Shine Apple

あるちゃいる

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六十四話

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 「まぁその辺に適当に座ってくれ」

 そう言うと彼女はお茶葉を指輪から出してポットに入れる。

 彼女には執事や侍女は居ないようだ。

 ソラが代わりに彼女からポットを取り上げるとお湯を水筒から出して茶葉を蒸す。

 「客人にやらせる訳には……」
 と、言ってポットを取り戻そうとするが手で制されて諦める。

 「君のところの獣魔は頑固だなぁ」

 そういって苦笑いのまま椅子に座る。

 「……精霊よ。水の……」

 そう俺の後ろに立ってたラメルが呟いた。

 精霊と聞いて彼女は一瞬固まった跡、物凄い勢いで地面に平伏した。

 「なななな、何で先に言わないのだ君は‼ せ、聖霊様にお茶なんて入れさせてしまったではないか!」

 平伏しながら顔をこちらに向けて怒鳴る彼女に再びラメルが呟く。

 「私も精霊なのだけど……」

 その声に初めて気付いたのか固まったまま動かなくなった彼女は……平伏したままの形で気を失っていた。



 「……お前迷惑だから影に潜んでてくれ」
 「なっ⁉ ひど! 私悪くなくない⁉」
 「話が進まなくなるんだよ」

 そういって無理矢理影に潜らせる為にラメルを押し込んだ。

 ソラに言って彼女を浮かせてもらい椅子に横たわらせると、暫しソラとお茶を呑む。

 小一時間ほど経つと彼女は目を覚ました。

 「失礼致しました!」
 と、再び床にへばりついた彼女を説得して椅子に座って貰うまでに小一時間ほどがまた過ぎて、ようやく話が出来る頃には俺の横にメリヌとペロンとチェリーも燻製が全部出来たと報告に来ていた。

 「……頼むから先に話をしてくれ……」

 ペロンとチェリーを見た彼女は再び地面とキスをし始めたので、立たせるのは諦めて話を促した。

 「いや!しかし……」
 と、全く頭を上げなくなったのでため息を吐いてから精霊には全員魔力車で待機しててとお願いした。

 そこで漸く落ち着いたのか彼女は椅子に座った。

 「はぁ……人生で初めて五大精霊を見たよ……光が居なくて少し恐怖を感じたけど……」

 【因みにこの世界は六大精霊で成り立っていて、光の精霊はは一匹しか居ないらしい。闇精霊の力が俺と契約した事で強く成り過ぎて、二匹で顕現してるだけなのだそうだ】

 そういって冷や汗を拭っていた。

 「王都にいるよ?」
 とメリヌが不思議そうに呟いた言葉はどうやら聞こえなかったらしく、お茶を飲みだしたので

 『シーッ!もう精霊のことは何も言うな!』

 と、メリヌの耳元へ伝える。

 「それで? 草原のガラス質をどうしたいんですか?」

 とっとと本題に入りたかったので俺から切り出すことにした。

 「あ?ああ、そうだったね。その事で君に話をしてくれと言われたんだった……このガラス質を生み出したというご本人様と」

 そういって俺をニヤリと口角を上げて笑いながら見る。

 「先ずはこれを見てくれ」
 そういうとポケットから石みたいな物を机に転がした。
 「何か分かるかな?」

 そう言うのでその石を摘んでよく眺めてみる

 「……あれ? これって水晶?」
 「そうだ! やはり分かるか! 流石荷物持ちだな! 博識だ」
 そう嬉しそうに言うと、もう一つポケットから取り出した。
 そちらの石は汚れを取って磨いた物だそうでキラキラと輝いていた。

 「どうだね? この地面を覆っている全てのガラス質が水晶になっているんだ!」

 召喚術の媒介である水晶の塊は、この世界では金の粉より希少で値段も高い。
 そして、熱で溶けた事により純度も高い様だ。

 確かに金儲けといった王様の話も頷ける。
 だがしかし……ここは隣の国の土地である。

 いくら先に価値を見出したとしても持ち帰ることはできないのではないか?

 そう疑問に思ったのが顔にでも出たのか、彼女は訳知り顔で頷くと

 「君は善人だな」
 そういって笑う。
 「だがね? この国では見つけた物に権利があるのだよ」
 そう言って掘り出すのを手伝ってほしいと言ってきた。

 「いやまぁ、掘り出すのは構いませんけど……人を雇えば良いのでは?」

 なぜ俺が盗掘の片棒を担がなければならないのか……と呆れる。

 「人を雇うとバレるではないか!」
 語るに落ちてる事には気が付かないのか?この人……やはり違法なのは間違いないらしい。

 「ちゃんと商業ギルド通してくださいよ」

 「ええ~……」

 何が嫌なのか唇を尖らせて不貞腐れる。
 もしかして大人びて見えるだけで年齢は若いのか?この子……

 少し疑問に思ったので年齢を聞いてみると12歳だと言い始めた。

 マジか……
 外国人は大人びて見えるときくがこの世界でもそうなのか……
 どう見ても二十歳くらいの美人さんにしか見えない彼女をマジマジと眺めていると、脇腹に一撃もらった。

 苦痛に声も出せず蹲ってると、メリヌさんが睨んでいた。

 『彼女は魔族の血が少し混ざってるようね』

 そう俺の頭の中へ語り掛けて来るのは影に押し込まれたラメルだった。

 [魔族とは【魔力の高い種族】という意味で、正一がこの世界に来た時に人族と戦争をしていた国である。
 成長が早く、一定の年齢になると成長は止まりそこから数百年と生きる。魔族の種類によって成長する年齢はバラバラであり、鬼人、エルフ、ドワーフ、ドラゴノイドと種は多い]

 『この子はエルフ族の様ね……羊娘は嫉妬するだけ無駄ねのにねぇクスクス……』

 ラメルの呟きは聴こえないはずなのに何か感じたのか、俺の影に殺気を送るメリヌ

 なので、指輪から綿菓子を出してメリヌの口に放り込んだ。

 「あら、今のは何? お菓子なの⁉」

 お菓子に敏感なのか、メリヌの口に放り込んだ物が気になったのか食い付いた。

 「ちゃんと商業ギルドに話しを通すなら教えてあげます」

 と、少し強引だったが綿菓子を餌にする。

 「じゃあいいわ!水晶を売ったお金で買うから!」

 そういうと再び不貞腐れた。

 「お金があっても買えないよ? これはタクミのオリジナルだから何処にも売ってないよ?」

 と、幸せそうな顔をしながらメリヌが教えてあげていた。

 (ああ……この顔を見たからか……お菓子と分かったの……)

 妙に納得した。
 綿菓子を食べたメリヌの顔は蕩けていたからな。

 まぁ、お菓子と分かっているならいいかと思い、一欠片の綿飴を口に放り込んでやった。

 口に入った瞬間溶けたのか唖然としている彼女と

 影から黒い前脚を伸ばしてクレクレと催促するラメルと、その手を素早く払い除けるメリヌ

 彼女の口から素直に商業ギルドに報告しますと伝えてくるのに掛かった時間は五秒も掛からなかった。

 
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