫌いなんだよ」
「何が、でしょう」
「一他国の老害雑魚の分際で。対等な場も設けず。俺の前に立つ度胸も無く。裏でコソコソ嗅ぎ回り。挙句に俺を御しよう等と思い上がる。ソーヤンの様な蛆虫がな!!」
「「…」」
ちょっと脅しすぎたかな。
「スタンを本気にさせない方が身の為よ。若い見た目に騙されちゃ駄目。夫の素性を知るのなら。本当にこの国の未来を案ずるならば。私たちの側に付くべきだと警告して置くわ」
「はい…」
この期に及んでナーナーは否定的。
「でも…」
「君らは他人に期待し過ぎだ。タイラントのヘルメン陛下は何よりも民を想い。治政を講じ。奴隷層の住人を思い遣り。若き王子の規範と成らんと日々努力をされている。
ピエール様もそうだ。先代から王位を引き継ぎ。失策を繰り返すまいと努力され。民や重鎮の声を余さず聞き。その調整に明け暮れている。
この国の末端。中層幹部。上層。その全てが王に甘え。真の主が苦しんでいるのに目を背け。己の足で歩まず。誰かがやってくれるだろうと高を括り。問題を擦り付ける。
何かが違うならば。隠さず意見を述べてくれ」
荒げる声が届いてしまったのか、厨房からも啜り泣く声が響いて来た。
「何も、違いません。ですが!我らも悩んでいるのです。
誰を信ずれば良いのかも解らず。何かを変えようとしても邪魔をされる。それがソーヤンやデブルだと解っていても尚に」
「この国には恥ずかしながら。導き手が居ないのです。
我ら末端の声を。苦しみを。王まで運んでくれる、スターレン様のような御人が。居ないのです」
「いや居ないんじゃない。見えていないだけだ。
ならば俺たちを信じろ。帰るまでに。必ず大きな風穴を上まで開けてやる。だから、俺たちに協力してくれないか」
「「はい!」」
「て言いながら。失敗したら逃げちゃうよ?」
「俺たちには帰る場所が有るもんねー」
聞いていた皆が豪快に転けていた。
---------------
メルドンチャの町はスターレンが言っていた通りの水上都市だった。
正確には太い水路が主要路化され、大小の木造橋が折り重なっている。
町の南を走る運河からの分流で真水。治水が行き届いていないのか町の西側の水は臭く濁っていた。
「色々と惜しいな。もうちょい手入れすりゃ出来そうなもんなのに」
「東側の排水が垂れ流しなのでしょうね。これではお二人にお勧め出来ません。高台から眺めれば景観は良いのでしょうが」
勿体ねえ。
西側から東を仰ぎ見ると観光用、とは限らないが見晴し台が幾つか見えた。
「カーチャの朝市は湿気てたからここの市場で適当に何か買って宿屋で食うか」
グルメな鳩様が居るから外では食えん。
「同行者の為にも」
市場の野菜売り場で今まで見た事が無い物が売っていた。
「この縞々模様の茶黒の大玉は何だ」
「お客さん此処いらの人じゃないね。それは西瓜ってこれからの夏場の野菜さ。家のは種が無い品種でメロンまでは行かないが爽やかな甘みが売りだよ」
「甘いのにお野菜とは面白いですね。果物ではなく」
アローマの囁きで釣れたのか一玉切って試食をくれた。
「おー程良い。真に夏って感じだな」
「瑞々しい。水分補給にも最適ですね。店主のお勧めを四玉買いましょう」
「毎度あり」
「俺ら行商に雇われた従者なんだが。もっと他にマンゴーとかバナナとか南国ぽい物はねえか」
「品定めもやってんのかい。生憎今は果物は品薄さ。
…南西の町で買い占められちまってよぉ」
「南西っていや…クエ・イゾルバだっけか。川から配達してる割りには鮮魚もショボいよな」
店主が溜息を吐いた。
「そうそのクエがね。去年から変な奴らが我が物顔で半占拠しちまってるのさ。だから果物や海の魚が殆ど入らねえんだわ」
「お困りでしょうね。セイムからは運べないのですか」
「セイムは。北西は別の分流でなぁ。川が無くて陸路だけなんだ。だから運んでる間に全部腐っちまうんだよ」
「へぇそうかい」
「国は何を為さっているのですか」
「さっぱり。陳情を上げても誰かが握り潰してんじゃねえのかな」
他の店も大体似たような感想と答えだった。
立地と物流独占。かなり根が深いのが素人でも解る。
---------------
ソプランたちが買って来てくれた西瓜を食べながら本日の報告会を開いた。
「頭が潰れても末端の動きは止まってないのか」
「面倒くさい。その一言に尽きる」
「かなりの人数がイゾルバを占拠してるみたいだな」
「敵の規模が全く見えねえ。町の住人まで怪しく思えて来るぜ」
「同じく」
「組織の人間ならペラペラ内状話さない、と信じよう」
「所でスタンは西瓜に塩掛ける派?」
「めっちゃ甘いから掛けない派」
「塩?がどうしたんだ」
「西瓜に掛けるのですか?」
「水っぽい青い西瓜だと塩をちょっとだけ掛けると甘みが際立って美味しいと言う人も居る」
「生のトマトに塩を振る、みたいな感覚かな」
「これから真夏で屋外作業でたっぷり汗を掻く作業員さんとか。水分と塩分糖分を同時に効率良く摂取するって感じかな」
「ほーん。解る気がする」
「私たちも含めて水分補給は大切です。ここでお茶を作らせて頂いても」
「勿論よ。今夜はお茶作り水筒の入れ替えしましょ」
「久々に麦茶でも作りますか」
炒った麦の籾殻で麦茶を作ったり。使用済みの水筒を入替え洗ったり。お茶作りも中々大変だ。
常温低めを狙うのにグーニャを呼んだらペリーニャたちも遊びに来てしまったりした。
---------------
翌日も交渉と言う名のごり押しに回った。
タイラントの国家権力を存分に振い。中には泣き出してしまう人も居たが叱咤して一切妥協しなかった。
俺がソーヤンならブチ切れる。早ければ明日には動くに違いない。
回った宝石商の5軒は全てソーヤンの系列店だからw
15時過ぎに自室で夕食作りをしているとマリーナが単独で手紙を持って現われた。
「中身はレオから見るなと言われて居ります。今日も美味しそうな匂いを漂わせていらっしゃいますが私はこれにて失礼します」
お腹が鳴る前にサッと帰ってしまった。
「まあ今日のは食べてる暇が有るかどうか解んないし」
「ねー」
昼過ぎにアローマから届いた気になるメール。
「国家反逆、革命軍を名乗る集団が居る模様」
その後のクワンから。
「あたしにお任せ下さい」
セイムオートで何かが起きたらしい。非常に気になる。
気になるが返信が打ち返せないもどかしさ足るや。
代わりにレオハインからの手紙をフィーネと読んだ。
文面は少なく。
「国内唯一の未確認魔物(デリアガンザス山脈を除く)」
生息地は土竜の巣から南の空白地帯。こられは先の西大陸三国連合軍派兵直後に目撃されるようになった。
遠方監視から見えたのは飛翔しない有翼種。何かを守っている様でも有り。力を蓄えている様でも有る。
詳しく調べようとすると姿は掻き消え。その場の痕跡も消えてしまう。離れると再び気配が現われる。
土竜と共に立ち入り禁止区と定めた。
正体不明ではあるが土竜に守られている形なので魔物判定が為された。
名はアドリアーナ。有翼である懸念を考慮し。城壁に対空用ハンガーを配備した次第。
地対空ハンガーは自動で動く分には玩具。専門の部隊が使えば性能が上昇する代物。
最後の文は機密事項に尽き口外は控えられたし。
「西大陸からの襲来に備えてたんじゃなくて。この魔物用だったのかぁ」
「ちゃんと対応策講じてたんだね。評価低過ぎたかも」
「何にしろ要注意事項が増えた。鬼ごっこしてる場合じゃないのかもね」
「南方を掠める運河。地中、地表、空か。あーやだやだ。
ねえ、私たちが来なかったらどうなってたと思う?」
「結末は変わらなかったんじゃないかな。早いか遅いかの差で。俺たちが来なくてもピエールを脅して植民地化されてたと思う」
「嫌な響きね。植民地…」
「この国は奴らに取っても中央大陸に取っても。それだけ重要な場所なのさ」
「西の攻略拠点にも防衛拠点にも成るんだ」
「だと思うよ」
大鍋の火を落としてリビングテーブルで組織の動向を探りながら只管アローマとクワンからの連絡を待った。
---------------
セイムオート入りして宿を取ってからの展開は意外にも早かった。
町は漁港と商船港と軍港が完全に分離され。軍港には立ち入れない。
軍船を買えないかなんて間抜けな質問はする積もりは毛頭無かったが。
「やけに港が静かだな」
「西からの干渉が消えたのなら。もう少し活気が有っても可笑しくはないですね」
