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第2章 再会、集結
第22話 再会の歯車
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-スキル【魅了】
並列スキル【予見】発動が確認されました。-
夢。あれは単なる夢。そう自分に言い聞かせ、城下街の宿屋ローレンライの扉を潜る。
カルちゃんが、無能君に…。そんなの有り得ない。
何度強く抑えても、心を覆う不安は去らなかった。
3人で中級の部屋を取り、荷物を降ろし久々のお風呂に入った。この世界ではとても贅沢な風呂。
シャワーは付いていなくても、魔道具さえあれば何とでもなった。
「どしたの?今朝到着してから、顔色悪いよ」
フウちゃんが私の顔を覗き込む。
「ううん。何でもない。大丈夫、行こう。みんな驚くかな」
「そりゃ驚くっしょ。私たち死んだ事になってるだろうし」
「そうね」
「何処かへ出掛けていなければ、今頃は食堂に集まっているはず。行ってみる?」
カルちゃんを、会わせてもいいのだろうか…。でも別行動は不自然過ぎる。
私とフウは別にしても、カルバンとはみんな初対面。私が選択を間違えなければいいだけ。
お調子者だけど、とっても良い子。頭もいいし、利発さも活発さもある。何よりみんなを帰す事を念頭に行動しているんだから、嫌われる要素が見当たらない。
うん。大丈夫。絶対。
食堂に到着して直ぐに中を見ると、一番奥の大テーブルに顔を知る8人が着席していた。やはり無能君も来栖磨君も元気に生きてた。安堵とは別の感情も湧いて来る。
「あー居る居る。それよかお腹空いたー」
漂う美味しそうな匂いに、フウのお腹が盛大に鳴った。
「挨拶したら、私たちもご飯にしましょ」
知らない女性も5人程。誰だろう。1人年配の女性が厳しい剣幕で怒ってる?
「無能君…。みんな、久し振り」
「おひさー。どうだ、驚きたまえ」
久々に使う日本語。本物である事を証明するにはてっとり早い。
「鷲尾さん!山査子さんも!」
驚き立ち上がったのは、副委員の斉藤さんだけ。他のみんなは、口をポカンと開けて固まっていた。
「これは、驚いた。俺たちの後に出たのか?」
峰岸君が代表で言葉を発した。掴みはOKなの?これ。
よし!少し気合いを入れて無能君に近付く。
-スキル【魅了】
並列スキル【服従】発動が確認されました。-
「ほう…。似ているな。面白い」
峰岸君の隣席の銀髪美女が小さく呟いた。
無能君を制御下に置く。ホントはこんな事はしたくない。
彼の顔面を自分の胸に押し付ける感じで抱き締めた。
以前から私を知る人には余り効かないスキル。異性に対しては初めて。どんな手を使っても、あの光景だけは回避したい。元世界からの想いもあり、全てが悪い感情ではないから。許して、無能君。
-スキル【無知無能・激情】
並列スキル【無欲】発動が確認されました。-
「わ、鷲尾さん。く、苦しいだけだから離れてくれない?誤解されちゃうよ」
やんわりと押し返された。
効きが悪い処か、全く効かず!赤っ恥を掻いたのは私だけだった。
元世界では彼も私を…。と思ってたのは、ただの自意識過剰。かなりの精神的ダメージ!
「アビちゃん。告るのは、状況見てからのほうが…」
フウが目線を送るその先の席。
無能君の隣の席の知らない女性が、明らかな敵意を瞳に称えていた。
目が合うと、彼の腕を引いて離しに掛かった。
あぁ、ホント。まだフリーかどうかだけでも、確認すべきだったわ…。
峰岸君が軽く咳払いをして。
「鷲尾、山査子。挨拶もそこそこだが、以後は日本語は禁じてくれ。ここには言葉通じない、こちらの世界の人たちが多数同席、一般人も近場に居るんだ」
こちらの世界の言葉で、空いている席を指差した。
足りない椅子を隣テーブルから持ち出し座り、姿勢を正した。何事も、ありませんでしたけど何か?挨拶よ挨拶。ちょっとアメリカンなやつ。
「私も含め、仲間に加えて欲しい。どうしても異なる10人に伝えたい事があります。食後に最上階の一室にでも」
カルバンが崩してしまった空気を整えてくれた。
「気になるな。男子部屋の方のリビングで集まろう。諸々紹介はその時に」
以前にも増したクールさ。少し冷たくも感じる。でもそれ位が今は丁度良い。
多少の手狭さは感じたものの、やはり大人数での食事は楽しいもので。不慣れなお酒もちょっぴり。その合間だけは胸の奥の不安は何処かへ消えてくれた。
こちらの世界に来て、やっと料理の味を感じられた気がした。こんなにも、美味しかったんだね。温かいスープに柔らかいパン。小さな幸せ。
この幸せが、ずっと続いて欲しい。
場を移しての、打ち合わせ兼顔合わせ。緊張する。
「何故か代表して知らない顔を紹介する。俺の右手はミスト。何を隠そう蜂種であり虫類の頂点に立つ、蜂の女王様で俺の婚約者の立場だ」
ハッキリと言って退けるあなたが凄い。
彼女から感じる違和感はそれだったのか。
「ユーコ。斉藤祐子も婚約者…。ぶっちぇけ今の嫁さんでミストと日々正妻の座を争ってる。モテる男は辛いよ」
「争ってなんか。負けっ放しだし…」
「私は何時でも受けて立つぞ」
斉藤さんもミストさんも、自分の意志を隠さず表明してる。取り残された気分。隣のフウの鼻息が荒い。落着いてよ。
「冗談は程々に。來須磨の隣がリンジー。元この国の王国騎士隊の一角を担ってた。この中で一番の年配者で、この国での教官役を務めるロンジーさんの娘さんだ」
「ヒオシと恋仲だ。改善の余地はあるが未だ第2夫人。気兼ね無く接してくれ。過去は当に振り切りました。母さん、長らくお待たせしました」
「本当に。ただ、悪いのは私だよ。いつでも…」
「いいえ、母さん。私も漸く。前に進めます」
この親子には何か遺恨が在ったらしい。來須磨君が黙殺してるなら、他人が口を挟むべきじゃない。
「タッチー。無能の隣に居るのがジェシカ。元この宿の従業員で縁あって無能の彼女らしい。先程の行為は誤解を生むだけだ。第3夫人の座を狙うなら、その覚悟を以て望んでほしい」
「リンジーと同じく。改善の余地はある、と思ってます。アビさん。中途半端な行いはどうか謹んで下さい」
す、すみませんでした。
來須磨君と同じく無能君も黙ってる。私は本当はどうしたいのだろう。確かに中途半端では踏み込めない。
初日に行動に移せなかった私の負け。
今はどうでもいいや。思ってる時点で、私は相応しくないんだ。失礼にも程がある。
「ロンジーさんの隣が、この国の冒険者ギルド総代の娘で秘書官のジョルディ」
「以後お見知りおきを。手続き等々は私が取り纏めますのでご安心を。お姉様…。これでやっと私も…」
複雑過ぎてよく解らない。ツッコミたいのにダメな奴だと感じてしまう。
「こちらの紹介はこんな感じだ。しどろもどろな彼女は鷲尾。アビでいいのか?鼻息荒くしてる人は山査子。フウと呼ぶが構わないか?」
「大丈夫。よろしくお願いします」
「構わないわ。人を獣みたく言わないでくれる?」
「で、そちらは?」
カルバンが席を立ち上がる。
「カルバン・クライブと申します。異世界の皆さんをこちらに召喚した張本人の娘です」
言い切った。非難されると解ってて。
一応に驚き押し黙る。当然。私とフウも最初聞かせれた時は反応に困ったもの。
「私の父を筆頭に。大魔術師の名だたる者たちが、亡国ゴーウィン国王に唆されて大規模な召喚術を行使してしまった。結果は召喚者の皆さんが知る所。謝罪はしません。望まぬ人たちまで巻き込まれるとは考えていなかったので」
「それは、俺たち側にこれを望んだ者が居る。そう言いたいのか?」
「その通りです。召喚術は例え未完であっても、双方の合意無しには成立はしない物。あなた方の中に、異常に強い交流の意思を持つ者が居たのでは。私はそう思ってます」
転移者の皆が首を横に振る。この中には居なかった。
「峰岸君が学校を出た後で、私たちも遅れて出た。残りの人たちは、黒竜に焼き殺されたと思う。怖くて、確認はしてない」
「その情報は俺たちも聞いている。学校が在った場所は跡形も無く黒竜に焼かれたと。見に行った訳じゃないから何とも言えないが。残りのクラスメイトに、転移を願った者が居たとしておこう。疑っても何も始まらないからな」
委員長は今でも冷静。怖い位に。
「思う所はそれぞれ在ると思います。その上で私は、召喚術の場に同席した者として。皆さんにご提案があります」
「それは?」
私とフウも聞けてない部分。純粋に聞きたい。
「皆さんを。要した代価、生贄も無く。元の世界に帰せる手が一つだけ在ります」
喜び。悲しみの顔が異世界者の面にそれぞれ浮かぶ。
「その話を鵜呑みしても。僕は」
「おれも」
「僕らはいいや。こっちの世界に大切な人たちが出来たから。自分たちだけ勝手には帰れない。他の人が帰りたいなら協力はする。でも僕らは身元はバラしたくない。残るなら尚更。こっちの世界を旅してから死にたい」
無能君の心境は、正直理解が及ばない。明確な違いを感じてしまう。この世界への執着心。その点で、私は違う。
私は、早く。一刻でも早く、帰りたい。帰れるのなら。
「聞けて良かった。捨てられる訳じゃないと解っただけでも有り難い」
「私も。嬉しいです、タッチー」
「このまま帰れないよ。帰りたくない」
「当然」
4人の温度差が他と違う。
「キョーヤ。帰るなら帰るで、責任を以て子種を残せ。実らなければ殺してでも追い縋るぞ」
プラス1!
「…ぜ、善処します。決定権は勿論それぞれ自分自身に在る。その時は自分で自分の道を決めてくれ。俺も出来れば帰りたい。ユーコと、帰るみんなと一緒にな。それで、その帰る手立てとは?」
「必要相当の資金、魔道具、魔石は入手しました。残るは術式を練る場所だけが定まらない。最も有力なのは、北の大山脈エイラーを越えた先。北の大陸、だと見ています」
「その根拠は?」
「召喚術を行使したのが失敗した要因です。先ず一に術式を展開した場所。序であの時、唯一足りなかった竜種の魔石。こちらは私たちが、ここまで来るまでに入手しました。ですから後は…」
「ちょいとお待ち。今、魔石が何と?」
ロンジーさんの顔色が急変した。何を慌てているのかな。
「ですから。既に魔石は入手済ですと」
「ここまで来るのに、南のトーラス山脈を突っ切ったから。途中の山の中腹に赤竜?の巣が在ってさ」
フウが私たちの武勇を聞かせる。全部カルちゃんに任せ切りだったけど。
私たちもその場に居合わせたワケだし。誇らしい。倒しらのは子供の竜だったけど。
「赤竜の…。成体を倒したのかい?」
「いいえ。奪ったのは幼体だけです。こちらに3匹分の」
BOXからカルバンが赤竜の、薄紅色の魔石を3つ取り出して見せた。
ミストが青ざめて呟く。
「愚かな…。聞こえたあの声は、これだったか…」
「成体。母竜はどうしたんだい!残りの子供は!」
「これが全てです。成体が不在だったので、運が良いと放置しそのまま…」
カルバンが口に手を当て言葉を失った。
「どう、したの?カルちゃん」
「何て事をしてくれたんだい!!」
ロンジーさんの叱責が飛んだ。いったい何が?
リンジーさんも大きな舌打ち。
「母さん。後は任せます。私は至急、王に報告を」
荒々しく椅子を蹴って立つ。
「私もリンジーと共に。アムール様の許可を頂かないと」
「ちょっと…行ってくる」
「クソが!」
「待ってタッチー。これを。必ず追います」
ジェシカさんが慌てて銀色の剣を無能君と交換していた。
走り出そうとした4人を前に、カルバンが立った。
「行くなら、私たちが乗って来た馬車を!」
「うるさい!退いて。馬よりも断然早い友達を僕らはもう持ってるから」
「どけクソ女」温厚だった來須磨君までが…。
塞がるカルちゃんを突き飛ばして出て行ってしまった。
「誰か説明してくれ。何が起きた」飲み込めていない峰岸君たちだけが取り残された状態。
「大人しくしてた魔獣を、そこの馬鹿小娘が呼び起こしちまった。後処理をせずに!子を奪われ、逆上した母竜がどうすると思う?復讐さ。一番に狙われる場所は、坊やたちの大切な人が居る、ツーザサと言う町。北ならね!勘違いして南のプリシラに向かえば、そちらに被害が及ぶ」
「私は…、私は…」
「そんな簡単な事も見過ごすとはねぇ。後悔しても遅い!どれ位前の話だい!」
「だいたい、2週間前です」
カルバンの代わりに私が答えた。
ロンジーさんがテーブルを叩く。
「6人は王に面が割れている。勝手な行動は許されない。このまま待機。坊やたちの後を追うのは、あんただけで行きな。自分たちが何をしでかしたのか、その目でしっかり焼いてきな!!」
「…はい」
「待って。行くなら私も」
「状況が飲み込めないけど。私も行く」
「2人には関係ない。ここで待ってて…」
あの時の私たちの行動は、間違いだったの?
「関係なくない!あれが罪なら、見過ごした私も同罪よ」
「私もよ。今更仲間外れはないわ」
「カルバン。覚悟して行きな。結果がどうであれ、坊やたちがどうするのかは、誰にも解りゃしないよ」
「…はい。この責任は全て私に」
状況が最悪へと転がって行く。
私がどんな手を尽くそうと。全てが手遅れだった。
カルちゃんが、無能君に胸を刺され貫かれる光景。
もう既に回避出来る手段は、残されてはいなかった。
なら見せないで欲しかった。
こんなスキル、欲しくなかった。私はもう…何も。
招かれた生き残りの10名はここで再会し、集結は為されなかった。
箍を外れた歯車は、転がり続け。深すぎる泥沼の中へと沈み行く。
並列スキル【予見】発動が確認されました。-
夢。あれは単なる夢。そう自分に言い聞かせ、城下街の宿屋ローレンライの扉を潜る。
カルちゃんが、無能君に…。そんなの有り得ない。
何度強く抑えても、心を覆う不安は去らなかった。
3人で中級の部屋を取り、荷物を降ろし久々のお風呂に入った。この世界ではとても贅沢な風呂。
シャワーは付いていなくても、魔道具さえあれば何とでもなった。
「どしたの?今朝到着してから、顔色悪いよ」
フウちゃんが私の顔を覗き込む。
「ううん。何でもない。大丈夫、行こう。みんな驚くかな」
「そりゃ驚くっしょ。私たち死んだ事になってるだろうし」
「そうね」
「何処かへ出掛けていなければ、今頃は食堂に集まっているはず。行ってみる?」
カルちゃんを、会わせてもいいのだろうか…。でも別行動は不自然過ぎる。
私とフウは別にしても、カルバンとはみんな初対面。私が選択を間違えなければいいだけ。
お調子者だけど、とっても良い子。頭もいいし、利発さも活発さもある。何よりみんなを帰す事を念頭に行動しているんだから、嫌われる要素が見当たらない。
うん。大丈夫。絶対。
食堂に到着して直ぐに中を見ると、一番奥の大テーブルに顔を知る8人が着席していた。やはり無能君も来栖磨君も元気に生きてた。安堵とは別の感情も湧いて来る。
「あー居る居る。それよかお腹空いたー」
漂う美味しそうな匂いに、フウのお腹が盛大に鳴った。
「挨拶したら、私たちもご飯にしましょ」
知らない女性も5人程。誰だろう。1人年配の女性が厳しい剣幕で怒ってる?
「無能君…。みんな、久し振り」
「おひさー。どうだ、驚きたまえ」
久々に使う日本語。本物である事を証明するにはてっとり早い。
「鷲尾さん!山査子さんも!」
驚き立ち上がったのは、副委員の斉藤さんだけ。他のみんなは、口をポカンと開けて固まっていた。
「これは、驚いた。俺たちの後に出たのか?」
峰岸君が代表で言葉を発した。掴みはOKなの?これ。
よし!少し気合いを入れて無能君に近付く。
-スキル【魅了】
並列スキル【服従】発動が確認されました。-
「ほう…。似ているな。面白い」
峰岸君の隣席の銀髪美女が小さく呟いた。
無能君を制御下に置く。ホントはこんな事はしたくない。
彼の顔面を自分の胸に押し付ける感じで抱き締めた。
以前から私を知る人には余り効かないスキル。異性に対しては初めて。どんな手を使っても、あの光景だけは回避したい。元世界からの想いもあり、全てが悪い感情ではないから。許して、無能君。
-スキル【無知無能・激情】
並列スキル【無欲】発動が確認されました。-
「わ、鷲尾さん。く、苦しいだけだから離れてくれない?誤解されちゃうよ」
やんわりと押し返された。
効きが悪い処か、全く効かず!赤っ恥を掻いたのは私だけだった。
元世界では彼も私を…。と思ってたのは、ただの自意識過剰。かなりの精神的ダメージ!
「アビちゃん。告るのは、状況見てからのほうが…」
フウが目線を送るその先の席。
無能君の隣の席の知らない女性が、明らかな敵意を瞳に称えていた。
目が合うと、彼の腕を引いて離しに掛かった。
あぁ、ホント。まだフリーかどうかだけでも、確認すべきだったわ…。
峰岸君が軽く咳払いをして。
「鷲尾、山査子。挨拶もそこそこだが、以後は日本語は禁じてくれ。ここには言葉通じない、こちらの世界の人たちが多数同席、一般人も近場に居るんだ」
こちらの世界の言葉で、空いている席を指差した。
足りない椅子を隣テーブルから持ち出し座り、姿勢を正した。何事も、ありませんでしたけど何か?挨拶よ挨拶。ちょっとアメリカンなやつ。
「私も含め、仲間に加えて欲しい。どうしても異なる10人に伝えたい事があります。食後に最上階の一室にでも」
カルバンが崩してしまった空気を整えてくれた。
「気になるな。男子部屋の方のリビングで集まろう。諸々紹介はその時に」
以前にも増したクールさ。少し冷たくも感じる。でもそれ位が今は丁度良い。
多少の手狭さは感じたものの、やはり大人数での食事は楽しいもので。不慣れなお酒もちょっぴり。その合間だけは胸の奥の不安は何処かへ消えてくれた。
こちらの世界に来て、やっと料理の味を感じられた気がした。こんなにも、美味しかったんだね。温かいスープに柔らかいパン。小さな幸せ。
この幸せが、ずっと続いて欲しい。
場を移しての、打ち合わせ兼顔合わせ。緊張する。
「何故か代表して知らない顔を紹介する。俺の右手はミスト。何を隠そう蜂種であり虫類の頂点に立つ、蜂の女王様で俺の婚約者の立場だ」
ハッキリと言って退けるあなたが凄い。
彼女から感じる違和感はそれだったのか。
「ユーコ。斉藤祐子も婚約者…。ぶっちぇけ今の嫁さんでミストと日々正妻の座を争ってる。モテる男は辛いよ」
「争ってなんか。負けっ放しだし…」
「私は何時でも受けて立つぞ」
斉藤さんもミストさんも、自分の意志を隠さず表明してる。取り残された気分。隣のフウの鼻息が荒い。落着いてよ。
「冗談は程々に。來須磨の隣がリンジー。元この国の王国騎士隊の一角を担ってた。この中で一番の年配者で、この国での教官役を務めるロンジーさんの娘さんだ」
「ヒオシと恋仲だ。改善の余地はあるが未だ第2夫人。気兼ね無く接してくれ。過去は当に振り切りました。母さん、長らくお待たせしました」
