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第11話 商売始めます

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商いにはルールが在る。
上位に頼むなら上納金、手配費用負担。
人を雇うなら人権費、報酬、給与。
利益が生まれたなら納税、分配、配当。
運んで貰うなら運搬費、馬車と馬の保障費、船代。
鷹を使うなら利用費、保険料。
倉庫に保管するなら保管費、保全費。
材料を要するなら材料費、原材費。
加工を施すなら加工費。
品物を外部に管理依頼するなら管理費。
金を貸し借りするなら利息、利子。
高額で一度に払えないなら頭金、手付金、分割払い、
分割手数料。
建物や家屋を借りるなら賃料、補修費、光熱費。

「付いて来れない人は居ますか!」
元気一杯に手を挙げる9名。フィーネはふむふむとメモを書き書き。恐る恐るメメットが遅れて挙手。
「何でメメットさんまで居るんだよ!」
「い、いやぁ。あれだ。大昔の復習って奴だな」
先が思い遣られる。
「この他にもまだまだ在ります。基本中の基本です。このままでは何時まで経っても算術に入れない。の前に帳面に使う紙も筆もタダじゃないんです。責めて文字は一番上手い人から教わって下さい。習字は専門外です。紙は使わず、砂場で小枝でも使って練習して下さい」
9名のブーイング。文句ばっか垂れやがって。
「フィーネは何時でも教えて貰えるもんなぁ。狡くね」
無料で講習会を開いてるのに何て言い草だ。

商業ギルド2階の一室を無料で借りて、講習会を開いたはいいが基本的な所から全く進めない。おまけに書く文字が下手過ぎ。大きな角文字で斜め書き。幾ら紙が在っても足りゃしない。

午前の時間を使って講習会。昼食後に戦闘訓練。
夕刻前までに流通ルートの確認。
戦闘訓練は俺が孤立化した場面を想定し、ムルシュとソプランに接近戦。トームとメレスに遠距離攻撃を多方向から仕掛けて貰う。反撃まで1日でマスター出来る様な優等生ではないので、回避訓練。避け切れないから木刀と砂玉でも痛い痛い、痛気持ち良い。
何度か時間操作を黙って織り交ぜてみた所、ムルシュとソプランがムキに成ってボッコボコ。タイマンでも勝てないのにさ…。
軽く振った木刀をちょっと躱されただけで、そんな怒んなくてもいいのにさ…。お礼に講習会に特別メニューを追加してあげよう。

余力時間内で人脈形成とご挨拶回りに終始。
奇っ怪な仮面を着けた、口元美人のフィーネが一役買ってくれた。インパクトは絶大。これで記憶に残らない人は商人を辞めて欲しい。

続きは討伐収穫戦終了後。



討伐作戦決行日の朝。
各方面にお声掛けを頼んだメメットとの挨拶。
「気を付けてな。あんま心配はしちゃいねえがよ」
「精々死なない様、頑張りますよ」

国軍の先導兵士は12名。
先遣隊、狩場守備隊兵士は15名。
北側へ回り込むのはライラを含めて3名。どう言った動きを取るのか今から楽しみだ。
向かうは8人の冒険者。トームを除いたメメット隊のメンバーだ。
計画通りにエドガントがトームを連れて行った。
俺は収穫物の目利き役。フィーネは補佐官の立ち位置。
手は繋いで居られない。これから向かうのは命を奪い合う戦場。おふざけは失礼千万。


朝霧が晴れ切らない早朝。
真っ直ぐに猪の群生地帯へと向かった。
到着時は丁度正午過ぎ。太陽は真上。天気は快晴。
霧も晴れ視界は良好。吹き抜ける風はやや強風。
山間からの吹き下ろしの風が露出した肌を突き刺す。

討伐隊の軍兵リーダーが、守備隊長と打ち合わせ。
「本当に宜しいのですか?」
「参謀自らの勅命だ。遠慮は要らん。あの娘が居れば私たちは死なんらしい。死んだら呪ってやるさ」
「上官のご命令とあらば…」

外周一帯を囲んだ檻柵。高さは4m以上。
木造の柵には有刺鉄線が巻かれ、各所に獣除けの匂い袋が取り付けられていた。

お香の様な落着く香りの中に漂う獣臭。オークは近い。

北のゲートを開くと同時に東ゲートから雪崩れ込む。
北の空に煙り矢が打ち上がった。
先導隊とメメット隊が残らず入った所で東側を閉門。

檻の中の成体は推定30。幼体は大量。
通常であれば、成長した幼体を餌で柵まで誘き寄せて捕獲するのが常套手段。
今回は釣られて怒り狂った親の成体を罠に掛ける。

最初の餌は自分たちの身体。武者震いがするぜ。
購入した時以来、数回しか抜いてない中剣を抜刀。

前より軽いな。多少でも身体を鍛えた所為か。

名前:鉄の剣(女神の加護:弱)
特徴:知能以外の能力値+150
   装備者固定(スターレン:死亡時に加護消滅)

「…」ロイド、これは何の冗談だ。
俺はここで死ぬのか?
「そう成らない様にとの措置です。四の五の言わずに受け入れて下さい」
クソッ。こんな物、今受け取る訳には…。
「事前に報告していれば、貴方はそれを放棄していたでしょうから」読まれてる。

魔王を倒せた道具や聖剣が在る様に。
強い武器は存在するだけで、強い敵を呼び寄せる。
それが嫌だった。

「どうしたの?オークはそこまで来てるよ」
「…いや行こう。文句は後で垂れる」
「?じゃあ行くね。手筈通りに」ちょっと怒ってる。
機嫌は俺よりフィーネの方が斜め。

本作戦では彼女に猪を誘導して貰わないといけない。
他の人間では踏み潰されて死ぬ。
俺から離れる事を拒んでいたが、最後は無理矢理納得して貰った。自分の身体一つ位、自分で何とかしないと。

何時までも。この先彼女や仲間に頼り切りでは、俺は簡単に終わる。

剣のステ確認は後。今は作戦遂行に集中。
敵の標的は俺。必然的に前線に出ていないと上手く裏切り者を炙り出せない。

予定の内周ルートを走る。
森林地帯の一角を抜けた所で、漸く見えたオークの姿。
一言で言えば、異形なる者。
二足歩行で武器なんて構えちゃいない。
四足歩行の猪の化物。幼体で並の成体以上の体躯。
縄張に入り込まれ、親玉オークの瞳は飛び出んばかりに血走りいきり立つ。獰猛な息と涎が牙の隙間から零れ出ていた。
俊敏さを増した象だな。

成体幼体合わせ10体の一群。後ろ足で地を削る親玉の後ろへ残りが逃げ込んだ。
「怖いか」ゴンザが隣から聞いて来た。
「怖いですね。少しイメージと違ったんで」
「そうか。腰を抜かさんだけでも上等。自信を持て」
逃げ回るのは得意ですとも。

先導隊のリーダーが大袈裟に手槍を投擲。それが戦闘開始の合図と成った。
「散開!走れ!猪から目を離すな!」
親玉の注意をフィーネ以外で引く。
親玉がこちらに向かって来たら、彼女が隠れた内の1体を捕まえに飛ぶ?飛んだ!

地を跳ね、中に浮いたと思ったら途中から姿が消えた。
前に居る者は勿論気付かない。横後方に居た俺たちは一瞬固まった。
「ボヤっとしないで!」彼女の声で我に返った。

猪の猛進を寸前で躱す。
行き過ぎた所で急停止とUターン。巨体と動きが物理限界を超えている。これが魔物と呼ばれる存在。

「キィィィーーー」響く幼体の悲鳴。
「ごめんね…」そんな事を呟いていたと思う。

悲鳴を聞いた親玉が急な進路変更。母猪まで子を取り戻そうと動き出した。
フィーネは幼体の1体の背に腕を突き刺した状態で姿を表わす。固い地面に掴んだ幼体を橫背に打ち付け意識を奪った後、背骨を掴んだまま北へ走り出した。

「何て怪力だ!グワッ」
呟いた兵士と親玉の進路上の兵士2人が撥ね飛ばされ、近くの大木の幹に強く打ち付けられた。
腰から無惨にも折れ砕けている。あれではもう…。
「敵から視線を外すな馬鹿が!!総員走れ!」
彼女一人に囮と成って貰い、俺たちは北東端ルートから北へ回った。

ムルシュが背中から声を掛けて来た。
「呼吸を整えろ。無理なら少し遅れてもいい」
「問題無いです!今、身体が軽いんで」
女神様の補正付きだからな。
水竜様に乗り換えたのに?不思議だ。
てっきり女神様と水竜様は仲が悪いのかと思ってた。

今フィーネは猪が追い着けるギリギリのスピードで走っている。当たり前だが、俺たちよりも数段速い。
かなり遅れて北ゲートへ到着すると、何とゲートが内側からぶち破られ破壊されていた。
開いてたんじゃなかったのかよ。
捕獲した幼体の流血だけじゃない、何人かの兵士の肉片と血溜りが点々としていた。駆け抜けたであろう複数の猪の足跡も見える。
「死んだ兵の見分は後だ!半数の兵は守備隊の残りと合流。柵と扉の応急処置を急げ!」
「ハッ」
このリーダー、対応力が凄いな。仲良く成りたい。乗り越えられたら名前を聞こう。

「損害は我らだけだな…。どうする、ゴンザ」
ゴンザの知り合いか。成程な。
「女一人に踊らせて置いて、付き合わないのは男の恥。このまま行くぞ」
「根城の詳細は知らない。ここから先は冒険者で引張れ」
「当然だ」

先行をメメット隊に入替え走り出す。しょぼい俺は中段に構え、後ろを残り5名の兵士で固めた。
ゴンザの知り合いが居るなら後ろも安心だ。

ルート上に散る血痕と足跡。
目的の洞窟に着いた頃には、入口付近で既に狂慌状態に陥った猪の群れと野盗らしき一団が争っていた。
フィーネは何処に…。
「後ろよ」
振り返ると、全身血塗れのフィーネが立っていた。
「怪我は?」
「全身獣臭い以外は問題無いわ。私はこのまま洞窟に潜る。幼体の子は放り込んだ。付いて来たのは四」
「気を付けて」
「…そっちよ」
気を付けるのはと言って、彼女は姿を消した。

外で暴れる成体は3体。1体は穴の中。
野盗たちの稚拙な陣の大半が崩れた所を見計らい突入。
「どうしたお前ら、助けて遣ろうか」一応礼儀として。
「何故、貴様が…」
岩場の高台から指示を出していた男が狼狽える。
こうもあっさり認められちゃうと、逆に冷めるな。
「俺が上に行きます。下はゴンザさんたちで」
「死ぬなよ」
「ええ。後で嫁さんに怒られるんで」

足場を見付け、一気に駆け上がる。
「見違える動きだ。だが、まだ危うい」
ムルシュが加勢で付いて来た。後ろはムルシュに任せ、上から飛んで来たナイフを剣で弾いた。
流れ弾に当たる様な彼じゃない。ムルシュは背後に張り付き、落ちたナイフを掴むと岩場の敵に投げ返した。

ムルシュとの距離が開いた瞬間。やっと俺の異能の出番がやって来た。

リーダー格の下に潜ると、即座に跳躍。

時間操作:後1
自分自身の立ち位置を1秒間分、後にずらす。

戦闘時の1秒は大きい。
相手からの視点で言えば、敵の姿が1秒間消え去るのだから。

突然目の前に現われた俺に対し、逃げるタイミングを完全に見失った野盗のリーダーの横腹目掛け、剣の背を全力で振り抜いた。

敵将は背にしていた岩場に激しく背中を打ち付け、脆くも崩れ落ちた。

数人の人影が岩場の上から逃げるのが見えた。あいつらはトームたちに任せる。

崩れた男に更に追い打ち。剣の背を翻して右脇腹を撃ち抜いた。
悶絶後に高台から落下。今度こそ意識が奪った。
「死んだ振りなんて通用するかよ…」
「上出来だ。直ぐに縛り上げるぞ」
「はい」
生きてろよ。お前には聞きたい事が山程有る。
簡単に死なれちゃ困るんだ。

高台の上から下を見下ろすと。
兵士が新たに1人、道脇に転がっていた。
混乱する野盗たちは、何方を相手にすればいいのかで迷い逃げ惑う。
3体の猪はほぼ無傷に見える。洞窟の入口付近を出入りする人間を無差別に噛み、潰し、牙で跳ね上げていた。
フィーネの心配をしている暇は無い。

ゴンザたちは一旦距離を取ると、負傷兵を引きながら溢れて逃走を図る野盗の背を刻んだ。

落下したリーダー格に、猿轡を施し手足を固めに縛る。
その場に放置してゴンザたちに加勢。

ゴンザたちが猪を挑発。
見える限り野盗を根絶やしにした猪が誘いに乗り、標的をゴンザたちに変えた。そこを兵士たちが長槍を使い、猪を側面攻撃で仕留めに掛かった。
猪の猛進力を利用したカウンター攻撃。突進して来た順に側顎から槍を突き立てて行った。
幕切れは、意外な程にあっけなかった。


モーラスが負傷兵の怪我を確認し、応急手当を施す。
「傷は浅い。意識を失っているだけだ。兵士として再起出来るかは解らんが」
兵士リーダーが残念そうに。「そうか…」と呟いた。

開けた場所に野盗の遺体を並べていた時。フィーネが洞窟の奥から戻って来た。両脇に2人の子供を抱えて。
「無事…だよね。どうしたの、その子たち」
「多分人質だと思う。中は、酷い有様よ。猪が入る前からね…」
「それって」
「この子たちの母親だと思う。それに従者の人。これ以上は…言わせないで」
言葉に詰まる。なんて事を。
「兵士さん。出来れば中のご遺体は、丁重に弔ってあげて下さい」
「…承知した。扱いは丁重にと、伝えておこう」

フィーネは兵士に子供たちを預けると、血みどろの顔を俺の胸に押し付けて、泣いていた。
「どうして人って、あんなに酷い事が出来るのかな…」
「…」何も返してあげられない悔しさ。
これも俺の所為だって言うんだろうか。


「おーい。こっちは片付いたぞ。そっちは」
上からトームの声が聞こえた。
「俺たちは無事。味方の兵が、数名やられた」
ゴンザが手を振り返す。
「そうか。後から合流する。こっちには反乱者が一人」
案の定居たのか。裏切り者が。

「ゴンザさん。俺に、任せて貰ってもいいですか?」
「任せる。好きに遣れ。簡単には殺してやるなよ」
「誰が、そんな楽な道をくれてやるもんか」
「彼に任せても問題ないか。メドベド」
「構わない。こちらも回収に手一杯だからな」
兵士のリーダーはメドベドって言うんだ。覚えておこう。

ゴンザ立ち会いの下。
気絶した野盗のリーダーを殴り起こした。
中剣を納刀したからか、拳が燃える様に痛い。
「おい、起きろ塵屑」
「う!うーうー」
「俺を狙う奴は、これで全員か?答えろ」
猿轡を外してやった。
「…殺せ。俺を殺せ!」
「答えになってない。舌でも噛んで死んでみろ。ただあれは痛くて長く苦しむらしいからなぁ。見守って欲しいか?どうせ黒幕は解ってる。責めて最後位は、人の役に立ってから死んだらどうだ?」
「何の話だ」
「質問を変えよう。この国での協力者か指示者は誰だ?
それと、あの子たち家族は何だ。少なくとも俺の記憶には無い顔だが」
「…お人好しの貴族のガキだって聞いてたからなぁ。無関係の人間でも、軽い脅しには成る…」
やはり俺の所為だった。もしもあの子たちに復讐で殺されるなら、本望かな。ごめん、フィーネ。
「答えられるのは、後半だけか…。拷問も面倒だし」
野盗にしては口が堅い。拷問しても答えない可能性が高そうだ。

どうするか思案していると、トームよりもライラが先に下に降りて来た。
「お待ち下さい。私の居ない所で拷問はさせません。幾ら貴方でも。この国で起きた事は我々で対処すべき問題ですので」
権限は俺たちよりも国に在る。
「まだ何も聞き出せてません。口が堅く、拷問しても何も吐かないと思います」
「そうですか…。こちらにも裏切り者が居ましたし。これは思ったよりも根が深い」

「私に任せて貰ってもいいですか?」
隣から見ていたフィーネが歩み出た。
「どうされるのですか?」
「ちょっとだけ。催眠術を掛けてみたいと」
催眠術…。コンフェで混乱させるのか。
「出来るのならばお願いします。死んでも私が責任を取ります故」
「助かります」

そっと俺を押し避け、フィーネは男の胸倉を掴み上げた。
「な、なんだ!何をする気だ」
「私の眼をよーく見なさい」
フィーネと眼を合わせた瞬間に、男は瞳孔が開き切り、だらんと口を開けて放心状態に成った。
フィーネが話し出す。
「失敗しましたね。貴方の腕を見込んで、安くもないお金で雇ったと言うのに」
「ま…、待って下さい。ロロシュ様…」
その名には、俺も聞き覚えが在る。
後ろでライラとゴンザが顔を見合わせていた。
「ロロシュ…。そんな馬鹿な…」
「その名なら、流石の俺でも知っている」
この国で最高峰の権力を持つ。商業ギルド所属の、序列1位に君臨する男の名だった。
商人で在ると同時に公爵位までも持ち、有り余る財力と政治力で豪腕を振るうと聞いている。
隣国のフレゼリカとの繋がりが一切見えず、全くのノーマークだった男。

「そう、私はロロシュ。失敗した貴方には、どの様な罰を与えるべきでしょう」
「待って下さい…。捕まって、死んでも。口を割らねば、俺の家族の命だけは保証するって…」
何だよ…これは。何の冗談だよ。もう止めてくれよ。

