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 トンテンカンテンと小気味良い音が拠点に響く。
 弟子さん達が朝も早くから起き出して、馬車を作ってる音だ。
 完全箱型住居兼馬車は、大量の木材と昆虫の殻が必要になり、俺とアリサで昆虫採集、残りの弟子さん達で大工仕事、マークには朝昼晩の食事を担当して貰っている。

 弟子さん達は三人居て、全員ドワーフだ。一人は俺を昔介抱してくれた人で、名をイーチェと言うらしい。その人は風車に興味を持ってくれて、そのまま屋上に取り付ける作業をしてくれている。
 残りの二人は元々大工仕事が好きだったらしく、Cランクに成り立ての頃は大工に転職したが、その頃には建てる家が外街からの依頼しか来ず、儲けも少なく冒険者を兼業していたらしい。そんな時に出会ったのがアリサで、師匠と仰ぎ勝手に付いていったのが始まりらしい。

 まぁ、百年近く昔の事だと言っていたので、師匠も忘れているだろうとは言っていた。因みに名前はニーチェとサンチェスだった。

 車輪は取り敢えず後回しって事で、荷台だけ先に作り、屋根は幌馬車みたいな簡易にした。その為に溜め込んでいた獣の皮を使ったので、また取りに行って……。

 「あ、マキシム居ないんだっけ」
 俺がそう呟くと、アリサがため息吐きながら言う。
 「何じゃ、今更有り難みでも感じたか? 全くこれだからロリコンは……」

 何だかんだで役に立ってたマキシム。

 「結婚は出来ないけど俺の駒として手伝って欲しかったなぁ」

 そうすれば、大型昆虫採集も幌用の大きな皮の鞣しも、面倒臭い事は全てやって貰えたのに。

 そう思っていると、アリサがすごい冷たい目を俺に向けてきた。

 「お前……意外と酷い奴だな」という。

 まぁ、感情を利用しているからってのが嫌なんだろう。
 怒ったのかプイッと顔を背けて皮をなめしていた部屋から出て行ってしまった。

 でも仕方ないじゃん? マキシムは男性で、好きだと言われたって困る。
 俺だって顔が母親似ってだけだし、例え見た目が女と言われても、女性にしか愛情なんて沸かないんだから。
 手伝ってくれる代わりに対価を寄越せって言われても困るけどさ。
 今までやってくれてた行為が全てそっちの為って思うと少し悲しくなるが、それも自分に置き換えて考えれば分からなくは無いのか?

 誰か好きな人が出来て、振り向いて欲しくて色々何かしてあげるのは、普通の事か……。

 「それでもやっぱり同性は無理だよ……」

 と、誰も居ない部屋で呟いた。



 アリサは鞣し部屋から出ると、魔石の粉を潰す作業をしていた。
 ドゴンドゴンと鉄槌を叩きつけているとストレスが消えていくのだ。
 冒険者時代からストレスが貯まると魔石にぶつけていて、Cランクを超えたから転職して魔石屋になった訳では無かった。
 魔石の粉は砕かれ砂になり、更に叩く事で粉にして売られていくのだが、アリサの場合は更にその粉を叩くので、パウダー状になるのだ。
 なんせストレスを叩き込む為に打ち付けられてるだけだったから。
 魔石粉は細ければ細かい程溜め込んだ魔力を放出しやすい為、彼女の作る魔石粉は高く売れた。
 それこそチマチマとクエストをこなして金を稼がなくても、魔石粉を一山売れば儲かる程に。

 そうやって苛つく度に魔石粉を作っていたら、何時の間にか弟子が三人出来て自分の為に工房まで作ってくれた。なら、そこに住まない訳には行かないだろう。
 そうして何時の間にか魔導具ギルドに卸すようになって、生活も安定していき魔石粉屋として商売を始めた。
 彼女の最終冒険者ランクはAだ。
 だから別に商売をする必要は無かった。
 たまに張り出されるクエストさえこなしていれば、生活は出来たのだ。
 だが、安定力は魔石粉屋の方が高かったし、その時には既に弟子が出来ていたので、冒険者は辞めてしまった。
 別に弟子達の為に辞めた訳ではなかったが、見捨てられないって思いもあったのは間違いない。
 求められたら応えてやるのが普通だと思っていたからだ。
 だから、海人の様に利用だけして返さない行為が許せなかった。
 だからといってそれを言った所で強要する事は出来ない。
 「全くっ(ドゴン!)アイツったら(ドゴンッ!)どこ迄我儘わがままなんだぁっ!(ドガァンッ!)」

