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第44話 お頼りのコーナー

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どうした事でしょう。

海から戻り、そっと船をドックにぶち込み。
こそっと山越えして漁港を越えて、ホテルへ戻ったと言うのに。

ホテル帰還後、3日程経過してみると。

あらびっくり。苦情やお怒りや激励やファンレターが!

ど山のように最上階の授受箱に届く様になってしまったのです。

「どうしましょうフィーネさん。心当りが全く御座いません」
「私にも全くありません。一つずつ、処理しましょう」

「先ずはこの方。H王陛下様よりお手紙です」
「お読みになって」

「何考えとんじゃボケぇぇぇ!!!」
「捨てましょう。暖炉に」


「続いて参りましょう。Gマート様からのお手紙です」
「どうぞどうぞ」

「やってくれたなぁぁぁ!!どうも有り難う」
「激励のお手紙はいいですね。保留します」


「これはお悩みでしょうか。Sツ令嬢様からのお便り」
「それは大変気になります」

「どうしましょう。どうしましょう。御爺様が!
毎晩泣きながら壁を叩いて回るのです。
私はもう心配で心配で。どうして良いやら」
「解りました。それは後でお返事しましょう」


「続いては。Mトンさんからのお便り」
「激励ではなさそうですが、どーぞ」

「公爵の一角が突如!誰かの所為で!
吹き飛んでしまい。中立だった筈!の私が。
いつの間にやら!筆頭に抜擢されてしまいそうです。
ぶちゃけ助けて」
「誇大妄想で被害妄想が酷いですね。捨てましょう」


「続いては。何とMザー王太子殿下様からのお便り」
「…破棄したいですが、後々面倒になるので我慢して読み上げて下さい」

「大変だ。宰相役なんて引き受けるんじゃなかった。
更に大変な話も持ち上がっている。何とか父上よりも先に貴殿と話がしたい。して貰えないと非常に困る。
互いにな。我らが秘密裏に会える場所は一つしかない筈だ。そこで会おう」
「し…仕方ありませんね。会ってあげましょう」


「続いて。おぉこれは凄い。先程の方のフィアンセ婦人様からのお手紙です」
「私のお友達に似ています。是非読みましょう」

「えー。何から申し上げて良いやら。
まずは有り難う御座います。御座いますなのですが。
王都は今。上から下までごっちゃごちゃのぐっちゃぐちゃなのです。早くフィーネさんの笑顔で癒されたい…」
「これは心が揺さ振られますね。私からお返事します」


「続いて。これはまた気合いが違います。
Rシュ卿様からのお手紙です」
「お怒りが目に浮かぶようです。どーぞ」

「君たちは。わしを引退させぬ積もりか。
どうして最後の花道を奪うんだ。もう何もするな!」
「苦情ですね。帰ったらガツンと言ってあげましょう。
そんなもん知るか!!と」


「次は。…これはファンレターの甘い匂いがしますね」
「それらはこちらで回収します」


2人で天井を見上げ。ふと窓の外を見る。

「ちょっと早いけど。お昼にしよっか」
「そうしよ」

と町の定食屋さんに入れば。

周りのお客様からの。

「ねーねー。あれじゃない。絶対そうだよ」
「え?ホントに!?さ、サイン貰えないかしら」

などが聞こえたり。

定食の海老やコロッケが1つオマケされていたり。

「可笑しいですねぇ。私には二尾にしか見えません」
絶対可笑しいよ。損してるって。


静かな場所へと礼拝堂に行っても。
前の順番待ちの人が突然後ろへ回り込んだり。


広場のベンチで休んでいても。
建物の影からこちらを見詰める人が多数居たり。


店頭売りの店でも。
幾つか食べた後で。
「お代?何の話だ。あんたら今何か食ったのか?
俺は知らねえなぁ」
今、俺たちが手に持ってる物は何ですか!


どうしてだ。何故あんなにも隠れてコッソリとミッションをクリアしたのに。
数日で町全体にバレるんだ。


いっそ旅行を切り上げたくても、今の王都はバッタバタ。
何処かで時間を稼がないと。

「フィーネさん。今ならハイネの方が落着いているかも知れないのですが」
「あっちも同じよ。前より酷いかも。それに宿泊予定の半分も過ぎてないのよ。負けたみたいで悔しい」
フィーネさんらしいお答え。

そうだよなぁ。
ハイネに比べれば、まだこっちの方が群がって来ないだけマシだ。

「もう少し様子を見るか。でも町も大半見てしまったし」
「うーん。取り敢えず星砂時計を他のカップルにもお土産にしない?前より増えたし」

「それはいいな。シュルツも欲しがりそうだし」



んな訳で雑貨屋。

お姉さんの反応は普通。良かった。

「済みません。星砂時計の在庫って幾つありますか?」

「そうですねぇ。百位は在りますね」
え?多くない?

「入荷したんですか?」

「元々人気でしたし。
更に。問題を抱えた港町を二つとも同時に救い、悪名高き腐れ公爵まで失脚。
多くの人質を救い、海賊まで捻じ伏せた。
英雄様と美しき姫君のお陰様で。
飛ぶように売れますから」

「…フィーネ。違うぞ。前にも言った記憶があるが、これは絶対に自分たちの事ではない。これに反応したら。自意識過剰って言うんだ」
「う、うん…」

「と、取り敢えず。キャンドルとセットで10セット貰えるかな」

「毎度どうもでーす。お代は結構ですので。
この紙に大きく。お二人の名前を書いて下さい」

「あっれ可笑しいな。これ領収書じゃなくて、色紙にしか見えないんですけど」

「色紙です!家宝にします!お願いです!
お二人のサインを下さい!」

「誰かと間違えてない?」

「スターレン様。それは人違いではありません。
港町の情報網を嘗めないで下さい!
この町が何処の管轄だと思っているのですか!
ロロシュ財団ですよ。

超高級ホテルのエリュランテの最上級にぶち抜きで連泊されて。財団管理棟に足まで運び。誰もが羨む超最新鋭の超高出力クルーズ船を乗り回して。
一晩帰って来ないと聞けば、海賊船毎人質がわんさと岸に上がって来て。

あの船に乗っていた御仁は誰だ。
あの白く輝く鳥は何だったんだ。
あの命の恩人は誰なんだーーー。

ってなるのは、当たり前ですよ」

「「………」」

物凄い納得しました。

どうしていいか解らぬ気分のまま。
2人で色紙にサインして、10セット星砂時計を頂いた。


「お、俺たち。王都に帰ったら」
「言わないで。それは言葉にしてはいけない奴だよ」



2人で落ち着きを取り戻した海辺で、ボーッと海を眺めていると。

後ろから近付く冒険者の男性。

その顔は悲壮感に溢れ、とても苦しそうに見える。

「スターレン様。どうしても、ご相談したい事が」

「また会いましたね。掲示板のお兄さん。
お名前は名乗らないで下さい。今は聞きたくないので。
それで。どうしました?」

「不敬を承知でお願いします!」

お兄さんは砂浜の上で土下座した。

「可笑しいですね。俺は自分を普通の平民商人だと思っているのですが」

「ウィンザートをお救い下さい!お願いします!
報酬は払えません。この命ぐらいしか持ってません。
それでも!お願いしたい」

「命だなんて物騒な。
まぁ普通に座って下さい。それじゃ目立ちますから」

「はい…」

お兄さんが座り直すのを確認して。

「ウィンザートを粛正するのは国の仕事です。
平民風情が手を出す問題じゃない。
それでは誰も救われませんし。諸悪の根源は絶対に正せません。

クインザが処刑されるのが後数日。
ウィンザートに隠れる蛆虫が湧いて出るのは、それからなんです。

王都からの粛正部隊がウィンザートに辿り着くのは、どんなに急いでも。そこから1週半。

海軍が動き出すのが、陸戦部隊が到着する手前。

国の大掃除を邪魔してはいけないのです。

解りますか?」

「…はい」

「歯痒いでしょう。その間にも多くの人が苦しみ。
貴方のご家族の誰かが亡くなってしまうかも知れません。

それでも。その手順を間違えてはいけないんです。

命を賭けると言うのなら。そうですね。

誰か。何故か面倒事に首を突っ込んでしまう、残念な一組の夫婦が動き易いように。

ウィンザートと南諸島の詳細情報を。

ここに居るウィンザート出身者の方を集めて、地図に纏めてくれると。大変に喜ばれると思いますよ。

それを、頼めますか?」

「…はい!必ず!」

「ここの軍艦が走り出した頃に。また、掲示板の前でお会いしましょうか」

「はい!!」

お兄さんは砂を払いもせず、町中へと走り出した。



フィーネは溜息混じりに。
「終わりませんねぇ」

「海賊や雑魚を1匹、排除した位じゃ。ウィンザートの蛆虫は潰せないさ。それこそ氷山の一角だ」


「聞きたくないけど。敢えて聞いちゃいましょう。
それを今直ぐやってしまった場合は?」

「それやっちゃうと。俺、公爵どころか。
王太子押し退けて、次期国王筆頭にされちゃうよ?

フィーネがどうしても王妃様に成りたい!って言うなら考えてもいいけど」

「全力でお断りします!」

「でしょ」

笑い合う。けど、乾いた笑い声しか出やしない。
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