上 下
39 / 77

39

しおりを挟む


 3回目の実験の日、国枝も来れたようで観覧席で拠点に移住してきた人達と祝杯をあげていた。

 国枝は俺が婚約したあと、王国の姫さんと婚約したらしく、学園が休みになると城に呼ばれて貴族教育を受ける事になった。
 「計画通りには中々行かなくてね……ゴメンだけど暫く来れないわ」っという手紙を貰っていた。

 なんの計画を立てていたのかは、教えてくれなかったが、その内話せる様になったら言うだろう。

 俺も呼ばれて少しの間実験体三号の馬車から離れて国枝の横に座って乾杯に付き合う。

 「それにしても海人よ……あれ……馬車なのか?」
 国枝は昆虫素材で作った馬車を指差して呆れ声で言う。
 確かにアレを馬車と呼んで良いのか俺も戸惑う所だが、一応中身は馬車なので頷く。

 その頷きを横目に見たあと再び馬車らしき物体を見て国枝は呟く。

 「でもアレって……その……○ームに似てね?」
 「はっきり言うな! 色々ヤバイんだ! この世界の者達には分からない! コレはダンゴムシだ!」




 3ヶ月前、森に入った俺達は巨大な抜け殻を発見した。
 それは成長すると全長三十mを超えるくらい育つ災害級に指定されてる大ダンゴムシの脱皮した抜け殻だった。
 幸いにもその抜け殻は、丁度マイクロバス程度の大きさで、幼生の物だと分かった。

 とても大人しい昆虫ではあるが、その大きさから災害級に指定されているのだ。

 その足跡は城塞都市へと伸びていた事から緊急案件だった為、ギルドに報告する前に倒す必要があった。
 昆虫は人は襲わない。
 だが、その大きさから街の周りを歩けば当然外街が滅ぶ事に成りかねない。

 なので、見つけ次第倒すか報告するかしないといけなかった。

 幸いな事に、昆虫採集に出た者はA級のアリサに同じくA級のムズガとB級のズドンとC級のガドンが居る。
 俺はランクは上げてないというか、冒険者家業は砂鉄集めしかやってないのでFランクだ。
 訓練はしているので、それなりに強い(筈)。
 ただ、父竜がマキシムと共に居なくなってから修行らしい修行はしていないので、鈍っているかも知れない。
 だが、強さだけなら地竜に届く域には到達している筈だ。
 とはいえ地竜は竜種の中でも最弱なのだと、アニキに言われた。
 人間如きに使役される種なのだから、最弱なのだそうだ。
 なので、強くなったと思って奢ってないで、精進して励めと諭された。
 地竜の次に強いのが通常種の飛竜らしい。炎帝グレンは、亜種なのでソコソコ強いが、本物の炎竜はもっと強いのだそうだ。その次が炎竜と同格の氷竜でその上を少し行くのが空竜と海竜らしい。最強種になると、エンシェントドラゴンや天竜等がいるらしいが、既に伝説の生き物扱いで、滅多に出てこないらしい。

 そして、父竜の言っていた竜脚拳という武術を極めるには、全ての竜から指南され技術を納めれば名乗れるれるという。

 ーー流石に其処までやってらんねって……。

 【閑話休題】

 そういう訳で、俺達は更に森の奥へと進んでいき、マイクロバスを一回り大きくしたダンゴムシを退治した。

 俺が横腹を蹴り上げてひっくり返すと、暴れる数十本の脚を避けながらA級の二人が大槌で叩き捲って腹の周りを柔らかくすると、トドメにズドンガドンの二人ではらわたを切り裂いて息絶えた。

 その帰りに抜け殻を持って帰ってきたのだ。

 その硬さはまぁまぁあり、昆虫の中でも中の上くらいで防御にも適しているらしい。なので、そのまま流用した。

 シャーシに被せると、タイヤ付きダンゴムシに成った。それをシャーシから外れない様にスライム液で囲い、蜘蛛の糸で縛って隙間をワームの体液で覆い、馬車の外構にしたのだ。 
 なので俺と国枝の知るアレによく似ているのは仕方ない話なのだ。
 尻尾は棘の様な針になっていたので、先っぽを蓋にして、充電するプラグが刺せるソケットになっている。
 「後ろの針を足すならキャタ○ラーだな」と、笑う。
 「キャタ○ラーってなんだっけ?」
 と聞くと確かドラ○エにそんなキャラが居たような?と、再び危ない事を口走り始めたので、口と鼻を塞いだ。
 なのになんで嬉しそうなんだ⁉
 本当に国枝が分からない。