 粉砕された魔石がパラパラと舞い落ちる中、彼女は後悔する。

 ーーあの時無理矢理にでも私の教育を施すべきだったか……?(コリコリっと)

 アリサは初めて海人と会った日の事を思い出していた。

 アリサはショタである。
 そして海人はギリギリストライクゾーンだった。
 頻繁に店に訪れていたら手篭めにしていただろう。

 1度逃した獲物で、それがこうして共同作業する様になった事で、親近感も湧いていたが、性癖を知って同類だと確信してしまった後からでは、食指は伸びなかった。

 「ふぅ……まぁ、今更か」

 舞い落ちた破片をほうきで掻き集めると、アダマンタイトの延べ板に載せ戻す。アダマンタイトの鉄槌で他の鉄板に打ち付けると、延べ板が砕かれるので魔石の粉を作る時には、アダマンタイトの延べ板を使う。
 それも百年程経てば砕いてしまうのだが……。
 力が強すぎてアダマンタイトさえ打ち抜いてしまう自分のストレスが原因だったが本人は気付いていない。

 何キロか魔石を魔石パウダーにすると、ドラム缶の様な樽にそれを入れる。

 「随分溜まったな」
 これなら海人の言う自動馬車にも足りるだろう。
 目の前には大きな樽が四つ満タンで置いてある。
 マーク(十歳)に手を出せないもどかしさがストレスになり、この地に来て作った魔石パウダーが樽四つ分である。



 碌でもないと言うならアリサも一般常識からすれば碌でもないと言えなくはないが、この世界に一般常識を保ってる種族がいるのか如何か……。
 それは神にも分からない事だろう。
 人類全て変態なのだから(偏見)

 【閑話休題】

 ☆

 週末になる前に国枝がやって来た。
 「テスト前になるから、暫く来れないので、その前にやって来た!」と、いう。

 なので、足りなくなった材木を伐採して貰おうとしていたら、スライムを手土産にユーリがやって来た。
 それと身の回りの世話をする侍女が二人。

 「不束者ですが宜しくお願いします」と言いながら頭を下げてきた。

 当然それを見て国枝は誰?となるので、説明すると、「おめでとー!」と、祝ってくれた。

 そんな国枝を見て、アリサはソソっと寄っていき「お主はそれでいいのか?」と、聞いた。
 国枝も海人を性的な対象として見ていたのは知っている。
 マキシム同様嫉妬して怒りだすと思っていたが、全くの無反応どころか祝福しているので、不思議に思ったのだ。

 「良いに決まってるじゃん!別に俺は海人を嫁にしたい訳じゃないし、別に嫁が居ても関係無いんだよね」
 そう言ったあと続けて
 「マキシムなら家に居るけど、アイツが言うような感情は、もう通った道なんで!」

 と言って一笑した。

 家出したマキシムがどこに潜んでいるか謎だったが、この一言で居場所が判明した。

 マキシムはこの拠点を出たあと、王都へと向かい、そのまま魔法学園の国枝の部屋……つまり、講師用の寮に転がり込んだらしい。

 「毎日泣いて鬱陶しいから学園の訓練生の相手をして貰ってる」らしい。

 詳しく聞くと、魔法学園の部活動に冒険者倶楽部なる物を立ち上げた国枝は、それの臨時顧問としてマキシムを宛てがったそうだ。

 「たかが数日海人と暮らしたからって、そんなんで勝ち取れる程甘くないんだよ!」と、不思議そうなアリサに説明した。

 海人と国枝は幼馴染である。
 出会ったのは小学校に入る直前の幼稚園時代。
 海人の家に初めて遊びに行ったのは、小学生になって初めての夏休みだった。
 
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