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第22話 別離(中編)

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不意の外出禁止令で王都北部内外は混乱を極めた。
鳴り響く鐘の音が切り替わる。単調な連続から、一拍挟んだ変調へ。

憲兵たちの怒鳴り声に続く、衛兵隊の足音。
一般の人々も怯えながらも訓練通りに、戸締まりをして家の中へ引っ込んだ。

困ったのは通行中だった行商人たち。
馬車は強制的に停留所へ。商人は水竜教総本堂前の広場に集められ、簡易検問が行われた。


ノイツェの執務室までは手慣れた物。
王宮までの回廊を歩く。ラザーリアと比べ配色は質素。
通りの中庭に小さな庭園が在る。それも豪華とは程遠いオマケ感が強い。

金を掛ける所が違うんだろうな。

執務室の扉を連れる衛兵がノックした。
「スターレン一行をお連れしました」
難無く通され人払い。

ノイツェの最初の言葉は。
「どうしてこのタイミングなのかね」

「まー勢いって奴です」
「その様な簡単な言葉で済まされてもな」
「簡単ですよ。外で大規模に敵が動くなら当然中もと考えるのは変だとは思いません」

「一理は在るが…。その子が雛か」

シュルツがヘアピンを外そうとしたので止めた。
「待ってシュルツ。それ多分着け直すとまた別の顔に変化すると思うから外さないで」
「え…。あ、シュルツです。変装をしておりますが、ご了承おば。お初にお目に掛かります、ノイツェ様」

「礼儀正しい子で結構。その子をどうする。私が個人的に預かれば良いのか」
「出来れば退避したヘルメン王に謁見出来ません?」

「出来ません!どうしてそう考えたのかは問わないが、流石にこの私でもアポ無しは厳しい」
都内の異常時には王族は影武者を置いて、先手で安全を確保する。今頃は何処かのシェルターに退避している頃だと考えた。

ノイツェと個人的に信用を得ていると言っても、国のTOPの安全まで脅かせない。事前に何度も謁見していれば多少は変わる。

「ですよねー。ノイちゃんに預けます。大変器量の良い子で貴族の内状にも詳しい。素敵な助手に成ると思います。ライラさんは現在交戦中ですので」
「ノイちゃ…」シュルツが凄い驚いていた。

「最後のは納得し兼ねるが…仕方ない。預かるとしよう。
しかし何処まで怪しいと考える」

「シュルツの父、シュベインがある程度の手引き者であるのは確定しました。但し、彼ではロロシュ氏を越えて城の中までは手が出せない。必ずこの中にも黒幕が居ます」
「やはり私よりも上か。余り考えたくはなかったがね」
悩ましげに眉間に皺を寄せた。

「私だけここへ?」
「ノイちゃんは信用出来る。事務処理でも手伝ってあげれば喜ぶよ」
「本人を前に言わんでくれ。実際猫の手でも借りたい所ではあるが」

「では交渉成立で。フィーネ、さっきのあれを」
ポーチの中から貸金庫で引き出した包を取り出す。
「これって切り札なんじゃないの?」
「出し遅れたら切り札にも成らないよ」
「ふーん。じゃあ、はい」

手渡された包を机上に置いて開いて見せた。
「これは…」
「これが例の彫像です。これをどう使うかは任せます。丁度良い餌だと思いません?」
「餌にするか…。私は君が心底恐ろしいよ」
「お褒めの言葉と受け取ります」

「…了解した。預かるとも。万一壊された場合は」
「そいつが黒幕です。逆に過剰な反応を見せた者も疑いましょう。中身を知った上で壊すとしたら…、その度胸だけは買いますが」

「ふむ。雛君の事は何と呼べば」
「フィルとお呼び下さい。フィーネ姉上様より頂きました大切な名です」
「姉妹か。成程成程。ではフィル。着替えは侍女に用意させる。振りでも構わないから仕事を手伝って貰おう」
「はい。尽力致します、ノイ様」


「それでは、俺たちは外の雑事を片付けて来ます」
「息災でな」
中は彼に任せるしかない。

「フィル。頑張って」
フィーネがシュルツの頬を指先で撫でた。
擽ったそうに顔を寄せる。
「頑張ります。お姉様、どうかご無事で」




---------------

この場での狙いは俺だと言っていた。
両横からライラとムルシュが触手を丁寧に斬り刻み、中央の露出した男の顔はその度に歪んでいた。

ダメージは通っている。しかしこちらの疲労も蓄積される一方。戦いは長期化され我慢比べの様相。

周囲への警戒に目処を付けたヒレッツも中距離から投擲を開始したが、数本のナイフが通り抜け俺の側へ飛んで来てしまった。
「クソッ!すまん、こいつ隙間だらけだ」
「足止めだけでいい。無駄撃ちはするな」

とは言え明確な打開策が丸で見えてこない。

四方を囲まれ身動きが取れない中でも、男の顔には何処か余裕を感じた。
地道に削って行くしかないように思う。
奴を追い込めるまでの火力が足りていないのだ。


その時、後方から懐かしい声がした。
「ゴンザ隊、ライラ。退避しろ!」
「兵長…何ですかあれは」
「狼狽えるな。外見に惑わされる程美人でも無かろう。弓隊的はデカいぞ。撃ち尽くせ!」

強力な助っ人。通常の矢に加え、火矢まで飛んだ。
「助かる、メドベド。三人!放射上から離れ、俺たちは東を固める」
「森に逃げられるのでは!」
左手側を攻めていたライラが訴える。確かに彼女の後ろには森が在る。
「こいつは自我を持っている。標的は俺だ。お前はここで逃げる様な腰抜けではないだろう」

「安い挑発ですね…」
火矢が当たり、苦悶の表情を浮べた。存外に冷静だな。

「それはどうかな。その魔道具には制限が在る。時間的猶予だ。人魂一つ集めるまでに制約が在るのだろ。だからこの可笑しなタイミングを狙った。違うか!」
「…」
無言の返答は肯定しているのと同じだぞ。

三人と合流しながら、適当な推論を並べてやる。
「強力な魔道具は使用者が限られると聞いた。相反すればその命は削られる。お前の命も後僅か。ならばいっそお前自身の魂を捧げて見せろ」
ギョザは在り在りと破顔して否定した。今の何れかは核心を掠めた様子だ。余裕綽々ではないらしい。
「…おもしろ」
「黙れ!メドベド、槍を一本貸してくれ」
一旦男の言動を打ち切る。

「弓隊撃ち方止め!歩兵隊側面展開。ゴンザ、俺を外したツケは後で払って貰うからな!」
予備の長槍を借りて構える。
釘付けのギョザの退路を兵士が塞いだ。決め手は。
「好きな酒何でも一瓶。共闘は久々だな」
「言ったな。連携は覚えてるだろうな」
「笑止」
開かれた中央正面。

各所に伸びる触手。初撃を避け先端部を払う。
メドベドが一段中央寄りを下側から横に薙ぐ。
背を合わせて反転。槍を撓らせ更に深部へと刃を突き入れた。

矛先を地面に突き立て、メドベドが後退。
ギョザの鼻先を薄く斬り付けて同調。

「…素晴らしい。隙を埋め合っています」
「槍が得意だとは聞いてはいたが」
「一見すると、案山子の突き訓練みたいだな」
離れた場所から三者三様の感想。

突きと削減、退避を延々と繰り返した。
一つも間違えられない恐怖心よりも、久々の旧友に背を預け合える高揚感が遙かに優った。

「クッ…なめ」
「総員!地面から来るぞ!」
ギョザを睨みながら、地面を耕した。槍を農具として使う日が来ようとは。

退避後に生える触手。兵士の数名が貫かれる。
「負傷者後退!側面後方から放射」

「抱えてる鏡に気を付けろ!魂を奪われるらしいぞ」
「それを早く言え!」

視線を左右へと動かすギョザ。
付近に刺さっていた中槍を掴み、正面から中心部に投げ放った。
払い除ける前に右眼に突き刺さる。
「グオァ」
獣の様な叫びと共に怒りに震え上がるギョザ。

流れは一つもやらん。冷静さを失えばお前の終りだ。

足元を払いながら突進を敢行。
中心部で抱えている鏡の上から突撃。
「こ、壊してもいいのか!!」
「さぁ?」

「復活も叶うと言う…のに」
答えを聞く前に、長槍はギョザの胴芯を貫いていた。
「後で言われてもな」
困ったものだ。




---------------

燃え盛るメメット宅の手前の路地で。

太く膨れ上がった両腕。
上級戦士の軽く三倍は在った。
胴元の身長は並。自分よりはやや高め。異常なのは腕だけとは気持ちが悪い。

屋外に誘い、敵はそれに乗った。

路上に散らばる衛兵たちは皆、顔面が崩されていた。
通りで断末魔が聞こえなかった訳だ。気配はしても。

知能は有る。渓谷に居た個体の様に狂乱していない。

男の目は生きている。

振り下ろされる腕。受け流す大盾が歪む。
重み、速さ、身体的均衡。あれには遠く及ばない。

一枚目の盾が割れた。残るアーム側の破断部を男の拳に合わせた。
相手の損傷は軽微。

ミシリとの音は盾と自分の腕の骨。
構わず投げ捨て、二枚目の盾を装備した。

「惜しい…。その胆力を失うのは」
「う、嬉しく、ない」

カーネギは盾を構え、睨み合いに持ち込んだ。

ソプランが男のガラ空きの背中を斬り刻む。
暗殺者向きの彼に取って、無言で刻むのはお手の物。
「ガァァァ」

男の姿勢が後ろへ向いた所に、盾を体当たりで押し付け片腕を潰せ…てはいない。

姿勢を崩しただけで男は直ぐに持ち直した。

盾と共に軽々と押し返され、弾き飛ばされた。
横に転がり衝撃を抑えた。

こちらも即応。再び男の前に盾を見せ付けた。

振り抜かれた腕の脇下から双剣の刃を入れるソプラン。
太い血管から飛び出す鮮血。
「くっさー」

悲鳴を上げる前に言われ、男は一瞬固まった。
空かさず突進と体当たり。数手繰り返した。

前後からの挟撃に堪えられず、男はソプランの足を掴み投げ付けて来た。
盾を外し、受け止める。
「ナイス受け」
ソプランを横へ流し、盾を地面に突き立てた。

男の猛攻。左右の腕を振り乱して反転し、後方からの攻撃にも備えている。

しかし棒立ちの足は動かない。そこへ裏手からの閃撃。
両足首の腱の辺りを刻み、反対側へと流れた。


自分の後ろから接近する三つの気配。
「カーネギ!足場を」
極太のメイスを携えるギークが見えた。

腱を断たれた男は五月蠅く絶叫。そのまま背中へ倒れた。
倒れ込む寸前で盾尾を男の股間に突き入れ距離を取る。

悶絶するのを尻目に、盾をギークに向け構えた。
加わる着座の衝撃と同時に、上方へと押し上げた。

即席の足場から跳躍したギークのメイスは上段から地面、男の頭部へと逸早く着地を見た。

周囲に飛び散る血と脳液、そして目玉。
「ウヒョー。エグいっすねぇ」
ソプランの場違いな感想。
太い両腕を痙攣させながら、男は静かに果てた。


「衛兵と協力し、兵士たちの遺体を回収。俺はトーム家方面へ向かう。スターレンと面会した。どうやら弱体化?だったかの魔道具が現われたらしいぞ」
「だったら俺らが」
ソプランがギークに抗議した。

「まぁ落ち着け。エドが近くに居る筈だ。あいつは騙し合いのプロだ。魔道具の扱いも上手い」
「…解りました。カーネギ、腕はどうだ」
盾を外し、痺れる左腕を確認した。
「少し、皹が、入っただけ」

「おーい。上はどうなってる」
遠くからメメットの声が聞こえた。

「チッ…。俺らはここに残ります。あっちは頼みました」
「乗りかかった舟だ。今後は報告を上げろ」
「了解っす…」

走り去るギークの背を見送り、痛み出した腕をソプランに添え木で固定して貰った。
「結局いいとこ無しだなぁ、俺ら」
「だねぇ」




---------------

デニス・ブロンコ。デニスの酒場。
王都パージェントの第一区内の裏手に在る穴場的な店。
中途半端な価格設定と上級な品揃え故に、一般客は滅多に寄り付かない静かな店。

外出禁止の鐘を聞き、閉店の戸締まりをしていた。

店の玄関を締める直前で三人組の黒尽くめの集団に押し入られた。
「な、何をする!ここには酒しか無いぞ」

「ガタガタ抜かすな。関係者は全員潰す」
黒い一人がそう怒鳴った。
意味が全く解らない。
「何のことだ!」

残りの二人に後ろを取られた。
腕を取られそうになり振り払う。
「暴れるな」そう言われても…。

リーダーらしき一人が玄関に施錠をしようと背を見せた。
「止めてくれ!金ならやるから、殺さないでくれ」
後ろの一人が縄を手に取ろうとした。

「嫌だ!死にたくない」
「五月蠅い」
掴み掛かって来た一人の下腹部に後ろ蹴りを回した。
「グオッ!」

仲間の悲鳴に気付いた片方が縄を拡げた。
一瞬の隙を突き、背面に回り込んで男の縄を逆手にその首に巻き付けた。

玄関の一人が振り返り短剣を引き抜いた。

その頃には手元の男は口から沫を吹いていた。
床に転がり身悶える男の側頭に重い蹴りを入れ、近くの角テーブルを押し倒してその裏に隠れた。

「何だ!こいつは」何だと言われても困る。
一応俺の店なのに。

椅子の一つを掴み、襲い来る男の顔に椅子の脚を合わせて押し当てた。短剣を振り乱すが、背もたれまでは腕が届かない。

倒したテーブルを土台に飛び上がり、脚に嵌った男の顔毎全体重を乗せて捻り込んだ。
腕をダラリと垂らし、膝から崩れる男から身を離した。

泡立つ男の首に巻き付き、昏倒中に首をへし折る。転がる縄の束を手に、頭を蹴り上げた残党の手首を縛り上げた。

玄関前に転がる男の短剣を手に取り、勝手扉脇から店裏手口を伺う。

接近するのは二人。動きが緩慢。素人?

そっと扉を開けた先頭者の首に向けて短剣を振り抜いた。
が、寸前で後ろの一人に指で摘ままれ止められた。
「あ、デニスさん」気の抜けた挨拶。

「君は…。スターレン君か」
「こんちわっす。玄関閉じてたみたいだったんで」
「こんにちは。剣を下げて貰っても?」

「あ、あぁ」
指で摘ままれ動かなくなった短剣から手を離した。

「店の中入ってもいいですか?」
「少し散らかってるが、それでも良ければ」

勝手口に施錠を施し、店内に戻るとスターレンが、おぉと唸っていた。
「デニスさんって、やっぱり引退者でしたか」
店内を見渡して、縛り上げた男の前に立つ。

「隠居して久しい。剣を指で止められる程には弱ってる」
皮肉めいた言葉を投げても、スターレンの後ろの女性は緩やかに笑っていた。

「お店を何時も一人でやってるから、かなり強いとは思ってましたよ。こっちは嫁さんの」
「フィーネです。さっきの本気ではなかったですよね?」

肩を竦めて返した。
確かに本気ではなかったが、何とも。

「店内を血で汚すと掃除が大変ですよね。…この店で一番酒精の強いのお願いします」
スターレンはカウンターに金貨を二枚置いた。
「これは迷惑料も含みます。足りなければまた今度」

貰い過ぎだと抗議する前に前置きされた。
仕方なく度数の一番高いウォッカの瓶をカウンターの下から取り出した。木製の小グラスも二つ。

何も聞かず、その二つに並々と注ぎ入れた。
「私は飲めませんよ」
「一つは自分のだよ。どの道今日は店仕舞いだ」
「あ、お恥ずかしい」
仮面の下の顔が恥ずかしそうにしていた。

スターレンの奥方は常に仮面をして出歩いている。王都内界隈では有名な話だ。

一口で煽ると、スターレンもそれに倣った。
「おー。中々キツいですね」中々とは。

彼は空のグラスを置くと、蓋の開いた瓶を片手に縛った男の前に立ち戻り、頭巾の上から口に流し込んだ。
意識を戻して噎せ返る男。
頭巾が濡れて呼吸が出来ないのが見て取れる。

「ねえねえ。街中の仲間はどれだけ居るの?」
強盗の頭巾を引き剥がして、髪を掴んで更に酒を口に注いだ。一発で酩酊状態に陥る男。
「ゲホッ。ぜ、全部だ」
「全部って何が?」

始まった尋問を横目に、戸締まりをした。店内のランタンに火を入れる。
「これ以上荒らされても困るんだが。…衛兵を呼びたいがどうすればいい」
「もう少し待って下さい。衛兵の中にも賊が紛れてそうなんで、デニスさんも気を付けて」
「衛兵の中にもか…。世も末だな」
「全くです」

「私は薄目の果実水割り、お願いします」
転がる二つを念入りに踏み付けてフィーネは言った。
肝の据わり切った夫婦だ。正直怖い。

「作ろうとも。甘い柑橘系しかないが」
「それでいいです」

尋問から離れたカウンター越にグラスを並べた。

オレンジ水にブランデーを数滴垂らして混ぜる。
暗室で寝かせた上当品。店で一番高い酒だ。
「お代はさっきので充分だ。にしてもどうしてここが狙われたんだ。スターレン君とも店で会うだけなのに」
顔見知り程度で巻き込まれるのでは堪らない。
「面倒お掛けします。それも今日で終わりです。潜伏してる敵は殲滅予定なので」
「予定…では困るんだが」

「困ってるってさ!ここにゴンザさんにトーム家。メメットさんとこもか?後は何処だ!」
更に注ぎ込む。吐き戻されてもお構いなしに。
これは掃除が大変だな…。

「…じ、寺院だ…」酩酊の男はそこで気絶した。

「そっちもか…。デニスさん。後始末お願いします」
「それは頼まれなくてもやるが」
「衛兵を呼ぶのは…。一刻後辺りで」

「寺院って?」
「総本堂の裏手に在る、孤児院みたいなとこですね」
答えながらフィーネが持っていた道具袋に、男たちが持っていた道具類を手当たり次第にホイホイと投げ入れて行った。見た目と収納量が合ってない…。


立ち去った二人の後で勝手口の施錠をした。
丸で嵐が通り過ぎた様だ。荒れた店内と充満する酒の匂いに溜息を吐いた。

気絶中の男の首に腕を回して難無く捻った。
只一つ思うのは。
「乗らなくて良かった…」それだけだ。

知らず内に巻き込まれていたとは言え。
俺は、いったい何時からスターレンに目を付けられていたのだろうか。
背筋に漂う寒気に身震いし、屋根の換気口を開いた。
屋根を伝い落ちて行く何かの塊。

「塩でも撒くか…」




---------------

当りを引いたトームの所へ一刻も早く向かいたい。
気ばかり急くが、急がば回れ。
「寺院にはメメットさんがスカウトした親子が居るんだ」
向かう先は総本堂の南側に在る寺院。

身寄りの不明な人が一時的に預けられる場所。
「洞窟で助けた子供と、渓谷で見付かったお父さん?」
「そう、それ」
他にも1人気になる人物は居るが、敵がそこまで認識しているかは怪しい。

どうして渓谷に拉致されていたのかは不明だ。

寺院に辿り着くと、先日に顔を合せた職員たちが門を閉めている最中。手を振って強引に乗り越えた。

「スターレン殿!ここの警備は厳重です。他へ」
「この目で確認するまでは信用出来ません」
親子の部屋へ押し入った。

「な!?」
驚いたのは付いて来た衛兵。

部屋の隅で怯えて震え上がる親子の手前で、ニーダが血塗れの剣を鎧を着込んだ兵士に突き立てている所だった。
転がる兵士は2体。
「ニーダ君!演技はいい。何がどうしてこうなった」

喉元を抑えて絞り出す様に。
「この人たちが、襲われそうだった…」
声が出し辛いのは本当らしい。

窓際のセルダが慌てて手を振った。
「か、彼の言っている事は本当です!ストアレンさん」
「あ…」
「お姉さん!」
子供たちも顔を上げて、フィーネに気が付き、駆け寄って来た。
「…久し振り。もう大丈夫よ」
嫌な光景を思い出させてしまうのではと、フィーネは見舞いを控えていたのに予期せぬ再会。
覚えているとまでは思ってもみなかった。
強い子供たちだ。

「フィ…?」
青ざめていたのは、何故か傍らからフィーネの横顔を見たニーダだった。

「誰?記憶に無いわ」
「…そうですか…」とても残念そうな顔だ。

「衛兵さん。警備体制の強化と彼らに聴取を。ニーダ、事が落着くまで逃げずに待ってて欲しい。後で話がある」
「はい…。解りました…」

衛兵が廊下へ出て張り叫ぶ。
「残存兵!狙われているのはこの部屋だ!」

集まった兵士は兵舎で見た顔ばかり。これ以上の裏切り者は居ないと踏んで、次の場所へと向かう。
「後は頼みます」


「次は何処?」
「近いメメット宅を回ってトームさんの方面へ。ゴンザさんとこの加勢には間に合わない」
発生源が分散していなければ、フィーネと進路を分ける手も在ったが今更だ。
「行こう」
「手遅れに成る前に」
2人で併走。目指すのは第2区のほぼ中央部。本命が出たなら、被害は計り知れない。




---------------

強敵を取り囲む二十名以上の兵士。
数名が負傷し退いて尚。
退路を断ち、敵を留める動きを展開していた。
今、攻撃を繰り返しているのは、ゴンザとメドベド。

数年のブランクを感じさせない連携。矛先も見えない猛攻にギョザは後退を余儀なくされた。

遠目から周囲を警戒しつつ、ムルシュはライラに問う。
「ライラ。ゴンザのことは何処まで知っている」
「知っているとは?メドベド殿と並び評された逸材。若手筆頭、大隊長目前で退き道を譲ったと」

「それは少しだけ違う。建前はそうだが、あいつは上官に反意して懲戒処分されたんだ」
「懲戒?…私が知る記録とは違いますね」

どんどんと速さを増す矛。
「あいつは気付いたんだ。自らの狂気に。あれは長く戦い続けると化けるんだ」
「化ける…?」
巷の噂では自分もそれに該当すると言われているのに。

ゴンザが浮べる表情が少しずつ歪んで行く。
寒気のする笑顔へと。
「ゴンザは、天然の狂戦士だ」
「狂戦士…。極度の興奮状態で覚醒してしまうと言われるあれですか?」

「敵が何を狙っていたとしても。それは愚か。あの状態に成ってしまったら、誰の声も聞こえない」
メドベドがゴンザを残して距離を取った。
「…」



ギョザは狼狽える。
目の前の標的は、既に中級クラスのそれではない。
完全に見誤っていた。その力量。

眼は真っ赤に血走り、口端は吊り上がっている。

魔道具に押し込めたアンネの強い反発で、百番目はゴンザであると確信したのに。
「待て、ゴンザ。待ってくれ」
「キャァァァーーー」
笑っている。

人外へと踏み外したこの身でも、只の人間如きに怯えてしまった。

一方が退いた。対するはゴンザのみ。絶好の好機であるのに決め手に欠いた。

逃げ道は塞がれた。
これ以上の攻防は自我の崩壊を意味する。

ゴンザの攻撃は留まらず。より力を増して、移動させながら守る鏡を捉え出した。

狂っているのに正確無比。心底意味が解らなかった。
アンネの魂は、これを狙っていたのか…。

「…」
こうなれば。覚悟を決めよう。
差し違えた瞬間。全てが決するその時に賭ける。

しかしそのギョザの覚悟は、手遅れだった。それは戦いに入る前にしておかなければならなかった覚悟。

ギョザの敗因は、生への欲が出た由縁。


全身の魔力を解放しようと、ギョザは愚かにも両手を拡げた。魔導鏡を地に落として注意を逸らそうと。

鏡を手放した瞬間に。ゴンザの槍はギョザの胸を貫いた。
何度も何度も。首や眼球、眉間まで。

絶命の瞬間。ギョザは己の調査不足を呪い、天を一片仰ぎ見た。



数多の触手は砂塵と化し、その場に残ったのはギョザの遺体と魔導鏡。

動きを止めたゴンザの前後に、メドベドとムルシュが武器を構えて立った。

スッと深く息を吐き出すゴンザ。
「…心配無、い…」

長槍を捨て、仰向けに崩れ倒れた。

遠退く意識の中、ゴンザは思う。
スターレンとの出会い。魔人との戦い。
大天使様との邂逅が無ければ。
これまでの出会いが一手でも違えば俺は…多分。




---------------

王宮回廊を抜け、地下へと降りた。
無人の牢獄のその先へと進む。

礼を垂らす衛兵たちには目もくれず。

シュルツは前を歩くノイツェに質問した。
「ここは、罪人たちの?」
「ご安心を。フィル嬢を隠すのではありませんよ。ここの牢は目眩まし。この先に、王族専用の避難場所が在るのです。緊急用のシェルターが」

言われて見ると、どの牢も未使用で小綺麗だ。
自分が捕われていた牢獄よりも遙かに。
蜘蛛の巣一つ無い。照明器具も上当品。

牢の並びを越え、行き止まりの土壁の前でノイツェは立ち止まった。
「貴女には必要性は感じませんが。一応決まりですので暫く後ろを」
何かの仕掛けを解くのだろう。外部の人間には見せられない細工。
「はい」
言われた通り、来た道を振り返った。

暗がりに人の気配。各所の護衛兵だと思われる。

ノイツェ方向で小さくガチリと数回音がした。その後に続く重い引き摺り音。
「もう大丈夫です。私の背を離れぬ様。御拝謁の礼節康弁は受けられて?」
「ご心配無く。ノイツェ様が良いと言われるまで床に伏せる積もりですので」
「大変結構。念の為に髪飾りはそのままで」
「解りました」

確かこの髪飾りは、着け直す度に顔が変わると聞いた。
王に改めると言われぬ限りは現状で良い。

二年程前に成るだろうか。
ヘルメン王の御前に伏すのは。緊張半分、祖父不在の不安半分。
決してノイツェが信用出来ないとか言う訳ではない。

不要な失言でも漏らそう物なら、ミラージュ家の名を穢してしまう恐れが在る。
長く広い廊下に漂う緊張感に、胸が潰されそうだった。


廊下を右に進み、最奥から三番目の扉の前に立つ護衛兵にノイツェが語り掛けた。
「王に急場の知らせを届けたい。お目通りを」
「ギルマート様ではなく?…少々ここでお待ち下さい」
訝しげに包の中身を見ても、兵士には意味が解らず、数回のノックの後に部屋の中へと入った。

同行者の私は特に何も問われなかった。

知らない合図でも送り合ったのだろうか。気にしても仕方が無いけれど。


暫く扉の前で待ち、同じ兵士に中まで案内された。
他の扉の前に立つ兵士たちは不言不動。何となく肩が凝りそうな仕事だなと思った。

ご苦労様ともお疲れ様とも伝えられない心苦しさ。
正直居心地が悪かった。

扉を一つ潜った先にも幾つもの扉が三方に在る。
そこで漸く身体検査が待っていた。

別室に連れて行かれ。
年配の侍女と若い女性兵士が二人掛かりで。
頭の先から靴下の先まで隅々まで探られた。
髪飾りに触れられそうになり身を固めてしまったが、何とか取られずに済んだ。
「緊張されて居られますね。初めてですか?」
「直に御拝謁に預かるのは二度目です」
侍女に怪訝な顔を向けられた…。

あ、この顔では初めてと答えるのが正解だ。
自分の迂闊さに気が滅入る。逆にこれで緊張が幾分解れたのは幸い。
怪しまれたものの、ノイツェの連れと言うのも手伝い無用な問答は無かったので助かった。

廊下に戻るとノイツェと護衛兵が近場に立っていた。

検査を終えた女性兵から、大切な書類が入った鞄を返却された。封の中までは切られていない。


左前方の部屋の前で兵士が開ける間際。
「宰相閣下もお見えです」
「解った」
小声で交された苦言。忠告だろう。
ノイツェ様は当たり前だが堂に入った受け答え。

二年前と変わり無いなら、宰相はキャルベスタ。
あの方も苦手な部類の人間だ。特にあの冷たい眼が馴染めなかった。少しは耐性が付いたと信じたい。

通された部屋の最奥にはヘルメン王。老齢の域に達していても祖父よりは若い。カメノス様と同年代辺りと思う。

向い右隣には妃であるミラン様。二人が並び同じソファーに座っていた。
王制にしては珍しく他に妃は設けていない。

手前両翼には長兄メイザー、皇太子で次期国王。
次兄ライザー、第二皇子。それぞれが一段下に座す。
適齢でも御二人共、正式な妃は居ない様子。この部屋に同席していない時点で別室に数名居るのだと推察。
少なくとも献上品である私がそこに列席することは有り得ないので在る意味で安心した。

更に手前の下手にキャルベスタが偉そうに反り返る。
貴方は王族ではないのですが。

部屋に入った扉前でノイツェの右手前で膝を着き、頭を伏せた。
これからは我慢勝負。緊張でお腹がキリリと痛むが、先程までのお姉様の温もりを思い出しながら胸を抑えた。

「急場にて失礼致します。目すは捕われの身であったロロシュ殿の孫娘、こちらシュルツの確保。並びに来国中のスターレン殿より、ヘルメン様への献上品を持ち上がりに参りました」

「ノイツェ。色々と手間を取らせたな。珍しくお前が下で動き回っていること。ギルマートから報告を受けている。
シュルツ。息災で何よりだ。しかし…随分と雰囲気が変わった気がするが、成長の証とでも取ろう。
ここは玉座ではない。二人共、楽に席へ座れ。
献上品とは、此度の件にも通ずるのだな」
「その通りで御座います」
ノイツェの言葉までは死んでも上げない。

「有り難きお言葉痛み要ります。齢の成長と共に、顔立ちを変化させる道具を使用しております。御目障りであれば外します」
「取るが良い。そして顔を見せよ」

「シュルツ。顔を上げなさい」
ノイツェからの了解を得た。胸を撫で下ろし、髪飾りを外して顔を上げた。
「髪の乱れはお許しを」
姿勢を正し、ノイツェが引いてくれた末席の椅子に腰を下ろした。一つ隣にノイツェが座る。
対面にこちらを睨み付ける宰相が居る。スターレン様の言葉を借りるなら、キッモ…。

目の前に置かれた温かい紅茶はまだ飲めない。
ヘルメン王とミラン様に会釈を向け、キャルに向かう。
「私の顔に何か?」
「いや…。偽物かと思ってな」
何だろうこの小物感。声を聞いた瞬間に緊張が解れた。

「幾つに成った」
ヘルメン様から問われたので、十二だと答え丁度二年前の十の誕生日にご挨拶に伺った旨を伝えた。
「捕われていたと聞いていたが、健康そうだな。
キャルベスタ。誰が発言して良いと言った」
「も、申し訳ありません…」
勝手な発言をさせたのは私だが、こんな人物が宰相とはこの国の未来は大丈夫だろうか。

楕円形の長テーブルの上には美味しそうな茶菓子が並び、油断した途端にお腹が鳴ってしまった。

ミラン様がクスリと笑う。恥ずかしい。
「気にせずお食べなさい。久し振りですね。前は子供らしく頬張っていましたのに、成長しましたね」
「お、お恥ずかしい限りです」
ヘルメン様が頷いたのを見てから、クッキーを数枚頂き紅茶で喉を潤した。

王子二人にも笑われた。場が和んだ様で良かったと言えば良かったが。

「献上品とはどの様な物だ」
「こちらに」
テーブルの中央に、ノイツェが預かった包を置き、白い布を解いた。

見事な白亜の彫像。上塗りされていて陶磁器の光沢に近い気がする。
五人から感嘆の声が漏れる。
「こちらは乞いにしているスターレン殿より預かりし品。
あの高名なスタプ最後の作品。マッハリア王妃、フレゼリカ様を模した彫像だそうです」
ノイツェの説明を聞き、手拭いで丁寧に手を拭いて肩掛け鞄から書簡を取り出そうと…。

「ヘルメン様。毒針等の罠が無いか、先んじて私めが見分しても宜しいでしょうか」
「良い。丁重に扱え」

書の取出しに戸惑っている隙に、キャルベスタは彫像を手に取り回し始めた。手元が雑な動きだ。
「これは贋作ですな」
突然彫像を後ろの壁に投げ付けて砕いた。
「な…」
驚愕したのは自分以外の五人。
書を取り出した所での破砕音。思わず手が止まった。
いったい何が起きたのか。

「阿呆が…」ノイツェの呟きが室内に響いた。
「何だと!」
ノイツェが呆れながら私の手から書を取ると、中身を拡げ王と王妃の前に置いた。
「…こちらが、マッハリアの国印付き、フレゼリカ様とスターレン殿連名の、証明書。だったのですが…」

青ざめたのはキャル。この愚か者の末路は決まった。
「キャルベスタ。この行いは、宣戦布告に等しい」
席に戻ったノイツェがそう言って頭を抱えた。

ヘルメン様も、震えながら書を持ち何度も確認する。
キャルベスタを指差し。
「そこの反逆者、キャルベスタを監獄へ連れて行け」
「王よ!お、お許しを!どうか」
「もう何も聞かぬ。国賓を迎えた際に、貴様の命は無い物と思え。謝罪の機会だけは与えてやる」

何やら泣き叫ぶキャルを二人の衛兵が連れて行く。
こうしてキャルベスタは、人生からの退場が下された。

静寂を取り戻した室内。
「スターレン殿は、彫像を故意に壊した者が裏切り者だと言っていました。真偽は兎も角、宰相だったとは」
「前々から怪しい動きをしていたが。情けない。メイザーに臨時の宰相と外相を兼任させる。此度の件、この国の命運が掛かる。ライザーと協力して事に当たれ。
経験不足は言い訳にも成らぬ。不仲は一時捨てろ。これは王令だ」
「「ハッ!この命に替えましても」」
不仲だったんだ…。

「マッハリアの王と王妃を招くのだ。スターレン殿との接見を急いだ方が良いだろう」
ヘルメン様がスターレン様に敬称を付けた。
これに驚いたのはメイザー。
「父上!その言では国の品位が」
保てない。それ位は私にも解る。

「品位で国が守れるのか、メイザー。国賓を招くに中り仮にも王族に連なる者を召還するのだぞ。妃の重用品を砕き割り、格上の大国にどう謝罪するのだ。答えてみよ」
「それは…」
スターレン様なら反故にも掛けないとは思う。
かと言って謙るのも違う。
敬称一つで様子を伺う算段だ。

盛大な溜息を吐き出すノイツェ。
「彼なら少ない言葉で理解するでしょう。先見の思考性は誰よりも鋭く。正直に腹を見せた相手なら極めて温厚。敵対するは愚の骨頂。僭越ながら、メイザー様に手に負える人物には在りません」
「ノイツェがそこまで評価するとは…」

「尚更に会ってみたい。城下が静まった後に召還の意を伝えてくれぬか」
「仰せのままに。私もそろそろと考えておりました。もしかすれば、そこで砕けた彫像も彼ならば直せるかも知れませんし」
「直せるとな」

「破片残らず一旦持ち帰ります。証明書は破り捨てることの無い様お願い致します。場合に因り、そちらの方が重要に成るやも知れませんので」
「厳重に保管しておく。話を拗らせるな、メイザー、ライザーもだ。大切な跡継ぎをこの手で討たせるな」
ミラン様の哀しそうな顔が居たたまれない。
私はミラン様に歩み寄り、強く握られた手を取った。
「シュルツ?」
「ミラン様。大丈夫です。私はスターレン様に救われました。恐ろしき魔人と裏切り者たちの手の中からです。
真の敵が誰なのかを見誤らなければ、きっと必ずやこの国は救われます」

「すっかり成長しましたね、シュルツ」
「子供で居られる時は過ぎました。この身が国の盾となれるのなら、如何様にでもお使い下さい」

涙を流し謝罪するミラン様を残し、御三方に挨拶を済ませ砕けた彫像を回収してノイツェ様と共に退出した。



「あれで齢十二。成長と言うには生温い。それ程の地獄を乗り越えた眼だった。自分の代わりに成り得る献上品を目の前で砕かれても顔色一つ変えず」
シュルツを評価するヘルメンの言葉は重い。
我が子の二王子が不甲斐ないと言っているのだ。
「私は、とても悔しい」
そう述べたのはライザー。

「何がだライザー。その身の矮小さか」
「それも有ります。あれ程の女性を、醜き豚共にくれてやらねばならない不甲斐なさ。力無い自身を呪います。
出来るなら…いえ。父上、母上。今からでもシュルツとの婚姻を結べないでしょうか」
真っ向からの反意に該当する言動。
マッハリア王妃フレゼリカに対する敵意。

「それはお前の死を意味するぞ。覚悟は出来ているな」
「勿論です。国は兄上が居れば何ら問題有りません」
「ライザー…」

「善くぞ言いました、ライザー。ですが」
「何か?」

「それに対する真意を問うのが先ではないのかしら。ロロシュ卿と、何よりも本人の」
「…失念しておりました。他の候補者を排除した後に、申し入れします。真意に反していたなら、彼女の防壁と成り散りましょう」
何方に傾いても、宣言をした時点で反意と取られる。
それでもライザーの決意は固かった。




---------------

ロロシュは解放したサルベインを連れ、邸内の一室へと向かう。その足取りは重い。

外には面せず窓も無い囲い部屋。
過去には拷問部屋にも使っていた小部屋であるが、今は類の道具は一切無い。

室内外に警備の私兵を可能な限り並べた上で入室。

「何とも情けないではないか」
「…」
鎖と枷で繋がれたシュベインは俯いて何も答えない。

二区の混乱に乗じて娘に接触しようとしたシュベイン。
幼女に対する暴行未遂で捕えられた所を、工作して引き取った。少々の金が動いたのは言うまでもなく。

「シュルツを捧げれば国が救われるとでも思ったのか」
「…そうです。ですが、成人までの数年は稼げます。その間に何か対策をして」

「対策とは何だ。言ってみよ」
「まだ…何も」

「無策で対処とは…、開いた口が塞がらぬ」
背に立つサルベインも声を荒げる。
「兄上の所為で私まで疑われた。いったい誰に唆されたんですか」
「…」
再び黙り込むシュベインの態度に、サルベインは苛立ちを隠せない。

「宰相キャルベスタが関わっていると、カメノスから情報を得た。敵の密偵を自白剤なる薬を使って吐かせたと聞いたが、激しい副作用でそれは絶命したらしい。
今直ぐに手に入れ、使ってみるか」
凍て付いたロロシュの言葉に狼狽える。
「ま、待って下さい父上!私は国の為に」

「違うな。今更偽るな。欲しいのは爵位だろう」
「…ち、違います父上!」
その間は肯定しているのと同義。

ロロシュは一度天井を仰ぐ。
「継承権を持つシュルツを遠ざけ、宣唱前に私を抹殺。サルベインを事業で縛れば爵位を得られる。
とでも考えたか。この私を嘗めおって!!」
千切れんばかりに髪を鷲掴み、頬を平手で打った。

椅子から落ちて転がるシュベインを見下す。
「お前たちは何かを勘違いしている様だが、既に爵位はヘルメン様に返上済だ。私の死と同時に消え去る権威。アンネの墓に与えた意味を考えよ」
それがロロシュが打った最後の策。

爵位を失えば与えられた領土は放棄。権威が落ちればシュルツも含め家族は総出で一般民まで落ちる。
正確には元に戻る。己の若かりし頃に。

「大切な家族一人守れぬ爵位とは何だ。
新たな領主が重税を課すなら西の隣国に亡命してやるとでも脅せば良い。
我らが商団は国には縛られぬ。屈せぬ。折れぬ。
今在る財を継ぐだけでは足りぬと言うか!」
仰向けに謝り続けるシュベインの腹を踏み付ける。
「財が欲しいなら頭を使え。手が足りぬならカメノスを仰げ。知恵が無いならスターレン君に借りろ。血を吐いてでも泥水を啜れ。道端の銅貨一枚でも喜び拾え」

怒りが収まらないロロシュは、サルベインの胸倉を掴んで吠える。
「お前は何時まで遊び惚ける積もりだ」
「ち、父上。私は、何も」

「私が死ぬのを待っているのか!残念だが遺産の全てはシュルツの物だ。お前たちには事業しか与えぬ。失いたくなくば、働け。拡充しろ。新たに起こせ。
失策を恐れるな。子を作れ。種が無いならカメノスの前で額を地に擦れ」
「…」
「返事はどうした!!」
「は、はい!考えます!努力して働きます!」

ぜぇぜぇと乱れた呼吸を整える。
「…取り乱した。怒りで地獄の門が見えたぞ。
真にシュルツを救いたいと願うなら、私の邪魔をするな。
さぁ言え、共謀者は誰だ」


静寂を取り戻した室内に、ノックの音が響いた。
「お取り込み中失礼致します」
入って来たのは執事のゼファー。
「王宮への直通路より、ノイツェ様が。それと…お声が外まで聞こえております。念の為ご注意を」
「すまんな。通せ」
室内にも複数の警備兵が伏している時点で、取り繕い様も無いのだが。

「その名は私も非常に興味がありますね。それと、数手早いかと思いましたが、連れて来ちゃいました」
ノイツェの後ろから現われたのは、救えず苦悩したシュルツ本人。

シュルツはロロシュの胸に飛び込む。
「御爺様。お怒りなのは嬉しいのですが、高血圧で死なれては誰も喜びません。私も覚悟を決めました。この身がどうなろうと構いません。先程に、ヘルメン様とミラン様に捧げて参りました。どうか冷静に」

これが…我が儘言い放題だったじゃじゃ馬娘。
シュルツの変貌に誰もが黙した。

ロロシュから離れたシュルツは、床のシュベインの前で正座をして語り掛けた。
「お父様。只今戻りました。娘の顔が少し変わったからと判別出来ないとは、とても悲しく思います。
どうか教えて下さい。まずは国内の敵を滅ぼしましょう」

すまないと何度も繰り返し、涙するシュベイン。
「太公…クインザ。奴は、国家転覆に加え。大戦後のタイラント自治区の領主を画策しています…」
告げられた言葉は、一聴脈絡も無い文句。

このタイラント王国に存在する公爵家、三つの内一つ。
アル。ソル。ゲレ。
クインザ・ゲレ・シュナイズ。大公爵位を持つ男。
その大き過ぎる企みに、宰相まで加われば王家の崩壊も容易い。

隣国の王妃は、何処までも黒く輝く。


「シュナイズ家か…。姑息な奴が考えそうなこと。
相手にとって不足無し。邸内の警備を限界まで上げよ。
全ての地下道を封鎖し、門前は誰一人入れるな。
今日一晩が勝負だ。籠城を決め込む」

更に問うのはゼファー。
「カメノス様や、スターレン様は如何為さいますか」

「安心せよ。何も言わずとも、あの二人なら今宵は接触を避ける」


「私は地下通路を封印される前に戻ります。因みに宰相は献上品を叩き壊した罪で退場。城内のシュナイズ派の粛正はお任せを」
「頼むぞ、ノイツェ」

シュルツは去ろうとしたノイツェに駆け寄った。
「ノイツェ様。砕かれた彫像は」
「明日以降で折を見てスターレン君に渡してくれ。
大丈夫、あの二人には水竜様と女神様、大天使様の御加護まで付いている。それで勝てない様な悪魔なら、私は白旗を振って自害してやるとも」
冗談なのか本気なのか解らぬ言葉を残して、ノイツェは走り去った。


「サルベイン。コマネに書を飛ばせ。今度こそ、乗る舟を間違えるなとな!」
「ハッ!直ちに」

「御爺様も叔父様も、落着いて下さい!」
「「は…はい…」」
最後に一喝したのは最年少のシュルツだった。




---------------

順調そうに見えた迎撃。
少ない人員と最少の手で全てを救う。
言うは易し、実際は。

俺とフィーネは総本堂前広場から中央通りを東に抜け、第2区の南側から突入を図った。

距離的に最短。メメット宅までの。

目的の方角で黒い煙りが立ち上っているのを確認した。
急ぎ2区の境に踏み入ったその時。

異変が起きた。

身体が、空間が、空気が。全てが重い。
どんよりと倦怠感と言うレベルじゃない。

自分の足がどっしりと重く、前に踏み出す次の一歩が途方も無く鈍い。

「これって…」
隣で青い顔をしているフィーネに問い掛けた。
「…間違い無い。この感覚。居るわ、この先に」

本当に。何の脈絡も無く。敵は。
弱体化の魔道具を持ち出してきた。
俺たちを潰す為だけに。

楽観的に。王都内では使わないと思っていた。
短絡的に。弱体化に近しい、類似品の魔道具で攻め込んで来るものだと。思いたかった。

ロイドに聞かずとも、フィーネの直感を信じる。


だがしかし、不本意ながら。
俺には鎧と剣がある。確実性を求めるなら。
俺なら真っ先に奪う。この女神様の加護付きを。

これで解った事。敵に鑑定スキル持ちは居ない。

持っていればこんな愚手は打たない。

敵は知らない。
神の加護は、魔道具なんかじゃ劣化しない事を。

「先に行く。鎧と剣のステータスには影響無い。あるのは生身の身体だけだ。後からゆっくり来てくれ」
「気を付けて。伏兵が居るはず。慣れたら直ぐに行くから」
気合いでどうにかなる様には思えないけど…。

「解った」
両腕をダラリと垂らす体勢で前方を睨むフィーネの左頬にキスをして。

抜剣後に走り出す。やはり加護だけは切れてない。

ロイド、何か意見は。
「いいえ。まだ距離が在る為何とも。総戦力が高い敵兵は各所で撃破されつつある模様。しかし油断は禁物です」
この先が大本命だもんな。


路地を幾つか曲り、建物の隙間を無断で横切る。
一般人は中に居てくれよと願った。

真っ黒なローブを着込んだ敵と覚しき姿の人間を背後から蹴り上げた。

万が一黒が大好きなコスプレ住民も路上に出ているかも知れない。
行き成り斬り付け、間違えましたじゃ済まない。
ここは慎重且つ大胆に。

男は転がった先で短剣を抜き放った。
意思表示どうも有り難う!

時間操作:前1

棒立ちの男の脇を擦り抜ける角度で移動。
あ、これスキル無しでも行けそう。

だって、敵も弱体化してるし…。
対抗出来る物を持ってるのも上位だけだろう。
そんな高価な品がポンポン在って堪るかよ。

抜けた移動先で横薙ぎに、男の首を延髄から切り飛ばした。返り血を浴びない様に避け、進路に戻った。

のんびりとした軌道を取るナイフ。
加護付きじゃない武器もそうなるのかぁ。
余裕で避けつつ、何となく考えてしまった。

感覚としては、時間延長状態と似ていた。寧ろそれよりも遅い。スキルに慣れている俺としては超絶イージー。
柄を掴み取って、逆軌道上にそのまま返却。

相手は避け切れず、右眼に深々と突き刺さった。

特別意識した訳じゃないが、凄いぞ+300。
浮かれず急ごう。


燃え盛るメメット宅。これは、後で謝らないと。
宅前の路上に3人の人影。

ソプランとカーネギが倒れた大男の手前で蹲っていた。

駆け寄ると二人共息苦しそうにしていた。
「ソプランさん!気をしっかり。ゆっくり息を」

「ああ、すまん。これが、弱体化か。えげつねぇな」
「全くですね。カーネギさんは」

「…ごめん。腕をやられた。戦力に、ならない」
砕けた盾が転がり、添え木をした腕を押さえていた。
「直ぐに片付けます。もう暫くの辛抱を」

「ギークさんが加勢に向かった。トームのとこに向かってくれ!」
さっすが早い。
「解りました。そこで潰れた男を剥がして下さい。何か、対抗する道具を持っているかも知れません」
「クソッ。鬱陶しいなこれ。頭も痛えし」

舌打ちするソプランを見届け、トーム家方面へと走る。


そして、辿り着いたトーム家前。
敵も味方も無差別に方々で蹲っていた。

一人立ち、両腕を広げる敵に対峙するは。
メレス、唯一人。




---------------

スターレン到着の数分前。

「あー、いい天気だなぁ。掃除か洗濯でもするか!」
路上に響いたのは、エドガントの大声。

彼の声は、当然近所のトーム家周囲まで渡る。
「エドさん!手を、貸して下さい」
叫び返したのはトーム。しかしそれには答えない。

「黙ってろ!情けねぇお前に一ついいこと教えてやる」
「なんすか」

少し離れた自宅前で、エドガントは青空に向けて矢を数本射出した。

弱体化で敵味方が倒れる中で平然と。

「俺は何も知らねぇ。聞かねぇ。未知の魔道具への対抗手段ってのはな。認識と自己暗示だ!」
マジか!!と心で唱えたのは周辺一帯の生存者たち。

腕を広げたまま動けずに居るギョザが堪らず呼応。
「だ、黙れ!そんな出鱈目が」

「ただまぁ。一度でも認識したらそれまでだがな…」
エドガントは、堪え切れずに片膝を着いた。

「エドさん…」出落ちじゃねえか。


重く伸し掛かる息苦しさの中。
たった一人で立ち上がるメレス。
「…いいこと、聞いたぜ」
「なっ…」
驚いたのはその姿を見たギョザ。

有り得ない…。魔道具が、利かない。
いや利いている。確かに荒く肩で息をしている位だ。
時を稼ぎ、誰か一人でも反意の具を持つ味方が来れば全て片付く。俺たちの勝利は目前。
「グッ…」
遅れて来た痛み。上空から飛来した矢の一本が右上腕に突き刺さった。


