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妖魔の胎動〜ロイ視点〜
しおりを挟む未だに信じられない事だが、どうやら彼が聖剣に選ばれた勇者らしい。
確かに、彼が聖剣を手にした瞬間をこの目で確認した。
他の誰もが触れる事すら叶わなかったにもかかわらず、だ。
大神官長も、王ですら手を伸ばしても触れる直前、そこにあった筈の剣が姿を消すのだ。
まるで剣が選んだ使い手以外には、触れられる事を拒むかのように。
それは何度、誰が試してもそれは変わらなかった。
けれど、恐る恐る伸ばした指先が柄に触れた瞬間、彼…アルフォンスの身体が青白く光った。
その様子に大神官長は深々と吐息を漏らした。
「神よ、あなたは彼を選ばれたのですね」
囁くように紡がれた言葉は、しかしその場にいた全員の耳に届いた。
***
そうこうしている間にも、瘴気による被害は広がっていった。
かつての侵攻のように。
早速王宮に勇者と聖女が呼ばれ、その場で王より勅命が下る。
正直、妖魔の討伐だけなら騎士団でも対応が可能だ。
瘴気の浄化なら神殿に任せればいい。
どちらも時間はそれなりにかかるが。
だが聖剣が使い手を選んだという事は、妖魔樹復活が近いか、あるいは既に果たされたという事に他ならない。
聖剣とは、妖魔を倒すためだけに存在する古の神器。
妖魔樹を消滅させられる唯一の武器なのだから。
前勇者は当時の俺とそう歳の変わらない平民だった。
平民が選ばれた事自体、珍しい事だったが…それよりも彼は剣の心得が全くなかった。
いかに神器といえど、扱う人間が不慣れでは、その力を発揮する事は難しい。
その点アルフォンスは幸いにもというべきか、見習い中とはいえ歴とした騎士だ。
年若く実戦経験も少ないが、度胸だけなら合格点に達している。
早速会議が開かれ、騎士団と聖騎士団、魔術師団が合同で任にあたる事になった。
騎士団からは団長である俺と副官ディード、そして6名の精鋭。
聖騎士団からは聖女の護衛も兼ねて、エミリア・オルトランが率いる聖騎士7名。
そして魔術師団からは、大魔術師グレイブの最後の弟子として名高い、魔術師ニールも同行する事となった。
今はまだ確認されていないが、これから各地に出現が予想される妖魔は、各団で別動隊を出しそれぞれ撃破。
本隊である我々は、今回は妖魔樹のみに戦力を集中する。
聞けば、前回の妖魔樹討伐の地に瘴気が溜まり魔の森と呼ばれているとの事。
そこで妖魔樹が復活する確率はかなり高いのではないか。
それが神殿、魔術師団双方の見解だ。
またこれは非公式の情報ながら、魔の森の中心に、瘴気の凝り固まった物体らしきモノがあるらしい。
これが妖魔樹の本体だとすれば。
覚醒までに倒せれば…。
——いや、安易な期待はするものじゃないな。
ともかく、聖女の祝福を受けた武器や防具は、妖魔に対し桁違いの力を発揮する。
騎士団・聖騎士団の精鋭が文字通り道を切り開き、魔術師がフォロー。
出来た隙をついて勇者が妖魔樹の核を攻撃。
作戦は前回同様シンプルだ。
前回は対応が後手に回り、結果被害が拡大した。
その教訓を活かし、今回は先手必勝というのが王や側近の書いたシナリオらしい。
装備や馬、その他必要な物を最短で準備し、出発したとして、王都から魔の森まで馬を飛ばし、早くて2日。
聖女の馬車での行程を思うと3日、ないしは4日。
時間との戦いになりそうだ。
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