町中の商店街の人入りはそれなり。港方面に歩くと極端に減った。誰が見ても明らかだ。
商店に並ぶ品物も日持ちする干し物ばかりで鮮魚を一匹足とも見掛けない。
「行商の付き人なんだが。朝なのに生魚出てねえのは何でだ?」
「こんな町まで行商隊が来るとは珍しいねぇ。いやね。
昨年暮れにやっと漁が解禁されたと思ったら。近海で一角の海洋魔獣が多数目撃されてしまってね。沿岸部で獲れる分だけじゃお外の商人さんに売る分が無いのさ。
漁獲量が減ってる所で王都の大会だろ。ウチらは踏んだり蹴ったりさ」
「そりゃ厳しいな」
「宿や飲食店には卸されているのでしょうか」
「それは勿論。平年の数倍の値段にはなってますがね。
お金に余裕が有るなら高級店に行けば何とか。品数は求めないであげとくれ」
「はぁ。残念だが仕方ねえな」
昼飯も期待は出来ねえか。
「良いご商売を。ご機嫌よう」
「干物で良かったらまた寄っておくれよ」
「またな」
市場の下見調査は適当に。海の魔物ならお嬢に任せるしかない。
商船組合事務所を訪ねて中古商船の有無を聞いた。
「…参考までに。何故船が必要なのかをお聞きしても」
「んなもん簡単だろ。西や遠洋は出られなくても沿岸沿いを北上は出来る。出来るならモーランゼアやメレディスまで足が伸ばせて商機が稼げる。て主は考えてんのさ」
「漁業に関しては素人です故」
「メレディスは兎も角。モーランゼアは陸路では駄目なのでしょうか」
「ちょっと言ってる意味が解らねえな。主の好みは港だ。
陸より遙かに安全な海に道があんのにチンタラ内陸を馬車で走れってか?」
「いえ…」
アローマが二百五十枚の袋をテーブルに置き。
「先程から船の有無をお聞きしているのに見当違いなお話で時間を無駄にされても困ります。有るや無しや。
将又新規建造は可能なのか。中央の誰かの許可がご入り用ならばその方のご紹介を」
それでも尚返答を渋る組合長の男。
袋から十枚ずつ平積みでゆっくり並べてみる。
「金なら心配要らねえ。この町の三つ位楽勝で買える資産は持ってる」
「主の名は」
「契約しねえとそれは言えねえ」
「貴方は質問に質問を返す事しか出来ないのですか?」
「あーあーわーったよ。要は無いんだな。俺たちを苛つかせて欲しい情報を掠め取るって腹か」
「嫌らしいッ」
珍しく敵意を剥き出して吐き捨てた。
何か反論を期待したが組合長は涼しい顔で。
「これは手厳しい。お客様を審査するのも我々の仕事。商人なら当然。情報を聞き出してなんぼです」
話ながら何かを紙に書いた。
「交渉は主が全部普段はやっちまうからなぁ。俺らは慣れてないんだわ」
紙にはこう書かれていた。
「周辺一帯盗聴器塗れだ。見付けても外せない。下手に外せば刺客が飛んで来る。私の服にも」
「今度は主を連れて来るさ。それなら文句ねえだろ」
「楽しみにして居ります。上まで話を通せる御方なら尚良しです」
「精々期待して待ってな」
紙が暖炉で灰になるのを見届けて事務所を出た。
「真珠貝の養殖場だっけか」
「倉庫街の南側でしたでしょうか」
態とらしい演技で海岸沿いを南へ歩いた。
倉庫群を左手に見ても外側で怪しい人影は見付からない。
直ぐに見付かる間抜けも居ないが。借りて来たお嬢の双眼鏡を至近距離で堂々と構える訳にも行かない。
一旦行き過ぎ、だだ広い浜辺を歩いた。
南国よりは涼しいが時期は夏。露店や散歩者を期待していたのに…。
「綺麗さっぱり何もねえなぁ」
「だーれも。居ませんね」
岩場に腰を下ろして暫く海を眺めていると衛兵らしき五人組が声を掛けて来た。
「ここで何をしている」
発言者以外の四人が行き成り腰の剣柄に手を掛けた。
「おいおい外から来た観光客に対してそれはねえだろ」
「真っ昼間に開かれた浜辺で景色を楽しむのが罪なのですか。随分と変わった国ですねぇ」
「いえ…。失礼しました」
頭が片手を挙げ、後ろに控えさせた。
「確かに見ない顔。ここの浜辺は治安も悪く、日暮れ以降は上陸する魔物の目撃情報も有り。住人には接近を控える様指示が下されていまして」
「それで人気が全く無いのか」
「然様で。武装無しで出歩く方は居ないと言っても良いでしょう」
「怖いですわね。私たちは行商の従者。真珠貝の養殖場を見て来るように仰せ付かりました。ご同行をお願いは出来ませんでしょうか」
「お詳しい…。しかしそこは完全に立入禁止区。
遠方から眺めるだけに留めて頂きたい。我らは巡回の任務中です故。特定の方の警護は不可能です」
捕まりたいならご勝手にってか。
「湿気てんなぁ。海が怖いってなら軍部の軍船は何遊んでんだよ」
「お答えする立場には在りませんが。砕いて言えば海の底からの攻撃に対抗する手段を持ちません。飽くまで目撃情報や漁船が直接被害を受けた場合のみ動きます」
そこはのんびりしてんだな。
喧嘩売る積もりは無いんで巡回兵たちの後ろを歩いた。
「…何故後ろを付いて来るのですか」
「ケチ臭い事言うなって。中心街手前まででいいからよ」
「心細く、迷子になっても嫌です」
「いやしかし…。複雑な倉庫街を歩かれるよりは海岸沿いを北上した方が遙かに安全確実だと思うのですが。浜まで来られたのですよね。引き返すだけでは?」
尤もな意見。
「治安が悪いって聞いて嫁が怯えてるじゃねえか。巡回なら最後は駐屯所に戻るんだよな。邪魔なんてしないからキリキリ歩け」
なんでこいつら偉そうなんだ。て顔だな。
只の巡回に五人も必要なのか疑問だったが暫く集団後方を付いて回った。
整地された間隔。太い路線は馬車二台が余裕で行き違える程度。狭い路地は人二人てとこだ。
道路は整えられていても倉庫本体の大きさがバラッバラで数本内に入ると真に迷路。
幾つか角を曲がると方向感覚を失った。頭ん中に地図を書いてても無駄だった。何かの認識阻害道具が張られていると見ていい。
「はぐれないようにご注意を。もし見失ったら太陽と影を目印にするか、太い道を真っ直ぐに進んで下さい」
「ガキじゃねえ、て虚勢張るのは筋が違うか。素直に聞いてやる。逃げ足には自信有るから嫁さんとだけ離れなければそれでいい」
腕に絡む力が強まった。
若干白い眼を向けられた。ここはデートスポットじゃないとでも言いたげな目。
「あんたらどうして倉庫の中は見ねえんだ」
「中まで検める権限は無いのです。路地裏や外に何かが転がっていないかと見慣れぬ集団が屯してないかを見るだけで充分です」
外回りだけでもかなりの手間。職務怠慢ではないわな。
半時程歩いた所ではぐれた振りして離脱した。
倉庫街のど真ん中で。
衛兵隊が後ろを振り返った時には二人の姿は消えていた。
「言わんこっちゃない…」
「どうされますか隊長」
「捨て置け。怪しくはあったがあの二人は相当な手練れに違いない。胸当て以外は上当品に見えた。芝居めいた物腰柔らかい話し振り。何一つ聞こえない足音。
誰かの従者と言うのも強ち嘘でもないだろう」
「ですが、ここは」
「下手な言動は慎め。矢で射られても知らんぞ。我らが導いた訳ではない。勝手に付いて来ただけだ」
難しい顔をする部下たちに隊長として余裕を見せた。そんな自身は背中に嫌な汗が流れていた…。
周囲に潜む者たちよりも遙かにあの二人を脅威に感じて。
「クワンティ。耳を撫でるのは止めて下さい。腰が砕けてしまいます。…こ、この倉庫が怪しいのですね」
「クワ…」
小声で遣り取りをしていた。
さっき無言でしがみ付いて来たのは擽り攻撃を耐えていたからなのか。今度俺も試してみよう。
服の上から爪を立てられた。顔に出てたらしい。
なんで胸当ての防御を貫通してんのかは解らねえが。
「痛えよ。ちょっと離れてろ」
「み、耳だけは堪忍して下さい」
離れた所で透明化の首飾りを着け盗賊道具を取り出した。
「経験は有るのですか?」
「昔囓った程度にな。これは魔力を込めるタイプだから並の施錠なら楽勝だ」
「褒められませんが今は置きます」
クワンティが示した倉庫の裏に回り込み。中の気配が離れた瞬間に鍵を開けて潜入を開始した。
各所の見張りの間を擦り抜け。中階段から二階に上がった。
風と臭いが抜けた事で首を捻っていたが何とか気付かれずに入り込めた。
庫内は吹き抜けの去らし天井。骨組みが剥き出して身を隠せる場所は無い。
二階踊り場から壁伝いに続く外周路。奥には事務所フロアが見えた。
事務所には行かずに対岸の据え置き棚の裏に身を潜めて庫内一階の様子を伺った。
ざっと四十の集団が一人の女を囲んでいた。
荷物の多くは武装と食料。こいつらは戦争でも始める気なのか。たったこんだけで?
