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第4章 国境の外へ。戦いのはじまり
041 氷の一族
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きょうは朝から、わくわく農業たいけんをしました。
となりの畑で、飼い犬のアインスといっしょに、麦の早かりきょうそうをしました。とてもたのしかったです。
「──ディニッサ様、ぼーっとしてないで、この場をおさめてくださいよ」
デトナが呆れ顔でオレの肩をゆすった。
うん、また面倒な事がおきたせいで、つい現実逃避してしまった。
あたりには、重苦しい空気がただよっている。
フィアを連れ帰る、と彼女の姉のシグネが宣言したせいだ。
シグネはオレを睨み、フィアはオレの背中に隠れて震えていた。
関係ないザテナフたちも、固唾を呑んでオレたちを見守っている。
「そなたの言い分は理解したのじゃ。だが、すぐに返事ができるような話ではあるまい? 歓迎するゆえ、わらわの城でゆっくり話しあおう」
フィアも萎縮しているし、オレも動揺している。いったん仕切りなおそうと提案してみた。不可侵条約を結んでいるとはいえ、ザテナフに内輪のゴタゴタをさらしたくないという意味もある。
「……そうね。フィアの城での暮らしぶりを見るのもいいかもしれないわ」
すこし考えたあとで、シグネはオレの提案を受け入れてくれた。いきなり実力行使におよぶような相手でなくて助かった。うまく話がまとまるといいのだが……。
* * * * *
──街についたころには、みんなグッタリしていた。
だいたいシグネのせいだ。彼女がずっとからかっているせいで、トレッケはずっと茹でダコみたいになっていたし、それを止めるオレも気疲れしてしまった。どうもシグネは、トレッケが嫌いというより彼でストレスを解消しているようだ。
本当はオレに言いたいことがあるのだろうが、フィアがディニッサになついているので我慢しているという。やつあたりされるトレッケこそいい面の皮だ。一度デトナも標的にされていたが、にやにや笑いながら適当なことを言ってうまく切り抜けていた。本当に如才ないやつだ。これでデトナが信用できる人間だったら、いろいろな仕事をまかせられたのに……。
フィアはひとことも喋っていない。アインスにオレと二人乗りして、オレにピッタリとよりそっていた。ちなみに、いつもならフィアは──というよりオレ以外は誰も──ヘルハウンドには乗らない。姉の登場がかなりショックだったようだ。
……もしかして、いじめられたりしてたのか?
そうだとしたら、絶対フィアは返さない。
* * * * *
城についたが、ユルテとファロンはまだ戻っていなかった。真面目に働いてくれるのはけっこうなのだが、今日はそばにいてほしかった……。
とりあえず、シグネを風呂に送った。付き添いのエルフメイドたちには、なるべくゆっくりさせるように頼んだ。彼女たちが、うまく時間かせぎしてくることを期待しよう。
トレッケは城に招かず、兵士宿舎に行ってもらった。シグネと争われるのが面倒だし、会ったばかりで、しかも大勢の魔族を城に入れたくなかったのだ。
……まあ、トレッケ一族は19人もいるらしいので、たとえ警戒していたとしても、むこうがやる気ならたぶんやられるだろうが。でも、たぶん大丈夫だろう。単純だし、頭もそんなに良くなさそうだし。
そうして邪魔者がいなくなったところで、フィアから話を聞くことにした。
いまここにいるのは、オレとフィアとデトナだけだ。デトナに聞かせていいものか多少迷ったが、彼女を一人きりにするのも気が進まない。
「フィア、シグネはそなたの姉で間違いないな?」
「……うん。192番目のお姉様」
「ひゃ、192!? お、多すぎないかの」
「お母様は、長生きしてるから。私は、末っ子。513番目」
子沢山すぎる! しかも『お母様は長生き』ってことは、同母の兄妹なのか。なんというか、すごいな……。
「フィア、正直に答えてくれ。家族の誰かにいじめられたりしていたのか?」
「えっ? 違う。そんなこと、されてない。みんな優しい」
「それにしては、シグネがあらわれてから様子がおかしかったじゃろ」
「お姉様たちは、完璧。でも、私だけ、ダメ。だから……」
優秀な家族に劣等感を抱いているのか。だから姉がいるだけでコンプレックスを刺激されて、平常ではいられない、と。けどトレッケとのやりとりを見るかぎり、ぜんぜん完璧じゃないけどな!
