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躍動する影と陰謀【PERT①】
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────2017/9/21/Thu────
セクター0.アレックス個別ルーム-AM6:27-
「分かった、とりあえず落ち着こう。流石に…間違いは犯さないはずだ」
背中合わせになるように、ベッドに座り込むふたり。
「…そうね…」
アイズは今にも消え入りそうな声で呟く。
「それより、どうしていつまでもシーツにくるまってるんだ?上着なら貸すから…」
「……」
返事がない。
「どうした?」
「…ない」
「ない?」
何事かと、少し振り返ろうとしたアレックスの背中に鈍痛が走る。
「下着の替えがないの!」
「ぐっ……き、昨日のを穿いてるだろう?」
「………」
察したアレックスは、おずおずと尋ねる。
「……無いのか」
ドゴォ!と勢いよく背中に頭突きかかまされる。その勢いで、アレックスはベッドのしたに転げ落ちた。
「……ずまん……」
「死ね」
「…というより、なんで穿いてな」
ベッド這い上がろうとしたアレックスは、ドス黒い殺気を感じて首を引っ込めた。
「…すまん……そ、それにしてもどうするんだ。俺じゃお前の部屋に入れない」
その時、デスクの上の端末に連絡が入った。ミス・イアーの流暢な音声が響く。
「連絡が入りました」
アレックスは、仕事癖からかその声に反応し体を上げ、デスクに近寄ろうとした。
「待って!」
後方でアイズの声がする。アレックスはビクっと立ち止まる。
「だめ…見ないで」
「…?見ないで、って。命令の伝達だったらどうするんだ…」
アレックスが振り向くと、そこには目尻に涙を浮かべ、普段の強気な印象が消えたアイズが俯いていた。小さな体躯に纏ったシーツから、綺麗な白い脚が覗いている。
不意にも目を奪われてしまったアレックスは、慌ててそっぽを向く。
「…分かった…安心しろ、誰にも言わないさ」
「……」
アレックスは頭をポリポリと掻くと、近くの壁にもたれかかった。
「そうだな、管理人にマスターキーを借りてこようか」
「…どうやって借りるのよ」
「………そうか…だめだな…あー、俺の服は…嫌だよな」
少し自嘲気味に確認をとる。
「……」
「え、嫌だよな?」
「…嫌に決まってるでしょ。穢らわしい」
「そこまで言うか!?」
やれやれと首を振ると、アレックスはスーツの上着のポケットから財布を取り出した。そのまま、部屋の出口へと向かう。
「ど、どこ行くのよ!」
「どこって、買いに行くんだよ」
「…っ…あんたバカなの?こんな所にひとりでいられる訳…」
「待ってろ。これじゃ仕事にならないだろう」
アレックスは部屋を出ていった。
「…ほんっとに…バカ…」
そのままの姿で一人残されたアイズは、どうしようも無く、ベッドの端に座り直した。耳障りなギシッ…という音が響く。
「連絡を確認されますか?」
ふと、機械音声が耳に入る。
「…?」
気になったアイズは、腰を上げた。
端末には、AIの女性の顔とメールが届いたと表示されている。メールの文頭には…
『セクター-1-昨夜の未報告任務について』
機動部隊の中でセクター-1と直接連絡が取れるのはアルファ-1と呼ばれるO5直属のチームだけだ。しかし、このアイズ達が今所属するΩ-0というチームはO5の名で指揮されており、その責任がクレフ博士に任されている形になっている。そして、部隊の直接指揮を行うのがエージェント・アレックスであり、アレックスにはO5と連絡を取り合う権利がある。
つまり、このメールは誰もが見ることは出来ず、普通なら目にかかることもない。
そんなアイズは興味に負け、メールを開いてしまった。
『2017/9/21/Thu-AM6:27-セクター-1-昨夜の未報告任務について-本文:ミスター・エージェント・アレックス。Ω-1に通達した任務のうちロチェスター地下鉄での未確認生物の保護又は駆除の任務が未報告である。また、ミスター・エージェント・クラウスの通信機がロチェスター地下鉄構内で途絶えている。至急返信又はΩ-1のメンバーをセクター-1へ』
────2017/9/21/Thu────
セクター0.アイズ個別ルーム-AM6:35-
結局、自分の服はどこにも無かった。昨夜に何があったのか全く思い出せない自分を呪いつつ、しかしそんなことは今のアイズにとってどうでもよかった。
アイズは自室に戻るとすぐさまシーツを脱ぎ捨てタンスから服と装備一式を取り出し、一瞬で着る。道中で感じたであろう恐ろしいまでの羞恥心すら心になかった。
焦る気持ちを落ち着かせようと、置いてあったロリポップキャンディーを口に運ぶ。不思議と味はしなかったが、それすらもアイズにはどうでもよかった。
私のせいかもしれない。
それだけが全ての行動源だった。まともに確認せず、疑問すら口にせず、タッグであるのにひと足早く帰還していた、我儘な自分を呪った。レッグホルスター、ヒップナイフジャケット、ショルダーホルスターにそれぞれ新しい武器を仕込む。その上から大きめのダウンジャケットを羽織る。鏡を見る余裕はない。他の装備はまともに確認せず、それでも側にあるキャンディーを五本ほど掴むと、それだけ確認して部屋を出た。
