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第35話 故郷の村へ
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前にパージェントを出発したキャラバン隊より、数時間遅れで出発した。
にも関わらず…。
「追い付いちった」
「意外に集団行群って遅いのね」
クワンティは上空を高速旋回中。
前方に先行キャラバンを、夕暮れ前に捉えてしまった。
ちょっと走ったのがいけなかった。
のんびり早足くらいで良かったのだ。
俺たちの足は速い。腐らない意味で。
アホ程速い。
走れば二頭立ての馬車の軽く3倍は速い。
それは前述のステを参考にして欲しい。
速くて困る事など何も無い。過剰だなんて糞食らえ。
と、半ば自棄で盛大に盛り過ぎた。
今更街道上で生着替えなんてしたくない。
このまま行こう。
市販の簡易地図を2人で眺めながら。
「路上で後ろから合流されること程怖いものはない。このまま追い越して、宿場を1つ飛ばそっか」
「このペースなら。日没までには着けそうね。夜は流石にクワンティを休ませたいし」
「だな。じゃあ、ちと走りますか」
「おー」
と、調子に乗ったのがいけなかった。
1つ飛ばしの予定が、2つも飛ばしてしまった。
お、まだ行けんじゃね。人は調子に乗り易い。
先にバテたのは、上空の鳩ちゃんだった。
「ごめんねー。ホントにごめんねー」
フンすとジト目クワンティを腕に乗せて、
フィーネが平謝り。
「明日は。ちゃんとペースを考えて走るからさ。機嫌直してよー。今度は行き先所毎に、クワンティに意志を確認するから」
「…クワッ」
どうやら了解してくれた模様。
現在、国境まで7つ在る宿場の3つ目。
数時間で半分近く来てもーとるやないの。
管理者にお布施を払い、空きの小屋へと入った。
「歩いて来ました」と告げると。
「またまたご冗談を」と返された。
双方深入りしても碌な事にはならない。
現金だけが真実。
金貨の詰まった巾着をチラつかせれば、大体の物事は解決する。それが宿場町だ。
番号だけの名も無き町。
町、と言うだけあって。中にはちゃんと10人以上の人が住み着いて、管理運営している所も在ったりする。
金には多少汚いが、彼ら管理者は歴とした国の兵士だ。
魔導コンロと鍋で軽く自炊して腹を満たし、その日は室内で休むクワンティの為に大人しく就寝…。
ベッドが硬いし臭う。
フィーネのクリアが早々に進化して一発洗浄。
有り難し。
こんなにも可愛い嫁を、どうして置いて行こうなどと考えてしまったのか。反省し切りです。
いっそアッテンハイムからマッハリアへ行き、勢いで王城ぶっ壊して、帝国に殴り込みに行ったろか。
そんな悪い考えが過る。
否。手順を考えなければ間違いの元。
悲しむのは一般国民だ。
出来るからって遣って良い事悪い事がある。
成人する前なら若気の至りんで許されたかも知れないが、俺たちは汚い大人になってしまったんだ。
無茶は止めよう。寝よ…。
気分爽快!には程遠い朝。
腰の痛みは旅の付き物さ。
クワンティを交え、地図が読めると信じて打ち合わせ。
「まず、今がここね。で、こっちが出発した王都」
「…クワッ」おー頷いている。賢い。
信じよう。
「で、今日はこの、ここから二つ目の集落を目指します」
「…クワッ」
「早歩きで昼過ぎに到着出来そうだから。クワンティの体力を見て次まで進むか決めよ」
「クワッ!」
決裁した様子。
本当に可愛い子だ…。俺発言してない!
朝食を食べ、簡単にお掃除してから出発。
昨晩は運良く他のキャラバンと被らなかった。
一番いい小屋を与えてくれた礼に。
一番良くてカビ臭いのかよ!
との言葉は吐いてはいけない。そう言うもんだと割り切るのが吉。
街道を外れた場所で、行き違いのキャラバンをじっと遣り過ごす。
誰も居なくなった所で早歩き。
途中途中で速度調整。無事に5つ目の宿場へ到着。
「走って来ました!」
「何寝ぼけた事を言ってんだ!」怒らなくてもいいのに。
この世界って短気が多いの?
「さあ。偶々では?」
そう言う事にしておこう。
今日は他にも小集団が2組居た。
皆、表情が暗いな。と思いつつも。
関わりたくないので、会釈して与えられた小屋へ。
クワンティを窓から回収。
「お疲れ様。どう?行けそう?」
「クワァ~」正直疲れた、と言っている気がする。
「そっかー。じゃあ今日はここで休もっか?」
ん?俺に聞いてるのか。てっきり要らん子だと思ってた。
「休もう。でも若干早いんだよなぁ。ちょっと周辺歩いて、
ご飯食べながら、今後の作戦会議でどう」
「いいね。そうしよー」
クワンをフィーネの肩に乗せて、宿場の南に在る森林地帯に散策に向かった。
向かおうと、集団組の脇を擦り抜けようとした所でリーダーらしき人物に声を掛けられた。
「もし。君らは二人連れなのか?」
「はい。のんびり徒歩で旅行中です」
「と、徒歩で…かね。確かに馬車が見当たらない」
「どうかされました?」
「人助けならしませんよ。面倒事は嫌いです」
先手をぶっ込むフィーネさん。
「どっち…いや。確かに、ここに居る二組のキャラバンから数人ずつ野盗に攫われてしまって。どうするか悩んでいたが、たった二人の夫婦には頼めない。
済まない。聞かなかった事にしてくれ」
聞いちまったじゃねーか!
額に手を当てて嘆くフィーネ。
「もう。それは、何人で、女性や子供ですか?」
「全部で六人。若い侍女二人に、後は七、八歳の子供が四人だ」
嫌な想像しか浮かばん。
「で。その野盗たちは、どっち方面に向かいました?
後、敵の規模は」
「君らが今行こうとしていた南の方角へ走り去って行ってしまった。規模は解らん。見えた所で二十は居た」
倍として40。多いな。アッテンハイムからの流れ者の可能性が高い。
パージェント周辺は俺たちが片付け、もう殆ど居ない筈。
「どれ位前ですか?」
「二刻程前だ。こちらの護衛も人と荷を守る為に、動かせない。管理人に砦の兵を呼んで貰ったが、何時来てくれるのは」
ついさっきの出来事か。
ここは管理の人数が少ないようだ。
「ちょっと偵察に行ってきます。こちらは死守して下さいね。これ以上人質増えても面倒なんで」
「もー。ゆっくり折角散策しようと思ってたのにー」
「クワァッ」
まだ明るい内で良かった。
野盗が夜じゃなく、昼間を狙ったのか。全く意味不明。
「クワンティ。高い所から探って」
「クワッ!」
空高く舞い上がったのを見送り。
俺は高台を探す。…進路方向に丘が見えた。
丘の頂上から、普通の双眼鏡で周囲を探った。
「意外に森が深いな。日が暮れると厄介だ」
「そうね。さっと片付けてご飯にしましょ」
賛成です。
クワンティが直ぐに戻って来た。
俺たちの間に降り立ち、片翼を上げて方角を示した。
クワンのスペックが高過ぎる。
まさか…俺たちのいと…、今はどうでもいいな。
飛び立った方角へと走った。
木々を抜けた先に開けた場所が見える。奥手に洞窟らしき開口部も。
7人程の汚い格好をした者たちが散開していた。
「俺左」
「じゃ右」
二手に分かれて、警戒者を残らず昏倒させた。
俺はロープでフィーネは素手。俺の方が過剰だ。
軽くしたから死んではいないと思う。
意識の在った1人の髪を禿げる程引き、絶望の悲鳴を上げさせた。
充分に中まで浸透させた所で、側頭を叩いてお休み。
生きてたら髪大切な。
おぉ出る出る。蟻みたいに。
奴らの絶叫や怒号は、聞くに堪えない言葉ばかりだったので一切交渉せずに突っ込んだ。
1人1人丹念に掴み取り、上空30m位に投げっぱなし。
フィーネは側面から、出て来た汚い奴の腕を掴んで後方上空へと打上げ。
「あー汚い汚い。早く手を洗わなくちゃ」
そこまで言ったら家無き人々が可哀想だろ。ああ見えて意外に綺麗好きだったりするんだ。
昔の俺みたいにな!!嫌な事思い出したじゃねえか!
一通り沸きが収まった所で突入。
先行はフィーネ。
中の状況次第では、女性が先の方が断然いい。
「何だ!おまっ」
フィーネの弱腹パンが炸裂。そのまま側壁と合体。
洞窟最奥に簡易牢が在り、号泣する子供を守るようにメイド服さんたちが庇っていた。
人数も6人。良かった、服は割と綺麗に整っている。
一応フィーネが確認。
「助けに来ました。まだ動けますか」
「私たちは大丈夫です。でも、牢の鍵が」
「鍵?あ、今開けますので」
手で払い、錆びた鉄檻を除去。
「有り難う御座います!済みません、子供が一人足に酷い怪我を」
「スタンお願い。私手が汚れてるから」
「オッケー」
怪我をしていた子供を寝かせ。
「身体の力を抜いて。怪我は宿場に戻ってからする」
「う、うん」
顔色は悪いが、まだ大丈夫そうだ。
ロープを太くして、豆腐が持てる程柔らかく簀巻きにして宙に浮かせた。
少年絶句中。
「後の人は私の後ろに付いてきて」
「はい!」残りの5人は全員元気が在る。
フィーネ先行のまま、入口を出る。
増援は無い。どうやらここだけだ。
「クワンティ!宿場の方角に飛んで!」
上で鳴き声が聞こえた。
「後ろは俺が見てます。安心して進んで。慌てずに」
「は、はい!」
慌てず急いで、上の方角を頼りに戻った。
各所から、醜い呻き声が聞こえたが放置した。
何度か飛来物があったが、片手間で叩き落とした。
移動が遅い。このペースだと日が暮れる。
「全員ロープで持ち上げます。力を抜いて楽に」
少年を見て、素直に従ってくれた。
巻き付けた先端部を延長して1人1人蒔いて行く。
最後の子を包んで持ち上げ…。
「問題無い!少し道を開いて」
「了解。走りますので、目はしっかり閉じて」
6人が目を瞑るのを確認して半力ダッシュ。
数分後。宿場までお届け完了。
平場に降ろし、怪我をした少年の足の具合を確認。
周囲から歓声が上がっているが、それは後。
右足脹ら脛外が膝下からざっくり行かれている。
それ程深手ではないが、包帯巻きだけでは心許ない。
消毒液で両手を洗い、片刃のナイフでズボンを膝上から切断。
異物を確認。
「かなり痛いぞ。頑張れそうか?」
震えながらも少年は頷いた。
「消毒します!大人の誰か。膝と足首を抑えて。俺だとやり過ぎてしまう」
「わ、解った。私はその子の父親だ。頑張れよトム」
トムって言うんだ。
「じゃあトム。目を閉じて、この布を噛んで食い縛れ!」
「ぅ、うん!」
宿場中にトムの呻きが響いた。
脱脂綿を当て、包帯完了。
「ふー。カメノス製の傷薬を塗りました。
傷は浅いので縫う必要も無いでしょう。今日一晩と明日まで様子を見て、発熱が在る様なら、この内服薬を少しずつ飲ませて下さい」
「あ、有り難う御座います!」
父親に薬を渡し、涙と鼻水塗れのトムの頭を撫でる。
「よく頑張った。今日はゆっくり休め。傷は痛むが、多少は我慢だぞ」
「縫合してみたかったなぁ」
手を綺麗にして戻って来たフィーネが残念がった。
「子供に麻酔は危険過ぎる。生の縫合はキツいよ」
「そうだね。悪い人を縫おう」
空はすっかり茜色。
「2組合同で荷物係と南の警戒に分けて、今夜を乗り切って下さい。砦からの衛兵が来るまでの辛抱です。
何かあれば小屋に来て下さい」
「格好いい~。夕飯何がいい?」
「そうだなぁ。まぁのんびり考えよう」
周りがポカンとする中で。俺たちは特に疲れもせず、自分たちの小屋へと戻った。
今夜の献立を話し合っていると、早くもノックされてしまった。
「えーマジかよぉ。腹減ったのにぃ」
「今日は簡単な物にしよっかぁ。はぁ」
文句を言いながらも、玄関ドアを開ける。
「どうしました?敵襲ですか?」
さっきのリーダーさんだ。
その後ろにも何人か。兵士の姿も見える。
「い、いやその。敵ではないんだが」
「なら大丈夫ですね。これから飯にするとこなんで」
「い、いや!待って下さい。食事なら、私共で用意した物があります。是非お礼と、少しお話を」
「おぉ。それは有り難いです。フィーネ、御馳走してくれるってさ」
「え?いいんですか?お言葉に甘えちゃおっか」
中間の平場で焚き火が炊かれ、持ち寄ったであろう鍋が掛けられていた。
その周りを囲み、こちらを見詰める数十名。
さっき助けた侍女さんたちも居た。
「どうしたんですか?宴会?」
「わぁ。外で焚き火って久し振りだ」
「貴方方の為にですよ!先程からいったい何を仰っているのですか!」
やっぱこの人も短気やなぁ。
「だって。俺たち何もしてないし」
「ねー。ちょっとお散歩序でに、洞窟に捕われてた人を拾って帰って来ただけですよ?」
周囲も兵士もポカン連鎖が止まらない。
「な、何も…って。私が間違って…
いやそんな事はない!」
面白い人だなこの人。表情がコロコロ変わる。
「まあ少し落着いて下さい。俺はストアレン商会のスターレン。こちらは妻の」
「フィーネです。さっきから落ち着きの無い、貴方は?」
「も、申し遅れました。私はギャラン商隊のギャリー」
「こちらも失礼します。私は、ボラン商隊のボーラン」
「割り込み失礼を。私は、北西部砦のバンガッハ。砦長を努めています。お見知り置きを」
「ギャリーさんに、ボーランさんとバンガッハ砦長さん。
取り敢えず飯にしましょう。話は食べながら」
どうぞどうぞと座椅子に招かれ、夕食を頂いた。
屑野菜と干し肉のスープ、チーズ、硬パン。
シンプルだけど悪くはないな。
やはり新参者の燻製は、まだまだ地方までは回っていない様子だ。などと考えていたら、ワインを木カップで勧められた。
クワンティは俺たちの後ろで、皿に盛られたパンとチーズを交互に啄んでいた。
「スープは程良い塩加減ですが胡椒が物足りないのと、
今度、パージェントに行ったら、メメット商隊で売られている燻製と言う物を入れてみて下さい。
きっと美味しくなりますよ」
宣伝は忘れない。
「ストアレン…メメット…!?思い出した!」
ギャリーがギャーギャー五月蠅い。
「私も、今思い出した。貴方が、いや貴方様が。あの二大商団を後ろ盾に持つと言う…。真逆、本当に実在していたなんて…」
「そんな大袈裟な。幾つか共同運営してる事業があって、さん付けで呼んじゃう程度の仲ってだけです」
「「程度じゃありません!」」
「スタンも大分知名度上がったねー。あ、私はこないだ二人を呼捨てにして罵りましたね」
「あれは俺たちが悪い。怒って貰って助かったよ」
「信じられない…」
「お話が全く進みませんので。バンガッハ殿は、こちらの広域警備を?」
「ハッ!スターレン様。我が砦の領域はこちらの街道沿いの三番から六番宿場までを担当しております」
急に様って。
「様は余計ですが。最近野盗の類は多いんですか?」
「この国の王族や国防の重鎮との緩くない面識をお持ちの貴方様を、低称でなどでお呼び出来ません。
野盗に付いては、最近とは言わず、常に。西からの冒険者崩れが流入している始末で。広域を守護するにも人員が足りていないのが現実です」
噂には尾ひれが付くもんだ。そこはスルーして。
「西部砦と国境関所も似たような?」
「慢性的な人材不足です。アッテンハイムの聖騎士軍も魔物討伐ばかり。そこに割り込みを掛け、失敗挫折した冒険者が盗賊へ身を落としている状況だと」
嫌な流れだな。この旅行中の短期間では手が出せない。
今はマッハリアに集中したいのに。
「今日、ここには何人連れて来れました?」
「隊員四名と私です」
「フィーネ。さっき野盗は何人居たっけ」
「リーダーぽいの含めて、三十三…だったかな」
パンをワインで流しながら考える。
「うーん。ここから南西の拠点は潰し切れたと思います。少なくとも真面に動ける野盗は居ない。
他に、拠点と成りそうな場所に心当りは?」
「何たる僥倖。王からの布令では通り過ぎるだけで、絶対にお引き留めするなと伝えられているのに…。
他の拠点と目される場所は、南部の更に南と南東だと」
1つ伸びをして。
「どうしよっかフィーネ」
「どっちか。規模の大きい方ね。折角稼いだのに、無駄になっちゃう」
「それは、どう言う…」
「こっちの話です。明日、規模が大きい方を潰します。
ヘルメン様には、行きずりの成り行きだと。帰った時に伝えますから。心配しなくてもいいです。どっちですか?」
「南部…ですが。そんな…」
「心配性ですね。何なら後で証文書くので砦から飛ばして下さい。手持ちの鳩は旅から外せないので」
「いやしかし…」
「砦は残りの南東に注視するだけになるんです。
一応私も冒険者の端くれ。冒険者崩れの不始末も、ギルドにも非が在ります。王都のモヘッドにも伝えますが、それの掃除も仕事の内ですよ」
それ以上何かを言おうとするバンガッハを手で制し。
「ギャリーさん、ボーランさん。こんな状況です。
お礼は一切受け取りません。薬もカメノスさんからの貰い物。身銭は切ってません。
その金で是非メメットの製品でも買って下さいね」
「「解りました!」」
周りで押し黙る衆に手を振り。
「今日は御馳走様でした。また何時か何処かで出会えたらお仕事のお話しましょうね。では、お休みなさい」
「夜は冷えるので。温かくして。お休みなさい」
これ以上引っ張られると、寝れなくなるので強引に打ち切った。
「スタンって…巻き込まれ体質だね」
「それ言わないでぇ。フィーネさん」
証文を書き書き。
「拝啓。愛しきミラン様。
美しき庭園も然る事乍ら、更なる美しさを誇るミラン様はお元気でしょうか。あぁ、ミラン様が頭か」
フィーネさんに取り上げられ、暖炉にクシャクシャポイ。
「紙が勿体ない!」
仰る通りっす。
新たな紙を取り出して。
「前略。ヘルメン様。
成り行きで野盗の拠点を二つ潰します。バンガッハ砦長は優秀そうな人だと思います。
降格はしない方がいいですよ」と。
国防案件なのでノイちゃんでも良かったが、布令を無視したと捉えられてはいけないのでヘルメン宛。
悩ましげに外をうろついていたバンガッハを捕まえ、証文を握らせた。
「明日の朝便で送って下さい。俺は寝ます!」
「説得が討伐よりも疲れるって。どうなのよ」
「お疲れ様」
昨日の宿場よりは寝覚めの良い朝。
顔を洗って歯を磨く。最近髭が濃くなってきたな。
「フィーネは口髭って嫌い?家系的には濃くないけど
嫌なら剃るよ」
「伸ばしたスタンも見てみたい気がする。スタンのなら嫌いじゃないよ。半端に薄いなら剃った方がいいと思う」
ほうほう。ちょっと伸ばして整えてみよ。
父上様は…結構格好良い口髭だったな。
身支度を済ませ、お片付け。
外に出ると、他の2組も出発準備を始めていた。
従者と護衛の人々と挨拶を交し、
離れた場所に居た、ギャリーとボーランに声を掛けた。
「お早う御座います。ここで見聞きした事は特に制限しませんが、心の内に留めた方が身の為ですよ。
メメット辺りなら話しても問題無いです」
「お早う御座います。勿論商人として、個人としても、ここでスターレン様とお会いした事は隊内だけの誉れとして固く守ります」
「お早う御座います。私共も同じく。王都へは、いつ頃お戻りで」
「区切ってはいませんが、長くても一月以内には戻ると思います」
「あーもう。お仕事の話なら王都で!私たちは急いでいるんですから。余り引き留めないで下さい」
有り難う、妻よ。
「「す、済みません…」」
「皆さんも。道中お気を付けて。護衛班の方たちも無茶はせずに。それでは」
「ま、待って!」
トム君が足を引き摺りながら向かって来た。
「おー。顔色は大分良くなったな。あんまり足に力入れるなよ」
「うん。スターレン様。有り難う御座いました」
深々とお辞儀。
後ろでは親父さんも。
「教えて下さい!」
「何を?」
「どうしたら、スターレン様みたいに強くて、格好いい商人様に成れるのですか」
どうしよう。
道具塗れで他力本願でやってますとは言えない。
別の意味で泣いていいですか…。
トムの頭をクシャクシャにして。
「一杯勉強して、大人に成って。何時か、自分が本気で守りたい人が出来たら、その人の為に強くあれ。
後は周りの人たちの話をしっかりと聞くんだ。
そうすれば、きっと格好良く成れるさ」
「は、はい!」
「格好良く成り過ぎて。女の子泣かせちゃダメよ」
「解りました!」
トムは親父さんに引き取られ、周りの人々もみんなお辞儀してくれた。
居辛い。よし!逃げよう。
「それでは。皆さんお元気で!」
「お元気で~」
2人で南の森へダッシュ。
交代で警備に就いていた兵士に声を掛け、昨日眺めた南の丘へ向かった。
「張りぼての、口先だけの男の何処がいいのかねぇ」
「ちゃんと有言実行してる所じゃない?
時々…、善く善く人の分の責任まで背負っちゃうのが、
面倒臭いけど」
「痛いですぅ。耳が。今みたいに?」
「アッテンハイムに入ったら、人助けはしない。
全部救うなんて無理なんだから。
流石に、目の前で倒れてる人位は助けても…」
「フィーネ。そう言うの、フラグって言うんだぜ」
「さっさと片付けようー。
クワンティ。南で人が群がってる所で旋回。
矢が届かない、もっと上で」
「クワッ!」
クワンティが南へ飛んだ所で、俺たちも動き出した。
先に行くのは昨日潰した南西の洞窟。
生き残りが居るとしたら、南と合流を図る筈。
残党狩りをしてから南へ。
炙り出された野盗を側面から叩く。
急がば回れってね。
やはり数人は生きていた。
岩場に背を預けて、動ける者で怪我の手当をしていた。
不意は突かず、正面から堂々と。
「お前たちは…、昨日の…」
「そうだ。残党狩りにな。殺す前に1つだけ答えろ」
話掛けた野盗に兄ちゃんが泣いている。
誰だ泣かしたのは。
「…な、なんだ」
「冒険者に挫折したなら、どうして野盗になる前に、
商人の護衛やったり、農民に弟子入りしなかった?
