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第74話 帝国の崩壊

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翌朝。少しだけ遅めの起床。

「昨夜は皆様お疲れ様でした。料理人のスターレンです」
「朝食をしっかり食べて、今日も頑張りましょう。
本日のゲストさんは…6人。
ロロシュさんとシュルツ。
アローマさんと回復したミランダさん。
ソプランさんとカーネギさん。お早う御座います」

一同がお早うのご挨拶。
ミランダだけは元気が無い。

「今日は朝食にお味噌を使った豆腐スープと。
アローマさん」
「焼きたての食パンを本棟から頂いて来ました」
「抜かりはないですね」

「お味噌のスープはとても簡単なので
白菜、長ネギ、薄切りにした人参を昆布出汁のスープで煮て行きます」
「牛蒡は灰汁抜きが必要ですから今回はパスします」

「野菜に火が通った辺りで魚醤を少しだけ加えます」
「味付けではなく、重ね出汁の感覚です。入れすぎないようご注意を」

「ここで昨日作ったお豆腐をスプーンで掬いながら鍋に入れて行きます」
「形がしっかりしていますので、大小は気にせずそっと流し込む感覚です」

「残りのお豆腐だけは秘密裏に処理しますので
深くは突っ込まないで下さい」
「商売に関わる事なので。どうかご容赦を」
「…仕方ないな」

「ロロシュさんの了解も得られた所で、最後にお味噌を入れます」

………


配膳も終わりお食事スタート。

「ミランダさん。体調は」
「何も…問題はありません。記憶も鮮明です」

「精神面は」
「スターレン様に対して暴言を繰り返していた自分が
丸で自分でないようで。現実なのに夢の中に居るようで
少しフワフワした感覚です。悪い気分ではないです」

「ならしっかり食べて。温かい内に」
「元気になったらお仕事に復帰して下さいね」

「…宜しい…のですか。私が」

「今後は度々、ソプランやアローマさんを連れて行く事もありそうなので。誰も居ない間はミランダさんとカーネギにここを任せたいなと」
「ロロシュさんとは話が付いてますから。
後はミランダさんの意志で決めて下さい」

「…有り難き、幸せです。謹んでお引き受け致します。

それとは別に。フィーネ様とアローマに個人的な報告がありますので後程お時間を」
「解ったわ」
「解りました」

女性同士のお話なら突っ込むのは止そう。


やっぱり味噌汁は美味かった。
後はお米かぁ。遠いなぁ。


一旦解散となって女性3人がリビングでお話している間に残りの豆腐に向い合った。

形を整え、大きめな角豆腐で3枚分。

溝と下穴付きのケースに布巾を敷き、残りの豆腐を配置して上から重しを乗せた。

………

キッチンを独占しているので待ってる間にお茶を淹れてフィーネに頼んだ。

「ごめん。少し世間話してた」
「いいよいいよ。どうせ今日は上待ちで暇だし」

「何作るの?」
「揚げ出汁豆腐は材料が微妙に足りないから。
厚揚げを。後でペルシェさんにも持ってこうかと」

「いいですねぇ。お昼にでも持って行きましょ」



豆腐の水出しも終わり、硬さも充分。

カウンターの上で水差しの水を飲みながら、こちらをジッと見詰めているクワンに声を掛けた。

「これから油で揚げ物するから少し離れてて。
待ってても直ぐには食べないよ」
「クワッ」

ダイニングテーブルに移動したのを見届け。

フライパンにごま油を厚めに引き、温め。

最初の片面で火力を調整。以降は弱火で維持。

上下面が揚げ終わったら側面4面。

その繰り返し。そして完成。

火を落として、厚揚げは皿の上で冷ました。


ごま油の香ばしい匂いが堪りませんな。
クワンも釣られて厚揚げを凝視。

アローマとミランダが退席した後、フィーネと相談。

「これどうする?1枚は持って行くとして」

「1つは夜か明日に取って置いて。
残りは…今食べちゃう?誰も居ない内に」

そうと決まれば話は早い。

3等分に切り分け、ショウガ醤油で頂きます。
使うのは竹箸。

「う~ん。懐かしくて美味しい!」
「皮の厚みも丁度いいな」
「クワッ!」


直ぐに無くなり、お茶を淹れ直した。

「ミランダさんの話って俺も聞いていい奴?」

「まー。スタンならいいって言ってたから。
…ずっと止まってた生理が今朝来たんだってさ」

あぁ、成程。そりゃ言えないよな。

「そう言う事か」

「後は。カメノス邸の3人も含めて。皇帝と出会したのは
ロルーゼ北部の町だって。みんなそこの出身者。
警備の内で亡くなった2人に関しては知らない。
けどマッハリア方面じゃないかって言ってた」

