51 / 77
51
しおりを挟むうっかりストレスの発散兼ねて王様以下全員の度胆を抜いてしまってやっちまった感満載だ。
酒樽型馬車から降りてきた俺を快く迎えてくれたのはアリサと国枝だけだった。
王様は驚愕した顔をして口をあんぐりと開けて砂埃が口に入っているのにも気が付かないのか、生唾をそのまま呑み込んで咽ているし、各ギルドマスターも同様に砂埃を口に入れている。
魔導具ギルドのマスターだけは、構造が気になるのか、執拗に聞いてくる。
「これは何だ!」
「魔力は如何程必要なのか!」
「この車輪に巻かれている物は何だ!」
と、叫ぶ様に言い始めた魔導具ギルドマスターに、ハッと意識が戻ったらしい王様や各ギルマスに、いつの間にか居た軍事顧問やら将軍となのる者は口々に売ってくれと言い始めた。
王様に至っては「献上するのだろう⁉」
と、ちょっと鬱陶しい。
なので取り敢えず無視……する訳にも行かないので大雑把に説明するも、やはり電力が何か分からないし、理解もされなかった。
「魔石を使用しているなら魔力でも充電は可能だろう⁉ 其方も迷い人と聞くし、実は隠れ魔力持ちなのだろう⁉ だから動かせるのだろう⁉」と、言われるので、皆の前で魔力の無い事を証明した。
そして、半分程減ってしまった魔石粉バッテリーに、魔力で充電させる為に国枝を呼んでデモンストレーションをしてやる。
「え、全力で? ガチで? 俺倒れない?」と、一度か二度昆虫型に全力で充電させた時に倒れた事を思い出したのだろう。ビクビクしながら魔力を充電するポッチを見る。
どうやら相当きつい作業だったらしくトラウマでも植え付けたようだ。
「お前にしか頼れない! 俺を助けると思って頑張ってくれないか?」と、目をウルウルさせながら頼んでみた。
すると、何時もの様に胸を抑えて「うっ……」と呻いたあと、サムズアップして「任せておけ!」と、胸を叩いてくれた。
そんなやり取りを冷ややかな目で見つめてくるアリサに、目だけで謝る。
アリサは仕方ないとばかりにため息を吐いて、今回は見逃してくれるようだ。
そして、皆の視線を浴びながら国枝が全力で魔力を充電し始める。
電力供給メーターがくるくると回転し、魔力の数値を測りだした。
充填の測定値が、満タンになる手前で止まり、国枝は倒れる寸前で、魔力の放出を止め、肩で息をして冷や汗を拭いつつ膝を付いた。
「こ、これ以上は……無理……」と、だけ言って倒れてしまった。
それに駆け寄って肩を貸してやり、耳元でお礼を言うと「なぁに、軽いもんよ!」と、青い顔をしながら強がっていた。
それを控えていた従者に手渡すと、介抱を頼み魔導具ギルドや他のマスターと王様達に話し掛ける。
「如何ですか? この様に王国一の魔力を保持する国枝ですら満タンには出来ないのです! まだまだ、改良の余地がある物をおいそれと市場に流す事がどれ程危険な事か、お分かり頂けたでしょうか? ましてや献上など! 王の命を奪うやも知れぬ物を渡す訳には参りません!」
そう言うと漸く納得出来たのか、売れとか献上しろとか言う者は居なくなった。
が、何時か必ず改良した電動馬車を献上する約束を口頭ではなく、書面でさせられた。
ーーこれはもう契約ではないのか?
と、言ったがあくまでも約束らしい。
この後、内部を如何しても観覧したいというお姫様をアリサに任せ、俺は客間へと案内された。
もう少し詰めたい話があるらしい。
☆
まず最初に客間に来たのは、将軍と名乗るおじさんと軍事顧問と名乗るお兄さんだった。
聞かれたのは電動銃。
城塞都市へと向かう途中に倒した盗賊の傷を見たのか、昆虫型が俺の馬車で銃器を扱っていた事を誰から聞いたのだろう。
気になってしまって聞きに来た様だ。
そして、兵器として運用できないか相談に来たようだ。
勿論俺は断った。
あれは試験的な運用で力の無い物も乗っていた為に付けた代物だったからだ。
敵を完全に倒す為に作った訳でもないし、あれを運用した場合の被害等を、前の世界を見本にして教えてやる。
「もしあの兵器が巷に流れたら、大勢の罪のない市民が死に絶えるだろう」と、脅しながら言ったが、戦争にしか使わないと言い出した。
軍で隠匿もするからと言われたが、頑なに断り不信を買ったようだ。
帝国には行かないと約束させられて、その場では引き下がったけど、今後は如何出るか分からない。
ーー警戒だけは怠らない様にしよう。
次に部屋を訪れたのは各ギルマス。
魔導具申請はしているのかと聞いてきたので、証文を見せる。
商人ギルドからは、アイテムバッグはどれ程の容量があるのかと聞かれ、首を傾げながら帝国貴族からぶんどったらしい事をザケヘルの名前を使って教えてやる。
すると、冒険者ギルドにクエストを出すので、受けてくれとお願いされた。
なんでも、この王都から更に南へ行くと海があり、そこで採れる魚を運んで欲しいそうだ。
序に王都からその周辺の街に荷物を届けて欲しいと言われたので、クエストとして依頼されるなら受けますよと、了承。
冒険者ギルドからは、アリサとの関係を聞かれた。
関係あるのか?と、思ったら。
先程、風魔法の手紙が届けられ、鎧女が荒れて酒場などに被害が出たらしい。
もし誤解で結婚したという噂があるなら彼女に教えたいし、もし本当に結婚したというなら、祝い金を出したいそうだ。
で、もし宜しければ俺の口から真実を告げてやってくれないかと、お願いされた。
ーーそれ俺死なないよね?
