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現世〜3年後〜
友愛〜ジークフリード〜
しおりを挟むとりたてて目立つ所はない。
パッと目を惹く美貌の持ち主という訳でもなく、巧みな話術で場を支配するタイプでもない。
飛び抜けて優れた特技や技能を持つ訳でもなく、強いて言えば努力家。
そして誠実で優しい。
それがフィー…セラフィーヌの親友であるクンツァイト嬢に対する率直な評価だ。
社交界の華となる事は無いであろうが、良き妻良き母にはなるであろう。
王太子妃の友としても、どんな時もフィーを支え、時に尽くし、良き友であろうとしてくれる。
そう断言できる程度には信頼している。
何より、こちらに必要以上踏み込んでこないのが良い。
こちらを立てつつ適度に距離を保ち、親しみを持ちつつ礼儀を忘れない。
その距離感が絶妙なのだ。
真面目な性格と誠実な人柄は、副会長としての仕事ぶりにも現れている。
気心の知れたフィーのような気楽さはないが、こちらの意図するところを素早く察し、やり易いよう準備し調整する手腕はなかなかのものだ。
「クンツァイト嬢、この資料は?」
「ジークフリード様、こちらに」
フィーの抜けた穴をよく埋め、生徒会メンバーとも馴染んで上手くやっている。
このような者がフィーの側に居てくれて良かった。
それでなくても私の婚約者という事で注目を集め、気の休まる事のない立場のフィーにとって、心から信頼できる友というものは何物にも代え難いものだろう。
*
「それは…また、災難であったな」
クツクツと笑う私に、クンツァイト嬢は肩をすくめる事で応えた。
フィーとの思い出話は尽きる事が無い。
今でこそ、学院一の淑女として名高いフィーだが、そう呼ばれるようになるには血の滲むような努力があった事を私も、そしてクンツァイト嬢も知っている。
「あれは、初対面の私に向かって『お前が良い王となるよう真剣に努力するのならば、妃となってやっても良い!』と言いきった女だからな」
「…まぁ」
目を丸くするクンツァイト嬢に、こちらも苦笑で応える。
本人がいない所で、昔の武勇伝を聞き出すというのも人が悪いというか悪趣味なのかもしれないが。
可愛い婚約者の事をもっと知りたいという懇願に折れたクンツァイト嬢から、様々な話を聞き出していた。
「今でこそ上手に猫を被っておるが、生来闊達で不器用な性格だからな」
「…伸びやかにお育ちになられたゆえ、制限も多い事と。
ですが、ご自分のすべき事はよくよくご理解され、努めてもおられます」
何もしなければそれはそれで。
ほんの些細な事でも、取るに足らない事でさえ、あげつらい揶揄し足の引っ張り合いが行われるのが王宮だ。
フィーにとって…いや、誰であっても居心地の良い場所ではないのは間違いないだろうと思われる。
それでも……。
共に在ろうとしてくれるフィーのためにも、私は私の為すべき事をしなければ。
「そんな所がまた良いのだ。
誰が何と言おうが、私の隣に居るのはフィー以外ありえない」
「まぁ、セラフィーヌ様一筋ですのね」
「当たり前だ、あいつは怒ると怖いんだぞ」
学院の他の誰もが知らないフィーの素顔を知る者同士として。
共通の秘密を持つ者同士として。
悪戯っぽく笑うクンツァイト嬢と、目と目を見交わし密やかに笑いあった。
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