19 / 56
大学生
インターン〜6日目〜
しおりを挟むあけて月曜の朝イチ。
相原が飲み会で言った通り、今週は営業チーム5人でプレゼンを行う事が告げられた。
先週までも、殆ど社会経験のない学生からしてみたら十分“お仕事してる”感があったのだけど。
あくまで“お客様待遇”だったのだと…与えられた課題やノルマを達成して、“仕事”ができた気になっていただけだと気付かされた。
午前中は5人揃ってグループワーク。
社から出されたお題に沿って議論をし、意見を集約してゆく。
議論の時間は60~90分。
その後、指導役のアドバイスを受けながら、データをまとめ原稿を作成する。
「資料集めと分析は俺やるわ、そういうの割と得意だし」
「あ、じゃあ私もそれ手伝う。
1人じゃキツイでしょ」
相原と柚ちゃんが資料作りに名乗りをあげる。
「パワポは任して。
俺そういう作業好きだし」
と槙野。
「意見の集約と細かい調整は俺がやる」
黒澤もやるべき事を見つけた。
みんな、それぞれ蒼製作所以外でのインターン経験があるのだと、金曜の晩に聞かされた。
だからだろうか。
テキパキと自分ができる事を見つけ、こなしていくのは。
その点…私は何をどうすればいいのか、イマイチわかっていない。
取り立ててPCスキルが高い訳でも、専門の勉強をした訳でもない。
数字を見るのは多少強いと思うけど、取り立てて言うほどの特技でもない。
今、1番の役立たずは私かも…とこっそり肩を落としていると
「国枝、お前生徒会長だったんだって?」
「…え?」
槙野の言葉にポカンとしてしまった。
……そんな事、話したっけ?
「だったら人前で話すの得意だろ?
それにお前の声、高すぎず低すぎず聞き取りやすいっていうか、よく通るっていうか。
とりあえずお前発表担当な」
「あ、いいね、それ。
なっちゃんの落ち着いた話し方なら、安心して聞いてられる」
槙野と柚ちゃんの言葉に他の2人も頷き、あっという間に決まってしまった。
その間にもポンポンと議論が進み、様々な課題がリスト化され、逆算的に予定が決められてゆく。
「スケジュール的にはキツキツな訳よ。
正味2日半で資料作って、木曜には手直ししつつ原稿完成させて、同時進行でパワポでスライド作って。
木曜の夕方には発表の練習始めつつ、改善点の洗い出し。
で、金曜の15時からが本番。
そんな感じか?」
「そうだね、出来るだけ巻いていこう」
——なんだか、とても大変そうな事だけはよくわかった。
* * *
議論は尽きず、結論から言って90分ではとても纏まらなかった。
それでも制限時間を過ぎたので、それぞれの発言をまとめ意見を集約していく。
その上で指導役のアドバイスをもらいながら、発表の方向性を決定する。
それだけで午前中いっぱいかかった。
しかも、午後からは現場の見学。
隣接する工場で、新製品の試作を見学する事になっている。
これでは、社に戻るまではプレゼン準備に取りかかる事は出来ない。
——これは、予想以上に厳しい作業になりそう。
今週は遅くまで作業して、それでもギリギリかも。
「とりあえず、みんなの意見を纏めた物をPCに送るから、手の空いた人からそれぞれ必要と思う資料を書き込んで共有しよう」
黒澤君の言葉に頷きながら、各々メモを取りつつ昼食をかきこむ。
あっという間に昼休憩が終わり、1階ロビー集合の時間となった。
そこには、久しぶりに見る技術部志望の面々もいた。
各課を代表して、浅野さんの先導で隣の工場へ歩いていく。
入り口でヘルメットを手渡され、中に入ると…そこには大小様々な機械の間を縫うように忙しく動き回る人達がいた。
その中から駆け寄ってきた1人の女性。
「お疲れ様です」
「お疲れ様です、今日こちらを案内してくださる今西さんです。
今日はよろしくお願いします」
肩まで伸びた髪は無造作に纏めていて、化粧っ気の薄い顔は私達とさほど歳が変わらないように見える。
蒼製作所はモノづくりの会社だけあって、技術製造部門は選考時から特に審査が厳しいと聞く。
その中から選ばれ入社しても、大抵は男性優位の現場での作業。
汗やオイル、薬品の混じった匂い。
単純な力作業から、様々な機器の操作。
そして年配の男性の怒鳴り声。
基本、立ち仕事の力仕事だしここで男性に混じって作業するのは、相当キツいように思われた。
辺りを見渡しても、女性は今西さんたった1人のよう。
なんだか…すごい人だな、と思った。
そんな中、今西さんの説明を聞きながら一通り現場を見学して歩く。
途中、航平の姿も見かけた。
多分目もあった気がするけれど、今はお互い仕事中。
それでなくても彼との関係を公にしたくない私は、ずっと目を逸らし説明に集中した。
見学が終わった後は、現場で働く女性社員の生の声を聞くという事で、今西さんの話に耳を傾ける。
若くて経験が少ないから。
女だから。
そんな、自分ではどうしようもない理由で苦労した事も沢山あるだろうに。
彼女は生き生きと語ってくれた。
聞けば入社して3ヶ月の、バリバリの新人だという。
そんな自分達と年の変わらない人が、生き生きと仕事をしている。
その事に、背中を押してもらえた気がした。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
陛下の溺愛するお嫁様
さらさ
恋愛
こちらは【悪役令嬢は訳あり執事に溺愛される】の続編です。
前作を読んでいなくても楽しんで頂ける内容となっています。わからない事は前作をお読み頂ければ幸いです。
【内容】
皇帝の元に嫁ぐ事になった相変わらずおっとりなレイラと事件に巻き込まれるレイラを必死に守ろうとする皇帝のお話です。
※基本レイラ目線ですが、目線変わる時はサブタイトルにカッコ書きしています。レイラ目線よりクロード目線の方が多くなるかも知れません(^_^;)
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
英国紳士は甘い恋の賭け事がお好き!
篠原愛紀
恋愛
『賭けは私の勝ちです。貴方の一晩をいただきます』
親の言いつけ通り生きてきた。『自分』なんて何一つ持って いない。今さら放り出されても、私は何を目標に生きていくのか分からずに途方にくれていた。
そんな私の目の前に桜と共に舞い降りたのは――……。
甘い賭け事ばかりしかけてくる、――優しくて素敵な私の未来の旦那さま?
国際ショットガンマリッジ!
――――――――――――――
イギリス人で外交官。敬語で日本語を話す金髪碧眼
David・Bruford(デイビット・ブラフォード)二十八歳。
×
地味で箱入り娘。老舗和菓子『春月堂』販売員
突然家の跡取り候補から外された舞姫。
鹿取 美麗 (かとり みれい)二十一歳。
イケメンエリート軍団の籠の中
便葉
恋愛
国内有数の豪華複合オフィスビルの27階にある
IT関連会社“EARTHonCIRCLE”略して“EOC”
謎多き噂の飛び交う外資系一流企業
日本内外のイケメンエリートが
集まる男のみの会社
唯一の女子、受付兼秘書係が定年退職となり
女子社員募集要項がネットを賑わした
1名の採用に300人以上が殺到する
松村舞衣(24歳)
友達につき合って応募しただけなのに
何故かその超難関を突破する
凪さん、映司さん、謙人さん、
トオルさん、ジャスティン
イケメンでエリートで華麗なる超一流の人々
でも、なんか、なんだか、息苦しい~~
イケメンエリート軍団の鳥かごの中に
私、飼われてしまったみたい…
「俺がお前に極上の恋愛を教えてやる
他の奴とか? そんなの無視すればいいんだよ」
セカンドラブ ー30歳目前に初めての彼が7年ぶりに現れてあの時よりちゃんと抱いてやるって⁉ 【完結】
remo
恋愛
橘 あおい、30歳目前。
干からびた生活が長すぎて、化石になりそう。このまま一生1人で生きていくのかな。
と思っていたら、
初めての相手に再会した。
柚木 紘弥。
忘れられない、初めての1度だけの彼。
【完結】ありがとうございました‼
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる