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第133話 吸血姫降臨

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強敵を倒した翌朝。
ムッすりフィーネに対して大満足のお顔のシュライツは全く帰る気配が無かった。

「どうして出てっちゃうかな。どうして隣のテントで爆睡出来るのかな。嫁が隣で押し倒されてるのに!」
「いやぁ女性同士だし。問題無いかと…」

「有るわよ!」

「良いではないか。何事も経験じゃて。それにしても美味じゃったぞ。半魔のおなごは初めてじゃったが。その魔力の色と保有量は大した物じゃ。誇るが良い」
「止めて!思い出させないで。そして帰って」

「冷たい事を言うでない。一晩過ごした仲じゃろ。
まだ服も貰っておらぬし」

一向に帰らないシュライツが要求した物は。
予備の天翔ブーツ、獄炎竜から出たフレアの3点セット。
ボンテージは1着しか無かったが他を要求しない譲歩案として手渡した。

ボンテージも際どい物じゃなくホットパンツで露出は控え目な仕様。

全てが赤。ブーツだけ白。合わせればピンク?

新品の下着をフィーネから受け取り、着替え終わってテントから出て来ると別人がそこに立っていた。

美少女から美女への転身。
背丈はフィーネを越えてアローマよりも高く、お胸も腰の括れもお尻も全て大人に成っていた。

透き通った白いお肌はそのままに。明るいブロンドヘアに少しだけとんがったお耳。

目尻は上がりお顔もシャープさが増した。

「「どなた?」」
「これが妾の本来の姿じゃ。獄炎の為にセーブしていた物を開放して。スターレンの意趣返しで損失した分も昨晩フィーネから吸収したのでな」
ほぇ~。容姿まで自在に操れるんだ。

「この姿も数百年振りじゃから。久々に人間の町を見てやろう。案内せい」
「ん~。確かに別人で問題無さそうだけど。
その特徴的な赤目と吸血姫のトレードマークのご立派な犬歯で即バレじゃないかな。変態集団とかなら解っちゃう気がする」

