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第3章 大狼討伐戦

第14話 苦渋な越境

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-スキル【不死鳥】
 並列スキル【自動蘇生】発動が確認されました。-

俺はあの時死んだ。黒いドラゴンの熱線に焼かれて20人のクラスメイトと共に死んだはず。

藤原道真。それが俺の名前。古くさいだの、安直な理由で軽く苛められた。陰気な風貌と病弱な小さな身体も相まって恰好の的にされた。その苦い記憶もストレスも。
地元を離れ、寮付きの高校に入って苛める奴らも居なくなった。やっと思い通りの生活が送れる。普通の友達とか。
そう考えていた矢先。あの梶田が現われた。

特に理由が無くても腹を殴り付け、ギリギリの仕送りまで巻き上げられた。
高価なカメラを買わされて、盗撮をさせられた。それも担任の門藤にバレ、全責任を俺に押し付けられた。

梶田と門藤も、その動画を見て薄ら笑ってたのに。

高校でも俺の味方は居なかった。

來須磨も無能の味方を気取るばかりで俺には構わず。似た様な境遇の城島も委員長の峰岸にべったり。

一回梶田が來須磨にボコられて大人しくなった。それだけは有り難かった。俺の事も気に掛けてくれたのかと期待してみたが、どうやらそうではなかった。


強い憧れ。学校屈指の美女。鷲尾さん。
彼女だけが唯一の心の救いだった。カメラに収められた見切れた着替えシーン。あれが脳裏に焼き付いていつまでも離れない。どこかに在るなら取り戻したい。

どうして俺が選ばれた?意味も理由も理解し難い。
夏休みに入る数日前。突然頭に響いた、俺だけに聞こえた声に従い、クラス全員が高確率で集まる終業日を答えた。狙いはズレ無く叶った。

異世界、ハーレム、成り上がり。絶対強者、俺TUEEE。
無能から奪うように借りたラノベで読んだ夢物語。

クラスメイトを巻き込んだ異世界転移。
動揺したし戸惑った。元の世界よりも酷い状況に驚愕もした。俺の所為だとは口が裂けても言えない。

誰も向かえない来ない。神的存在にも会えない。
学校周辺には何も無い荒野が広がっていた。

転移翌日に、無能と來須磨が消えた。
自殺や殺害が疑われたが、隣の空き教室の黒板にデカく。
「旅立ちます。留まっててもたぶん死んじゃうよ」
「せいぜいガンバレよー」
2人の書き置きが残されていた。

他は暫く見てない振りをして現実逃避を決め込んだ。俺も含め、出て行く勇気が無かった。

10日後に峰岸ら6人が消えた。
その数日後に、鷲尾さんと山査子が、学校から居なくなった。誘ってくれれば付いて行ったのにと。

食料が底を突いた。調理出来るのはカップ麺位。
これだけで後何日持つのか。不安と絶望を抱えながら、コンロに火を入れた。

無能が指摘した事故は起きず、安堵したのを覚えてる。
直後にドラゴンに襲撃され、学校に残った全員が爆殺。その時俺も、仲良く死んだと思ってた。


蘇生復活を繰り返す度に、記憶の何かが消えて行った。
身体の損壊具合で、復活までの時間が変化した。
初回の全損状態では、14日。先生のロッカーに有ったデジタル時計の日付が正しく進んでたなら。

門藤のロッカーで念願のカメラを発見。バッテリーが切れるまで。空腹で自分が死ぬまで。時間の限り、鷲尾さんの姿だけを見続けた。

空腹、飢餓、水分不足。死んでも生き返った。
野犬に噛まれ、狂犬病で発狂して死んでも生き返った。
微妙に強く、病気に強く、何も食べなくても寝るだけで生きられる身体へと進歩した。

進化じゃない。肌の色は紫色に。物を必要としない内臓の殆どは活動を停止。栄養が足りない脳は、少し考え事をしただけで眠くなる。数歩歩くだけで疲れて眠る。
ほぼ本能で動く物体へ。惰性で生きる生命体へ。

死にたい。生きたい。帰りたい。旅に出たい。鷲尾さんと一緒に。強い願望だけが残された。


死にたくても、死なないように頑張って努力しても。この世界は、俺に死を強要した。

独りぼっち。ボッチの世界。望んだ物語のような世界じゃなかった。こんな物なら、元世界の方が断然マシだった。

何処に行けばいいのか、行き先も目的も無い。
食欲も無い。生きる希望すら無い。屋上から飛び降りても数日後には生き返っちまう。


学校のプールが在った場所に、地下へと続く洞穴を見つけた。誰でもいい。凶悪な魔物でも魔獣でもドラゴンでも、俺を殺してくれ。残さず喰らい続けてくれ。

そればかりを願い。裸体でカメラだけを握り絞め、口を開けた洞窟へ足を踏み入れた。序でにカメラも壊して貰おう。最後の瞬間まで、鷲尾さんと一緒に。

残された願望はたったそれだけ。親でも弟でもない。
鷲尾さんただ1人。


大きなワニのようなモンスターと遭遇した。
土下座姿勢で頭を前に差し出す。容赦なく噛み砕かれる骨の音。咀嚼され飲み込まれた。

人間としての感覚は、そこまでだった。痛みと苦痛を感じたのは。



-----

-スキル【魅了】
 並列スキル【従属】発動が確認されました。-

フウに造って貰った新たな武器。円月輪。
全周に金属製の刃を認めた、物理殺傷用の武器。

「戻りなさい!」
両腕に5輪ずつ。計10。投げ放ち、腕に戻す。
1つ2つ3つ。空中で操作する感覚を覚え、放つ数を増やして行った。

味方に当たらないように。
感覚を研ぎ澄まし、最終的には10輪全ての操作が可能になった。自分の芯と細い糸で繋がったような感覚。


隣ではフウが地面から這い出た大蜥蜴を、体落とし+背負いで沈め、他方の敵に投げ付けていた。息をも着かせぬ連続技。
掴めるリーチの短い蜥蜴には、ガントレットから鉤爪を迫り出して対処する。


アジショナルゲーター。Aランクの中位。
地中を好む大型の鰐。湿度の高い場所に住み着く習性を持ち、接近する物体を誰彼構わず喰らおうとする。

手を焼いているのは主にこいつ。成体のアリゲーターを越える大型のワニ。たまに低位の蛇等まで出るが、それらはカルが雷撃で焼き焦した。

爬虫類の巣窟。大枠では竜種に該当。私とフウのトラウマは払拭された。…違うかな。羽や翼が無い分、別物として見ているのかも。単なる蜥蜴だと。


返り血を浴びても怯まない。牙を向けられても怯えない。
今更何を。ツーザサの惨状は私たちを変えた。
今更何も、取り戻せはしないけど。

「学校の下に、こんな奴らが居たなんて」
「ここ片付けないと安眠出来ないね」
「それにしても…。何処まで続いているのかしら」

カルのマップでは、私たちは下りながら緩りと南へ移動していた。このまま進めばプリシラまで潜れる気がする。

私たちには逆戻り。最低限のノルマは達成した状態で逃亡したのだから、犯罪者扱いはされてない。と思いたい。

今現在、プリシラでの評価がどうなっているのか、ちょっと怖いし、出来れば行きたくないな。

熱烈なキスでお別れした、ポンコツ3人組の顔が思い浮かんじゃう。出会すのは気恥ずかしいな。まだスキルの解除してなかったから、きっと今でも彼女たちは…。

意志が強ければ自己解除も可能。果たしてどうだろう。


ダンジョンは下げ止まり、人為的に掘り進められた空洞を南下していた。巨大な生物が無理矢理通過したような粗い削り方。岩盤が抉られて剥き出しの岩肌が見える。

魔物の発生も止まって、小休止。

「どうする?進む?」
「一応書き置き残してきたから、無能君たちには伝わると思うけど」
「再びプリシラに亡命したと誤解されるのは嫌です。私は一旦戻りたい」

これ以上の行動は誤解を招き兼ねない。更に上位のモンスターが現われないとも限らないし。


死骸がそのままに、出た魔石だけ集めて回る。
しっとり全身が汗ばむ。奥に行く程、湿度が高くなる。
本来低温で涼しいはずが、地熱が逆に上昇していた。

「これって、もしかして」
「掘れば温泉出たりしてね」
「温泉?天然の湯?」

「そうそう。あるなら丁度入りたい気分だけど…」
「流石に源泉は熱くて入れないでしょ」
「よく解りませんが、そういう物なの?」

「効能にも依るけど、汚染されてなければ飲料用にも使えるの。冷ませばね」
「出た後のコーヒー牛乳が堪らんのですよ」
「えー、私はフルーツかな」

「飲み物?作れそうなら作ってみようよ」
楽しそうな話で、少しずつカルに笑顔が戻る。良い傾向。

カルのほっぺを撫でながら。
「一旦戻ろう。戦ってる最中に源泉湧いても困るし」


奥に背を向けた瞬間。背後で何かの気配を感じた。
索敵には何も反応が無い。

「わ…し…お…さ…ん…」
地の底から響くような重低音。そして日本語。
激しい悪寒に振り返った。

「だ、誰?」こちらも日本語に切替えて尋ねた。

「あ…い…た…か…た」

出で立つその巨体は。一匹の魔獣。

「ヒッ…」思わず漏れ出た悲鳴を手で抑える。
「何、アレ…。てか、誰よ」
「酷い、有様です。どちらがどちらを侵蝕したのかさえ…」

まず見た目がグロイ。ベースはワニにも見える。

イグニスゲーター。Sランク低位。
進化途中の鰐の変異種。竜でもなく、蜥蜴でもない。途上で異種生物を摂取する事で、異種要素を取り入れてしまう事が稀にあるらしい。パワーが桁外れな反動か、本来の寿命は短くなってしまう。長寿の成功例は記録には無い。

所々鱗が剥がれ落ち、目玉は片方飛び出ている。後ろ足が人間の肌色。長い口先の形が崩れ、蜥蜴寄り。だらしなく涎を垂れ。何より腐った硫黄臭が凄い。

イグニスがクラスの生き残りの誰かを捕食し、捕食された誰かが内側から抵抗した結果。無惨な異形の姿へと変異したと思われる。

足が竦む。スキルが通じるかどうか以前に、こんな生き物を従えたくない。

「に、逃げ」
「行かない…で!」

足に力が入らない。私の前に割って入ったフウが長い尾に打たれて弾き飛ばされ、壁にめり込んだ。

カルが後ろから電撃を放とうとした途端。私の身体はイグニスから伸びた長い舌に捕まった。

「撃てないない!フウちゃん!」
目の端で、カルが埋もれたフウを掘り起こそうしていたのが辛うじて確認出来た。首を絞められて意識が遠退く…。



イグニスはダンジョンの奥地へと。アビを連れ去った。

「クッソ、油断したぁ」
「アビちゃんが攫われた」

「落着いてカルちゃん。カルは地上に戻って無能君たちに救援を求めて。私はあいつの邪魔をする。体力が続く限りね。アビをあんなグロに喰われて堪るか!!」
立ち上がり、泥を払う。軽くジャンプして身体の具合を確認し終えた。

「直ぐに呼んで来ます。アビちゃんをお願い」
「されなくてもやる。無能君が拒否したら、もう二度と便利な魔道具作らないよって伝えといて。私も死ぬかもだし」
「はい」

カルが走り去るのを見届け、フウは気合いを入れ直してイグニスの後を追った。

私ら、ホント男運ないねぇ。あれはクラスの男子の誰かだ。時間を掛けたらアビが何をされるか解ったもんじゃない。

幸い方向音痴でも迷わぬ広いだけの一本道。
硫化ガスの影響も心配。濃度次第ではそっちも時間は掛けられない。

楓子は全力で走った。南のプリシラベートの領域まで、突入しているとも知らず。
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