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第69話 お買い物色々

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初手。クワンの新たなケージ。

早朝のトレーニングの後。
良い物在ります様にと参り、エリュランテへ向い、宿泊無しでケージのご相談。

セルジュさん。
「本来の規則ではご宿泊のお客様へのサービスですが。
代え難いお二人のお顔に免じて規則を破ります」

「申し訳ないです」
「済みません」


運ばれて来た台車には何段かあり、幾つもの種類があったが、中でも最上段に一際目立つ半透明に透けて見えるケージが並べられていた。

クワンが一鳴きしてそれに飛び乗った。

「あれが一番の…もう選ばれてしまった様ですが。
一番のお勧め。半透明のケージです。

ご主人様の魔力量に因って、中身諸共完全な無色透明に変化する代物です。

軽量合金に当系列の技術部門が新たに開発しました特殊な塗料を塗り込む事で透過が可能となりました。

塗料の素材が非常に手に入り辛い物で、商品化出来たのもこれっきり。

通気性は勿論、容易な洗浄も他の商品と同様です」

「素晴らしいです」
「お幾らですか?」

「スターレン様ご夫妻でご予約されております来週からのエリュグンテの「過大な」前金で頂いておりますので無料のご提供となります」

「「「………」」」

「即決で頂きます」

「お二人様にはご不要な注意点ではありますが。
置き忘れだけにはご注意を。後はそうですね…
手提げにして歩かれると、人や物に打つけやすい事位でしょうか」

ご尤もな有り難いご注意。

「気を付けます」
「練習します」
「クワッ」

「中敷きは既に一枚入れておりますが、予備は必要で御座いましょうか」

大丈夫と答え、ケージを受け取った。

ラウンジのブースを借りてお試し。

テーブルの上でまずはクワンに入って貰って、使用感を確認した。

居住性に問題無し。
奥背面下段に柵が設置されていて、急な移動でも支えになる。

透明性は俺でもフィーネでも完全な透明になる。

光学迷彩ってレベルじゃない。そこに在る筈の物が消えてしまう。

「クワン。ちょっと背中側の柵を掴んでみて」

案の定消えた。

「消えちゃった…」
「消えたな」

「前の扉って中から開けられる?」

半透明に戻ってガチャリと開いた。

機能性に問題無し。

「置き忘れが問題だな」
「クワンなら自分で鳴いたり飛べるけど…」

「使い捨てるにはケージが持った無さ過ぎる」

「だったら…スマホ置けば?」

「…フィーネ様は天才だな」
「クワッ」

こうしてスマホNo.2はこのケージ内に決まった。


まだ町中で使うには熟練度が足りなくてお子様たちの頭が大変危険な為、普通のケージに戻した。


「幸先良いスタートです」
「次はどうしますか」

「クワンのガードルを探す上で、真っ先に立ち寄るお店は」
「お店は?」

「普通の防具屋さんです!」
「取り敢えず標準の品物から責めるのですね」
「クワッ」



と言う訳で。初めてやって来ました、王都内で唯一の市販防具店:キッチョム

「今まで武器屋しか行ってなかったから」
「何気に初めての入店だ」

早速物色中。
「確かにガードルは置いてある…」
「折角なら白レザーが欲しいね」

クワンも中でウンウン首を振っていた。

陳列棚には一般的な茶革の品ばかり。
「済みませーん。鳩用のガードルで白い物って」

「………」

カウンター内で寛いでいたおじさんが、俺たちを見て硬直していた。

「どうしました?」

やっと呼吸を取り戻し。
「…スターレン様とフィーネ様とお見受けします」

「「そうですね」」

「少し、ほんの少しここでお待ち下さい!」
「いいですけど」

一礼して奥へと飛んで行った。
「アリー!アリーや!スターレンご夫妻が来てるぞ!」

アリーと言う名前に記憶は無いが。
「ファンの子かな」
