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現世〜昇華〜

真実〜ユージン〜

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アカリ=クリスティナ様。


それは前世の記憶を取り戻した後に生じた感覚だった。
もちろん2人の見た目や性格に、大小様々違いはあるもののクリスティナ様を通してかつての番アカリを見ていた。


けれども…必ずしもそうではないんじゃないか、と最近思い始めている。
確かに前世はアカリだったかもしれないけれど、それはイコールではない。

アカリはアカリ。
クリスティナ様はクリスティナ様。
 
そんな当たり前の事にすら気がつかなかった。


そして…果たして自分がどちらに惹かれているのか。

前世の因縁に囚われ、アカリを求めているのか。
それとも純粋にクリスティナ・クンツァイトという人に惹かれているのか。

そんな事を考えるようになっていた。

 *

生徒会室で、コーネリア様とアイザック様が密かに目を見合わせ、頷いたのは横目で見ていた。

クリスティナ様の体調不良…はおそらくお二方の言い訳なのだろうとはおもったけれど、アイザック様がクリスティナ様を抱き上げた瞬間、身の内を怒りの炎が包んだ。


彼女がかつての番だからなのか。
それともクリスティナ様だからなのか。

判然としないまま、それでも苛立つ心を拳を握りしめる事で堪えた。



——こんな想い、手放してしまった方が楽になる。

頭ではわかっている。
報われる事のない、どうにもならない不毛な想いなど、己の心を苛むだけだ。


そう思っているのに…。

今となっては前世としての重すぎる愛なのか、それとも俺個人の執着なのかわからなくなっている。
ただ1つ言える事は、アカリの事を抜きにしてもクリスティナ様に好意を抱いている。
それだけは間違いない事実だ。


上級生3名が慌ただしく出て行った生徒会室で、俺は唇を噛み締めた。




「貴方って本当にクリスティナ様の事が好きなのね」

つい、その存在を忘れていたニーナから声をかけられ、思わずビクッとしてしまった。

「わたくしの存在を忘れるほど、クリスティナ様に気を取られていたと?」


いつもニコニコとして笑顔を絶やさず愛想の良いニーナが、目を眇めツンとした口調でそう言った。
いつもと違う、その変わりように言葉を失う。


「ユージン、貴方には何がなんでもクリスティナ様を相手から奪ってやる、くらいの気概はないのですか?」

「俺はっ…!
俺なんか彼女よりも年下で、頼りないガキで、自分の事しか考えてないし中途半端で、まだ何の力もない」

とんでもないニーナの言葉に、慌てて反論する。
もっとも、言っていて自分でも悲しくなってきたが、これが現実だ。


…が、ニーナは呆れ返ったように

「だから何ですの?」

とため息をついた。


「あんなにクリスティナ様が愛おしくて、大切で仕方がないって顔をしておきながら、今更グダグダと。
それでも男ですか、しっかりなさいませ。
でないと、クリスティナ様は本当に婚約してしまわれますわよ」

「…本当、に?」


意味ありげな顔をまじまじと見つめると、ニーナはニヤリと淑女らしくない笑みを浮かべた。


「えぇ、まだ彼女は完全には承諾しておりません。
卒業までに、進展がなければあなたの事はすっぱりと忘れる。
それまでは保留。
婚約自体も公にはせず、万が一破談となったとしても互いにその責を負わない、との事だそうですわ」


何かとても都合の良い話を(…俺にとって)聞かされている気がした。
それに、ニーナがなぜそんな内々の事情に詳しいのか、という点も気になった。


けれど、夢なのか?と思い、とりあえず頬をつねってみる。


……痛い。



「夢でも嘘でもありませんわよ。
でもそんなに疑うのであれば、直接お聞きになったら如何ですか?

…あなたにその覚悟があるのなら」




——覚悟。

正直、今の俺には荷が重すぎる言葉だ。

お相手の方がどなたかは存じあげないが、伯爵令嬢のクリスティナ様が嫁ぐのなら、身元のしっかりとされた高位貴族なのだろう。
その相手と比べられたとして、遜色のない地位とか力とか、俺はまだ何も手にはしていない。

と言うか、そもそもスタートラインにすら立っていない学生の俺に取って、どれほどの覚悟が必要だと言うのか…。



けれども、この機を逃せばクリスティナ様は永遠に手に入らない。

それだけはわかった。



「本当に大切なものはしっかりと掴んで離さないでくださいませ」

まったく傍迷惑な…とため息交じりの声が聞こえたような気がするけれど、それに構っている余裕はなかった。
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