上 下
128 / 303

第126話 ペカトーレの再調査

しおりを挟む
ミリータリア領海からの帰りにイベントは特に無く。無事にロメーランの港へ帰港した。

ニーナは帰りませんとサドハド君の後ろに隠れて可愛らしい姿を見せてくれた。

一度デレたらデレッデレ。
まあ長続きする様に頑張って。

南国の人は熱しやすく冷めやすいと聞く。
…大きなお世話だ。

ロメーランの港管理棟でモメットと落ち合い。サドハド島の位置を記入した海図を返した。
「モメットとはここでお別れだけど。島との連絡員を君に頼みたい。中々どうして資源も豊富で水脈も通った良い島だったから。君の目利きと手腕で幾らでも発展させられる筈だよ。信用出来る人材はモメットしか居ない。受けてくれないかな」

「喜んでぇ♡」
躱そうとする前に捕まえられた。暑苦しい!

どうしてこの俺のステで離せないんだ。

「島は面積もあって小山を掘れば何か出るかもだけど。掘り出す時期は考えた方がいいよ。役人に嗅ぎ付けられたら島毎奪われるからさ」
「はーい♡何時でも遊びに来て下さいねぇ。
それと、サンジナンテ城の人間が嗅ぎ回ってます。
捕まる前に立ち去った方がいいですよ」

「あ、ありがと。もういいだろ。離せって」

やっとこ開放されて港近くのレストランで簡単なお別れ会を開いた。

「タイラントに帰ったら。何かメメットさんに伝えたい事とかある?」
「特にはぁ。私は元気ですって伝えて下さいな」

「馬鹿力だしな。病気もしなさそうだし」
「やだもう!ソプラン様の意地悪」
思い切り肩を叩かれていた。
「った!マジで痛え。加減しろって」

モメットが突然真顔に成り。
「所でその珍しい赤毛の猫ちゃん…。ペカトーレでは見せびらかさない方が宜しいですよ」
「なんで?キタンが猫好きだから?」

「それもあるのですが…」
周りの目を気にして。サラリとメモを書いた。
そこには何と。
「その種の猫を集めては殺し。眼球から取れる宝石を狙う組織が居ます」
と書かれていた。

えーあれか。緋色の結晶石。まさか猫から取れるとは。
「それがその子から取れる保証は無くとも。相手は手汚い連中だと専らの噂。猫ちゃんの誘拐とかは日常茶飯事。
充分にご注意を」

「忠告ありがとモメットさん。私たちとっても良いケージ持ってるから大丈夫よ」
「ペカトーレでは逃げられちゃったとか言い触らすかな」


モメットにお礼を告げて今度こそお別れし。ロメーランの外からサンテリア手前まで飛んだ。

宿の大部屋で1泊。

「いやー参ったな。元狼だから取れる訳が無いんだけど」
「確実に狙われるわね。種族変更させたのが拙かった。今からでも小犬に戻れない?」
『無理ニャ~。生涯一度切りニャン。秘術の上に成功するかも五分五分だったニャ。あの時は必死で…』
「御免ね。安易に遣らせる物じゃなかったわ」

「ペカトーレの視察も面倒になりそうだなぁ」
「意外に敵の方から寄って来そうですね。隠しながら様子を見れば逆に探す手間が省ける気もします」
「クワァ」

「いざと成ったら戦闘力はゴッズだから楽勝だけど」
「こんな所でお披露目なんてしたくない。巨大化出来るのも東大陸まで温存したいし。グーニャ。ペカトーレ内では窮屈でもケージから出ないで」
『了解ニャ。もし町中で戦闘になったら討伐されてしまうニャン。折角旅のお供に成れたのに…一月足らずで素材にされるのは勘弁ニャ~』
「ごめんって。しないしさせないから大丈夫よ」
フィーネが抱っこしてヨシヨシしていた。俺もされたい。

ではなく。
「そう言えばゴッズ呼び出した指輪貸してくれる?」
「いいけど、どうするの?」

「羅針盤の真価を試す時が早くもやって来ました」
「あ!それ良いわね。やってみよう。ペカトーレに潜伏してたら嫌だし」

早速世界地図をテーブルに広げ。羅針盤と指輪3個を並べて置いた。

「指輪は2,3,5番。数字が飛んでるのを見ると。他の4つも同じ性能だ。音に反応する物じゃないから反響棒は使えず。壊れた部品でもないから締結鎖も使えなかった。
良い時に羅針盤が手に入って良かった」

羅針盤を現在地の上に置き針の中心軸に左手人差し指を重ね、右手で指輪の1つを握り締めて発動。

No.1 クワンジア中央部。王都付近辺り。
No.4 アッテンハイム北部。マーゼスパリス辺り。
No.6 東大陸北西。ダンプサイト辺り。
No.7 ペカトーレ王都西。海岸線辺り。

「…色々拙い!フィーネ、今直ぐペリーニャの所に飛んで俺が頼んだ余計な依頼を直ぐに止めさせてくれ」
「解った」
「邪神教の事は伏せて。心に浮べるのも無しで」
「うん」

直ぐにスマホで連絡を取り、フィーネが指輪の1つを持って転移した。

「クソッ。嫌な予感は本当に当たるな」
「他は今直ぐどうこうは成らない。俺たちが近付かなきゃな」
「ペカトーレが危ういですね。指輪の所有者も移動をするのでこれから毎日確認した方が」
「それしかないね」打てる手は少ない。

『接近すれば敵の狙いが大体解るニャ。ペカトーレ位の面積なら魔素溜りの位置も感じ取れますニャ。クワンティ様の飛行能力で追い付けない人間はそうそう居ませんし。
魔物が倒される前に排除すればいいニャン』
「その手があったか。頼りにしてるぞグーニャ、クワン」
「クワッ!」
『ニャン!』


フィーネの帰りを待っていたがかなり戻りは遅く。約2時間後に帰って来た。

「只今~。危なかった。てかゼノン隊の分隊が動いちゃってた。それを全力で走って止めて来たわ」
お帰りとお疲れのアイスティーを進呈。それを一気に。
「連れ戻して道具の説明と危険性を話して。所有者の現在の居場所を伝えて。気休めかもだけど聖馬の角を渡して来た」
運気上昇アイテムを土壇場で渡すなんて気が利くな。

シュルツとニーダとニーナにも渡したがペリーニャにどうやって渡そうか悩んでいた所だった。

「気休めじゃないよ。信じる者は救われるってね」
何事も無いよりはマシ。

呼吸を整えたフィーネがクワンから角を補充。
渡せる人も後2人。共有化して4人とクワンの分も渡そうと思えば渡せるが。何となく手放し辛い。

指輪を手に取り。
「しかし良く考えたな。見た目は普通の金の指輪だから身に着けてる人大勢居るし。他の道具かお守りかも知れないし。直前で1人しか居ないとかじゃないと捕えられない。
鑑定しようとしても、グローブとか着けてたら見抜くのも難しい」

「本当に厄介ね。王都襲撃時と違って単独だと見付け辛いし」
「依頼を受けずに近場に俺たちだけだと。俺たちが疑われちまう」
「討伐依頼が出ていない魔物。国の管理下に在る物だと手も出し辛いですね」

「今回のペカトーレ案件はクワンとグーニャ頼みに成りそうだなぁ」
「視察中にアッテンハイムでゴッズが出たら私が救援に行くわ。
さっきはマーゼス手前のゼスパリスまでは走ったから。東に移動してなきゃ追い付ける」

気分を変えて時間も頃合いで食堂で夕食。

焼き魚でも珍しい飛魚の塩焼きがメインだった。
「西寄りって飛魚居るんだな」
「白身魚と青魚の中間って感じだね」
「釣り竿じゃ釣れねえしな」
「淡泊で曲が無く。飽きの来ないお味です」

クワンが1匹しか食べなかったのを見てグーニャもお代わりは控えていた。良い傾向だ。俺たちだとついつい甘やかしてしまうから。




---------------

アッテンハイム領、首都エル・ペリニャート。
教皇邸館内の特別室ではフィーネから齎された信じ難い一報に緊急会議が開かれていた。

教皇グリエルは重い口を開いた。
「クワンジアの犬かどうかは不確かだが。新たな敵組織と言うのは恐ろしい道具を掘り起こしてくれる物だ」

顔触れは第一から第三の聖騎士団長。国軍総司令官。
館内に居た幹部役員。そして聖女ペリーニャ。

「疑う訳ではないがその指輪は本物なのか。ペリーニャの口から聞きたい」
ペリーニャは二番の指輪を手に取り。
「残念ですが本物です。これを身に着けた者が所属する一団が魔素溜り付近で討伐し切れば。何の種別であろうと次は必ずゴッズが出ます。
タイラント王都では西に住まう魔物。三種のゴッズが同時多発した様です。言うまでもなくあのお二人が対処されました。これはその時の押収品の一つ」

落胆を隠せない面々。
「助けを求めれば来てくれる。しかし異教徒であり他国に居る二人に頼り切りでは聖都の管理者としての体裁が保てない。
新興派問題の根源を解決に導いてくれた上にだ。恥の上塗りとはこの事」

「一時の恥で民が守れるなら私が被ります。ですが頼り切りではいけません。これと同一の物を着けている者を見抜くだけなら私なら容易く見破れます」
「それは…」
「今は躊躇う時では有りません。今なら事前に対処が出来るのです。御父様が止めようとも私は出ます。
外道に連れ去られた時。お二人に何度も転移で運んで頂いた時に。私は転移の仕組みと構造を理解しました。
既に修練は重ねました。二十名規模なら道具無しで。魔力消費のみで転移が可能です。
手は繋がなくていけませんが」

沈黙しか返せないグリエル。
「…何時でも、出られたのか」
「独り身でなら。自分が通った場所ならば何処にでも」

「止めても無駄か。マーゼスパリスから狙える魔物は。答えよゼノン」
「はい。樹海手前に大蜥蜴。樹海に深く潜れば軍隊蟻と殺人蜂。その両方が狙えます」

「選択肢は多いな。蜂と蟻のゴッズなど考えたくもない」

「御父様。指輪を持つ一団も転移の道具を持っているやも知れません。私たちが接近した瞬間に南部に行き。発生条件が安易で強力な熊が狙われます。
いえ、私が敵ならそう考えます」
「…」
「北部マーゼスパリス周辺。南部ブラッズイア周辺の警戒を敵に気取られない様に高め。ゼノン隊少数精鋭と私で賊を殲滅します。街地での戦闘許可を求めます」
「…許可はする。がペリーニャが狙われる危険が」

一呼吸置いて。
「大いに。寧ろそちらが真の狙いでしょう。しかし転移が可能と成った今。同じ転移を拒絶するのも容易です。
隠密行動が取れる外嚢や道具類を至急集めて下さい。
最低で十名分。足りなければお二人に類する物を借り受けます」

「ユリアド、ビエンコ。祭事用でも構わん。兎に角道具類を掻集めよ。
バーキンス。クワンジアからの入国者の規制。積荷の検問を強化せよ。合わせて北西、南西の検問も怠るな。
ギンガム。第一師団は北部の町を辿りギルドの討伐依頼状況を再確認。配置は任せる。
チョレント。第二師団は南部の町を同様に。
ゼノン。第三から遊撃部隊を編成。残りの人員と国軍部と連携し、ここ首都の防衛及び、南北街道を何時でも封鎖出来る様に準備せよ。

これまで常に後手の数々を踏んで来た。これ以上の失態は許されない。宗教国民として。女神様を信奉する者の一人として。
恥じて命を落とす事無き様、己が矜持を示せ!」

「御心のままに!!」
全員総意の勇ましき返事が飛び交う。




---------------

ペカトーレ再入場は何事も無く通過。

トゥールーを越えてシェイルビークの町に到着した。

途中の砦にも寄ったが砦長は不在。一声宜しくと言って置きながらこの様だ。付き合い切れん。

砦長が言っていた通り。シェイルビークの町並みはトゥールーとはガラリと変わった。

何がって人々が高身長でがたいが大変良い。男女問わず2m越えしてる人がゴロゴロ居た。

荒れているかと言うとそうでもない。大きな人も標準な人も温和そうな表情で柔やかに接してくれた。

太い丸太や角材を肩に担いでニッコリと。
「兄ちゃんたちはどっから来たんだい」
尋ねられれば素直に答えよう。
「タイラントから来た行商隊です」
「それはそれは遠路遙々大変だったねぇ。何も無い町だがゆっくりして行きな」
丸太の重さなんて無重力と言わんばかりに軽快なステップで歩いていた。

一般人の住居も商業店舗も全部がデカい。大きな人々のサイズ感に合わせればそうなるよ。

「ほえー。みんな大っきいなぁ」
「ご先祖様…間違い無くあの種族の血が混じってるね」

どうやって交配したんですか?と言う謎は謎のまま置いておくのが吉。

「丸裸で戦ったら確実に負けるな」
「モメット様なら良い勝負が出来そうですね」

その光景は町中の定食屋でも続く。
豚カツと焼き魚定食を頼んでみたが軽く2人前はある物量攻め。かと言って不味くはない。味付けは塩胡椒だけでも使っている油の質が良くて諄くない。

サラダも大皿にてんこ盛り。

「余ったら箱詰めにして持ち帰りな。パンとスープは食べ放題だよ。調味料はソースしか置いてないけど。好きな物を持ち込み自由さ。大抵の店は同じ形式だよ。
好きな物を好きなだけ。腹を空かせちゃ仕事なんて出来やしない。高級店なんざ知ったこっちゃないよ」

気前が良い!この量で何れでも銅貨10枚と大変お得。

「これ長期滞在したら絶対太るわ」
「食べたら食べた分運動しないと」
「このソースも美味え。自制しないと満腹まで食い続けちまうぜ」
「節制を。持ち帰れば一日余裕です」

クワンとグーニャの分は細かく切り分け取り皿に。4人から少しずつ分けるだけで充分だった。

「本来の意味で首都に大変興味が湧いて来ました」
「私もそれに同意です」
「邪魔さえ入らなきゃ楽しめそうだな」
「はい」

宿での食事はお断りして素泊まり。
共用の大浴場に自宅よりも大きなベッド。高級宿でもないのにキッチン付きが標準。素晴らしい。

露天や市場は盛況で、数は少なく値は張ったが本鮪も数本並んでいた。

「スタン。売り物は献上品にしない方がいいって。御方は鮮度を重視するんだってさ」
「そっかぁ。帰りに自分たち用にちょっと買うだけにしとくかね」

献上品をお手軽に済ませようと言う考えが甘かった。


その後。トットランド、ケイルビークルを経て首都キッタントゥーレ入りを果たした。その間の約1週半、特に何も起きずに。

乗り合い馬車でも宿場町でも襲撃は無かった。

出払ってるのかな…。

理由は不明だがキッタントゥーレ西の指輪の位置も大きな変動が無く。アッテンハイムの賊も無事捕えられたとペリーニャから報告が有った。

キッタントゥーレのエリュライトホテルの最上階にて。

転移魔法が使えるように成ったよとの衝撃発言の後。
「数日間南北の町を股に掛け。指輪を持つ賊と追いかけっこをしていましたが漸く捕える事が出来ました。
相手の魔力が先に尽き。私は定量使い放題でしたので最後は余裕。あちらは疲労困憊。非力な私でも倒せたかも知れません。しかし短剣を持ち上げただけでゼノンに激しく怒られて仕方無く止めました」
随分と逞しくなっちゃったな。
「止めて正解。そんな怪しい奴に近付いちゃ駄目」

「リーダーを無傷で捕えましたが。一瞬の隙を突かれて自害されてしまい何も情報は取れませんでした。
装備品の大半はクワンジアの店売り品で足も取れません。
金の指輪と転移の指輪が特殊なだけで後は何も…」

「事前に抑えられて良かったじゃん。嘆く必要も無いだろ」
「そうよ。クワンジアの件は私たちに任せて置いて」

「いえ。手は出しませんがクワンジアからの入国者の規制は更に引き上げます。徹底抗戦の構えです。
私は歴代聖女の殻を破り捨て武闘派の新聖女として生きると決めました。手向かう者が女神教の信者を名乗ろうとも一切の情けは掛けません。慈悲などくぐむむ…」

「申し訳有りません。ゼノンです。ペリーニャ様は大変に興奮されている様です。今宵はこの辺で。
尚今回の事前連絡の報酬として架振の指輪よりも性能面で優れる押収品の指輪を進呈する事と成りました。ご都合良い時に取りに来て頂ければ幸いです。それでは」
ゼノンが強引にスマホを切ってしまった。

「…ペリーニャ。随分とアグレッシブに成ったなぁ」
「な、何か心境の変化があったのよ。きっと」

「まあいいや。彼女も俺たちも日々成長。成長には個人差があるって事で。後はこっちの指輪の対処と残党の調査だけだ。アッテンハイムの賊が捕まった情報が流れるまでが勝負だな」
「うん」
「移動式の祭壇ってのも破壊出来れば御の字だが」
「欲張ってはいけません。まずは指輪の破壊か奪取が先決です」

