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しおりを挟む「クソッ! ひっきりなしに来るな! ユーリ!右だ! 右に回せ!」
俺は大声でユーリに支持を飛ばす。
上と下からは、機銃を撃ち鳴らす音しか聞こえない。
周りすら見る暇がないのだ。
取り敢えず目の前の盗賊だけに集中させて、ゴム弾(スライムコーティング木弾)を撃って貰い、標準代わりにハンドルとアクセルで車体を回転させながら弾丸の雨を全方位に降らせていた。
下からも上からも雨の如く降ってくる弾丸に次々と盗賊の目や顔に当たり赤い血飛沫を撒き散らすが、誰一人怯む事なく血眼に成って飛びついてくるのだ。
脚が折れても肋骨が折れても向かってくる盗賊を薙ぎ払うと、囲いが隙間を生んだ。
「ユーリ!今だっ!全力で駆け抜けろ!」
そう叫ぶと、唸り声を上げてモーターが廻り、砂煙を巻き上げて全速力で盗賊の囲いを突破する事に成功した。
追い掛けて来る盗賊を軽々と振り切る。
盗賊たちの姿が見えなくなった所で速度を落として貰い、安定した走りに変えてもらう。
「ふぅ……、何とか振り切りましたかね……疲れましたぁ……」
と、ユーリの下から汗に濡れた額に前髪を貼り付けたカーナが機銃室から出てきた。
機銃室の窓は小さく、熱い空気が溜まりやすいのだ、なので要改善と開発ノートに書き込んだ。
『此方カーニャ!後方確認! オールクリア! 休憩します~』
くぐもった声が伝声管から届く。
カーニャの声も疲れていた。
このまま進めば外街に日暮れ前には辿り着けるので、もう少し頑張って貰いたかったが、エルフの森を抜けた場所から延々と盗賊に襲われていたのだ。
休憩は必要だろうと思い、ユーリと運転を代ってやって、俺がハンドルを握る。
パタパタとカーナを仰いでやってるユーリに、冷たいお茶をアイテムバッグから取り出すと、侍女ちゃんズに渡してもらった。
それを美味しそうに啜りながら、ため息を吐く。
「賄賂……考えた方が良いかもしれませんね……」
確かに……。
毎回街道を通る度に襲われては面倒臭いことこの上ない。
商人では無いのに馬車が襲われる理由は何だろうか……。
馬車の上に鎮座する見目麗しい双子の片割れでも狙っているのか?
エルフの管轄する森からずーっとエンカウントする様に盗賊に襲われて疲弊してる妹のカーナをルームミラーで盗み見る。
一卵性双生児なので、よく似ている。
エルフ特有の美しい顔立ちが頬を紅葉させておやつの長細いクッキーを齧る姿は、ちょっと唆る。
海人は未だに双子にも手を出していなかった。
忙しかったというのも有るが、見た目がかなり幼いので、手が出し辛いのだ。
背徳感が募るので抱きしめる程度はするが、キスとかもした事はない。
まぁそれが双子には不満で、何度もシチュエーションを変えながら、チラ見する海人の視線を誘っているのだが、ガン見するのに一向に手を出さないのだ。
とんだヘタレ野郎である。
勿論正妻になる筈のユーリにも二人の行動は知っている。寧ろ応援してる。
先に子供を作って自分の子供が生まれる時に面倒を見て貰うためだ。
エルフ族ではそれが一般的な事だった。
特に王族は皆、その様な仕組みで子供を作るのだ。
ユーリの兄にも、従者的な立場の幼馴染が常に付いているし、2つ上(二十歳上)の姉にも同じく幼馴染の侍女が居る。
なので、普通の事だし浮気だ何だと騒ぐつもりが毛頭ないのだ。
族長からも手を出せコールを貰って公認なのだから、何故手を出さないのか不思議に思う程だ。
汗を拭うふりをしながら胸元を捲り、中の突起を見えるか見えないかの僅かな隙間をルームミラーに映る様に汗を拭くカーナ。
それをガン見する海人は、アホ面を晒しているが本人はコッソリと覗き見してるつもりなので、バレてないと思っているようだ。