 まぁ兎に角、その外構のお陰で弓矢や槍や剣先等は滑って弾く様になったので、防御力向上にも繋がった。
 そしてなりより軽いのだ!
 お陰で使う筈だった柱等が不要になり、軽さに拍車が掛かった。

 俺はまだ呑むという国枝に別れを告げて、馬車に乗り込む前のユーリと侍女ちゃんズに声を掛けて円陣を組む。

 「さあ! 晴れ舞台だぞ!」
 「「「はいっ!」」」
 「気合入れていこう!」
 「「「オーーっ!!」」」

 歓声を背に受けて乗り込んでいく。
 因みに昇降口は天井にある。
 最初口にしようとしたが、食べられてるみたいで嫌だと言われたので変えた。

 車輪の形も変えた。
 薄く輪切りにした様な車輪を五枚重ねて貼り付けて、細かい歯車を付けてスライム液でコーティングしたのだ。
 凸凹したトラックのタイヤに似てると思う。
 お陰で良く地面に食い付く車輪になった。
 車軸にはミスリルと鋼を混ぜた物を使用。
 少し値ははったが、惜しみなく使った。車輪軸も同じ素材だ。

 上から入ると直ぐに出し入れできる機銃が付いている。
 上から狙う方が守りやすいのと、物見台代わりらしい。
 走ってる間はこれで後ろを警戒しながら走る。
 其処に座るのは姉のカーニャが受け持つので、残りの三人は更に蓋を開いて中へと進む。
 運転座席にユーリが座ると、そのニ段下にある機銃室に妹のカーナが座る。
 俺が尻尾の部分に直接繋がっているペダル付きのシートに座ると準備完了た。

 「後方オールクリア!」
 と、カーニャから昆虫の脚で作った伝声管を使って返事を貰う。
 これがあれば外の声も直ぐに繋がるのだ。

 「前方オールクリア!」

 と、ユーリが応えると俺がペダルを踏み込み、魔法陣へと電力を送る。

 グルグルと足を回転させ勢いが増してくるとフワッという浮遊感を感じる。
 だがまだこれだと足りないので、更に回すと
 「浮遊良し!」とカーナが叫ぶ。
 カーナの機銃室からは、シャーシの上がり具合と車輪の地面との接着面が見えるのだ。

 「微速前進っ!」とユーリが叫び、アクセルをゆっくり踏んでいく。

 すると、ススっと音もなく魔石バッテリーから電力がモーターへと伝わる。
 そしてユックリと動き出すと、外から歓声があがった。
 地面を噛む様に車輪は回り、カーニャの後髪が風でなびく。
 さらに強くユーリがアクセルを踏むと、唸る音が少ししてから速度が上がる。

 「「「走ってる!止まらないで走ってるよ!やったよ!」」」という叫びが外から響く。
 横に付いてる窓を覗くと、イーチェもニーチェもサンチェスも馬車と並んで走っていた。

 その顔は涙と喜びに満ち溢れていた。

 そして馬車は三百mくらい走ったゴール先で止まる。
 アクセルから足を離し、下に座るカーナと握手をするユーリとそこに駆け寄りハグをする俺と、上から降りてきたカーニャがそんな三人に飛び付き抱きしめた。

 数カ月にも及ぶ実験が遂に成功した。

 この世界初の電動馬車の誕生であった。


 

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【グラニクルオンライン】〜女神に召喚されたプレイヤーがガチクズばかりなので高レベの私が無双します〜

てんてんどんどん
ファンタジー
国王「勇者よ!よくこの国を救ってくれた!お礼にこれを!!」 国王は綺麗な腕輪【所有者を奴隷にできる腕輪】を差し出した! 主人公(あかん、これダメな方の異世界転移だわ) 私、橘楓(たちばな かえで)はいつも通りVRMMOゲーム【グラニクルオンライン】にログインしたはずだった……のだが。 何故か、私は間違って召喚されゲーム【グラニクルオンライン】の300年後の世界へ、プレイしていた男キャラ「猫まっしぐら」として異世界転移してしまった。 ゲームの世界は「自称女神」が召喚したガチクズプレイヤー達が高レベルでTUeeeしながら元NPC相手にやりたい放題。 ハーレム・奴隷・拷問・赤ちゃんプレイって……何故こうも基地外プレイヤーばかりが揃うのか。 おかげでこの世界のプレイヤーの評価が単なるド変態なんですけど!? ドラゴン幼女と変態エルフを引き連れて、はじまる世直し旅。 高レベルで無双します。 ※※アルファポリス内で漫画も投稿しています。   宜しければそちらもご覧いただけると嬉しいです※※ ※恋愛に発展するのは後半です。 ※中身は女性で、ヒーローも女性と認識していますが男性キャラでプレイしています。アイテムで女に戻ることもできます。それでも中身が女でも外見が男だとBLに感じる方はご注意してください。 ※ダーク要素もあり、サブキャラに犠牲者もでます。 ※小説家になろう カクヨム でも連載しています

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

勇者召喚に巻き込まれたけれど、勇者じゃなかったアラサーおじさん。暗殺者(アサシン)が見ただけでドン引きするような回復魔法の使い手になっていた

はらくろ
ファンタジー
早乙女 辰馬、31歳独身、土日祭日しっかり休めるホワイトなサラリーマン。 バスで最寄り駅まで十五分、途中、美形な少年と可愛らしい双子の少女の幼馴染みみたいなリア充三人組の学生と毎日エンカウント。 その度に『リア充爆発しろ』と優しく呪う。 事故みたいな衝撃を受けた後、それが『勇者召喚』だと知ったけど、俺はただ『巻き込まれた』だけで勇者でもなんでもなかった。 持っていた魔法が、空間魔法(アイテムボックスみたいなやつ)と、回復魔法、これはワンチャン逆転あるかと尋ねたところ、別に珍しくないと苦笑された。 空間魔法があるなら仕事があるからと、冒険者ギルドに行くように言われ、俺だけ口止め料のようなお金を少々もらって城下町へ。 異世界デビューでせめて、幸せな家庭を作れたらとリア充目指して、安定した生活を手に入れようと、思ってたんだけどね……。

最難関ダンジョンで裏切られ切り捨てられたが、スキル【神眼】によってすべてを視ることが出来るようになった冒険者はざまぁする

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【第15回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作】 僕のスキル【神眼】は隠しアイテムや隠し通路、隠しトラップを見破る力がある。 そんな元奴隷の僕をレオナルドたちは冒険者仲間に迎え入れてくれた。 でもダンジョン内でピンチになった時、彼らは僕を追放した。 死に追いやられた僕は世界樹の精に出会い、【神眼】のスキルを極限まで高めてもらう。 そして三年の修行を経て、僕は世界最強へと至るのだった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

ぐ~たら第三王子、牧場でスローライフ始めるってよ

雑木林
ファンタジー
 現代日本で草臥れたサラリーマンをやっていた俺は、過労死した後に何の脈絡もなく異世界転生を果たした。  第二の人生で新たに得た俺の身分は、とある王国の第三王子だ。  この世界では神様が人々に天職を授けると言われており、俺の父親である国王は【軍神】で、長男の第一王子が【剣聖】、それから次男の第二王子が【賢者】という天職を授かっている。  そんなエリートな王族の末席に加わった俺は、当然のように周囲から期待されていたが……しかし、俺が授かった天職は、なんと【牧場主】だった。  畜産業は人類の食文化を支える素晴らしいものだが、王族が従事する仕事としては相応しくない。  斯くして、父親に失望された俺は王城から追放され、辺境の片隅でひっそりとスローライフを始めることになる。

処理中です...