テーブルに地図と羅針盤を置いて再捜査。

今度は首都全域のホテル御用達ガイドマップで繰り返して詳細位置を書き込んだ。

何度やっても大きな変化は無い。ひょっとして捨てられてるのか。海辺に。

位置は割り出せたのでフィーネが双眼鏡でスキャン。

「所属団体名なんて知りたくもないから人物は適当に…指輪指輪と…」
数分後。
「ん?あれ?意外に…これ。岸壁に引っ掛かっているような気が…。クワンティ。空からちょっとこの辺り見て来てくれない?」
「クワッ!」
フィーネが地図に丸を付けた所へ一目散。ステルス化して小窓から飛び立った。

約10分後にステルスクワンが指輪を持ち帰った。

「間違い無い。7番の指輪だ。真に幸運の7番。戦闘無しで手に入った」
「誰か心ある人が捨ててくれたのね。誰かは解らないけどその人に感謝を」
4人で胸に手を当て祈りを捧げた。
『良かったニャ~♡』


「さて。指輪は後日纏めて破壊するとして。組織の足取りと祭壇の在処への手掛かりが綺麗に無くなってしまった訳だが。どうしたもんか」
「取り敢えずキタンの招待が来るまで待ってみよっか」
「何も無ければ…。迷宮前に居た第五師団の様子伺いでこっちから出向く手もあるな」
「首相官邸まで接近すれば、何かしらの動きは有りそうですね」

敵の動きに期待して。明日はキタンからの接触待ちで町中を練り歩き。音沙汰無ければ明後日にマホロバさんかニーメンさんを尋ねてみようと決議し解散した。

ソプランたちは最上階の隣部屋。

エリュダー系列にしては珍しく4階建て。スウィートも同レベルが2部屋。どうして空いていたかと言えば勿論。
お料理がお上品過ぎて標準量しか出しておらず。人気が高くなかったから。小食グルメな一般客はお値打ちな2階3階に集中していた。それでも空きがあると言う話。

1部屋でいいのに、たっぷりとお金を落とす為に贅沢借りした。




---------------

嬉し恥ずかしスッキリ翌朝。

両カップル共に多少の疲れは隠せてない。

確信には触れずに集まって部屋食モーニング。
ベーグル生地の野菜エッグサンドと濃いエスプレッソ。

冷蔵庫は無いので牛乳は無い。そこは弊社の冷蔵庫から取り出してたっぷりミルクでカフェオレを。

砂糖を入れずに自然な甘さとコーヒーの苦みで疲れも適度に吹き飛んだ。

「良い豆だな。焙煎機がいいのかな。両方共買って帰ろう」
「焙煎機ねぇ。小型の物だったらお土産にも良いわね」

「ミルクはいいから蜂蜜ねえの」
「贅沢ですねソプランは」

『四人共顔が赤いニャ。人間の交尾ははげ』
フィーネが慌ててベーグルを押し込み。
「グーニャ!人間に取ってそれは秘め事なの!何かを感じても口には出さないで!」
『モグモグ…。了解ニャ。でも町中の人々がやっ』
更に投入。
「一々感想は求めてないの!人様は人様。家は家!」
『モグモグ…。どうして恥ずかしがるのか理解が出来ないニャン。これも秘密なのかニャ?』
「そう。絶対秘密」
『人間は複雑で難しいニャー』
そうそう人間は色々とややこしいのだよ。

「「「…」」」
悪気は無いから強くは怒れない。


気を取り直して町中や港の散策。併設された漁港と軍港を眺めながら指輪が落ちていた海岸付近も歩いてみたが誰からも声は掛からず。

屈強な漁師さんたちの水揚げ風景を見学した。

競り後の休憩中の漁師さんたちにインタビュー。
「ここらは何が多く獲れるんですか?」
「行商さんかい。ここらじゃ近海だと蛸と鯖か。沖だと太刀魚が旬だ。遠洋だと鮭。丁度今頃が子持ちが上がって来るからそれを適度にって感じだな」
おーイクラいいなぁ。
「何処か筋子の丼物とかのお店ご存じないですか?」
「兄ちゃんも通だねぇ。そこの路地を入って奥の突き当たりを右手に行った先の定食屋だな。昼前には無くなっちまうから食べるなら急ぎな」
おじさんたちに手を振りながらお別れ。

お腹は全く減ってはいないが折角なのでイクラ麦飯丼を無理矢理詰め込んだ。

たれはテーブルに置かれた魚醤ではなく手持ちの出汁醤油で実食。

「美味しい物は幾らでも入るな。イクラだけに」
「このプチプチ感とボリューム。懐かしい」
「何か聞こえたが。懐かしさを感じるもんなのか」
「不思議な食感ととろりとした塩気。な…つかしくは…」

「気にしない気にしない。何処かで食べた気がするのよ」

自宅に帰ったらお寿司やろうかと耳打ち。
上機嫌でハグされた。言ってみて良かった。

「店の中でもイチャ付くのか」
「流石にこちらが恥ずかしいです」

店を出て大通り沿いの露店を幾つか回り、諸島方面で危険な場所や海賊の類を聞いてみたが特に居ないよ?とのお返事しか返って来なかった。

「少し前までなら。西の沖島の端っこの島に変な黒尽くめの集団が居たけどね。毎晩の様に篝火焚いて妙な踊りをしてるもんでさ。怖くて誰も近付かなかったのさ。
最近じゃめっきり見なくなったってお隣の旦那さんが言ってたね」

お店から離れて。
「逃げて移動したっぽいなぁ」
「昨日のアレも。逃げる途中で落としたのかもな」
「今と成っては解らない」
「陸路で南に下ったか。船を使って何処かへ逃げたのか情報が足りませんね」

