上 下
118 / 303

第116話 カラードキャメオ迷宮03

しおりを挟む
迷宮は魔剣で終わりではなかった。

フィーネの予想にタツリケさんも同意見。次は防具の死霊系ではないかと。

居て欲しくはないが彷徨う鎧だとか首取れ騎士だとか。
それでもキューショナーよりは倒し辛くはないとも。希望溢れる言葉も頂いた。

ソプランたちと部屋でトランプやチェスやパズルに興じていると昼過ぎにフィーネがルンルンで戻って来た。

首結いタイプの水色ワンピを身に纏って。

「どう?シュルツは凄いねぇ。数時間で服まで完成させちゃうんだもん。他にも端材で人数分の肌着にも使えるシャツまで作ってくれたの」
「それで時間掛かってたのか」

「大変お似合いですよ」
「背中が全面ガラ空きで色っぽいな。健全な意味で」
どんな意味だよ。

「恥ずかしいから言わないでよ。これには理由があるの。
アローマさんには前に一度だけ見せたけど。気分が良いのでソプランさんにも特別に見せてあげましょう」
「…あれの為でしたか。それなら致し方無しですね」
「何だよ勿体振って」

フワリとターンしてから竜人化を施して見せた。

「…おぉ。何じゃそれ。一応人間だよな。スターレンの全身武装と似てるようで…全く違う」

「人間です!見た目の外殻だけよ。これがフェイスマスクの最終形の竜人化。普通の服とかビスチェだと背中の背鰭で破れちゃうから一々着替えないとで困ってたのよ」

「じゃあ今ノーパ」
口を塞がれた。
「ちゃんとこれ用のも作って貰ったわよ!余計な発言は慎みなさい」
「うぅ」はい。

「夫婦揃って行くとこまで行っちまったなぁ」
今度はソプランがアローマに口を塞がれていた。間に合ってませんが。

気にせず気にせず。何時の間にかこうなりましたよと。

竜人化を解いたフィーネも着席して封書を囲んで開封を開始した。

「出発前にコマネさんにロルーゼの情報持ってないか聞いてみたんだ。これは多分その返事」

畳まれた上質紙を開く。

「~本文~

確認依頼を受けた北東方面の件だ。

前置きとしてこの書面は読み終えたら
必ず焼却して欲しい。

結論的にクインケは闇商の幹部だった。
カラトビラと言う名の町を拠点として活動し、独自で不定期バザーを開ける大物だ。

表向きの男爵位は露程も信じるな。

侮って掛かると軽い竹篦返しでは済まないだろう。

私ではこれ以上調べられない。
特に今は微妙な時期でな。

男の目的までは掴めなかった。済まない」


分厚い金属製の深皿の上で封書毎燃して灰を潰しながら考える。

「謎だらけだけど。一番繋がって欲しくないとこが繋がったな。クソッ」
「グズグズしてられないわね。さっさと迷宮終わらせて自由行動を勝ち取らないと」

「焦りは禁物だが…。こりゃ厳しいな」
「ロルーゼ行商隊との合流も視野の内に入れないと行けませんね」
「クワァ~」

ここで俺は一計を講じた。
「完全休養は止めにする。でも大した事はしない。
カラトビラはサザビラとフラジミゼールの中間に在る中規模の町。現段階ではカラトビラはスルー。

今夜遅くに俺とフィーネとクワンでサザビラと王都周辺に飛んで来る。

2人は今日こっちの部屋に泊まって俺たちが居ない間に誰か訪ねて来ないか張ってて」

「オーケー」
「畏まりました。ご用心を」

「夕食は食堂で皆でお鍋でもしようと思ってたけど。それは迷宮探索完了後に回す。では早速シュルツの新作シャツを配ります。明日はそれを下地に着て潜ろう」

競合すると思われたタペストリーも布の方が加工品なら問題無いようで。
引き続きフィーネのバッグに取り付けられた。

砦に来てから俺たちは一切軍からの提供食材品は口にしてない。
毒を盛られるのを警戒してだが。普通に食中毒とかも怖いから。

タイラント以外では誰も信用は出来ない。

「梅肉サンド以外に何か作ろうか」
「と言われると思いまして。服を作って貰っている間時間で亀肉&豚肉唐揚げと、漬物と玉葱のかき揚げを作って食パンを頂いて参りました」
出来た嫁である。お返しに頭を撫でてみた。