「なんと!それは困るな…。ならば。
スターレンが持つ入歯と獄炎竜の瞳を一つ寄越せ」

スフィンスラーで手に入れた使えない入歯とフィーネが持つ瞳の一つを渡した。

入歯は一度握り潰して形状を変えると口の中に突っ込み。瞳の表面を指先で弄ると半透明の角膜が取れて自分の両眼にコンタクトみたいに入れた。

すると長かった犬歯が人並みに成り。瞳の色がクリアなブルーに変色した。
「どうじゃ?」

完全に別人で前の面影が綺麗に消えた。
一同拍手。ちょい照れるシュライツ。

「折角じゃし。名前も変えて後で城も壊して妾は死んだ事にしようかの」
「死因は?」
「勿論お主らに討伐された事にすれば良い」

「良くない!それだと俺たちが変態集団に狙われる。それなりに強いって言ってたし。変態を除けば善良な冒険者と喧嘩したくない」
「むぅ。難しいのぉ」

フィーネの提案。
「変態さんに付き纏われたストレスで南の海で自殺しますって書き置きを城に残せば?」
「それは名案じゃのぉ!早速置いて来るからここで待っておれよ」

シュライツはピンク色の翼を背中から生やしてフワリと消え去った。

「嵐のような人だな」
「だねぇ。…誰にも見られなきゃいいけど」

テントを撤収してフィーネがアローマにもう直ぐ帰るコールを入れた。
「え?うん…うん。解った。後でそっちに向かうから」

通話を終えたフィーネに。
「何かあったの?」
「昨日結晶石を持ってそうな猫種の魔物を2人で助けて。それから猫の群れが傍から全然離れてくれないって」

「は?じゃあ2人ってまだ」
「カレイドの南の森の中で野営中。私たちが通過したルート上だから飛べなくはないよ」

「クワ?」
『難儀な話ですニャ。我輩が説得してみるニャン』
「そっか。グーニャ立場的には猫のゴッズだもんな」

そこへ元気一杯のシュライツが帰還。
ピンクの翼が一番目立つから人前で出しちゃ駄目と忠告してソプランたちが待つ野営地へ転移した。



降り立って開口一番に。
「おぉ転移も中々良いのぉ。して縄張から北寄りに来るのも久々じゃ」

シュライツの登場に唖然とするソプランとアローマ。
そして平伏する猫種の魔物たち。

「な、何だその超絶美人」
「貴女様がお噂の?」

「そうじゃ。何を隠そう妾が…。名前何にしようかのぉ」
まだ決めてなかったらしい。
「…レイルダール・クリケルトとでも名乗るかの。種別もフィーネと同じにする。気軽にレイルと呼ぶが良いのじゃ。
スターレンの仲間と言う事で特別に許す」

「じゃあレイル。ちょっと立て込んでるから少し待ってて貰える?」
「ええじゃろ」
多分喋り方も変えた方がいいなこれ。

ソプランたちと情報を共有して猫たちからも事情を聞いてみた。

結論グーニャの説得にも全く応じる気が無いらしい。

「こいつら俺たちの眷属になるって聞かねえんだわ」
「町にも連れて行けず困っているのです」

『人間怖い。グーニャ様を従えてるなら。我らも匿って欲しい』
「そんなん言われてもなぁ…」
「グーニャは偶然私のペットになっちゃったけど。これ以上増やす積もりは無いの」

レイルが様子を見かねて。
「嫌いな人間の下に付く位なら。妾の眷属にしてやろうか」
願ってもない。
「でも希少な猫種で赤目だから狙われたんだよ。そしたらまたレイルが変な奴らに狙われるぞ。まあ負けないだろうけど」

「赤目じゃと何かあるのかの?」
「猫種の目玉から取れる緋色の結晶石ってのを狙ってる奴らが居るんだ」

すると赤目猫を持ち上げて。
「…その様な物は持ってはおらぬぞ。この場の全員。
飛んだとばっちりじゃのぉ」
「ねえのかよ。心配して損したぜ」

「猫が駄目なら…。兎ではどうじゃ。
昔金色の兎を作ったら狩られてしもうたから。綺麗なピンク色とか」
「それはそれで毛皮狙いで狩られるぞ」

「人間は欲深いのぉ。なら普通の土色でどうじゃ」
『それで。お願いします。レイルダール様の眷属に』

変更修正眷属化は秒で終わった。
猫たちは茶色と白の混色兎へと化し、一斉にレイルの影の中に入った。

「一から作るよりもお手軽じゃの。これからはこうしようかのぉ」

ソプランが呆れて。
「もうどうにでもしてくれ。早く帰って風呂入りてえわ」
「私もです…」

「あ、後昨日グレートパイソンのキング倒したから解体頼むわ。それと残党の足取りはこの近くの沼地で途絶えちまった。悪いな。
同士討ちみたいな感じだったから殆ど残っちゃいねえと思うがな」

「それなら…」
レイルを凝視。
「何じゃ?妾に惚れたのか?」
「違うわ!最近変な集団を奴隷化して仲間を殺せって命じただろ。そいつらどうなったか追えるか」

「なんじゃあ詰まらんのぉ。其奴らならここから元気に北東方向に向かったぞい」
「迷宮に行ったのか」

「奴隷化も出来るのかよ。何でも有りだな」
「雑作も無い。一度殺してバラバラにして組立直した元気な死霊じゃ。大陸の仲間を根絶やしにするまで徘徊を続けるじゃろう」
「元気な死霊って…何だ」