雑貨屋を数軒回り、焙煎機とコーヒー豆を大量に購入。
店主の方々にそれとなく聞き込み。

最後のお店の店主さんが。
「黒尽くめの変わった集団ねぇ…。二、三週間前だったか南に向かうキャラバン隊が居たね。確かに黒っぽい格好してた気がするな。その人たちがどうかしたのかい?」
「何でもないです。変テコな集団にちょっと興味が湧いただけです」
「お気に為さらず」


ホテルに戻っても特に連絡は無し。

そのまま部屋で打ち合わせ。
「陸路で南かぁ。追い掛けてると時間的に微妙だな」
「決着はここで着けられると思ってたもんねぇ」
「指輪はもう奪ったし。祭壇だけなら放置してもいいんじゃねえか。人質取られないようにだけ集中して」
「パージェントの周囲の敵は排除済み。ペリーニャ様は転移魔法を習得されて聖騎士が守護しています。ニーナ様も行方知れずで王都を離れて居ります」

「う~ん。季節は秋。南の山岳部に挑むなら装備品を整え直さなきゃいけない。祭壇を逃したのは痛いけど。
明日官邸に挨拶して何か聞けたら聞いて。明後日には帰ろうか」
反対意見は無かった。人間は。

クワンがスマホから。
「今夜透明化して西沖島を探索します。キャラバンが移動した情報は有っても。大きな物が運ばれたと言う明確な証言は有りません。もしかすると島にまだ置いてあるのではと思います。何もそれっぽい物が無ければそちらは船で運ばれ。ここから運ぶとなるとクワンジアが濃厚かと」

「そっか。こっからならクワンジアの残党と合流を図る。
南に下ったのは別の目的。クワンが正解かも」
「偉いねぇクワンティ。核心突いてるかもよ」
「クエアァ」新しい返事だ。ご機嫌だな。

「グーニャは西の方で何か感じるか?」
『離れ島だと潮の臭いで鼻も利かないニャ。感覚も同じく海を挟むと鈍るニャン。今の所で西の方角からは何も感じないニャ~』
アローマに首を撫でられてご満悦。
風体はすっかり赤毛猫。喋りさえしなければ。

「それは残念。グーニャをここで披露して釣る必要性も無さそうだし。クワンも今日は偵察だけで無理するなよ」
「クワッ!」

ソプランがアローマの膝上のグーニャを見ながら。
「思ったんだけどよ。グーニャ巨大化しないなら、こないだ奪った透明化の首輪着ければいいんじゃね。一々ケージで出し入れも面倒だろ」

「「「あ!」」」すっかり首飾りの存在忘れてた。

取り付けてみるとピッタリサイズ。
「これなら予備は3つも有るし。壊れても問題無いな」

「見えない生き物を撫でると言うのも不思議な感覚です」

踏まれたくないなら誰かに抱っこされるか肩に乗るように苦言を呈し、明日からはこれで行こうと相成った。




---------------

夕食後の晩酌中。クワンは偵察が出ている間はこちらの部屋でトランプをしながら帰りを待っていた。

その間グーニャは4人の間を行ったり来たり。誰かの肩に乗っては違うニャを繰り返し。最終的には俺の頭の上に乗っかった。

『これが一番しっくり来るニャ!』
「俺が一番しっくり来てねえよ!重くはないけど物凄く邪魔臭い。爪だけは立てるなよ」
『ハイニャ。肩凝ったらまたマッサージするニャン』

「真っ赤な猫帽子…羨ましくはないな。
マッサージって何?」

「グーニャが来た初日さ。俺1人で寝てたじゃん。気付いたらグーニャが腹の上に乗ってて。熱いから退かしたら今度は早朝にうつ伏せにされて背面全部温感マッサージしてくれたのよ。汗ドバドバ出て二度寝も出来なくなった」
「それであの日早起きしてたんだぁ。グーニャ私にもやってよ」

『フィーネ様は全然凝ってないニャ。今だと…アローマ様が一番凝ってるニャン』
「わ、私ですか」
「凄い。見ただけで解るんだ」
『フィーネ様よりもお乳がデカいニャ』
「よーし。何かカチンと来たから今から無人島行こうか」
『何でニャン。どうして怒ったニャ。見たままを言っただけニャのに』
「フィーネも落ち着けよ。比べられただけで小さいと言われた訳でもないだろ。俺はフィーネの大きさが一番好きなんだから」
「アローマはお嬢より少し大きい。それが事実だろ」
「や、止めて下さい!」
「うぉぉ。何だろこの無意味な敗北感は…」

そんな無意味な冗談を言い合っているとクワンが偵察から帰って来た。

「島には誰も居らず。中央部付近には二✕三程の長方形の凹みが三つ。そこから北海岸に抜ける道と滑車と丸太を並べたような痕跡が有りました。どうやら逃げられた模様です。その三つが部品なのか本体と予備なのかは探れませんでした。無念です」

「ありがとクワン。同じ大きさの部品…。か予備か」

「許可を頂ければクワンジア方向に飛んで追跡します」

「大丈夫よクワンティ。時間も経過してるし、行き先は十中八九クワンジア。足を伸ばしても中央の西方三国で間違いないわ」
「下手に刺激して西大陸に逃げ込まれたら手が出し辛くなる。まだクワンジアの方が対処がし易い。敵の次の動きに注目しよう。丸太で転がすような大きい重量物。それが解っただけでも充分な収穫だ」
「クワァ…」
悄気るクワンを撫で回して慰めた。

「通信器取られて直ぐに動いたんならまあまあ頭の回る連中だ。今から追っても海上や孤島で積荷を分散してるかも知れねえし。クワンティが幾ら高速で飛べても全部は追い切れねえよ」
「ですね。今日はど…」
アローマが言い掛けた時に俺のスマホにメールが入った。

シュルツから今話せるかの確認メールだった。
「どうした?何か動きでも」
「いえ。敵に関する動きは特に。不思議な椅子に座らせてもスターレン様とライザー殿下が聞いた以上の事は何も取れなかったそうです。ロルーゼに引き渡すまで捕虜は拘留を続けると。
それとは別にメメット隊の皆さんが王都に帰還されました。あちらもロルーゼ政府に冷遇されて何の情報も拾えなかったと嘆かれていました」

