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第138話 帝都への凱旋
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ドメルコンダに一度は転移してみた物の色々と早過ぎた。
国軍の受け入れ準備が間に合っておらず。岩島に逆戻りして船に乗り換えた。
お嬢さんたちに怒られてしまったが。
船の設備や料理を奮発してご機嫌を直して貰った。
「助けて頂いたのに怒っては居りませんよ」
「そうですとも」
クルシュとアストラの妹君レレミィは揃って反対意見を述べた。
他の方々も同様に。
21人の女性の中で男は俺1人。羨ましい?
度を超せば居心地悪いだけだよ。
「それそうと。食糧や薬類は潤沢なんで、ここで2泊します。ドメルコンダで国軍と合流する予定だったんですがこっちが早過ぎました」
「グーニャもフェンリル様と似た能力を持ってますが規模は小さく暖かいのは船一帯だけです」
「薄着でデッキに出るのも止めて下さい。温度差で1発で風邪引くんで」
「はーい」全員元気に答えてくれた。
前言撤回。皆さん素直で協力的。
半数以上が貴族家や騎士爵家出身者の御令嬢だと言うのに長年の自活生活で協力し合う知恵を身に付けた様子。
3日目の朝に出発。のんびり15時前にドメルコンダに帰港した。
改めて踏みしめる故郷の大地に帰還者たちは大いに喜び踊るようだった。
併設の軍港に移動して待合所で待機していると見知った顔が飛び込んで来た。
帝都へ行く時に護衛をしてくれたトッド隊だった。
肩でぜえぜえハァハァ。
「スターレン様!無茶苦茶ですよ!!帝都を出発してたった二週間ですよ。我々には転移道具の支給が無いんですから…はぁ。追い付ける訳がないです」
激キレである。
「ごめんごめん。来たのはトッドさんたちだけ?」
「御免為さないね。順調に行きすぎて」
「いえ。足の速い先行部隊の三十で来ました。後続部隊の二百は…後三日は掛かる見込みです。こちらの方々が救助者の」
「そうそう。何人送られたかは知らないけど20人。皆さん元気だよ。後続は後で拾いに行く。
各町の様子とか内陸とか何か可笑しな動きはあった?」
「大変に助かります。異変らしい異変は特に無いです。
闘技場に現われた二十以降残党らしき者も首謀者と思われる者の動きも特に。陸路も進行上は妨害も無く。
静か過ぎて不気味な感じがしますね」
「崩落で潰れて死んだのは何人位?」
「出掛けに伝え聞いた範囲では百前後だと。この町の倉庫群で大体二十近辺だったと記憶しております」
「まだ半分は残ってるな…。
良し。フィーネ、手袋と義眼入り小袋チェンジ。貝殻セットで海警戒。メレディスからか隣町から船で襲って来る気がする」
「ラジャ」
「クワン。先に南に飛んで後続隊見付けといて」
「クワッ」
「俺はコインの実力試しながら周辺散歩して来る」
俺はクワンと一緒に待合所から外に飛び出した。
「はーい皆さん。もう暫くここで待機。このドメルで宿を取るのは中止します。クルシュさんを狙う連中が動きそうなんでそれをここで釣り上げて叩き潰します。
トッド隊の皆さんはここを拠点に休憩と暖を取りながら建物周囲の警戒を。
グーニャはここで救助者を守って。私は上に登って海眺めて来るから」
『ニャ~ン』
「はい!」
「ハッ!先行隊を三班に分け順次休憩と警戒。手ぶらで帝都に帰れると思うな!」
水入りの水筒を有りっ丈置いて。
2階の窓を回り、非常口から建物屋上に出た。
グーニャをペットにして良かったと実感する。
この寒さ。コート無かったら死ねるわ。タイラントに帰ったらシュルツを沢山抱き締めよう。
お強請りされたら何でも言う事を聞いてしまいそう。
駄目な姉だ。
前世も今世もずっと一人っ子だった私には出来過ぎた妹である。もう私よりも知能高いんじゃなかろうか。
肉眼でも双眼鏡を構えても。西も東も海を往来する船はまだ見えない。
今朝スタンと作ったホットコーヒーを飲みながら。
おぉ苦い。ブラックなんだから当たり前。
感想を伝えたいがスタンは喋れる状況じゃない。
お仕事再開。
西側の軍港も東側の漁港も。漁船や軍船は停泊しているが船内に潜伏してる人影は映らない。
冬季閉鎖期間中で一般人が居ないから…かも。
もしかしたら今日は動かないかも知れない。
しかし今この状況を逃せば私たちは帝都へ戻り、厳戒態勢に移行する。