腕力には自信あんだろ」
「…」
他の意識が在る者も押し黙る。
「アッテンハイムが駄目なら、このタイラントで傭兵でもやりゃいいじゃん。
西方の大三国だって、戦力増強中だ。
真面目にやってりゃ、兵士にだって成れた筈だ。
なんで!こんな糞みたいな、選択しかしないんだ!」
「…す、すまねえ…。俺たちは、楽な道を選んじまった」
周りの連中も、啜り泣いている。
泣くならやるなよ。
「殺す価値もないな。
見逃してやる代わりに、動けるようになったら北西の砦に投降しろ。
初犯なら奴隷落ちだ。
でも、この国なら!奴隷からでも這い上がれる。
希望は在るんだ。今度は間違えるなよ」
「…あぁ…」
「序でに。南の拠点は皆殺しにするが。誰か、望みが在りそうな奴は居るか」
「…あいつらの手は真っ黒さ。あいつらの誘いに乗った俺たちも、屑だけどな…」
これで罪悪感が僅かに削れた。
人殺しには違いなく。只の自己満足だが。
堂々と背中を見せて歩き去ったが、特に反撃は無かった。
「さぁて。大掃除して」
「次に行ってみよー」
上空を見渡すと、直ぐにクワンティが見えた。
フィーネと目を合わせて、全力で走り出した。
捕われていた人質は、誰も。
誰1人、救えなかった………。
吐き出す物が胃液しか無くなった後。
近くを流れていた清流で、俺たちは手と口を洗い流した。
フィーネと岩場に腰掛け、背中を預け合った。
清涼感のある解毒剤を無意味に飲み干して。
「…朝食。食べなくて正解だったね…」
「…あぁ。フィーネの言う通り。人助けなんて、するもんじゃねえな…」
傍らで心配そうにこちらを見詰めるクワンティ。
彼女の目に、俺たち人間はどう映っているんだろう。
「…なぁフィーネ。こんな気持ちでしちゃいけないって解ってるけど…」
「…大丈夫。私も、無性に忘れたい気分だから…」
人は魔物を恐れる。
人は魔族を恐れる。
人は人外を認めたがらない。
その人間が、一番恐ろしいと言うのに。
数時間後。俺たちは7番の宿場町へ到着した。
周囲に軽く挨拶するだけで、直ぐに小屋へ引き籠もった。
今日だけは、他の誰とも話をしたくない。
クワンティは小屋の屋根に居てくれた。
その日は昼間から、窓を閉め切り。
お互いの体温だけを貪り在った。
この温もりだけが真実。それでいい。
それだけでいい。
---------------
翌朝。
気怠い朝を迎えた。
「ふーーーかーーーつッ。昨日は何も無かった。
そうしよう!」
「うぉーーー。もう人助けなんてしないぞぉーーー」
無理矢理気分一新でリスタート。
寂しい思いをさせてしまったクワンティを招き入れ。
歯を磨いて、モリモリ朝食を食べて。
食べさせ合って。イチャイチャして。
生きている幸せを実感し合った。
身支度を終え、テーブルに地図を広げた。
「今日中に関所から最寄りの町。ピラリスへ行こうと思うのだが。どうかね、フィーネ君」
「異議無し!」
「情報収集はするが、人助けはしません!」
「異議無し!」
「クワンティ。今はここだ。そしてピラリスがここだ」
国境関から真西の町を指差すと。
「クワッ!!」
ウンウンと頷いてくれた。
周りに挨拶しながら、さくっと出発。
よーーーく考えると。
「クワンティを、飛ばさなければ良くない?」
「あ…」
フィーネさんが硬直。
教えておくれよロイドちゃん。
「私は、てっきり地形を覚えさせているのかと…」
それもあったな!
「クワ?」
白い布に包んだ白い鳩を小脇に抱えて、
ラグビーダッシュ。
1時間前後で関所に到着。
本当はもう少し早く到着出来たが、人目と往来を避ける為に南から遠回りをした。
何食わぬ顔で、検問待ちの列の最後尾に並んだ。
前の一団の護衛に話掛けられた。
「君らは…徒歩なのか?」
「徒歩ですけど?何か?」
「人間には足が付いてます。問題でも?」
「いや、別に。問題は無いんだが。
聞いた話だと。ここの検問、徒歩での旅行者を取り締まってるらしいんだが…。
それで何時もより、時間が掛かってるって」
「「はい??」」
なんてこったい!教えてくれて有り難う。
やはり人とのお喋りは大切だ。
無闇に拒絶してはいけない。
「ど、どうする?フィーネ…」
「い、一応。私たち、通行証持ってるし。聞くだけ聞いてみようよ」
「教えてくれて感謝っす。でも俺たち一応聞いてみます。
順番が来たら」
「駄目なら戻るだけですし」
「そうか。まぁ頑張れよ。頑張っても駄目な気がするが」
最悪です。
当初の予定より3日も稼いだのに…。
「やっぱり待ってスタン。これって最悪、通行証取り上げられて、勾留されるパターンじゃ…」
オーマイガッ!そのパターンあるなこれ。
「ナイスだ、フィーネ。7番に戻って作戦練り直そう」
教えてくれた優しき人に手を振って、東へと颯爽と戻る振りをした。
来た道に入り、再びダッシュ。
今朝お別れした筈の7番の管理者にお布施を倍払い、昨晩と同じ小屋に逆戻りした。
清掃が入らず、出た時のまま。
「戻されちゃった」
「折角稼いだのにぃ」
こんな時は直訴だ!
「拝啓。可愛い可愛いシュルツちゃん。
優しい優しいお爺ちゃんに、王様を怒ってきてくれる様に頼んで貰える?
アッテンハイムとの国境関まで来たのに。徒歩の旅行者の規制入ってて通れないんですけど??
折角稼いだ日数が無駄になってるんですけど??
何してくれとんじゃ(怒)って。
七番宿場で足止め中の、スターレン&フィーネより」
「クワンティ!初の伝令の仕事よ。
今からシュルツの所に飛んで、急ぎで。
着いたら一日羽根を休めて、ここへ帰って来るのよ」
「クワァ!」
翼を広げてバックパックを見せ付ける。
元気良く窓から飛び立った。
「今日。クワンティ、温存しといて良かったな」
「そうね。これからあれで行こう。ハイムで飛ばしたら狙われるかも知れないし」
「おぉ…。全然考えてなかった…」
「頭に来たから。ハイムに入ってからのルートを練り直そうよ。もうぶっちゃけ、何処にも寄らずに村へ直行」
「そうだな。村以外に用事は無いぜ!」
変なテンションで叫び合う、奇妙な夫婦がここに居た。
----------------
スターレン様とお姉様が旅立って三日が過ぎた。
何度もお別れの言葉は交わしたのに、胸が苦しい。
たった三日。今日で四日目。
後何日待てば、お二人に会えるのだろう。
早く会いたい。
そう思うと同時に。自分も成長しなければと思い直す。
何時までも甘えては居られない。
お二人は、数ヶ月後には帰って来られるかも解らぬ死地へと旅立つのだ。
こんな子供の我が儘で引き留めていい筈が無い。
独り立ちをしなければ、殿下の元にも行けない。
頑張ろう。
私だけでなく、御爺様やこの国を救ってくれた、
お二人の為に!
自室で午後の紅茶を飲みながら、胸元の宝具を眺めた。
スターレン様の発動で砕けなかった宝具。
なら。これから先で最低でも一度は使う場面が来る。
そんな気がしてならない。
『昇霊の門』
それは魂をあの世へ送り届ける扉。
シュルツは考える。
それは人間だけが対象なのか。いや違う。
闘技場での光景を思い出す。
人の形を為していない、獣の姿も在った。
ひょっとしたら、宝具を発動させる条件は。
人間以外も含まれるのではないか。
周囲の報われない死者が、一万を越えていればいい。
それならば、特に場所を限定する必要はないのでは。
例えばそれは。動物、昆虫、海辺の魚…。
発動条件自体は困難ではない!
スターレン様は初めての発動で、念の為に闘技場を選んだだけ。
ならば。これはどんな場所でも使える。
スターレン様は。
魔道具の発動は、魔力を流す想像力と、導き出す結果を同時に想像する事が大切だと教えてくれた。
誰にでも出来る…。魔力を豊富に持つ人ならば。
自分の使命。この宝具を持つ者の使命。
今度は、私が発動しなければいけない。
やっと、お役に立てるかも知れない。
シュルツは使命感に胸を躍らせた。
しかし問題がある。
私には魔力が少ない気がする。それを伸ばさなくてはならない。
方法は理解している。
スターレン様とお姉様がやっていた、魔力枯渇を繰り返す方法。
あれならば、私にも出来る。
御爺様にお願いしてやってみよう。
お二人の窮地を、今度は私が助ける番なのだと。
御爺様は、今日はこの棟の執務室でお仕事中。
余りお邪魔はしたくないけれど、お願いするだけなら直ぐに済む。
行ってみようと椅子から立ち上がり、ふと窓の外を見上げると。とても見慣れた白い鳥。
「クワンティ!」
急いで窓を開けると、彼女は迷わず飛び込んで来た。
「どうしたの!お二人に何か」
背を向けて背中の鞄を見せ付けてきた。
ざわつく胸を落ち着けて、鞄を開いた。
中には手紙が一枚。
震える手で中身に目を通した。
「!?」
その優しき文字に胸が跳ねると同時に、シュルツは走り出した。
「クワンティはそこで待ってて!」
御爺様の執務室の扉を無断で開いた。
「御爺様!大変です。お二人が!」
---------------
タイラント国、王都パージェント王城。
最上階に在る国王専用執務室。
ヘルメンは警備の衛兵二人に見守られながら、城下や地方から上がって来る、多くの承認案件と格闘していた。
その合間に取る休憩で、豪華な座り心地の良い椅子に背を預けて伸びをした。
そして手に取る、一通の証文。
昨日届いたばかりの恩人の手紙だ。
「野盗の拠点を潰します」
国を救ってくれた恩人に、自分の恥部を晒しているかように感じた。
国が抱える大きな問題の一つ。
それが西部の野盗の増殖だった。
原因は解っている。
恩人にこんな事をさせる積もりはなかった。
引き留めないよう布令まで回したと言うのに。
「彼は、私にどれだけ恩を被せれば気が済むんだ…」
誰に問う訳でもなく、ヘルメンはそう小さく呟いた。
目を外して、窓の外を眺めた。
「城下をご覧下さい」
恩人の言葉が脳裏に浮かぶ。
そこに、自分が守るべき者たちが居ると。
ヘルメンはやる気を取り戻し、肩を回して首の凝りを解した。
短い休憩が終る前に、冷めた紅茶を啜った。
机に向かい直そうと、腰を動かした時。
「ヘルメン王陛下。ロロシュ卿が、急ぎの案件でお越しになっておりますが」
外からの衛兵が跪いてそう言った。
嫌な予感を感じた。
「通せ」
先生は跪かない。
不敬だ、態度が悪いと非難する者も居ない。
彼がヘルメンの教育担当者だったのは、城内なら誰もが知る所。
一人で居る時は、自分でも気にしない。
彼は私に恨みを持つ。しかし復讐はしないと知っている。
しかし怒りは表情に表れ、態度で示す。
これ以上の無様は晒せない。
気持ちを入替えても、入って来たロロシュの怒り顔は、
やはり苦手だった。
「どうされました。先生」
「ヘルメン。これはどう言う事か、説明しろ」
ずかずかと入室したロロシュは、一通の証文を見せ付けてきた。
そこに書かれていたのは、恩人の文字………。
「馬鹿な!!」
「あれだけの道具を持つスターレン君が、この道を選ばないとでも思ったのか!」
想像もしていなかった。真逆徒歩を選ぶとは。
「申し訳ない!」
「昔から。お前は何時も、詰めが甘い」
「衛兵!ギルマートを大至急ここへ連れて来い!」
「ハッ!」
先生の来訪を伝えに来た衛兵が部屋を退出した。
「七番と、関所に同じ文章を送れ。それだけやれば止められる事はない」
「はい…」
「彼の足を引く積もりは、在ったのか?」
「在る訳がない!国印まで渡して対処したのに…」
即答で返しはしたが、ヘルメンは椅子に傾れた。
「その国印も、取り上げられれば意味はないがな」
「仰る通りです…」
数人に見守られる中で、王は一人頭を抱えていた。
「文は破棄しないなら返せ。シュルツが欲しがっている」
「…私の汚点が残ります…」
「今更何を。一つ位、人間らしい所が露呈するだけだ」
「…」
ヘルメンは先程とは違う意味で頭を抱えた。
---------------
翌朝。
早めの朝食と、身支度からの部屋の片付けを経てお茶を沸かして淹れた。
それを飲みながら、クワンティの戻りを待つ。
「戻って来たら出発だな。何かしらの対応してくれてると思うしさ」
「様子見て。最悪はもう一泊かもね」
地図を広げて、昨日練りに練ったプランを見直した。
今広げているのは、王都冒険者ギルドの詳細地図を記憶を頼りに書き起こした物。
昨日、フィーネの逃亡ルートの足跡を上書き。
アッテンハイム領内東部には猫の鉤爪と呼ばれる、南北を深く縦断する3本の巨大渓谷が在った。
最離部で目測3kmは越えるのではと言う、可愛らしい名前が似合わない谷。
フィーネの故郷はその3本を越えた先、西側に在る。
魔物の巣窟も無い谷を迂回するのが最善と判断した。
南北端の狭い部分には立派な橋が在るそうだが、女神教の目を避ける為に、橋よりも北側を迂回したそうだ。
橋の付近は当然警戒されていると、谷を東に渡り切った所で南下。
国境壁が無く、近場に砦も無い南東部の山を越え。遙々マッハリア入りを果たした。
「こんな苦労して、俺に会いに来てくれたんだな」
小さく笑う我が嫁。
「素敵な言い方ね。そう思えば、あの時の苦労も少しは思い出深い物に感じるわ」
「今回は村に行き着くまで何処にも寄らずに、最短ルートを辿ります」
「うん。それは昨日も聞いたけど。具体的には何処を通るの?橋は余りお勧め出来ない」
「フッフッフッ。フィーネさん。俺たちにはこれが在るじゃないか」
腰のロープを見せ付ける。
「…あ!まさか…、これを想定して大金出して買ったの?」
正確には俺の金じゃないんだが。それはもういいな。
「フィーネから故郷の話を聞いてから。ギルドで世界地図を見て。こんなの在ったらいいなと思ってた所に現われたのさ。瞬間でこれだけは絶対に落とすと決めた。
お父さんの言葉が無くても。何時の日か、フィーネが故郷に戻りたいって言うかも知れないと思って」
フィーネの頬をほろほろと涙が伝う。
「もう…。出発前に、どうしてそんな嬉しい言葉…言っちゃうのよ…。幸せで、窒息しそうよ」
細い身体を抱き寄せる。
「泣かない泣かない。今日はフィーネが泣き虫さんだ」
妻が泣き止んだ頃。玄関がノックされた。
「北西砦のバンガッハです!朝早くに申し訳ありません」
玄関を開けると、眼下の隈が凄い事になってるバンガッハ君が居た。
「お早う御座います。ここって、担当外じゃ…」
「はい!最重要の書類を持って参りました。スターレン様のお顔を知る者、との王陛下より勅命で。
こちらの中身と同じ物が関所にも送られております。
その照らし合わせで通行出来ると、伝えられました!」
知り合ったばかりに…、難儀な話だ。
「とても助かりましたと言っていたとお伝え下さい。
昨日、関で門前払いを喰らいまして困ってたんです。
有り難うのお礼の代わりに、これを」
昨日俺たちが何をしたかは言わずに、そっと強壮剤を握らせた。
「カメノス製の新薬です。効き過ぎるので、馬を充分に休ませた後で一気に飲んで下さい」
小瓶を両手で抱え、膝を落とすおじさん。
「あ、貴方様は…。神様か…」
「頑張って。南東潰して下さい。南西の残党は、そちらに投降するよう促しましたので、暫くすると現われると思います」
「間違い無い…。貴方様が」
気持ち悪いので、会釈して玄関をそっと締めた。
「そのさ…。無自覚で誰彼構わず…、老若男女を落としに掛かる癖、止めよう。ね。お願いだから」
これは、癖だったのか!!
それから数時間をのんびり過ごし、戻ってきたクワンティを回収して7番宿場を出発した。
直前で、馬舎の方から。
「まだか!まだか!」
「ヒヒィン!ヒヒィィン!」
良からぬ何かが聞こえたが、無視をした。
その市販の空き瓶は、バンガッハの生涯の宝物になったとかならないとか。
関所に到着すると、順番待ちを無視して通され、親切丁寧な対応をされ、アッテンハイムの上地図まで渡され。
背中を押される勢いで、ハイムへの入国を果たした。
検問がどうしてタイラント主導なのかって?
それは偏に国の格がタイラントの方が上だからさ。
アッテンハイム側にも砦は存在するが、正規の通過者がそちらで止められる事は滅多にない。
要は目前で不審な行動を取らないとか、常識的な対応を見せれば済むと言うだけ。
砦を通り過ぎ、ピラリスへ向かう街道に入った。
周りから人様の往来が消えた瞬間に、北側の森林地帯方面へと突入。
木々を掻き分け、更に北へ。
ご立派な橋を横目に、更に更に北へ。
橋は普通の縄架け橋。全長は精々150m程度。
この世界の棟梁技術の限界だろう。
そんなショボい橋は無視。そして、辿り着いた1つ目の最離部。
「「おぉ…」」
「クワ?」
フィーネの懐で布から顔を出すクワンティが可愛らしく鳴き、荒れた心も少し和んだ。
眼下に見えるは濁流。
遙か北の山岳地帯からの侵食で、谷をより深くした広大な運河が形成されていた。
かなり深いのに、ゴーゴーと五月蠅く聞こえる。
「こりゃ、泳いで渡るの無理だわ」
「でしょ。今ならマスクがあるから、独りぼっちなら挑戦出来るけど…。実際目にすると、遣りたくないわ」
至極納得。
望遠鏡で対岸の足場確認。
超余裕な平場が在った。その奥には小山。
「今日の野営地は、あの山の天辺付近でいい?」
「あれね。ええいいわ。初めての二人切りの野営。ちょっとドキドキする。…クワンティは私と一心同体だから、数えなくてもいいのよ」
「クワッ」
ちょっと強引です。
「それより…俺を信じられる?」ロープで運ぶ事を。
「もちのロンよ。もし落ちたら…、マスクで翼作ってみる。
天使様みたいな」
チャレンジャーだな。
そんな土壇場で……出来そうで怖い。
「よーし。まずは、何も無しでアーチを作ってみるよ」
「うん」
対岸までの距離:推定3km弱
中域の風:かなり強い
天候:薄曇り
遮蔽物:皆無
人の目:気配無し
最初に指径のロープを深く渡し切り、横幅を拡大。
2人余裕で歩ける幅から、端を持ち上げ凹型にした。
「端を高くすると、やっぱ中間がかなり振られるなぁ」
「スリリングだね。胸が高まるわ」
楽しそう…。
数分の変化確認。
「多少揺れるけど、問題ないな。端を下げればもう少し安定するかも…。多分俺がダメだわ。下が見えると」
「度胸無いなぁ。何時もの勢いはどうしたの?イメージ崩さずに、あの山だけ見て、走り抜ければいいのよ。
今夜のご褒美、何でも聞いてあげるから」
男は所詮ご褒美に弱い生き物。
鼻息を盛大に荒くし、ロープ先端ではなく手元を伸ばして一気に渡り切った。
餌に釣られて、恐怖心も何処へやら。
途中、吹き下ろしの強風の煽りを受けたが、二人共無事に対岸へ到着。
ドキドキの初体験は終了。
ロープを腰に戻して、周囲の警戒。
天然の鹿や兎は居たが、魔物の類は居なかった。
小山全域の地形を把握。
クワンにも上空から覚えて貰った。
北側の中腹で緩やかな渓流を発見。その隣を本日の野営地とした。
「「山神様。御免なさい」」
承諾を得られたかは頗る疑わしいが、日暮れまで時間もないのでやってしまいます。
謝罪をしつつ、ロープカッターで最低限樹木を伐採。
テントを張れるスペースの確保。フィーネがハンマーで土均しをした。
ジャンパー式のテントの設営。
初めて使用したが、自律式の三角テントで、外殻は固い革で丈夫。中は大人4,5人は寝られる余裕なスペース。
テント四隅を杭刺しで固定化。
テント外側が特殊な匂いを発し、それが強力な虫除けとなっていた。
至れり尽くせり。宝物殿最高。
毛布を敷き詰め、底面の確保。魔導コンロを脇に置き、極弱火で室内を暖め。
外の梁に魔導ランタンと、購入しておいた魔物(動物)除け用ランタンをセット。
次に着手したのは、渓流の分流。
テント直ぐ横を抉り、岩を組み上げ、分流からの上下流ルートの確保。
上流端に炎属性の魔石を数個据え置けば…。
そうです露天風呂の出来上がり。
「お風呂は嬉しいけど…。ここ、外だよ?」
「何でも聞いてくれるって言ったじゃん」
「…言わなきゃ良かった…」
多少の腹減りは無視して、湯が張った所で互いにタオルで前を隠しながらの入湯。
最初は恥ずかしがっていたフィーネも。
「うわぁ。これ、癖になりそう」
「そうじゃろうそうじゃろう。いつかやってみたかった」
下流手前でクワンティも湯浴みと毛繕いをしていた。
「ねぇねぇ。フィーネさんや」
「何かしら」
「何でも聞いてくれるのは、何時まで?」
「嫌な予感しかしないけど…。こうなったら、明日の朝まで聞いてあげ…」
「油断しましたね、フィーネさん」
「な、何よ」
「身体の、洗いっこ。しましょうか」
「…なんで、言ってしまったんだ。私…」
欲望のままに。本能に任せ。
クワンティの目をガン無視して。
翌朝には精魂尽き果てるまで…。
「ねぇ、スタン…」
「何?」
「その…。裸でロープ装備するの。次から止めに」
「1回で終わっちゃうよ?」
「グッ…。言い返せない。悔しい…」
初めてフィーネに勝利した。
有り難う女神様。
本当はこれに使ってはいけないと、重々承知。
それでもやっぱり、ありがとー!
「智哉。残念なお知らせが一つ」
なんだい?ロイドちゃん。
「貴方の行動を、ご覧になってますよ…」
………人間の、夫婦が営む特権だと申し伝えて下さい。
お願いします。
「はぁ…」
小さな溜息声が脳内に響いた。
後悔は微塵も無い!!
朝食と片付けの後、出発。
望遠鏡と、フィーネの探知で警戒MAX。
充分に時間を掛け、安全の確保をした。
谷を1つ越え、2つ越え。西側の端に着いた。
警戒は解かず、森林地帯の奥へと進んだ。
やがて見えて来た、フィーネ一族が住んでいた隠れ里。
その名も無き村の全貌が現われた。
人気は無い。
荒れ果てた畑。野放しの家畜が数匹。
黒く煤だらけで、破壊された瓦礫の数々。
立ち竦む、フィーネの震える肩を抱き締め。
彼女の頭を胸に収めた。
辛い?そんなの当たり前だろ。一々聞くもんじゃない。
悲しい?当然だ。
何も言わず抱き締め合い、やがて彼女が口を開いた。
涙混じりの震える声で。
「…おかしいな…。ちゃんと、お別れ出来た、筈なのに」
「早く、お父さんの遺品探して。供養しよう」
「…うん…。もう少しだけ、このまま…」
「待つよ。どれだけでも」
彼女の悲痛な嗚咽は、暫く続いた。
にも関わらず…。
「追い付いちった」
「意外に集団行群って遅いのね」
クワンティは上空を高速旋回中。
前方に先行キャラバンを、夕暮れ前に捉えてしまった。
ちょっと走ったのがいけなかった。
のんびり早足くらいで良かったのだ。
俺たちの足は速い。腐らない意味で。
アホ程速い。
走れば二頭立ての馬車の軽く3倍は速い。
それは前述のステを参考にして欲しい。
速くて困る事など何も無い。過剰だなんて糞食らえ。
と、半ば自棄で盛大に盛り過ぎた。
今更街道上で生着替えなんてしたくない。
このまま行こう。
市販の簡易地図を2人で眺めながら。
「路上で後ろから合流されること程怖いものはない。このまま追い越して、宿場を1つ飛ばそっか」
「このペースなら。日没までには着けそうね。夜は流石にクワンティを休ませたいし」
「だな。じゃあ、ちと走りますか」
「おー」
と、調子に乗ったのがいけなかった。
1つ飛ばしの予定が、2つも飛ばしてしまった。
お、まだ行けんじゃね。人は調子に乗り易い。
先にバテたのは、上空の鳩ちゃんだった。
「ごめんねー。ホントにごめんねー」
フンすとジト目クワンティを腕に乗せて、
フィーネが平謝り。
「明日は。ちゃんとペースを考えて走るからさ。機嫌直してよー。今度は行き先所毎に、クワンティに意志を確認するから」
「…クワッ」
どうやら了解してくれた模様。
現在、国境まで7つ在る宿場の3つ目。
数時間で半分近く来てもーとるやないの。
管理者にお布施を払い、空きの小屋へと入った。
「歩いて来ました」と告げると。
「またまたご冗談を」と返された。
双方深入りしても碌な事にはならない。
現金だけが真実。
金貨の詰まった巾着をチラつかせれば、大体の物事は解決する。それが宿場町だ。
番号だけの名も無き町。
町、と言うだけあって。中にはちゃんと10人以上の人が住み着いて、管理運営している所も在ったりする。
金には多少汚いが、彼ら管理者は歴とした国の兵士だ。
魔導コンロと鍋で軽く自炊して腹を満たし、その日は室内で休むクワンティの為に大人しく就寝…。
ベッドが硬いし臭う。
フィーネのクリアが早々に進化して一発洗浄。
有り難し。
こんなにも可愛い嫁を、どうして置いて行こうなどと考えてしまったのか。反省し切りです。
いっそアッテンハイムからマッハリアへ行き、勢いで王城ぶっ壊して、帝国に殴り込みに行ったろか。
そんな悪い考えが過る。
否。手順を考えなければ間違いの元。
悲しむのは一般国民だ。
出来るからって遣って良い事悪い事がある。
成人する前なら若気の至りんで許されたかも知れないが、俺たちは汚い大人になってしまったんだ。
無茶は止めよう。寝よ…。
気分爽快!には程遠い朝。
腰の痛みは旅の付き物さ。
クワンティを交え、地図が読めると信じて打ち合わせ。
「まず、今がここね。で、こっちが出発した王都」
「…クワッ」おー頷いている。賢い。
信じよう。
「で、今日はこの、ここから二つ目の集落を目指します」
「…クワッ」
「早歩きで昼過ぎに到着出来そうだから。クワンティの体力を見て次まで進むか決めよ」
「クワッ!」
決裁した様子。
本当に可愛い子だ…。俺発言してない!
朝食を食べ、簡単にお掃除してから出発。
昨晩は運良く他のキャラバンと被らなかった。
一番いい小屋を与えてくれた礼に。
一番良くてカビ臭いのかよ!
との言葉は吐いてはいけない。そう言うもんだと割り切るのが吉。
街道を外れた場所で、行き違いのキャラバンをじっと遣り過ごす。
誰も居なくなった所で早歩き。
途中途中で速度調整。無事に5つ目の宿場へ到着。
「走って来ました!」
「何寝ぼけた事を言ってんだ!」怒らなくてもいいのに。
この世界って短気が多いの?
「さあ。偶々では?」
そう言う事にしておこう。
今日は他にも小集団が2組居た。
皆、表情が暗いな。と思いつつも。
関わりたくないので、会釈して与えられた小屋へ。
クワンティを窓から回収。
「お疲れ様。どう?行けそう?」
「クワァ~」正直疲れた、と言っている気がする。
「そっかー。じゃあ今日はここで休もっか?」
ん?俺に聞いてるのか。てっきり要らん子だと思ってた。
「休もう。でも若干早いんだよなぁ。ちょっと周辺歩いて、
ご飯食べながら、今後の作戦会議でどう」
「いいね。そうしよー」
クワンをフィーネの肩に乗せて、宿場の南に在る森林地帯に散策に向かった。
向かおうと、集団組の脇を擦り抜けようとした所でリーダーらしき人物に声を掛けられた。
「もし。君らは二人連れなのか?」
「はい。のんびり徒歩で旅行中です」
「と、徒歩で…かね。確かに馬車が見当たらない」
「どうかされました?」
「人助けならしませんよ。面倒事は嫌いです」
先手をぶっ込むフィーネさん。
「どっち…いや。確かに、ここに居る二組のキャラバンから数人ずつ野盗に攫われてしまって。どうするか悩んでいたが、たった二人の夫婦には頼めない。
済まない。聞かなかった事にしてくれ」
聞いちまったじゃねーか!
額に手を当てて嘆くフィーネ。
「もう。それは、何人で、女性や子供ですか?」
「全部で六人。若い侍女二人に、後は七、八歳の子供が四人だ」
嫌な想像しか浮かばん。
「で。その野盗たちは、どっち方面に向かいました?
後、敵の規模は」
「君らが今行こうとしていた南の方角へ走り去って行ってしまった。規模は解らん。見えた所で二十は居た」
倍として40。多いな。アッテンハイムからの流れ者の可能性が高い。
パージェント周辺は俺たちが片付け、もう殆ど居ない筈。
「どれ位前ですか?」
「二刻程前だ。こちらの護衛も人と荷を守る為に、動かせない。管理人に砦の兵を呼んで貰ったが、何時来てくれるのは」
ついさっきの出来事か。
ここは管理の人数が少ないようだ。
「ちょっと偵察に行ってきます。こちらは死守して下さいね。これ以上人質増えても面倒なんで」
「もー。ゆっくり折角散策しようと思ってたのにー」
「クワァッ」
まだ明るい内で良かった。
野盗が夜じゃなく、昼間を狙ったのか。全く意味不明。
「クワンティ。高い所から探って」
「クワッ!」
空高く舞い上がったのを見送り。
俺は高台を探す。…進路方向に丘が見えた。
丘の頂上から、普通の双眼鏡で周囲を探った。
「意外に森が深いな。日が暮れると厄介だ」
「そうね。さっと片付けてご飯にしましょ」
賛成です。
クワンティが直ぐに戻って来た。
俺たちの間に降り立ち、片翼を上げて方角を示した。
クワンのスペックが高過ぎる。
まさか…俺たちのいと…、今はどうでもいいな。
飛び立った方角へと走った。
木々を抜けた先に開けた場所が見える。奥手に洞窟らしき開口部も。
7人程の汚い格好をした者たちが散開していた。
「俺左」
「じゃ右」
二手に分かれて、警戒者を残らず昏倒させた。
俺はロープでフィーネは素手。俺の方が過剰だ。
軽くしたから死んではいないと思う。
意識の在った1人の髪を禿げる程引き、絶望の悲鳴を上げさせた。
充分に中まで浸透させた所で、側頭を叩いてお休み。
生きてたら髪大切な。
おぉ出る出る。蟻みたいに。
奴らの絶叫や怒号は、聞くに堪えない言葉ばかりだったので一切交渉せずに突っ込んだ。
1人1人丹念に掴み取り、上空30m位に投げっぱなし。
フィーネは側面から、出て来た汚い奴の腕を掴んで後方上空へと打上げ。
「あー汚い汚い。早く手を洗わなくちゃ」
そこまで言ったら家無き人々が可哀想だろ。ああ見えて意外に綺麗好きだったりするんだ。
昔の俺みたいにな!!嫌な事思い出したじゃねえか!
一通り沸きが収まった所で突入。
先行はフィーネ。
中の状況次第では、女性が先の方が断然いい。
「何だ!おまっ」
フィーネの弱腹パンが炸裂。そのまま側壁と合体。
洞窟最奥に簡易牢が在り、号泣する子供を守るようにメイド服さんたちが庇っていた。
人数も6人。良かった、服は割と綺麗に整っている。
一応フィーネが確認。
「助けに来ました。まだ動けますか」
「私たちは大丈夫です。でも、牢の鍵が」
「鍵?あ、今開けますので」
手で払い、錆びた鉄檻を除去。
「有り難う御座います!済みません、子供が一人足に酷い怪我を」
「スタンお願い。私手が汚れてるから」
「オッケー」
怪我をしていた子供を寝かせ。
「身体の力を抜いて。怪我は宿場に戻ってからする」
「う、うん」
顔色は悪いが、まだ大丈夫そうだ。
ロープを太くして、豆腐が持てる程柔らかく簀巻きにして宙に浮かせた。
少年絶句中。
「後の人は私の後ろに付いてきて」
「はい!」残りの5人は全員元気が在る。
フィーネ先行のまま、入口を出る。
増援は無い。どうやらここだけだ。
「クワンティ!宿場の方角に飛んで!」
上で鳴き声が聞こえた。
「後ろは俺が見てます。安心して進んで。慌てずに」
「は、はい!」
慌てず急いで、上の方角を頼りに戻った。
各所から、醜い呻き声が聞こえたが放置した。
何度か飛来物があったが、片手間で叩き落とした。
移動が遅い。このペースだと日が暮れる。
「全員ロープで持ち上げます。力を抜いて楽に」
少年を見て、素直に従ってくれた。
巻き付けた先端部を延長して1人1人蒔いて行く。
最後の子を包んで持ち上げ…。
「問題無い!少し道を開いて」
「了解。走りますので、目はしっかり閉じて」
6人が目を瞑るのを確認して半力ダッシュ。
数分後。宿場までお届け完了。
平場に降ろし、怪我をした少年の足の具合を確認。
周囲から歓声が上がっているが、それは後。
右足脹ら脛外が膝下からざっくり行かれている。
それ程深手ではないが、包帯巻きだけでは心許ない。
消毒液で両手を洗い、片刃のナイフでズボンを膝上から切断。
異物を確認。
「かなり痛いぞ。頑張れそうか?」
震えながらも少年は頷いた。
「消毒します!大人の誰か。膝と足首を抑えて。俺だとやり過ぎてしまう」
「わ、解った。私はその子の父親だ。頑張れよトム」
トムって言うんだ。
「じゃあトム。目を閉じて、この布を噛んで食い縛れ!」
「ぅ、うん!」
宿場中にトムの呻きが響いた。
脱脂綿を当て、包帯完了。
「ふー。カメノス製の傷薬を塗りました。
傷は浅いので縫う必要も無いでしょう。今日一晩と明日まで様子を見て、発熱が在る様なら、この内服薬を少しずつ飲ませて下さい」
「あ、有り難う御座います!」
父親に薬を渡し、涙と鼻水塗れのトムの頭を撫でる。
「よく頑張った。今日はゆっくり休め。傷は痛むが、多少は我慢だぞ」
「縫合してみたかったなぁ」
手を綺麗にして戻って来たフィーネが残念がった。
「子供に麻酔は危険過ぎる。生の縫合はキツいよ」
「そうだね。悪い人を縫おう」
空はすっかり茜色。
「2組合同で荷物係と南の警戒に分けて、今夜を乗り切って下さい。砦からの衛兵が来るまでの辛抱です。
何かあれば小屋に来て下さい」
「格好いい~。夕飯何がいい?」
「そうだなぁ。まぁのんびり考えよう」
周りがポカンとする中で。俺たちは特に疲れもせず、自分たちの小屋へと戻った。
今夜の献立を話し合っていると、早くもノックされてしまった。
「えーマジかよぉ。腹減ったのにぃ」
「今日は簡単な物にしよっかぁ。はぁ」
文句を言いながらも、玄関ドアを開ける。
「どうしました?敵襲ですか?」
さっきのリーダーさんだ。
その後ろにも何人か。兵士の姿も見える。
「い、いやその。敵ではないんだが」
「なら大丈夫ですね。これから飯にするとこなんで」
「い、いや!待って下さい。食事なら、私共で用意した物があります。是非お礼と、少しお話を」
「おぉ。それは有り難いです。フィーネ、御馳走してくれるってさ」
「え?いいんですか?お言葉に甘えちゃおっか」
中間の平場で焚き火が炊かれ、持ち寄ったであろう鍋が掛けられていた。
その周りを囲み、こちらを見詰める数十名。
さっき助けた侍女さんたちも居た。
「どうしたんですか?宴会?」
「わぁ。外で焚き火って久し振りだ」
「貴方方の為にですよ!先程からいったい何を仰っているのですか!」
やっぱこの人も短気やなぁ。
「だって。俺たち何もしてないし」
「ねー。ちょっとお散歩序でに、洞窟に捕われてた人を拾って帰って来ただけですよ?」
周囲も兵士もポカン連鎖が止まらない。
「な、何も…って。私が間違って…
いやそんな事はない!」
面白い人だなこの人。表情がコロコロ変わる。
「まあ少し落着いて下さい。俺はストアレン商会のスターレン。こちらは妻の」
「フィーネです。さっきから落ち着きの無い、貴方は?」
「も、申し遅れました。私はギャラン商隊のギャリー」
「こちらも失礼します。私は、ボラン商隊のボーラン」
「割り込み失礼を。私は、北西部砦のバンガッハ。砦長を努めています。お見知り置きを」
「ギャリーさんに、ボーランさんとバンガッハ砦長さん。
取り敢えず飯にしましょう。話は食べながら」
どうぞどうぞと座椅子に招かれ、夕食を頂いた。
屑野菜と干し肉のスープ、チーズ、硬パン。
シンプルだけど悪くはないな。
やはり新参者の燻製は、まだまだ地方までは回っていない様子だ。などと考えていたら、ワインを木カップで勧められた。
クワンティは俺たちの後ろで、皿に盛られたパンとチーズを交互に啄んでいた。
「スープは程良い塩加減ですが胡椒が物足りないのと、
今度、パージェントに行ったら、メメット商隊で売られている燻製と言う物を入れてみて下さい。
きっと美味しくなりますよ」
宣伝は忘れない。
「ストアレン…メメット…!?思い出した!」
ギャリーがギャーギャー五月蠅い。
「私も、今思い出した。貴方が、いや貴方様が。あの二大商団を後ろ盾に持つと言う…。真逆、本当に実在していたなんて…」
「そんな大袈裟な。幾つか共同運営してる事業があって、さん付けで呼んじゃう程度の仲ってだけです」
「「程度じゃありません!」」
「スタンも大分知名度上がったねー。あ、私はこないだ二人を呼捨てにして罵りましたね」
「あれは俺たちが悪い。怒って貰って助かったよ」
「信じられない…」
「お話が全く進みませんので。バンガッハ殿は、こちらの広域警備を?」
「ハッ!スターレン様。我が砦の領域はこちらの街道沿いの三番から六番宿場までを担当しております」
急に様って。
「様は余計ですが。最近野盗の類は多いんですか?」
「この国の王族や国防の重鎮との緩くない面識をお持ちの貴方様を、低称でなどでお呼び出来ません。
野盗に付いては、最近とは言わず、常に。西からの冒険者崩れが流入している始末で。広域を守護するにも人員が足りていないのが現実です」
噂には尾ひれが付くもんだ。そこはスルーして。
「西部砦と国境関所も似たような?」
「慢性的な人材不足です。アッテンハイムの聖騎士軍も魔物討伐ばかり。そこに割り込みを掛け、失敗挫折した冒険者が盗賊へ身を落としている状況だと」
嫌な流れだな。この旅行中の短期間では手が出せない。
今はマッハリアに集中したいのに。
「今日、ここには何人連れて来れました?」
「隊員四名と私です」
「フィーネ。さっき野盗は何人居たっけ」
「リーダーぽいの含めて、三十三…だったかな」
パンをワインで流しながら考える。
「うーん。ここから南西の拠点は潰し切れたと思います。少なくとも真面に動ける野盗は居ない。
他に、拠点と成りそうな場所に心当りは?」
「何たる僥倖。王からの布令では通り過ぎるだけで、絶対にお引き留めするなと伝えられているのに…。
他の拠点と目される場所は、南部の更に南と南東だと」
1つ伸びをして。
「どうしよっかフィーネ」
「どっちか。規模の大きい方ね。折角稼いだのに、無駄になっちゃう」
「それは、どう言う…」
「こっちの話です。明日、規模が大きい方を潰します。
ヘルメン様には、行きずりの成り行きだと。帰った時に伝えますから。心配しなくてもいいです。どっちですか?」
「南部…ですが。そんな…」
「心配性ですね。何なら後で証文書くので砦から飛ばして下さい。手持ちの鳩は旅から外せないので」
「いやしかし…」
「砦は残りの南東に注視するだけになるんです。
一応私も冒険者の端くれ。冒険者崩れの不始末も、ギルドにも非が在ります。王都のモヘッドにも伝えますが、それの掃除も仕事の内ですよ」
それ以上何かを言おうとするバンガッハを手で制し。
「ギャリーさん、ボーランさん。こんな状況です。
お礼は一切受け取りません。薬もカメノスさんからの貰い物。身銭は切ってません。
その金で是非メメットの製品でも買って下さいね」
「「解りました!」」
周りで押し黙る衆に手を振り。
「今日は御馳走様でした。また何時か何処かで出会えたらお仕事のお話しましょうね。では、お休みなさい」
「夜は冷えるので。温かくして。お休みなさい」
これ以上引っ張られると、寝れなくなるので強引に打ち切った。
「スタンって…巻き込まれ体質だね」
「それ言わないでぇ。フィーネさん」
証文を書き書き。
「拝啓。愛しきミラン様。
美しき庭園も然る事乍ら、更なる美しさを誇るミラン様はお元気でしょうか。あぁ、ミラン様が頭か」
フィーネさんに取り上げられ、暖炉にクシャクシャポイ。
「紙が勿体ない!」
仰る通りっす。
新たな紙を取り出して。
「前略。ヘルメン様。
成り行きで野盗の拠点を二つ潰します。バンガッハ砦長は優秀そうな人だと思います。
降格はしない方がいいですよ」と。
国防案件なのでノイちゃんでも良かったが、布令を無視したと捉えられてはいけないのでヘルメン宛。
悩ましげに外をうろついていたバンガッハを捕まえ、証文を握らせた。
「明日の朝便で送って下さい。俺は寝ます!」
「説得が討伐よりも疲れるって。どうなのよ」
「お疲れ様」
昨日の宿場よりは寝覚めの良い朝。
顔を洗って歯を磨く。最近髭が濃くなってきたな。
「フィーネは口髭って嫌い?家系的には濃くないけど
嫌なら剃るよ」
「伸ばしたスタンも見てみたい気がする。スタンのなら嫌いじゃないよ。半端に薄いなら剃った方がいいと思う」
ほうほう。ちょっと伸ばして整えてみよ。
父上様は…結構格好良い口髭だったな。
身支度を済ませ、お片付け。
外に出ると、他の2組も出発準備を始めていた。
従者と護衛の人々と挨拶を交し、
離れた場所に居た、ギャリーとボーランに声を掛けた。
「お早う御座います。ここで見聞きした事は特に制限しませんが、心の内に留めた方が身の為ですよ。
メメット辺りなら話しても問題無いです」
「お早う御座います。勿論商人として、個人としても、ここでスターレン様とお会いした事は隊内だけの誉れとして固く守ります」
「お早う御座います。私共も同じく。王都へは、いつ頃お戻りで」
「区切ってはいませんが、長くても一月以内には戻ると思います」
「あーもう。お仕事の話なら王都で!私たちは急いでいるんですから。余り引き留めないで下さい」
有り難う、妻よ。
「「す、済みません…」」
「皆さんも。道中お気を付けて。護衛班の方たちも無茶はせずに。それでは」
「ま、待って!」
トム君が足を引き摺りながら向かって来た。
「おー。顔色は大分良くなったな。あんまり足に力入れるなよ」
「うん。スターレン様。有り難う御座いました」
深々とお辞儀。
後ろでは親父さんも。
「教えて下さい!」
「何を?」
「どうしたら、スターレン様みたいに強くて、格好いい商人様に成れるのですか」
どうしよう。
道具塗れで他力本願でやってますとは言えない。
別の意味で泣いていいですか…。
トムの頭をクシャクシャにして。
「一杯勉強して、大人に成って。何時か、自分が本気で守りたい人が出来たら、その人の為に強くあれ。
後は周りの人たちの話をしっかりと聞くんだ。
そうすれば、きっと格好良く成れるさ」
「は、はい!」
「格好良く成り過ぎて。女の子泣かせちゃダメよ」
「解りました!」
トムは親父さんに引き取られ、周りの人々もみんなお辞儀してくれた。
居辛い。よし!逃げよう。
「それでは。皆さんお元気で!」
「お元気で~」
2人で南の森へダッシュ。
交代で警備に就いていた兵士に声を掛け、昨日眺めた南の丘へ向かった。
「張りぼての、口先だけの男の何処がいいのかねぇ」
「ちゃんと有言実行してる所じゃない?
時々…、善く善く人の分の責任まで背負っちゃうのが、
面倒臭いけど」
「痛いですぅ。耳が。今みたいに?」
「アッテンハイムに入ったら、人助けはしない。
全部救うなんて無理なんだから。
流石に、目の前で倒れてる人位は助けても…」
「フィーネ。そう言うの、フラグって言うんだぜ」
「さっさと片付けようー。
クワンティ。南で人が群がってる所で旋回。
矢が届かない、もっと上で」
「クワッ!」
クワンティが南へ飛んだ所で、俺たちも動き出した。
先に行くのは昨日潰した南西の洞窟。
生き残りが居るとしたら、南と合流を図る筈。
残党狩りをしてから南へ。
炙り出された野盗を側面から叩く。
急がば回れってね。
やはり数人は生きていた。
岩場に背を預けて、動ける者で怪我の手当をしていた。
不意は突かず、正面から堂々と。
「お前たちは…、昨日の…」
「そうだ。残党狩りにな。殺す前に1つだけ答えろ」
話掛けた野盗に兄ちゃんが泣いている。
誰だ泣かしたのは。
「…な、なんだ」
「冒険者に挫折したなら、どうして野盗になる前に、
商人の護衛やったり、農民に弟子入りしなかった?
腕力には自信あんだろ」
「…」
他の意識が在る者も押し黙る。
「アッテンハイムが駄目なら、このタイラントで傭兵でもやりゃいいじゃん。
西方の大三国だって、戦力増強中だ。
真面目にやってりゃ、兵士にだって成れた筈だ。
なんで!こんな糞みたいな、選択しかしないんだ!」
「…す、すまねえ…。俺たちは、楽な道を選んじまった」
周りの連中も、啜り泣いている。
泣くならやるなよ。
「殺す価値もないな。
見逃してやる代わりに、動けるようになったら北西の砦に投降しろ。
初犯なら奴隷落ちだ。
でも、この国なら!奴隷からでも這い上がれる。
希望は在るんだ。今度は間違えるなよ」
「…あぁ…」
「序でに。南の拠点は皆殺しにするが。誰か、望みが在りそうな奴は居るか」
「…あいつらの手は真っ黒さ。あいつらの誘いに乗った俺たちも、屑だけどな…」
これで罪悪感が僅かに削れた。
人殺しには違いなく。只の自己満足だが。
堂々と背中を見せて歩き去ったが、特に反撃は無かった。
「さぁて。大掃除して」
「次に行ってみよー」
上空を見渡すと、直ぐにクワンティが見えた。
フィーネと目を合わせて、全力で走り出した。
捕われていた人質は、誰も。
誰1人、救えなかった………。
吐き出す物が胃液しか無くなった後。
近くを流れていた清流で、俺たちは手と口を洗い流した。
フィーネと岩場に腰掛け、背中を預け合った。
清涼感のある解毒剤を無意味に飲み干して。
「…朝食。食べなくて正解だったね…」
「…あぁ。フィーネの言う通り。人助けなんて、するもんじゃねえな…」
傍らで心配そうにこちらを見詰めるクワンティ。
彼女の目に、俺たち人間はどう映っているんだろう。
「…なぁフィーネ。こんな気持ちでしちゃいけないって解ってるけど…」
「…大丈夫。私も、無性に忘れたい気分だから…」
人は魔物を恐れる。
人は魔族を恐れる。
人は人外を認めたがらない。
その人間が、一番恐ろしいと言うのに。
数時間後。俺たちは7番の宿場町へ到着した。
周囲に軽く挨拶するだけで、直ぐに小屋へ引き籠もった。
今日だけは、他の誰とも話をしたくない。
クワンティは小屋の屋根に居てくれた。
その日は昼間から、窓を閉め切り。
お互いの体温だけを貪り在った。
この温もりだけが真実。それでいい。
それだけでいい。
---------------
翌朝。
気怠い朝を迎えた。
「ふーーーかーーーつッ。昨日は何も無かった。
そうしよう!」
「うぉーーー。もう人助けなんてしないぞぉーーー」
無理矢理気分一新でリスタート。
寂しい思いをさせてしまったクワンティを招き入れ。
歯を磨いて、モリモリ朝食を食べて。
食べさせ合って。イチャイチャして。
生きている幸せを実感し合った。
身支度を終え、テーブルに地図を広げた。
「今日中に関所から最寄りの町。ピラリスへ行こうと思うのだが。どうかね、フィーネ君」
「異議無し!」
「情報収集はするが、人助けはしません!」
「異議無し!」
「クワンティ。今はここだ。そしてピラリスがここだ」
国境関から真西の町を指差すと。
「クワッ!!」
ウンウンと頷いてくれた。
周りに挨拶しながら、さくっと出発。
よーーーく考えると。
「クワンティを、飛ばさなければ良くない?」
「あ…」
フィーネさんが硬直。
教えておくれよロイドちゃん。
「私は、てっきり地形を覚えさせているのかと…」
それもあったな!
「クワ?」
白い布に包んだ白い鳩を小脇に抱えて、
ラグビーダッシュ。
1時間前後で関所に到着。
本当はもう少し早く到着出来たが、人目と往来を避ける為に南から遠回りをした。
何食わぬ顔で、検問待ちの列の最後尾に並んだ。
前の一団の護衛に話掛けられた。
「君らは…徒歩なのか?」
「徒歩ですけど?何か?」
「人間には足が付いてます。問題でも?」
「いや、別に。問題は無いんだが。
聞いた話だと。ここの検問、徒歩での旅行者を取り締まってるらしいんだが…。
それで何時もより、時間が掛かってるって」
「「はい??」」
なんてこったい!教えてくれて有り難う。
やはり人とのお喋りは大切だ。
無闇に拒絶してはいけない。
「ど、どうする?フィーネ…」
「い、一応。私たち、通行証持ってるし。聞くだけ聞いてみようよ」
「教えてくれて感謝っす。でも俺たち一応聞いてみます。
順番が来たら」
「駄目なら戻るだけですし」
「そうか。まぁ頑張れよ。頑張っても駄目な気がするが」
最悪です。
当初の予定より3日も稼いだのに…。
「やっぱり待ってスタン。これって最悪、通行証取り上げられて、勾留されるパターンじゃ…」
オーマイガッ!そのパターンあるなこれ。
「ナイスだ、フィーネ。7番に戻って作戦練り直そう」
教えてくれた優しき人に手を振って、東へと颯爽と戻る振りをした。
来た道に入り、再びダッシュ。
今朝お別れした筈の7番の管理者にお布施を倍払い、昨晩と同じ小屋に逆戻りした。
清掃が入らず、出た時のまま。
「戻されちゃった」
「折角稼いだのにぃ」
こんな時は直訴だ!
「拝啓。可愛い可愛いシュルツちゃん。
優しい優しいお爺ちゃんに、王様を怒ってきてくれる様に頼んで貰える?
アッテンハイムとの国境関まで来たのに。徒歩の旅行者の規制入ってて通れないんですけど??
折角稼いだ日数が無駄になってるんですけど??
何してくれとんじゃ(怒)って。
七番宿場で足止め中の、スターレン&フィーネより」
「クワンティ!初の伝令の仕事よ。
今からシュルツの所に飛んで、急ぎで。
着いたら一日羽根を休めて、ここへ帰って来るのよ」
「クワァ!」
翼を広げてバックパックを見せ付ける。
元気良く窓から飛び立った。
「今日。クワンティ、温存しといて良かったな」
「そうね。これからあれで行こう。ハイムで飛ばしたら狙われるかも知れないし」
「おぉ…。全然考えてなかった…」
「頭に来たから。ハイムに入ってからのルートを練り直そうよ。もうぶっちゃけ、何処にも寄らずに村へ直行」
「そうだな。村以外に用事は無いぜ!」
変なテンションで叫び合う、奇妙な夫婦がここに居た。
----------------
スターレン様とお姉様が旅立って三日が過ぎた。
何度もお別れの言葉は交わしたのに、胸が苦しい。
たった三日。今日で四日目。
後何日待てば、お二人に会えるのだろう。
早く会いたい。
そう思うと同時に。自分も成長しなければと思い直す。
何時までも甘えては居られない。
お二人は、数ヶ月後には帰って来られるかも解らぬ死地へと旅立つのだ。
こんな子供の我が儘で引き留めていい筈が無い。
独り立ちをしなければ、殿下の元にも行けない。
頑張ろう。
私だけでなく、御爺様やこの国を救ってくれた、
お二人の為に!
自室で午後の紅茶を飲みながら、胸元の宝具を眺めた。
スターレン様の発動で砕けなかった宝具。
なら。これから先で最低でも一度は使う場面が来る。
そんな気がしてならない。
『昇霊の門』
それは魂をあの世へ送り届ける扉。
シュルツは考える。
それは人間だけが対象なのか。いや違う。
闘技場での光景を思い出す。
人の形を為していない、獣の姿も在った。
ひょっとしたら、宝具を発動させる条件は。
人間以外も含まれるのではないか。
周囲の報われない死者が、一万を越えていればいい。
それならば、特に場所を限定する必要はないのでは。
例えばそれは。動物、昆虫、海辺の魚…。
発動条件自体は困難ではない!
スターレン様は初めての発動で、念の為に闘技場を選んだだけ。
ならば。これはどんな場所でも使える。
スターレン様は。
魔道具の発動は、魔力を流す想像力と、導き出す結果を同時に想像する事が大切だと教えてくれた。
誰にでも出来る…。魔力を豊富に持つ人ならば。
自分の使命。この宝具を持つ者の使命。
今度は、私が発動しなければいけない。
やっと、お役に立てるかも知れない。
シュルツは使命感に胸を躍らせた。
しかし問題がある。
私には魔力が少ない気がする。それを伸ばさなくてはならない。
方法は理解している。
スターレン様とお姉様がやっていた、魔力枯渇を繰り返す方法。
あれならば、私にも出来る。
御爺様にお願いしてやってみよう。
お二人の窮地を、今度は私が助ける番なのだと。
御爺様は、今日はこの棟の執務室でお仕事中。
余りお邪魔はしたくないけれど、お願いするだけなら直ぐに済む。
行ってみようと椅子から立ち上がり、ふと窓の外を見上げると。とても見慣れた白い鳥。
「クワンティ!」
急いで窓を開けると、彼女は迷わず飛び込んで来た。
「どうしたの!お二人に何か」
背を向けて背中の鞄を見せ付けてきた。
ざわつく胸を落ち着けて、鞄を開いた。
中には手紙が一枚。
震える手で中身に目を通した。
「!?」
その優しき文字に胸が跳ねると同時に、シュルツは走り出した。
「クワンティはそこで待ってて!」
御爺様の執務室の扉を無断で開いた。
「御爺様!大変です。お二人が!」
---------------
タイラント国、王都パージェント王城。
最上階に在る国王専用執務室。
ヘルメンは警備の衛兵二人に見守られながら、城下や地方から上がって来る、多くの承認案件と格闘していた。
その合間に取る休憩で、豪華な座り心地の良い椅子に背を預けて伸びをした。
そして手に取る、一通の証文。
昨日届いたばかりの恩人の手紙だ。
「野盗の拠点を潰します」
国を救ってくれた恩人に、自分の恥部を晒しているかように感じた。
国が抱える大きな問題の一つ。
それが西部の野盗の増殖だった。
原因は解っている。
恩人にこんな事をさせる積もりはなかった。
引き留めないよう布令まで回したと言うのに。
「彼は、私にどれだけ恩を被せれば気が済むんだ…」
誰に問う訳でもなく、ヘルメンはそう小さく呟いた。
目を外して、窓の外を眺めた。
「城下をご覧下さい」
恩人の言葉が脳裏に浮かぶ。
そこに、自分が守るべき者たちが居ると。
ヘルメンはやる気を取り戻し、肩を回して首の凝りを解した。
短い休憩が終る前に、冷めた紅茶を啜った。
机に向かい直そうと、腰を動かした時。
「ヘルメン王陛下。ロロシュ卿が、急ぎの案件でお越しになっておりますが」
外からの衛兵が跪いてそう言った。
嫌な予感を感じた。
「通せ」
先生は跪かない。
不敬だ、態度が悪いと非難する者も居ない。
彼がヘルメンの教育担当者だったのは、城内なら誰もが知る所。
一人で居る時は、自分でも気にしない。
彼は私に恨みを持つ。しかし復讐はしないと知っている。
しかし怒りは表情に表れ、態度で示す。
これ以上の無様は晒せない。
気持ちを入替えても、入って来たロロシュの怒り顔は、
やはり苦手だった。
「どうされました。先生」
「ヘルメン。これはどう言う事か、説明しろ」
ずかずかと入室したロロシュは、一通の証文を見せ付けてきた。
そこに書かれていたのは、恩人の文字………。
「馬鹿な!!」
「あれだけの道具を持つスターレン君が、この道を選ばないとでも思ったのか!」
想像もしていなかった。真逆徒歩を選ぶとは。
「申し訳ない!」
「昔から。お前は何時も、詰めが甘い」
「衛兵!ギルマートを大至急ここへ連れて来い!」