シュルツ曰くメメット隊の行動こそがクインケの行動を抑制していたのではないかと推察していた。
俺もそれに同意した。クインケ本人が出陣する不可解な行動も頷ける。戻りたくても戻れなかったんだ。

「それをメメットさんたちに伝えてあげたら喜ぶと思う。全然無駄足じゃなかったってさ」
「はい。伝えてみます」
「序でにメメットさんにモメットは相変わらず元気だったよって伝えてあげて。それだけで伝わる筈」

「はい。後…ニーダさん。御自分の口から」
隣にニーダも居たのか。
「ニーダです。こう名乗るのも最後になるかも知れません」
「ん?どう言う」
「ノイツェ御父様やライザー殿下。王族の皆様とガードナーデ家の皆と協議を重ねた結果。私はニーダと言う名を捨てダリア・ガードナーデと改名して。殿下との婚約を近く大々的に発表する運びと成りました」

「改名…か」
「発案は私です。生まれ月はスターレン様から教えて頂けても。実父も産みの母の記憶も有りません。トルレオ家の存在自体も抹消されているでしょう。
ニーダと言う名は胸の奥に仕舞い。実名を知るのも身近な方だけ。ならばニーダと言う女性は先の戦役で死亡した物として別人に成り、ロルーゼと完全に縁切りしようと考えました」

「そっか…。ダリアが辛くないなら俺は応援する」
「辛いです。家名を変える時は嬉しかったのに。名を変えるのがこれ程辛いとは。責めて。ベルエイガ様を…
あの浜辺で父と呼べたなら。ニーダの名の意味を聞けたなら、と思わずには居られません」

ロイドちゃん。ベルさんの声は聞ける?
「不可能です。彼はもうこの世界を離れました。全く新しい人生を踏み出した所です。ですがきっと彼なら」

「ダリア。きっと大丈夫さ。ベルさんが実父だったとしても必ず笑ってこう言うさ。そう来たかぁーって。
だから君は、君が思うがままに新しい人生を歩み出せ。
君はもう独りぼっちじゃない」
「…はい!」啜り泣く声が聞こえる。

「私なんて。実の両親に身売りされる寸前だったのです。それに比べればダリアさんは果報者ですよ。私よりお姉さんなのに泣き虫さんですね」
痛烈な自虐で慰めていた。

笑っていいのか判断が付きません。
結局曖昧に濁して通話を終了。

「ダリアか。思い切ったなぁ」
「花言葉ってなんだっけ」

「白なら感謝。反対の意味で移り気とかじゃなかったかな。でも彼女の人生にピッタリな気がする」
「深いね。狙って名前を付けたみたい。帰ったらフローラさんに依頼してみよっかな」

「いいね。んじゃそろそろ寝ますか」

『こ』
何かを口走りそうになったグーニャの口を塞いで解散。




---------------

外務の勲章を付け正装で首相官邸訪問…。

おや、人が少ない。この国の中央って暇なのか。

受付で予約も手土産も無いがキタン様に会いに来たと告げると困り顔。

「大変申し訳有りません。只今首相は公務にて三週前頃から外出しております」
「え?公務で3週間も?外務じゃなくて?」
「大切な内務は何方が?」

「公務だと言い張っております。ここだけの話…キタンはお飾りで。寧ろ居ない方が物事がスムーズに。
宰相級大臣たちが一丸と成って滞り無く」
支持率急落は冗談じゃなかったらしい。
「じゃあ第5師団長のアホロバ殿か副長のニーメン殿に面会を願いたいんですが」

「それでしたらこちらでは有りませんね。兵士はここを出られて左手に暫く進まれた兵役庁舎と成ります。
第五師団の方々なら在室だと思われます故、そちらでお訪ね願います」
程良い感じで微笑みで返すお姉さんに手を振り官邸を退出した。

「首相が居ないって自由な国だな」
「邪魔者ぽいしね」

腑に落ちないが兵役庁舎に向かった。

受付⇒待合室⇒案内された団長執務室ではマホロバさんがデスクに足を乗せてだらけ切っていた。

隣の机でせっせとニーメンさんが書類を片付けている。

俺たちと目が合うとマホロバさんが慌てて足を降ろして姿勢を正していた。
「手遅れですってマホロバさん」
「お久し振りです」

「お久し振り。見苦しい所を見せちゃったね。
事務方仕事は苦手で。ぶっちゃけ大嫌いで。ニーメンちゃんにお任せお任せ。お客さん来たし休憩しよっか」
「お元気そうで何よりです。
貴方様は朝から一枚足とも処理していませんが。丁度休憩時。隣室に茶と茶菓子でも運ばせましょう」
マホロバさんも自由人だ。それに付き合うニーメンさんはしっかり者の副官。バランス取れてるんでしょう。

隣の大きな応接室へ移動。お茶を運んでくれたのは長身の侍女さんだった。スレンダーで身の熟しが独特。戦闘力高そう…。

マホロバさんから。
「どうして長身の人たちが兵士に居ないか不思議でしょ」
「言われてみれば。兵士の皆さんは標準的な人ばかりでしたね」

「大きな人たちは性格が温厚で兎に角争い事が大嫌いな質でさ。無理強いすると丸太でぶん殴られるんだ。
意味解んないけどそう言う種族の血が混じってるんだろうねぇ。多分僕にも少し」
ニコニコしながらクッキーを頬張っていた。

