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二十九話
しおりを挟む私はどうやら気を失っていた様だ。
私の名前はアリス
アリス・サンスベルト(16♀)
五人のクラスメイトと桃魔森猪を狩る計画を立てて王都からやって来た。
私達は王都の学園に通う貴族の令息や令嬢だ。
私の盾は父から借りた。
父は公爵家の重歩兵だった。
若い時に使っていた盾を長期休みに冒険者倶楽部の者達と山裾の街で実践してくると言ったら貸してくれた。
盾の紋章は父が仕える公爵の紋章を勝手に描いているだけだった。
何となくそれを描けば強くなった気になったから。
私は父に憧れてたのでフルアーマーを着ている。
冒険者の格好じゃないと皆に言われたが、ここは譲れないと頑固に押し通した。
いざ旅に出て山裾の街に着くと早速依頼を受けたのだが、荷物持ちがいない為出来る仕事が限られた。
荷物を運ぶだけで金を稼ぐからと剣士の二人は荷物持ちが嫌いだった為に、他で雇う事はしなかった。
そのお陰で報酬の少ない仕事しか出来ず、遂には斥候のルーシーが荷物持ちの真似事をする事になった。
だが親達から貰った資金と今まで稼いだ金を足して自分用の短剣を買ってしまい、アイテムバッグが買えなくなった。
仕方なく残ったお金で大きなリュックを買って実入りの良い仕事が無いか、ギルドに朝早くから起きて探していたんだ。
大きなリュックを背負った所で元々斥候だし女の子だしで碌に獲物は持てない。
そこで仕方なく獣を狩って少しでも稼ごうという話になったが、掲示板に桃魔森猪50匹という美味しい依頼を見た騎士の家系で自らも剣士を目指してるブラフが欲を出した。
そのお陰で中々依頼が決まらず、はてはルーシーと言い争いまで始まったところで彼を見つけた。
荷物持ちなんて狩りも出来ない軟弱者と思っていた私達は彼を適当に扱った。
名前すら知らないが荷物持ちをゲットしたと思い込んだ私達は浮かれてしまって彼の許可も取らずに狩りに出た。
スタスタと前を歩く彼に付いて山まで来ると、彼とツーマンセルで桃魔森猪を探す事になったのだが、その彼は他の依頼を受けていた。
しかも山には桃魔森猪は居ないと言い出した。
温厚な私もそれには憤りを感じ、意見したが聞き入れてもらえず、仕方なく貴族だと明かしたが口調は変わらないし、私の方が無礼だと言い始めた。
なんて常識のないやつだ、これだから平民はとムカムカし始めていた。
この国で生まれたものなら誰もが知ってる紋章を知らないとは!っと、怒りがこみ上げてきたが、彼は隣の国の生まれという。
そりゃ知らないはずだ……。
仕方ないからバッグを売れと言っても聞かないし、平民の癖に態度はデカいしで私の心は正常心を失っていた。
だからか間近に迫っていた狂気にも気付かず、狼の群れと遭遇してしまった。
20頭以上の狼の群れなんて災害案件だ。
正常に冷静に対処できる冒険者なんて上級者以外居ない。
それをこの男は……私達と年齢は変わらない様な少年が退けるどころか全滅させるなんて……信じられない光景だった。
そしてボスが飛んで来て殺気を当てられた私は気を失ったのだ。
その後この男に起こされるまで寝ていたようで、既に日も暮れかけていた。
「あんな魔法は見たことありません! 誰に教わったんですか? 師匠は誰ですか! なぜそんなに強いのに荷物持ちなんてやってるんですか? うちに来ませんか? ちょっと! 話を聞いてくださいよ!」
私は矢継ぎ早に彼に話しかけたが全く聞いていない。
どーしても彼が欲しくなった私は彼の前に回って立ち塞がったらフワリっと飛び越えられて、遥か下まで行ってしまった。
それを追い掛けて行くが鎧が重くてうまく走れない。
彼に追い付いたと思ったら山を抜けていた。
私達の目の前には疲れきって座り込む四人が居た。
ブラフ(青髪)
ルーシー(リュック女)
マリオ(杖男)
ルシオ(黒髪)
どうやら眠っているようだ。
それを見た荷物持ちの彼は呆れていた。
いくら何でも狩場で寝るなど信じられなかったらしく言葉に出してため息を吐いていた。
その彼が私を振り向いて言った
「こんな非常識な奴等は魔森の街にすら居ないよ? そんなパーティに入るつもりも無いし、関わりたくも無い。 もう話しかけて来ないでくれ」
そう言ってスタスタと街の方角へと歩いて行ってしまった。
私も流石にこの光景には唖然としてしまい、彼に何も言い返す事ができずにそのまま彼の背中を見送る事しかできなかった。
彼が去ってから
(そーいえば名前を聞きそびれたな……)と、思い返したが。
自己紹介もしていなかった事を思い出し顔が赤くなるほど恥じた。
彼が言った無礼とはこの事だったのかも知れない。
貴族とはいえ人だ。礼儀もちゃんと教えてもらって居たのにと反省した。
その後寝ている四人を蹴飛ばして起こし、取り敢えず街に帰ろうと言って追い立てた。
禄に返事も出来ないほど疲れきっていた彼等だったが、日が落ちるまでに街に入らないと門が閉まるので急かした、街の門が閉まるギリギリでどうにか中へ入ることが出来たが、もう立つことも出来なくなった私達は暫くそのまま動けずに、夜の見回りに叩き起こされるまで眠っていた。
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