クルシュさんを奪取するならここが敵に取っても好機。
もう1つの可能性。
アンフィスはここでの奪取を諦め、帝都で待ち構えている可能性。零ではないが根拠が薄い。
転移道具を持っていると仮定。
それなら前皇帝の娘の立場で帝宮内にも出入り出来た。
何処にでも行けるからこそこの余裕。
今一パッとしない。帝都での情報収集が足りなかった。
アストラ様もエンバミル氏もアンフィスに付いては詳しくなさそうな印象を受けていたのもある。
いっそ帝都で籠城戦に持ち込む方が早い気も…。
30分程が経過。
そろそろクワンティが後続部隊を見付ける頃。
スタンもそれに追従する。
私も一旦1階に戻ろうか。そう思い始めた頃…。
東西海域を航行する船の姿が双眼鏡の視界に入った。
「スタン。来たわ。東西3隻ずつ」
「両方だったか。町中には15人潜んでた。他は反応が無いから後続部隊迎えに行って来る。
船が20km圏内に入ったら教えて」
「了解。また後で」
15人をどうしたかまでは聞く必要も無いだろう。
欲しい情報は粗方取り尽くしてるし。今更下っ端を吐かせても何も出ない。
双眼鏡を左右に振りながら警戒に努めた。
---------------
フィーネ様の下僕に成って早半年。
まだまだクワンティ先輩には追い付けてない。
色々努力はしているが何かと失敗ばかりで。
もっとご主人様と旦那様のお役に立ちたいなぁ。
今日のお仕事はクルシュと言う人と北から連れ帰った人たちの護衛。今はそのクルシュの膝の上に居る。
後から来た護衛隊は部屋の外側の廊下を巡回中。
中は二十人と我輩だけ。
中にも護衛入れたら良いのになぁ…。
人前では喋れないのが辛い。
不意に部屋の片隅に人の気配が増えた。
「ミレ…」
そいつは何かを口走ろうとしていた。
あぁ面倒臭い。
声の主に気付いて二十人が振り向くよりも早く。
クルシュの膝を降りて、その女の口の中に局所火炎を喉奥目掛けて放り込んだ。
「あが!?がぎゃぁぁぁーーー」
炎は口から溢れて顔全体を丸焼きにした。
「だ、誰!」
「え?な、何!?」
肉が焼ける臭い室内に充満。くっさ。
我輩がやった事だけれども。
異変に気付いた廊下の兵士が飛び込んだ時。その女は焦げ臭い煙だけを残して姿を消した。
案外しぶとい女だな。
でも撃退したからご主人様に褒めて貰えるかな♡
竜肉を蒲焼きにして欲しいニャ~。
大狼様のお声が聞こえる。
『今の女…まあ良いか…』
『生きていても二度と喋れないですニャン』
『まあ、そうだな。見事な働き、大義であったぞ』
大狼様にも褒められた~♡
ニコニコしながらテーブルの上に乗って丸くなった。
「どうされました?女性の悲鳴と…肉が焼ける臭い」
「さぁ…。確かに誰かがそこに居たような」
「居ましたね。顔中に火を着けた女が。至急フィーネ様にご連絡を」
「解りました!」
---------------
下に呼ばれて降りてみるとクルシュさんたちを待機させていた部屋は酷い臭いが漂っていた。
皆顔から火を吹いた女が現われて消えたと言い動揺している。
顔をこちらに向けるグーニャがニッコリ笑って…。
あぁグーニャが焼いたのかぁ。
猫を抱いて誰も居ない隣の部屋へ駆け込んだ。
「何があったの?てか誰が来たの?」
『転移で突然乱入して来た女が。善くない何かを口走ろうとしたので。喉奥に局所火炎を食わせたニャン。
大狼様も褒めてくれたニャ』
「おーナイスよグーニャ。それ多分アンフィスって女よ」
偉い偉いと首周りをモフった。
『ご褒美は竜肉の蒲焼きがいいニャ~』
「それ名案。帝都に戻ったらやりましょ。でその女は」
『転移で逃げたニャ。でも喉と目は潰したニャン』
中々エグいな。まあ人前では首は刈れないか。
「しゃーなし。今、沖合に東西から船来てるから手が離せないの。引き続きここをお願い。次に部外者が来たら頭叩いて気絶させてみて」
『ハイニャ!』
救助者を別室に移してグーニャと警備を置いた。
扉を開けたまま臭いが残る部屋の隣室で双眼鏡を構えた。
船の位置は両方100km付近。結構速い船。
そして東西は連携している。且つ相手もこちらを覗ける道具を持っている。
アンフィスはやはり転移道具を持っていた。
全部奪いたいがそれは欲張りだ。
まずはここの防衛と船の排除が優先。
アンフィスの転移先が何処かはスタンが戻ってからコインで探ってみよう。
「フィーネ!船は!」
スタンの声に振り返る…。誰だこいつ?
躊躇う事無く手刀でそいつの胸を貫いた。
「な…なに、を」
やっぱり全然違う。気色悪い。
掴んだ心臓を握り潰すと全く違う姿形の男がその場に崩れ落ちた。
こいつの偽装道具は使えるわね。後で回収しよ。
汚れたコートの袖と手袋を浄化水で洗い流して双眼鏡を構え直した。
現在位置80km付近。少し加速した。
私のスタンなら。最初に開いた扉をノックして。
「やっぱ外寒いわぁ…。何こいつ?」
て言う。そもそも魂の色全然違うし。
「スタンに化けてた。結構良い道具持ってるみたい。
服装も見た目同じになってた。別人の変態だと思ったから貫ける筈のないコートを手で突いてみたの」
「へぇ。馬鹿な奴も居たもんだ。まあいいや。
連れて来た200人は外に配置した。丁度町の南から50人位突っ込んで来てる。嘗めてるよなぁ。で船は?」
「今…60km付近。どんどん加速中。
さっきアンフィスらしき女が隣に転移して来て。何かを喋ろうとしたからグーニャが顔焼いて撃退した。絶命寸前で逃げたみたい」
「おぉ、俺が離れた隙を突いたのか。やるじゃない」
「私も屋上に居て気付かなかった。船の上に逃げたなら東かなぁ。今40」
「道具は諦めて沈んで貰おう。東行く?」
「裏を取られたお返ししたいから私にやらせて」
「オッケー。もし足が滑って溺れたら助けて」
「転移で戻れるでしょ?」
「人工呼吸されたい」
「バーカ。愛情たっぷりにしてあげる。今20」
「「行きますかー」」
---------------
本日の収穫。
偽装道具1。アンフィス…と思われる遺体。から取れた転移の指輪1。ペラニウムが含まれる装飾品3個。
500km双眼鏡1個。
中型船6隻は沖合で藻屑と化した。
船から果敢にも寒中水泳に挑んだ奴らは追わなかった。
以降は海軍に引き継ぎ。
町中でお亡くなりになった66人の遺体とアンフィス。
国軍230名。救助者の20名。+俺たち。
総勢321名で帝宮内、中央宮前広場へ転移した。
親族たちの感動のご対面…の筈が。
クルシュがエンバミル氏を往復ビンタしていた。
「どうして船を止めて下さらなかったのですか!魅了に抗える精神力が有ったなら!」
「す、済まない。許してくれ。クルシュだけを逃すと嫌疑を掛けられていた。あの時は仕方が無かったのだ」
その後も自活生活で培った腕力を思う存分父親に打つけ続けていた。
転移の指輪は性能は良かったが定員が10名で今一。
それを渡す代わりに他の道具を頂戴した。
夜遅い帰宿となったこの日。
白月の部屋でMVPのグーニャを称えて竜肉の蒲焼きを焼いて食べ合った。
2人とペットだけの小さな祝勝会を開いて。
---------------
凱旋翌日には救助者全員を交えて関係者だけの帰還祝勝会が中央宮で開かれた。
アストラが開会の音頭を。
「此度の勝利と関係者家族の帰還。大変に喜ばしく、多大なる助力をしてくれたシュトルフ夫妻を称え。感謝の念を込め細やかながら祝宴を催した。
首謀者の一人と目されるアンフィスは倒せたが。未だ一味の残党は国内に居ると思われる。其奴らの根絶は明日からとして。今日は心行くまで飲み明かそう。
戦いの中で散った勇ましき者たちと。北の大地で果てた輩の御霊にも畏敬と感謝を。乾杯!」
主賓卓に座り、俺はアストラの左席。右には両頰を腫らしたエンバミル氏とクルシュ。俺の隣はフィーネ。その隣にレレミィが配置。
開会始めにアストラに忠告した。
「北は動物系の魔物の巣窟でした。敵は必ず道具を狙って来ます。厳重な保管をして迎え撃って下さい」
「承知した。帝国の威信と誇りを賭けて。全力で叩き潰すと誓おう。貴殿らは明日帰るのか」