「ぽいかな」


暫くするとおじさんが1人の少女を連れてやって来た。

歳の割に歩きが覚束ない。

アリーと目が合う。

「有り難う御座いました!」
綺麗なお辞儀。

何度も何度も俺たちに交互に繰り返した。

「何処かで会ったかな?」

「はい。店長のキッチョムです。
これは娘のアリー。クインザの海賊船に捕われていた娘です。衰弱が激しく、スターレン様にここの広場に運んで頂いた子供の一人です」

「アリーです。助けて頂き、有り難う御座いました!
まだ上手く歩けませんが、あの頃より大分良くなりました。
医院の先生も、時間を掛ければ大丈夫だと」

「成程…。あの時の子か。ゴメンね、人数多すぎて良く覚えていないんだ」
「回復したみたいで良かったね。焦らずじっくりと治すのよ」

「はい!」

「こんな王都にまで手が伸びていたんですね」

「ハイネハイネへ行商へ行く途中で野盗に攫われました。
今妻は出掛けておりますが、夫婦共々泣き暮れて。
半ば諦めていた時に突然連絡が来て、返して欲しくばスターレン様には絶対に商品を売るなと。
最初は意味がサッパリ解りませんでしたが」

「王都内で唯一の防具屋だから狙われたんですね。飛んだご迷惑をお掛けしました」

「そんな!そんな事はありません。
見事クインザを滅ぼして頂いたのです。…いえもう止めましょう。お二人のお時間を奪ってはいけない。

さあアリーお礼も済んだ事だし…どうした?」

アリーちゃんがケージを見詰めたまま動かない。

「天使様…。抱かせては頂けませんか?」

「クワンティの事?」

「朧気な記憶の中に、天から舞い降りる真っ白な天使様が居た気がするんです…」

フィーネがケージを開けてやると、ストンとアリーの前で胸を張った。

アリーがクワンを抱き締めた。

「暫くこのままでいいでしょう。

それよりこの鳩に合う白革のガードルって置いてないですかね」

「あります!アリーが白い物を頻りに欲するので。
ハイネの知人を頼って集めておりました。アリーの為だと棚には降ろしてません。

あれを出しても良いな、アリー」
「うん!」

キッチョムさんが奥から白レザーのガードル。
首から掛けてお腹と背中を守る物。お尻の方でビス留めにするタイプだった。

一旦バックパックを外して、アリーが取り付けた。

「いいわね。ピッタリ。取り外しも簡単だし」

「これで決めます。あ、無償でと言うのは無しで。
これからの生活費とかアリーちゃんの治療代とかもあるんですから。正直な値段を言って下さい」
「無償はいけません」

「…先手を打たれてしまいましたが。
スターレン様御本人様だから言いますが、先月国から大口の発注がありまして、当店も協力したのです。
冒険者も居なくなった訳ではないので。

特に…と言いますか。ぶっちゃけ親子三人遊んで暮らせる金なら既にあります!」

「「あ…」」

結局無償で頂いてしまった…。

「で、ではこうしましょう。これが壊れた時の修理費は勿論。表で出回っている物で、これより優れた品を探してみて下さい。その前金として百お支払いします」

「解りました!出物が在り次第、商業ギルドへ連絡を入れます」

金貨100枚の証文を書いて手渡し、退店した。

親子に玄関で手を振られながら。


「良かったのか悪かったのか…」
「取り敢えず目標の物は買え…、買え貰えたんだし良しとしましょう」

「新しい言葉ですね」
「ですね。お次は?」

「近くでお昼にして。本屋さんへ行きましょう」
「シルビィさんのお店なら。あっちの近くのレストランに行こうよ」



5区の市場付近のご飯屋さんを巡り、本屋さんへ。

今日もシルビィさんが店番をしていた。

「いらっしゃ…。お久し振りです。お二人共」

「お久し振り~」
「お久し振りね。お婆様はお元気?」

「それはもう元気も元気。腰もすっかり治って今もご近所を歩き回っております。前から私がこのお店を継ぐのは決まっていたので。このままお婆ちゃんには好きにして貰おうかなって」