「よかよか。もっと私を褒め為され」

「梅肉サンドでも充分贅沢だけどな」
「味や品を変えるのも一層美味しく食べるのには大切ですよね。お作りしたくてもここの厨房は小さくて困ります」

「外で焼肉とかやると人が群がるしなぁ。困ったもんだ。
そろそろ本気でレパートリー増やさないと」


夕食までトランプに興じていると。フィーネが思い出したかのように。
「ロロシュさんとゼファーさんにも聞いてみたけど。まだお城も動いてないみたい」

「国境挟んでるからね。相手が手を出して来ないと今は特に何も出来ないんだと思う。抗議文は送っただろうけど。
ロルーゼ中央が何処まで動くかは」

「頗る微妙だな、と」
「先程のお知らせも絡んでいるのでしょうし」

気分は優れないがまずは目の前の迷宮を片さないと先には進めそうにない。

邪魔な魔剣は排除した。それで終わりじゃないなら。あの先にもきっと重要な物が隠されている筈だから。

と散々臭わせて置きながらその夜は特に何も起きず。予定通りのプランを熟した。

起きたのは翌朝の再突入準備中。

「スターレン様。同行兵士の内数名が食中りを…」
「マジかぁ…。ちゃんと火を通した物食べてるよね?」

「どうやら誤って煮沸していない近くの小川の水を飲んでしまった様子で」
「世の中ではそれを水中りと言うのでは?」
「そうなのですが…。どうしてか水瓶がすり替えられたのかと」
確証が無いのかニーナの歯切れが悪い。

ソプランが舌打ち。
「冒険者じゃなくても行軍中の基本だろそんなもん。雨水か井戸水か川水の違い位臭いで判断出来るだろ」

「まあまあソプラン。起きてしまった物は仕方ない。料理に混入されてたら判別は難しいし。火通しが悪かったのかも知れないし。因みに昨晩は何を食べたの?」
「豚肉と野菜の香草炒めと根菜スープと堅焼きパン。でしたね。どれもしっかりと火が通された物ばかりで」
普通っちゃ普通な定番メニューだな。

「ふむ。悪くはないね。取り敢えず全員解毒剤飲んで2時間程度様子を見ようか。お腹壊した人はお休みだけど。
他の人も時間差で症状が出るかもだし」
「忝い」かたじけない!何故か許したくなる不思議。

解毒剤を飲ませ安静中の兵士たちを置いて。平気そうなニーナを連れ回して砦内外の水瓶を実況見分。

当然外の瓶は雨水と汲んできた川水。全部に上位の水魔石を投入。
「それは、何を?」
「水の上位魔石。浄水器代わりに使うなんて贅沢なんだよホントは。明日石が消えてたり数が減ってたら作為的なすり替え犯が砦内部に居る」
「作為的…。見張りの数を増やしましょう」
「明日までは様子見て。平常通りで。石を入れたのも内緒でね」

砦内の水瓶も同様に見て回った。使用用途別に大きさと瓶の色が分けられていて誤飲防止となっている。

厨房も確認したが動かされたような形跡は見られず不自然さは感じなかった。単なる事故かなぁ。

配布中の水筒は毎回飲み切りで回収してフィーネがクリアも掛けて万全体制。

首を捻っていると砦の衛兵がニーナの所に慌てた様子で駆け寄って来た。

「ニーナ様。王国第二師団長殿が三十騎を引き連れ面会を求めております」
「なんだと…」
このタイミングを狙ったな。完全に内部犯じゃん。

「やりやがったな」
「確信犯ですね」
「呆れるわ」
「クワァ…」


砦入口に集まる30人。彼らは階級上位のニーナを無視して移動用の馬を降りて馬舎に入れ込んでいた。

「ロールデンマン。貴殿に救援を求めた覚えも。寄越されるとの報も受けてはいないが」
「王は御身のご心配をして居られましてな。連れ立った二十ではやはり不安だと勅命を仰せつかりました次第で。
今し方聞き及びました所、丁度欠員も出たとか」