「はい。折角早くに任務が遂行出来たんで。クワンジアに行く前にゆっくり休養させて貰います」
「クワンジアか…。闘技大会への出席可否は検討中だ。
遅くとも来月中旬までには書を貴国へ送る。個人的にはラーランを行かせてやりたいが。国内に穴を作るのもな」
「私との再戦を望んでいるようなら敗退すると伝えてあげて下さい。ピエールは相当な馬鹿で低脳なんで。
馬鹿には付き合えないと返信すれば良いと思います。
手合わせなら個人的に呼んで下さい。少し本気を出しても良いですよ」
「勘弁してくれ。凍えた海の上を走り抜け、動いている中型船を紙屑の如く両断してしまう様な武人に戦いを挑もうなどとは思わんよ」
同行した兵士に見られちゃってたか。
調子に乗ってソラリマ光らせてたからなぁ。
笑いながらウィスキーの水割りを飲み合った。
料理はキャベツと豚肉大蒜のオリーブ炒め。コーンと卵のスープ。子持ち鮎の塩焼き。
「おぉ。子持ち鮎良いですね。都内には卸してませんか?」
「噂通りの食通だな。残念ながら宮中だけの献上品だ。
こうした祝の席でしか出さない。少しだけなら明日手土産として渡せるが」
「じゃあちょっとだけお願いします」
耳を立てていたレレミィが。
「御兄様。命の恩人に対して失礼です。
どーんと分ければ宜しいではないですか。食通と言うのも失言です。お二人はお料理も一流の腕前。帰路の途中途中で作って頂いたお料理はそれはそれは美味しく。生涯忘れ得ぬお味でしたよ。ねぇクルシュ様」
「それはもう。言葉に表せられない程に。寧ろお出しするのがこの様な粗末な物で申し訳ないです」
「そこまでか…。で、では少し多目に。鮎は私の数少ない好物でな」
ちょっと涙目。
「いいですって。無理してまでお渡しして下さらなくても」
「過剰な施しは不要ですよ。食べたいなら来年またこちらに伺いますから」
「また来て頂けるのですか」
「個人的になら何時でも。…暇に成ってからなら」
「ではその時にお料理を教えて下さいな。私、北での生活でお料理に目覚めてしまいましたの」
「私たちの中で一番下手、でしたけどね」
「もう!お止め下さいクルシュ様。今言わなくても良いではありませんか。それまでにこの拙い腕を磨いて置きますわ」
心の底から笑い会える和やかな時間。
それを壊すのはソタンガ。
ソタンガは俺の後ろから絡み付き。
「おぉスターレン殿。飲んでおるかぁ。済まんかったぁ。
本に、済まんかったぁ。最初の失言を取り消したい。
あぁ取り消したい」
「はいはい。忘れましたから絡まないで下さい」
それを見た娘さんが引き取って退却。
「ソタンガ殿はお酒弱いんですね」
「普段はああではないんだが。今日は腹に入れずに飲み過ぎたのだろうな」
エンバミル氏は。
「私は飲みたくても飲めぬ。傷口に染みるわい」
「それだけで済んで有り難くお思い下さいまし」
「むぅ…。何も言えん」
クワンとグーニャは片隅の個別席で餌を与えられて嫌な顔を浮べて鮎を食べていた。
大勢の人間に囲まれ観察されながら。
白い鳩も赤毛猫も非常に珍しい品種だからなぁ。
楽しい祝宴は時が経つのも早く感じてしまう物。
アストラの閉会宣言で華々しく宴は終了した。
国軍の受け入れ準備が間に合っておらず。岩島に逆戻りして船に乗り換えた。
お嬢さんたちに怒られてしまったが。
船の設備や料理を奮発してご機嫌を直して貰った。
「助けて頂いたのに怒っては居りませんよ」
「そうですとも」
クルシュとアストラの妹君レレミィは揃って反対意見を述べた。
他の方々も同様に。
21人の女性の中で男は俺1人。羨ましい?