「ふーん」


生理が来た…。
魅了のスキルで止められていたと見ていいのか。
似た様な話を最近何処かで…。
「ジェシカさんとのお話では?」
おぉそうだ。ありがとロイドちゃん。


フィーネにエドワンドでした、
ジェシカさんとの会話内容を話した。

「ストレス障害や病気の類じゃなくて、クインザの道具の影響が残ってるとしたら」

「可能性は大いに有り得るね」

「休暇に入る前にもう一度だけ行ってみていい?」

「いいけど。握手と肩に触れる所までしか許しません」
「それ以上何があるってのさ。一応真面目に話してる積もりなんですけど?」

「ごめん。言い過ぎだった」


一息入れ直して。
「今日は待つと言っても…。昨日の今日で帝国の内状が届くとも思えないから。
一日暇だなぁ…。俺は読書でもしてるよ」

「私は昼から。落着いたら行こうと思ってたお買い物でもしようかな。
クワンティも。偶にはじっくり翼を休めたら?」

「クワァァ」

「今日の午後からはのんびりしよう」

と皆で移動をしようと腰を浮かせた時だった。


「智哉!北の空から何かが来ます!尋常ではない速度で急速接近中!」
え!?

「済まん。今ロイドから伝言。北の空から何かが飛んで来るって」

「え?」
「クワァ?」


3人で玄関を飛び出して北の空を確認。

フィーネは双眼鏡を構えた。
俺の索敵では上空は捉えられない。

クワンは屋根の上に飛び乗った。

「何かしら…あれは…。鳩とは違う…大きな。
真っ直ぐこっちに向かって来てる!」

おいおいおい。ここで戦闘か。そもそも今の装備で捕捉出来るとは思えん。

こんな時に取る手は1つ!
「よーし。土下座だ!!
取り敢えず低姿勢を見せるんだ」

「ど、土下座!?ホントに?」

「何であろうと勝てる気がしない!」

「わ、解ったわ。クワンティも降りて来て!」


自宅玄関前で揃って平伏。

そして。俺たちの前に白い毛皮の包みを置いて、
その何者かは、バサリと飛び去った。

早過ぎて何も見えなかった…。

「2人共、無事?」
「何ともない…」
「クワァ」



突然の速達便で送られて来た毛皮の小包。

リビングのテーブルの上に置いて…
考えるよりも前に紐を解いて毛皮を開いた。

中身は手紙と真っ白な綿毛。

「よ、読んでみるよ」
「お願い」
「クワッ!」

綺麗なこちらの文字で書かれたその内容。

「我は大狼フェンリル。と誰かが呼んだ者だ。

名乗った覚えはない。そして…
我は人間なぞ食わぬ。好物は魚だ馬鹿野郎!!

強いて言えば、海馬や海豹は食す。

我がフェンリルである証拠として、
我の抜け毛をくれてやる。

鳩の首巻きの材料にでも加えろ。

この書は南海岸に置き捨てられた娘の一人に書かせている。

保護する前に死んでしまった者以外は無事で元気だ。

我が庇護下で暮らせば寒さは関係無い。


大陸中央でやった君の戦い振りは遠目で拝見した。
久々に面白い物を見た。

あの武器なら我に擦り傷は与えられる。
貴重品だ。大切にしてやれ。


娘たちを帰したくても。あの男が邪魔だった。

君が見事に潰してくれたのでやっと帰せる。
帰せるが、北の連中は我を恐れて全く帰せない。

何年先でも構わぬ。あの弩変態を葬った君を指名する。

これはその謝礼だ。必ず来い。

帝国は今、ゲロが乱れ飛ぶお祭り騒ぎだ。

我は行きたくない。臭いし。

娘たちを咥えて訪問すれば全面戦争だ。

我は勝てる戦争はしない。何の興奮も無いからな。

君が来る時でいい。
南海洋の本鮪を五匹以上は持って来い。

北海洋の鮪を際限なく食していたら居なくなってしまった。

挙句に海で水竜の奴に怒られ喧嘩になった。

海では奴には勝てん。陸上まで引っ張るのに失敗した。

あぁ本鮪が食いたい」


「「「「………」」」」ロイドちゃん含め。

「し…仕事の…依頼が、来ちゃった」
「フェンリル様…からのご指名」


なんで…俺なの?
「さ、さぁ…」


綿毛に触れてみた。

名前:大狼の抜け毛
性能:装備品に使えば大狼の加護:大
   対温寒大幅に軽減
   空気抵抗、空気摩擦大幅に軽減
特徴:大狼フェンリルの鬣からの抜け毛

「帝国の鳩って。これの装備着けてたのかも」
「あぁ~。だからかぁ」
「クワァ~」ウンウン。


「これは個人指名だから陛下には相談しない。
この綿毛はシュルツに全部渡して。
水竜様に喧嘩はしないでとお参りして。

ペルシェさんとこ行こっか」

「そ、そうしよー」
「クワッ」


何となく帝国の状況も見えて安心した。
新たな仕事が舞い込んでしまったが…。



包みも紐も全部シュルツに丸投げ。

「これは、いったい」

「ついさっき。お空から届いた。注文してないのに。

紐は木傘樹の蔦。とても丈夫だから解して糸にして。
包みは氷狼の毛皮。使わなかったら後で返してくれればいいよ。

その綿毛はフェンリル様の鬣の抜け毛。
物凄い効果が付くから、クワンの改良品に使って欲しい」

「解り…ました…。使ってみます。

フェンリル様の?どうしてですか?」

「俺にも理由が解らんのよ。フィーネ双眼鏡、シュルツに貸してあげて」

フィーネから双眼鏡を受け取り、物品確認。

「本物ですね。この眼鏡で覗くと物性までよく見えます。
お姉様。これは借りられませんか?」

「それは見えちゃいけない物まで見えちゃうから。
貸せないな。何か他の道具を探してみるね」

「はーい」

ちょっと拗ねちゃった。

鑑定具、見付かるかな…。




---------------

お参りを済ませて、ペルシェさんに厚揚げを進呈。

作り方を説明してショウガ醤油で試食して貰った。

「香ばしさが加わって食感が変わり、美味しいです。
お豆腐の表面を揚げただけなのに」

「それはごま油を使ったけど。普通に菜種油でもいい。
ただ揚げ焼きする前に、しっかり水気を押し出してやらないと揚げた時にバチバチ撥ねるから注意で」

「有り難う御座います。何時も勉強になります」

フィーネも追加で。
「平らにしたお豆腐を素揚げにすると、周りのカリカリが膨らんでふんわりするの。今後で試してみて」

「はい。試してみます」



カメノス邸を去る前に、こちらの3人の女性が問題ない事を確認。

メンバーの3人も含め、事後処理が忙しそうにしていたのでさっさと邸を出た。

6人が手を振っていた。


「人助けも程々にしたいんだけど…」
「どーーーしても巻き込まれるね」

「出来る範囲でやって行こう」
「無理なものは無理です」


近くで昼食を食べ、クワンを引き取りフィーネと別れた。

女性にはそれなりのお買い物があるもんだ。

友達とお茶したい時だってある。
そこに一々突っ込んではいけない。



自宅に戻るとソプランとアローマが待っていた。

「もう城で動きが?」

「いやまだ何も。

それよりカジノに面白そうな物が並んでたんでな。
休暇までに後数日しかないが、どうかと思って」

「どんなのだった?」

「一つは三ツ葉の眼鏡。コインで一万五千。
もう一つは可逆の歯車。一万だった」

「フィーネのビスチェ以上の物か…。
興味あるな。特に眼鏡は鑑定付きだと嬉しい」

「欲を出すと逃げて行きますよ。
と前回一回しか勝てなかった私が言えたものではないですが」

「こればっかは運だからなぁ。
それはフィーネと相談してみるよ。

ソプラン悪いけど。この手紙を城経由で出してくれない?」

「様子見で後で行く積もりだったからな。

誰宛なんだそれ」

「アッテンハイムの聖女ちゃん。
前回お礼状受け取った返事をね。

帝国の動向も読めんし、もういいやって」

「大混乱なのは間違いねえだろ。
手紙は引き受けた」


「スターレン様。フィーネ様は」

「あ、今1人でお買い物中。
アローマさん今日は本棟で夕食頼めるかな」

「畏まりました。そちらは直ぐに伝えます」


クワンはケージから出すと、直ぐに宿り木に留まり
お昼寝を開始。

俺も2階へ上がり書斎に籠った。




---------------

必要な日用品も買い終わり、後は…。

またしても下着専門店へ来てしまった。

前回赤色のスッケスケを買ったお店。


ウジウジ悩むのは性分じゃない。
躊躇わず、自分の好きな色を手に取った。

前回の赤でもスタンは獣へと進化した。

簡単な話だった。
重要なのはセクシーな下着を着け、それなりのシチュエーションなら色など関係無かったんだ。

彼は時々獣になってしまうが、かく言う私も最近では我慢出来ずに彼を押し倒してしまう事も多い。


…兎に角さっさと買ってしまおう。

紫色と水色。序でに普通のVer白色も。

お金ならある!

例えワンセットで150万円が吹き飛ぶとしても。


私は余り自分の口座を確認してこなかった。
大きな買い物は全てスタン任せにしていていた。

しかしいざ確認してみると…何と彼と同等のお金が入っていた。

聞くと。
「夫婦で護衛で秘書官だよ?半分でも少ない位さ」

なんてこった…。

彼の巨額口座はあれで半分だったのだ。

今までの私のお強請りが恥ずかしい…。
これではガメツイ女驀地ではないか。

あれ?こいつ、余裕で買えるのに?
なんで俺の口座から出させるんだ?


なんてこった!!


これはいけない。

さぁ買おう。
セクシーな下着で誘惑してご褒美を…。


商品を手に取って振り返ると。

「フィー…さん?」

今ここで一番会いたくなかった人がそこに立っていた。

「メル…さん?」

下町で彼女の名前を呼ぶ事は出来ない。
咄嗟だったが間に合った。

彼女の両脇にはライラさんとニーダちゃん。

お店の外には女性の近衛兵さんたちが。


私の手にはセクシー下着が2つも。


超絶恥ずかしい!

手遅れだがそっと商品を背中に隠し。
「これは偶然ですねぇ」

「本当に偶然ですわ。私も下の者から最近聞きまして
どんなに凄いのかと興味が湧きまして…。

フィーさんは何色を?」

「前に赤を。今日は紫と水色を」
スラスラと正直に白状してしまった。

「「…」」

後ろの2人が値段を聞いて絶句していた。

「まあそんなに。それ程フィーさんが興味を示す物なら間違いありませんね。

では私も同じ物を」

「メルさん。そこは先ず自分の好きな色から攻めるのが妥当かと」

これはまーお揃い!と見せ合える類の物じゃない。


「でも何度も来れませんもの。幾つも買って帰らないと
善し悪しが何も解りませんわ」
確かに…王女様が下町にホイホイと現われていたら直ぐに噂になってしまう。

この場で試着も出来ない立場なんだし。

「フィーさん…。お時間あるなら、これから試着会を我が家で」

へ?

これを…見せ合うの…?

「後ろの2人も一緒なら」

拡大してどーすんだ!

後ろは首をブンブン振っている。

「本日はノイ氏の許可も得ております。
拒否権はありませんわよ。

早急に自分の好きな物を選びなさい。

お金なら出しますから。お早く!」

この国の金持ちは人から拒否権を奪うのが大変お好きなようです。

親切だから尚質が悪い。


慌てた2人が選んでいる間に自分の会計を済ませた。


ニーダちゃんが慌てだした。
「こ、この様な高級品を…」
手には私と同じ水色。

ライラさんは。
「身分不相応です。私たちには」
手にはちゃっかり灰色を握り。

「下着なら内緒に出来ます。これは命令ですわ」

「「はい…」」



王宮にまで来てしまった。
あれぇぇ…今頃スタンとイチャイチャしてる予定だったような気が…。

まあいっか。これはこれで楽しいし。

メルシャン様の新私室に入るのは初めてだ。

衣服は黒がお好きでも、
インテリアはベージュ系で統一され落着いていた。


ここまで来たら腹は括ったぞ。

ドレッサールームまで辿り着き、4人で生着替え。

「「「こ、これは…」」」
3人共。上はピッタリ。主に下が大変な事になっていた。

「私が居たから注意されなかったんだと。
下のお手入れをしていないとそうなっちゃう」

「それは先に…。いいえ予想出来なかった私の責任。
これは後で処理しましょう。

しかし…フィーネさんは美しいですわねぇ」

私は堂々と仁王立ち。

「私はもっと際どい夏用の水着で慣れてますから。
無駄毛のお手入れは必須です」

「「「際どい、水着」」」

「それは外では着れません。スタンの前だけです」

「それは…今、持っていますか?」

私は、また余計な事を…。
でもやっぱり私は負けず嫌い。

「あ、ありますけど…。ここで着ろと?」

ウンウンと。

この様な神聖な場所で着ることになるとは夢にも。

堂々とビキニを取出し生着替え。

「メルシャン様…。そんなに見詰められては
女同士でも恥ずかしいです!」

「良いではないですか!私はフィーネさんとお風呂をご一緒出来ないのですから今しかないのです!」

えぇ…。逆ギレされてしまった。

オレンジと白のボーダー水着を装着。

「「「なんて面積!」」」

「殿方の欲望は怖いですねぇ。際どいと言うよりも
極限ですね。
これがラフドッグの市販店で堂々と売ってましたから。
きっと私だけではないと信じます」

「た…確かにお外では無理ですわね」

「これに慣れてしまうと下着如きでは動じなくなります。
慣れって怖いです」

ニーダちゃん。
「お相手が居ない未成年の私は…」

「最近胸が出てきたね。上は微妙だけど。
下は何時の日か勝負する時まで取っておけば?」

「これが…勝負下着…。
そしてフィーネ様とお揃い。生涯の宝物」

「大袈裟」


ライラは溜息を吐いた。
「ゴンザは鈍感だからなぁ…。流石にこれだけ解り易ければ大丈夫かな」

「エッチなスタンは、スリットで横をチラつかせただけで襲って来たわ。幾ら鈍感でも正常な男性なら一撃よ」

ウンウンする2人の成人女性。
顔を真っ赤にするニーダちゃん。

「ごめん。ニーダちゃんには早かったか。
ハグしてあげるから許して」

「下着のままですか?」


戸惑う彼女を立たせてハグ。

腰砕けのニーダちゃんと来れば、後の2人も同じだった。

3人の女性を落としてしまった…。
何してんだ私?


時刻はどっぷり夕方。

今日持って来た5番スマホに着信。
「おーい、まだぁ?腹減った。
フィーネ今日は外で食べるの?」

「あ、ごめん。直ぐに帰るわ」
「オッケ。待ってる」


メルシャン様が食い付いた。
「それは?」
「これはスマホと呼ばれる通話の魔道具です。
台数が少ないのでメルシャン様のはありません。
タイラント国内はシュルツに預けました」

「シュルツが持ってるのですね。それはお招きせねば」

悪いお顔で笑ってる。

これもまた余計な事だったようです。




---------------

フィーネの帰宅後。

本棟での夕食を済ませて自宅へと戻った。

「今日は特に連絡は無くって。ペリーニャへの手紙はもう出した」

「呼び出しは早くても明日か。さっきまでメルシャン様と後宮に居たけど。そっちにも連絡は来なかったから」

「ふむ。フィーネが良ければエドワンド行く?
信じてくれるなら単独でも行けるけど」

「またベタベタ触られるしなぁ…。解除出来るのも結局スタンだけだし。うん。クワンティと留守番してる。
行って来て。もう余計な事は言わない」

フィーネの線引きは一度でも顔を合せて話をする所か。
前から何となく解ってた事だけど、これで明確になった。

今後もそこのケアを怠らなきゃ大丈夫そうだ。


「オケ、行って来る。本当にそうかも解らんしね」

「そうであって欲しい。同じ女性として、それはとても辛い事だから」

「ちゃんと確認してから話をするよ。気を持たせて違いましたじゃ傷付けるだけだしな」

「うん…」




---------------

単独でエドワンドへやって来た。

「今日は1人です。ジェシカさんは出勤ですか?
特にVIPじゃなくても大丈夫です」

「そうは参りません。丁度VIP室も空いてます…
と言うよりあそこはもうスターレン様とお連れ様の専用室にしてしまいました。

ジェシカは元気に出勤です」

「店長さんに怒られません?」

「店長…。申し遅れました、
受付の私が当店のオーナー。ブルームと申します。

以後、お見知り置きを」

若く見えた受付のお兄さんがオーナーだった。

「若い俺が言うのも何ですが、若いっすねぇ」

「上が軒並みぶっ飛んだので。運が良かっただけです。
スターレン様とこうしてお話出来る。これ程の光栄に預かれたなら、心底真面目に腐らずやって来て良かったと今では思えます。

