Shine Apple

あるちゃいる

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五十九話

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 「~~であるからして、此処に第一回各学科対抗戦闘大会を開きます!」
 歓声と拍手で開会式は無事終わった。

 ペコリと頭を下げてからテクテクと台座から降りてくるのはこの学園の学園長

 鼠人族のガルプス・リッパ
 鼠人族の族長にして、魔法術士。
 (魔法術士とは主に、転移魔法や空間魔法などの所謂サポートを主としてる。
 軍事物資の運搬から傷ついた兵士を戦闘地域から離脱させたり、城から戦闘地域へと送ったりする術士だ。

 戦争も無くなり、魔獣の氾濫もない平和な世界ではあまり役に立たない仕事だった、元々温厚な性格の為に冒険者等にもならず、兵役を退いたのち、無気力になって居たところ、後進を育てる為に学園長として働かないかと国王陛下に言われ任された。





 「はぁぁ……こんな大会余り意味が無いけど、生徒のモチベーションが上がる様ならと許可は出したけど……まさか私怨だったとはなぁ……」

 開会式が終わり、各部門での予選が始まると、学園長の出番は特に無い。
 なので、園長室へ帰ってきてからお茶を啜っていると、タクミを影から見守る者達からの報告書が机の上にあったので、読んでいた。

 【既にタクミには、契約した闇精霊が付いているので、特に護衛などは必要としていない。
 それに、最近では光、水、土、火、風の五大精霊とも契約したと報告に上がっていた】

 なので、見守り隊の仕事は、本当に見守るだけの者達なのだ。
 「サラティウス・デミール伯爵の邸宅から確かな証拠を抑えました……」

 最後に書かれていた文を読み、二枚目の計画書を読む。
 それを観て学長はため息を吐くと

 「はぁぁ……優秀な講師何ですけどねぇ……」
 それだけ言うと頭を抱えて唸る。

 (陛下に進言してみるかなぁ……タクミ君の秘密を講師だけでも広めていいか……じゃないとどんどん優秀な講師を失う事になるし……全く貴族のプライドなんてあるだけ無駄だなぁ……それに精霊にも問題が……)

 学長は深い溜め息を吐くとお茶を啜る。

 ”ワーワー”と窓の外では歓声が聞こえる。
 (楽しそうだなぁ……混ざりたいなぁ)
 実はこの学園長お祭り騒ぎは大好物だった。
 何となくウキウキしていると
 ”スッ”と、影の者が再び現れて学園長に伝える。

 「サラティウス・デミールが王城にて御乱心」

 聞きたくない言葉を聞いた学園長の眉毛がみるみるうちに下がり始め、深い溜め息を吐いたのち
 「……数人付いて来い」
 と、今までとトーンを変えて低い声で呟くと

 部屋に待機していた部下数名と共に”……ヒュッ”と、消えてその場から居なくなった。








~王城廊下付近~

 「あれ? デミール伯爵ではないか、其方そなた何故こんな所(王城)におる? 今日は学園の何とかって大会に出席するんじゃなかったのか?」
 
 
 サラティウスは馬車にも乗らずひたすら走って王城まで来ていた。
 疲れていた事もあり、息を整えるのに必死で、偶々出会った副将軍(陸)と鉢合わせになったのだが、まともに挨拶もしないで通り過ぎる。

 「貴様!副将軍に対して失礼であろう!」

 そんなサラティウスを見て後ろに居た
 パルモティア・ディアスの父
 パルモティア・バディアスはサラティウスの肩を掴んだ。

 (※パルモティアは副将軍直轄の部隊に所属していた騎士であった。
 バディアスがタクミのことを知っていたのは、スタンピードの時公爵の息子が初陣するというので、副将軍直々の命で護衛任務をしていたから)


 「邪魔を……するなっ!」
 そう叫ぶサラティウスはバディアスを魔法で吹き飛ばした。
 壁に当たって意識を飛ばしたバディアスに駆け寄る副将軍達には見向きもしないで王のいる執務室を目指して進む。

 「何だアイツは⁉ 我々が見えていないのか⁉」

 バディアスの同僚が叫ぶと、他の者はヒーラーを呼ぶ為に叫ぶ。

 従者や侍女達は混乱の恐怖で叫び声を上げて逃げ惑い、王城は一時パニック状態に陥った。

 「「静まれーーい!」」

 その声で一括された王城内は”シーン”と静まり返り、コツコツと歩く男を皆が振り返る。

 そこに居たのは数人の部下を連れた学園長だった。

 学園長は後ろに控えていた部下に目で合図を出す、その部下は頷くと一瞬でパルモティアの側に立ち

 「ヒール」と、唱えた。

 部下の手から暖かい癒やしの光が溢れ出し、ゆっくりとパルモティアの傷を癒やし始めた。

 「ガルプス・リッパ将軍‼」

 副将軍は安堵したかのように叫ぶと駆け寄った。
 周りの兵士達は敬礼する。
 
 「元を付けろ馬鹿者め!」
 「も、申しわけありませぬ元将軍閣下」と、敬礼する。

 ガルプスはもう一人の部下にも指示を出すと、その部下も素早く消えて

 「……貴様⁉何者だ! ガハッ⁉」
 
 っと、遠くの方で叫び声が聴こえた瞬間呻き声に変わり、誰かが床に倒れる音がした。

 程なくしてグッタリとして意識を失ったサラティウスを抱えた者が帰ってきた。

 「サラティウス……なぜ彼はこんな事を……」
 副将軍は魔道隊福長官を見て言葉を失う。
 彼は勤勉で真面目な性格なのは有名な話だった、ここ迄後先なく行動する者では無かったので驚いていた。

 サラティウスを拘束する様に伝えるとガルプスは副将軍を見て言う

 「マトリカーサス将軍以下各部隊の副長官までの全員を呼び出してくれ」
 「え……」
 「※緊急事案である!」
 「は、はっ!直ぐに!」

 困惑する副将軍は鬼気迫るガルプスの言葉に最敬礼したあと部下に支持を出して各部隊に連絡するように伝えると、自分も将軍を呼びに走る。

 そしてガルプスは国王陛下の謁見を申請しに執事室(秘書課みたいな場所)へと向かった。

【※緊急事案とは※
 退役した元将軍や元副将軍に与えられた権限の一つで、退役後でも緊急的な場合に限り、議長となって会議を開く事が出来る事である】


 ~王国軍事部隊階層図~

 将軍ー副将軍(陸軍)
    副将軍(空軍)
    副将軍(海軍)
    副将軍(魔道(攻))
    サポート部隊(魔道(守))
    遊撃隊 

 副将軍(陸)ー騎士長官、副長官
 副将軍(空)ー飛竜長官、副長官
 副将軍(海)ー海竜長官、副長官
 副将軍(魔)ー魔道士隊長官、副長官


 王族直轄の為、近衛騎士は軍事とは別系統
 




    
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