「妾に手向かった罰じゃ」
レイルの高笑いは暫く止まらなかった。



カレイドの町に全員で戻り、宿を取り直して男女別の部屋取りに切替えた。

フィーネが襲われないか…不安半分。

早速風呂に交代で入って大蒜を少し利かせた味噌野菜炒めとコーンスープを作って梅御握りを用意した。

昼はガッツリ夜は控え目。

レイルが居る為魔物肉類は入れてない。
獄炎の肉で焼肉したいな。

大蒜料理も普通に食って…。
「今更だけどレイルって昼間出歩いたり、大蒜食ったり、
銀製品使って平気なの?」
「本に今更じゃな。吸血種とは言え年中血を啜っておる訳ではないわ。普通に食事も取る。寝るか寝ないかで言えば寝た方がお肌に良い。
数十年前に訪ねて来た勇者も日光がどうとか。大蒜を食らえだとか十字の銀細工を見せて来て苦しめ!とかほざいておったが。あれはいったい何なのじゃ?」

「さ、さぁ…。何だろうな」
「何かしらね…」

「因みにその勇者はどうしたの?」
「手足をバキバキに折って城の外に捨てたのぉ。あれから来てはおらん。今の勇者は主じゃし」
見えてたのねー。凄いね上位存在って。

異世界は然れど異世界です。

昼を女子部屋で済ませ。昼から何をするかご相談。
主にレイルの接待をどうしようと。

「東大陸の町はここで充分じゃ。見るべき所も少なそうじゃしな。出掛ける前に約束していた昔話でもしてやろう」

それは獄炎竜との因縁のお話。

今から約1500年前。この東大陸には人間が集まる文明国家が存在した。

その国の名はクリケルト王国。
現在城が残っている場所が嘗ての王都だった。

当時は大陸北側を黒竜が治め。南側を王国で統治。
西大陸から魔物の流入も無く。聖剣が造られる以前。

北と南で均衡を保ち。中央付近で小規模の衝突はあっても戦争までには至らない仮初の平和が続いていた。

ある日その均衡を破る者が現われた。
それが獄炎竜。

奴はいけ好かない黒竜が治める北側を勝手に出て南側へと進出。
小さな町や村は焼かれ灰に変わった。

程なく王都も攻め込まれて滅亡寸前。
生き残りを賭けた王族の末裔たちは。自らの血肉と魂を捧げて強力な魔族。上位存在を西大陸から召喚した。

それがシュライツ・グリメソン。当時の彼女自身だった。

不死の女王。吸血姫。色々な呼ばれ方をした。
何時の日か獄炎竜を倒す為。相性の悪い奴を南端の洞窟に封印し、逃れられない盟約が交わされた。

「今大陸中に散らばる魔素溜りも。妾の召喚時に引き摺られて来た物が多い。好き好んで振り撒いた訳ではない。
あの時妾は西でうたた寝をしておった。気付けばあの城と獄炎竜に縛り付けられておってのぉ。
怒り狂った妾は生き残っていた当時の人間を血祭りに滅ぼし。
獄炎竜を野放しにした黒竜の所へ殴り込んだのじゃよ。
それで今でも不仲で互いに不干渉の立場に成った。

後から生み出された聖剣は魔族の妾では握れない。
初代の勇者も弱っちくてな。誰も討伐出来ぬ状態が続き対抗出来る装備を眷属に集めさせながら今日に至った。
と言う話じゃ」

何ともコメントに困る話だった。

「黒竜様と聖剣に挨拶、て言うのは?」
「してもしなくても同じじゃ。どうせ何が起きたかは見えておる。仮にも古代竜が討伐されたのじゃから。
今頃面倒が減ったと喜んでおるのではないかの」
「見られちゃってたのかぁ。何か恥ずかしいな」

軽く伸びをしたソプランが。
「獄炎竜ねぇ…。今のギルドが出来る前の話で文明も消し飛んでるなら全く情報が無いのも頷ける。
話盛らずにどんなだったか教えてくれよ」
子供のような目で。

どうせここだけの話だからと居なかったソプランとアローマに獄炎竜討伐までを語って聞かせた。

「洞窟入って一歩目から溶岩と炎と火炎属性の魔物のフルコースだったから2人は行かなくて正解」
「装備持たされても行かねえよ」
「壮大なお話に満腹です」

「残党の足取りも掴めた事だし。戦利品見に行こうぜ。
お姫様のご案内なら明日でもいいだろ」
「パイソンキングの遺骸を持っているのも邪魔ですし」
せがむ2人を尊重し、レイルに聞いても二つ返事でOK。