度を超せば居心地悪いだけだよ。
「それそうと。食糧や薬類は潤沢なんで、ここで2泊します。ドメルコンダで国軍と合流する予定だったんですがこっちが早過ぎました」
「グーニャもフェンリル様と似た能力を持ってますが規模は小さく暖かいのは船一帯だけです」
「薄着でデッキに出るのも止めて下さい。温度差で1発で風邪引くんで」
「はーい」全員元気に答えてくれた。
前言撤回。皆さん素直で協力的。
半数以上が貴族家や騎士爵家出身者の御令嬢だと言うのに長年の自活生活で協力し合う知恵を身に付けた様子。
3日目の朝に出発。のんびり15時前にドメルコンダに帰港した。
改めて踏みしめる故郷の大地に帰還者たちは大いに喜び踊るようだった。
併設の軍港に移動して待合所で待機していると見知った顔が飛び込んで来た。
帝都へ行く時に護衛をしてくれたトッド隊だった。
肩でぜえぜえハァハァ。
「スターレン様!無茶苦茶ですよ!!帝都を出発してたった二週間ですよ。我々には転移道具の支給が無いんですから…はぁ。追い付ける訳がないです」
激キレである。
「ごめんごめん。来たのはトッドさんたちだけ?」
「御免為さないね。順調に行きすぎて」
「いえ。足の速い先行部隊の三十で来ました。後続部隊の二百は…後三日は掛かる見込みです。こちらの方々が救助者の」
「そうそう。何人送られたかは知らないけど20人。皆さん元気だよ。後続は後で拾いに行く。
各町の様子とか内陸とか何か可笑しな動きはあった?」
「大変に助かります。異変らしい異変は特に無いです。
闘技場に現われた二十以降残党らしき者も首謀者と思われる者の動きも特に。陸路も進行上は妨害も無く。
静か過ぎて不気味な感じがしますね」
「崩落で潰れて死んだのは何人位?」
「出掛けに伝え聞いた範囲では百前後だと。この町の倉庫群で大体二十近辺だったと記憶しております」
「まだ半分は残ってるな…。
良し。フィーネ、手袋と義眼入り小袋チェンジ。貝殻セットで海警戒。メレディスからか隣町から船で襲って来る気がする」
「ラジャ」
「クワン。先に南に飛んで後続隊見付けといて」
「クワッ」
「俺はコインの実力試しながら周辺散歩して来る」
俺はクワンと一緒に待合所から外に飛び出した。
「はーい皆さん。もう暫くここで待機。このドメルで宿を取るのは中止します。クルシュさんを狙う連中が動きそうなんでそれをここで釣り上げて叩き潰します。
トッド隊の皆さんはここを拠点に休憩と暖を取りながら建物周囲の警戒を。
グーニャはここで救助者を守って。私は上に登って海眺めて来るから」
『ニャ~ン』
「はい!」
「ハッ!先行隊を三班に分け順次休憩と警戒。手ぶらで帝都に帰れると思うな!」
水入りの水筒を有りっ丈置いて。
2階の窓を回り、非常口から建物屋上に出た。
グーニャをペットにして良かったと実感する。
この寒さ。コート無かったら死ねるわ。タイラントに帰ったらシュルツを沢山抱き締めよう。
お強請りされたら何でも言う事を聞いてしまいそう。
駄目な姉だ。
前世も今世もずっと一人っ子だった私には出来過ぎた妹である。もう私よりも知能高いんじゃなかろうか。
肉眼でも双眼鏡を構えても。西も東も海を往来する船はまだ見えない。
今朝スタンと作ったホットコーヒーを飲みながら。
おぉ苦い。ブラックなんだから当たり前。
感想を伝えたいがスタンは喋れる状況じゃない。
お仕事再開。
西側の軍港も東側の漁港も。漁船や軍船は停泊しているが船内に潜伏してる人影は映らない。
冬季閉鎖期間中で一般人が居ないから…かも。
もしかしたら今日は動かないかも知れない。
しかし今この状況を逃せば私たちは帝都へ戻り、厳戒態勢に移行する。
クルシュさんを奪取するならここが敵に取っても好機。
もう1つの可能性。
アンフィスはここでの奪取を諦め、帝都で待ち構えている可能性。零ではないが根拠が薄い。
転移道具を持っていると仮定。
それなら前皇帝の娘の立場で帝宮内にも出入り出来た。
何処にでも行けるからこそこの余裕。
今一パッとしない。帝都での情報収集が足りなかった。
アストラ様もエンバミル氏もアンフィスに付いては詳しくなさそうな印象を受けていたのもある。
いっそ帝都で籠城戦に持ち込む方が早い気も…。
30分程が経過。
そろそろクワンティが後続部隊を見付ける頃。
スタンもそれに追従する。
私も一旦1階に戻ろうか。そう思い始めた頃…。
東西海域を航行する船の姿が双眼鏡の視界に入った。
「スタン。来たわ。東西3隻ずつ」
「両方だったか。町中には15人潜んでた。他は反応が無いから後続部隊迎えに行って来る。
船が20km圏内に入ったら教えて」
「了解。また後で」
15人をどうしたかまでは聞く必要も無いだろう。
欲しい情報は粗方取り尽くしてるし。今更下っ端を吐かせても何も出ない。
双眼鏡を左右に振りながら警戒に努めた。
---------------
フィーネ様の下僕に成って早半年。
まだまだクワンティ先輩には追い付けてない。
色々努力はしているが何かと失敗ばかりで。
もっとご主人様と旦那様のお役に立ちたいなぁ。
今日のお仕事はクルシュと言う人と北から連れ帰った人たちの護衛。今はそのクルシュの膝の上に居る。
後から来た護衛隊は部屋の外側の廊下を巡回中。
中は二十人と我輩だけ。
中にも護衛入れたら良いのになぁ…。
人前では喋れないのが辛い。
不意に部屋の片隅に人の気配が増えた。
「ミレ…」
そいつは何かを口走ろうとしていた。
あぁ面倒臭い。
声の主に気付いて二十人が振り向くよりも早く。
クルシュの膝を降りて、その女の口の中に局所火炎を喉奥目掛けて放り込んだ。
「あが!?がぎゃぁぁぁーーー」
炎は口から溢れて顔全体を丸焼きにした。
「だ、誰!」
「え?な、何!?」
肉が焼ける臭い室内に充満。くっさ。
我輩がやった事だけれども。
異変に気付いた廊下の兵士が飛び込んだ時。その女は焦げ臭い煙だけを残して姿を消した。
案外しぶとい女だな。
でも撃退したからご主人様に褒めて貰えるかな♡
竜肉を蒲焼きにして欲しいニャ~。
大狼様のお声が聞こえる。
『今の女…まあ良いか…』
『生きていても二度と喋れないですニャン』
『まあ、そうだな。見事な働き、大義であったぞ』
大狼様にも褒められた~♡
ニコニコしながらテーブルの上に乗って丸くなった。
「どうされました?女性の悲鳴と…肉が焼ける臭い」
「さぁ…。確かに誰かがそこに居たような」
「居ましたね。顔中に火を着けた女が。至急フィーネ様にご連絡を」
「解りました!」
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下に呼ばれて降りてみるとクルシュさんたちを待機させていた部屋は酷い臭いが漂っていた。
皆顔から火を吹いた女が現われて消えたと言い動揺している。
顔をこちらに向けるグーニャがニッコリ笑って…。
あぁグーニャが焼いたのかぁ。
猫を抱いて誰も居ない隣の部屋へ駆け込んだ。
「何があったの?てか誰が来たの?」
『転移で突然乱入して来た女が。善くない何かを口走ろうとしたので。喉奥に局所火炎を食わせたニャン。
大狼様も褒めてくれたニャ』
「おーナイスよグーニャ。それ多分アンフィスって女よ」
偉い偉いと首周りをモフった。
『ご褒美は竜肉の蒲焼きがいいニャ~』
「それ名案。帝都に戻ったらやりましょ。でその女は」
『転移で逃げたニャ。でも喉と目は潰したニャン』
中々エグいな。まあ人前では首は刈れないか。
「しゃーなし。今、沖合に東西から船来てるから手が離せないの。引き続きここをお願い。次に部外者が来たら頭叩いて気絶させてみて」
『ハイニャ!』
救助者を別室に移してグーニャと警備を置いた。
扉を開けたまま臭いが残る部屋の隣室で双眼鏡を構えた。
船の位置は両方100km付近。結構速い船。
そして東西は連携している。且つ相手もこちらを覗ける道具を持っている。
アンフィスはやはり転移道具を持っていた。
全部奪いたいがそれは欲張りだ。
まずはここの防衛と船の排除が優先。
アンフィスの転移先が何処かはスタンが戻ってからコインで探ってみよう。
「フィーネ!船は!」
スタンの声に振り返る…。誰だこいつ?