敵か味方かは解らねえが頭は悪そうだ。
庫内の中心に立つ女がお立ち台に上り喋り出した。
「我らは人民解放軍。王都の大会も近い。開催と同時に浮かれた奴らの首を狩りに行く。今の内に心を決めておけ。
この同行は強制ではない。出来ないならここへ残り町を守り抜け。
現在の融資者と同行希望者は。ビッテロン答えよ」
ビッテロンと呼ばれた口髭の男が答えた。
「融資者は十五。資金と共に武装も潤沢に集まりました。しかしながら…同行希望者は寄せ集めの三百強。約七割が戦闘経験の無い一般民です」
アローマのポーチを叩いて王都に連絡させた。
「私の人徳が窺い知れるな…。逆に見れば動き易い」
冷静なのは結構だがあの女は端から死ぬ気だ。
「マリス様。やはり妹君に助力を求められては」
「為らぬ。折角自由の身に成れたのだ。今更マリアを引き戻してどうする」
妹がマリア…。ならあれが組織に殺された筈の姉。
「マリアは優し過ぎる。汚い政治には向いていない。伯父上に絡み付く三匹を害し、私が罪を背負わねば何の意味も無い」
三匹。セザルドが死んだ情報が届いてないのか。それとも別の奴か。気になるが…。
頭を潰しただけで末端が無傷ではそれこそ意味が無い。
特に邪神教団は未知数。
この中にだって裏切り者は居るかも知れない。
大会直前まで放置するか。今直ぐ飛び込んで説得するか判断に悩む。
仲間に引き入れられたらこれ以上無い有力者。マリアを連れて来られれば説得は容易に思える。
だがマリス自身が敵側だったら混乱の坩堝。
材料が乏しいな。一旦離脱しようとしたその時。
「上に居る者は誰だ!」
離脱すれば場所を変えられる。
透明化したまま下から見える端に立った。
「透明化か…」
上位者並のスキル持ち。彼女は裸眼だった。
少なくとも俺にはそう見える。
「マ…、総隊長ここは危険です。お逃げ下さい」
ビッテロンの叫びと共に周囲が身構えた。
「見られたからにはもう無駄です。手を下ろしなさい」
動きはいい。だがお上品過ぎる。見たとこお姫様を守る騎士団の精鋭部隊、か。
さっきまでの話が本当なら実力部隊の半分がここに居る計算になる。
アローマに手を向けステイを指示して首飾りを外した。
「お話出来る余力はあるかい?お姫様」
「…内容に依ります。名を名乗りなさい」
鑑定眼は持っていないような発言だ。
勘が鋭いか陽動か何方か。
こちらを睨み付けて微動だにしない。肝は座ってる。
マリスを守ろうとする群の前に飛び降り。
「とある人物の従者のソプランだ。カスみたいな邪神教団とは関係無い」
安い挑発だったが誰も反意は示さなかった。
マリスが舌打ち。
「その名は聞きたくありません」
今の反応を取り敢えず信じてやるか。
「俺が聞いた話じゃあんた死んだらしいが。なんでピンピンしてんだ?」
「答える必要は有りません」
「連れねえなぁ。まあいいや。なああんた俺らと手を組まねえか。このまま乗り込んでも誰も倒せないし。王都が綺麗さっぱり消し飛ぶぜ」
「…何故に、ですか」
「お互い信用が足りねえな。何ならマリア姫をここに連れて来てやろうか?」
「止めなさい!妹は巻き込まないと。先程の話を聞いていたのでしょう」
「巻き込むも何も、もう一人で突っ走ってるぞ。あんたの仇を取って国を守るんだってよ」
多少周りが響めいたがマリス自身は冷静だった。
「馬鹿な子…。それでは何の意味も無いじゃない」
「それは説得したから問題ねえよ。只ピエールが崩御したら即位するらしいからどうだかな」
「くっ…」
「代わりに名乗り出るか?これから反乱起こす重罪人が王位なんて取れるのかねぇ。
マッハリアとは状況が違い過ぎる。首謀者が居座っても支持は集まらねえ。退いても宰相や元老院の爺を邪魔だからって温い理由だけでその手で殺せば支持者は誰も居なくなる。
そこまで今の支持者に説明したか?あんたの口から」
「…」
「さっきの感じだと自分で動いてねえだろ。目立つって理由でかは知らんが。
端から死のうとしてるあんたはさぞ満足だろうよ。王都崩壊の罪まで背負わされても死に逃げされたら誰も文句は言えねえし。気持ちいいだろうなぁ」
「違います!」
「何が違うのかここに居る奴らに言ってやれよ。一緒に死んでくれってな!!」
「…」
「あんたの覚悟はその程度か。クーデターの後の事は考えてるのか。賛同者や参加者だけじゃねえ。失敗してもしなくてもその家族まで全員打ち首だ。
罪無く死ぬのは何人だ。内乱で出る難民は何人だ。
モーランゼアやアッテンハイムに引き取って貰うのか?
周辺の小さな町だけで吸収し切れるのか?
素人でも解る事を何処まで考えてんのか聞かせろ」
「考えては、います…」
「あー別に俺らは構わねえぜ。クワンジアがどうなろうと知ったこっちゃねえ。明日のこの時間に主をここに連れて来てやる。そいつの名はタイラントのスターレンだ。
誰も居なかったらあんたらは切り捨てる。それまでにここに居る奴ら以外に説明しとけ。出来れば自分の口でな」
「はい…」
堂々と背を向けても襲って来る奴は居なかった。
---------------
ソプランは夕食を食べながら笑って報告してくれた。
「船の方は駄目っぽいな。優先度は何故か生きてたお姫様の方だ」
「ソプランったらマリス様にお説教し出したのですよ」
「どうにも気に入らなくてな。自殺志願者に道連れにされる奴らが可哀想でよ」
「ありがと。船は最悪ラフドッグから持って来るからまだスルーでいいや。それよかこっちのソーヤン突いたから時間的に被りそうだな…」
「もし遅めに来たら私が対処するわ。説得はスタンだけで充分よ」
「邪神教小馬鹿にして煽っても襲って来なかったからある程度は信用出来ると思う」
「ふむ。問題はマリアの立ち位置か」
「急にお姉さん生きてました!て言ったらパニックよねぇ」
可能なら事前に引き会わせても良い…寧ろそうするべき。
「個人的には会わせるべきだと思うけど。嫌だって言ってるのを無理に会わせるのもなぁ。女子的にはどう?」
「私なら会いたいかな。このまま生き別れたらきっと後悔する」
「私のような特殊な状況でないのなら。共に過ごした時と記憶が有るのなら。辛いと思います」
ソプランは渋い顔をして反論した。
「直接話した感覚だと会わせるのは早えな。マリア姫を誘き出す罠の線は捨て切れない。どうやって死んだ事にしたのかは聞いてねえ。本人からもマリア姫からも。
俺たちが居るのに気付いていながらペラペラ内状喋ってたのも気になるし。一般的な揺さ振りにも反論や意見は一つも返さなかった。
死ぬ覚悟や信念て格好良く極めちゃいるが自分では動いてねえ。知人と会えばボロが出るとか。
そこの整合性が取れない内は偽物かも、て考える」
「ほー。その線も充分有り得るな。両者の情報照らし合わせてからにしよっか」
流石はソプランだ。
「それ言われちゃうと反論出来ないなぁ。部下のビッテロンが何者なのかも怪しいし。その辺りから探って行きますか」
「だなぁ」
「思い返すと私にも当然気付いていたのに全く触れなかったのも妙ですね」
「罠に見えて来るだろ。逆に罠ならお前らのお人好しな性格が認識され始めてるって訳だ。おめでとー」
「目出度くねーし」
何時も以上にドライに行けってか。
宿ではゆっくり風呂にも入れないと言うので2人とクワンに先に入って貰った。
程良く冷えたお茶を用意しながら。
「セイムオートとの時差は1時間ちょい。普通ならソーヤンと被る筈は無いけど」
「被せて来たら連絡取り合ってる。罠確定ね」
「目的は…反乱分子の排除かな」
「敵さんにも中々の策士が居るわね。セザルドが死んで動きが止まらないのも納得」
---------------
予想を裏切りソーヤンは午前中に面会を求めて来た。
「繋がりの線は消えたけど」
「まー喧嘩売ってるわねぇ。ここに来るんじゃなく呼び出しとは」
連絡を持って来たホースキも困り顔。
「申し訳ないですが…。繋がりとは?」
「こっちの話。色々有るのよ商人として」
「サクッと終わらせてお昼にしよう」
拒否すると後に響くので素直に王宮隣の議会塔の一室に招かれた。
鼻で笑ってしまう内装。
純金の壺やらティーカップやら絵画やら。白亜の棚の片隅にはスタプの彫像も立っていた。
お買い上げは嬉しいが出来れば生前に入れて欲しかった。
応接用ソファー席にどっかり座る。
若干の座り辛さを感じてお茶を運んで来たナーナーの目の前で盗聴器を探った。
「直ぐにソーヤンが参ります。粗茶ですがご緩りと」
陶磁器のカップを置き、ソーサーの端を指でなぞり耳元を掻揚げる仕草を見せた。
彼女の耳には受信器がしっかりと。
探すのも無駄なのねー。
2人で溜息を吐いてコインを仕舞ってお茶を飲んだ。
「「まっず…」」
苦くて渋いだけのお茶。
「センブリ茶なの?」
「嫌がらせかしら…」
「フォローしますそのお茶はとソーヤンの好みです。お持て成しと嫌がらせ、半々ですかね。私共は好みませんが本人は頭がスッキリするから良いのだとか」
「まー好きな人は好きなのか」
「喧嘩売ってる訳でもないと。ご厚意と受け取って置くわ」
ホースキにマリーナへの伝言を頼み、待つ事数分。
ソーヤンはもう一人のお爺ちゃんと護衛と見られる青年を連れて上座に腰掛けた。
「玉座でお会いして以来ですね。ソーヤン殿と…」
隣のお爺ちゃんが答えてくれた。
「副総長のオシオイスと申す。後ろは委員専属の護衛長のブーリだが気にしなくても良いぞ」
玉座でも確かにソーヤンの隣に居たっけ。
ブーリは無言で一礼。
「ソーヤン殿。本日のご用件は何でしょうか。王都内も粗方回り尽くし本戦まで時間が有る故。西か南北の隣町まで足を運ぼうとしているのですが」
運ばれて来たセンブリ茶をグイッと飲み干して。
「ですが、ではないわ!!」
うっせー。耳塞いでおいて良かった。
「その様な大声を出されなくても聞こえます」
「お耳が遠いのですか?」
「そこまで耄碌はしとらん。今日は貴殿らを国賓としてではなく一商人として招いた。心当りは有るな」