途中で可愛らしく跳ねる何かを見かけたが、それすら無視して走る。
アイズはそのまま、ロビーを後にした。
セクター0.アレックス個別ルーム-AM6:27-
「分かった、とりあえず落ち着こう。流石に…間違いは犯さないはずだ」
背中合わせになるように、ベッドに座り込むふたり。
「…そうね…」
アイズは今にも消え入りそうな声で呟く。
「それより、どうしていつまでもシーツにくるまってるんだ?上着なら貸すから…」
「……」
返事がない。
「どうした?」
「…ない」
「ない?」
何事かと、少し振り返ろうとしたアレックスの背中に鈍痛が走る。
「下着の替えがないの!」
「ぐっ……き、昨日のを穿いてるだろう?」
「………」
察したアレックスは、おずおずと尋ねる。
「……無いのか」
ドゴォ!と勢いよく背中に頭突きかかまされる。その勢いで、アレックスはベッドのしたに転げ落ちた。
「……ずまん……」
「死ね」
「…というより、なんで穿いてな」
ベッド這い上がろうとしたアレックスは、ドス黒い殺気を感じて首を引っ込めた。
「…すまん……そ、それにしてもどうするんだ。俺じゃお前の部屋に入れない」
その時、デスクの上の端末に連絡が入った。ミス・イアーの流暢な音声が響く。
「連絡が入りました」
アレックスは、仕事癖からかその声に反応し体を上げ、デスクに近寄ろうとした。
「待って!」
後方でアイズの声がする。アレックスはビクっと立ち止まる。
「だめ…見ないで」
「…?見ないで、って。命令の伝達だったらどうするんだ…」
アレックスが振り向くと、そこには目尻に涙を浮かべ、普段の強気な印象が消えたアイズが俯いていた。小さな体躯に纏ったシーツから、綺麗な白い脚が覗いている。
不意にも目を奪われてしまったアレックスは、慌ててそっぽを向く。
「…分かった…安心しろ、誰にも言わないさ」
「……」
アレックスは頭をポリポリと掻くと、近くの壁にもたれかかった。
「そうだな、管理人にマスターキーを借りてこようか」
「…どうやって借りるのよ」
「………そうか…だめだな…あー、俺の服は…嫌だよな」
少し自嘲気味に確認をとる。
「……」
「え、嫌だよな?」
「…嫌に決まってるでしょ。穢らわしい」
「そこまで言うか!?」
やれやれと首を振ると、アレックスはスーツの上着のポケットから財布を取り出した。そのまま、部屋の出口へと向かう。
「ど、どこ行くのよ!」
「どこって、買いに行くんだよ」
「…っ…あんたバカなの?こんな所にひとりでいられる訳…」
「待ってろ。これじゃ仕事にならないだろう」
アレックスは部屋を出ていった。
「…ほんっとに…バカ…」
そのままの姿で一人残されたアイズは、どうしようも無く、ベッドの端に座り直した。耳障りなギシッ…という音が響く。
「連絡を確認されますか?」
ふと、機械音声が耳に入る。
「…?」
気になったアイズは、腰を上げた。
端末には、AIの女性の顔とメールが届いたと表示されている。メールの文頭には…
『セクター-1-昨夜の未報告任務について』
機動部隊の中でセクター-1と直接連絡が取れるのはアルファ-1と呼ばれるO5直属のチームだけだ。しかし、このアイズ達が今所属するΩ-0というチームはO5の名で指揮されており、その責任がクレフ博士に任されている形になっている。そして、部隊の直接指揮を行うのがエージェント・アレックスであり、アレックスにはO5と連絡を取り合う権利がある。
つまり、このメールは誰もが見ることは出来ず、普通なら目にかかることもない。
そんなアイズは興味に負け、メールを開いてしまった。
『2017/9/21/Thu-AM6:27-セクター-1-昨夜の未報告任務について-本文:ミスター・エージェント・アレックス。Ω-1に通達した任務のうちロチェスター地下鉄での未確認生物の保護又は駆除の任務が未報告である。また、ミスター・エージェント・クラウスの通信機がロチェスター地下鉄構内で途絶えている。至急返信又はΩ-1のメンバーをセクター-1へ』
────2017/9/21/Thu────
セクター0.アイズ個別ルーム-AM6:35-
結局、自分の服はどこにも無かった。昨夜に何があったのか全く思い出せない自分を呪いつつ、しかしそんなことは今のアイズにとってどうでもよかった。
アイズは自室に戻るとすぐさまシーツを脱ぎ捨てタンスから服と装備一式を取り出し、一瞬で着る。道中で感じたであろう恐ろしいまでの羞恥心すら心になかった。
焦る気持ちを落ち着かせようと、置いてあったロリポップキャンディーを口に運ぶ。不思議と味はしなかったが、それすらもアイズにはどうでもよかった。
私のせいかもしれない。
それだけが全ての行動源だった。まともに確認せず、疑問すら口にせず、タッグであるのにひと足早く帰還していた、我儘な自分を呪った。レッグホルスター、ヒップナイフジャケット、ショルダーホルスターにそれぞれ新しい武器を仕込む。その上から大きめのダウンジャケットを羽織る。鏡を見る余裕はない。他の装備はまともに確認せず、それでも側にあるキャンディーを五本ほど掴むと、それだけ確認して部屋を出た。
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アイズはそのまま、ロビーを後にした。
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