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大学生
インターン〜4日目〜
しおりを挟むインターンも4日目。
少し慣れてきた頃、1番ミスが出やすくなると言ったのは誰だったか。
その日の昼、ランチから戻った私と柚ちゃんの少し先を槙野が1人で歩いていた。
本社のフロアで、見知らぬ方に何か話しかけられたようだったけれど、距離があったので会話の内容までは分からず。
とりあえず午後の業務が始まる前に、歯磨きやら身支度やらを済ませてしまおうと思い、その場を離れたのだけど…。
昼1番、営業1課にクレームが入った。
打ち合わせのため初めて本社に来られたお客様が、会議室の場所がわからなかったのでその辺にいた社員に質問した所
「ちょっとわからないっす」
と答え、逃げ出したと言うのだ。
わからないなら仕方がない。
けれど、それならわかる人間に聞いてくるなり、会議の担当者の名前を聞き出して繋ぎをつけるなり、そういった対応ができなかったのか。
という内容のクレームだったそう。
それを聞き、真っ先に浮かんだのが先程ちらりと見た槙野の姿だった。
なぜ、彼の姿が浮かんだのか、わからないし確証もなかった。
けれど営業各課ですぐにチェックが入り…やはりクレームの元となったのは、槙野本人という事だった。
内心、同情より呆れの方が先に来た。
小学生レベルの対応しかできなかった槙野に対して。
同時に自分ならどうしたか、考える。
自社ビルではないので我が社のフロアに、受付はない。
1階の総合受付で、入居している会社ごとに人を置き、そこでビジターカードを渡しご案内するのだ。
それに…仮に、お客様のいう会議室の場所がわかったとて、本当にその場所にご案内して良いのかわからない。
やはり、お客様のお名前とご用件、担当者名を伺い、受付でお待ちいただいて取り次ぐのがベストではなかろうか。
3課の課長に呼ばれた槙野が、しばらくして青い顔で戻ってきたかと思ったら、インターン生全員が小会議室に呼ばれた。
事情を殆ど知らないながら、何かがあったらしいとお互い目配せを交わし合う中、槙野だけが誰とも目を合わさず、小さくなっている。
そこへ入ってきたのは3課の課長ではなく、1課の北条さんだった。
北条さんの口から淡々と、クレームの内容が語られる。
「君達は数日前にインターンに来た学生だ。
不慣れな業務に不慣れな建物。
頼れる先輩もいない状況で、お客様に叱られる。
一見理不尽に見えるだろう」
パッと顔を上げた槙野を、北条さんは表情の読めない顔で見つめる。
「でもお客さんからすれば、君がインターンかどうかなんて、知ったこっちゃない。
社内の人間に見えるんだから。
それに理不尽なんて、社会に出れば日常茶飯事さ。
それにどう対応するか、トラブルになった時どう収めるか。
そういう所で、そいつの人間性とか実力ってもんが見られていくんだ。
それを学んだと思えば、今日のクレームは決して無駄な事だったわけじゃない。
みんなもよく覚えておいて欲しい。
学生の君達にとって、正直今出来る事はそう多くはないだろう。
けれど、せっかくインターンとして来てくれたんだ。
どうせならここで良くも悪くも、たくさんの経験をしていって欲しい。
それが次に活きるかどうかは君達次第だが、
そうだな、ぜひここでの経験を次に活かしてほしい」
上から目線で叱りつけるのでも責めたてるのでもなく、諭すように静かに話す北条さんの言葉はすんなりと胸の深い所に入ってきた。
「と、いうわけで。
学生諸君、君らに課題だ。
ここに、想定されるクレームに対するマニュアルがある。
これを熟読し、オンライン形式でのテストを受けてもらう。
合格ラインは90点。
不合格者は明日もう1度テストを受けてもらう。
それぞれのPCにテストの要項を送っておくので、すぐにかかれ。
合格した者から本日の業務に戻ってよし」
* * *
手渡されたマニュアルを読み、頭の中でその場面を想像しながら、何が問題なのか、どう対処すれば良いのか考えをまとめてゆく。
一般的、常識的なものから言いがかり的なものまで、クレームは多岐に渡っていた。
その殆どが実際にあったか、事実に基づいたものを参考にしたものらしい。
じっくりと読み、PCに送られて来たテストを受ける。
結果は95点、1問間違えてしまった。
まぁ、合格ラインには達しているけれど、なんか…悔しい。
「あ、終わったんだ。
国枝、何点だった?」
「95点。黒澤は?」
「俺も95点。
ひっかけのような問題で、迷ってやめた方が正解だった」
肩を竦めながら苦笑いすると、黒澤は3課の方へチラリと目をやった。
「アイツ、もうダメかもな」
「ダメって…」
「インターンだからとか、学生だからとか、それ以前の問題だろ」
——確かに、それはそうなんだけど。
「でも、それを決めるのは私達じゃない」
そう言うと、今度は皮肉げな笑みを浮かべる。
「初日であんな事あったのに、意外。
結構ムカついてたように見えたんだけど」
「正直、殆ど初対面のあんたに言われる筋合いはない、とは思ったよ。
でもだからといって、今回の件でざまみろ!とは思わないよ」
——いくら無神経な奴でも…仲良くしたいと思えなくても。
だからと言って人の落ち度をあげつらったり、不幸を喜ぶような事はしたくない。
「…だよな。
ごめん、意地の悪い言い方をした。
でも片方を褒めるのに、もう片方を落とすとか、そんなやり方、俺大嫌いなんだ
国枝の妹さんは確かに可愛い系だと思うよ。
でも国枝も綺麗系というか、うん、クールビューティっていう感じ。
だいたい女の子に武士だの坊主だの、ありえないっつーの」
そう言うと、黒澤は自分で言った言葉に照れたように、柔らかく微笑んだ。
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