で、その件の鎧女の名を聞いたらマリアーヌ・ゴッドイーターと、教えられ……。
何処かで聞いたことがあるなぁと、思っていたら、その人の住所が書かれた紙を渡された。
取り敢えず土地勘も無かったので、アリサも連れていきますと言うと、頭を下げてお願いされた。
なんでも、二人には先の大戦(ゴブリンのエルフ村襲撃)時にかなりお世話になったらしく、余り強く咎める事が出来ないのだとか。
魔導具ギルドからはアリサの作る魔石粉パウダーを少し融通出来ないか聞かれた。
アリサの魔石粉パウダーはかなり高性能らしく、その呼び声は王都でも高いそうだ。
拠点に帰れば山の様にストックしてるとはいえ、此処には持ってきていない。
俺と一緒になった事で、最近はとても落ち着いてきているし、ストレスも貯まらないのか、魔石に当たる事も無いので、魔石粉パウダーは作っていないのだ。
なので、俺に聞かずに直接本人へ話を持っていってくれと話す。
その後少し誰も来なかった。
終わったのかと思っていたら侍女がお茶を淹れて持ってきたので、毒味をしてもらってから飲み干す。
最初に居た軍事顧問とか言う兄ちゃんの目が不穏な雰囲気だったので、警戒したのだ。まぁ、王城で招いた客が毒殺されたら不味い事になるのは王国なので、殺るとしたら王都を出てからだろう。
案の定紅茶を飲み干しても特に体調は悪くなっていない。
そろそろお暇したくなって、席を立つ。
外へと案内付きで向かうと、酒樽型馬車が動いていた。
ーーおいおい、だれだよ!
と、思って近付く。
かなりアクセルを踏んでいるのか、速度は速く、当然飛び移って止める事は不可能だ。
訓練場の奥まで走ると、壁にぶつかったのか跳ね返る酒樽型馬車。
何かの破片が飛んだが、運転はまだ出来るようでゴロゴロと転がった後再び走り出す。
その速度は明らかに遅かった。多分何か壊れていると思われる。
此方に戻ってくる馬車のフロントガラスにはお姫様が居て、はしゃいでいるのか満面の笑顔だ。
その後ろには王様が乗っているのか、座席の背もたれを掴んでいる様だ。が、その顔は蒼白という言葉が似合う。
目が死んでいる様にも見えるが、自業自得だろう。
その横では、アリサが必死に姫様を説得してるのか、大声で何か告げている姿が目に入る。
が、お姫様は止まる様子も無くそのままガタガタとさせながら酒樽馬車が俺の目の前まで来ると、白煙を上げて止まった。
多分正面から壁に突っ込んだ事で、魔石粉バッテリーから魔力水が漏れて、熱せられたバッテリーにでも蒸発させられたのだろう。
車輪も取れたようで、片側に傾いている。
ーー直すのに何日掛かるかな……。あ、商人ギルドの依頼当分待ってもらわなきゃな……。
何日徹夜するのか分からないが、想像すると頭が痛くなり、その場で項垂れた。
0
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説
転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~
ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。
異世界転生しちゃいました。
そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど
チート無いみたいだけど?
おばあちゃんよく分かんないわぁ。
頭は老人 体は子供
乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。
当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。
訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。
おばあちゃん奮闘記です。
果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか?
[第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。
第二章 学園編 始まりました。
いよいよゲームスタートです!
[1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。
話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。
おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので)
初投稿です
不慣れですが宜しくお願いします。
最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。
申し訳ございません。
少しづつ修正して纏めていこうと思います。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。
桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる