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生まれは良かったのに③

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 「ではもう一度言いますよ?」
 「はい、お願いします」
 そう言うと畑にくわをザックザックと打ち付け、畑を耕す少年を食い入る様に見る。
 全てが初体験で見る物すべてが真新しく感じ、正直楽しくなっていたナラクは名を主人から新たに貰った

 「ほらやってみて?マル」
 「はい!」
 くわを受け取ると元気よく畑を耕していくが、直ぐに燃料切れになる。それを笑いながら休み休みやれば良いからと、少年に言われている。

 かつて従者だったセダスは、そんな姿を遠目に見ながら主のお茶を入れ直す。

 「如何かな、新しく来た奴隷はちゃんと仕事してる?」
 「はい、憶えは悪くないようです」
 「そう、それは良かったよ。覚えが悪かったら鉱山に戻そうと思ってたからね。まぁ、君の我儘を聞いてやったんだからコレから宜しくね」

 そう言うと男はセダスの淹れてくれた紅茶を呑むと満足そうに頷いた。

 「相変わらず君の紅茶は美味しいね」そういって微笑み

 「少し読書するから跡は頼むよ」
 と伝えると、テラスから部屋へとティーカップを持ったまま戻って行った。
 部屋に戻る間際にセダスへ手を払う仕草を送り、そのまま暗がりへと消える主にペコリとキレイにお辞儀をした。

 「何かあれば呼ぶ様に」と言付けると、足早に歩きエントランスを抜けていくセダスを本を片手に廊下の窓から眺めていた青年は呟く。

 「あんなに嬉しそうな執事は珍しいな……何時だったかな……僕の弟が産まれたとか言ったとき以来かな……」
 そんな昔の事をまだ憶えていたのが面白かったのかクスリと笑い、奥の部屋へと消えていった。

 青年が言うようにセダスは浮かれていた。顔に出ない様にするのが難しくなるくらいには浮かれていた。

 正門から裏の畑へと続く道を飛び跳ねる様に通り過ぎ、あっと言う間に防風林を抜けていく。
 まるで旋毛つむじの様に風を起こしながら通り過ぎるので、付いて行く部下達も大変だった。








 「マル、セダス様だ。失礼のないように……」
 畑にやって来た執事長をいち早く見付けた少年はナラクにそう告げると、くわを地面に置き一礼する。ナラクも耕すのを止めて、少年の真似をして一礼するが、今までの仕打ちを思い返すと恨み言しか出てこなかった。なので憎しみの篭った眼差しは地面に向けて悟られないようにした。

 「精が出ますね……」
 にならない様にセダスは二人の奴隷に声をかける。
 「セダス様!お疲れ様です」
 少年は顔を上げてセダスをねぎらう。少年は隣に立ち未だに下を向いたままでいるナラクの肘を突くと、挨拶をしろと目で訴える。

 仕方ないと諦め睨みつけながらナラクもまた顔を上げてから再び頭を下げた。口にする言葉は思い付かなかったので、無言だ。

 「お前も……仕事はなれたか?」
 口調に様にセダスはナラクに声をかける。
 が、言葉少なげに相槌あいずちを打つだけだった。

 そんなナラクにショックを受けたが、仕方ないと小さく溜息を吐くと
 「では引き続き頑張るように」と、言葉を残して畑を跡にした。

 セダスが去るのを待って頭を上げた少年はナラクの態度が気に入らなかったのか、言葉を荒げて叱る。

 「マル!なぜ君はセダス様にあんな態度を取るんだ‼ 失礼の無い様にと言ったじゃないか!」
 「あんな奴に何故、様を付けるんだ? アイツは……アイツは……(僕の元執事だ!)」とは言えず、下を向いて溢れて出て来そうな涙をこらえる。