着替えて無人島に向かった。


肌寒い岸辺に平場を作りシートとデッキチェアーとテーブルを設置してフルーツ盛りをレイルにご提供。

喜ぶ彼女を尻目に先にパイソンキングの解体をした。

出たのは毒蛇の猛毒のみ!
「しょっぼいなぁ…」
「結構苦労したんですが…」
残念な2人を慰めて。
「偶にあるよ。何も残らない時とか。…毒瓶だけとか」
有り難く毒瓶コレクション入り。

巨大な肉やパーツ各種を出し入れして披露。
入れ替えて出来たての骨を組み立てた。
プラモみたいで面白かった。

お口を全開にする2人の反応も。
「でっけー」子供みたいに。
「でけえだろー」俺も乗りで対抗。

フィーネが冷静に。
「使い道が全く解らないのよねぇ。装備品作るにしても加工も出来ないし。いったい何人分出来るの?て話よ」
スプーンを手に振り振りレイルがアピール。
「妾がやってやっても良いぞ」
「ホント!」
「キス一晩と引換じゃ」
「嫌よ!」

「キス?って何だ?」
「ソプラン。それは聞かない方がいい」

「昨日たっぷりと味わい尽くした仲じゃろぉ」
「レイル!それ以上言うなら」
フィーネが檻を取り出した。
「嘘じゃて!怒りっぽいのぉ。妾以上じゃ…。
魔物肉以外で何か美味しい物を作ってくれれば良い。
それと完成予想図。何処の何を使うかが変わる。
個人用に作るなら体型をこの目で確認する。
若くて可愛い女子限定!それが条件じゃ」
そこは拘るんだな。寧ろ潔し。

「…考えてみるわ。聖女ちゃんとかは?」
「妾と相性最悪ではないかえ?」
ですよねー。
「前例もあるしのぉ。意外に出来るやも知れぬ。
昨日も話したが妾からは入れぬ。目の前に連れて来られるなら考えてみてやろう」
会ってみないと解らないか。


フレアレギンスはアローマとフィーネ。
フィーネが手に取った後。
「私は要らないから冷え性で悩めるペリーニャにあげよう」
いいかな?と言う目を向けたので。
「女性用だし良いと思うよ」
「うん!」嬉しそう。

悩んだのはフレアマント。
伸縮自在で火炎水氷に対して完全耐性を持ち、装備した後火を纏わせる事が可能。
しかしデザイン的には女性向け。

フィーネはグーニャが居ればいいと譲り、クワンは火の鳥に成ってしまう。

暫定でアローマが持ち。後日シュルツに見て貰おうと言う流れになった。

爆炎の戦斧は重く、1発の魔力消費も高い為にフィーネ専用で納めた。

宿怨の短刀もまた悩ましい。自分の体力と引換に高ダメージを叩き出す代物。呪われてはいないが連発すると気絶してしまう。

体力と言う概念を外れたレイルにお勧めしてみたが。
「色がのぉ。色がのぉ…。赤ならのぉ」
茶色は要らないと。

シュルツの眼鏡で鑑定し直すか。他にも気になる物も有るしな。
「そう言えばボナーの変色はどうなったのじゃ?」
「それも含めて色々鑑定し直さないと。発色を変えるような鍍金じゃ嫌だろ?」
「剥がれるような物なら嫌じゃな」

「だからもうちょい待ってて。何点かの合成で変えられるかも知れないからさ」
「仕方ないのぉ」


駄々っ子レイルを宥めお片付けしてカレイドの町へ戻った後で少しだけ町中をブラつき夕食。

豚ロース肉と舌平目のムニエルを作って出した。

「米は美味いのぉ。肉にも魚にも合うぞい」
喜ぶレイルに問う。
「レイルって何か好きな食材はある?」
「血が滴るような牛のステーキとか真っ赤なトマトとか。
野苺のジャムとかが好きじゃのぉ」