「ハッ!」
先生の来訪を伝えに来た衛兵が部屋を退出した。
「七番と、関所に同じ文章を送れ。それだけやれば止められる事はない」
「はい…」
「彼の足を引く積もりは、在ったのか?」
「在る訳がない!国印まで渡して対処したのに…」
即答で返しはしたが、ヘルメンは椅子に傾れた。
「その国印も、取り上げられれば意味はないがな」
「仰る通りです…」
数人に見守られる中で、王は一人頭を抱えていた。
「文は破棄しないなら返せ。シュルツが欲しがっている」
「…私の汚点が残ります…」
「今更何を。一つ位、人間らしい所が露呈するだけだ」
「…」
ヘルメンは先程とは違う意味で頭を抱えた。
---------------
翌朝。
早めの朝食と、身支度からの部屋の片付けを経てお茶を沸かして淹れた。
それを飲みながら、クワンティの戻りを待つ。
「戻って来たら出発だな。何かしらの対応してくれてると思うしさ」
「様子見て。最悪はもう一泊かもね」
地図を広げて、昨日練りに練ったプランを見直した。
今広げているのは、王都冒険者ギルドの詳細地図を記憶を頼りに書き起こした物。
昨日、フィーネの逃亡ルートの足跡を上書き。
アッテンハイム領内東部には猫の鉤爪と呼ばれる、南北を深く縦断する3本の巨大渓谷が在った。
最離部で目測3kmは越えるのではと言う、可愛らしい名前が似合わない谷。
フィーネの故郷はその3本を越えた先、西側に在る。
魔物の巣窟も無い谷を迂回するのが最善と判断した。
南北端の狭い部分には立派な橋が在るそうだが、女神教の目を避ける為に、橋よりも北側を迂回したそうだ。
橋の付近は当然警戒されていると、谷を東に渡り切った所で南下。
国境壁が無く、近場に砦も無い南東部の山を越え。遙々マッハリア入りを果たした。
「こんな苦労して、俺に会いに来てくれたんだな」
小さく笑う我が嫁。
「素敵な言い方ね。そう思えば、あの時の苦労も少しは思い出深い物に感じるわ」
「今回は村に行き着くまで何処にも寄らずに、最短ルートを辿ります」
「うん。それは昨日も聞いたけど。具体的には何処を通るの?橋は余りお勧め出来ない」
「フッフッフッ。フィーネさん。俺たちにはこれが在るじゃないか」
腰のロープを見せ付ける。
「…あ!まさか…、これを想定して大金出して買ったの?」
正確には俺の金じゃないんだが。それはもういいな。
「フィーネから故郷の話を聞いてから。ギルドで世界地図を見て。こんなの在ったらいいなと思ってた所に現われたのさ。瞬間でこれだけは絶対に落とすと決めた。
お父さんの言葉が無くても。何時の日か、フィーネが故郷に戻りたいって言うかも知れないと思って」
フィーネの頬をほろほろと涙が伝う。
「もう…。出発前に、どうしてそんな嬉しい言葉…言っちゃうのよ…。幸せで、窒息しそうよ」
細い身体を抱き寄せる。
「泣かない泣かない。今日はフィーネが泣き虫さんだ」
妻が泣き止んだ頃。玄関がノックされた。
「北西砦のバンガッハです!朝早くに申し訳ありません」
玄関を開けると、眼下の隈が凄い事になってるバンガッハ君が居た。
「お早う御座います。ここって、担当外じゃ…」
「はい!最重要の書類を持って参りました。スターレン様のお顔を知る者、との王陛下より勅命で。
こちらの中身と同じ物が関所にも送られております。
その照らし合わせで通行出来ると、伝えられました!」
知り合ったばかりに…、難儀な話だ。
「とても助かりましたと言っていたとお伝え下さい。
昨日、関で門前払いを喰らいまして困ってたんです。
有り難うのお礼の代わりに、これを」
昨日俺たちが何をしたかは言わずに、そっと強壮剤を握らせた。
「カメノス製の新薬です。効き過ぎるので、馬を充分に休ませた後で一気に飲んで下さい」
小瓶を両手で抱え、膝を落とすおじさん。
「あ、貴方様は…。神様か…」
「頑張って。南東潰して下さい。南西の残党は、そちらに投降するよう促しましたので、暫くすると現われると思います」
「間違い無い…。貴方様が」
気持ち悪いので、会釈して玄関をそっと締めた。
「そのさ…。無自覚で誰彼構わず…、老若男女を落としに掛かる癖、止めよう。ね。お願いだから」
これは、癖だったのか!!
それから数時間をのんびり過ごし、戻ってきたクワンティを回収して7番宿場を出発した。
直前で、馬舎の方から。
「まだか!まだか!」
「ヒヒィン!ヒヒィィン!」
良からぬ何かが聞こえたが、無視をした。
その市販の空き瓶は、バンガッハの生涯の宝物になったとかならないとか。
関所に到着すると、順番待ちを無視して通され、親切丁寧な対応をされ、アッテンハイムの上地図まで渡され。
背中を押される勢いで、ハイムへの入国を果たした。
検問がどうしてタイラント主導なのかって?
それは偏に国の格がタイラントの方が上だからさ。
アッテンハイム側にも砦は存在するが、正規の通過者がそちらで止められる事は滅多にない。
要は目前で不審な行動を取らないとか、常識的な対応を見せれば済むと言うだけ。
砦を通り過ぎ、ピラリスへ向かう街道に入った。
周りから人様の往来が消えた瞬間に、北側の森林地帯方面へと突入。
木々を掻き分け、更に北へ。
ご立派な橋を横目に、更に更に北へ。
橋は普通の縄架け橋。全長は精々150m程度。
この世界の棟梁技術の限界だろう。
そんなショボい橋は無視。そして、辿り着いた1つ目の最離部。
「「おぉ…」」
「クワ?」
フィーネの懐で布から顔を出すクワンティが可愛らしく鳴き、荒れた心も少し和んだ。
眼下に見えるは濁流。
遙か北の山岳地帯からの侵食で、谷をより深くした広大な運河が形成されていた。
かなり深いのに、ゴーゴーと五月蠅く聞こえる。
「こりゃ、泳いで渡るの無理だわ」
「でしょ。今ならマスクがあるから、独りぼっちなら挑戦出来るけど…。実際目にすると、遣りたくないわ」
至極納得。
望遠鏡で対岸の足場確認。
超余裕な平場が在った。その奥には小山。
「今日の野営地は、あの山の天辺付近でいい?」
「あれね。ええいいわ。初めての二人切りの野営。ちょっとドキドキする。…クワンティは私と一心同体だから、数えなくてもいいのよ」
「クワッ」
ちょっと強引です。
「それより…俺を信じられる?」ロープで運ぶ事を。
「もちのロンよ。もし落ちたら…、マスクで翼作ってみる。
天使様みたいな」
チャレンジャーだな。
そんな土壇場で……出来そうで怖い。
「よーし。まずは、何も無しでアーチを作ってみるよ」
「うん」
対岸までの距離:推定3km弱
中域の風:かなり強い
天候:薄曇り
遮蔽物:皆無
人の目:気配無し
最初に指径のロープを深く渡し切り、横幅を拡大。
2人余裕で歩ける幅から、端を持ち上げ凹型にした。
「端を高くすると、やっぱ中間がかなり振られるなぁ」
「スリリングだね。胸が高まるわ」
楽しそう…。
数分の変化確認。
「多少揺れるけど、問題ないな。端を下げればもう少し安定するかも…。多分俺がダメだわ。下が見えると」
「度胸無いなぁ。何時もの勢いはどうしたの?イメージ崩さずに、あの山だけ見て、走り抜ければいいのよ。
今夜のご褒美、何でも聞いてあげるから」
男は所詮ご褒美に弱い生き物。
鼻息を盛大に荒くし、ロープ先端ではなく手元を伸ばして一気に渡り切った。
餌に釣られて、恐怖心も何処へやら。
途中、吹き下ろしの強風の煽りを受けたが、二人共無事に対岸へ到着。
ドキドキの初体験は終了。
ロープを腰に戻して、周囲の警戒。
天然の鹿や兎は居たが、魔物の類は居なかった。
小山全域の地形を把握。
クワンにも上空から覚えて貰った。
北側の中腹で緩やかな渓流を発見。その隣を本日の野営地とした。
「「山神様。御免なさい」」
承諾を得られたかは頗る疑わしいが、日暮れまで時間もないのでやってしまいます。
謝罪をしつつ、ロープカッターで最低限樹木を伐採。
テントを張れるスペースの確保。フィーネがハンマーで土均しをした。
ジャンパー式のテントの設営。
初めて使用したが、自律式の三角テントで、外殻は固い革で丈夫。中は大人4,5人は寝られる余裕なスペース。
テント四隅を杭刺しで固定化。
テント外側が特殊な匂いを発し、それが強力な虫除けとなっていた。
至れり尽くせり。宝物殿最高。
毛布を敷き詰め、底面の確保。魔導コンロを脇に置き、極弱火で室内を暖め。
外の梁に魔導ランタンと、購入しておいた魔物(動物)除け用ランタンをセット。
次に着手したのは、渓流の分流。
テント直ぐ横を抉り、岩を組み上げ、分流からの上下流ルートの確保。
上流端に炎属性の魔石を数個据え置けば…。
そうです露天風呂の出来上がり。
「お風呂は嬉しいけど…。ここ、外だよ?」
「何でも聞いてくれるって言ったじゃん」
「…言わなきゃ良かった…」
多少の腹減りは無視して、湯が張った所で互いにタオルで前を隠しながらの入湯。
最初は恥ずかしがっていたフィーネも。
「うわぁ。これ、癖になりそう」
「そうじゃろうそうじゃろう。いつかやってみたかった」
下流手前でクワンティも湯浴みと毛繕いをしていた。
「ねぇねぇ。フィーネさんや」
「何かしら」
「何でも聞いてくれるのは、何時まで?」
「嫌な予感しかしないけど…。こうなったら、明日の朝まで聞いてあげ…」
「油断しましたね、フィーネさん」
「な、何よ」
「身体の、洗いっこ。しましょうか」
「…なんで、言ってしまったんだ。私…」
欲望のままに。本能に任せ。
クワンティの目をガン無視して。
翌朝には精魂尽き果てるまで…。
「ねぇ、スタン…」
「何?」
「その…。裸でロープ装備するの。次から止めに」
「1回で終わっちゃうよ?」
「グッ…。言い返せない。悔しい…」
初めてフィーネに勝利した。
有り難う女神様。
本当はこれに使ってはいけないと、重々承知。
それでもやっぱり、ありがとー!
「智哉。残念なお知らせが一つ」
なんだい?ロイドちゃん。
「貴方の行動を、ご覧になってますよ…」
………人間の、夫婦が営む特権だと申し伝えて下さい。
お願いします。
「はぁ…」
小さな溜息声が脳内に響いた。
後悔は微塵も無い!!
朝食と片付けの後、出発。
望遠鏡と、フィーネの探知で警戒MAX。
充分に時間を掛け、安全の確保をした。
谷を1つ越え、2つ越え。西側の端に着いた。
警戒は解かず、森林地帯の奥へと進んだ。
やがて見えて来た、フィーネ一族が住んでいた隠れ里。
その名も無き村の全貌が現われた。
人気は無い。
荒れ果てた畑。野放しの家畜が数匹。
黒く煤だらけで、破壊された瓦礫の数々。
立ち竦む、フィーネの震える肩を抱き締め。
彼女の頭を胸に収めた。
辛い?そんなの当たり前だろ。一々聞くもんじゃない。
悲しい?当然だ。
何も言わず抱き締め合い、やがて彼女が口を開いた。
涙混じりの震える声で。
「…おかしいな…。ちゃんと、お別れ出来た、筈なのに」
「早く、お父さんの遺品探して。供養しよう」
「…うん…。もう少しだけ、このまま…」
「待つよ。どれだけでも」
彼女の悲痛な嗚咽は、暫く続いた。
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