１０秒で読めるちょっと怖い話。

・俺が俺であるために

　きっかけは、事故で左脚を失ったことかな。そりゃあ当時は悲しかったよ。なんで俺がってね。でも不思議なもので、一年もすると慣れちまったんだよな。

　それからしばらくして今度は右脚も失っちまった。でも俺は俺として生きている。そこで俺は疑問に思った。脚を失ったのに俺が俺として生きているということは、俺の脚は俺を構成する要素として必要なかったのではないかってな。

　次に左腕を失ったときはもう、悲しくはなかった。腕がなくても俺は俺だったからだ。だからもう右腕もいらねぇやって思って、俺はそれも自分で取っちまった。

　だんだんと俺は削られていったが、依然として俺は俺のままだった。俺は、俺を構成する最小単位というやつが気になった。肺、胃、腸、心臓と、次々と体を機械に置き換えていった。

　最終的に俺は『脳』だけになった。それでも俺は俺だった。俺は次の段階として、右脳と左脳を分離して、間に電極を繋いだ。

　俺は時間を振り分けて、右脳だけで活動する時間と、左脳だけで活動する時間を作った。それでもなんら支障はなかった。

　次の段階として、今度は脳を完全に分離した。右脳には左脳の代わりとなる機械を繋ぐ。左脳にも同様に。

　そして俺は二人になった。そこで初めて俺は、困惑した。

　二人の俺、どっちが俺だ？