躊躇う事無く手刀でそいつの胸を貫いた。
「な…なに、を」
やっぱり全然違う。気色悪い。
掴んだ心臓を握り潰すと全く違う姿形の男がその場に崩れ落ちた。
こいつの偽装道具は使えるわね。後で回収しよ。
汚れたコートの袖と手袋を浄化水で洗い流して双眼鏡を構え直した。
現在位置80km付近。少し加速した。
私のスタンなら。最初に開いた扉をノックして。
「やっぱ外寒いわぁ…。何こいつ?」
て言う。そもそも魂の色全然違うし。
「スタンに化けてた。結構良い道具持ってるみたい。
服装も見た目同じになってた。別人の変態だと思ったから貫ける筈のないコートを手で突いてみたの」
「へぇ。馬鹿な奴も居たもんだ。まあいいや。
連れて来た200人は外に配置した。丁度町の南から50人位突っ込んで来てる。嘗めてるよなぁ。で船は?」
「今…60km付近。どんどん加速中。
さっきアンフィスらしき女が隣に転移して来て。何かを喋ろうとしたからグーニャが顔焼いて撃退した。絶命寸前で逃げたみたい」
「おぉ、俺が離れた隙を突いたのか。やるじゃない」
「私も屋上に居て気付かなかった。船の上に逃げたなら東かなぁ。今40」
「道具は諦めて沈んで貰おう。東行く?」
「裏を取られたお返ししたいから私にやらせて」
「オッケー。もし足が滑って溺れたら助けて」
「転移で戻れるでしょ?」
「人工呼吸されたい」
「バーカ。愛情たっぷりにしてあげる。今20」
「「行きますかー」」
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本日の収穫。
偽装道具1。アンフィス…と思われる遺体。から取れた転移の指輪1。ペラニウムが含まれる装飾品3個。
500km双眼鏡1個。
中型船6隻は沖合で藻屑と化した。
船から果敢にも寒中水泳に挑んだ奴らは追わなかった。
以降は海軍に引き継ぎ。
町中でお亡くなりになった66人の遺体とアンフィス。
国軍230名。救助者の20名。+俺たち。
総勢321名で帝宮内、中央宮前広場へ転移した。
親族たちの感動のご対面…の筈が。
クルシュがエンバミル氏を往復ビンタしていた。
「どうして船を止めて下さらなかったのですか!魅了に抗える精神力が有ったなら!」
「す、済まない。許してくれ。クルシュだけを逃すと嫌疑を掛けられていた。あの時は仕方が無かったのだ」
その後も自活生活で培った腕力を思う存分父親に打つけ続けていた。
転移の指輪は性能は良かったが定員が10名で今一。
それを渡す代わりに他の道具を頂戴した。
夜遅い帰宿となったこの日。
白月の部屋でMVPのグーニャを称えて竜肉の蒲焼きを焼いて食べ合った。
2人とペットだけの小さな祝勝会を開いて。
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凱旋翌日には救助者全員を交えて関係者だけの帰還祝勝会が中央宮で開かれた。
アストラが開会の音頭を。
「此度の勝利と関係者家族の帰還。大変に喜ばしく、多大なる助力をしてくれたシュトルフ夫妻を称え。感謝の念を込め細やかながら祝宴を催した。
首謀者の一人と目されるアンフィスは倒せたが。未だ一味の残党は国内に居ると思われる。其奴らの根絶は明日からとして。今日は心行くまで飲み明かそう。
戦いの中で散った勇ましき者たちと。北の大地で果てた輩の御霊にも畏敬と感謝を。乾杯!」
主賓卓に座り、俺はアストラの左席。右には両頰を腫らしたエンバミル氏とクルシュ。俺の隣はフィーネ。その隣にレレミィが配置。
