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 うっかりストレスの発散兼ねて王様以下全員の度胆を抜いてしまってやっちまった感満載だ。
 酒樽型馬車から降りてきた俺を快く迎えてくれたのはアリサと国枝だけだった。

 王様は驚愕した顔をして口をあんぐりと開けて砂埃が口に入っているのにも気が付かないのか、生唾をそのまま呑み込んで咽ているし、各ギルドマスターも同様に砂埃を口に入れている。
 魔導具ギルドのマスターだけは、構造が気になるのか、執拗に聞いてくる。

 「これは何だ!」
 「魔力は如何程必要なのか!」
 「この車輪に巻かれている物は何だ!」
 と、叫ぶ様に言い始めた魔導具ギルドマスターに、ハッと意識が戻ったらしい王様や各ギルマスに、いつの間にか居た軍事顧問やら将軍となのる者は口々に売ってくれと言い始めた。
 王様に至っては「献上するのだろう⁉」
 と、ちょっと鬱陶しい。

 なので取り敢えず無視……する訳にも行かないので大雑把に説明するも、やはり電力が何か分からないし、理解もされなかった。

 「魔石を使用しているなら魔力でも充電は可能だろう⁉ 其方そなたも迷い人と聞くし、実は隠れ魔力持ちなのだろう⁉ だから動かせるのだろう⁉」と、言われるので、皆の前で魔力の無い事を証明した。
 そして、半分程減ってしまった魔石粉バッテリーに、魔力で充電させる為に国枝を呼んでデモンストレーションをしてやる。

 「え、全力で? ガチで? 俺倒れない?」と、一度か二度昆虫型に全力で充電させた時に倒れた事を思い出したのだろう。ビクビクしながら魔力を充電するポッチを見る。
 どうやら相当きつい作業だったらしくトラウマでも植え付けたようだ。

 「お前にしか頼れない! 俺を助けると思って頑張ってくれないか?」と、目をウルウルさせながら頼んでみた。

 すると、何時もの様に胸を抑えて「うっ……」と呻いたあと、サムズアップして「任せておけ!」と、胸を叩いてくれた。

 そんなやり取りを冷ややかな目で見つめてくるアリサに、目だけで謝る。

 アリサは仕方ないとばかりにため息を吐いて、今回は見逃してくれるようだ。

 そして、皆の視線を浴びながら国枝が全力で魔力を充電し始める。
 電力供給メーターがくるくると回転し、魔力の数値を測りだした。
 充填の測定値が、満タンになる手前で止まり、国枝は倒れる寸前で、魔力の放出を止め、肩で息をして冷や汗を拭いつつ膝を付いた。

 「こ、これ以上は……無理……」と、だけ言って倒れてしまった。
 それに駆け寄って肩を貸してやり、耳元でお礼を言うと「なぁに、軽いもんよ!」と、青い顔をしながら強がっていた。

 それ国枝を控えていた従者に手渡すと、介抱を頼み魔導具ギルドや他のマスターと王様達に話し掛ける。

 「如何ですか? この様に王国一の魔力を保持する国枝ですら満タンには出来ないのです! まだまだ、改良の余地がある物をおいそれと市場に流す事がどれ程危険な事か、お分かり頂けたでしょうか? ましてや献上など! 王の命を奪うやも知れぬ物を渡す訳には参りません!」

 そう言うとようやく納得出来たのか、売れとか献上しろとか言う者は居なくなった。

 が、何時か必ず改良した電動馬車を献上する約束を口頭ではなく、書面でさせられた。

 ーーこれはもう契約ではないのか?

 と、言ったがあくまでも約束らしい。

 この後、内部を如何しても観覧したいというお姫様をアリサに任せ、俺は客間へと案内された。
 もう少し詰めたい話があるらしい。



 まず最初に客間に来たのは、将軍と名乗るおじさんと軍事顧問と名乗るお兄さんだった。

 聞かれたのは電動銃。
 城塞都市へと向かう途中に倒した盗賊の傷を見たのか、昆虫型が俺の馬車で銃器を扱っていた事を誰から聞いたのだろう。
 気になってしまって聞きに来た様だ。
 そして、兵器として運用できないか相談に来たようだ。
 勿論俺は断った。
 あれは試験的な運用で力の無い物も乗っていた為に付けた代物だったからだ。
 敵を完全に倒す為に作った訳でもないし、あれを運用した場合の被害等を、前の世界を見本にして教えてやる。

 「もしあの兵器が巷に流れたら、大勢の罪のない市民が死に絶えるだろう」と、脅しながら言ったが、戦争にしか使わないと言い出した。
 軍で隠匿もするからと言われたが、頑なに断り不信を買ったようだ。
 帝国には行かないと約束させられて、その場では引き下がったけど、今後は如何出るか分からない。

 ーー警戒だけは怠らない様にしよう。

 次に部屋を訪れたのは各ギルマス。
 魔導具申請はしているのかと聞いてきたので、証文を見せる。
 商人ギルドからは、アイテムバッグはどれ程の容量があるのかと聞かれ、首を傾げながら帝国貴族からぶんどったらしい事をザケヘルの名前を使って教えてやる。
 すると、冒険者ギルドにクエストを出すので、受けてくれとお願いされた。
 なんでも、この王都から更に南へ行くと海があり、そこで採れる魚を運んで欲しいそうだ。
 序に王都からその周辺の街に荷物を届けて欲しいと言われたので、クエストとして依頼されるなら受けますよと、了承。
 冒険者ギルドからは、アリサとの関係を聞かれた。
 関係あるのか?と、思ったら。
 先程、風魔法の手紙が届けられ、鎧女が荒れて酒場などに被害が出たらしい。
 もし誤解で結婚したという噂があるなら彼女に教えたいし、もし本当に結婚したというなら、祝い金を出したいそうだ。

 で、もし宜しければ俺の口から真実を告げてやってくれないかと、お願いされた。

ーーそれ俺死なないよね?

 で、その件の鎧女の名を聞いたらマリアーヌ・ゴッドイーターと、教えられ……。

 何処かで聞いたことがあるなぁと、思っていたら、その人の住所が書かれた紙を渡された。

 取り敢えず土地勘も無かったので、アリサも連れていきますと言うと、頭を下げてお願いされた。

 なんでも、二人には先の大戦(ゴブリンのエルフ村襲撃)時にかなりお世話になったらしく、余り強く咎める事が出来ないのだとか。

 魔導具ギルドからはアリサの作る魔石粉パウダーを少し融通出来ないか聞かれた。
 アリサの魔石粉パウダーはかなり高性能らしく、その呼び声は王都でも高いそうだ。
 拠点に帰れば山の様にストックしてるとはいえ、此処には持ってきていない。
 俺と一緒になった事で、最近はとても落ち着いてきているし、ストレスも貯まらないのか、魔石に当たる事も無いので、魔石粉パウダーは作っていないのだ。
 なので、俺に聞かずに直接本人へ話を持っていってくれと話す。

 その後少し誰も来なかった。
 終わったのかと思っていたら侍女がお茶を淹れて持ってきたので、毒味をしてもらってから飲み干す。

 最初に居た軍事顧問とか言う兄ちゃんの目が不穏な雰囲気だったので、警戒したのだ。まぁ、王城で招いた客が毒殺されたら不味い事になるのは王国なので、殺るとしたら王都を出てからだろう。
 案の定紅茶を飲み干しても特に体調は悪くなっていない。

 そろそろお暇したくなって、席を立つ。
 外へと案内付きで向かうと、酒樽型馬車が動いていた。

 ーーおいおい、だれだよ!

 と、思って近付く。

 かなりアクセルを踏んでいるのか、速度は速く、当然飛び移って止める事は不可能だ。

 訓練場の奥まで走ると、壁にぶつかったのか跳ね返る酒樽型馬車。
 何かの破片が飛んだが、運転はまだ出来るようでゴロゴロと転がった後再び走り出す。
 その速度は明らかに遅かった。多分何か壊れていると思われる。
 此方に戻ってくる馬車のフロントガラスにはお姫様が居て、はしゃいでいるのか満面の笑顔だ。
 その後ろには王様が乗っているのか、座席の背もたれを掴んでいる様だ。が、その顔は蒼白という言葉が似合う。
 目が死んでいる様にも見えるが、自業自得だろう。

 その横では、アリサが必死に姫様を説得してるのか、大声で何か告げている姿が目に入る。

 が、お姫様は止まる様子も無くそのままガタガタとさせながら酒樽馬車が俺の目の前まで来ると、白煙を上げて止まった。

 多分正面から壁に突っ込んだ事で、魔石粉バッテリーから魔力水が漏れて、熱せられたバッテリーにでも蒸発させられたのだろう。

 車輪も取れたようで、片側に傾いている。

 ーー直すのに何日掛かるかな……。あ、商人ギルドの依頼当分待ってもらわなきゃな……。

 何日徹夜するのか分からないが、想像すると頭が痛くなり、その場で項垂れた。
 
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