メレスは剣を支えに立ち上がった。
「ふー。何だお前。動けねえみたいだな」

「メレスさん!まずは腕を!」
後方からの声と足音。誰よりも頼りになる男。
メレスは一切振り返る事無く。
「右!」

踏み出しからの一閃。
ギョザの両腕が中を舞ったのは、ほぼ同時だった。



重い倦怠感から解放された仲間と兵士たちで、全ての残党を切り伏せた後。仰向けに転がるギョザを囲んだ。

放っておけば失血で果てる。痛みに苦しむギョザを見下したメレスは。
「答えろ。どうして、ミレイユを見捨てた」
「こ、殺せ!殺してくれ」

「答えれば、楽にしてやるよ」
「し、知らん!上からの命令だ」

「その上が誰かって聞いてんだ!早く答えろ」
「ハァ…ハァ…。しら…」
意識を保てたのは、そこまでだった。

黄土の地面に広がる赤色。
スターレンがギョザの頸部を押さえ首を振った。
「チッ。情けねえ」
「念の為」

スターレンがギョザの首を落とした。

集まる兵士を掻き分け、トーム、エドガント、ギークの3人も2人の近くに駆け寄った。
「どうして、メレスとスターレンだけ動けたんだ」

トームの問いに、スターレンが答えた。
「訳なら後で説明します。それよりもこいつの魔道具を残らず回収しましょう」
「あ、あぁ」

乱暴に衣服を剥ぎ取る。
腕輪は無い。ネックレスもアンクレットも。
発見されたのは右指から外した1つの指輪だけ。

スターレンがそっと触れる。
「おい、大丈夫なのか」
「起動しなければ問題ありません」

名前:怠惰の指輪(古代兵器)
特徴:周辺一帯の生体全能力値を10分の1にする
   効果範囲は起動後の魔力量に比例
   装着者は起動後に不動

「人体の能力値を10分の1にするらしいです。これなら組み合わせ次第で無双出来ますね。範囲と継続時間で魔力を消費する仕組みです。使える人も限られます」
「弱体化の魔道具か。ギークは聞いたことあるか?」
「いや無いな。しかも無差別。こんな物が出回ったら、戦争処の騒ぎじゃない」
「確かに」

「そ、それをどうする気です」
兵隊長がスターレンに詰め寄った。
「念の為、俺が預かります。メドベドさんとノイツェさんにお伝え下さい。死体はそちらで回収後、念入りに調べて欲しいです。まだ何か持ってるかも。土葬よりも火葬をお勧めします」

「報告は上げます。その上で、上層からの判断をお待ち下さい。危険物として国が接収す」
「おいおい」
食って掛かったのはエドガント。
「ギルドを通さずに話進めんじゃねえよ。町中だろうと冒険者が手にした物は当事者のもんだ」
「しかし!この様な危険物を放置は」

「まぁお上の判断に任せろや。このスターレンは現時点で冒険者として認定する。事務長補佐の俺と、この護衛長のギークが認めた。これ以上の文句はモヘッドを通せ!」
「りょ、了解しました…」

部下の兵士らに指示を出し、賊の遺体は即時回収されて行った。

「ご面倒掛けます。エドガントさん」
「まぁいいさ。しかしだ。手が足りなくて困ってるなら、俺らにも声掛けろよ。事前に知らなきゃ対処も出来ねえ」
「済みません。気を付けます」

「トームが俺らを信用してねえのは理解した。モヘッドが何て言うかなぁ」
「か、勘弁して下さいよぉ」
「冗談だ。早く嫁さんとこに行ってやれ」
「へーい」


トームが自宅へと飛び込んだ後。
「終わった?」
両腕にべったりと付けられた血糊を布で拭う、フィーネが遅れて合流した。

スターレンが指輪を見せ付け、手を振った。
「予期せぬ所で本物ゲットだよ」
「そう。指輪だったんだ…。北の方もどうやら片付いたみたい。やっと一息付けるわね」
指輪には余り興味を示さず、北の空を望みながら呟いた。

「山は夜まで続くかも。予定通り、ノイツェさんの別荘に集まりましょう。北には鏡が出たみたいなんで、ライラさん辺りが回収してくれてると思います」

平然と言葉を交す、若い二人を見返し口笛を鳴らすエドガント。
「ちょっと強いからって、あんま無茶すんなよ。血塗れじゃ美人が台無しだぞ」
「行き過ぎた正当防衛です。油断はしません」
と返したフィーネ。人はそれを過剰防衛と呼ぶ。

「俺らはモヘッドの護衛に戻るわ。じゃあな」
「警戒は怠るな」

「ギークさんも、助太刀有り難う御座いました」
「俺も随分と鈍った。詰める前で無力化されたのは、反省すべき点だ。礼はモヘッドに言ってやってくれ。落着いたら俺やデュルガも誘えよ。商業よりは暇なんでな」
デュルガはもう一人のモヘッドの護衛だ。
「はい。必ず」



その夜。
パージェント南部の邸宅と、王城内で幾つかの戦闘が起きたが、主戦力を失い指揮系統が崩れた野盗と離反した兵士では何事も覆すには至らなかった。
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不慮の事故で亡くなった後、異世界に転生した高校生、鬼島迅。 そんな彼が生まれ落ちた家は、貴族。 しかし、その家の住人たちは国内でも随一、乱暴者というイメージが染みついている家。 世間のその様なイメージは……あながち間違ってはいない。 そんな一家でも、迅……イシュドはある意味で狂った存在。 そしてイシュドは先々代当主、イシュドにとってひい爺ちゃんにあたる人物に目を付けられ、立派な暴君戦士への道を歩み始める。 「イシュド、学園に通ってくれねぇか」 「へ?」 そんなある日、父親であるアルバから予想外の頼み事をされた。 ※主人公は一先ず五十後半の話で暴れます。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

装備製作系チートで異世界を自由に生きていきます

tera
ファンタジー
※まだまだまだまだ更新継続中! ※書籍の詳細はteraのツイッターまで!@tera_father ※第1巻〜7巻まで好評発売中!コミックス1巻も発売中! ※書影など、公開中! ある日、秋野冬至は異世界召喚に巻き込まれてしまった。 勇者召喚に巻き込まれた結果、チートの恩恵は無しだった。 スキルも何もない秋野冬至は一般人として生きていくことになる。 途方に暮れていた秋野冬至だが、手に持っていたアイテムの詳細が見えたり、インベントリが使えたりすることに気づく。 なんと、召喚前にやっていたゲームシステムをそっくりそのまま持っていたのだった。 その世界で秋野冬至にだけドロップアイテムとして誰かが倒した魔物の素材が拾え、お金も拾え、さらに秋野冬至だけが自由に装備を強化したり、錬金したり、ゲームのいいとこ取りみたいな事をできてしまう。

【毎日更新】元魔王様の2度目の人生

ゆーとちん
ファンタジー
 人族によって滅亡を辿る運命だった魔族を神々からの指名として救った魔王ジークルード・フィーデン。 しかし神々に与えられた恩恵が強力過ぎて神に近しい存在にまでなってしまった。  膨大に膨れ上がる魔力は自分が救った魔族まで傷付けてしまう恐れがあった。 なので魔王は魔力が漏れない様に自身が張った結界の中で一人過ごす事になったのだが、暇潰しに色々やっても尽きる気配の無い寿命を前にすると焼け石に水であった。  暇に耐えられなくなった魔王はその魔王生を終わらせるべく自分を殺そうと召喚魔法によって神を下界に召喚する。 神に自分を殺してくれと魔王は頼んだが条件を出された。  それは神域に至った魔王に神になるか人族として転生するかを選べと言うものだった。 神域に至る程の魂を完全に浄化するのは難しいので、そのまま神になるか人族として大きく力を減らした状態で転生するかしか選択肢が無いらしい。  魔王はもう退屈はうんざりだと言う事で神になって下界の管理をするだけになるのは嫌なので人族を選択した。 そして転生した魔王が今度は人族として2度目の人生を送っていく。  魔王時代に知り合った者達や転生してから出会った者達と共に、元魔王様がセカンドライフを送っていくストーリーです! 元魔王が人族として自由気ままに過ごしていく感じで書いていければと思ってます!  カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております!

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