フィーネが記憶。
「覚えておくわ。今だと中央のトマトは時期外れかな。南大陸なら買えると思う」
「略奪はせんのか?」
可愛い顔して言う事は一流の魔族。
「しないわよ。人間社会ではお金って言う金属を代価にして作物や商品を買うの。レイルは今までどうしてたの?」
「城に居れば勝手に人間が持って来る…。言われてみれば新居ではどうしたらええんじゃろか」
そっからか。

「西以外の世界で使える貨幣を渡すから。明日それでお買い物してみよう。絶対店の人脅しちゃダメ」
「面白そうじゃの。お買い物か」
初めてのお使い…は1人では行かせられない。

「お金はいいけど。収納袋とかは持ってる?」
「城にあった物は燃えてしもうたわ。妾の影が収納庫にも出来るが…。今食物を入れると兎共に食われるのぉ」

フェンリル様に貰った箱はあげられないので引っ越し用で余った大袋を渡した。

「倍率は低いけど。レイルの魔力量ならアホ程入るからそれ使って。一応耐火性能も抜群」

緑色の大袋に難色を示したが。フィーネの赤マントに緑のバッグなら旅人感が出るよと勧めると直ぐに納得した。

次に新居は何処にどうやって建てるのかと質問すると。
「南端から西に少し行くと静かな湖が在ってな。その湖畔に木組みで小さな家を建てるのじゃ。眷属を増やせば直ぐに建てられる。
人間を殺して奴隷にしてはいかんのじゃろ?」
「ダメやね。襲って来た奴らなら知らんけども」

夕食後も切々と人間社会と上手く付き合う方法のレクチャーを続けた。

ふと人間用のお手紙を書いてみようと言う話になって適当に俺宛の手紙を書かせて…
「よ、読めない。あれ?俺の目が可笑しくなったのか」
「…私にも読めない。レイル、これ何て書いたの?」
「何をと言われてものぉ。普通にこんちわ、元気かと書いただけじゃが」

「俺よりひでぇ」
「幼児が初めて書いた、お手紙…」
「クワッ?」
『何も言えませんニャ』

「皆して何じゃ!」

それから習字を教えて修正を繰り返し。城に置いて来た書き置きはどうなんだ?となりお城に潜入して書き置きを入れ替えたり…。

事の序でだと湖畔に向かい新居の建設を兎と合同で建築したり、家財道具をパージェントにまで買いに行ってみたり、釣り竿を渡して湖や海での釣りを教えたりした。

その間約2週間。あーしたいこーしたいと我が儘なお姫様の接待に明け暮れた。

「俺たちって…。何しに来たんだっけ」
「さぁ。レイルの接待?」
「ちげーだろ!」
「残党の調査に…。終わってましたね」

1月も下旬に差し掛かる今日この頃。
「レイル。俺たちマスカレイドの町行ったり、最も深き迷宮の入口見たりしたいからもう帰るわ」
「中央に帰るのかえ?」
「そう。北の大陸方面にも行かなきゃならんし。色々準備があって」

「残念じゃ。もう少しゆっくりして行けば良いのに」
「俺たち人間だからレイルみたいに無限に近い時間は無いの。また遊びに来るから出来る限り暴れるなよ」
「もし用事があったら私たちの自宅にお手紙を眷属で飛ばして。直接押し掛けるのだけは駄目よ。他の人がビックリして弓矢撃つかも知れないし」

「妾は子供ではない!それ位は解るぞい」
ご立腹だ。ホントに解ってくれてるのか頗る不安だ。
「使い魔など必要無いわ。ソラリマを出せ」
「何故に?」
「初期は妾が拾った古竜の牙で遊び半分で造ったのじゃから通信道具を付けてやるぞ」
「「え!?」」
衝撃的事実。
『何となく…そんな気がしていた…』

外に出て未装備ソラリマを地面に突き立てた。
「改造に改名。合成に聖属性まで…。変わり果ててしもーたのぉ。これでは触れぬ。…困ったの」
大半は俺たちがやってしまいました。

困ったちゃんのレイルは暫くソラリマを睨み付けて。
「フィーネが持つ小粒ルビーを半分寄越せ。適当に作ってやる。残りは妾の売り物にするのじゃ」

「意外な所で役に立つものねぇ」
言われた通りにフィーネが半分進呈。

結構なウエイトを占めていたこともあり一石二鳥だと喜んでいた。

ルビーを選別して1つの石を握り潰して再構成。
「これを帰ったら合成で喰わせよ。妾とだけ念話が使えるようになる」

ハハァと有り難く頂戴した。



湖畔の新居でレイルと別れ。カレイドからマスカレイドへグーニャで移動して1泊。

基本設計はカレイドと遜色無かったんで割愛。

リレイドからは激変すると聞いていた為スルーして。マスカレイドから北東。最も深き迷宮を目指した。

だが巨大グーニャで乗り入れる事も、貴重な笛で天馬を呼び寄せる訳にも行かない。

魔素溜りやその他迷宮入口を避けながら最宮からかなり西側で降りて徒歩で野営地入りした。

「「おー」」
人人人の人集り。大小様々な冒険者たちのテントが乱立状態。
「大陸の大半が集まってねえかこれ」
「皆さん生き生きとしてますね。死と隣り合わせだと言うのに笑顔まで見えます」

クワンとグーニャは透明化して黙っているがかなり驚いているのは伝わって来る。

入場受付にも長蛇の列。
許可を取って外れの空き地にテントを張ってソプランに状況確認をして貰った。

「こりゃ駄目だわ。二ヶ月待ちだと。壊滅したら早まるかもで予約も出来ねえってよ」
「やっぱ腰を据えて来年かぁ」
「最果てを先に行くしかないね」
「適度に情報収集して帰りましょうか」

戻りでフラジミゼールに寄る用事があるので1泊だけして帰路に就いた。

設営された酒場やギルド受付で得られた情報は少ない。
教団の残党の情報は掴めず索敵にも血の気の多い赤が目立って解らず仕舞い。

北の方角で仲間割れをする集団を見たと言う以外は。

強力な装備を揃えた精鋭部隊が簡単にやられたとは思えない。直ぐに復帰していると見た方が無難。

携行品や食料斡旋販売所も充実している。
程度は悪いが素泊まり用の宿も。共用トイレやシャワールームはオマケレベル。

覗かれ放題、プライバシー保守は疎かで女子比率は全体の1割に留まっていた。

自前のコテージを使うしか手が無い。安全面に関しては述べるまでも無い。

ダンジョン内の情報は更に乏しい。
ギルド公式情報で公開されている物だけ入手。

10層まではゴブリンやオークゴブリン。
11、12層でスライムゾーン。
13層からオーガやサイクロプスが出始める。
20~25層は上の階のシャッフル。
以降は未公開と未確認。

欲しけりゃベテラン探して金を積めって話だった。

「何となーく。スフィンスラーと配置が似てる気が」
「それ私も思った」
「おーマジか。だったら情報収集要らねえな」
「ここでは何ですから。そのお話は帰宅後に」

「だねぇ」

無事に夜を越え翌朝撤収。

ピーレットまで転移してチルツンザのギルド支部に帰還を伝えて貰い。伝達が完了するまで2泊待機。

待機明けに転移でロルーゼ入り。そこから一気にフラジミゼールまで飛びモーちゃん家族と宴会三昧で2泊。

ロルーゼ内の状勢に大きな変化は無かった。

王都は強制送還された捕虜たちの処遇に困った挙句に全員打ち首にしてしまったらしい。

心は多少痛むが自業自得。忘れてしまおう。

帝国、マッハリア、タイラント。何れかの国に属国化される話まで出ているとか。どうなる事やら。

細かい所は陛下とメイザーにお任せ。
国土が広がる以外、余り旨味は無いように思える。


俺たちが自宅に戻れたのは1月末日の3日前。
帝国へ向かう準備を始めた。
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