「全く身に覚えが有りません」
「私にも」
「嘘を吐くな。わしの系列店だけを狙って商品を買い叩いたではないか!」
「あんな粗悪品を販売されている店がご高名なソーヤン殿の系列であったとは驚きです」
「見る人が鑑定すれば粗悪品だと直ぐに解る品質。
クラック、濁り、気泡、水泡、端欠け。素人目にも明らかでした。半額でも譲歩した方です。実質値は2割が良い所でしたが何か?」
「そ…粗悪品だと」
「店で一番も見せて貰いましたが変わらぬ低品質。温情として二番を土産物にしたまで。あれらを粗悪品と認めないのでしたらソーヤン殿の直営店も大した事は無さそうですね。確か本店は北の隣町マンティニでしたか」
「どうしてそれを」
「ギルドに問い合わせました。大会前に回ろうかなと」
「見たかったダイヤモンドが王都に無いんですもの。仕方が有りません」
「魂胆は読めた。それで今回の挑発行動か。しかし残念だが本店に行っても主要品はもう無い。北の二国間との交渉材料に使い果たした」
そこに使ったなら文句は言えない。
「別に構いませんよ。どうせ大会まで暇ですし。丁度聖女様の隊もマンティニの教会を訪れるとか聞きましたので」
「普通にお買い物をしたいだけです。ご心配なら再度護衛を付けられては」
「…もう良い。あちらの護衛だけで充分だ。其方らは買い専門。定価で買付して転売目的でもない。真に食糧品と土産物にしか興味が無いのは理解した。石ころも買い叩ける迄の財を持つ。
純粋な疑問なのだが。表立った商いはしていないのにどうしてそこまでの財が得られるのだ。マッハリアからの支援なのか、ロロシュ財団からの融資なのか、タイラント王家からの援助なのか。何れなのだ」
良い話が有りそう。
「一部正解です。一番大きいのは皆さんに認知されつつある歯ブラシ。2つ目はここでも流行り始めた冷蔵庫。
3つ目はカメノス商団の医薬品や食用品や化粧品。それら全てが俺と妻の発案だとしたら?」
「今の役職手当は多く有りません。お給金の殆どは奴隷層や孤児院に振り分けています」
「それは、真か」
「嘘言ってどうするんですか。裏でヒッソリ自由にするのが趣味みたいなもんです」
「別段こちらで商売などしなくても。寝て起きるだけで預金は膨らむ一方。地方で買い物しても追い付きません」
「良く解った」
ソーヤンとオシオイスだけでヒソヒソ話し始めた。
何が来るのかと構えていると。俺たち以外全員部屋の外に出し、ブーリに何かの指示を出した。
室内に4人だけに成った後でオシオイスが話し始めた。
「突然で申し訳ないが。来週予定のバザーに参加して貰えないだろうか」
「そう申されると言うのは」
「私がここの元締めだ。貴殿らがタイラントのバザーに参加していた情報は得ている。財布は財団かと見ていたが自分らでも買えたのだな」
樹液と欠月弓以外はね。
「お察しの通りですが。元締めが内部情報を漏らしても良いのですか?」
「非常に危険だが。本部や各地との連絡網が在庫を手放せと言う言葉を最後に途絶えてしまった。
昨年までの主要品は殆どセザルドが買い占める状態が続いていた。奴亡き今が絶好の機会。来週にはモーランゼアの王族団とメレディスの特使団も王都入りする。
在庫を抱えたままでは当家が抹殺されてしまうからな」
「一時期はわしも対抗した。が、競りでセザルドが率いた意味不明な教団組織の資金力に押し負けた。一部を国庫から引き出しても尚上を行かれてしまった」
「これ以上奴らの好きにはさせたくない。かと言って前回参加者の下部組織は外せない。そこで貴殿らに恥を忍んで頼みたい。と言う訳だ」
有用な道具を組織に渡したくない。その点利害は一致している。
「幾つか条件と質問をしても宜しいですか?」
「可能な範囲ならば」
両者同意の下。
「前回までにソーラン殿の派閥から参加していた同じ顔触れでの参加を。下手な根回しは不要で。
質問は過去の最高落札額と今回の競売品の最高初期設定額を教えて下さい」
「最後の参加は前々回だが。一回飛ばし程度なら問題は無い。貴殿らとは面識は無い人員ばかりで邪魔には成らん」
「過去最高は三百八十万。同じ回で二百六十万も出た。
今回の最高設定は五万。次点で一万だ」
金持ってんなぁ。
「その2点を取りに行くか…。他にも気になれば落とします。次点の1万の品で敵組織を炙り出しますんでソーラン殿の部下にも適当に競りに参加する様伝えて下さい」
「承知した」
「同じく。警備は内外共に例年の三倍強。外野は気にせず兎に角参加を頼む」
「良いでしょう。ソーラン殿とは石を挟んで商談をするのかと考えていましたがこの様な形とは唯々驚きです」
「わしもだ」
「因みに真珠貝の養殖もソーラン殿の管轄ですか?」
「うむ、相違無い。見識が広いな」
「これでも商人の端くれですから。全て上手く事が運んだら真珠のお話でも聞かせて下さい」
「純粋に私が好きなんです。タイラントでは真珠が流行り始めているんですよ」
「ほぉ。それは良い話を聞いた。長生きはしてみるものだ」
意外な形で座談会は終わった。
自室に戻りフィーネとお茶をしながらマリーナの到着を待つ。
「オークションのお金はどうするの?2人合わせても200万弱じゃなかったっけ、今」
「大体その位かな。心許ない気がするからロロシュ爺ちゃんに融資お強請りするよ」
あんまり使いたくない手だが足りなくて買えなかったでは本末転倒で恥ずかしい。
「しょーがないかぁ。来年だったら余裕だったのにね…。
今頃は寝てる時間帯だから夜にメールする。それよりラザーリアに行きたいんじゃなかった?」
「あー。どうすっかなぁ。悩み中。遊びに行くとは予告してないし」
「私もレイルのとこ行かなきゃいけないかも。ソラリマ、彼女のご機嫌は?」
『今の所特には何も…。気の所為かここに来たがっている気配が』
「「え!?」」
「それは全力で止めてくれ。今来られたら大混乱だ」
「結局様子見に行かなきゃ駄目なのね」
「前にショートカットを勧めるって話はどうなったんだっけ」
「髪は女の命だから嫌だって。気持ちは解るけどちょっとだけ切るなら気分転換にも成るよって粘ったら。何と髪の長さまで変幻自在だったの。
なら洗う時だけ短くしたらいいじゃない?て言ったら、それは名案じゃ!と成りました」
「今まで気付かなかったのか…」
変な所で天然なんだよなぁ。
先にお昼にでもしようかと考え始めた頃にマリーナが自室を訪ねに来た。
食堂で一緒にお昼を食べた後部屋に戻って打ち合わせ。
現在マリーナはお隣隊のマンティニ視察準備で奔走中。
「忙しい時に呼び出して悪い。先に言うと俺たちもペリーニャ隊に同行してマンティニに行く事にした」
「暇すぎて身体が鈍るから」
「えぇ…それは先に言って欲しかったです。まあお二人の方は上に報告するだけで済みますが」
「本戦まで最低でも2週間は有るし。ずっと王都に居る訳ないじゃん」
「ごめんね。謝り序でに不躾な質問投げても良いかしら」
「何でしょうか」
「お姉さんの名前と死因に付いて教えて欲しいの。ずっと気になってて。思い出したくないなら無理には聞かない」
当然かなり嫌な顔をしていたが。
「…名はマリス。今から二年と少し前。例の組織と思われる集団に城から連れ去られました。
直ぐ様救出部隊が編成され。私も新兵の側近として部隊に参加。二月位駆け回り漸く足取りが掴め…
西海岸の端で追い付きましたが間に合わず。姉は崖から身を投げました。ショックでした…。
半ば呆然とする中で虚を突かれ、部隊は壊滅。その場で散り散りに。運良く私が居た隊は難を逃れて敗走帰還。
今にして思えば姉は、私の為に身を投げたのかもと。私さえ参加しなければ別の選択肢も有ったのではと後悔しています」
だとしたら辛い選択だ。
慰めの言葉は逆に追い詰めてしまう。
「思い出させてごめん。因みにその時の救出部隊は何人生還出来たの?」
「私も気が動転していたのでハッキリとは申せませんが三十名以上は居たと思います。出兵したのは凡そ二百。
部隊長だったビッテロンも行方知れず。散々たる結果でデブルに叱責の上激しく罵倒された記憶が有る、ような無いような。殆ど誰も聞こえてはいませんでしたが」
辻褄は合うな。
もっと詳細を聞きたいがこれ以上はマリアの傷を抉るだけで誰も得しない。
「マンティニから戻ったら何か好きな物を御馳走する。町中のレストランでも何処でも良いから考えて置いて」
「でしたらマンティニ名物のチェリーパイをお土産に。私たち家族の、僅かな思い出の品です。皆さんとご一緒に食べてみたいです」
「解った。必ず買って来るね」
「はい!」
最後は笑顔に戻ってくれた。家族の思い出か…。
「お隣のご出発は明後日からだそうです。明日お暇なら行き付けのお店でランチは如何でしょう」
「おーいいね。丁度西へ行かせた2人も戻る頃だし」
「行きましょう」
これから従者と合流して打ち合わせするから夕方まで留守にすると伝えてマリーナには退出願った。
原石売り、加工売り、装飾品売りなど。
原石売りの店は1軒のみ。部屋に飾る感覚は乏しい。
掘り出し物のパワーストーンが有るかもと最後の楽しみに取って置いた。
変な交渉はしないスタイルを通して監視役は遂に2人だけになった。
ホースキとナーナー。2人は兄妹で仲良くソーヤン直下の部下。役職を与えるなら秘書官クラス。
隙あらば離れようとする2人を捕縛して隣に据え置き商店を回った。
「スターレン様。何故我らを隣に置くのでしょう。居てはお邪魔でしょうし」
「報告なら適当に。毎度の如くお買い物上手とだけ上げますから」
「もう顔見知りだけど。余り知らない人から遠目に監視されるのは好きじゃない」
「監視なら隣に居た方が何をしているか良く見えるでしょ。それとも何?私たちは命を狙われているから近くに居たくない、とでも言うのかしら」
「い、いえ!決してその様な事は」
「滅相も無い」
「だったら文句言うなよ。こっちは護衛減らされて心細いんだ」
「交渉決裂して傷害事案が発生したらどうしてくれるの?
