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第3章 大狼討伐戦
第5話 守人
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ゆっくりと、じわりと。逃れられない手で首を絞められて行く。
黒い瘴気は確実に。こちらの動きを封じていた。
逃げ出せばザイリスさんが死ぬ。ここに居ても自分が殺される。見上げれば、死を連想してしまう。
逃げ出す気は毛頭無い。
魔石を白に切替えた。黒には白と単純な理由。
体感魔力も半分を切り、防御を張ろうにも何時まで持つかは微妙な線。挑むなら短期勝負。
睨み合う。熊は4本足を地に着けて低く唸っていた。
真性の獣。対峙する程、心が折れそうになる。
隙だらけで隙が無い。これが奴との力量差。
熊の背には槍が数本刺さったまま。
-スキル【狂戦士】
並列スキル【防衛】発動が確認されました。
反発スキルの発動により【狂戦士】は、
【闘真】へと進化しました。-
命を賭ける、この一手。構えると同時に熊が立つ。
天から強い稲妻が落ちたのもほぼ同時。
熊の背の槍が避雷針の如く、全てを吸収した。
僅かな硬直。出来上がった隙間。行くなら今!
-スキル【闘真】
下位スキル【隠蔽・極み】併発効果により、
【曲者】発動が確認されました。-
右後ろの膝側面を抜き態に捌き斬った。
斬れる。回復はしていない。白は正解。
思い出したかのように叫んで暴れる巨熊の姿。
もう一発の稲妻が落ちた。間違いなくこれは魔術。
遠距離でこれが出来る人物を、俺は一人しか知らない。
ありがとう、メイリダさん。受け取ったチャンス。無駄にするもんか。
熊の死角に入り込み、背から前から横から、斬って斬って斬り刻む。
体力と魔力が続く限り。
魔力も残り僅かとなった頃。熊は肢体を捥がれ、仰向けに倒れた。
巨体が倒れる勢いで大地も揺れる。背中の槍が自重に押され深々と差し込まれる。それが致命傷となった。
耳障りな断末魔が、次第に小さくなって行く。
油断はしない。やるなら最後まで。
広がる熊の胸を裂き、大きな黒い魔石を掴み引き抜いた。
憎しみに満ちた赤い目が光を失う。
「ザイリスさん!」
「兄さん。…こんな…」
ザイリスの身体は、既に生きる力を失い呼吸も浅い。
目は開いていても真っ白に焼かれていた。
顔も首も焼け爛れ、服も鎧も3割溶かされ、所々白い骨まで覘いていた。
「メイさん、離れて。残りの魔力で回復打ちます」
「止めとけ…。無駄だ。テンペストは、どうした」
「倒したよ。倒してくれたよ、ヒオシ君が一人で」
「メイさんと一緒にだよ。雷で足止めを」
この兄妹の得意な連携。
「良かった。これで…。ラーナに、いい土産話が」
「…そんな事、言わないで」
ラーナと言う名に聞き覚えは無い。きっとザイリスさんの大切な人だったんだろう。
「何も見えねぇ。声まで遠い…」
震える右手が虚空を目指して伸びる。メイリダさんが握りその上を包むように添えた。
「死ぬってのは、意外に、味気ないもんだな。生きろよ、二人共。こんな国、捨てちまえ。自由に、さいごま…」
「兄さん!!」
一人の人間の死。これが現実。
もっともっと色々話したかった。教わりたかった。
沢山の冒険を。彼が知る多く仲間たちと。
それはもう、適わぬ願い。
泣き叫ぶメイリダの肩を抱き、ヒオシも泣いていた。
強大な敵を倒しても。根源たる赤竜を倒さぬ限り、また何かを呼び寄せる。
「…ヒオシ君。行って」
「無理。おれも力殆ど残ってないから」
近くに落ちていた大剣を拾い上げた。先端部が砕き折られていた。これは俺が修復する。絶対に。
「タッチーなら大丈夫。俺らの先輩たちも、もう直ぐ来るだろうし。心配要らない」
メイリダの対面側に腰を下ろし、彼の瞼を降ろした。
先程まで生きていたとは思えない位、冷たくて硬い頬。
「決めた」
「…何を」
「メイリダを俺らの旅に連れて行く。お義兄さんを弔ってから。嫌でも、引き摺ってでも連れてく。だから、一緒に生きよう」
「…うん」
笑顔は無い。たった今、肉親を目の前で亡くした人に掛けるべき言葉でないのも承知してる。
でも伝えようと思った。今だからこそ。
町中の戦火は消えてはいない。その傍らで。
ヒオシとメイリダの2つの背中は、とても小さく震えていた。
一人の英雄の亡骸を、前にして。離れずに。
黒い瘴気は確実に。こちらの動きを封じていた。
逃げ出せばザイリスさんが死ぬ。ここに居ても自分が殺される。見上げれば、死を連想してしまう。
逃げ出す気は毛頭無い。
魔石を白に切替えた。黒には白と単純な理由。
体感魔力も半分を切り、防御を張ろうにも何時まで持つかは微妙な線。挑むなら短期勝負。
睨み合う。熊は4本足を地に着けて低く唸っていた。
真性の獣。対峙する程、心が折れそうになる。
隙だらけで隙が無い。これが奴との力量差。
熊の背には槍が数本刺さったまま。
-スキル【狂戦士】
並列スキル【防衛】発動が確認されました。
反発スキルの発動により【狂戦士】は、
【闘真】へと進化しました。-
命を賭ける、この一手。構えると同時に熊が立つ。
天から強い稲妻が落ちたのもほぼ同時。
熊の背の槍が避雷針の如く、全てを吸収した。
僅かな硬直。出来上がった隙間。行くなら今!
-スキル【闘真】
下位スキル【隠蔽・極み】併発効果により、
【曲者】発動が確認されました。-
右後ろの膝側面を抜き態に捌き斬った。
斬れる。回復はしていない。白は正解。
思い出したかのように叫んで暴れる巨熊の姿。
もう一発の稲妻が落ちた。間違いなくこれは魔術。
遠距離でこれが出来る人物を、俺は一人しか知らない。
ありがとう、メイリダさん。受け取ったチャンス。無駄にするもんか。
熊の死角に入り込み、背から前から横から、斬って斬って斬り刻む。
体力と魔力が続く限り。
魔力も残り僅かとなった頃。熊は肢体を捥がれ、仰向けに倒れた。
巨体が倒れる勢いで大地も揺れる。背中の槍が自重に押され深々と差し込まれる。それが致命傷となった。
耳障りな断末魔が、次第に小さくなって行く。
油断はしない。やるなら最後まで。
広がる熊の胸を裂き、大きな黒い魔石を掴み引き抜いた。
憎しみに満ちた赤い目が光を失う。
「ザイリスさん!」
「兄さん。…こんな…」
ザイリスの身体は、既に生きる力を失い呼吸も浅い。
目は開いていても真っ白に焼かれていた。
顔も首も焼け爛れ、服も鎧も3割溶かされ、所々白い骨まで覘いていた。
「メイさん、離れて。残りの魔力で回復打ちます」
「止めとけ…。無駄だ。テンペストは、どうした」
「倒したよ。倒してくれたよ、ヒオシ君が一人で」
「メイさんと一緒にだよ。雷で足止めを」
この兄妹の得意な連携。
「良かった。これで…。ラーナに、いい土産話が」
「…そんな事、言わないで」
ラーナと言う名に聞き覚えは無い。きっとザイリスさんの大切な人だったんだろう。
「何も見えねぇ。声まで遠い…」
震える右手が虚空を目指して伸びる。メイリダさんが握りその上を包むように添えた。
「死ぬってのは、意外に、味気ないもんだな。生きろよ、二人共。こんな国、捨てちまえ。自由に、さいごま…」
「兄さん!!」
一人の人間の死。これが現実。
もっともっと色々話したかった。教わりたかった。
沢山の冒険を。彼が知る多く仲間たちと。
それはもう、適わぬ願い。
泣き叫ぶメイリダの肩を抱き、ヒオシも泣いていた。
強大な敵を倒しても。根源たる赤竜を倒さぬ限り、また何かを呼び寄せる。
「…ヒオシ君。行って」
「無理。おれも力殆ど残ってないから」
近くに落ちていた大剣を拾い上げた。先端部が砕き折られていた。これは俺が修復する。絶対に。
「タッチーなら大丈夫。俺らの先輩たちも、もう直ぐ来るだろうし。心配要らない」
メイリダの対面側に腰を下ろし、彼の瞼を降ろした。
先程まで生きていたとは思えない位、冷たくて硬い頬。
「決めた」
「…何を」
「メイリダを俺らの旅に連れて行く。お義兄さんを弔ってから。嫌でも、引き摺ってでも連れてく。だから、一緒に生きよう」
「…うん」
笑顔は無い。たった今、肉親を目の前で亡くした人に掛けるべき言葉でないのも承知してる。
でも伝えようと思った。今だからこそ。
町中の戦火は消えてはいない。その傍らで。
ヒオシとメイリダの2つの背中は、とても小さく震えていた。
一人の英雄の亡骸を、前にして。離れずに。
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