「本当に。ただ、悪いのは私だよ。いつでも…」
「いいえ、母さん。私も漸く。前に進めます」
この親子には何か遺恨が在ったらしい。來須磨君が黙殺してるなら、他人が口を挟むべきじゃない。
「タッチー。無能の隣に居るのがジェシカ。元この宿の従業員で縁あって無能の彼女らしい。先程の行為は誤解を生むだけだ。第3夫人の座を狙うなら、その覚悟を以て望んでほしい」
「リンジーと同じく。改善の余地はある、と思ってます。アビさん。中途半端な行いはどうか謹んで下さい」
す、すみませんでした。
來須磨君と同じく無能君も黙ってる。私は本当はどうしたいのだろう。確かに中途半端では踏み込めない。
初日に行動に移せなかった私の負け。
今はどうでもいいや。思ってる時点で、私は相応しくないんだ。失礼にも程がある。
「ロンジーさんの隣が、この国の冒険者ギルド総代の娘で秘書官のジョルディ」
「以後お見知りおきを。手続き等々は私が取り纏めますのでご安心を。お姉様…。これでやっと私も…」
複雑過ぎてよく解らない。ツッコミたいのにダメな奴だと感じてしまう。
「こちらの紹介はこんな感じだ。しどろもどろな彼女は鷲尾。アビでいいのか?鼻息荒くしてる人は山査子。フウと呼ぶが構わないか?」
「大丈夫。よろしくお願いします」
「構わないわ。人を獣みたく言わないでくれる?」
「で、そちらは?」
カルバンが席を立ち上がる。
「カルバン・クライブと申します。異世界の皆さんをこちらに召喚した張本人の娘です」
言い切った。非難されると解ってて。
一応に驚き押し黙る。当然。私とフウも最初聞かせれた時は反応に困ったもの。
「私の父を筆頭に。大魔術師の名だたる者たちが、亡国ゴーウィン国王に唆されて大規模な召喚術を行使してしまった。結果は召喚者の皆さんが知る所。謝罪はしません。望まぬ人たちまで巻き込まれるとは考えていなかったので」
「それは、俺たち側にこれを望んだ者が居る。そう言いたいのか?」
「その通りです。召喚術は例え未完であっても、双方の合意無しには成立はしない物。あなた方の中に、異常に強い交流の意思を持つ者が居たのでは。私はそう思ってます」
転移者の皆が首を横に振る。この中には居なかった。
「峰岸君が学校を出た後で、私たちも遅れて出た。残りの人たちは、黒竜に焼き殺されたと思う。怖くて、確認はしてない」
「その情報は俺たちも聞いている。学校が在った場所は跡形も無く黒竜に焼かれたと。見に行った訳じゃないから何とも言えないが。残りのクラスメイトに、転移を願った者が居たとしておこう。疑っても何も始まらないからな」
委員長は今でも冷静。怖い位に。
「思う所はそれぞれ在ると思います。その上で私は、召喚術の場に同席した者として。皆さんにご提案があります」
「それは?」
私とフウも聞けてない部分。純粋に聞きたい。
「皆さんを。要した代価、生贄も無く。元の世界に帰せる手が一つだけ在ります」
喜び。悲しみの顔が異世界者の面にそれぞれ浮かぶ。
「その話を鵜呑みしても。僕は」
「おれも」
「僕らはいいや。こっちの世界に大切な人たちが出来たから。自分たちだけ勝手には帰れない。他の人が帰りたいなら協力はする。でも僕らは身元はバラしたくない。残るなら尚更。こっちの世界を旅してから死にたい」
無能君の心境は、正直理解が及ばない。明確な違いを感じてしまう。この世界への執着心。その点で、私は違う。
私は、早く。一刻でも早く、帰りたい。帰れるのなら。
「聞けて良かった。捨てられる訳じゃないと解っただけでも有り難い」
「私も。嬉しいです、タッチー」
「このまま帰れないよ。帰りたくない」
「当然」
4人の温度差が他と違う。
「キョーヤ。帰るなら帰るで、責任を以て子種を残せ。実らなければ殺してでも追い縋るぞ」
プラス1!
「…ぜ、善処します。決定権は勿論それぞれ自分自身に在る。その時は自分で自分の道を決めてくれ。俺も出来れば帰りたい。ユーコと、帰るみんなと一緒にな。それで、その帰る手立てとは?」
「必要相当の資金、魔道具、魔石は入手しました。残るは術式を練る場所だけが定まらない。最も有力なのは、北の大山脈エイラーを越えた先。北の大陸、だと見ています」
「その根拠は?」
「召喚術を行使したのが失敗した要因です。先ず一に術式を展開した場所。序であの時、唯一足りなかった竜種の魔石。こちらは私たちが、ここまで来るまでに入手しました。ですから後は…」
「ちょいとお待ち。今、魔石が何と?」
ロンジーさんの顔色が急変した。何を慌てているのかな。
「ですから。既に魔石は入手済ですと」
「ここまで来るのに、南のトーラス山脈を突っ切ったから。途中の山の中腹に赤竜?の巣が在ってさ」
フウが私たちの武勇を聞かせる。全部カルちゃんに任せ切りだったけど。
私たちもその場に居合わせたワケだし。誇らしい。倒しらのは子供の竜だったけど。
「赤竜の…。成体を倒したのかい?」
「いいえ。奪ったのは幼体だけです。こちらに3匹分の」
BOXからカルバンが赤竜の、薄紅色の魔石を3つ取り出して見せた。
ミストが青ざめて呟く。
「愚かな…。聞こえたあの声は、これだったか…」
「成体。母竜はどうしたんだい!残りの子供は!」
「これが全てです。成体が不在だったので、運が良いと放置しそのまま…」
カルバンが口に手を当て言葉を失った。
「どう、したの?カルちゃん」
「何て事をしてくれたんだい!!」
ロンジーさんの叱責が飛んだ。いったい何が?
リンジーさんも大きな舌打ち。
「母さん。後は任せます。私は至急、王に報告を」
荒々しく椅子を蹴って立つ。
「私もリンジーと共に。アムール様の許可を頂かないと」
「ちょっと…行ってくる」
「クソが!」
「待ってタッチー。これを。必ず追います」
ジェシカさんが慌てて銀色の剣を無能君と交換していた。
走り出そうとした4人を前に、カルバンが立った。
「行くなら、私たちが乗って来た馬車を!」
「うるさい!退いて。馬よりも断然早い友達を僕らはもう持ってるから」
「どけクソ女」温厚だった來須磨君までが…。
塞がるカルちゃんを突き飛ばして出て行ってしまった。
「誰か説明してくれ。何が起きた」飲み込めていない峰岸君たちだけが取り残された状態。
「大人しくしてた魔獣を、そこの馬鹿小娘が呼び起こしちまった。後処理をせずに!子を奪われ、逆上した母竜がどうすると思う?復讐さ。一番に狙われる場所は、坊やたちの大切な人が居る、ツーザサと言う町。北ならね!勘違いして南のプリシラに向かえば、そちらに被害が及ぶ」
「私は…、私は…」
「そんな簡単な事も見過ごすとはねぇ。後悔しても遅い!どれ位前の話だい!」
「だいたい、2週間前です」
カルバンの代わりに私が答えた。
ロンジーさんがテーブルを叩く。
「6人は王に面が割れている。勝手な行動は許されない。このまま待機。坊やたちの後を追うのは、あんただけで行きな。自分たちが何をしでかしたのか、その目でしっかり焼いてきな!!」
「…はい」
「待って。行くなら私も」
「状況が飲み込めないけど。私も行く」
「2人には関係ない。ここで待ってて…」
あの時の私たちの行動は、間違いだったの?
「関係なくない!あれが罪なら、見過ごした私も同罪よ」
「私もよ。今更仲間外れはないわ」
「カルバン。覚悟して行きな。結果がどうであれ、坊やたちがどうするのかは、誰にも解りゃしないよ」
「…はい。この責任は全て私に」
状況が最悪へと転がって行く。
私がどんな手を尽くそうと。全てが手遅れだった。
カルちゃんが、無能君に胸を刺され貫かれる光景。
もう既に回避出来る手段は、残されてはいなかった。
なら見せないで欲しかった。
こんなスキル、欲しくなかった。私はもう…何も。
招かれた生き残りの10名はここで再会し、集結は為されなかった。
箍を外れた歯車は、転がり続け。深すぎる泥沼の中へと沈み行く。
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2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
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生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
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5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
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一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
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貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
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