「そうは良かった。所でこの店に植物図鑑なんて置いてなかったっけ」

「…スターレン様?先回お越し下さった時に…
根刮ぎ買って行かれたような記憶があるのですが?」

「「はッ!!」」

「あれ以来入荷はありませんね」

完全に書斎のインテリア化して読んでねえ。

「お、思い出したよ。そうそう入荷してない?って聞きたかったんだ。そっか残念だな」
「私は…何か雑誌でも…」

言い訳がましく店内を見て回ったが、特に気になる物は無かった。

また何か入荷したら教えてちょと言い残して店を出た。

「色々買い物し過ぎて、自分が買った物を忘れるって」
「よくあるよくある」
「クワァ…」



このまま帰っては自分に負けた気がしたので。
ミーシャさんのアクセショップへ押し入った。

最近過度な運動で、スカーフリボンとチョーカーがかなり痛んできたのもあって。

「あ!先生と奥様とペット様。私も生徒の一人として誇らしく…ってレベルじゃない所まで登られておりますが。
ご無事で何よりです」

「ありがと。全く自覚がないのが不思議だけど。
ミーシャも元気そうだね」

「私もだけどスタンもやりすぎてしまうから…
もうどうしようもないわね」

それを言ってはお終いだよお嬢さん。

「それよりこのリボンが大分傷んできたの。他には何かないかしら」
「クワァ」

「勿論ご用意しております。あんな武勇を重ねられてはさぞ傷んだろうと。同じ商品に加え、購入時に先生が却下されていたシュシュを、同じ色で複数個。
シュシュなら脱着も容易ですし、沢山持っていれば無くしても後悔しません!

先生のお財布ならば大丈夫!!

更に。オレンジ色のシュシュも二つ!お付けしましょう」

「流れるような押し売りだな」
「惚れ惚れするわ」

「奥様にお褒め頂けるなんて…。

でも大人気商品になってしまって取り置きするのも大変だったんですよ。

大口購入で金貨四十五枚。これ以上は負かりません!」

「負けたよミーシャ。君は立派な商人だ」
「私からは拍手を進呈しましょう」


満額払って纏め買い完了。




---------------

自宅に帰る序でにシュルツにオレンジのシュシュをプレゼントして笑顔を貰った。

そのままドレッサー室でシュシュの試着会。

フィーネもシュルツも大満足だったが。

「クワンティにシュシュは…正直似合いませんね」
ストレート!

ガードルを装備して、チョーカーは薄くていいけど。モコモコのシュシュは。

何処ぞの宣教師みたくなってしまった。

「クワァァ…」御本人も項垂れていた。

フィーネがチョーカーに戻して。
「切れて落ちるまでそのままでは駄目かな」

「うーん。微妙だね。装飾品としてその考えはありだけど。

今後任務とかで飛ぶ場合。それが途中で落ちたりすると居場所の特定やら、経路の推測に使われたりしちゃうんだ。

珍しい物程目に付き易い」

「その目線で言うとそうなっちゃうかぁ」
「クワァ…」

そこでシュルツが。
「今度のお二人の休暇終わりまでに何か考えて作ってみます。クワンティがいいなら、それまでその古い方のチョーカーを私に貸して下さい」

クワンが大きく頷いて首を持ち上げた。

「ありがとねシュルツ。特に無理する事ないからね。
記念としてバックパックに入れといてもいいんだし」
「クワッ」

「はい。やるだけやってみます。
今はお勉強以外は暇なので、何かしたいだけです」



シュルツに元気を貰って自宅リビングへ。

お茶を淹れて貰い。
「結構いい時間だから。本読むのは後にして…
夕食どうしよう」

「さっき本棟で頼まなかったからね。今更言っても迷惑だろうし」

「かと言って作る気がしないっす」

思い浮かぶのは、一昨日のあのお店。
それはフィーネもクワンも同じだったようで。

「行っちゃいますか」
「行こっか」
「クワッ!」


日が陰っていたものの。行くには早い時間だと。
お風呂に入ってからの出発。

しっかり目な出で立ちに、ポーチとリュックは似合わないけれど。そこはもう諦める。




---------------

トワイライト。特別個室。

薄い照明と幻想的なキャンドル。

半テーブルを加えて、クワンが鎮座していた。

2人と1羽で窓から見える夜景を眺めた。

夜空には満月。赤みがかった月。

日本から見える月とは模様が違うが、その役割は似ていると思う。

月も1つ。星座の設定は無い。無い程多い。

くっきりした天の川は2本走っていた。

「気の所為かな。一昨日フィーネに助言されて
やっとここの夜空を認識した気がする」

「遠くばっかり見過ぎなのよ」

「今は止めて。また泣いちゃうから」


暫しの静寂が流れた。

「そろそろメニュー決めようか」

「う~。もう少しだけ…」

クワンは既にヒレ一本。
似ている筈なのに、この決断力の差は何だろう。

多分あれだな。メニューが4つ以上並んじゃうと悩み出すパターンだ。

全種頼んでシェアしたい人に違いない。

「なら全員ヒレにすれば?何度でも来れるし」

「……うぅ。解った。それにしよう。待たせるのも良くないし」

「お飲み物は?俺は赤のお勧めとシャンパン」

クワンは葡萄ジュースをトントン。早い!

「私もスタンと同じ物で」
悩むのを放棄してしまったようだ。


呼び鈴を鳴らしてご注文。

焼きは夫婦でミディアム。クワンはレア。
これは本能の差かと思う。


「クワンティの切り分けは私がやるから」
そこの早さは母性?

「クワッ」小さく頷いた。


飲み物、スープ、ロールパンが届き。
鉄板の上でじゅうじゅう言ってるメインが来た。

「最初は二百g。足りなければもう二百gまでのご用意が出来ます。残されたメインで希望があれば包んでお土産に添えますので、宜しければ。
それではごゆっくりお過ごし下さい」

最初はシャンパンで乾杯。
クワンの低いグラスに持って行った。


食が少し進んだ所で。

「なんか心から落着いて外食するのって、ホント久し振りな気がする。改めてデートしてる感じ」

「常に何かを抱えていたからね。私たち。
何処へ行っても敵ばかり。でもやっと大きな目標の一つを終えられて。あの大変立派な自宅が帰って来る場所なんだって認識出来た。

それが今なのだよ。スタンさん」

「何も言葉がありません。フィーネさん」


添え物の野菜。馬鈴薯、人参、グリーンピースも綺麗に食べ終わり。

「追加行く?」
2人を見ながら。

「後100g行きますか」
「クワッ」

後100を同じ焼き方で食べ、デザートへ突入。

「本日のデザートはイチゴのシャーベットとなります。
お好みでヨーグルトを添えられますが如何しましょうか」

全員ヨーグルト付きで発注。


「ねえスタン。散々偉そうに過去なんて関係ないって言ってしまったけど…」

「何かあった?」

「ラフドッグで麦飯丼食べたじゃない」
「うん」

「私…。どうしてもお箸が使いたくて」
「あ、それ俺も同じ。俺はずっとなんだけど。
料理してる時も、使いたいわぁって思ってた」

「今度ポムさんのお店行った時に」
「頼んでみよっか。何となくフィーネに怒られそうで控えてたんだ」

「それは申し訳ない。料理とか便利グッズ程度なら良しって事にする?お味噌も歯ブラシも作ったんだし」

「有り難き幸せ。趣味の範囲ならいいって事で」
「はい」


デザートはさっぱりシュガーレス。

大満足で退店。

「必ずまた来ます」
「とても美味しかったです」

店員のお姉さんがちょっと泣いてた。

「大袈裟ですよ。残業させたみたいでゴメンね」

「いえいえ。しっかりと残業代は頂いておりますので。

それに、勇気を出してお二人の対応をしてみて…
比べるのも失礼ですが、前の腐った派閥の名ばかり貴族の大柄な態度と言ったらそれはもう酷い物でした。

お噂通りのお優しいお二人で、心底から気持ちが洗われました。

またのご来店。従業員一同、心よりお待ち申し上げます」

「「はい」」


少しずつ胸の支えが取れて行くような。
そんな素敵な夜だった。




---------------

翌朝もしっかり汗を流し。

アローマにお茶を淹れて貰いつつ、カツレツ土産をオーブンで焼き直して食べた。

お土産にしては多かったので、アローマさんにもお手伝い願った。

「美味しいですねぇ。このカツレツ?サンド」

自慢気にフィーネが。
「でしょ。三区のトワイライトってお店なの。
お昼は気軽に楽しめて、夜は素敵な雰囲気で。
今度二人で行ってみれば」

「偶には外もいいもんだよ。値段も驚く程は高くなかったしさ」

「有り難う御座います。是非行ってみたいと思います。
…それとは別に。暫く先のお話ですが。

私共のけ…結婚式にお二人をお招きしたくてですね」

「え!?私たちが言えた義理ではないけど、そこまで話進んでたの?」

「はい。私たちだけ…順調と言えば順調でしたし。
ミランダたちの件が片付けば、いっそ何組かで式を纏めてやってしまおうかなって話をしてました」

「私たちに気を遣わなくてもいいんだよ?」
「そうそう。どの道ムルシュさんとマリーシャさんの式は個別になるし。ゴンザさんとライラも出来れば早くやりたいだろうし。セルダさんのとこは今の所未定みたいだし。
お祝い毎に割く時間なら幾らでも作るから」

「嬉しいお言葉です。でもソプランがやる気になっていますので。彼に任せてみようと思います。

私個人は親兄弟も居ないので、皆でワイワイやる方がいいなって考えていました」

「それなら全然。兎に角私たちに気は遣わないで。
何なら転移も出来るんだし」

「そこまで話が進んでるなら…それぞれへの贈呈品もそろそろ考えんとなぁ…」
「そっかそっちも大事だね」

悩みは尽きないぜ。

「そちらこそお気遣いは…済みません。
このお話は長くなってしまいそうですので。もう少し進めてから改めてにさせて貰います」

「だね。考え出すと時間が足りそうにないね」

「贈り物は今度の休暇中にでも考えとくとして。

今日は冷蔵庫貰って実家に納品に行ったりするから。
今日もお昼は要らないです」
「畏まりました」

「そろそろ行こっか。直ぐ傍だけど」




---------------

サルベインの棟へと移動。

「冷蔵庫どうですか?こないだの襲撃で遅れとかって」

「予定通りに完成している。私だけ逃げ出したのに…
工房の作業員は、平然と作業を続行していたよ。
君らが近くに居るのにここまで来る訳がないとな。

全く自分が情けないやら何やら」

「それはまあ何とも言えないですが」
「無事で何よりです」



予定の冷蔵庫とセラーを受け取り、作業員さんたちに挨拶して自宅へ戻った。

「物は揃ったから、馬車だけ後にして一旦小物を運ぼう」
「オーケー」


実家のリビングへ転移。

丁度…ゲッソリと窶れたスタルフがお茶を飲んでいた。
後ろにはサンも。

「…あ、兄上が見える…!?兄上!
た、助けて下さい!お願いします!僕には」

「あーはいはい。お悩み相談なら父上を交えてやってやるよ。サン、父上は?」
「主人様なら書斎に居ります。少々ご機嫌が…」

何となく察します。

超ご立腹の父を引っ張り出してリビングに集合。

取り敢えず物で宥める。
「中型の冷蔵庫1つ。中型魔導コンロが3つ。
浄水器が3つ。セラーは地下蔵でいいですか?」
「うむ」

「あの馬車も譲渡の許可が降りたので。それは後から馬舎に運びます」
「おぉ、貰えたのか。それは有り難いな」

やや回復した所で。
「何となく解りましたが。体制はスタルフですか?」

「それはそうだろ。第一王子なぞ既に抜け殻。
四十近くで結婚も出来ず、隠し子すら居ないのだから。
元の性格も親の悪い部分が在り在りと。
誰もが以前に戻ろうとは思っていない。
公爵家も半分は潰れた。