開会始めにアストラに忠告した。
「北は動物系の魔物の巣窟でした。敵は必ず道具を狙って来ます。厳重な保管をして迎え撃って下さい」
「承知した。帝国の威信と誇りを賭けて。全力で叩き潰すと誓おう。貴殿らは明日帰るのか」
「はい。折角早くに任務が遂行出来たんで。クワンジアに行く前にゆっくり休養させて貰います」
「クワンジアか…。闘技大会への出席可否は検討中だ。
遅くとも来月中旬までには書を貴国へ送る。個人的にはラーランを行かせてやりたいが。国内に穴を作るのもな」
「私との再戦を望んでいるようなら敗退すると伝えてあげて下さい。ピエールは相当な馬鹿で低脳なんで。
馬鹿には付き合えないと返信すれば良いと思います。
手合わせなら個人的に呼んで下さい。少し本気を出しても良いですよ」
「勘弁してくれ。凍えた海の上を走り抜け、動いている中型船を紙屑の如く両断してしまう様な武人に戦いを挑もうなどとは思わんよ」
同行した兵士に見られちゃってたか。
調子に乗ってソラリマ光らせてたからなぁ。
笑いながらウィスキーの水割りを飲み合った。
料理はキャベツと豚肉大蒜のオリーブ炒め。コーンと卵のスープ。子持ち鮎の塩焼き。
「おぉ。子持ち鮎良いですね。都内には卸してませんか?」
「噂通りの食通だな。残念ながら宮中だけの献上品だ。
こうした祝の席でしか出さない。少しだけなら明日手土産として渡せるが」
「じゃあちょっとだけお願いします」
耳を立てていたレレミィが。
「御兄様。命の恩人に対して失礼です。
どーんと分ければ宜しいではないですか。食通と言うのも失言です。お二人はお料理も一流の腕前。帰路の途中途中で作って頂いたお料理はそれはそれは美味しく。生涯忘れ得ぬお味でしたよ。ねぇクルシュ様」
「それはもう。言葉に表せられない程に。寧ろお出しするのがこの様な粗末な物で申し訳ないです」
「そこまでか…。で、では少し多目に。鮎は私の数少ない好物でな」
ちょっと涙目。
「いいですって。無理してまでお渡しして下さらなくても」
「過剰な施しは不要ですよ。食べたいなら来年またこちらに伺いますから」
「また来て頂けるのですか」
「個人的になら何時でも。…暇に成ってからなら」
「ではその時にお料理を教えて下さいな。私、北での生活でお料理に目覚めてしまいましたの」
「私たちの中で一番下手、でしたけどね」
「もう!お止め下さいクルシュ様。今言わなくても良いではありませんか。それまでにこの拙い腕を磨いて置きますわ」
心の底から笑い会える和やかな時間。
それを壊すのはソタンガ。
ソタンガは俺の後ろから絡み付き。
「おぉスターレン殿。飲んでおるかぁ。済まんかったぁ。
本に、済まんかったぁ。最初の失言を取り消したい。
あぁ取り消したい」
「はいはい。忘れましたから絡まないで下さい」
それを見た娘さんが引き取って退却。
「ソタンガ殿はお酒弱いんですね」
「普段はああではないんだが。今日は腹に入れずに飲み過ぎたのだろうな」
エンバミル氏は。
「私は飲みたくても飲めぬ。傷口に染みるわい」
「それだけで済んで有り難くお思い下さいまし」
「むぅ…。何も言えん」
クワンとグーニャは片隅の個別席で餌を与えられて嫌な顔を浮べて鮎を食べていた。
大勢の人間に囲まれ観察されながら。
白い鳩も赤毛猫も非常に珍しい品種だからなぁ。
楽しい祝宴は時が経つのも早く感じてしまう物。
アストラの閉会宣言で華々しく宴は終了した。
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