「それで、フィアはどうしたいんじゃ? 家に帰りたい気持ちもあるのかの」
「ううん。今のままが良い!」
フィアには珍しく強い口調だった。ならオレとしては、彼女の意志を尊重するだけだ。……でも、うまく話をまとめないとな。相手は兄妹だけで500人オーバーというとんでもない戦力だ。敵対したらあっという間に潰される。
* * * * *
「──ってことで、話し合いの前に会食をする。交渉をうまく進めるためにも、最高の昼食を用意するのじゃ!」
やはり人付き合いを円滑にするためには、いっしょにごはんだろう。
しかしハイテンションなオレに達して、料理長のネコ娘はしらけていた。
「……ディニッサ様、アタシに渡している食費を思い出してくださいニャ。いま城にはろくな食材がないですニャ。最高の昼食なんて無理ですニャ」
コレットの視線がひじょうに冷たい。食費切り詰めに、かなりの不満を抱いていたようだ。いかん。あまり会ってなかったから気づかなかった。
「来客時は特別じゃ。高価な食材を買ってよいぞ」
「希少な食材は、事前に発注しておかないと手に入りませんニャ。……それでも信用があれば、急な頼みでも用意してくれる人はいるかもしれませんニャ」
コレットの声がだんだん大きく、早口になってきた。
「けど、いきなり取引をやめたせいで、高級食材をあつかう商人との関係が最悪なんですよ! アタシがどれだけイヤミを言われたかわかりますか!」
コレットはさらにヒートアップしている。そしてなぜか口調まで変わっていた。これはそうとう頭にきているようだ。
たしかに商人からみれば、大口の取引先が突然契約を打ち切ったんだよな。ヘタしたら潰れた店もあったかもしれない。う~ん。会社で働いているとき、取引先のムチャにムカついていたが、まさかオレが同じことをしていたとは……。
どうやら良い食材を集めるのは難しそうだ。ここはなにか、違う手を考えよう。
「……そうじゃな。中途半端な料理を出してもバカにされそうだし、いままで食べたことがないようなモノを出すべきじゃな」
「だからそんな食材は──」
「上をみるからいかんのじゃ。下から攻めよう」
コレットも手伝いのエルフメイドたちも、不思議そうにオレをみた。もしかしたら不思議そうじゃなくて、不安そう、かもしれないけど。
オレの案はこうだ。美味や珍味は用意できないからゲテモノを出す。といってもこの世界ではゲテモノというだけで、オレたちはふつうに食べているものだ。
「コレット、ジャガイモなら城にあるじゃろ」
「ジャガイモ……!?」
コレットが驚いている。それも当然だろう。この世界でのジャガイモは、家畜のエサなのだ。魔族はもちろん、平民だって食べたりしない。コレットだけでなくエルフメイドたちもひいていた。なんとなく、昆虫料理を出された人みたいな反応だった……。
──オレは無言で料理をはじめた。
まず皮がついたままのジャガイモを鍋で茹でる。その間に豚の背脂を角切りにして、大きいフライパンで炒めた。台所に油の香りが広がる。その匂いにつられて、それまで興味がなさそうだったコレットたちが近づいてきた。
しばらするとフライパンには大量の油があふれ、背脂はカリカリになった。その小さくなった背脂をいくつか皿に取った。そして軽く塩をふり、そっとコレットたちの前に差し出した。
「ディ、ディニッサ様、これ美味しいですニャ! これは新感覚の料理ですにゃ」
餌付け成功。カリカリの脂身は気に入ったようだ。エルフメイドたちも笑顔になった。カリカリは、それ自体がトッピングとして優秀な食材だからな。
「気に入ったのならもっと食べても良いぞ。これはあくまで料理の副産物じゃからな。重要なのはこっちの油なのじゃ」
この世界には──少なくともこの辺りには──「揚げる」という調理法が存在しない。だから揚げ物尽くしで攻めることにした。胸焼けしそうなメニューだが、魔族はコッテリしたものが好みだ。きっと喜んでもらえるだろう。
とりあえず見本として、コロッケと鶏の唐揚げを少量作った。そして、さっそくコレットたちに味見させる。
「ふわぁ~。これがジャガイモですかニャ!? すっごい、美味しいですニャ!」「姫様、こんな料理はじめて食べました!」
「ふはは、そうじゃろう、そうじゃろう」
大絶賛だった。またたくまに試食品が売り切れる。
オレは食事会の成功を確信した。
あとはコレットにまかよう。初心者なので多少心配だが、なに、作りたての自家製ラードは強力だ。適当に揚げてもたいがい旨くなる。コレットは料理人としては有能だし、なんとかなるはずだ。
「火を強くしすぎるな。油が燃えるぞ。それから揚げ物は新鮮さが命じゃ。食べる分づつ小分けにして揚げること。ある程度食材を揚げたら油をかえよ」
最後にいくつか指示してから食堂にむかう。そろそろシグネも風呂からあがっているころあいだ。
* * * * *
「……なにこれ、変な料理ね」
あるぇー? シグネの反応はいまいちだった。
料理は悪く無い。さすがは本職、コレットのコロッケは、オレのよりうまく仕上がっていた。ここにユルテやファロンがいれば大喜びして貪り食っていたことだろう。じっさいデトナは美味しそうにバクバク食べている。どうもシグネは、あまり食にこだわりがないようだ。フィアもそうだし、種族的な特徴なのかもしれない。
「口に合わんか。わらわが考えた料理なのじゃが」
「もっとマシなことに頭を使ったほうが良いんじゃないかしら?」
くっ、好印象どころか、むしろ評価が下がった!
「いやいやディニッサ様、これ良いですよ。鶏肉もおいしいけど、このなんだかよくわからないモノ、ボクはかなり気に入りました。あと500個はいけますね」
デトナはコロッケが気に入ったようだ。がっつく姿が子供らしくて(実年齢はしらない)微笑ましい。これで忠誠度が3くらい上がっただろうか。
「……そなたは勘違いしているようだが、フィアは自分の意志でここにおるのじゃぞ。わらわが無理強いしているわけではない」
いっしょにごはん大作戦は失敗したので、あきらめて会談をはじめた。
「フィアは関係ないわ。私が連れて帰ると言っているの。そうすべきでしょ」
「まてまて、フィアの意見こそが重要じゃろ」
「重要じゃないわ。だってフィアはまだ子供だもの。幼い妹があやまった道に進もうとしているのなら、力ずくでも止めるのが姉の義務だわ」
「そうは言っても──」
「フィアはかわいそうな子なのよ。体は弱く、魔法もろくに使えない。そんなか弱い娘を戦争に巻き込むなんて、とんでもない話だわ」
「いや、フィアは──」
「だいたい私は、はじめっから反対だったのよ。フィアは私たちといっしょに暮らすのが一番幸せなの。そうでしょ? こんなところに来たのが間違いなんだわ」
……交渉にならねえ。シグネは自分の意見をひたすら押し付けてくる。これが素なのか交渉術なのか不明だが、果てしなくうざい。ふとフィアを見ると、うつむいて微かに震えていた。
バンッ! オレは机を叩いて立ち上がった。
「そなたがなにを言おうがフィアを帰す気はない! フィアがそう望まぬかぎり、けっしてな」
無作法な行動に驚いたのか、延々と続いていたシグネのおしゃべりが止まった。そしてオレを冷ややかに見つめる。
「それは、氷の魔王とその眷属を敵にまわすということかしら?」
「魔王……!?」
驚いたオレを見て、シグネは嬉しそうに笑い出した。
「あらあら、そんなことも聞いていないの。私たちのお母様は、北の大陸を支配する偉大な魔王なのよ。ねえねえ、あなたが思っているほどフィアはあなたを信用していないみたいじゃない?」
「……ち、違う」
それまで黙っていたフィアがはじめて口を開いた。もちろん『ディニッサ』は知っているんだろう。素直に驚きをあらわしたのは、オレのミスだ。
……それにしても、フィアも魔王の娘だったのか。しかも兄妹が500人。魔王の娘ってけっこう珍しい存在だと思っていたんだが、ぜんぜんレアじゃないな!
フィアがオレを見た。そしてこぶしを握りしめ、立ち上がった。
「もしも、お姉様たちが、敵になっても。私は、姫様のそばにいる……!」
「フィア!? なにを言っているの? フィアは私たちが嫌いになったの!?」
フィアの宣言に、こんどはシグネが混乱しだした。あわてて立ち上がってフィアのそばに駆け寄っている。
「お姉様たちも、お母様も、大好き。でも、いまは、ここから離れない」
シグネは、すとんと床に座り込んでしまった。相当ショックだったらしい。
もうこのまま黙って帰ってくれないかなあ。
* * * * *
かなりの時間がたったあと、シグネは立ち上がって言った。
「わかったわ。じゃあ、みんなでお母様に会いに来て」
「まったくわかっておらんじゃろ!」
「ずっと私たちの国にいろと言っているんじゃないわ。お母様と直接話してって言っているの。私が話しても、信じて貰えそうにないもの」
「わらわたちは忙しいのじゃ。そなたたちの国がどこにあるか──」
「時間はとらせないわ。私の召喚魔法で一瞬よ」
召喚魔法って移動にも使えたのか……。
さてどうしよう。相手の戦力は圧倒的だ。できれば敵対したくない。それに魔王と顔合わせできるのも悪くない。
ただ──
「そっちに行って帰ってこられる保証がないじゃろ。そのままフィアを閉じ込めるつもりかもしれぬ」
「心配性ね。召喚魔法なんだから、持続時間が切れれば自動的にここに戻るわ」
……ああ、たしかにファロンが呼んだキツネたちも消えたな。近くの森からの召喚だったから、葛の葉はすぐに戻ってきたけど。なら、安全なのか?
「フィア?」
「シグネお姉様は、固定魔法は使えない」
オレの懸念もフィアが払拭してくれた。
そうしてオレとフィアとデトナの3人が、フィアの生まれ故郷に行くことになった。召喚時間は半日。夜中には帰ってくる予定だ。メイドたちに伝言を残し出発する。……たぶん帰ったら、ユルテたちに文句を言われるだろうな。
* * * * *
一瞬の浮揚感のあと、景色が変わった。
フィアがいっぱいいる、というのが第一感だった。まわりを見回すと、フィアによく似た女の子がたくさんいる。というよりシグネによく似た、か。フィアが成長したら、きっとこんな感じになるんだろう。
ざっと見ただけでも数十人。かなり異常な光景だった。そしてまた、彼女たちが着ている服も奇妙なものだった。赤や黄色など原色をふんだんに使い、形もきばつなものばかり。まるでオートクチュールのファッションショーみたいだ……。
「お母様、ただいま戻りました」
「よく無事で戻った。フィアも……!」
オレがあっけに取られているうちに、シグネたちの話が進んでいた。正面奥の玉座に、フィア25歳バージョンというような女性が座っている。彼女だけはごくふつうのドレスを着ていた。その目にはかすかに涙がうかんでいる。
「よし、今日は宴だ! すぐに料理の手配をせよ」
まずい。フィアが戻るつもりだと思われた。シグネは素知らぬ顔で、説明する気配がない。できればフィアに話してほしいが、母親と大勢の姉に囲まれている状況では厳しいだろう。ここはオレが──
そう思ったとき、フィアの姿がみえた。変な服の姉たちに囲まれながら、こぶしを握りしめているフィアが。オレは口を閉じて、フィアを見守ることにした。
「わ、私は、まだ、戻らない。姫様と、いっしょにいる!」
声は震えていたが、フィアは自分の意見をしっかり言い切った。姉たちがざわつく。オレは、放心状態の姉たちをかきわけて、フィアの隣に立った。そして手を握る。ここから先は、オレの仕事だ。
「静まれ」
魔王の言葉であたりは静まり返った。彼女は玉座からおりて、ゆっくりとこちらに歩いてくる。そしてオレたちの前まできて、微笑んだ。
「フィアがそうしたいというのなら、仕方ない。かわいい娘の願いを叶えるのは母たる私のつとめ」
そこらで息を呑む音が聞こえた。フィアの姉たちは、みな不満そうにしている。だが表立って反対するものは一人もいなかった。魔王が畏怖されていることがよくわかる。同時に、フィアがずいぶん頑張ったことも理解できた。
「……ついては、ディニッサといくつか話したいことがある。すこし時間をもらえるか? フィアともう一人はゆっくりしていればいい」
どうやら対決はさけられたようだ。むしろ、こちらに協力してくれるかもしれない。オレはうなずいて、魔王とともに奥に向かった。姉たちの中には、ついてこようとした者もいたが、魔王が手をふって追い払った。なにやら二人きりにで話したいことがあるらしい。
「この扉の先だ」
魔王はそう言って、廊下の突き当りの扉を開けた。中には大きなテーブルがあり椅子がいくつも並べられていた。会議室といったところか。二人だけで使うにしては大きすぎるけど。
魔王が先に入り、オレはあとに続く。扉をくぐった時、なぜか浮揚感があった。
なんだ? 一瞬のとまどいから我に返ると、あたりの景色が一変していた。
部屋がさっき見た半分くらいの大きさになり、壁が氷になっている。体がふるえた。かなり寒い。
「なんじゃこれは……」
「見てのとおり、氷の牢獄だ。なにか欲しいものはあるか? できうる限り便宜をはかるぞ」
「わらわたちを騙したのか!」
「騙す? フィアがおまえを欲しいと言うから手に入れただけだ。私もかわいい末娘の願いは叶えてやりたいからな」
『オーラセカンド3分』
オレは威嚇の意味も兼ねて、強化魔法を発動した。だが、なにかおかしい。いつものように力が湧いてくる感覚がない。
「無駄だ。この部屋で自在に魔法を使えるのは私だけだ。……さて、いったん私は娘たちの様子を見に戻るゆえ、その間に欲しいものを考えておけ。服でも宝石でもなんでも良いぞ。自由以外なら、な」
魔王は一歩下がった。この部屋には扉がない。ということは召喚魔法で移動する気だ。うまく魔王にくっつければ、いっしょに脱出できるかもしれない。──しかし、すぐにそれが無理だとわかった。いつの間にか足先が床といっしょに凍りついていたのだ。これでは一歩も動けない。
「そうそう、一つ言っておく。私は固定魔法も使えるぞ」
そう言って魔王はかき消えた。
固定魔法? 最初は意味がわからなかったが、少し考えたら理解できた。
……絶望的な結論だったが。
本来、半日でシグネの魔法が切れて帰れるはずだった。だがそのあとでオレは、魔王の召喚魔法で移動してしまった。おそらく、固定魔法で永続化された召喚魔法で。結果、魔法の効果が上書きされたということなんだろう。
どうやら、閉じ込められてしまったらしい……。
となりの畑で、飼い犬のアインスといっしょに、麦の早かりきょうそうをしました。とてもたのしかったです。
「──ディニッサ様、ぼーっとしてないで、この場をおさめてくださいよ」
デトナが呆れ顔でオレの肩をゆすった。
うん、また面倒な事がおきたせいで、つい現実逃避してしまった。
あたりには、重苦しい空気がただよっている。
フィアを連れ帰る、と彼女の姉のシグネが宣言したせいだ。
シグネはオレを睨み、フィアはオレの背中に隠れて震えていた。
関係ないザテナフたちも、固唾を呑んでオレたちを見守っている。
「そなたの言い分は理解したのじゃ。だが、すぐに返事ができるような話ではあるまい? 歓迎するゆえ、わらわの城でゆっくり話しあおう」
フィアも萎縮しているし、オレも動揺している。いったん仕切りなおそうと提案してみた。不可侵条約を結んでいるとはいえ、ザテナフに内輪のゴタゴタをさらしたくないという意味もある。
「……そうね。フィアの城での暮らしぶりを見るのもいいかもしれないわ」
すこし考えたあとで、シグネはオレの提案を受け入れてくれた。いきなり実力行使におよぶような相手でなくて助かった。うまく話がまとまるといいのだが……。
* * * * *
──街についたころには、みんなグッタリしていた。
だいたいシグネのせいだ。彼女がずっとからかっているせいで、トレッケはずっと茹でダコみたいになっていたし、それを止めるオレも気疲れしてしまった。どうもシグネは、トレッケが嫌いというより彼でストレスを解消しているようだ。
本当はオレに言いたいことがあるのだろうが、フィアがディニッサになついているので我慢しているという。やつあたりされるトレッケこそいい面の皮だ。一度デトナも標的にされていたが、にやにや笑いながら適当なことを言ってうまく切り抜けていた。本当に如才ないやつだ。これでデトナが信用できる人間だったら、いろいろな仕事をまかせられたのに……。
フィアはひとことも喋っていない。アインスにオレと二人乗りして、オレにピッタリとよりそっていた。ちなみに、いつもならフィアは──というよりオレ以外は誰も──ヘルハウンドには乗らない。姉の登場がかなりショックだったようだ。
……もしかして、いじめられたりしてたのか?
そうだとしたら、絶対フィアは返さない。
* * * * *
城についたが、ユルテとファロンはまだ戻っていなかった。真面目に働いてくれるのはけっこうなのだが、今日はそばにいてほしかった……。
とりあえず、シグネを風呂に送った。付き添いのエルフメイドたちには、なるべくゆっくりさせるように頼んだ。彼女たちが、うまく時間かせぎしてくることを期待しよう。
トレッケは城に招かず、兵士宿舎に行ってもらった。シグネと争われるのが面倒だし、会ったばかりで、しかも大勢の魔族を城に入れたくなかったのだ。
……まあ、トレッケ一族は19人もいるらしいので、たとえ警戒していたとしても、むこうがやる気ならたぶんやられるだろうが。でも、たぶん大丈夫だろう。単純だし、頭もそんなに良くなさそうだし。
そうして邪魔者がいなくなったところで、フィアから話を聞くことにした。
いまここにいるのは、オレとフィアとデトナだけだ。デトナに聞かせていいものか多少迷ったが、彼女を一人きりにするのも気が進まない。
「フィア、シグネはそなたの姉で間違いないな?」
「……うん。192番目のお姉様」
「ひゃ、192!? お、多すぎないかの」
「お母様は、長生きしてるから。私は、末っ子。513番目」
子沢山すぎる! しかも『お母様は長生き』ってことは、同母の兄妹なのか。なんというか、すごいな……。
「フィア、正直に答えてくれ。家族の誰かにいじめられたりしていたのか?」
「えっ? 違う。そんなこと、されてない。みんな優しい」
「それにしては、シグネがあらわれてから様子がおかしかったじゃろ」
「お姉様たちは、完璧。でも、私だけ、ダメ。だから……」
優秀な家族に劣等感を抱いているのか。だから姉がいるだけでコンプレックスを刺激されて、平常ではいられない、と。けどトレッケとのやりとりを見るかぎり、ぜんぜん完璧じゃないけどな!
「それで、フィアはどうしたいんじゃ? 家に帰りたい気持ちもあるのかの」
「ううん。今のままが良い!」
フィアには珍しく強い口調だった。ならオレとしては、彼女の意志を尊重するだけだ。……でも、うまく話をまとめないとな。相手は兄妹だけで500人オーバーというとんでもない戦力だ。敵対したらあっという間に潰される。
* * * * *
「──ってことで、話し合いの前に会食をする。交渉をうまく進めるためにも、最高の昼食を用意するのじゃ!」
やはり人付き合いを円滑にするためには、いっしょにごはんだろう。
しかしハイテンションなオレに達して、料理長のネコ娘はしらけていた。
「……ディニッサ様、アタシに渡している食費を思い出してくださいニャ。いま城にはろくな食材がないですニャ。最高の昼食なんて無理ですニャ」
コレットの視線がひじょうに冷たい。食費切り詰めに、かなりの不満を抱いていたようだ。いかん。あまり会ってなかったから気づかなかった。
「来客時は特別じゃ。高価な食材を買ってよいぞ」
「希少な食材は、事前に発注しておかないと手に入りませんニャ。……それでも信用があれば、急な頼みでも用意してくれる人はいるかもしれませんニャ」
コレットの声がだんだん大きく、早口になってきた。
「けど、いきなり取引をやめたせいで、高級食材をあつかう商人との関係が最悪なんですよ! アタシがどれだけイヤミを言われたかわかりますか!」
コレットはさらにヒートアップしている。そしてなぜか口調まで変わっていた。これはそうとう頭にきているようだ。
たしかに商人からみれば、大口の取引先が突然契約を打ち切ったんだよな。ヘタしたら潰れた店もあったかもしれない。う~ん。会社で働いているとき、取引先のムチャにムカついていたが、まさかオレが同じことをしていたとは……。
どうやら良い食材を集めるのは難しそうだ。ここはなにか、違う手を考えよう。
「……そうじゃな。中途半端な料理を出してもバカにされそうだし、いままで食べたことがないようなモノを出すべきじゃな」
「だからそんな食材は──」
「上をみるからいかんのじゃ。下から攻めよう」
コレットも手伝いのエルフメイドたちも、不思議そうにオレをみた。もしかしたら不思議そうじゃなくて、不安そう、かもしれないけど。
オレの案はこうだ。美味や珍味は用意できないからゲテモノを出す。といってもこの世界ではゲテモノというだけで、オレたちはふつうに食べているものだ。
「コレット、ジャガイモなら城にあるじゃろ」
「ジャガイモ……!?」
コレットが驚いている。それも当然だろう。この世界でのジャガイモは、家畜のエサなのだ。魔族はもちろん、平民だって食べたりしない。コレットだけでなくエルフメイドたちもひいていた。なんとなく、昆虫料理を出された人みたいな反応だった……。
──オレは無言で料理をはじめた。
まず皮がついたままのジャガイモを鍋で茹でる。その間に豚の背脂を角切りにして、大きいフライパンで炒めた。台所に油の香りが広がる。その匂いにつられて、それまで興味がなさそうだったコレットたちが近づいてきた。
しばらするとフライパンには大量の油があふれ、背脂はカリカリになった。その小さくなった背脂をいくつか皿に取った。そして軽く塩をふり、そっとコレットたちの前に差し出した。
「ディ、ディニッサ様、これ美味しいですニャ! これは新感覚の料理ですにゃ」
餌付け成功。カリカリの脂身は気に入ったようだ。エルフメイドたちも笑顔になった。カリカリは、それ自体がトッピングとして優秀な食材だからな。
「気に入ったのならもっと食べても良いぞ。これはあくまで料理の副産物じゃからな。重要なのはこっちの油なのじゃ」
この世界には──少なくともこの辺りには──「揚げる」という調理法が存在しない。だから揚げ物尽くしで攻めることにした。胸焼けしそうなメニューだが、魔族はコッテリしたものが好みだ。きっと喜んでもらえるだろう。
とりあえず見本として、コロッケと鶏の唐揚げを少量作った。そして、さっそくコレットたちに味見させる。
「ふわぁ~。これがジャガイモですかニャ!? すっごい、美味しいですニャ!」「姫様、こんな料理はじめて食べました!」
「ふはは、そうじゃろう、そうじゃろう」
大絶賛だった。またたくまに試食品が売り切れる。
オレは食事会の成功を確信した。
あとはコレットにまかよう。初心者なので多少心配だが、なに、作りたての自家製ラードは強力だ。適当に揚げてもたいがい旨くなる。コレットは料理人としては有能だし、なんとかなるはずだ。
「火を強くしすぎるな。油が燃えるぞ。それから揚げ物は新鮮さが命じゃ。食べる分づつ小分けにして揚げること。ある程度食材を揚げたら油をかえよ」
最後にいくつか指示してから食堂にむかう。そろそろシグネも風呂からあがっているころあいだ。
* * * * *
「……なにこれ、変な料理ね」
あるぇー? シグネの反応はいまいちだった。
料理は悪く無い。さすがは本職、コレットのコロッケは、オレのよりうまく仕上がっていた。ここにユルテやファロンがいれば大喜びして貪り食っていたことだろう。じっさいデトナは美味しそうにバクバク食べている。どうもシグネは、あまり食にこだわりがないようだ。フィアもそうだし、種族的な特徴なのかもしれない。
「口に合わんか。わらわが考えた料理なのじゃが」
「もっとマシなことに頭を使ったほうが良いんじゃないかしら?」
くっ、好印象どころか、むしろ評価が下がった!