「貴部隊に助力を得るには及ばない。残り兵で充二分に進められる。スターレン様に見事な宝剣や兵の武装も貸与を受けているしな」

「ほう。我らが王には献上する物が無いと言って置きながら同行者には与える物があると」
「馬鹿者が!一時的な貸与だと言っているのが聞こえんのか貴様は。命を預け合う者同士が協力するのは至極当然の理。口出しこそ無礼であろう」

「ご無礼を。私はロールデンマン・レコーズと申します。
ニーナはこう申していますが。スターレン様は我らの同行はお邪魔ですかな」
飄々と試す様な目で見てくる。一番嫌いなタイプ。

「邪魔だ。隊の連携も整って来た所。今日は2層の続きで敵の数も多い。貴公らの尻拭いまでは手が回らない」
「これは手厳しい。では助力等は不要で後方を付いて行くのではどうですかな」
自信有りか。大した装備品持ってなさそうだけど。

双眼鏡を構えたフィーネをチラ見。
「貴方たち。結構な武装揃えてるじゃない。故意に隠していたのなら。私たちは不当な扱いを受けた事にもなるけどどうなのかしら。使い捨てるお積り?」

「滅相もない。国内の雑事に助力を願ったまで。不本意なら降りられても良いのですよ」

「途中まで掃除させれば後は用済みか。師団長の分際で面白い事言うねぇ。じゃあ俺たちはこの件から降りるよ」
「ほう…」

「ニーナ。お腹の具合悪いだろ。後はやってくれるって言うんだから今週は休んだらどうかな。俺たちは再来週の冒険者組に加わるから問題無いよ」
「…そうですわね。昨晩から隊の全員が体調を崩していたのは事実。無理せず休むとしましょうか。
王のご意向なら従います。ロールデンマン、後は任せましたよ。我らは王都へ戻り療養します。ご助言を頂いた冒険者の皆様にもお礼をしないといけませんし」

「…」表情は変わらないな。相当余裕なんでしょう。

「精々頑張れよ。期待はしてないが影ながら応援してる。
4日後に様子を見に来てやるからさ。ちゃんとペカトーレ軍と交代しろよ。

借り物返したらタツリケさんたちと王都に飛ぶけど。ニーナはどうする?」

「便乗させて頂きます」即決。

ニーナの柔軟な姿勢にロールの顔が僅かにロールした。
「…内部の情報を置いて行かれよ」

「はぁ?俺たちが苦労して集めた情報をどうしてお前如きに渡さなきゃならんのさ」
「無礼にも程がある…。サンタギーナの軍人としての誇りは何処に行ったのですか。正しいルートを記した物はスターレン様御一行の物。我らは後ろを付いて回っただけで一切記憶していない!」
君の誇りは何処へ…。ニーナは堂々と自虐して見せた。

「ちょ…」

冒険者ギルドの野営地に足を向けた。

武具を壊されてプッツンしてるリビングメイルやデュラハンに30人の精鋭で何処まで食い下がれるのか見物だ。

倒してくれるならこちらの手間も省ける。アイテムが取られるのは諦めるとして。

これで1週半の時間が取れた。
サダハんの扱いが悪いから王宮に縛られる謂われも無し。

エリュダンテ空いてないかなぁ。
ちょっと休んで海水浴してもいいな。
安心して美味しい物を沢山食べよ。

等々考えながら歩いていると。俺の前にロールがロールして回り込んで来た。

そうだ!ロールキャベツ作ろう。トマトスープでじっくり煮込んでトロトロに。

「お、お待ち下さい!スターレン様」
「鬱陶しい目障りだ!軍の人間が俺を足止めするとは良い度胸だな。これが外交問題であるのは承知の上か。

お前の所為で俺の貴重な時間が奪われた。
もう直ぐ昼ではないか!自信があるなら今日の半日潜って来いよ。1日だけここで待機しといてやる。
呪いを受けたらお情けで解除する。だからさっさと行って来いやこのクソボケが!!」

