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可愛い人

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22時過ぎに社に戻ると、静まり返ったフロアの1画だけ灯りがともっていた。
それが技術部だと気付き、誰が残っているのかと北条は首を傾げる。

今の所そんなに仕事が立て込んでいる訳でも、納期が迫っている訳でもないのに。
こんな時間まで残って仕事してそうなヤツ…誰だ?

足早の戻るとそこには見慣れた、そして最も会いたかった後ろ姿。
そっと近づき、北条は徐に後ろから抱きしめた。


「きゃあっ!」

「ただいま」

耳元で息を吹きかけるように囁くと、悠香の顔は見る間に赤くなり、恥ずかしそうに伏せられる。

「あれ?お帰りは?言ってくれないの」

「お帰り…なさい」

蚊の泣くような声で、しかしちゃんと言ってくれる悠香が可愛らしくて、北条はギュッと抱きしめた。
出張に出ていて、彼女に会うのは4日ぶり。

「なんか久しぶり、悠香の匂い」

悠香の首筋に顔を埋めるようにして北条が言うと、悠香はますます真っ赤になって下を向いた。
すっかり俯いてしまった悠香の肩を掴んで自分の方を向かせると 

「お帰りのキスは?」
と北条はねだった。

「なっ…」

「誰も見てないって。
それに4日も会えなかったんだぜ。
すっげー寂しかったし、ずっと悠香の事ばかり考えてた。
悠香に会いたかったし触れたかった。
勿論キスもね。
それとも寂しかったのって俺だけ?」
悪戯っ子のようにニヤニヤ笑う北条に

「もう…」
と呆れたように悠香は呟いた。

「じゃあ目瞑ってください」
少し呆れた口調で悠香が言い、北条は大人しくその言葉に従いながら彼女がキスしやすい
ように腰を屈めた。

柔らかい湿った感触が一瞬頬に触れ、すぐに離れる。
目を開くと耳まで真っ赤に染めた悠香がよそを向きながら

「これでいいですか?」
と聞いてきた。

「いや、残念ながらそっちじゃないんだな」
だから…と言いながら北条は悠香の頤に指をかけ、上を向かせると唇を重ねた。

「なっ…ンンっ」

お互い子供じゃないんだしそう若くもない。
身体を重ねた事とて少なくないのに、相も変らぬ悠香の初々しさについ嬉しくなってしまう北条であった。

十二分に堪能してから解放すると

「もう!智ったら…」
目元をほんのりと染めながら悠香は北条を睨みつけた。


——いや、悠香さん、それ逆効果だし。
とは北条の心の声。

そんな顔されちゃうともっと苛めたくなるんだな、これが。
とは口が裂けても言えない北条は、さり気なく話題を逸らす事にした。

「それにしてもどうしたのさ、残業なんて珍しいじゃないの。
そんな忙しかったっけ?」

よっぽどの事がない限り、残業なんてしなくとも仕事を捌ける悠香が…と北条は首を捻った。
しかし悠香はどことなく恥ずかしそうにそっぽを向いたまま、視線を合わそうとしない。

「悠香?」

そんな様子に何かを感じ取った北条は

「何?ナニナニ?
言って悠香、なぁってば」
ギューっと抱きしめ子供のように催促した。

それでも他所を向いたままの悠香にニンマリ笑って作戦変更。

「じゃあ、あと10数える間に行ってくれなかったらもう1回キスする!
いーち、にーぃ、さーん…」

「ちょっ…智ってば、待ってよ」

「ダ~メ待たない。まぁ俺としてはどっちでも良いんだけど。
ほら、よーん、ごー、ろーく、しーち。
あれ、まだ言いたくならない?
はーち、きゅーぅ」

「分かりました!言います、言うから」

してやったりと嬉しそうに顔を覗き込まれた悠香は、はぁっと1つ溜息をついた。
そんな悠香を北条は嬉しそうに急かす。


「…直帰じゃなくて社に戻ってきそうな気がしたんです」

「俺が?」

「えぇ、だから待っていたら今日中に会えるかもしれないって…」

「……なんか、すっげー嬉しい」

いつものオーバーなリアクションででない分、実感のこもった声で北条は囁いた。

「お帰りなさい、智」

「ただいま、悠香」

私だって会いたかった、と呟く悠香を北条はただ抱きしめた。

  * * * * * *

何度も同じ手をくらう悠香。
いや、この場合は北条がワンパターン⁈



  
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