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五十一話
しおりを挟む私はパルモティア子爵家の次期当主。
パルモティア・ディアスと言う。
現当主で婿養子の父上が名付けたのではなく、パルモティア直系血族の御爺様が付けてくれた立派で気高い名前なのだ。
御爺様の娘で私の母は、私を産むと直ぐに他界した。
だから気高いパルモティア家の血は私だけになってしまった。
母が亡くなった跡に継母がやって来た。
そして産まれたのが私の弟達だ。
パルモティア家とは円も縁もない奴等だ
私の様に気高く生きられぬ脆弱な奴等なのだ
そんな奴等しか居なくなってしまったので、わたしは余計にパルモティアの名前に恥じぬ様に気高く生きなければ成らないのだ。
そして、気高い私に似合う様に可愛い彼女も必要だ。
だが気高い私に見合う女は入園した時には居なかった。
気高い私に見合いそうな女が一人も居なかったわけではない。
ただちょっと爵位が見合わなかっただけだ。
伯爵家や侯爵家など私から婚約を申し込む手紙を書いたとしても、読まれずに薪と一緒に火にくべられるのがオチである。
そんな断られ方はたとえ爵位が下であろうとも許されないのだ。
なので私はパルモティア家よりも爵位の低い女性を探した。
そして見つけたのが男爵家の娘で
【ルーシー・ダッタシン】と言うなの娘だった。
少しお転婆……と言うか落ち着きがないし、胸は……来世に期待……と、残念な感じだったが顔は可愛かった。
二年上の学年みたいだが関係無い、そして私は彼女の家へ夏休みが終わる少し前に婚約の申込みをしに行ったのだ。が……何故か彼女は修道院へ入れられてしまっていた。
夏休中に何かをやらかしたらしい……。
これはきっと御爺様が助けてくれたのだろうと思う。
もう少し早く申し込んでいたら、気高い私の傷になるところだったんだからな。
確かこの女は冒険者倶楽部なんてモノに所属していた筈だ。
やはり冒険者などに憧れる女は駄目だな、危うくあの顔に騙されるところだった。
だがしかし困ったな……これでは気高い私は女と付き合えない寂しい学園生活しか送れなくなってしまう。
ああそうか……どうせ学園で付き合う女など遊んでやるだけで良いではないか?
そこに気付けた私はやはり優秀だな。
フフフ……要は顔が可愛ければ良いのだから、学園に通う間は平民の女を探せばよいのだ。
そこで私は編入試験で入って来る女を物色した……クフフフ居た居たと喜び、よく観察していると、何処かで見た顔だった。
おおそうだ! あれはうさぎ屋で働いていた羊人族の娘ではないか?
これは幸先が良い! あの店は急に現れて一気に王都民達の胃袋を掴んだ流行りの店だ、そして彼女はきっと経営者側の者だろう。
何故なら黒いウサギを顎で使っていたからな! 間違いない筈だ。
それに付き合えば色々と役に立つことだろう!
そうだそうだ!
気高い俺の女にしてやろう!きっと跪いて歓び泣く筈だ。
そして私は自分の席の隣羊人族が座るのを確認した。
運命を感じた。
(私の席の隣ではないか!)
だが私は貴族だ、もしかしたら気高い私の体から漏れる気高い覇気に充てられて怯えてしまうかもしれない、ここは慎重に優しく紳士的に声をかけなくてはならない。
「やあ、こんにちは!」
私の言葉は聞こえてるはずだ……だがこの女微動打にしないで前を向いたままだった
(気高い子爵家の次期当主の私が態々話しかけてやってるのにガン無視か……)
いや、もしかして固まっているのか?
よし、怖くないアピールをしながらもう少し優しく問いかけてみよう!
そう思った矢先
隣の男に話しかけられた。
(っち!何を勝手に話し始めているんだコイツは……子爵なのだぞ? 私は!それなのに何を気安く私に話し掛けているのだ? 無礼にも程があるだろ⁉)だが、彼女を怯えさせないように
「君には話しかけていないよ? 僕は此方のお嬢さんに話しかけてるんだからね?」そう言うと、なんとこの男の従者に何のようだと言ってきた!
こんな間抜け顔の奴の従者だと⁉ 信じられなかった。もしかしたら脅されているのかもと思っていたが、この跡に彼女から殺気を貰う。
何だこの威圧は……さ、殺気……だと⁉
この気高い生まれの、気高い私にあろう事か殺気だと⁉
許せぬ……高々平民如きが調子に乗りやがって……
この跡の事は憶えていない。
頭に血が上り過ぎた私は何を言ったのか如何やって帰ったのかすら分からなかった。
次に意識が戻ったのはパルモティア家の紋章が付いた盾を握った時だろうか、私の側らに父が居た。
こんな時間に珍しいとは思ったが、私がこの時間に家に居ることが初めてなので知らないのは当然だった。
「何故いるのか?」
当然そう聞くはずだ。それはそうだ、普段なら教室に居るはずの私が居る事が不自然だからな。
だがこの男……私が言った言葉を理解出来なかったのかうさぎ屋へ特攻する事に反対して来た。
お祖父様なら私と共に攻め行っていたと!腑抜けてるのかと叱咤したのに……
全く微動だにせず落ち着いたまま私を諭してきやがった。
パルモティア家の血を引いていたなら今頃うさぎ屋とあの男を血祭りにあげ、あの生意気な女を調教出来ているはずだった。
「どこを攻めに行くのだ?」
そんな言葉を発してきたので、敵を選んでるのかと思い、平民だと言って安心させてやったら……
信じられない事に
気高い生まれのこの私を
お祖父様に最も愛された私を
この男は半殺しにしたのである。
美しかった私の顔はドンドン崩れていった。
私の気高い血が顔全体から舞い散り始め緑の芝生を赤く染めた。
意識が遠のくのを防ぐかの様に私を引き摺りながら、時折柱にぶつけながら奴(父)は歩き、うさぎ屋入り口の看板の前に私を投げ出すと言った。
「その看板を見よ! そこに描かれて居るのはこの国が、この世界が平和で居られる様に神が使わしてくれた精霊だ! そして、お前が攻め入ろうとしている店は精霊と契約した三代目魔導師だ! 分かっているのかディアスーッ!」
そしてその跡何度と無くボッコボコにされた。再び意識が飛び、気が付くと父はアイツに土下座していた。
山裾の街で何かしらあったのだろうか
父は泣きながら慈悲を求めていた。
そこに現れたのは王族の近衛兵で国の英雄の一人と噂されるラメル様だった。
信じられない事だがラメル様はこの男を主と思ってるようだった。
こんな平民の何が凄いのか分からない
私は再び父に引き摺られながら自宅へと帰った。
部屋に押し込められ
「ディアス……貴様には失望した、後継者の枠から一時外し弟達と同じにする。 もし、それでも跡を注ぎたいのならば精進する事だ……」
それだけ言って去ってった。
弟達だと……?
奴等には一ミリもパルモティア家の血は入っていない……
パルモティア家から生まれた母の子、つまり私だけがパルモティア家の血を残していた。婚姻後私しか産まずに他界した母の代わりに迎えたのがあの女(継母)だ。
その腹から産まれた弟など私とは関係無い赤の他人だ…………パルモティアが乗っ取られてしまう。
そう考えると私は青褪めて引き出しを開けて回復薬を呑んだ。
明日から真面目に頑張らなければ……家督を継いで、この家の当主になった時に奴ら全員に復讐しよう。
そう誓うディアスだった。
◇
十数年後、パルモティア家は当主が代わったのちも、前当主と変わりない温厚な当主で、末永く国を守った家として歴史に残る事になる。が、このときのディアスには知る由もない。
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