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 鍛冶屋通りに入ると直ぐに、金物屋が軒を連ねる場所に出る。
 売り物を物色しながらテクテクと歩むが、パッと見た感じだと剣や大鎌、盾に短剣ととても剣と魔法の世界感らしくファンタジーで溢れていた。

 杖は無いのかと、少し浮かれて聞いた見たら無かった。というか、御老人が使う杖ならあったが、俺の思うハリーでポッターな短杖や、キラキラと光の粒が舞散る中を、体のラインをいやらしく魅せながら小学生が変身しちゃう星型ステッキは無いそうだ。
 確かに散々ラノベで読んだ魔法の使える異世界には来たが、ファイヤーボールやらアイスウォールやら、メラやらザキと言った類の魔法は無い様だ。

 せいぜい使えるのは、生活魔法に使う魔力を増大させて攻撃に使ってる感がある。

 例えば炎なら、火炎放射器並の威力で魔力を出して攻撃。
 当たれば5分くらいで消し炭だ。
 水や風も似たような使い方をする。
 それと、複合魔法。
 風と土を混ぜて竜巻の様にしながら雷を作り、それで攻撃する。
 炎と風を混ぜて炎の柱も作れる様だ。
 まぁ、それなりの攻撃力はあるらしいが、兎に角使う魔力の燃費も悪くて放っても二発が限度らしい。

 そして、そんな魔力を持つ奴はあまり多く無い。つまり、魔法で攻撃出来る奴は巷に居らず、杖を扱う奴も皆無。
 なので発明されて来なかったらしい。

 なので、剣だけの世界と言っても過言では無い。まぁ、冒険者に限るけど。

 そして、剣や盾は武器屋や防具屋にある物だと普通に俺も思っていたが、武器屋とか防具屋といった類の店もこの世界には無いらしく、殆どの物は同じ金物屋で並べられていた。

 人が多いのだから、店を分けて作れば良いのにと、俺ですら思っていたのだが、そもそもな話で商人に成れる人間が少なすぎるのだ。

 冒険者ランクが最低でもCランク無いと商人に転職出来ないというのだから、その数は数えなくとも想像出来る。

 ハードルが高過ぎて、商才があっても物を売る資格すら持てない世界なのだ。
 そりゃ、店だって減るという物だ。
 それでも田舎の電気屋さんの様に、テレビの横で野菜は売ってなかったがな。
 野菜や食べ物はちゃんと市場で売られていたし、小麦やなんかも……。

 「あ、小麦粉忘れたな……後で買いに戻ろう」

 金物屋に並ぶ物を眺めながらツラツラと誰かに説明する様にブツフツと独り言を呟いていた俺は、森に唯一無かった食材の1つ。
 炭水化物の存在を思い出した。
 しかし、粉物はこの鍛冶屋通りの反対側にある、高台に立ち並ぶ風車まで行かないと無いのだ。
 市場にあるのは脱穀してない小麦なら売っていたが、種籾として売っているので、農業に準じる者にしか、卸せないと断られたのだ。

 一般人と農業家との違いは何だろう……。見た目で分かるものなのか? 頑なに俺には種籾を売らない店主に聞いたが、長年の感としか言われなかった。

 取り敢えず、小麦粉を買うと心のメモ帳に印した後、俺は目当ての物が店先に並べられていないのを確認したので、金物屋群の裏に並ぶ鍛冶屋の工房へと足を向けた。

 鍛冶屋から出る音は非常に煩く、街中まちなかに工房は有るが、壁の近くだったし風の通りの良い一角だけに纏められて居るそうだ。
 一応音を遮る結界が施されているらしいが、街の壁が拡がる度に金物屋の店毎引っ越しになるので、結界の細かい設定をされる訳もなく、せめてもの足掻きで風通りの良い場所で鍛冶屋から出る音も吹き流そうと思ってるらしい。
 その効果はあった様で、裏通りに足を一本入った瞬間、耳の鼓膜を破ろうとしているかの様な凄まじい音が鼓膜を貫いた。

 トンテンカンテンと耳にも心地よい音が鳴るのは木材問屋だが、鍛冶屋通りはガンガンドゴンと鳴っている。

 最後のドゴンが、何をしたら出る音なのか想像出来なかったので、その音がする工房へと頭を突っ込んだ。

 するとそこには、可愛らしい顔で華奢な感じの少女が、大人でも片手で持ち上げられないと思われる大きな金槌で、石のような物を砕いている姿だった。

 俺が唖然と見ている事に気が付いたのか、その石を叩いていた少女が手を止めて砕いた石の破片が付いた掌を叩く様な仕草をしながら、俺の側まで来ると

 「魔石の買い取りかい? キロ単価銅貨1枚だけど良いか?」

 と、聞いてきた。
 どうやら此処は、魔石を加工する工房だったらしい。

 俺は両手と頭を振って「違います!見学をしていただけです!」と、言った。その後続ける様に少女に質問をする。

 「君は未成年では無いの? 魔力無しでも働けるの?」と、聞いた。もし、これでそうだと言われたら、俺も此処で雇って貰いたかったからだ。魔力も無く、戦わずとも良い仕事場があるなら、何も修行などする事は無いのだ。地竜アニキを説得という命令をしながら御土産という賄賂を駆使して師弟関係を解除してもらおう。
 そう思った俺だったが、少女の可愛らしい顔は横に揺れていた。

 「私は魔力持ちだよ、それに未成年でもない! アンタこの街の人間じゃ無いね? 
 こんななりだから偶に間違われるが、私はドワーフだよ! 攫いに来たのならそう言いな! その玉握り潰してスライムの餌にしてやるよ!」

 そう怒鳴って両手で俺の股間を掴むと、コリコリと玉を握られた。

 俺はその痛みに耐えながら顔を白くさせると消え入りそうな声で違うと言って勘違いを正そうとしたが、俺の言葉はガンガンと鳴る音に描き消されて口をパクパクと動かしてるだけだった。

 今にも潰されるかも知れないと思った瞬間失禁してしまい、泡を吹いて俺の視界は暗転した。


 ☆


 私はこの魔石工房の主で、ドワーフのアリサ。今日も鉄より硬い魔石を専用のアダマンタイトの鉄槌を使って砕いていると、見慣れない子供が裏口に立ってこちらを見ていた。
 外街の人間だろう。服は小奇麗にしているが、所々破けているし呆けた顔をしている。見るからに筋肉さえも無い華奢な体躯で一見女の様な顔をしている事から、男娼でもしているのかもしれない。
 男娼と言えば、ついこの間も地竜に見染められた少年が居たのを思い出した。
 まさか、ソイツか?

 私は取り敢えず作業を止めて、その少年に声を掛けると、あろう事か私を未成年者と思ったらしい。
 この瞬間、この少年がこの街の人間では無い事が分かる。
 外街に住む人間なら誰でもドワーフの女と分かるし、この国に住む人間ならと思ってる見ず知らずの魔力無しに声を掛ける事はしない。
 それをするのは、ひと握りの変態だけだ。
 私は年端も逝かぬ少年の行動を窘める意味と、今後間違いを起こさせない為の教育の意味を込めて、その少年のモノを掴むと脅す様に言った。

 すると少年の顔はみるみるうちに白くなり、口をパクパクとしたあと直ぐに漏らしながら気絶してしまった。

 「あ……」やり過ぎた。
 そう思ったが遅かった。
 力無く倒れる少年を片手で掴むと、奥に居るで有ろう他の従業員を呼んだ。

 すると直ぐに数人が駆け寄ってきたので、少年を掴みながら手渡す。

 「すまん、またやっちまった!」
 「またですか⁉ 見境なく声を掛けてきた客を脅すのは止めてくださいと言ってますよね⁉」
 「いや、今回はその少年が悪い。 私を魔力無しと思ったのに声を掛けてきたロリコン野郎だぞ? そんなの見たら性根を叩きつぶ……正しい方向へ導いてやるのが大人の対応だろう?」

 「今、叩き潰すと言うつもりでしたね⁉」

 そう言って私を怒ろうとする従業員達に少年を押し付けて、無理矢理黙らすと二階で介抱する様に言い付けた。



 ーーまったく人間てのは、なんでこうも弱いかのかねぇ?

 私は掌に付いた小便をクリーンで綺麗に消すと、鉄槌を握り直して再び魔石を砕く作業へと戻るのだった。
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