お茶を出されても毒味してくれる人が居ないから飲めないのよ。国属なら武芸も嗜んでるわよね。護衛が減った分はきっちり仕事為さい」
「盾として隣に置くんだからさ。しっかり周囲も監視してくれなきゃ困るよ」
「「はい…」」嫌な仕事引き受けたって顔だ。
意気消沈ながらも職務を全うしようとする姿勢は評価出来るがやはり何かに怯えているようにも見えた。
2人の態度は無視して交渉開始。
だってまだ1軒目の加工卸店だもん。
何れも今一な品揃え。
粒はそれなりに大きいが目にしてクラックが入っていたり手にして心惹かれる物とは巡り会えなかった。
「ここってソーヤン殿が元締めやってるって聞いたけど。
俺たち馬鹿にしてるのか。タイラントが下に見られてるのかどっち?」
「こんな粗末な商品で何時も商売してるの?素人でも解る傷や泡が見えるのにこの値段は無いよ。お客様に失礼だと思わない?」
店主の男はキモい脂汗を垂らして弁明した。
「も、申し訳御座いません!正直に申し上げれば…」
後ろのホースキたちに視線を送り。
「大粒の良品は全てソーヤン様が、独占しておりまして。
値付けもお上が適当に…」
可哀想に。
「後ろの2人は気にしないで。どうせこんなの報告したら自分たちがクビだから」
小さな悲鳴が聞こえた。
「上手く考えてるよ。夫婦だったら裏切りも有り得るけど仲の良い兄妹なら家族包みで抱えて置けば離反の確率は低い。クビになったら国内では二度と働けない。
ソーヤンの保有資産も桁外れで金銭では揺さ振れない。
直球で聞くけどソーヤンの弱みって何か知らない?」
「か、勘弁して下さい。本物の生首が飛ばされます」
「ごめんごめん。知ってても言える訳ないか。じゃあ一番高い商品を上から3つ。9割引きで売ってよ」
「は?」
「粗悪品なんだから買付と運搬費用合わせても1割にも満たない。それを薄利で売れって言ってんだけど?」
損はさせてない。少なくとも店主の腹は痛んでない。
「そんな事をすればソーヤン様に」
「直接抗議に来るだろうね。俺の所に」
「それが狙いだったりするから大丈夫よ。私たちに脅されたって言えば良いじゃない。もしも損足が出るなら1.5割でどうかしら」
根っからの守銭奴なら必ず動く。商売人の爺は大概そう言う生き物。使っても使っても全く減らないロロシュ氏は例外です。
めっちゃ悩ませてしまった。見る見る汗がドバドバと。
「ホースキ殿。これは内密に。我々のような末端が主に矢を射る行為なのは承知の上で。お売りしましょう。
但し一.七割が限度です。上納金と僅かな利益の限界値なんです。やるなら五店舗全てで均一に。原石店では難しいでしょうが通常レベルの値引き交渉は出来ます。
そして。我々を家族を含めて守るとお約束して下さい。飲めないのであれば交渉決裂と成ります」
現時点でその確約は出来ない。
「即答が厳しい条件だね。じゃあ二番目に高い商品を半値で買い取ります。それを5店舗全てで遣ります。それだけでもかなりの打撃になる。動かなかったら一番高いのを後日買いに来ます。値段交渉はその時に」
心底ホッとした表情で汗をハンカチで拭い。
「解りました。直ぐにご用意致します」
「税金に加えて上納金なんて古くっさい制度止めちまえって説教してやりますよ」
「期待して居ります、スターレン様。少ない交渉で内状を丸裸にされてしまうとは…。私もまだまだ勉強が足りませんね。恐れ入りました」
「ご謙遜を。裏の組合長はブルートさんでいいですか?」
「…何のお話かは存じませんが。次の機会が有るならその話も可能かと」
さっきまでの態度とは別人。汗は演技だったか。
「俺も久々に有意義な交渉が出来ました」
購入後、軽く握手を交して退店。
もう1つの加工卸店でも同じ交渉が成立。
4人で宿舎の食堂でランチ。
ホースキとナーナーが同じ質問を繰り返した。
「どう上に報告すれば良いのか迷います。して殊更に我らを交渉の場に置かれたのか。理解に苦しみます」
「今もこうしてお食事を共にするなど。正気の沙汰とは思えません」
「食事は大勢の方が楽しいじゃん。報告は今日明日纏めて上げてくれると嬉しい。
宝飾店は時間掛かりそうだから。内容は俺たちだけ批判的に書けば書き易いでしょ。商人さんが覚悟を決めて話してくれたんだから。そこは汲んであげて欲しいな」
「傲慢で横柄な態度で強引に押し切った。とでも書けば」
「どうしてその様な…上の逆鱗に触れる真似を為さるのですか」
「あの方を潰すお積りで」
「潰れないし潰せないよ。此れしきの痛手じゃ。そもそも死ぬ程嫌いなんだよ」
「何が、でしょう」
「一他国の老害雑魚の分際で。対等な場も設けず。俺の前に立つ度胸も無く。裏でコソコソ嗅ぎ回り。挙句に俺を御しよう等と思い上がる。ソーヤンの様な蛆虫がな!!」
「「…」」
ちょっと脅しすぎたかな。
「スタンを本気にさせない方が身の為よ。若い見た目に騙されちゃ駄目。夫の素性を知るのなら。本当にこの国の未来を案ずるならば。私たちの側に付くべきだと警告して置くわ」
「はい…」
この期に及んでナーナーは否定的。
「でも…」
「君らは他人に期待し過ぎだ。タイラントのヘルメン陛下は何よりも民を想い。治政を講じ。奴隷層の住人を思い遣り。若き王子の規範と成らんと日々努力をされている。
ピエール様もそうだ。先代から王位を引き継ぎ。失策を繰り返すまいと努力され。民や重鎮の声を余さず聞き。その調整に明け暮れている。
この国の末端。中層幹部。上層。その全てが王に甘え。真の主が苦しんでいるのに目を背け。己の足で歩まず。誰かがやってくれるだろうと高を括り。問題を擦り付ける。
何かが違うならば。隠さず意見を述べてくれ」
荒げる声が届いてしまったのか、厨房からも啜り泣く声が響いて来た。
「何も、違いません。ですが!我らも悩んでいるのです。
誰を信ずれば良いのかも解らず。何かを変えようとしても邪魔をされる。それがソーヤンやデブルだと解っていても尚に」
「この国には恥ずかしながら。導き手が居ないのです。
我ら末端の声を。苦しみを。王まで運んでくれる、スターレン様のような御人が。居ないのです」
「いや居ないんじゃない。見えていないだけだ。
ならば俺たちを信じろ。帰るまでに。必ず大きな風穴を上まで開けてやる。だから、俺たちに協力してくれないか」
「「はい!」」
「て言いながら。失敗したら逃げちゃうよ?」
「俺たちには帰る場所が有るもんねー」
聞いていた皆が豪快に転けていた。
---------------
メルドンチャの町はスターレンが言っていた通りの水上都市だった。
正確には太い水路が主要路化され、大小の木造橋が折り重なっている。
町の南を走る運河からの分流で真水。治水が行き届いていないのか町の西側の水は臭く濁っていた。
「色々と惜しいな。もうちょい手入れすりゃ出来そうなもんなのに」
「東側の排水が垂れ流しなのでしょうね。これではお二人にお勧め出来ません。高台から眺めれば景観は良いのでしょうが」
勿体ねえ。
西側から東を仰ぎ見ると観光用、とは限らないが見晴し台が幾つか見えた。
「カーチャの朝市は湿気てたからここの市場で適当に何か買って宿屋で食うか」
グルメな鳩様が居るから外では食えん。
「同行者の為にも」
市場の野菜売り場で今まで見た事が無い物が売っていた。
「この縞々模様の茶黒の大玉は何だ」
「お客さん此処いらの人じゃないね。それは西瓜ってこれからの夏場の野菜さ。家のは種が無い品種でメロンまでは行かないが爽やかな甘みが売りだよ」
「甘いのにお野菜とは面白いですね。果物ではなく」
アローマの囁きで釣れたのか一玉切って試食をくれた。
「おー程良い。真に夏って感じだな」
「瑞々しい。水分補給にも最適ですね。店主のお勧めを四玉買いましょう」
「毎度あり」
「俺ら行商に雇われた従者なんだが。もっと他にマンゴーとかバナナとか南国ぽい物はねえか」
「品定めもやってんのかい。生憎今は果物は品薄さ。
…南西の町で買い占められちまってよぉ」
「南西っていや…クエ・イゾルバだっけか。川から配達してる割りには鮮魚もショボいよな」
店主が溜息を吐いた。
「そうそのクエがね。去年から変な奴らが我が物顔で半占拠しちまってるのさ。だから果物や海の魚が殆ど入らねえんだわ」
「お困りでしょうね。セイムからは運べないのですか」
「セイムは。北西は別の分流でなぁ。川が無くて陸路だけなんだ。だから運んでる間に全部腐っちまうんだよ」
「へぇそうかい」
「国は何を為さっているのですか」
「さっぱり。陳情を上げても誰かが握り潰してんじゃねえのかな」
他の店も大体似たような感想と答えだった。
立地と物流独占。かなり根が深いのが素人でも解る。
---------------
ソプランたちが買って来てくれた西瓜を食べながら本日の報告会を開いた。
「頭が潰れても末端の動きは止まってないのか」
「面倒くさい。その一言に尽きる」
「かなりの人数がイゾルバを占拠してるみたいだな」
「敵の規模が全く見えねえ。町の住人まで怪しく思えて来るぜ」
「同じく」
「組織の人間ならペラペラ内状話さない、と信じよう」
「所でスタンは西瓜に塩掛ける派?」
「めっちゃ甘いから掛けない派」
「塩?がどうしたんだ」
「西瓜に掛けるのですか?」
「水っぽい青い西瓜だと塩をちょっとだけ掛けると甘みが際立って美味しいと言う人も居る」
「生のトマトに塩を振る、みたいな感覚かな」
「これから真夏で屋外作業でたっぷり汗を掻く作業員さんとか。水分と塩分糖分を同時に効率良く摂取するって感じかな」
「ほーん。解る気がする」
「私たちも含めて水分補給は大切です。ここでお茶を作らせて頂いても」
「勿論よ。今夜はお茶作り水筒の入れ替えしましょ」
「久々に麦茶でも作りますか」
炒った麦の籾殻で麦茶を作ったり。使用済みの水筒を入替え洗ったり。お茶作りも中々大変だ。
常温低めを狙うのにグーニャを呼んだらペリーニャたちも遊びに来てしまったりした。
---------------
翌日も交渉と言う名のごり押しに回った。
タイラントの国家権力を存分に振い。中には泣き出してしまう人も居たが叱咤して一切妥協しなかった。
俺がソーヤンならブチ切れる。早ければ明日には動くに違いない。
回った宝石商の5軒は全てソーヤンの系列店だからw
15時過ぎに自室で夕食作りをしているとマリーナが単独で手紙を持って現われた。
「中身はレオから見るなと言われて居ります。今日も美味しそうな匂いを漂わせていらっしゃいますが私はこれにて失礼します」
お腹が鳴る前にサッと帰ってしまった。
「まあ今日のは食べてる暇が有るかどうか解んないし」
「ねー」
昼過ぎにアローマから届いた気になるメール。
「国家反逆、革命軍を名乗る集団が居る模様」
その後のクワンから。
「あたしにお任せ下さい」
セイムオートで何かが起きたらしい。非常に気になる。
気になるが返信が打ち返せないもどかしさ足るや。
代わりにレオハインからの手紙をフィーネと読んだ。
文面は少なく。
「国内唯一の未確認魔物(デリアガンザス山脈を除く)」
生息地は土竜の巣から南の空白地帯。こられは先の西大陸三国連合軍派兵直後に目撃されるようになった。
遠方監視から見えたのは飛翔しない有翼種。何かを守っている様でも有り。力を蓄えている様でも有る。
詳しく調べようとすると姿は掻き消え。その場の痕跡も消えてしまう。離れると再び気配が現われる。
土竜と共に立ち入り禁止区と定めた。
正体不明ではあるが土竜に守られている形なので魔物判定が為された。
名はアドリアーナ。有翼である懸念を考慮し。城壁に対空用ハンガーを配備した次第。
地対空ハンガーは自動で動く分には玩具。専門の部隊が使えば性能が上昇する代物。
最後の文は機密事項に尽き口外は控えられたし。
「西大陸からの襲来に備えてたんじゃなくて。この魔物用だったのかぁ」
「ちゃんと対応策講じてたんだね。評価低過ぎたかも」
「何にしろ要注意事項が増えた。鬼ごっこしてる場合じゃないのかもね」
「南方を掠める運河。地中、地表、空か。あーやだやだ。
ねえ、私たちが来なかったらどうなってたと思う?」
「結末は変わらなかったんじゃないかな。早いか遅いかの差で。俺たちが来なくてもピエールを脅して植民地化されてたと思う」
「嫌な響きね。植民地…」
「この国は奴らに取っても中央大陸に取っても。それだけ重要な場所なのさ」
「西の攻略拠点にも防衛拠点にも成るんだ」
「だと思うよ」
大鍋の火を落としてリビングテーブルで組織の動向を探りながら只管アローマとクワンからの連絡を待った。
---------------
セイムオート入りして宿を取ってからの展開は意外にも早かった。
町は漁港と商船港と軍港が完全に分離され。軍港には立ち入れない。
軍船を買えないかなんて間抜けな質問はする積もりは毛頭無かったが。
「やけに港が静かだな」
「西からの干渉が消えたのなら。もう少し活気が有っても可笑しくはないですね」
町中の商店街の人入りはそれなり。港方面に歩くと極端に減った。誰が見ても明らかだ。
商店に並ぶ品物も日持ちする干し物ばかりで鮮魚を一匹足とも見掛けない。
「行商の付き人なんだが。朝なのに生魚出てねえのは何でだ?」
「こんな町まで行商隊が来るとは珍しいねぇ。いやね。
昨年暮れにやっと漁が解禁されたと思ったら。近海で一角の海洋魔獣が多数目撃されてしまってね。沿岸部で獲れる分だけじゃお外の商人さんに売る分が無いのさ。
漁獲量が減ってる所で王都の大会だろ。ウチらは踏んだり蹴ったりさ」
「そりゃ厳しいな」
「宿や飲食店には卸されているのでしょうか」
「それは勿論。平年の数倍の値段にはなってますがね。
お金に余裕が有るなら高級店に行けば何とか。品数は求めないであげとくれ」
「はぁ。残念だが仕方ねえな」
昼飯も期待は出来ねえか。
「良いご商売を。ご機嫌よう」
「干物で良かったらまた寄っておくれよ」
「またな」
市場の下見調査は適当に。海の魔物ならお嬢に任せるしかない。
商船組合事務所を訪ねて中古商船の有無を聞いた。
「…参考までに。何故船が必要なのかをお聞きしても」
「んなもん簡単だろ。西や遠洋は出られなくても沿岸沿いを北上は出来る。出来るならモーランゼアやメレディスまで足が伸ばせて商機が稼げる。て主は考えてんのさ」
「漁業に関しては素人です故」
「メレディスは兎も角。モーランゼアは陸路では駄目なのでしょうか」
「ちょっと言ってる意味が解らねえな。主の好みは港だ。
陸より遙かに安全な海に道があんのにチンタラ内陸を馬車で走れってか?」
「いえ…」
アローマが二百五十枚の袋をテーブルに置き。
「先程から船の有無をお聞きしているのに見当違いなお話で時間を無駄にされても困ります。有るや無しや。
将又新規建造は可能なのか。中央の誰かの許可がご入り用ならばその方のご紹介を」
それでも尚返答を渋る組合長の男。
袋から十枚ずつ平積みでゆっくり並べてみる。
「金なら心配要らねえ。この町の三つ位楽勝で買える資産は持ってる」
「主の名は」
「契約しねえとそれは言えねえ」
「貴方は質問に質問を返す事しか出来ないのですか?」
「あーあーわーったよ。要は無いんだな。俺たちを苛つかせて欲しい情報を掠め取るって腹か」
「嫌らしいッ」
珍しく敵意を剥き出して吐き捨てた。
何か反論を期待したが組合長は涼しい顔で。
「これは手厳しい。お客様を審査するのも我々の仕事。商人なら当然。情報を聞き出してなんぼです」
話ながら何かを紙に書いた。
「交渉は主が全部普段はやっちまうからなぁ。俺らは慣れてないんだわ」
紙にはこう書かれていた。
「周辺一帯盗聴器塗れだ。見付けても外せない。下手に外せば刺客が飛んで来る。私の服にも」
「今度は主を連れて来るさ。それなら文句ねえだろ」
「楽しみにして居ります。上まで話を通せる御方なら尚良しです」
「精々期待して待ってな」
紙が暖炉で灰になるのを見届けて事務所を出た。
「真珠貝の養殖場だっけか」
「倉庫街の南側でしたでしょうか」
態とらしい演技で海岸沿いを南へ歩いた。
倉庫群を左手に見ても外側で怪しい人影は見付からない。
直ぐに見付かる間抜けも居ないが。借りて来たお嬢の双眼鏡を至近距離で堂々と構える訳にも行かない。
一旦行き過ぎ、だだ広い浜辺を歩いた。
南国よりは涼しいが時期は夏。露店や散歩者を期待していたのに…。
「綺麗さっぱり何もねえなぁ」
「だーれも。居ませんね」
岩場に腰を下ろして暫く海を眺めていると衛兵らしき五人組が声を掛けて来た。
「ここで何をしている」
発言者以外の四人が行き成り腰の剣柄に手を掛けた。
「おいおい外から来た観光客に対してそれはねえだろ」
「真っ昼間に開かれた浜辺で景色を楽しむのが罪なのですか。随分と変わった国ですねぇ」
「いえ…。失礼しました」
頭が片手を挙げ、後ろに控えさせた。
「確かに見ない顔。ここの浜辺は治安も悪く、日暮れ以降は上陸する魔物の目撃情報も有り。住人には接近を控える様指示が下されていまして」
「それで人気が全く無いのか」
「然様で。武装無しで出歩く方は居ないと言っても良いでしょう」
「怖いですわね。私たちは行商の従者。真珠貝の養殖場を見て来るように仰せ付かりました。ご同行をお願いは出来ませんでしょうか」
「お詳しい…。しかしそこは完全に立入禁止区。
遠方から眺めるだけに留めて頂きたい。我らは巡回の任務中です故。特定の方の警護は不可能です」
捕まりたいならご勝手にってか。
「湿気てんなぁ。海が怖いってなら軍部の軍船は何遊んでんだよ」
「お答えする立場には在りませんが。砕いて言えば海の底からの攻撃に対抗する手段を持ちません。飽くまで目撃情報や漁船が直接被害を受けた場合のみ動きます」
そこはのんびりしてんだな。
喧嘩売る積もりは無いんで巡回兵たちの後ろを歩いた。
「…何故後ろを付いて来るのですか」
「ケチ臭い事言うなって。中心街手前まででいいからよ」
「心細く、迷子になっても嫌です」
「いやしかし…。複雑な倉庫街を歩かれるよりは海岸沿いを北上した方が遙かに安全確実だと思うのですが。浜まで来られたのですよね。引き返すだけでは?」
尤もな意見。
「治安が悪いって聞いて嫁が怯えてるじゃねえか。巡回なら最後は駐屯所に戻るんだよな。邪魔なんてしないからキリキリ歩け」
なんでこいつら偉そうなんだ。て顔だな。
只の巡回に五人も必要なのか疑問だったが暫く集団後方を付いて回った。
整地された間隔。太い路線は馬車二台が余裕で行き違える程度。狭い路地は人二人てとこだ。
道路は整えられていても倉庫本体の大きさがバラッバラで数本内に入ると真に迷路。
幾つか角を曲がると方向感覚を失った。頭ん中に地図を書いてても無駄だった。何かの認識阻害道具が張られていると見ていい。
「はぐれないようにご注意を。もし見失ったら太陽と影を目印にするか、太い道を真っ直ぐに進んで下さい」
「ガキじゃねえ、て虚勢張るのは筋が違うか。素直に聞いてやる。逃げ足には自信有るから嫁さんとだけ離れなければそれでいい」
腕に絡む力が強まった。
若干白い眼を向けられた。ここはデートスポットじゃないとでも言いたげな目。
「あんたらどうして倉庫の中は見ねえんだ」
「中まで検める権限は無いのです。路地裏や外に何かが転がっていないかと見慣れぬ集団が屯してないかを見るだけで充分です」
外回りだけでもかなりの手間。職務怠慢ではないわな。
半時程歩いた所ではぐれた振りして離脱した。
倉庫街のど真ん中で。
衛兵隊が後ろを振り返った時には二人の姿は消えていた。
「言わんこっちゃない…」
「どうされますか隊長」
「捨て置け。怪しくはあったがあの二人は相当な手練れに違いない。胸当て以外は上当品に見えた。芝居めいた物腰柔らかい話し振り。何一つ聞こえない足音。
誰かの従者と言うのも強ち嘘でもないだろう」
「ですが、ここは」
「下手な言動は慎め。矢で射られても知らんぞ。我らが導いた訳ではない。勝手に付いて来ただけだ」
難しい顔をする部下たちに隊長として余裕を見せた。そんな自身は背中に嫌な汗が流れていた…。
周囲に潜む者たちよりも遙かにあの二人を脅威に感じて。
「クワンティ。耳を撫でるのは止めて下さい。腰が砕けてしまいます。…こ、この倉庫が怪しいのですね」
「クワ…」
小声で遣り取りをしていた。
さっき無言でしがみ付いて来たのは擽り攻撃を耐えていたからなのか。今度俺も試してみよう。
服の上から爪を立てられた。顔に出てたらしい。
なんで胸当ての防御を貫通してんのかは解らねえが。
「痛えよ。ちょっと離れてろ」
「み、耳だけは堪忍して下さい」
離れた所で透明化の首飾りを着け盗賊道具を取り出した。
「経験は有るのですか?」
「昔囓った程度にな。これは魔力を込めるタイプだから並の施錠なら楽勝だ」
「褒められませんが今は置きます」
クワンティが示した倉庫の裏に回り込み。中の気配が離れた瞬間に鍵を開けて潜入を開始した。
各所の見張りの間を擦り抜け。中階段から二階に上がった。
風と臭いが抜けた事で首を捻っていたが何とか気付かれずに入り込めた。
庫内は吹き抜けの去らし天井。骨組みが剥き出して身を隠せる場所は無い。
二階踊り場から壁伝いに続く外周路。奥には事務所フロアが見えた。
事務所には行かずに対岸の据え置き棚の裏に身を潜めて庫内一階の様子を伺った。
ざっと四十の集団が一人の女を囲んでいた。
荷物の多くは武装と食料。こいつらは戦争でも始める気なのか。たったこんだけで?
敵か味方かは解らねえが頭は悪そうだ。
庫内の中心に立つ女がお立ち台に上り喋り出した。
「我らは人民解放軍。王都の大会も近い。開催と同時に浮かれた奴らの首を狩りに行く。今の内に心を決めておけ。
この同行は強制ではない。出来ないならここへ残り町を守り抜け。
現在の融資者と同行希望者は。ビッテロン答えよ」
ビッテロンと呼ばれた口髭の男が答えた。
「融資者は十五。資金と共に武装も潤沢に集まりました。しかしながら…同行希望者は寄せ集めの三百強。約七割が戦闘経験の無い一般民です」
アローマのポーチを叩いて王都に連絡させた。
「私の人徳が窺い知れるな…。逆に見れば動き易い」
冷静なのは結構だがあの女は端から死ぬ気だ。
「マリス様。やはり妹君に助力を求められては」
「為らぬ。折角自由の身に成れたのだ。今更マリアを引き戻してどうする」
妹がマリア…。ならあれが組織に殺された筈の姉。
「マリアは優し過ぎる。汚い政治には向いていない。伯父上に絡み付く三匹を害し、私が罪を背負わねば何の意味も無い」
三匹。セザルドが死んだ情報が届いてないのか。それとも別の奴か。気になるが…。
頭を潰しただけで末端が無傷ではそれこそ意味が無い。
特に邪神教団は未知数。
この中にだって裏切り者は居るかも知れない。
大会直前まで放置するか。今直ぐ飛び込んで説得するか判断に悩む。
仲間に引き入れられたらこれ以上無い有力者。マリアを連れて来られれば説得は容易に思える。
だがマリス自身が敵側だったら混乱の坩堝。
材料が乏しいな。一旦離脱しようとしたその時。
「上に居る者は誰だ!」
離脱すれば場所を変えられる。
透明化したまま下から見える端に立った。
「透明化か…」
上位者並のスキル持ち。彼女は裸眼だった。
少なくとも俺にはそう見える。
「マ…、総隊長ここは危険です。お逃げ下さい」
ビッテロンの叫びと共に周囲が身構えた。
「見られたからにはもう無駄です。手を下ろしなさい」
動きはいい。だがお上品過ぎる。見たとこお姫様を守る騎士団の精鋭部隊、か。
さっきまでの話が本当なら実力部隊の半分がここに居る計算になる。
アローマに手を向けステイを指示して首飾りを外した。
「お話出来る余力はあるかい?お姫様」
「…内容に依ります。名を名乗りなさい」
鑑定眼は持っていないような発言だ。
勘が鋭いか陽動か何方か。
こちらを睨み付けて微動だにしない。肝は座ってる。
マリスを守ろうとする群の前に飛び降り。
「とある人物の従者のソプランだ。カスみたいな邪神教団とは関係無い」
安い挑発だったが誰も反意は示さなかった。
マリスが舌打ち。
「その名は聞きたくありません」
今の反応を取り敢えず信じてやるか。
「俺が聞いた話じゃあんた死んだらしいが。なんでピンピンしてんだ?」
「答える必要は有りません」
「連れねえなぁ。まあいいや。なああんた俺らと手を組まねえか。このまま乗り込んでも誰も倒せないし。王都が綺麗さっぱり消し飛ぶぜ」
「…何故に、ですか」
「お互い信用が足りねえな。何ならマリア姫をここに連れて来てやろうか?」
「止めなさい!妹は巻き込まないと。先程の話を聞いていたのでしょう」
「巻き込むも何も、もう一人で突っ走ってるぞ。あんたの仇を取って国を守るんだってよ」
多少周りが響めいたがマリス自身は冷静だった。
「馬鹿な子…。それでは何の意味も無いじゃない」
「それは説得したから問題ねえよ。只ピエールが崩御したら即位するらしいからどうだかな」
「くっ…」
「代わりに名乗り出るか?これから反乱起こす重罪人が王位なんて取れるのかねぇ。
マッハリアとは状況が違い過ぎる。首謀者が居座っても支持は集まらねえ。退いても宰相や元老院の爺を邪魔だからって温い理由だけでその手で殺せば支持者は誰も居なくなる。
そこまで今の支持者に説明したか?あんたの口から」
「…」
「さっきの感じだと自分で動いてねえだろ。目立つって理由でかは知らんが。
端から死のうとしてるあんたはさぞ満足だろうよ。王都崩壊の罪まで背負わされても死に逃げされたら誰も文句は言えねえし。気持ちいいだろうなぁ」
「違います!」
「何が違うのかここに居る奴らに言ってやれよ。一緒に死んでくれってな!!」
「…」
「あんたの覚悟はその程度か。クーデターの後の事は考えてるのか。賛同者や参加者だけじゃねえ。失敗してもしなくてもその家族まで全員打ち首だ。
罪無く死ぬのは何人だ。内乱で出る難民は何人だ。
モーランゼアやアッテンハイムに引き取って貰うのか?
周辺の小さな町だけで吸収し切れるのか?
素人でも解る事を何処まで考えてんのか聞かせろ」
「考えては、います…」
「あー別に俺らは構わねえぜ。クワンジアがどうなろうと知ったこっちゃねえ。明日のこの時間に主をここに連れて来てやる。そいつの名はタイラントのスターレンだ。
誰も居なかったらあんたらは切り捨てる。それまでにここに居る奴ら以外に説明しとけ。出来れば自分の口でな」
「はい…」
堂々と背を向けても襲って来る奴は居なかった。
---------------
ソプランは夕食を食べながら笑って報告してくれた。
「船の方は駄目っぽいな。優先度は何故か生きてたお姫様の方だ」
「ソプランったらマリス様にお説教し出したのですよ」
「どうにも気に入らなくてな。自殺志願者に道連れにされる奴らが可哀想でよ」
「ありがと。船は最悪ラフドッグから持って来るからまだスルーでいいや。それよかこっちのソーヤン突いたから時間的に被りそうだな…」
「もし遅めに来たら私が対処するわ。説得はスタンだけで充分よ」
「邪神教小馬鹿にして煽っても襲って来なかったからある程度は信用出来ると思う」
「ふむ。問題はマリアの立ち位置か」
「急にお姉さん生きてました!て言ったらパニックよねぇ」
可能なら事前に引き会わせても良い…寧ろそうするべき。
「個人的には会わせるべきだと思うけど。嫌だって言ってるのを無理に会わせるのもなぁ。女子的にはどう?」
「私なら会いたいかな。このまま生き別れたらきっと後悔する」
「私のような特殊な状況でないのなら。共に過ごした時と記憶が有るのなら。辛いと思います」
ソプランは渋い顔をして反論した。
「直接話した感覚だと会わせるのは早えな。マリア姫を誘き出す罠の線は捨て切れない。どうやって死んだ事にしたのかは聞いてねえ。本人からもマリア姫からも。
俺たちが居るのに気付いていながらペラペラ内状喋ってたのも気になるし。一般的な揺さ振りにも反論や意見は一つも返さなかった。
死ぬ覚悟や信念て格好良く極めちゃいるが自分では動いてねえ。知人と会えばボロが出るとか。
そこの整合性が取れない内は偽物かも、て考える」
「ほー。その線も充分有り得るな。両者の情報照らし合わせてからにしよっか」
流石はソプランだ。
「それ言われちゃうと反論出来ないなぁ。部下のビッテロンが何者なのかも怪しいし。その辺りから探って行きますか」
「だなぁ」
「思い返すと私にも当然気付いていたのに全く触れなかったのも妙ですね」
「罠に見えて来るだろ。逆に罠ならお前らのお人好しな性格が認識され始めてるって訳だ。おめでとー」
「目出度くねーし」
何時も以上にドライに行けってか。
宿ではゆっくり風呂にも入れないと言うので2人とクワンに先に入って貰った。
程良く冷えたお茶を用意しながら。
「セイムオートとの時差は1時間ちょい。普通ならソーヤンと被る筈は無いけど」
「被せて来たら連絡取り合ってる。罠確定ね」
「目的は…反乱分子の排除かな」
「敵さんにも中々の策士が居るわね。セザルドが死んで動きが止まらないのも納得」
---------------
予想を裏切りソーヤンは午前中に面会を求めて来た。
「繋がりの線は消えたけど」
「まー喧嘩売ってるわねぇ。ここに来るんじゃなく呼び出しとは」
連絡を持って来たホースキも困り顔。
「申し訳ないですが…。繋がりとは?」
「こっちの話。色々有るのよ商人として」
「サクッと終わらせてお昼にしよう」
拒否すると後に響くので素直に王宮隣の議会塔の一室に招かれた。
鼻で笑ってしまう内装。
純金の壺やらティーカップやら絵画やら。白亜の棚の片隅にはスタプの彫像も立っていた。
お買い上げは嬉しいが出来れば生前に入れて欲しかった。
応接用ソファー席にどっかり座る。
若干の座り辛さを感じてお茶を運んで来たナーナーの目の前で盗聴器を探った。
「直ぐにソーヤンが参ります。粗茶ですがご緩りと」
陶磁器のカップを置き、ソーサーの端を指でなぞり耳元を掻揚げる仕草を見せた。
彼女の耳には受信器がしっかりと。
探すのも無駄なのねー。
2人で溜息を吐いてコインを仕舞ってお茶を飲んだ。
「「まっず…」」
苦くて渋いだけのお茶。
「センブリ茶なの?」
「嫌がらせかしら…」
「フォローしますそのお茶はとソーヤンの好みです。お持て成しと嫌がらせ、半々ですかね。私共は好みませんが本人は頭がスッキリするから良いのだとか」
「まー好きな人は好きなのか」
「喧嘩売ってる訳でもないと。ご厚意と受け取って置くわ」
ホースキにマリーナへの伝言を頼み、待つ事数分。
ソーヤンはもう一人のお爺ちゃんと護衛と見られる青年を連れて上座に腰掛けた。
「玉座でお会いして以来ですね。ソーヤン殿と…」
隣のお爺ちゃんが答えてくれた。
「副総長のオシオイスと申す。後ろは委員専属の護衛長のブーリだが気にしなくても良いぞ」
玉座でも確かにソーヤンの隣に居たっけ。
ブーリは無言で一礼。
「ソーヤン殿。本日のご用件は何でしょうか。王都内も粗方回り尽くし本戦まで時間が有る故。西か南北の隣町まで足を運ぼうとしているのですが」
運ばれて来たセンブリ茶をグイッと飲み干して。
「ですが、ではないわ!!」
うっせー。耳塞いでおいて良かった。
「その様な大声を出されなくても聞こえます」
「お耳が遠いのですか?」
「そこまで耄碌はしとらん。今日は貴殿らを国賓としてではなく一商人として招いた。心当りは有るな」
「全く身に覚えが有りません」
「私にも」
「嘘を吐くな。わしの系列店だけを狙って商品を買い叩いたではないか!」
「あんな粗悪品を販売されている店がご高名なソーヤン殿の系列であったとは驚きです」
「見る人が鑑定すれば粗悪品だと直ぐに解る品質。
クラック、濁り、気泡、水泡、端欠け。素人目にも明らかでした。半額でも譲歩した方です。実質値は2割が良い所でしたが何か?」
「そ…粗悪品だと」
「店で一番も見せて貰いましたが変わらぬ低品質。温情として二番を土産物にしたまで。あれらを粗悪品と認めないのでしたらソーヤン殿の直営店も大した事は無さそうですね。確か本店は北の隣町マンティニでしたか」
「どうしてそれを」
「ギルドに問い合わせました。大会前に回ろうかなと」
「見たかったダイヤモンドが王都に無いんですもの。仕方が有りません」
「魂胆は読めた。それで今回の挑発行動か。しかし残念だが本店に行っても主要品はもう無い。北の二国間との交渉材料に使い果たした」
そこに使ったなら文句は言えない。
「別に構いませんよ。どうせ大会まで暇ですし。丁度聖女様の隊もマンティニの教会を訪れるとか聞きましたので」
「普通にお買い物をしたいだけです。ご心配なら再度護衛を付けられては」
「…もう良い。あちらの護衛だけで充分だ。其方らは買い専門。定価で買付して転売目的でもない。真に食糧品と土産物にしか興味が無いのは理解した。石ころも買い叩ける迄の財を持つ。
純粋な疑問なのだが。表立った商いはしていないのにどうしてそこまでの財が得られるのだ。マッハリアからの支援なのか、ロロシュ財団からの融資なのか、タイラント王家からの援助なのか。何れなのだ」
良い話が有りそう。
「一部正解です。一番大きいのは皆さんに認知されつつある歯ブラシ。2つ目はここでも流行り始めた冷蔵庫。
3つ目はカメノス商団の医薬品や食用品や化粧品。それら全てが俺と妻の発案だとしたら?」
「今の役職手当は多く有りません。お給金の殆どは奴隷層や孤児院に振り分けています」
「それは、真か」
「嘘言ってどうするんですか。裏でヒッソリ自由にするのが趣味みたいなもんです」
「別段こちらで商売などしなくても。寝て起きるだけで預金は膨らむ一方。地方で買い物しても追い付きません」
「良く解った」
ソーヤンとオシオイスだけでヒソヒソ話し始めた。
何が来るのかと構えていると。俺たち以外全員部屋の外に出し、ブーリに何かの指示を出した。
室内に4人だけに成った後でオシオイスが話し始めた。
「突然で申し訳ないが。来週予定のバザーに参加して貰えないだろうか」
「そう申されると言うのは」
「私がここの元締めだ。貴殿らがタイラントのバザーに参加していた情報は得ている。財布は財団かと見ていたが自分らでも買えたのだな」
樹液と欠月弓以外はね。
「お察しの通りですが。元締めが内部情報を漏らしても良いのですか?」
「非常に危険だが。本部や各地との連絡網が在庫を手放せと言う言葉を最後に途絶えてしまった。
昨年までの主要品は殆どセザルドが買い占める状態が続いていた。奴亡き今が絶好の機会。来週にはモーランゼアの王族団とメレディスの特使団も王都入りする。
在庫を抱えたままでは当家が抹殺されてしまうからな」
「一時期はわしも対抗した。が、競りでセザルドが率いた意味不明な教団組織の資金力に押し負けた。一部を国庫から引き出しても尚上を行かれてしまった」
「これ以上奴らの好きにはさせたくない。かと言って前回参加者の下部組織は外せない。そこで貴殿らに恥を忍んで頼みたい。と言う訳だ」
有用な道具を組織に渡したくない。その点利害は一致している。
「幾つか条件と質問をしても宜しいですか?」
「可能な範囲ならば」
両者同意の下。
「前回までにソーラン殿の派閥から参加していた同じ顔触れでの参加を。下手な根回しは不要で。
質問は過去の最高落札額と今回の競売品の最高初期設定額を教えて下さい」
「最後の参加は前々回だが。一回飛ばし程度なら問題は無い。貴殿らとは面識は無い人員ばかりで邪魔には成らん」
「過去最高は三百八十万。同じ回で二百六十万も出た。
今回の最高設定は五万。次点で一万だ」
金持ってんなぁ。
「その2点を取りに行くか…。他にも気になれば落とします。次点の1万の品で敵組織を炙り出しますんでソーラン殿の部下にも適当に競りに参加する様伝えて下さい」
「承知した」
「同じく。警備は内外共に例年の三倍強。外野は気にせず兎に角参加を頼む」
「良いでしょう。ソーラン殿とは石を挟んで商談をするのかと考えていましたがこの様な形とは唯々驚きです」
「わしもだ」
「因みに真珠貝の養殖もソーラン殿の管轄ですか?」
「うむ、相違無い。見識が広いな」
「これでも商人の端くれですから。全て上手く事が運んだら真珠のお話でも聞かせて下さい」
「純粋に私が好きなんです。タイラントでは真珠が流行り始めているんですよ」
「ほぉ。それは良い話を聞いた。長生きはしてみるものだ」
意外な形で座談会は終わった。
自室に戻りフィーネとお茶をしながらマリーナの到着を待つ。
「オークションのお金はどうするの?2人合わせても200万弱じゃなかったっけ、今」
「大体その位かな。心許ない気がするからロロシュ爺ちゃんに融資お強請りするよ」
あんまり使いたくない手だが足りなくて買えなかったでは本末転倒で恥ずかしい。
「しょーがないかぁ。来年だったら余裕だったのにね…。
今頃は寝てる時間帯だから夜にメールする。それよりラザーリアに行きたいんじゃなかった?」
「あー。どうすっかなぁ。悩み中。遊びに行くとは予告してないし」
「私もレイルのとこ行かなきゃいけないかも。ソラリマ、彼女のご機嫌は?」
『今の所特には何も…。気の所為かここに来たがっている気配が』
「「え!?」」
「それは全力で止めてくれ。今来られたら大混乱だ」
「結局様子見に行かなきゃ駄目なのね」
「前にショートカットを勧めるって話はどうなったんだっけ」
「髪は女の命だから嫌だって。気持ちは解るけどちょっとだけ切るなら気分転換にも成るよって粘ったら。何と髪の長さまで変幻自在だったの。
なら洗う時だけ短くしたらいいじゃない?て言ったら、それは名案じゃ!と成りました」
「今まで気付かなかったのか…」
変な所で天然なんだよなぁ。
先にお昼にでもしようかと考え始めた頃にマリーナが自室を訪ねに来た。
食堂で一緒にお昼を食べた後部屋に戻って打ち合わせ。
現在マリーナはお隣隊のマンティニ視察準備で奔走中。
「忙しい時に呼び出して悪い。先に言うと俺たちもペリーニャ隊に同行してマンティニに行く事にした」
「暇すぎて身体が鈍るから」
「えぇ…それは先に言って欲しかったです。まあお二人の方は上に報告するだけで済みますが」
「本戦まで最低でも2週間は有るし。ずっと王都に居る訳ないじゃん」
「ごめんね。謝り序でに不躾な質問投げても良いかしら」
「何でしょうか」
「お姉さんの名前と死因に付いて教えて欲しいの。ずっと気になってて。思い出したくないなら無理には聞かない」
当然かなり嫌な顔をしていたが。
「…名はマリス。今から二年と少し前。例の組織と思われる集団に城から連れ去られました。
直ぐ様救出部隊が編成され。私も新兵の側近として部隊に参加。二月位駆け回り漸く足取りが掴め…
西海岸の端で追い付きましたが間に合わず。姉は崖から身を投げました。ショックでした…。
半ば呆然とする中で虚を突かれ、部隊は壊滅。その場で散り散りに。運良く私が居た隊は難を逃れて敗走帰還。
今にして思えば姉は、私の為に身を投げたのかもと。私さえ参加しなければ別の選択肢も有ったのではと後悔しています」
だとしたら辛い選択だ。
慰めの言葉は逆に追い詰めてしまう。
「思い出させてごめん。因みにその時の救出部隊は何人生還出来たの?」
「私も気が動転していたのでハッキリとは申せませんが三十名以上は居たと思います。出兵したのは凡そ二百。
部隊長だったビッテロンも行方知れず。散々たる結果でデブルに叱責の上激しく罵倒された記憶が有る、ような無いような。殆ど誰も聞こえてはいませんでしたが」
辻褄は合うな。
もっと詳細を聞きたいがこれ以上はマリアの傷を抉るだけで誰も得しない。
「マンティニから戻ったら何か好きな物を御馳走する。町中のレストランでも何処でも良いから考えて置いて」
「でしたらマンティニ名物のチェリーパイをお土産に。私たち家族の、僅かな思い出の品です。皆さんとご一緒に食べてみたいです」
「解った。必ず買って来るね」
「はい!」
最後は笑顔に戻ってくれた。家族の思い出か…。
「お隣のご出発は明後日からだそうです。明日お暇なら行き付けのお店でランチは如何でしょう」
「おーいいね。丁度西へ行かせた2人も戻る頃だし」
「行きましょう」
これから従者と合流して打ち合わせするから夕方まで留守にすると伝えてマリーナには退出願った。
0
お気に入りに追加
471
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。
了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。
テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。
それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。
やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには?
100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。
200話で完結しました。
今回はあとがきは無しです。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる