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四話

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 「何処って言われても山の中としか言えないよ。君達が私をここへ置いていったんだろう?」
 「車の中からどうやって居なくなったんですか!?隣に乗ってた筈なのに忽然と消えてしまって焦りましたよ!荷物を積んだトラックも居ないし!」


 えーっと……何だこれ。取り敢えず落ち着いてもらって、詳しく話を聞いてみると、俺は車の中から突然消えたらしい。車は高速道路を走っていたし、パーキングにも止まっておらず、降りる場所も無ければ窓も嵌め込みでドアもチャイルドロックが掛けてあって開くはずが無いのに、居なくなってしまって狐につままれた様だったらしい。


 取り敢えず住む筈の場所へと向かったら、荷物が入っていた筈のトラックだけが置いてあり、部屋の中は空っぽで俺も居なかった。訳も分からずGPSを辿っても反応は無いし、お手上げ状態だった。


 IDカードにはGPSもコッソリ仕込んであったらしく、何処に誰が居るのか一目でわかる様になっているらしい。


 なんて怖いものを作りやがったんだ政府は!
しかも財布と連動してるカードだから全く逃げられないばかりか何を買ったかまで把握されるとか、本当に人権も何も無いんだな。


 (もしかして俺は運が良かったんじゃないか?)


 篭の鳥になって死ぬまで監視される生活よりも、不便だし、人は一人も居ないが自由で束縛されない生活の現在と比べるなら。


 「私はそちらに帰りたくない。ここで暮らしていくよ」
「何言ってるんですか!?そんなこと許されるわけ無いでしょ?初年度から行方不明者を出すなんて汚点は残せません!必ず探し出しますからね!」


 帰らないコールは聞き入れては貰えなかった。まぁ、しかし探し出すと言われても無理だろう。


 私が40代後半の頃に流行った異世界転生・転移ものの小説のような状態だし?唯一繋がってるのは電波だけってもう、詰んでるんじゃないか?


 そもそも私は帰りたくない訳だから、この場所から去れば更に見つけ難くなる筈だ。まぁ、無闇矢鱈に方向も良く分かってない状態で歩き回っても遭難するだけだから動けないし、この場は少し気に入り始めてるから、移動はしたくない。


 連れ戻されそうになったら逃げればよいか。いつでも逃走出来るように躰は健康に保って置かねばならんし、明日から朝起きたら運動もしていこう。うん、そうしよう。


 取り敢えず忙しいからと電話を切ることにして、電源ごと落とす。これで煩わしいGPSでも辿れまい。


 家に帰ってから部屋を確認した。押し入れに食品やら乾き物やらが出て来たり、床下収納から着替えが出て来たりと、滅茶苦茶に荷物が置かれていた事に気が付いた。


 何も聞かれずに荷物を降ろして設置していったアイツ等は誰だったのだろうと考えたが結局分からなかった。


 今思えば、明らかにおかしな動きと人数だったなぁ……トラックに乗って帰っていたが荷台に数人乗ったままだったし、車を運転せずに押して帰っていたからな。あの時は余りの田舎さに茫然自失していたから気が付かなかったが……


 まぁ、畑には作物が育ってるし……と、畑を見ると抜いた筈の大根が同じ場所で育っていた。


 「あれ?」


 確かに昨晩だかに抜いた場所の大根が其処にあった。試しに一本抜いてみる、暫くジッーと畑を見ていると抜けた穴の奥から大根の葉がニョキニョキ伸びてきて、何事もなかった様に大根が生えた。


 「異世界……なんだなぁ」と何か心の奥から沸いてくる得体のしれない高揚感に身が包まれていく感じがしてきた。


 今まで大根しか抜いてこなかったが、よく見れば大根が埋まってる畝の横には玉ねぎが、その奥には人参が、更にその奥にはトマトや茄子やスイカやメロンや葡萄も苺も生っていた。


 俺は歓喜しては作物を収穫していった。一抱えの作物を腕に抱えては家に取って帰ってまた畑に繰り出した、それを2往復程繰り返し、立て掛けられた竹を見ながら籠を作ろうと決心した。


 その日の夜はうさぎの肉を炙って焼酎で流し込みながら、縦に細く割いた竹を編んでいった。昔よく見た動画を思い出しながら一本一本丁寧に編み込んで、一つの背負い籠を作った。


 我ながら良く出来たと思う。誇らしげに籠を見つめたり、背負い込んでポージングしたりと嬉しさをアピール(誰に?)してその日は眠った



◇◇


 朝目覚めてから昨日拾って台座に付けた桃色石がついた指輪を装着した。理由はわからないが何故かそうしなければいけない気がした。


 昔付き合ってた女にあげた婚約指輪で俺には合わないはずの指輪だったが、何故かピッタリ嵌まった。


 なぜ台座だけ残った指輪だったのかというと、婚約を破棄された時返された指輪だったのだが、しばらくの間放置していて、数年後に邪魔だし未練もようやく断ち切れたから売りにでも出そうとしたら、嵌っていたはずのダイヤだけ綺麗に無くなっていたのだ。


 婚約指輪を返す時に石だけ奪って返されたのだ……
ひでぇ女だったんだなぁ……と、そこで完全に忘れる事ができた。そんな指輪を捨てれずに今まで持っていた。まぁ役に立ったしいっか。


 に、しても。よく嵌ったな?伸縮でもしたのかこの指輪……と、まじまじと指輪を見ては外して他の指に付けてみたら、これも綺麗に嵌まる。小指につけてから親指に付けても違和感なく付けられる事から、伸縮してるようだった。


 流石異世界って事で無理矢理納得して、右の薬指に装着し直すと、籠を背負って畑へと向かった。


 今日は果物を中心に回収していく。
苺を1山、梨を1山、林檎も1山、西瓜も1山、葡萄も……って、ちょっとまってぇ!回収する果物の量が異常な量なのに全く重さも感じずに回収してる事に驚いた。


 いくら、体力が付いたとしても作物の体積は変わらない筈なのにっと思い、背負子を降ろして籠の中を確認するも何も入っていなかった。


 今迄の作物はどこへ!?と、探すも見付からない。
「あ、もしかして!」と、思った俺は手を出してその掌に林檎……っと想像してみたらずしっと実の詰まった重さのある林檎が掌に乗った。


 意図せずしてアイテムボックスを手に入れたらしい。籠が?と思ったが多分違う。
 ふと、右手の指輪を意識しながら中身を確認するイメージをしたらズラララっと今迄回収していた作物が名簿の様に頭の中へ入ってきた。


 その後は畑にある作物を飽きるまで回収していったのは言うまでもないだろう。


 絶対誰でも調べようとする筈だ!無限収納かも!?って、思う筈だ!


 で、畑にある作物だけでも相当収穫した筈だが、一向に終わりが見えない事に歓喜して次は井戸の水を指輪に収納していった。


 が、終わりの見えない事に途中で飽きて井戸の桶の中に指輪を入れて、そのまま井戸の底へ放置したあと、昼飯食ったり晩飯食ったりそのまま寝たりと3日間程放置した。


 それでも全く容量が溢れないことで、無限収納指輪と断定中身の野菜や果物も劣化していなかったので時間凍結も付いてる事が分かった。これから食い尽くした兎か他の獲物を狩りに行くのだが、暫く狩りだけに専念して狩れるだけ狩ってこようと思う。


 竹の先にナイフを括り付けて槍っぽくしたあと、肩に弓を腰に矢筒を背中に縄や何かを背負い込んで、いざ狩りに出発!IDカードも一応持っていく。


 異世界の村とかあったら身分証明が必要だからな!俺はウキウキしながら出かけていくのだった
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