上 下
84 / 115
第3章 大狼討伐戦

第45話 巨星、動く

しおりを挟む
帝都はそのまま藤原が現状維持に勤める。
大きな動きがあるまで飛空挺は飛ばさない。
門藤が襲撃してきたら、逃げ出す。

聖女は再び西海岸へと戻った。
無能たちがランズハーケンで別れた頃。

西の大陸、キルヒマイセンでは二極化していた内乱が終決へと向い始めていた。


「マーマ」母の腕を掴み、ブンブンと揺らす。
「なんじゃ、騒々しい」

潤んだ瞳で母を見上げる娘。名はルドラ。
人間に比べれば短期間で幼女の域は脱した。
成長と共に、多少は荒れた性格が落着いた。

しかしどうしてか、甘味への欲求は増すばかり。

暫くの間は、唐黍の汁を煮詰めた黒砂糖で凌いでいたが、それもそろそろ限界が来た様子。

圧倒的にバリエーションが足りない。

砂糖水や蜜飴では飽きたのだ。

日々娘のイライラに自分も、下臣たちも頭を悩ませ震える毎日。

「早く、あんな虫けら蹴散らして。東の大陸へ向かいましょうよー」

「待つのじゃ。今その対策を考えておろう」

「そうやって何日経つの?早く、ケーキ、ショコラ、餡蜜、大福、たーべーたーいー。もういい!ママが行かないなら私1人で行くもん!」

「待てと言うに」

対策を練らねばならない理由。
東側を占領統治する蟲王には、自分たちが得意とする爆炎魔法が一切通じないからだ。

唯一有効な手段である冷気魔法。その使い手がこちら側には一人も居なかった。

こんな事なら、あの馬鹿を殺す前に、真っ先に打つけておくべきだった。

今現在いったい我らは何の為に戦っているのか。
発端は自己の人類への復讐心から始まったのは間違いない。それが今や、娘を満足させてやるのが命題に置き換わった。

象の足でも潰れない躯。虎の爪でも通せない外殻。
数多の多種多栄。大小数は減らした以上に戻される。

最初は火が通じる種類でも、数日すれば耐久性が上がる。

支配が通じる相手も、範囲も限られる。蟲王単体であればまだ道もあるが、文字通り蟲の壁で接近出来ず。

打開策が見つからない。ルドラの我慢も限界に達しようとしていた。

「もう、我慢できない!!」

ルドラの限界点が来た。そして訪れる狂気。

-スキル【解放】
 並列スキル【臨界】発動が確認されました。-

あの異端の父にして妾との正統な血娘。
背にするは、漆黒の翼。血走る眼。

「行くよ、ママ!」
「あ、あぁ。行こうぞ」

未知無類の侵攻。蹂躙劇が始まった。




-----

大きな日傘を持ち上げ、暗雲立ち籠める西の空を見上げる聖女。

「こ、これは…」
大切な果実水が入った水筒を地面へ落としてしまった。

上空で2つに割れる分厚い雲海。

西大陸の状勢が目まぐるしく変化している証拠。

-スキル【聖女】
 バラストスキル【偽装】が解除されました。
 これに伴い、最上位スキル【聖女】は、
 【天使】へと昇華しました。-

-スキル【天使】
 並列スキル【白倖】【御加土】同時発動されました。-

「アルバ様。…ゼウス様。どうか、お許しを!」

背にするは、純白の翼。
シンシアは、BOXの奥深くに手を差し入れた。

取り出すは、茨の長鞭。名をグリンガム。
太古の昔。或る女神が己が犯した愚行を律する為に造りし武具とされる物。

真上の空への飛翔。昼間の空でも輝く白光。
高く、高く、空高く。天が遣いし御遣い。

「さようなら。私の願いは、叶いました」

笑顔を浮かべた天使は。
分厚い暗雲の片割れを上空から突き破った。




-----

直ぐ隣を並列飛行をしていたアルバが不意に止まり、西を振り返った。

「シンシアさんが心配なら戻って」

「そうすっぺ。あれは、いけねぇだ」
顔面蒼白のアルバさんを見るのも初めてだ。


急に引き返したアルバを見届け、少し先で待つ2人の元へ飛んで貰った。

-何か心配事?-

「うーん、どうだろう。アルバさんや聖女さんなら大丈夫だと思うけど」

「アルバさん、急用?」
「この辺りでの停滞は危険です。タッチー、決断を早く」

この真下はミルフィネか。
ジェシカの生まれ故郷。立ち寄りたくないみたい。

「戻ろう!何だか胸騒ぎがする」

引き返したアルバを3匹と3人が追う。

遙か上空を通過する機影を、地上から見詰める存在。
ジェシカの懸念が、悪い方に的中してしまう事となる。




-----

「ほぉほぉ。やっと見つかったのかえ」
たっぷりと皺と白髭を蓄えた顔が、部下が持ってきた吉報に破顔した。

隙間だらけの歯を見せ笑う。

「皇帝のスキルが、消去から不死身へと変貌。密偵からの確かな情報です」

「不死身…、不死身…。遂に我が手に」

若かりし頃から追い求めてきた不老不死。
老いは諦めても、永劫の命は欲しい。

まだ身体が動かせる内に手に入れる。

生涯で使用回数が限られる【強奪】スキル。魔族でもない普通の人間の身体では限度が有った。

一度目は失敗。碌でもないスキルの取り込みに使ってしまった。
二度目は半分成功。【長寿】を取り込めた。所有者の寿命分だけの延命。
残すは一度切り。それが老いた身体の限界点。

クロアード・ロンドは願う。

死すればスキルは解放され、この世の誰かに移譲する。
それは血族の格率が非常に高い。

これは私の物だ。誰にも渡さない。

この強奪を欲して、親族や仲間の多くと長らく争ってきた。
老いや衰えが見え始め。争いは止み、周囲はこの身の崩御を待つようになった。

死んでやるものか。これは私の物だ。
不死さえ手に入れれば、ずっと私の物になると。

老体に鞭を打ち、何年か振りに自分の足で立ち上がった。

所有スキルは【強奪】【因果】【長寿】
伸びたはずの寿命は、因果に冒され身体を蝕んだ。
取り込んだ後で、因果と長寿は反発し合うスキルだと判明した。それからは苦しみの毎日。

全身の骨と筋肉が悲鳴を上げた。
「鳴け、喚け、好きなだけ。我は行く」
少ない歯を食い縛り、老人は落ちそうになる膝を抑えた。

杖を持って来た部下の手を振り払う。
「我は行く。この、苦行なる道を!」

神の領域。雷鳥が持っていたとされる【不死鳥】の道は断たれた。一度は諦め掛けた不死。

それが今、手の届く場所に在る。

老人は全身の痛みよりも、沸き上がる喜びに打ち震えた。

-スキル【因果】
 並列スキル【自衛】発動が確認されました。-

クロアードは笑いながら、重い一歩目を歩み出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...