ニーナが剣を抜くのが見え。慌ててロールの尻を蹴り上げて地面にロールさせて捲し立てた。

地面を這いながら立て直し、残りを引き連れ迷宮へと走って行った。

準備はいいのだろうか…。もう知らね。


「スターレン様。全ては現王の不行き届き。寛大なご配慮痛み入ります」
「もう1日お休みが増えたと思えばいいさ」
「サンタギーナの評価は地に落ちたけど。ニーナの対応に免じて減点だけに留めるわ」
「感謝します」


時間を持て余した俺たちは。ニーナを休ませて近くの衛兵に小川まで案内して貰い簡単な治水工事を施工した。

治水とは言っても上流方面を獣動物用に小さく分流しただけです。

疑問に思ったソプランが。
「水瓶と一緒で裏技使わねえのか」
魔石を放り込む方法ね。
「人工的な物や道具に使えば浄化作用になるんだけど。
魔石は各属性魔素の塊でもある訳じゃん。一時的な措置なら兎も角。自然界にずっと上位の石を浸け置きしたらどうなると思う?」

「新たな魔素溜りが発生するのか?」
「一因になると俺は思ってる。年月とか大きさとか質とか個数とかも関係すると思う。たった1個で激変するとは考え難いけどね。
水魔石は浄水器の改良とか下水処理に設置するのが一番合ってる気がする」

「へぇ。魔物発生の原理は解明されてないもんな。言われて見るとそうなのかもって思えてくるな」
「それで行くと。属性に近しい動物が石を飲み込んじゃうとかありそう」
「人間の業への警告のようでもあり。奥が深いですね」
警告か。アローマが一番的を射ているのかも知れない。


取水していない奥地の河原まで足を伸ばし、衣服の泥と汗を落としながら天然河川敷でBBQを敢行。事の序でに浄化水を大量に取得。主にバスタブが水瓶代わり。

「これだけあれば今週は持つな」
「あー早く足が伸ばせるお風呂入りたい」
「仕事中じゃなきゃゆっくりしてえぜ」
「ソプランもお二人の贅沢病が移りましたね」
「クワァ」

『発言しても良いか』
突然ソラリマが語り出した。
「いいわよ。何か思い出したの?」

『思い出したと言うよりは思い付きだ。
一昨日迷宮でスターレンが手にした魔剣の端くれを聖属性の白光石と共に浸け置きすれば、纏わり付いた呪いも浄化出来るかもとな』
「彫像やフィーネのクリアじゃ駄目なのか?」

『あれは人が造りし憎悪と怨念の塊。中級魔法では届かぬ領域に在る。神聖浄化を施した物ならば我と合成が可能かも知れぬ。飽くまで可能性の話だが』
「まだ進化出来る余地があるのか。それはいいな」

「でもよ。聖属性の魔物自体居なくねえか。ギルドの記録でも見た事ねえぞ」
確かに。
「東大陸の何処かに居そうな気もするし。この大陸の未開領域とかにも期待出来る。のんびり探すさ。ありがとソラリマ」
『うむ』

アローマがスマホを見ながら。
「未開の地で言えば。彼の英雄様もこの辺りから更に南部方面は歩いていらっしゃらない様に見えますね」
その手があったな。

俺とフィーネもスマホを確認。この大陸の海岸沿いは形が見られる程度に網羅されているが、内陸南部は空白地帯になっている。

「迷宮が終わったら少し探索してみるか」
「未開の地を自分の足で歩くか。冒険者の本分ぽくてワクワクするな」
「ワクワク♡」
「危険もあるでしょうし。余り楽しい物とは思えませんが行くならお供致します」

