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第3章 大狼討伐戦
第18話 それぞれの気概
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何もかも上手く行っていた。そう思っていた。
そう信じて疑わなかった。誰しも、俺もそう。
生き辛い異世界。脱出と帰還の糸口が見つかり、期待感から少し浮かれていたのは認める。
峰岸やロンジーの指摘の通り、殊戦闘に関し俺たち4人は手を抜いていた。とっくに見透かされていた。
足手纏い。クビも当然。
単純に怖い。殺されるのも、何かを殺すのも。
獣や魔物ならまだ納得もする。戦時下に在る国では平気で人間同士が殺し合っていると聞いた。
戦争。言葉や文字は認識していても、実感なんて無い。
日本も数十年前は戦争をしていたと聞いても、地球の裏側で紛争が起きていると聞いても。
何処か別世界の話だと思い込んでしまう。
こちらの世界では、日常の風景のようにそこら中に転がっていた。当たり前の光景。当たり前の戦争。銃火器や化学兵器の代わりに魔術がある。それ位しか違わない。
「日本に帰りたいなら、自分の手も汚せよ」
峰岸に最後に掛けられた言葉。何も言い返せず、俺たちは北の国境沿いの町マルゼに飛ばされた。
北の山脈までの最後の拠点。
東西数キロに及ぶ高い壁に囲まれた、要塞都市。
ベンジャム側の駐屯地も併設されている。
王都センゼリカ以外の町が手薄になっているのも、ここに兵力を集中させている為。
フェンリル討伐。それが彼らの悲願。段々と現実味を帯びて行く。北に向かう時の拠点としての存在。峰岸組や無能組が必ずこの町に立ち寄る。俺たちは只のオマケ。
使い物にならないスキル。上達しない技。何かを期待される訳でも、ここで訓練をするのでもなく。合流するのに都合が良い。野放しにも出来ない。だからここへ飛ばされた。
裏を返せば、ここよりも安全な町は他に無いからとも。
町の姿は強固。纏う雰囲気も暗く沈んだような物でなく、兵たちの士気も意識も高い。
ベンジャムとクイーズの大型駐屯地。その2つに挟まれた形で冒険者ギルド支部が建つ。
国軍がそれぞれ5千騎。冒険者が約1千。総勢1万1千の精鋭が集まっている。中途半端な俺たちなんかより、ずっと強い人たちだ。
異世界の召喚者たちに期待されていたのは、兵力の増強の一点。この場所に来て、討伐までの全てを召喚者にだけ押し付けられていたのではないと解った。
「これが実情です。少しは安心出来ました?」
背中に大きな戦斧を携え、微笑む女性。センゼリカ本部から一緒に来た、ジョルディ。
「す、少しだけは」残りの3人も頷いた。
「私の役目はここにお連れする所まで。町から出ない、逃げないお約束をして頂けるなら。後は何をするのも自由です。心を入れ替え鍛錬するも良し。他の方々と合流するまでの間、遊び倒すのも良し。農業や畜産の手伝いをするも良し。お好きなようになさい」
「ジョルディさんは、王都へ帰るんですか?」
「いいえ。元々私は、フェンリル討伐に参加する予定でしたから。このままギルド支部に留まります」
「怖くはないんですか?魔獣と戦うのが」
「怖い?当然ではないですか。あの大狼と本気で遣り合うのです。恐怖を抱かぬ兵は一人も居ませんよ。根からの戦闘狂でもない限りは」
当たり前の答え。聞いた俺が馬鹿だった。
「戦う理由はそれぞれ。国の為、お金の為、得られる名声の為、恋人や家族の為、友や仲間の為。色々です。専ら私は共に戦う仲間の為と、前線に出られぬ父の為。この斧を振るい、一人でも多くの仲間を救いたい。敬愛するリンジー様が、タッチーらと戦いに赴かれるなら。隣に立ち、か細い盾にもなりましょう。不要だとは思いますが」
最後は少しだけ残念そうに語っていた。
「この戦いに参加するなら、全ての滞在費は両国から支給されます。参加されないのでしたら自費となります。冒険者らしく近隣の魔物を討伐して稼ぐか、先程挙げた手伝いをして稼いで下さいね。因みに各所に看破持ちが紛れているので嘘は一切通じません。タッチーさんとヒオシさんのように、完全隠蔽を施しても逆に見えない事を怪しまれ疑われる。特にあなた方は既に身元が周知されています。嘘や犯罪行為は一般人同様に処罰されますので、どうかご注意を」
「…はい」
戦わざる者、働かざる者、食うべからず。衣住も同じ。中途半端な気持ちで前に出れば邪魔になる。
大人しく農家のお手伝いをしたほうが、余程人の役に立てる。解り切った事。迷う必要もない。
自分のスキル【拳闘士】も、暴れた家畜とかが出たら、まだ使い道がありそうだ。
ジョルディとはギルド支部の建物の前で別れた。何か困った事があれば、相談には乗ると言ってくれた。
討伐隊用と一般用。入口からして別れていた。
迷いもせず一般用に入った。残りの3人も考えは同じ。
受付の奥の年配の男性が、俺たちを見るなり舌打ちをしていた。
お前らが来るのはこっちじゃないだろ。言いたい台詞はそんな所だろう。
逃げ出した者の宿命。有り難く受け入れる。
掲示板には稼ぎ易い魔物の討伐は一切無い。そちらは討伐組の仕事。こちらには主に農業や商業に関連する、普通の肉体労働系の仕事ばかり。
ここから先は個性が出た。女子の2人は一緒に出来る仕事を。腕力だけは自信がある俺は完全肉体労働。人手が足りてないのか、他に比べて日給が割高。
頭を使う商業系を城島が選んでいた。
選んだ仕事はバラバラでも、一応同じ宿屋に部屋を取る事にした。ここまで行動を共にして来た縁もあり、本当に帰還出来るチャンスが巡って来た時に、散っていては取り残される危険を回避する為にも。
峰岸や斉藤のような恋は生まれなかった。こんな図体だけのチキンに振り向いて貰えるはずがない。無能や來須磨の隣に座っていた美女たちを思い出す。
素直に羨ましかった。ロンジー教官の指摘通り、何も為してないのに、無意味にモテるワケがないよな…。
王都で再会出来た時。無能が鷲尾さんに抱き締められて悶絶していたのを思い出す。憎たらしい。イケメンでもないくせに。俺も真面目に仕事をしていれば、何か出会いがあるのかな。頑張ろう。城島と一緒に夜の町を徘徊してもいいな。真面な出会いは昼間かも知れないが…。
町には飲食店、服飾店、武具の工房と小売店、道具屋。歓楽街の中には、定額の賭博場や王都には無かった娼館まで堂々と軒を連ねていた。軍事に性の問題は付き物。
中には女性向けの館まで。すげぇ。看板だけでも面白い。
中のシステムなんて知らない。元世界のエロサイト知識くらいしか持ってない。同じかな…。興味が湧く。もの凄く気になる。気になって仕方ない。今夜にも行ってみたい。
お金と入る度胸が無いから、今すぐは無理だ。
世の中の大半の男は女の為に働いてると言っても過言じゃない。(過言です)
だから俺も例に漏れず、仕事をバリバリ頑張ろう。
そう心に誓い直した。
「じょ、女性用…の風俗店」
「め、眼が怖いよぉ。オオちゃん、これは悪いお店だよ」
「何言ってるの。これは歴とした社会勉強よ。中身は真面目なエステサロンかも知れないし。確かめよう!」
鴉州が岸川の腕を掴んで、ズカズカと勇ましく入店して行った。
「待ってオオちゃん。本気?ダメだって。まだ私こ、心の準備がーーー」
半泣きで連行される岸川。
女子が大人の世界に足を踏み入れた。それに比べて俺たちは、お店の前で躊躇している。この差は何だ。根性腐ったチキン野郎は、こんな場所でも一歩を踏み出す勇気も無いのか!
「りょ、料金体系を確認しないとさ…」
城島が行ってしまう。こんな奴にまで先を越されてしまうとは。勝負にも試合にも負けた位に悔しい。
店の入口階段に足を掛けた城島の肩を掴んで止めた。
「お、置いてくなよ。ずっと一緒だったろ」
「き、気持ちの悪い事言うなよ。鴉州さんも言ってたじゃん。社会勉強だって。僕ら完全に男として見られてないんだよ」
現実は切ない。寝食をどれだけ共に重ねても、生まれない物は生まれない。こんな娼館の前で、悲しい現実を突き付けないでくれ。
「き、聞くだけだよな。先に行ったりしないよな」
「そんなに言うなら、先行きなよ。し、指名とか被ったらジャンケンで」
お店の玄関で押し問答する迷惑な若い2人の客は、最後には屈強な案内係に尻を蹴られ、入店を果たした。
しかし直ぐさま放り出された。隣店の女子組も同様に。
「早速、今日から仕事しよう。面接行ってくる」
「が、頑張ろう。お互いに」
路線とゴールを見誤ってはいたが、兎に角4人の男女はやる気を起こした。何かを始めるのに、きっと遅い事は何も無いと。
そう信じて疑わなかった。誰しも、俺もそう。
生き辛い異世界。脱出と帰還の糸口が見つかり、期待感から少し浮かれていたのは認める。
峰岸やロンジーの指摘の通り、殊戦闘に関し俺たち4人は手を抜いていた。とっくに見透かされていた。
足手纏い。クビも当然。
単純に怖い。殺されるのも、何かを殺すのも。
獣や魔物ならまだ納得もする。戦時下に在る国では平気で人間同士が殺し合っていると聞いた。
戦争。言葉や文字は認識していても、実感なんて無い。
日本も数十年前は戦争をしていたと聞いても、地球の裏側で紛争が起きていると聞いても。
何処か別世界の話だと思い込んでしまう。
こちらの世界では、日常の風景のようにそこら中に転がっていた。当たり前の光景。当たり前の戦争。銃火器や化学兵器の代わりに魔術がある。それ位しか違わない。
「日本に帰りたいなら、自分の手も汚せよ」
峰岸に最後に掛けられた言葉。何も言い返せず、俺たちは北の国境沿いの町マルゼに飛ばされた。
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東西数キロに及ぶ高い壁に囲まれた、要塞都市。
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フェンリル討伐。それが彼らの悲願。段々と現実味を帯びて行く。北に向かう時の拠点としての存在。峰岸組や無能組が必ずこの町に立ち寄る。俺たちは只のオマケ。
使い物にならないスキル。上達しない技。何かを期待される訳でも、ここで訓練をするのでもなく。合流するのに都合が良い。野放しにも出来ない。だからここへ飛ばされた。
裏を返せば、ここよりも安全な町は他に無いからとも。
町の姿は強固。纏う雰囲気も暗く沈んだような物でなく、兵たちの士気も意識も高い。
ベンジャムとクイーズの大型駐屯地。その2つに挟まれた形で冒険者ギルド支部が建つ。
国軍がそれぞれ5千騎。冒険者が約1千。総勢1万1千の精鋭が集まっている。中途半端な俺たちなんかより、ずっと強い人たちだ。
異世界の召喚者たちに期待されていたのは、兵力の増強の一点。この場所に来て、討伐までの全てを召喚者にだけ押し付けられていたのではないと解った。
「これが実情です。少しは安心出来ました?」
背中に大きな戦斧を携え、微笑む女性。センゼリカ本部から一緒に来た、ジョルディ。
「す、少しだけは」残りの3人も頷いた。
「私の役目はここにお連れする所まで。町から出ない、逃げないお約束をして頂けるなら。後は何をするのも自由です。心を入れ替え鍛錬するも良し。他の方々と合流するまでの間、遊び倒すのも良し。農業や畜産の手伝いをするも良し。お好きなようになさい」
「ジョルディさんは、王都へ帰るんですか?」
「いいえ。元々私は、フェンリル討伐に参加する予定でしたから。このままギルド支部に留まります」
「怖くはないんですか?魔獣と戦うのが」
「怖い?当然ではないですか。あの大狼と本気で遣り合うのです。恐怖を抱かぬ兵は一人も居ませんよ。根からの戦闘狂でもない限りは」
当たり前の答え。聞いた俺が馬鹿だった。
「戦う理由はそれぞれ。国の為、お金の為、得られる名声の為、恋人や家族の為、友や仲間の為。色々です。専ら私は共に戦う仲間の為と、前線に出られぬ父の為。この斧を振るい、一人でも多くの仲間を救いたい。敬愛するリンジー様が、タッチーらと戦いに赴かれるなら。隣に立ち、か細い盾にもなりましょう。不要だとは思いますが」
最後は少しだけ残念そうに語っていた。
「この戦いに参加するなら、全ての滞在費は両国から支給されます。参加されないのでしたら自費となります。冒険者らしく近隣の魔物を討伐して稼ぐか、先程挙げた手伝いをして稼いで下さいね。因みに各所に看破持ちが紛れているので嘘は一切通じません。タッチーさんとヒオシさんのように、完全隠蔽を施しても逆に見えない事を怪しまれ疑われる。特にあなた方は既に身元が周知されています。嘘や犯罪行為は一般人同様に処罰されますので、どうかご注意を」
「…はい」
戦わざる者、働かざる者、食うべからず。衣住も同じ。中途半端な気持ちで前に出れば邪魔になる。
大人しく農家のお手伝いをしたほうが、余程人の役に立てる。解り切った事。迷う必要もない。
自分のスキル【拳闘士】も、暴れた家畜とかが出たら、まだ使い道がありそうだ。
ジョルディとはギルド支部の建物の前で別れた。何か困った事があれば、相談には乗ると言ってくれた。
討伐隊用と一般用。入口からして別れていた。
迷いもせず一般用に入った。残りの3人も考えは同じ。
受付の奥の年配の男性が、俺たちを見るなり舌打ちをしていた。
お前らが来るのはこっちじゃないだろ。言いたい台詞はそんな所だろう。
逃げ出した者の宿命。有り難く受け入れる。
掲示板には稼ぎ易い魔物の討伐は一切無い。そちらは討伐組の仕事。こちらには主に農業や商業に関連する、普通の肉体労働系の仕事ばかり。
ここから先は個性が出た。女子の2人は一緒に出来る仕事を。腕力だけは自信がある俺は完全肉体労働。人手が足りてないのか、他に比べて日給が割高。
頭を使う商業系を城島が選んでいた。
選んだ仕事はバラバラでも、一応同じ宿屋に部屋を取る事にした。ここまで行動を共にして来た縁もあり、本当に帰還出来るチャンスが巡って来た時に、散っていては取り残される危険を回避する為にも。
峰岸や斉藤のような恋は生まれなかった。こんな図体だけのチキンに振り向いて貰えるはずがない。無能や來須磨の隣に座っていた美女たちを思い出す。
素直に羨ましかった。ロンジー教官の指摘通り、何も為してないのに、無意味にモテるワケがないよな…。
王都で再会出来た時。無能が鷲尾さんに抱き締められて悶絶していたのを思い出す。憎たらしい。イケメンでもないくせに。俺も真面目に仕事をしていれば、何か出会いがあるのかな。頑張ろう。城島と一緒に夜の町を徘徊してもいいな。真面な出会いは昼間かも知れないが…。
町には飲食店、服飾店、武具の工房と小売店、道具屋。歓楽街の中には、定額の賭博場や王都には無かった娼館まで堂々と軒を連ねていた。軍事に性の問題は付き物。
中には女性向けの館まで。すげぇ。看板だけでも面白い。
中のシステムなんて知らない。元世界のエロサイト知識くらいしか持ってない。同じかな…。興味が湧く。もの凄く気になる。気になって仕方ない。今夜にも行ってみたい。
お金と入る度胸が無いから、今すぐは無理だ。
世の中の大半の男は女の為に働いてると言っても過言じゃない。(過言です)
だから俺も例に漏れず、仕事をバリバリ頑張ろう。
そう心に誓い直した。
「じょ、女性用…の風俗店」
「め、眼が怖いよぉ。オオちゃん、これは悪いお店だよ」
「何言ってるの。これは歴とした社会勉強よ。中身は真面目なエステサロンかも知れないし。確かめよう!」
鴉州が岸川の腕を掴んで、ズカズカと勇ましく入店して行った。
「待ってオオちゃん。本気?ダメだって。まだ私こ、心の準備がーーー」
半泣きで連行される岸川。
女子が大人の世界に足を踏み入れた。それに比べて俺たちは、お店の前で躊躇している。この差は何だ。根性腐ったチキン野郎は、こんな場所でも一歩を踏み出す勇気も無いのか!
「りょ、料金体系を確認しないとさ…」
城島が行ってしまう。こんな奴にまで先を越されてしまうとは。勝負にも試合にも負けた位に悔しい。
店の入口階段に足を掛けた城島の肩を掴んで止めた。
「お、置いてくなよ。ずっと一緒だったろ」
「き、気持ちの悪い事言うなよ。鴉州さんも言ってたじゃん。社会勉強だって。僕ら完全に男として見られてないんだよ」
現実は切ない。寝食をどれだけ共に重ねても、生まれない物は生まれない。こんな娼館の前で、悲しい現実を突き付けないでくれ。
「き、聞くだけだよな。先に行ったりしないよな」
「そんなに言うなら、先行きなよ。し、指名とか被ったらジャンケンで」
お店の玄関で押し問答する迷惑な若い2人の客は、最後には屈強な案内係に尻を蹴られ、入店を果たした。
しかし直ぐさま放り出された。隣店の女子組も同様に。
「早速、今日から仕事しよう。面接行ってくる」
「が、頑張ろう。お互いに」
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