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京都支店

本日は晴天なり

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7月。
京の街は祭一色に染まる。
祭の始まりは夏の始まりと言っても過言ではない。

‪7月1日から31日間での1ヶ月間、市内のどこかで神事が執り行われ、祭を‬彩る山や鉾がいくつも組み上げられてゆく。
祭のハイライトは宵山と呼ばれ、夕暮れ時ともなれば浴衣を着た人々で、通りが埋め尽くされる。 


盆地である京都の夏は暑い。
今はまだそれほどでもないが、梅雨が明け夏本番ともなれば連日30℃を越す真夏日が続くのだ。
頬を撫でる風は珍しくからりとしているが、その分日差しは強い。

少し動いただけで滲んでくる汗をハンカチで押さえる。

 「今日も暑くなるな…」 

頼まれていた買出しを済ませ、日傘越しに晴れ渡る青空を見上げた。

昼過ぎには本社から出張してくる2名が到着する。


 ——どんな人かなぁ?

本社からわざわざ来はるからには、やり手のエリートさんなんでしょうけど。


——お高くとまったヒトじゃなきゃいいな…。 


顎でアレコレ使われるのは仕事とはいえ、イヤやな~などと思いつつ、支店の入っている雑居ビルのドアを開けた。   
                          
~吉野視点~  

■□■ 

新幹線から降り立った瞬間、ほっと一息ついた。
冷房の効いていた新幹線内は寒いくらいで、かえってこの暑さが心地よい。
並んで歩く智も、ややホッとした表情でネクタイの結び目に指をかけ、少しだけ緩めている。 

京都はプライベートも含め初めてだ。
 目的地である京都支店は四条烏丸という所にあるらしい。
その辺は昨夜、地図で確かめてきた。
が…京都市内では、南北を走る1つ1つの道に○○通と名前がつけられていてその通りが地名にもなっているのだ。
四条烏丸というのも、四条通と烏丸通が交わる地点という意味なのだが、住所は別に京都市中京区○○町と別にあるのだから…ややこしい事この上ない。


 「とりあえず支店に顔出すか」 

JRから地下鉄に乗り換えて、最寄駅まで2駅。

そう込んでもいない車内で、私達の目の前に和装の女性が立っていた。
凛とした佇まいのその女性は、目があった私達に目元だけで微笑み、軽く頭を下げてくれた。

そうこうしている間に地下鉄は四条に到着し、私達はもその女性も人の流れに沿ってホームに降りた。


「あぁいうのを大和撫子っていうんだな」

優雅な後ろ姿を何とはなしに見つめながら、ボソリと呟いた智の言葉に頷く。


 ——思っていた以上に好きになれそう。


 好きになろうがなるまいが、1ヶ月間この街で生活をしなければならないのは変わらない。

でも、それならこの街の良い所を沢山見つけて楽しんだ方が絶対得だ。 

幸先のよいスタートが切れた気がするこの出張が、有意義な物になるよう心の中で祈りながら、地上へ向かう階段を上った。 
                         
~悠香視点~ 

 ■□■

支店へ顔を出した後、悠香と支店の担当者と新製品の共同開発をする事になっている大学へ挨拶方々赴いた。

勿論ただの挨拶で済ますつもりは、双方ともになく。
簡単な打ち合わせを済ませ、再び支店に戻ったのは日が落ちた後だった。


 「初日早々からお疲れ様でした」

やや緊張した面持ちでトレイを持った女性が、俺と悠香と担当者―山田氏―の前にコーヒーを置いた。

「あぁ、この人は吉野さん。
うちの総務担当なんで、必要な物があったら何でも彼女に言ってください」

山田氏の紹介に

「吉野です、よろしくお願いします」

ぺこりと頭を下げたその女性は、俺らより年上といった所か。


「今西です、こちらこそ1ヶ月間お世話になります」

「同じく北条です。こちらこそよろしく」

 もう1度一礼して席に戻っていく彼女を見送りながら、淹れてもらったコーヒーを1口含む。
インスタントではなかったそのコーヒーは、いつも悠香が淹れてくれるのよりも少しだけ苦かった。 


もーちょい甘くしてくれって言ってみるか…。
それとも1ヶ月の事だし、我慢するか? 

チラリと吉野さんの方に目を向ける。
と、偶然なのかバッチリ目があってしまい…何とはなしにお互いに愛想笑いを交わした。                           

~智視点~

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