フィーネの肩から覗いていたクワンが地に降りて。
「少しだけお散歩して来ます。ご褒美にフルーツゼリーを下さい」
「お、行ってくれるのか。ゼリーは取って置きだから夜食代わりに食べようか。でも南部地方はスリーサウジアって気性の荒い原住民たちの領域だから気を付けてな」

「クワッ」
赤マントで透明化したクワンが元気一杯に飛んで行った。

「原住民って怖い人たちなの?」
「名前の通りに3つの部族が寄り合わさって治めてる領域で通常の交渉が一切通じないんだってさ。どんな貢ぎ物を持って行っても門前払い。大勢で接近しただけで強烈な弓矢が雨霰で飛んで来る、て聞いた」

「へぇ。気難しい人種なんだね」
「大きな山を幾つも越えた先だからここらは全然余裕だと思う。ベルさんも海岸を走り抜けただけかもな」

「ベルエイガさんなら意外に仲良くなって宴会三昧してたかもね」
「それありそう」

「実際英雄と接見したのはお前らとシュルツとニーダだけだもんな。ノイツェ様は寝てたとかだろ。英雄様ってどんな人だったんだ」

砦まで帰る途上でラフドッグでの邂逅場面をざっくりと2人に話した。

気さくで愉快で豪胆な人だったと。



日も落ちて偵察に出ていたクワンが帰り、軽いシャワーの後で伸び伸びゼリーを食べながら報告を聞こうかとした矢先にニーナが部屋に訪ねて来た。

「馬鹿共が。満身創痍で帰って来ました。…甘い香りがしますね」
「帰って来ちゃったかぁ。甘い物の正体は後でニーナだけにこっそりあげるよ」

ぎこちなく笑うニーナ。自国の兵士が傷付いて素直には笑えないよな。

砦内の広間に跪いて転がる27人とシーツが被せられた残りの兵士たちが並んでいた。

何が掛かっているかは知らないが、呪いは全て彫像で浄化した。

「大切な兵士を無駄死にさせて。おめおめと逃げ帰ってきたと」
「…」

「感想は」
「迷宮と言う物を、嘗めて居りました…」
行く前の偉そうなおっさんは何処行ったんだ。

自失呆然の師団長の代わりに副長が答えた。
「副長のカールです。…とても言い辛いのですが。ロールデンマンと私は王より勅命を受け。ある程度の内部情報を得ていたのです」
やっぱりな。

ニーナが小さく拳を震わせていた。

「聞いていたよりも遙かに敵は強く。スターレン様方が残したと思われる足跡を辿り。何とか二層奥地までは辿り着けましたが。禍々しい棍棒を持ったレイスに行く手を阻まれました」
死神の鎌でなく棍棒?新しい!

「死霊たちとの会話が成立する道具も貸し与えられていたにも関わらず。帰れ帰れ帰ってくれ。我らは浄化を望んでいない。ここで大人しくしているから強制浄化は止めろと一点張りで」
「いい物あるじゃん。それを早めに出せばもっと犠牲は少なく済んだだろ」

「意思疎通が出来るのは二層以降の死霊のみ。一層に蔓延っていた自我を完全に失いし者には通じません。ですのでスターレン様方が通り過ぎた後を狙えと。仰せつかりました」

「何処まで行って何をしろと言われたんだ。お前たちから聞いたのは内緒にしてやるから正直に答えろ」

「…三層に在る一振りの大剣を。こちらの布に包んで持ち帰れと」
ロールデンマンは道具袋の中から唐草模様が乱立した風呂敷を取り出した。
「多少暴れてもこれを巻けば大人しくなると」

「何でも…。この大陸のみならず。世界を統べる程の力を持つ剣だとか。但し手に出来るのは王族のみ。命は奪われるが神にも届く力が得られる。そんな風に言って居られました」
まあ怖い怖い。破壊して正解だったな。

結局水竜様に惨敗してんだから嘘っぱちだけどな。百済ねえし詰まらん話だ。
「ふーん。明日代わりに取って来てやるからその2つの道具を俺に寄越せ。同行するなら通話具だけでもいいぞ」
「怖ーい2層のレイスに私たちだけ排除して、とかお願いされたら嫌だし。裏切られても貴方の首をサダハの前に持って行くだけだけど?」