「御覧のように自由人です。この性格が祟って実力は有るのに一向に上に上がれず」
「これ位が丁度いいの。偶に迷宮探索なんて頼まれるけど普段はのんびり出来るし。ちゃんとお給料貰えるし。
お隣のニーナさんとの縁談話は取り上げられちゃって残念だったけど。ニーナさんは元気?」
答え辛い…。
「元気でしたよ。少し前にこちらの大使殿との縁談を拒絶して自国の有力者と駆け落ちしました」
「あらまぁ。そうなんだぁ。
もう少し頑張れば良かったかな。でもそれで本人が幸せならいっか」
こっちの線もあったみたいだ。まあこれも巡り合わせ。

「所で首相が不在で官邸がガラガラだったんですけど。折角挨拶に来たのに」
「あーそれねぇ。でもそれはスターレン殿も悪いよ」
「へ?」

「噂に聞いたけど。南の山奥で新種の猫を見付けたなんて嘘付いちゃうんだもん」
「え!?まさか猫探しに?」
「そう。そんなの居ないよって皆で止めたんだけどさ。第一から第三師団の大軍引き連れて山籠り中。
残りの第四と僕らが首都周辺警備で張り付け。毎日書類が山積み~」

「それは…申し訳ないと言うか。東部砦の兵長たちが纏わり付いて鬱陶しかったんで。追っ払おうと」
「その時の猫には逃げられちゃいましたけどね」
俺の頭の上に居るんですが。
「実は中央からこっそり持って来たペットだったんですが飛んだ迷惑を」

「そんな事だろうと思ったよ。まあ首相の猫好きは有名で半分病気だから。スリーサウジアの部族と小競り合いして反省して帰って来るさ。逆に戻って来る前にスターレン殿たち帰らないと。居なかったじゃないかって文句言われると思う」
「おぉ…益々面倒だな。明日には帰ります」

「その方がいいね。もっと時間が有ったら他の島とか案内出来たけど。変な奴らも消えて観光もし易く成ってるから丁度良かったのにねぇ」

「その変な奴らの事詳しく知らないですか?」
そうだねぇと暫く考えて。
「こないだのお礼って事で話しちゃおう。僕から聞いたってのは内緒で」
「はい」
「マホロバ様」

「まあいいじゃないの。もう居ないんだし。
そいつらは謎の多い集団でね。詳細は今でも不明。
目的も不明だけど諸島各地や内陸にまで入り込んで猫種の古代種やら天然種を捕まえ捲って何かの儀式してた。
数年前に当時は国王様だったキタン様が可愛がってたペットにまで手を出されて海軍出して叩き潰そうとした。
でも結果は惨敗。強力な道具を相手が持ってたらしく相性悪くボロ負け。
敗戦の責任取って王国解体。首相として再選してその組織と暫定的な不干渉条約みたいのを結んで一応平定。

しかーし諦めの悪いキタン様はカラードキャメオに眠ってたとされる魔剣を自分の物にして、そいつらぶっ潰そうって腹だったそうだよ」

「成程」かなり構図が見えて来た。
「数年前の猫誘拐の一件から相当恨んでたんだと思う。
随時監視中の所にスターレン殿の嘘の新種捕獲情報が入ってその集団が動き出したもんだから首相も慌てて飛んでった訳さ。今頃三つ巴の戦いになってるかも知れない」
たった一つの嘘がそんな大事に…。

「キタン様の部隊は大丈夫なんですか?」
「心配無いよ。殺しても死にそうにない血の気の多い熱血漢で猫好きさ。集団との再戦に備えて準備も練りに練ってたから勝てなくても負けはしないよ」

何だか申し訳ない気持ちになり、お茶を飲み干してお暇した。

庁舎を出て。
「明日直ぐに帰れるようにお土産は今日中に買おう」
「お買い物ー」
「ほぼ買い物に来ただけになったな」
「時に他力本願も悪くはないかと」

ペカトーレの視察調査もこれにて終了。
何も起きず殆ど収穫は無かったが。それでも危険な指輪は拾えた。今はそれで良し。

その日は買い物に終始。責めてもの思い出としてキャットフードを大量購入した。
『美味しくなさそうだニャ…』
頭上から小声が聞こえたが気にしてはいけない。

短期滞在最後のディナーは太刀魚のムニエルとムース。
旬で脂のりが良く大変美味しかった。

出発の朝に鮮魚の鮭と筋子と太刀魚。お歳暮用の新巻鮭と海水漬けのイクラを購入した。流水で良く流さないと塩気が強い。そのままでは使えないので要注意。

途中数回転移してペカトーレを離脱。

サンジナンテで視察終了と帰国挨拶をして逃げ切った。
「待て!いや待ってくれ。ニーナを何処へやった」
「人聞きの悪い。本当は知ってるクセに。
そう言う所ですよ。今一評価が上がらないのは」
「思い込みが激しいですねサダハ様は。
イプシス様とイザベル様が賛成為されているならそれで良いではないですか。一々私たちに絡まないで下さい。
説得したいなら自分で足を運び。御自分の口と言葉で向き合うべきです」

「くっ…。もう、もう良い。何処へ成りとも帰れば良い」

「「それでは」」

当然帰りは転移でシャインジーネの財団事務所とラフドッグの管理棟を経由して自宅へ。
その足で城へ上がり、陛下にペカトーレの調査結果を報告した。

「逃げられたか」
「残念ですが。祭壇らしき痕跡は発見しましたが実態は掴み切れず。分割された物か複数有ったのかも謎のまま」
新巻鮭の箱を進呈。
「これは何だ」
「ペカトーレ土産の新巻鮭です」

陛下が箱を前に豪快に滑った。
「お前は自由か!」
「要らないのですか。では別の人に」
「いや貰おう」

「塩で保存性を高めている物です。調理時は丁寧に流水で流してから焼いて下さい」
「知っておるわ。調査はご苦労だった」

「逃げた残党の行き先は西大陸かクワンジアの2択。そちらは来年のクワンジア訪問時に継続調査を行います。
来月12月から来年1月に掛けて東大陸の残党と大陸の初期調査を行い。帰還後の2月以降に帝国へと向かう予定で居ります」

