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しおりを挟むマキシムが家出した。
父竜に乗って明け方出て行ったらしい。
手紙の代わりなのか、寝床の地面に文字が書かれてあり、其処には
『旅に出ます、探さないで下さい』と、書かれていた。
☆
エルフの集落から戻ると、大量の昆虫の脚が置いてあった。
かなり頑張ってくれたのか、擦り傷や切り傷を体中に付けた血だらけのマキシムが、ニコニコしながら褒めてほしそうな顔で見てきた。
俺も嬉しかったので微笑みながらお礼を言ったら、調子に乗ったのか前から計画していたのか、宝石の付いた高そうな腕輪を出して、俺の腕を掴みそのまま膝立ちになると、プロポーズしてきた。
なので、実はエルフ族の族長の娘と婚約する事になったと告げる。
返事は貰っていなかったが、構わないだろう。
断られてはいないのだから。
この世界でも重婚は罪になる。
そして、婚約の返事を貰っていなくても先に答えを待っている状態では、新たに婚約も結婚も出来ないシステムらしい。
何故なら過去にあった事件が原因で、若い男女が悲劇にあったからだ。
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その場を大勢の者達に見られてしまったその貴族は、王の怒りに触れて爵位は取り上げられ、その貴族家も没落した、その男もまた縛り首になったんだそうだ。
その日から王国では、どんな身分の者でも先に婚約の申し立てをした者達に優先権を与えて、二度と同じ様な悲劇が起こらないようにしたそうだ。
【閑話休題】
俺から婚約話を聞いたマキシムは驚愕の顔をしたあと、とても信じられないといった顔をした後、苦笑いを浮かべた、そして何かの冗談だろう?と、父竜に問う様にみるが、無言で首を横に振る父竜を見て真実だと確信出来たようだ。
その後はもう何を言っても生返事しか返ってこず、晩飯もろくに食わずに寝てしまったのか、食堂から姿を消していた。
その日の朝、中々姿を現さない父竜とマキシムに、朝ご飯の準備が整ったと声を掛けに行ったマークが、マキシムが寝泊まりしていた部屋(外玄関)から荷物が無くなっているのを不審に思ったのか、父竜を探した。が、父竜も居なかったし、父竜に跨る鞍も無い事に気がつき、慌てたマークはマキシムの部屋を改めて見に行った時に、地面に書いた手紙に気が付いたそうだ。
それを聞いた俺も流石に罪悪感が湧いたし、悪い事をしたかなぁ……とは思った。
だが、仕方なかったんだ。
そもそもマキシムとは、そんな関係を結ぶ気は永遠に無かった。
「「大体、俺は女の子が好きだ!女の子が大好きなんだ!」」
そんな事を力強く言うと、アリサはウンウンと頷きながら「ロリコンだもんな、分かるよ」と、失礼な事を言ってきた。
ーーまぁ、この人もショタだからな……。
ドワーフもエルフに負けず劣らず長命で、アリサは三百歳前後らしい。見た目はロリなのに……。
見た目だけならマークと釣り合うのだ。見た目だけならな!
そんな事をアリサを見ながら思っていると、ジト目で睨まれた。
年齢の事を言うと、(玉コリコリ)本気で怒るから口に出しては言わない。
「だから、違うってのに。 ああ、言い方が悪かったな、俺は女性が好きだ! これで良いか?」
そう言ったのにアリサは、全く信じずに
「海人よぉ……? お前エルフの娘に婚約の申込みをしたんだぞ? んで、年齢が百四十歳なんだろ? エルフ族は長命だから人族に例えるなら十四歳くらいにだぞ? で、エルフ族の成人年齢は百六十歳だから、十六歳と言う事になるけど、二年後じゃないからな? 二十年後だぞ? それまでずーっと若いままなんだぞ? 寧ろお前が死ぬまで若いままなんだぞ? この意味が分からない訳じゃないだろう?」
そう言われると、そうなの?……っと、初めて知ったという顔をする。
ーー二十年間は婚約段階だから、結婚出来る歳を待つ事になる。
そうなると俺は三十五歳で、彼女は十六歳……。
……あれ?
そのまま結婚して子作りに二十年間励むとしたら、俺は五十五歳? で、彼女は十八歳か……。
「あー。なる程……確かにロリこ……。 いや! 顔はそんなに幼くなかった!……と、思う! 多分!」
昨日会った相手とはいえ、結婚を申込み、その親たちの前で幸せにするから宣言もしたというのに、相手の顔を忘れるという失態に気が付いていない海人を見て、呆れた表情を隠せない一同は、流石に酷いと言わざるを得なかった。
取り敢えずマキシムの事は置いといて、今後の方針を決める事になった。
「エルフの娘が来るなら、部屋は同じが良かろう? なら、弟子たちは元の工房に詰め込んで、屋上の下の部屋を海人達が使え」
そう言われたが、俺は実験を兼ねてとある提案をしてみた。
まぁ、実際問題必要な事でもあったので、反対はさせないけど。
その提案を出すと、皆も乗る気になったようで、「中々面白そうだ」と、声を揃えて言ってきた。
なので、早急な問題から片付けていく事になった。
先ずは、玄関である扉のないエントランスに、屋根付きの扉を付けてちゃんと玄関として機能させる。
これは、前々から思っていた事だ。
だが、以前俺が其処で寝泊まりしていたと言ったら、マキシムが「儂はここが良い!」と言って聞かず、仕方なくそのままにして過ごして来た。
そして傷心?旅行に行って今は居ないのなら、潰して身の安全を上げる為にも玄関を作ろうと提案したのだ。
この戦場跡を中心にした半径十キロ圏内には地竜の残り香がある為、魔獣や肉食の獣は近づいて来ない。だが、ピンクゴブリン等の強者は平気で縄張りを超えてくるのだ。
まぁ、ピンクゴブリンの様な災害級は滅多に人前に出てくる生き物ではない。
それでもA級のエレファントウルフ(大きな狼)等の獣が現れた事もある。 その時はマキシムが倒したが……。
その盾とも言える男が消えた今、備える必要があるのだ。
川の対岸に薬草が生えてる場所に麦を植える為の畑も作るので、食事担当のマークが狙われる事もある。なので、周囲を壁で囲う必要もある。
当初自給自足などしなくても良い様に大量の食物を買ったと思っていたのに、滞在する人数が増えた事で、七百キロあった小麦粉は既に四分の一が消費されていたのだ。
原因はドワーフだった。
魔石粉を作るのにパワーが必要なのか、兎に角よく食べるのだ。
その弟子達も師匠に負けず劣らず食べるので、食料を買っていたのでは間に合わないし、資金も今の所稼いでないので残金が無くなると詰む。
多少の蓄えは有るらしいが、焼け石に水だろう。
薬草の生えてる場所は水が豊富なのか栄養が豊富なのか、鍛錬場にしてる場所より潤っていたし、そのまま耕せば開梱をしなくても取り敢えずは賄えそうだった。
その次に、鍵が掛けられる個室の様な馬車を作る事になった。
魔石粉をバッテリーにした実験の為に、一台欲しいと行ったところ、如何する気か聞かれたのだ。
この世界にはアイテムバッグがあるのだから、街に買い物へ行くだけなら馬車など必要ないだろ?ってのが、一般常識らしい。
アイテムバッグから溢れるほど商品を持ち運ぶ商人じゃないんだから、いちいち邪魔だろう?って、事らしい。
金も掛かるしな。
だが、車中泊出来る馬車を作れば、街に行った時に泊まる宿にも困らないし、外街で寝泊まりしても安心(外街の人が勝手に入って来ない)だと言ったら、車中泊とは何かと問われ説明すると、食い付いてくれた。
馬車で寝泊まりする人は少なからず居るが、それは野営の時のベッド代わりだ。
本格的な家の様な家財道具の置かれた馬車などこの世界には無かったので、皆楽しそうに設計図を見ていた。
そして、材料が揃うなら個人の自動馬車が欲しいとの意見を貰い、だったらそのまま馬車を自宅にしようという事に決まった。
取り敢えず動く様に成るのはまだまだ先になる。
それから、魔石粉へと充電するシステムを世界樹の屋上に風車を取り付け、そのまま下の階層をバッテリーに見立てて使おうと提案され、満場一致で許可された。
予定を決めると、まずは寝床からってことで弟子さん達用に3台
それからアリサとマーク用の一台。
国枝用に一台。
俺とユーリ用に一台
帰って来たら困るので、マキシム用にも一台で、計七台の馬車を作る事になった。
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