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五話

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 山小屋を出て河原方向へと下っていった俺は、最初に捕まえた兎の革を敷物にして背負子を置くと、薪割り用の斧を担いで川の真ん中辺りにある岩まで歩いていきそのまま、振りかぶって岩を狙ってぶっ叩いた。

 すると、その辺にいた魚がプカプカと2、3匹浮き始めたので素早く捕まえて血抜きしてはそのまま指輪のアイテムボックスへと放り込んだ。 


 鮒かと思っていた魚は鮎だったりヤマメだったり鮭だったりと、色んな川魚が取れた。流石異世界だなっと納得してはドンドン岩を叩いていった。


 結構な量の魚を捕まえた俺はそのまま対岸へとやって来ていた。濡れた足と靴とを乾かそうと、日差しの当たっている岩へと上り、乾かしがてらアイテムボックスから種火と薪をイメージしながら竈ごと出すと、その場に置き捕まえた鮭を開いていった。


 まさか竈ごとアイテムボックスに入るとは思っていなかったが、出来ちゃったので良しとした。便利だしそのまま、使う。


 開いた鮭を鉄網の上に置いて、トマトやほうれん草なんかも一緒に焼いて塩コショウを振りかけた。


 ぐい呑もだして焼酎を割らずに並々と継ぎ、チビチビやりながら鮭を食べた。これがなかなか美味かった。河原でBBQなんて、何年ぶりだろうか。60を越えた辺りからキャンプなんてやらなくなったし。


 70を超えて河原で一人BBQなんてするとは夢にも思っていなかったから、感動も人一倍だったようだ。


 何となく泣けて来てチビチビやりながら暫し泣きながら飯を食っていた。すると、電源を切ったはずのIDカードから水戸黄門の着信音が鳴り出した。


 あっれー?と、思って何となく出てみると
「見つけましたよ!宮咲さん逃しませんからねぇっ!」と、いう声と何処か遠くの方で犬の鳴く声と大勢の人の足音?が聴こえてきた。


 まさかそんな!?と、ガバリと立ち上がった俺はキョロキョロと辺りを見回したら、対岸の川岸が薄っすら揺れた気がした。


 まさか川を渡った先が元居た世界の入り口だったのかと、一瞬で理解した俺は急いで対岸へと向かおうとした。だがしかし、酔の方が早く回ってしまって上手く歩けなかった。


 油断だった。まさかこんなあっさり世界を渡ることが出来るなんて誰が思うだろうか。


 しかも、電源切ってても関係なく電波が発信するなんて誰が思うだろうか。何という無駄な最先端技術。


 バシャバシャと水を跳ねるだけで一向に前に進めない老体に鞭を打ったが、敢え無く御用となり


 「フハハハハ!残念でしたね!宮咲さん!逃げられませんからね!」


 と、勝ち誇った顔で魔王の様に笑う、自称道先案内人がドヤ顔で俺の肩を掴んでいた。


 俺はそのまま連行される様に車に乗せられ、あるべき場所へと送られた。家財道具が一切無い家へと押し込められ。外から鍵を掛けて奴等は去った。


 どうやら中からは出られない作りになっているらしい。仕方なく俺は鍋やら出してシステムキッチンのオール電化のコンロ?に鍋を置くと、クツクツ言わせながらアツアツのスープを器に盛った。


 兎骨で出汁を取った汁に大根と人参とジャガイモと玉ねぎを入れたごった煮である。それに、備え付けの冷蔵庫からマヨと醤油を出して味付けしていった。


 電化製品を持ってこなくても良いって言ったのは備え付けのがあるからってことらしい。ちゃんと電気も通ってるし……じゃあ、あの時渡されたマッチと蠟燭は何だったんだろう。


 あ、でもあの時渡してきたのはトラックに乗ってた人からだったか?その辺の記憶は曖昧だった。


 窓から見える景色はスーパーの看板やコンビニの電飾何かが見えた。道路には老人しか居ないが歩いている。時折犬の鳴き声や猫の鳴き声がしてきた


 隣人に住む人達が飼ってるペットらしい
最初から俺もここに来ていれば、もっと自由に生きられたのにと一瞬後悔しそうになったが、頭を横にフルフルと振って、毒されていく頭をクリアにした。


 個人番号に財産すべてが分かる電子マネー、住所や免許証に保険やら何やら全てがこの一枚のカードに入っている。買い物も各種支払いも、このカード一枚で事足りる。何時に何処にいて何を買って何を食べたか等も逐一チェックされ、どんな山の中にいても見付かってしまうGPS機能付き万能カード。


 これは人権無視ではないのか?個人保護法案はどこへ行ったのだ?なんだこの姥捨山……多分これ、勝手に死ぬ事も出来ないぞ絶対。


 何でこんな物を認めたんだ?ボケ老人救済処置とかSNSで最初の頃は叫ばれていたっけな。迷子防止になると……


 篭の鳥だよ生きた心地がしない。やはり、俺はこの家を抜け出して異世界へと戻るべきだ


 窓越しに見える外を眺めながら、嵌め込まれた開かない窓を叩く。まるで、壁を叩いてるようだ。


 この材質はガラスじゃないのか?防弾だよこれピクリともしない。窓を割って逃げ出すことは諦めた。


 外から掛けられてる鍵をどうにかして壊さないと出れない事しか分からなかった。


 それでも必ず出て行ってやると老人の神に誓った。


 老人の神って何だろうと自分で言ってて恥ずかしくなったのは秘密だ。
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