「残念でしたね。失敗する貴方が悪いのですよ」
「そ…んな…」
男は口端に沫を吹いて意識を失った。

フィーネは静かに眼を閉じると、汚物でも手放すかの様に手を払って立ち上がった。
「スターレン。…もう止めましょう」
気が付くと俺の両拳は潰れて血塗れだった。
よく思い出せないが、近くの岩壁を只管に殴り付けていたらしい。
「あぁ、最悪だ…。もう、逃げるのは止めにしよう。あの糞虫以下の外道に、お手紙書くよ。俺を殺したいならお前が来いってさ…」
血塗れの拳をフィーネが包み込んでくれた。
「うん。そうだね。戦おう、一緒に」
「ご馳走「死ぬ程」食わせてやるって、添えてな…」
「うん…」

黒幕は知っていた。協力者が解った、
TOPランカー?序列1位?面白い。全部ぶっ潰して、大手を振って出てってやるよ。
疫病神って神様が居るなら。きっとそれは、俺だ。
「いけませんよ。その様な考え方は」
少しだけ。何も言わないでくれ。
「…」ロイドが頷いてくれた気がした。



翌朝。簡単な聴取の後、ノイツェの上官のギルマートとも接見出来たが、心ここに在らずで2,3軽く挨拶しただけで終わった。
詳細はライラから上がっているので心配は無い。

死者、5名の軍兵。檻の中で倒れた者以外は何れも内通者と見られている。
遺体回収可能分で3名の民間人。損壊が激しく、身元を示す物は発見されなかった。
野盗の集団は所詮捨て駒。総合で30。内、生存者は5名で尋問中。恐らく何も出ないだろう。
詳細は何も知らず金だけで雇われた者たち。リーダーは精神崩壊を起し、地下牢に収監。
表面上は何の情報も得られなかったとした。

それであいつの家族が助かるかは微妙な線だ。何処か知らない場所で、死体が増えるのかも知れない。
助け出した子供たちは平民の孤児として、水竜教の教会預かりとなった。
可能なら家族の生存者を探してやりたい。奴隷落ちする前までに間に合えば。

負傷兵の見舞いに兵舎に寄り、メドベドに頭を下げに行った。
「毎年収穫の際に出る死傷者としては少ない方だ。特に気に病む事は無い」
所詮は魔物。然れど魔物。どんなに調教を施していても収穫時には死者が出る。無事で済んだ試しは無いそうだ。
だから何時までも、ギルドの掲示板から外れないのだとメドベドは笑っていた。

俺の穴だらけで、身勝手な作戦で死んでしまった兵士。
全く無関係な家族まで。心から謝罪したい。


やるべき事は見えている。
だから俺はまたメメット商隊に講習会を開いた。

商業ギルド2階。一室の扉を開くと…。
「メメットさん!何で人が増えてるの!」
歓声が上がった。席に座り切れずに立ち見まで。
殆どが若く、今の俺と同年代にしか見えない。

「悪いなぁ。ホント悪いと思ってるよ。ちょーっと話を拡げたらよ。俺も私もってなもんさ。隊以外の人間からはきっちり前金貰っちまったからよ。頼むよぉ」
「その金俺にもちゃんと回して下さいよ。只でさえ計画が遅れ気味なんですから!」
「わ、解ってるよ。そんな怒るなよ。いっそこっちの線で儲けるってのはどうだ?」
「如何にも新人さんって人ばかり集めて何言ってるんですか!金毟れんでしょ。俺も立派な新人ですよ!」
「立派なんだからいいだろ」
「意味が違う!」


「えー、時間が無いので始めます。メモが取れない人は頭に入れて帰って復習して下さい。
先ずは基本的な所から。今日は特許権に付いてお話したいと思います…。これは」

だから今日も俺は白板に向い、炭を握り熱弁を振う。
だから、何でやねん!!!

「ストアレン先生!ちょっと今の所解りません」
「私もです。先生」
たった今。通り過ぎた所なのに。
高校の教壇に立つ、教師の気持ちを理解した。

若い女子に質問されたら答えない訳には行かん。
フィーネの白い目が突き刺さる。夜は土下座だな。
仮面を付けた状態で朗らかに笑っておられます。目は完全に死んでるんですが。

すっかり俺たちは有名人。フィーネの仮面姿も根付いて何よりだ。誰も気にも留めない。

「えー。特許料と言うのは。国の認可が下り、独占販売権を有した商会、又は権利者に支払う手数料で。
その該当商品を市場で売り買いする時に発生します。仲介料、卸売り手数料、人件費などと同様に、商品の原価に上乗せして取引するのが通例で」

「先生。全く解りません」
「私もです。先生♡」丈の短いスカートで生足を組替え。
フィーネに殺されてしまうので止めなさい。
お前らそれでも商人の端くれかぁ!!
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