「どうぞお持ち下さい。同行しようとも思いません」

「結構。これ以上邪魔立てするなら俺はペカトーレ側に寝返るからその積もりで。飲み水すり替えるとか姑息な手は二度と使うなよ」
「王都への連絡は今週終わりまで待つように。貴方転移の道具持ってるでしょ。それも没収します」

「御明察です。ですが転移道具は使い切りの物で残りは僅かにてご了承を」

青く透き通った御石。

名前:転昇の御石(古代兵器)
性能:任意の場所に転移が可能
   (自分が行った事のある場所。平場)
   同時搬送可能数:最大100名分(動物含む)
   (縄等で締結された状態で接触)
   使用回数制限:10回(残り3回)
   転移制限付きの迷宮内でも発動可能
特徴:帰りたい。あの人の下へ

何だか切ないな。

「中々いいなこれ。どうして今使わなかったんだ」

「何を吐いても醜い言い訳。主君の命を果たせなかった羞恥も有ります。スターレン様に出掛けの非礼を詫びたい気持ちも。そんな所です」
「愚か者めが」ニーナが小さく呟いた。

「俺たちはもう少ししたら休む。お前たちは殉死者たちを弔ってやれ。宗派は知らないがこの近場に埋めるなら火葬を勧める」
「ハッ」

部屋に戻り際にニーナにゼリーとスプーンを渡した。
「これ食って元気出して。明日に引き摺るなよ。もう魔剣の脅威はこの世に存在しないんだから」
「はい。寝れば大概の事は忘れます故。ご心配無く。
器は洗って朝にお返しします」
目の端に涙が見える。兎に角頑張れよ。




---------------

部屋に戻り、4人とクワンで南西大陸の地図を囲んだ。

早速クワンがインクで2カ所✕印を付けた。
「山脈を越えた南の印は割と大きな湖があり。畔に真っ白な角を生やした大きな馬が沢山居ました」
「おぉユニコーンが現存してたのか」

「非常に穏やかな性格で近付いても怒りもせず。少しお話してみて、奥地に積まれていた白光石を少し分けて貰えないか聞いてみた所。それは先祖や子供たちの形見の品で墓標の代わりだから持って行かないでと断られました」
「それは無理だな」

「石の代わりに綺麗な角なら良いよと幾つか頂いて来ましたので後で鑑定を」
「出来したぞクワン。楽しみだ」
「良い効果持ってそうだね」

「次に南東の印。そこには切立った崖が在り。中腹辺りに大きな横穴を見付けました。中の方から何か強い清らかなオーラを感じ取れましたので。明日以降の何処かで交渉に行きたいと思います」
「そっちもクワンに任せるか。押し掛けて喧嘩になってもいかんし」

「俺らの出番無さそうだな」
「少しだけ残念です」

「まあね。何が居るかは解らんけども。石があったら何か交換品を求められるかもだし。普通に散策がてら行ってもいいし。色々と有り得るよ」

続けてクワンが。
「そこの北側に大型の魔物が多数見えましたので。観光では済まない気がします」
「…人間には不向きかも」
「不用意に近付いて戦うのもねぇ…」


何はともあれお楽しみの角鑑定。
純白の巻き角が大中小、それぞれ2本ずつ。
手に持つだけで神々しい。気がする。
曲がりの無いストレートな円錐形状。ドリルです。

名前:隠馬の巻角
性能:所有者と身の回りの者に降り掛かる
   数多の邪気・邪念を振り払う(自己発生も激減)
   運気上昇効果有り
特徴:別名繁殖の角。交配種族が削り粉を煎じて飲めば
   雄は1週間勃起が収まらず、
   雌は排卵が止まらなくなる
   尚、雄は1週間後に必ず絶命する
   双子以上が確定

「こ、これは!」
「飲んじゃダメ!」
「ソプラン。女性の身体はデリケートなんです。絶対に飲まないで下さい。そしてお別れしたくありません」
「死んでも飲まねえよ!あれ?死ぬならいいのか…」

ソプランが引っ叩かれた。
「いってぇ。ごめんて。ちょっとした冗談だって」
「冗談でも言ってはいけません!」


大きさでは効果は変わらないようで小中を各自で。大きい物をクワンが持つ事にした。

お試しで大角を使い捨ての密閉容器に入れ、魔剣の欠片をクリア水と一緒に浸けてみた…。
が特に変化は無い様子。

「そう簡単には行かんわなぁ」
「角の方が可哀想だよ。取り出そう、ね」

諦めて手袋した手で角を取出し、フィーネが浄化した。

手袋は同巻して封印。唐草の風呂敷で梱包して収納。
何時か聖の上位魔石を見付けたら入れてみよう。

クリア済みの大角もクワンが持つ事で議決し、偵察報告会を解散した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキルと馬鹿にされた【経験値固定】は実はチートスキルだった件

霜月雹花
ファンタジー
 15歳を迎えた者は神よりスキルを授かる。  どんなスキルを得られたのか神殿で確認した少年、アルフレッドは【経験値固定】という訳の分からないスキルだけを授かり、無能として扱われた。  そして一年後、一つ下の妹が才能がある者だと分かるとアルフレッドは家から追放処分となった。  しかし、一年という歳月があったおかげで覚悟が決まっていたアルフレッドは動揺する事なく、今後の生活基盤として冒険者になろうと考えていた。 「スキルが一つですか? それも攻撃系でも魔法系のスキルでもないスキル……すみませんが、それでは冒険者として務まらないと思うので登録は出来ません」  だがそこで待っていたのは、無能なアルフレッドは冒険者にすらなれないという現実だった。  受付との会話を聞いていた冒険者達から逃げるようにギルドを出ていき、これからどうしようと悩んでいると目の前で苦しんでいる老人が目に入った。  アルフレッドとその老人、この出会いにより無能な少年として終わるはずだったアルフレッドの人生は大きく変わる事となった。 2024/10/05 HOT男性向けランキング一位。

巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

もういらないと言われたので隣国で聖女やります。

ゆーぞー
ファンタジー
孤児院出身のアリスは5歳の時に天女様の加護があることがわかり、王都で聖女をしていた。 しかし国王が崩御したため、国外追放されてしまう。 しかし隣国で聖女をやることになり、アリスは幸せを掴んでいく。

能力1のテイマー、加護を三つも授かっていました。

暇野無学
ファンタジー
 馬鹿の巻き添えで異世界へ、召喚した神様は予定外だと魔法も授けずにテイマー神に丸投げ。テイマー神もやる気無しで、最低限のことを伝えて地上に降ろされた。  テイマーとしての能力は最低の1だが、頼りは二柱の神の加護だけと思ったら、テイマーの能力にも加護が付いていた。  無責任に放り出された俺は、何時か帰れることを願って生き延びることに専念することに。

【短編】冤罪が判明した令嬢は

砂礫レキ
ファンタジー
王太子エルシドの婚約者として有名な公爵令嬢ジュスティーヌ。彼女はある日王太子の姉シルヴィアに冤罪で陥れられた。彼女と二人きりのお茶会、その密室空間の中でシルヴィアは突然フォークで自らを傷つけたのだ。そしてそれをジュスティーヌにやられたと大騒ぎした。ろくな調査もされず自白を強要されたジュスティーヌは実家に幽閉されることになった。彼女を公爵家の恥晒しと憎む父によって地下牢に監禁され暴行を受ける日々。しかしそれは二年後終わりを告げる、第一王女シルヴィアが嘘だと自白したのだ。けれど彼女はジュスティーヌがそれを知る頃には亡くなっていた。王家は醜聞を上書きする為再度ジュスティーヌを王太子の婚約者へ強引に戻す。 そして一年後、王太子とジュスティーヌの結婚式が盛大に行われた。

処理中です...