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第27話 品評会

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慰霊の儀式が終わってからと言うもの。
各種の手続きに追われ、パージェントは繁忙を極めた。

メメット商隊に所属するメンバーも等しく。

品評会、晩餐会、生誕祭に向けて。
王都内全てが、活気付いていた。

この時期、唯一静かになるのは、仕事を失う第6区のみ。
彼らには休業手当、恩赦、免税権が与えられ、家族が何人居ようと飢える事はない。

不満が上がらないかと言うとそうでもないが、都心部から溢れる苦情から比べれば些細なものと言えた。


食料品の確保。近隣で採れる作物の買付。

団体客に備え、その準備に追われる宿泊施設。

倉庫や蔵の確保と設営。

風邪薬、傷薬、胃薬などを取り揃える薬屋。
在庫や陳列を見直す書店や工芸品店。
軒を並べる店で協力体制を整える飲食店。
日用品を分散し合う雑貨店。

外壁内外を問わず、推し進められる土木、建築、インフラ業務の従事者等々。

誰もが走り回り、誰一人として表情は明るい。


ロロシュ商団の邸宅内でも同じ。
侍女や給仕がひた走る。警護の兵隊にも気合いが入る。

スターレンの仕事はロロシュ邸の一室から始まる。

「ヒエリンドさん。今日は」

「人前ではコマネでお願いします。早速ですが、こちらが例の品。大振りが一、中が一。小粒が二となります」

宝飾箱の中身。
それは北の大陸に生息する氷狼の魔石。
所望していたよりも数が多い。

大鋸屑に敷き詰められた石の大きさは申し分ない。

指先で触れ、鑑定した結果も全て本物。

「意外に早かったですね。それと口が臭いです」

「ショックです…。石のコレクターは多く居ますので、コマネの伝手を最大に使いました。予想通り、帝国が大半を保有しているとも」

「武具転用の可能性もあります。掠め取れるだけ奪ってみて下さい。それと、内の歯ブラシ使って下さい」

「使ってるんですけどね!マッハリアが邪魔ですが、王不在のこの時なら何とかなるかも知れません」

「こちらの品の買取り額を添えて、ロロシュ商団経由で証文を送って下さい。それはもう虫歯で手遅れです。カメノス氏の歯医者へ行ってぶっこ抜いて下さい」

「おぉ何てことだ…。証文は後程送付致します」


石を設置する倉庫は、この邸の地下に在る一室を借り受ける。城に通ずる地下道も在り、地上から行っても4区が城に最も近い。


「フィーネ。今日、これからの予定は」

「王との接見と、ポムさんとこの進捗確認。その石を加工するならそれも」

「石は支払いが終わってから。明日かな。王城かぁ…。
時間取られそうだから後回し。ポムさんとこ行こうか」

「王を後回しとは…」

「まぁ、デッカい貸しを作りましたんで。多少の融通は聞いて貰います」



ロロシュ邸を離れ、4区端のポムの家へ。

宣言通りにお店を閉め切っていた。
作りながらでも開けばいいのに…。

店舗裏口の扉を叩いた。
「スターレンです。レイナさん居ますか」
お財布はしっかりレイナさんが握っている。出納の話もレイナさんの方がし易い。

「はーい。少々お待ちを」

暫く待ち、住居スペースへ通された。
遅れてポムも工房から顔を出した。

レイナがお茶を出してくれたので一口啜る。

ポムが手にした桶型の竹細工。
「スターレンさん。どうでしょう。こんな形になりました」

大木の丸太を刳り貫き、円を描いた枠板に、外側から縦に割り竹で囲い、紐で縛る。

構造は単純だが、竹の貼り合わせの角度が調整され、内枠含めピッタリと隙間が無い。上から見ると綺麗な真円に近い。職人技だ。

「いいですね。大きさも求めていた通りです。このまま上下蓋を進めて下さい。個数は3段在れば結構です。
竹炭の方は出ましたか?」

「それはもうたんまりと」

中庭の石窯には確かに炭が盛られていた。
炭化した部分と、焼けすぎた部分。崩れてしまった部分。

「少し火力が強かったみたいですね。次はこれより弱火にしてみて下さい。
形の残った部分はこの場で買取ります。
竹材の原価はお幾らですか?」

それにはレイナが答える。
「一束が銅貨五枚。半分を燃したので銅二枚半です」

「それは原価です。人権費と手間賃が入ってません。
ざっと見積もって銅10枚。更に灰になった部分を、麻袋に詰めて堆肥に混ぜる肥料として、農家の方に試して貰って下さい。
春の畑作りに使って貰えれば、きっと将来の顧客になります」

レイナさんがメモを終えるのを待ち、銅貨を渡した。
空の麻袋にトングで炭を詰め込む。

「確かに受け取りました。お試しでなら、無料ですよね」

「ですね。無料で渡し、効果が認められれば、次の季節からお金が取れます。堆肥の臭いも軽減されるので、農家さんに喜ばれると思います」

「ご助言有り難う御座います。次はいつ頃来られますか」

「また二日後の今ぐらいに。次はこの炭を使った料理も持って来ますよ。何事も自分の身体で試してみないと」

「い、嫌ですよぉ。夫とお嫁さんの居る目の前でー」
モジモジするレイナさん…。誤解だ!!

「この炭は毎日少量食べるだけで、女性の大敵、便秘の解消と美肌効果も高い優れ物。味も風味付けで、程良い苦みが加えられますし。売れ筋間違い無しです」

空かさずメモを取るレイナ&フィーネ。
充分に肌綺麗だと思うけど。女性だねぇ。


「段数が間に合いそうになかったら、先に上蓋を作ってみます」

「お願いします。これでコツを掴めば、材料を変えて色々な桶も作れまっし。特許を取れば、好きな芸術にも専念出来ます。頑張って、ポムさん」

「はい。頑張ります!」



ポムの店を出て、大通りを北上。

「スタン。止まって」
「え?何?どした」

道端に寄り、立ち止まる。
丁度お香売りのお店の近くでいい香りが充満している。

「いいから。ここで深呼吸」
不思議に思いながらも、その場で深呼吸を繰り返した。

「フー。俺、焦ってるように見えた?」
「どう見ても。生き急いでるようにしか見えないよ」

意表を突かれて、軽く笑い返した。
「いやー。ごめん、ありがと心配してくれて。
でも違うよ。
俺今、凄え楽しいんだ。人の命を奪うでなく、純粋な商売が出来て。小さな仕事から大きな物へと繋げられれば、その分人が雇える。継続的な仕事となれば、安定収入にもなってその人の家族も喜ぶ。
一石何鳥になるのかなって考えたら、楽しくない?
畜産農家の牛や豚とかの命は奪ってる訳だけど。そこは感謝で返したり…」

急に抱き締められて頭を撫でられた。
「にしても。頑張り過ぎ」

「そう、かなぁ」
「そうよ」

人から言われて気付く事も在る。それが身近な人であれば尚更だ。

確かに急いでいた。忙しいからと。
周り流され、周りに合わせ、周りを動かして。

「フィーネは、何でもお見通しだな」
「それが夫婦ってもんでしょ」

「でも。俺はフィーネの事を何も解ってない」
「あー。それは私が女だし。女には秘密が一杯」

「え?それ狡くね」

「大丈夫。私は、私が求めていた物全て。もう貰ってしまったから。でも残念。また増えてしまったのだよ」

愛を誓い合ったあの日から、彼女は変わった。
ご両親とのお別れをした日から、彼女は優しくなった。
どんどんと明るく笑うようになった。

そして。
「ヤベぇ。どんどんフィーネを好きになってく」
「おー。じゃんじゃん好きになりたまえ。私は、それ以上にスタンが大好き」

俺は彼女に依存している。その自覚はある。
でもそれでいいと思える。彼女に切り捨てられる日が来るなら、俺はそこまでの男なんだ。


お香の店の軒影で。
「こんな店が在ったなんて。立ち止まってみるもんだ」
「私も知らなかった」

「誰か好きそうな人に贈ろうか」
「レーラさんの所かな。私たちの家でもいいんじゃない」

それもそうかと。フラリと店に入った。

キリリとした銀縁眼鏡を掛けたおばさんがこちらを睨む。

「いらっしゃいませ。人の店の前で、随分と仲が!宜しゅう御座いますね!」

「「すみませんでした」」

これは謝罪も込めて、何か買って帰ろう。
これから伺う糞王様に向け、小火並の煙を出すお香を。


こじんまりとした店内には、意外に品揃えが豊富。

ラベンダー、ローズ、トリメシアン?
エバンシア?ガーネット、ポインセチア
オレンジ、アップル、パインアポー?

果物系と、花系と、花だと思われる何か。

「このトリメシアンってのと、エバンシアってどんな植物なんです?」

「トリメシアンは、ミントの派生植物で、香りは清涼感溢れる心落着くものとなっております。
エバンシアは…。鼻腔を擽る刺激的な香りで、その…。
倦怠期を迎えたご夫婦や、仲直りをしたい方など、よく寝室に置かれる事が多いと聞きます」
へぇ、どんなだろ。興味はそそられる…。

フィーネが徐にエバンシアを手に取った。
「買いだな」
「マジか!?…て、定番のラベンダーとかは?」
俺たちは、倦怠期を迎えていたのだろうか。
その自覚は無かったぜ。

「ラベンダーはレーラさんとこ」

何事も挑戦だ。挑戦を忘れては人間は退化してしまう。

良く解らん理論で、ラベンダーとエバンシアのお香を1束ずつ購入した。

「毎度有り難う御座います。冷やかしでしたら塩を撒こうかと考えておりました」

おばさんは濁さない。いっそ清いです。



今日はどの道借家へ帰る予定だったから。
丁度いいと言えばいい。

ルンルンイチャイチャしながら、城門南門へと到着。

「ヘルメン王陛下より、御召還を受け参りました。スターレンと申します。ご確認をお願いします」

「確認します。少々お待ち下さい」


門脇の控え室で待つ事20分程。

息を切らせたライラが迎えに来た。

「お通しを、しろと、の…フー、お達しです。私は、何時から小間使いに転身、したのやら」

「そんなダッシュしなくても。水飲む?」

「結構です。お二人をご案内したら、執務に戻ります。
他の者では逃げられる、とでもお考えなさったのでしょう」

誰とは言わないが。


中門前広場を抜け、門を直進。王宮回廊を正面突破。
やがて豪華絢爛な水色の王城へ辿り着いた。

思えば城内に入るのは初めて。

外も内も。壁や柱を飾る装飾は、繁栄と虚栄を混在させている。

荒波のような豪快さ。湖のような繊細さ。
一見すると全て一流に見え、チープさも醸し出している。

「まー見栄っ張りだこと。気持ちわるッ」
「水竜様が嘆いてるわ」

「私は何も聞いてません。聞こえてませんからね!」


中央を貫く階段。を右手に迂回。
「今日も謁見の間じゃないの?」
「スターレン様は偉ーいお客様、ですので」
嫌みだねぇ。

ゴンザさんが闘技場で士官入団を断った事を根に持っていると見える。

ライラは中で起きた事を見てないからなぁ。

あのマリオネット状態の騎士団長を目の前にしちゃったら誰でも断ると思う。
ゴンザ本人は標的にされてた、とまでは思ってなかったみたいだけど。

「こちらです。では私はこれで」


玉座の間右の特別会議室。

荷物検査もスルーされ、部屋に入るなり。
「拝礼は省く。適当に座ってくれ」

適当にと言われても、下席しか座れんでしょ。
今日はミラン様以外の3人と、ロロシュとノイツェだけ。
身内に絞ったな。王妃には聞かせられない内容か。

右手の最下席に並んで座った。

「先日の闘技場での件。謝罪と感謝をする」謝罪ねぇ。

「私は何も。発動後に急に止めよと言われましても、止められなかっただけです」

「発動前だった気がするが」

「陛下は私を罰する為に呼んだのですか?」

「いや、過ぎた事は良い。それよりも何故、魔導鏡を破壊したのだ」

あんな如何わしい物はぶっ壊してやったぜ。
こいつの目の前でな。


「あれは我々が苦心して手に入れた物です。どうしようと私の勝手だと思いますが。
陛下も事前の打ち合わせで、鏡に関しては差して興味はお示しになられなかったご様子でしたので、いいかなと」

ヘルメンは親指の背で眉間を掻いた。
「私が、どれ程…」

「私には、陛下が何を悩まれておられるのかが皆目見当も付きません」

「ではあの飾りは何だ。どうしてあれを出すと事前に言わない」

「私はきちんと、手段は得たと申し上げました。
尚且つ、あれはロロシュ卿の相家に伝えられた品で、シュルツ嬢様の所有物。私から言う訳には」

「お前の本心を話せ」

「本心?」
ロロシュとノイツェに目線を送ると、2人共苦しい顔をしていた。

「お前の考えを聞きたい」

「宜しいので?」
ロロシュは目を伏せ、ノイツェは首を横に振った。
どっちだよ。

「良い。話せ」


「では。先ず不敬に当たる言の了解を得ましたので、遠慮なく話します。

陛下は魔導鏡の存在をご存じでした。ノイツェ殿の眼鏡で確認するよりも以前に。

陛下は各種魔道具に痛くご執心と聞きます。なのに、あれ程強力な道具に興味を示さぬのは奇異。

相反する具の首飾り。その存在はご存じなかった。
だからこその余裕。私はそう見ました。

妨害が在るのは予想して居りました。

当初の予定では、鏡の前でゴンザをアーネセルに討たせ吸魂させるお積りだったのでしょう。

口にすれば必ず没収される反魂。解っていながら出す商人は何処にも居りません。

ですので、発動を強行させて頂いた。

シュルツをライザー殿下と婚約させ、ミラージュ家から引き離し、ライザー様を謀反の罪で国外追放。宙に浮いた彼女を献上品としたかった。

最初から可笑しかったんです。

私がタイラントに入国してから始まった襲撃の数々。
フレゼリカの手では届かぬと言うのに。
王都に近付く程、王都に着いてからも。刺客が送られる間隔は逆に短くなった。

数々の刺客や盗賊たちの動き。統一感もあれば、曖昧な場面もありました。女神教も一枚岩ではない。そう考える程に、フレゼリカの手の者と違う派閥が在るのだと確信しました。

極め付けは彫像の破壊。元宰相のキャルベスタに指示を出せたのは誰か。

タイラント国内で、全ての手際が良すぎたんです。

私を害し、妻を奪おうとしたのは愚策でしたよ。陛下」

「…」場に居る全てが沈黙を返す。


「まだ、続けますか?」

「…続けろ」

「加えて申し上げれば。
ロロシュ卿の子女、アンネ様の救援部隊の出兵を遅らせたのも貴方です。陛下。

その愚手さえなければ、こんな事には成ってはいない。

四方や。魔導鏡の中で反旗を翻せる存在が居るなどと。
それだけは想定外だった筈。

それが陛下の最大の失策。
今更キャルベスタを切った所で、何も変わらない。

この場でフレゼリカの恐ろしさを直に知るのは、私とロロシュ卿と陛下のみ。ですが。敢えて申し上げます。

戦う前から逃げてどうなると言うのです、王陛下」


「…私の…。余の失敗は、あそこだったのだな。
申し訳なかった。先生…」

ロロシュは拳を震わせ、唇を血が流れる程噛んだ。


「陛下。城下をご覧下さい。

商人たちは走り、民人たちは準備に明け暮れています。
誰もが貴方の生誕を祝う為。

誰一人。嫌な顔一つ浮べず、皆笑っているのです。

ヘルメン王陛下。メイザー王太子殿下。
ライザー王子殿下。

貴方方の国で。王族の貴方方が、何を守ると言うのです。

ご自身ですか。それとも、羨望の眼差しを浮べ、王足る貴方を信じ祝う、民人ですか」

「…」


「何も無いようでしたら。私は退席致します」

ヘルメンは何も返さなかった。

フィーネから傷薬を受け取り、ロロシュの隣に向かう。

「ロロシュさん。そんな辛そうな顔。シュルツには見せないで下さいね」

「…ああ、済まない。気を付ける」




---------------

城門を出て帰路に着く。
城内での、その後なんて知ったこっちゃない。

フィーネと並んで歩く帰り道。

「スタンは。何処まで予想していたの?お父さんやお母さんが居た事を」

「半々かなぁ。確信めいたものは在った。
フィーネから村で起きた事の話を聞いて。アンネさんが防壁になって守る98人の中に、もしかしたら居るんじゃないかって。
でも期待させて居なかったら、ガッカリさせると思って言えなかった。ごめん」

「いいの。怒ってる訳じゃないから。感謝してる。
前にも話した事だけど。時々考えてしまうの。スタンと出会ってなかったら、今頃どうしていたのかなって」

「あの日、あの時、あの場所で。俺たちは出会った。
奇跡じゃない。運命でもない。どう足掻いても出会っていたと思う。出会うべくして出会った。きっと魂で繋がれてるのさ」

「…背中がゾクゾクする。いい意味でね」

「キザ過ぎたかぁ。言った俺もフワフワしてる」



ドキリと心臓が鳴った。もしかしたら彼は…。

でも違う。ブリッジを使う前から、私たちは繋がっていたんだ。

何でもない事のように、彼は物凄い事を成し遂げる。
きっとこの先も。大きな事を仕出かすに違いない。

絶対に離してなんかやるもんか。
喧嘩しても。どんな困難な状況になっても。

今度は私が救う。
この返し切れない大恩を少しでも返す。


「ゴンザさん誘って。アンネさんのお墓参り、しない?」
「いいね。今から行こっか」

「ライラさんは?」
「あ…」

少し離れてしまった城。引き返せる距離に居る。

「よし!戻ろう」
「オッケー」



お墓参りを済ませた俺たち4人は、帰り掛けにデニスさんの店に寄った。

この4人でないと出来ない話をする為。

話すかどうか悩んだが、アンネさんの墓の前で結婚を誓い合った2人を見て、全てを話そうと決めた。

良かった。今日も客は自分たちだけ。

「デニスさん。済みません。3倍払うんで貸し切りにして貰えませんか」

「…いいだろう。何か重要な事を話すんだろ。席を外せと言うなら店の鍵を渡すが」

「そこまでは。デニスさんを信用してますから」


店を閉めて貰い、新しく入荷したと言う上級ブランデーを硝子のグラスで頂いた。

「今度の来客用にと思ってたんだが。気にするな、飲み干しても構わない。当然請求はするがな」

「当然です!」


「何だスターレン。俺たちが聞いてもいい話なのか」
何時もと違う空気を感じたゴンザが、戸惑いを見せる。

「勿論。ゴンザさんとライラさんに、王陛下とお話した内容を話すんです」


そして。
これまでの襲撃へのヘルメンの関与。
闘技場内で起きた事。
王城で話してきた内容を隠さず2人に話した。

王は一切を否定せず、その場に誰が並んでいたかも含めて全てを。


「…」

押し黙る2人に笑い掛ける。
「ヘルメン王はフレゼリカに、何か弱みを握られていたんだと思います。
軽く説教してやったんで、もう大丈夫だと思いますよ。

ライラさんには話した脅し文句ですが、全てを捨ててフィーネだけを連れて逃げ去るって話。

それはもう出来なくなっちゃいました。

知り合い、仲間、友達と呼べる人。沢山救いたいなと思える人が出来てしまったんで。

おまけで国まで救え、とか。
全く迷惑な話ですが、まぁ序でです」


グラスを一気に飲み干したライラが憤る。

「序でで救って貰えるとか…笑って話さないで下さい!
明日からの仕事に行く気力が失せました。
叔父に頼んで生誕祭後に辞職します。

ゴンザさん。一生養って下さいね」

「あ、あぁ…。当然だろ」


「4日後の品評会。必ず毒を盛る輩が現われます。

ここが正念場だと言えます。

俺も準備で忙しい。
流石に城の中までは手が回りません。

ライラさん。ノイちゃんとギルマートを動かしてでも、絶対に防いで下さい」

「…何てことを…。狙われる人物が多すぎる。
文字通り。命懸けで事に当たります」


「それはそうと。フィーネ、あれを」
「えー。試す前にあげちゃうの?」

「また買いに行けばいいじゃん。色々頑張って欲しい2人に先渡しするだけさ」

「何の事だ」

「お互いに新婚同士。結構お役に立つんじゃないかと」

首を捻る2人の前に。
昼に購入したばかりの、エバンシアの香と燭台のセットを置いた。

これがどう言う効果を示すかを話すと、2人とも顔を真っ赤に受け取った。

「よ、余計なお世話です。…余計ですが感謝します」

「こ、効果があったら。今度何かお返しするよ」



その夜。お隣の家から、狂喜乱舞する大音量の艶声がご近所中に響き渡った。

「あーもう、うっさい!」
「見境無くなっちゃうみたいだな…」

「はいはい。私たちは今度ね」
口を尖らせて、空間を包むサイレントを掛けてくれた。

「夜は静かが一番。便利だよなぁ」

「だね。お休み、スタン」
「お休み~。フィーネ」

何時ものように。
数日振りに愛する人を抱き締めながら、静かな眠りに就いた。

ロロシュ邸では、毎晩シュルツに奪われてたからさ。
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