時折股間を擦っては、ポジションを移動している。
やはり四人が同時に同じ部屋で過ごしているのが、手を出さない原因なんじゃないかと、カーナはポジションを直してる姿を眺める。
ーー今度拠点に帰ったら提案してみよう。 個室を各嫁で持てるように。
そう思って上へと続く扉を開ける。
「姉! クッキー差し入れ~」
「おお!ありがたや~頂きま~す♪」
と、長細いクッキーを口に入れて貰う。
勿論これもルームミラーにバッチリ写っている。
モグモグと咀嚼しないでチラッとミラーの方を見ると、サッと視線をそらす海人。
それを見てカーニャも満足気に笑うと、再び後方確認の為に、座席に座り直し扉を閉めた。
屋根部分の見張り台兼出入り口は風がとても気持ち良い。ニコニコ顔でお菓子を頬張るカーニャ。
外街が近いのか、若い冒険者がそれを見て惚けるが、昆虫型馬車の後ろから伸びる棘を見て、慌てて追い越して城塞都市へと走った行く姿がチラホラと増えてきた。
暫く進むと掘っ立て小屋から石を積み上げた外街でも、裕福な方々が住むと言われる場所に来ると、大勢の武器を構えた冒険者に迎えられた。
だが、一向に襲っては来ない。
首を傾げる者
盗賊の様に目を見開くと同時に舌なめずりをする者。
中にはヨダレを啜る輩までいる。
少し気持ちが悪かったのか、正面を見ていたユーリが唸る。
これ以上進めないと思ったのか、アクセルから足を離すと、座席から降りて俺の袖を掴んで前へと引っ張っていき、フロントガラス越しに目の前の冒険者達を見せる。
「何か襲われそうなんですけど? 海人様……戦いますの?」
そう言うと細い針のような剣先のレイビアを出す。
エルフ族にとって自分達以外は全種族敵であると教わるらしく、武器は嗜んでるし、それなりに強い。
「待って待って」と、落ち着かせると一つ分頭が飛び出した生き物を目にする。
それはアニキだった。
大ダンゴムシの幼生体が出たと言って街に駆け込んだ新人達は、街中に触れ回った。
その話を聞いて集まってきたのが、今目の前に対峙してる冒険者達だった。
普通ならA級案件なので逃げ惑う住民で大混乱になる所だが、
「「「大ダンゴムシ虫が大きな金貨を咥えてやって来た!」」」
と、喚きながら街中を転げ回ったお陰で、一目見ようと集まってきたのだ。
当然ザケヘルも地竜を従えて参加。
そして、目の前には見た事のある昆虫型馬車だ。
ザケヘルはため息を吐くと、アニキに後は頼んでサッサと家に帰った。
ーー少し常識を体で分からせてやる必要があるな、あのバカには……。
何処の世界に金貨をチラつかせた馬車で街に乗り込む馬鹿がいるんだ?
ましてや、見た目が災害級の昆虫なんたぞ⁉ そこはもっとそ~っと来いよ!と、怒鳴りたくなったが、なんとか抑えて衛兵が走って近付くのを見ながら、何も告げずに素通りし、ほくそ笑む。
ーー冷たい牢屋で反省しやがれ!
☆
……そう思って放っておいたのに、裏庭に停められた馬車を見上げながらため息を吐く。
集まる群衆は無視して気軽く天井の扉を開け地竜に手を振った海人を街の人間は知っていたのだ。
「「ああ、何だ。ただの地竜の愛玩具だったわ」」
全くお騒がせしてくれるぜと、口々に愚痴を言って散っていった住民は、もう一つの噂が立ち上がっていた。
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ザケヘル曰く
ーー何でこうなったっ⁉
と、困惑し。
アニキ曰く
ーーあの時、素直に海人と馬車の説明をしていれば、変な噂も立たなかったのに。
と、呆れ顔だったとか何とか。
何はともあれ、俺達は無事に街へと入る事が出来て、尚且つそのままザケヘルの家の裏庭で数日過ごす事が出来たので、幸先は良いだろう。
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