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ニ十四話
しおりを挟む次の日の朝、ギルドが開く時間にメリヌも連れて木材のストックを増やす為に、木を切っても良い場所はないかプリムローザさんに聞いてみた。
「木ですか? 木材が欲しいなら売ってますけど……え? 自分で切るんですか? えっと……うちは冒険者ギルドなので商業ギルド本店で聞いてみてください」
「本店?」とメリヌが首をコテンと倒して聞き返していた。
「はい、樵の護衛任務の依頼は冒険者ギルドで請け負うのですが、直接木を切り倒したい方は居ないのです。パンはパン屋と言う事で材木がほしい方は樵から買い取りますので……」
商業ギルド本店の場所を聞くと、中央通りにあるというので向かう。
魔森の街でも本部は中央の貴族通りに面してる場所にあったなと思いだしていた。
この街でも支店と本店とあり、支店は冒険者ギルドの真向かいにあり、商業ギルドと狩猟ギルドが併設して建っている。
冒険者ギルドはその他のギルドになるが、大体商業ギルドと直接関係してるので近くにあるらしい。
すべての街の中心ギルドは商業ギルドが担っているが、その対になるギルドは街に住む人の一番多い職業によって変わるのだそうだ。
この街で多いのが狩人なので対になるのは狩猟ギルドだし、魔森の街では冒険者が多いから冒険者ギルドが対になっている。鍛冶師が多い街では鉱石ギルドが対になっている。
勿論、対になるギルドの他に専門ギルドもちゃんとあるので、国を移動する冒険者や傭兵が別の町に行っても所属ギルドが無くて困るということは無い。
本店が無いというだけだ。
この街にも冒険者ギルドはあるが本店は無い。
冒険者が増えれば本店も出来るのだそうだ。
鉱山の街では商業ギルド、鉱石ギルド、冒険者ギルドの本店があるという。
って言うのをメリヌに説明しながら歩いていると、家の造りや庭の広さが他の家屋と違う通りに出た。
その通りの中央付近には噴水があり、その周りに貴族達が買い物したり食事をしたりする高級店が立ち並び、その中でも一際大きな建物が商業ギルド本店で、その隣にある同じくらいの大きさの建物が狩猟ギルド本店らしい。
通りを歩く人々を見ても、きらびやかな服を着た如何にも貴族ですって方々が歩いている。
そんな中に一介の冒険者が混ざると目立つようでジロジロと見られている。
その視線が嫌なのかメリヌがいつも以上にくっつくもので、歩き辛くなっていた。
「さっさと中に入るぞ」
「……うん」
半ば抱きかかえる様にメリヌを連れて商業ギルドの扉を開けて中へ入ると、そこにも当然とばかりに貴族が居るので視線はあまり変わらなかった。
少し身奇麗にしてから来るべきだったなぁと後悔し始めたが、今更感もあったので早々に諦めて受付を探す。
キョロキョロとしてると横から黒服を着た屈強な騎士っぽい人が声を掛けてきた。
「君達……何か用かね? 見た感じ冒険者の様だが、仕事なら支店の方に行きたまえ」
「いえ、こちらに用がありまして。 受付は何処か知りませんか?」
「仕事の依頼かね? それも支店があるのだからそちらでお願いしたいのだがね」
「依頼ではなく、材木が欲しいので木が切れる場所を聞きたいのですよ」
「冒険者と思ったが樵だったのかね? 其方の羊人族が護衛かな? まぁ良いか……ではそこの階段を登った先に受付があるので聞きに行きたまえ」
「……教えてくださり感謝します」
「教えるのは当然だよ、私は貴族だが同時にここのギルド員だからね」
(だったらもっと言い方あんだろ⁉)
っと、心の中で悪態を付いたが顔には出さないようにして軽く会釈をして階段を登っていった。
「嫌な感じだったねタクミ」
俺にぶら下がりながらメリヌもあのギルド員に見つからないように舌を出して怒る。
「貴族ってのはあんなもんなんじゃねーの? あんまり関わったことないから知らんけど」
「あたしは初めてかも」
さっさと用件だけ済まして帰ろうと話、階段を二段飛ばしで登っていく。
登り切ると少し廊下が続き外の噴水が見える。
その先に受付と扉の上に書かれている部屋があった。
「うへ……態々中にはいるのかよ」
取り敢えずドアを三回叩くと「どうぞー」と、声がしたあとガチャリと扉が勝手に開き、中から頭を45度に下げたメイドが両脇に立っていた。
一番奥の窓際に、社長室にあるような大きな机があり、その前のひざ掛け椅子に女性が座っていた。
「どうぞソファーに座ってお待ちください」
肘掛け椅子の横に立っていた執事みたいな男性が、手を差し出しながら中のソファーへ座れというのでギクシャクしながら座る。
ボフッと腰から埋まるメリヌを横目に手前の硬い部分に浅く座ると直ぐに紅茶が出てきた。
いつの間にか移動してお茶を入れたのか……先程の執事がお茶菓子も持って現れた。
「受付の者を直ぐに呼びに行きますのでお茶でも呑んで少々お待ちください」
と、軽く会釈して執事は奥の扉へと消えた。
(そこに座ってる女性はなんなの⁉)
とは言えない雰囲気だったので、椅子に埋まったメリヌを助け出し手前に腰掛ける様に言い、出されてるお茶を飲む。
中々高そうな味がする。
メリヌはお茶菓子を手に取りモグモグと食べるが、あまり美味しくなかったのかひと口だけ食べて皿の横に置き、お茶を飲み始めた。
『タクミ……これ甘過ぎる』
『砂糖菓子なんだろ』
『国境前で食べた甘い奴とは違うよ?』
『そうなのか?』
砂糖菓子と聞いて綿菓子みたいな鼈甲飴を思いだしたみたいだが、その甘さよりも甘いと言うので残した物を少し齧ってわかった。
ボソボソとしたクッキーを溶かした砂糖でコーティングしただけのお菓子だった。
(貴族達はこんな不味いものを食ってるのか? それとも冒険者と思ってバカにしてんのかな?)
それにしては紅茶は高級品だったので首を傾げていると、扉を叩く音が聞こえたので振り向く。
すると、肘掛け椅子に座ってる女性が
「どうぞー」
と言うと、メイドが扉を開けた。
どうやら肘掛け椅子の女性は『どうぞ』と言うだけが仕事らしい……。
変なところに来ちゃったなーと、ここに来た事を後悔し始めたタクミだった。
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