穏健派だけでなく、もうかなりの票がスタルフに集まっていると言うのに!この有様だ」

スタルフが泣いて。
「どうしても僕には…」

「先日こいつが議場で無理です!と叫びそうになったのを慌てて止めに行った位だ」

「スタルフ。それだけは違うぞ。自分から王位を放棄する貴族なんて聞いた事がない。

この国には元老院が存在しない。ならば貴族院が全国民の意思を反映して票を入れてるんだ。

これはお遊びじゃない。国民の今の気持ちだ。

まだまだ貧困に苦しむ民が居る中。

期待してくれてるフリューゲル家の領民たちに、お前はどうやって説明する気なんだ?」

「それは…」

「お前は言ったよな。この家は自分が継ぐからって」

「はい…」

「父上から全権を引き継いだ後の事は考えてたのか?」

「…」

「何も考えてませんでした何て口が裂けても言ってくれるなよ。

俺は国を出てしまった。だから俺にする愚痴なら幾らでも聞いてやる。

ただ父上やこの館の従者たちには絶対に零すな。

サンに甘えるのも間違いだ。
甘えられても彼女が一番困る」

「それは…解ります」

「お前は自分を未熟だと言う。俺もまだまだ未熟者。
父上には遠く及ばない。

そんな父上がお前の専属補佐官になってくれるんだ。
爵位は関係無しに宰相級の役職を得てお前を支えてくれるんだぞ。

更には穏健派貴族の後ろ盾もある。

なのに。お前は何がそんなに怖いんだ?」

「…済みません…でした」

「タイラントにお前が来た時。俺はお前に何度も周りと相談しろと言ったよな」

「はい…」

「王の責任は重い。たった1つの判断が国民の生活や命を左右する。

それを判断する勇気が足りない。怖いと言うなら、最初に相談すべきは父上や票をくれた貴族議員たちじゃないのか?」

「そう…です」

「暫定は然れど暫定だ。誰も急に出て来たお前に完璧を求めてはいない。

下の意見を聞いてくれて反映してくれる人物なのかを試されているんだ。

何かを間違えても、今なら貴族院で修正してくれる。

誰かが柱にならないとそれすら出来なくなってしまう。

その役割を果たせるのはお前しか居ないんだ」

「はい…はい!遣ります。父上、甘えてばかりで、申し訳ありませんでした」


父は深く閉じていた目を開き。
「うむ。…まずは食事にしよう。空腹では頭は回らない。
食べてないから悩むんだ。悪い方ばかりにな」

「はい!兄上も食べて行って下さい。
そして、ご意見有り難う御座いました」

「当たり前だ。腹減って死にそうだ」
「私もお腹ペコペコ」


冷蔵庫の設置やら魔導コンロの使い方など。
結局は俺とフィーネが指導する羽目になり、燻製と野菜のポトフを作って皆で食べた。

「お前は、料理までするのか?」

それが今の趣味だと答えたら大変に驚かれてしまった。

これも思い出の1つになった。




---------------

寝起きに少し驚いて暴れられたが、馬車の搬入も無事に終わり、自宅へと戻った。

帰宅はかなり遅い時間になってしまったが。

ソプランが訪ねて来て、一通の手紙を届けてくれた。

差出人は聖女ちゃん。

一応ソプランにも同席して貰い、読み上げ。

「本文。

スターレン様、フィーネ様。
先日は有り難う御座いました。

この命が在るのも偏にお二人と、
クワンティ様のお陰です。

感謝の言葉では語り尽くせません。

私の無事の帰還を父も信者たちも大変に喜び
盛大に祝って頂けました。

この手紙は単なるお礼状です。

父も是非お礼がしたいと言っておりますが、
まだ召還状を送り付ける時期では無いと思い
普通のお手紙の形です。

北の案件が落着かれましたら、
一度お返事が頂きたいです。

また召還と言う形になったとしても
お礼とお詫びをするだけですので
神教や宗派は関係無く、
気軽にお越し下さればと思います。

なのでお召し物は白色でも水色でも構わないと
父も言っておりますので。

どうかご検討宜しくお願い致します。

                      ~ペリーニャ・ストラトフより~」

「無事に帰れたみたいだね」
「良かったぁ。…でも聖騎士があれだけ付いてれば当たり前か」

当然だな。


ソプランが。
「…俺をここに座らせたって事は?」

「聞かなくても解るでしょ」

「かぁ~マジかぁ」

「アローマさんも一緒に行けるように調整するよ」
「だったらちょっとした旅行になるでしょ?」

「それだったら…まあいいかな。
俺たちの服の色は?」

「黒は駄目だね。反発色だから。
グレー基調の奴を何着か用意しておいて」

「了解」


「後は明日次第だな」
「どうか届きますように」

「明日何か届くのか」

「とても大事な物がここに届く。届かないとかなり拙い。
届いてから説明するよ」

「解った。俺も注意しとく。
モヘッドは相変わらず大人しいみたいだ。
逆に不気味だがな」

「転移の道具でも持って無い限り、余程大丈夫だと思う。

只…対面に居る元宰相が実に怪しいな。
もしもあいつも会員だったら…ちょっと怖い。

牢屋を引き離して、身体検査を徹底するように明日伝えて貰える?」

「そりゃ確かに怖いな。俺も関係無しだと思い込んでた。
明日の朝一で行って来る」

「よろしく」
「お願いします」



ソプランが帰ってからも暫くリビングでダラダラ。

「さて。夕食は食ってないけど」
「お昼遅かったから、あんまりお腹が空いてない」
「クワァ」首を横にブンブンと。

「お風呂にして寝よっか」
「そうしましょー」
「クワッ」
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12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

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