「いやいやディニッサ様、これ良いですよ。鶏肉もおいしいけど、このなんだかよくわからないモノ、ボクはかなり気に入りました。あと500個はいけますね」
デトナはコロッケが気に入ったようだ。がっつく姿が子供らしくて(実年齢はしらない)微笑ましい。これで忠誠度が3くらい上がっただろうか。
「……そなたは勘違いしているようだが、フィアは自分の意志でここにおるのじゃぞ。わらわが無理強いしているわけではない」
いっしょにごはん大作戦は失敗したので、あきらめて会談をはじめた。
「フィアは関係ないわ。私が連れて帰ると言っているの。そうすべきでしょ」
「まてまて、フィアの意見こそが重要じゃろ」
「重要じゃないわ。だってフィアはまだ子供だもの。幼い妹があやまった道に進もうとしているのなら、力ずくでも止めるのが姉の義務だわ」
「そうは言っても──」
「フィアはかわいそうな子なのよ。体は弱く、魔法もろくに使えない。そんなか弱い娘を戦争に巻き込むなんて、とんでもない話だわ」
「いや、フィアは──」
「だいたい私は、はじめっから反対だったのよ。フィアは私たちといっしょに暮らすのが一番幸せなの。そうでしょ? こんなところに来たのが間違いなんだわ」
……交渉にならねえ。シグネは自分の意見をひたすら押し付けてくる。これが素なのか交渉術なのか不明だが、果てしなくうざい。ふとフィアを見ると、うつむいて微かに震えていた。
バンッ! オレは机を叩いて立ち上がった。
「そなたがなにを言おうがフィアを帰す気はない! フィアがそう望まぬかぎり、けっしてな」
無作法な行動に驚いたのか、延々と続いていたシグネのおしゃべりが止まった。そしてオレを冷ややかに見つめる。
「それは、氷の魔王とその眷属を敵にまわすということかしら?」
「魔王……!?」
驚いたオレを見て、シグネは嬉しそうに笑い出した。
「あらあら、そんなことも聞いていないの。私たちのお母様は、北の大陸を支配する偉大な魔王なのよ。ねえねえ、あなたが思っているほどフィアはあなたを信用していないみたいじゃない?」
「……ち、違う」
それまで黙っていたフィアがはじめて口を開いた。もちろん『ディニッサ』は知っているんだろう。素直に驚きをあらわしたのは、オレのミスだ。
……それにしても、フィアも魔王の娘だったのか。しかも兄妹が500人。魔王の娘ってけっこう珍しい存在だと思っていたんだが、ぜんぜんレアじゃないな!
フィアがオレを見た。そしてこぶしを握りしめ、立ち上がった。
「もしも、お姉様たちが、敵になっても。私は、姫様のそばにいる……!」
「フィア!? なにを言っているの? フィアは私たちが嫌いになったの!?」
フィアの宣言に、こんどはシグネが混乱しだした。あわてて立ち上がってフィアのそばに駆け寄っている。
「お姉様たちも、お母様も、大好き。でも、いまは、ここから離れない」
シグネは、すとんと床に座り込んでしまった。相当ショックだったらしい。
もうこのまま黙って帰ってくれないかなあ。
* * * * *
かなりの時間がたったあと、シグネは立ち上がって言った。
「わかったわ。じゃあ、みんなでお母様に会いに来て」
「まったくわかっておらんじゃろ!」
「ずっと私たちの国にいろと言っているんじゃないわ。お母様と直接話してって言っているの。私が話しても、信じて貰えそうにないもの」
「わらわたちは忙しいのじゃ。そなたたちの国がどこにあるか──」
「時間はとらせないわ。私の召喚魔法で一瞬よ」
召喚魔法って移動にも使えたのか……。
さてどうしよう。相手の戦力は圧倒的だ。できれば敵対したくない。それに魔王と顔合わせできるのも悪くない。
ただ──
「そっちに行って帰ってこられる保証がないじゃろ。そのままフィアを閉じ込めるつもりかもしれぬ」
「心配性ね。召喚魔法なんだから、持続時間が切れれば自動的にここに戻るわ」
……ああ、たしかにファロンが呼んだキツネたちも消えたな。近くの森からの召喚だったから、葛の葉はすぐに戻ってきたけど。なら、安全なのか?
「フィア?」
「シグネお姉様は、固定魔法は使えない」
オレの懸念もフィアが払拭してくれた。
そうしてオレとフィアとデトナの3人が、フィアの生まれ故郷に行くことになった。召喚時間は半日。夜中には帰ってくる予定だ。メイドたちに伝言を残し出発する。……たぶん帰ったら、ユルテたちに文句を言われるだろうな。
* * * * *
一瞬の浮揚感のあと、景色が変わった。
フィアがいっぱいいる、というのが第一感だった。まわりを見回すと、フィアによく似た女の子がたくさんいる。というよりシグネによく似た、か。フィアが成長したら、きっとこんな感じになるんだろう。
ざっと見ただけでも数十人。かなり異常な光景だった。そしてまた、彼女たちが着ている服も奇妙なものだった。赤や黄色など原色をふんだんに使い、形もきばつなものばかり。まるでオートクチュールのファッションショーみたいだ……。
「お母様、ただいま戻りました」
「よく無事で戻った。フィアも……!」
オレがあっけに取られているうちに、シグネたちの話が進んでいた。正面奥の玉座に、フィア25歳バージョンというような女性が座っている。彼女だけはごくふつうのドレスを着ていた。その目にはかすかに涙がうかんでいる。
「よし、今日は宴だ! すぐに料理の手配をせよ」
まずい。フィアが戻るつもりだと思われた。シグネは素知らぬ顔で、説明する気配がない。できればフィアに話してほしいが、母親と大勢の姉に囲まれている状況では厳しいだろう。ここはオレが──
そう思ったとき、フィアの姿がみえた。変な服の姉たちに囲まれながら、こぶしを握りしめているフィアが。オレは口を閉じて、フィアを見守ることにした。
「わ、私は、まだ、戻らない。姫様と、いっしょにいる!」
声は震えていたが、フィアは自分の意見をしっかり言い切った。姉たちがざわつく。オレは、放心状態の姉たちをかきわけて、フィアの隣に立った。そして手を握る。ここから先は、オレの仕事だ。
「静まれ」
魔王の言葉であたりは静まり返った。彼女は玉座からおりて、ゆっくりとこちらに歩いてくる。そしてオレたちの前まできて、微笑んだ。
「フィアがそうしたいというのなら、仕方ない。かわいい娘の願いを叶えるのは母たる私のつとめ」
そこらで息を呑む音が聞こえた。フィアの姉たちは、みな不満そうにしている。だが表立って反対するものは一人もいなかった。魔王が畏怖されていることがよくわかる。同時に、フィアがずいぶん頑張ったことも理解できた。
「……ついては、ディニッサといくつか話したいことがある。すこし時間をもらえるか? フィアともう一人はゆっくりしていればいい」
どうやら対決はさけられたようだ。むしろ、こちらに協力してくれるかもしれない。オレはうなずいて、魔王とともに奥に向かった。姉たちの中には、ついてこようとした者もいたが、魔王が手をふって追い払った。なにやら二人きりにで話したいことがあるらしい。
「この扉の先だ」
魔王はそう言って、廊下の突き当りの扉を開けた。中には大きなテーブルがあり椅子がいくつも並べられていた。会議室といったところか。二人だけで使うにしては大きすぎるけど。
魔王が先に入り、オレはあとに続く。扉をくぐった時、なぜか浮揚感があった。
なんだ? 一瞬のとまどいから我に返ると、あたりの景色が一変していた。
部屋がさっき見た半分くらいの大きさになり、壁が氷になっている。体がふるえた。かなり寒い。
「なんじゃこれは……」
「見てのとおり、氷の牢獄だ。なにか欲しいものはあるか? できうる限り便宜をはかるぞ」
「わらわたちを騙したのか!」
「騙す? フィアがおまえを欲しいと言うから手に入れただけだ。私もかわいい末娘の願いは叶えてやりたいからな」
『オーラセカンド3分』
オレは威嚇の意味も兼ねて、強化魔法を発動した。だが、なにかおかしい。いつものように力が湧いてくる感覚がない。
「無駄だ。この部屋で自在に魔法を使えるのは私だけだ。……さて、いったん私は娘たちの様子を見に戻るゆえ、その間に欲しいものを考えておけ。服でも宝石でもなんでも良いぞ。自由以外なら、な」
魔王は一歩下がった。この部屋には扉がない。ということは召喚魔法で移動する気だ。うまく魔王にくっつければ、いっしょに脱出できるかもしれない。──しかし、すぐにそれが無理だとわかった。いつの間にか足先が床といっしょに凍りついていたのだ。これでは一歩も動けない。
「そうそう、一つ言っておく。私は固定魔法も使えるぞ」
そう言って魔王はかき消えた。
固定魔法? 最初は意味がわからなかったが、少し考えたら理解できた。
……絶望的な結論だったが。
本来、半日でシグネの魔法が切れて帰れるはずだった。だがそのあとでオレは、魔王の召喚魔法で移動してしまった。おそらく、固定魔法で永続化された召喚魔法で。結果、魔法の効果が上書きされたということなんだろう。
どうやら、閉じ込められてしまったらしい……。
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