ではお二階へ」

苦労してんだなぁ…。半分俺の所為だけど。


VIP室で待っていると。

何時もの6人の女性。
そして際どい衣装…。

「え!?今日は1人だよ?」

「スターレン様が来ている時点でこうなります。
諦めて下さい」

「衣装も、前に戻っちゃったし」

「奥様の前では着られませんから。逆に見て頂きたい気持ちが優った感じです。

前時代の衣装で、二度と着るものかと決めていましたが、
そこはもうお察しくださいませ」

「紳士なスターレン様なら幾らでも。
何なら裸でも大丈夫です」

「パメラさん!それはダメ絶対。
フィーネに殺されますよ」

「そうですか…残念です」


女性陣を宥め着席。

何て豪遊。しかもタダって。

これで胸躍らない男は居ない!
フィーネさんこの胸の高鳴りだけはお許しを。

乾杯して世間話。

ちょっと進んだ所で。

「ジェシカさん。握手して貰っていいですか?」

「握手?ですか。直にむ」
「止めて下さい。嫁が飛んで来ます。
握手で結構です」

ではと握手した。


特徴:エドワンドの従業員女性
   魔道具の呪いの影響で不妊中
   (接触時のみ鑑定可能状態)


マジでそうだったか…。

他の5人も同じだった。酷い。
見逃した俺も悪いなこれは。

「とても…失礼な質問をします」

「はい」全員の承諾を得た。

「以前。娼婦紛いの行為までさせられていたのは、この6人だけだけですか?」

暫く黙り込んだ後、ジェシカさんが代表で。

「そうです。最初は眠り薬を飲まされて、皆無理矢理に」

あいつは殺して正解だったな。

「見逃して済みません。皆さんには魔道具の呪いが掛かってます。さっき握手した時に見させて貰いました。

全員不妊状態です。

今からそれを解除します。いいですか?」

「…!?そんな…。解除すれば、治るのですか」

「間違いなく。明日から正常な周期が戻って来ると思います。暫くお酒は控えた方がいいかも知れません」

「お願いします!」全員涙ぐんで。


彫像で解除後に、記述が消えた事を確認。

「消えました。その他の病気も出てません。
念の為、後日カメノス医院の婦人科を受診してみて下さい。多少の個人差はあると思います」

全員に抱き着かれて揉みくちゃにされてしまった。

「ジェシカさん!脱いだらダメ。
パメラさん!股間は絶対あかん!」

皆が落着くまでに数分掛かった。

「落着いて下さい。これからの人生の為に乾杯しましょう。
お水で」

「はい!」


健全にお水で乾杯。

ジェシカさんが改めて。
「何とお礼を言っていいのか…。まさか魔道具まで使われていたなんて」

「浮気もお金も要りませんよ」

「ではどうすればいいのですか!」
怒っちゃったよ。

パメラさんが。
「そうだジェシカ。カジノのコイン!
あれがあったじゃない」

「あ、あのコインなら。確か貯めて来たのが二万枚近くありましたわ」

二万枚!?

「そんなに長期で貯められましたっけあれ」

「はい。使っていないカードに移行して行けば半永久的に貯められます。この六人で腹いせに貯めて来ました」

そんな単純な方法で…。
オーランドさんもお人が悪い。

確かによく考えれば気付くか。
前は短期で集中してたし。

「最新のカードは私になっています。近日中にカジノで移行をさせて下さい」

他も同意見。

これまで断ると拗れるな。

「なら遠慮無く頂きます。明日の夕方手前でここ集合でいいですか?」

「はい!」え?全員…。

みんなで貯めた物なら仕方ないか。

「明日から早速体調の変化が来た人は無理しないように。
ジェシカさんだけは…最悪運びますので」

「え、あの噂のあれが体験出来るのですか!?
解りました。店の前で倒れていますので拾って下さい!」

「私も!」5人も挙手。

えぇ…。そんないいもんじゃないと思うけどなぁ。




---------------

自宅に戻り、結果報告。

「と言う訳で。ジェシカさんたちと一緒にカジノに行くことになりました」

「ふーん。2万枚近く貰えるなら、少し頑張れば気になる2つに届きそうだし。断る理由はないね」

「呼び出しと被っても急ぐ話じゃないから。そっちを翌日にして貰う積もり」

「解った。…スタン。お風呂入ろう。
ちょっと私が嫌」

…ん??それは…。

「まさか…使ったの?」

「…黙秘します。寧ろ飛び出すのを我慢した私を褒めて下さい」
答え言ってんじゃん。

「褒められません。程々にして下さい。
…じゃあお風呂入ろうか」

「はーい」


仲良く2人切りで。
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〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

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