「ふむ。中々タイトだな。
適度に休んでその予定で進めよ。こちらの捕虜の引き渡しはライザーとニ…ダリアの婚約発表後に執り行う予定で調整中だ。外務的な物はメイザーに遣らせる」

「置いて行った椅子はもう引き取っても宜しいですか」
「そうだな…。これ以上置いていても余計な物まで出そうで怖い。宝物庫の一階に置いてある。後で取りに行こう。

ミランが頻りに座れ座れと五月蠅くてな。在っても迷惑だ。

次に使う可能性が有るとすればロルーゼかクワンジアからの特使が来た時位だ。それは必要時に連絡する」
「賜りました」

椅子を回収後に控え室のソプランたちと合流して退城。

手分けしてお土産配布に回った。

フローラとペリーニャの所に行くフィーネと別れ。単独でローレライの所へ向かった。

イクラの海水漬けを片手に。

「良く水で洗って炊き立てのご飯に乗せると美味しいよ」
「これはどうも。ではなくて」

「何か新しい情報ある?」
「自由だな…。教団に関する事は特に。闇商に関しては大陸間の流通路を分断中。まだまだ先は長い。
それよりも君は面白い演説を北西海域でしたらしいな」
「米の独占は良くないよ。それだけでも開けない?」
「それだけ開いたら不自然だろ。当分先だ」

海上で面白トークに応じてくれた人の名はエスカル・ピーキーと言うらしい。何時か直接会ってみたいもんだ。

話題を変えて邪神教団の分布を説明した。

「ロルーゼの分体は壊滅。本体は既に西大陸に潜り込んでる。そいつらは魔王様復活で動けなくなった。
ペカトーレの残党も略壊滅。どうやらそこに生贄用の祭壇が在ったようだがタイミング悪く逃げられた。
行き先はクワンジアが濃厚」

「良く調べられたな。…今、魔王様と、言わなかったか?」
「あんたもか。面倒臭いなぁ。勇者の証を取ったら復活するのは当然だろ。いい加減自分たちが何をしようとしてたか自覚しろよ」
「す、済まない。同時に復活、してしまうのか…」

「こっちから手を出さなければ西の大陸からは出ない。それは前の時と同じだ。ご挨拶しに行く前にクワンジアと東のダンプサイトの残党を潰さないと少々拙い」

「クワンジアと東への流路を最優先で断ち切るか」
「それが出来るのはローレライだけだ。俺が潰せるのは表側だけだからな」

「了解した。何とかしてみせる」
「頼むぜ。因みにイクラは綺麗な水で良く洗えよ。そのまま食べると腎臓壊れるぞ。…早死にさせたい奴に食わせるのも手かもな」

軽妙に笑いながら手を振り返していた。


自宅に戻った俺は次にコマネ氏の所へ。

「ペカトーレ産の新巻鮭です。コマネさんなら食べ方知ってるでしょ」
「ああ…まあ。それは知っているが」
お隣に座るジェシカと至近距離で顔を見合わせ。
「今更だが君たちの活躍は留まる事を知らないな。元在った闇商の情報網すら軽く凌駕している」

「それほどでも。ローレライは完全に味方に付けました。
これからは闇組織も解体に向かうでしょう。他に何か懸念事項は有りますか?」
「呪いが消え。ノルマの連絡が途絶えたのはその為か。
今は特に…いや。クワンジアの幹部と東大陸の幹部連中が騒いでるな。何か有用な品は無いかと問い合わせが来ている」

「やっぱり動いてたか。それ絶対相手にしないで下さい。
逆に面白グッズが有れば送って貰っても構いません。追跡可能な物であれば尚良し。

先日起きた王都襲撃とマッサラ北部での戦闘は同じ新たな敵対組織です。その分体や残党がクワンジアと東のダンプサイトに潜んでいます。闇組織とも密接に繋がりが。
言ってしまえばその幹部が最も怪しい」

「成程な。返事はまだ出していない。無視をするかで悩んでいた所だ。
…追跡可能な面白グッズか。直ぐには思い付かないが。
何も無ければ無いと答えるまで。有れば君たちに連絡を入れる」

「お願いします。これまでは上手く敵の先手を取れていますが今後もそうとは限りません。油断せずご自身の安全を最優先でご協力を」
「承知した。所でマタドルは元気だったか」

「元気溌剌!ではなかったですが元気でしたよ。観察してると表情の僅かな変化が見られて面白かったです。
よく行商の護衛を依頼する女性冒険者さんが明朗活発な人で。フィオグラに突入する時にその人が同行者だったんですが。あれ絶対マタドルさんの好きなタイプですよ」

これにはコマネさんも大笑い。
「あいつが。そうかあいつがねぇ。これは良い土産話が出来た。何時の日か帰郷した時は弄ってやろう」
「私も一緒じゃないと行かせませんよ」
イチャ付き出した。我が嫁不在で居たたまれない。

最後にジャンガリの縄張をコマネ氏に聞いて退散した。

ジャンガリの縄張は南西部の一角。東に辿れば吸血姫さんのお城が在る。

吸血姫があの小汚い大鼠を眷属にしていたのが今一腑に落ちない。気の迷い?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

幼馴染の彼女と妹が寝取られて、死刑になる話

島風
ファンタジー
幼馴染が俺を裏切った。そして、妹も......固い絆で結ばれていた筈の俺はほんの僅かの間に邪魔な存在になったらしい。だから、奴隷として売られた。幸い、命があったが、彼女達と俺では身分が違うらしい。 俺は二人を忘れて生きる事にした。そして細々と新しい生活を始める。だが、二人を寝とった勇者エリアスと裏切り者の幼馴染と妹は俺の前に再び現れた。

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

処理中です...