 「君ね……セダス様が居なかったら今頃鉱山で野垂れ死んでるんだよ? 僕の聞いた話じゃ……」

 と、言うと少年が話し始める。
 ナラクは元々この家の主が鉱山奴隷を召し抱えるためだけに雇われる筈だった事、現にナラクの前に値がついた少女は主の持つ鉱山の飯場はんばで働いてるという。現場じゃないだけマシだったようで、死ぬ事は無いそうだ。
 それを聞いたナラクはホッと安堵した。まだ幼さが声に出ていた少女があれから如何したか気になっていたからだ。
 「その後ね? セダス様は君を見て主に言ったそうだよ?あの男はきっと役に立つので鉱山奴隷ではなく、畑からやらせてくださいと頭を下げてお願いしたそうだよ?」

 そのお陰で君は命が助かったんだから、そんな憎々しくセダス様を見るのはやめろという。

 「それにね?」と続く少年の話を聞くと、畑仕事をナラクに教える様にと言われる前は、この少年は鉱山で働いていたそうだ、そして病気がちになりもう少しで死ぬところだったそうな。

 「だから僕はある意味君に救われた様なもんなんだよ、だからありがとう!」と言うと笑顔でナラクにお礼を言った。

 君と関わったお陰でが上がった様だと笑った。

 ナラクは、それを聞いて愕然がくぜんとした。
 「が……上がった……?」
 「え?うん、そうだよ? だって君が居なかったら僕は間違いなくし、飯場に配属された少女ももっと酷い仕打ちになってたかも知れないんだよ? これが運が上がったと言わずして何になるんたい?」

 そう言うと少年は畑仕事に戻った。
 ナラクもくわを持ち畑を耕すが頭の中ではずっと気になっていた事を復唱していた。

 『僕が居たからが上がったってどういう事だろう……もしかして僕のスキルは……僕の運を上げるのか?』

 ナラクは畑を耕しながら夕暮れになるまでずっとクビをひねる事になった。そして、もう一度だけ自分のスキルを調べてほしいと強く願うようになっていた。

 その晩のこと、晩御飯を食べた跡部屋になってる馬小屋へと戻る道すがらセダスに出会ったナラクは、彼の元へと人目を避けて近づいていう。

 「セダス!……様……お願いが御座います!」
 それを少し驚きセダスは狼狽える。
 今までナラクに命令はされた事は何度もあるが、お願いなどされた事は一度も無かった。
 そして、主に頼られるという高揚感からつい素が出てしまった。

 「何なりとお申し付けくださいぼっちゃま!」
 「え?」
 その言葉を聞いて驚いたのはナラクだった。奴隷市場で出会ってから初めて昔の様な優しさが篭った口調で言われたからだ。

 そして、うっかりを込めて言ってしまった言葉に恥ずかしくなったのか顔を逸らすセダス。
 そして、今更だったがもの様な冷たい口調で言い直した。
 「……何だ? マル」
 「え? あれ?……(まぁいいか幻聴かもしれないし)実はスキルをもう一度調べて貰いたいのです! もっとちゃんと詳しく!」

 聞き違いかと思い直して自分の願いを叶えてほしいと訴えた。

 実の所、スキルを【運】だけと伝えた神父は詳しくナラク言わなかったのには理由があった。余りにも酷いスキルだったのと、その後に続く言葉が余りにもだと思ったから伝える事が出来なかった。

 勿論セダスは知っていた。
 だが、それを全て今のナラクに伝える事は憚られた。さて、如何したものかと考えるよりも先に体が動いてしまった。

 「すぐに調べに参りましょう!」
 そう言うと重いナラクをお姫様抱っこすると、颯爽さっそうと垣根を飛び越えて馬車置き場へとける。
 ナラクは驚きセダスに無言のまま掴まる事しか出来なかった。

 馬車置き場へと来ると、骨組みしか無かったナラク専用の馬車が綺麗に直してあり、素早くナラクをシートに優しく座らせると馬を繋ぎ、自ら御者台へと滑り込む様に座ると、馬に鞭を打って走らせた。

 その行動に驚きながら、何処か懐かしい気持ちに浸ってしまって涙ぐむナラクだった。
 
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