上 下
29 / 148
第2章 お城の外へ。常識を知る

政治の中枢へ

しおりを挟む
 朝、目覚めると、フィアに変わってユルテが添い寝していた。
 オレが寝ている間に、また侍女が入れ替わったらしい。
 ……入れ替わった後に、また添い寝をする意味はわからないが。

 でもおかしいな。
 いつもなら、布団まわりでガタガタされたら、絶対に目が覚めてる。
 寝覚めが悪くなったのも、この体のせいか?

「姫様、おはようございます」
「おはようなのじゃ」

 二日目なので寝起きに見つめられていても、もう驚かない。
 これから洗顔、着替えと、朝食が終わるまではやることがない。
 ひたすらユルテのお人形さんとして、大人しくしているだけだ。

 そういえば、ディニッサからの通信がなかったな。
 昨日の夢には出てこなかった。陽菜の生活とか、会社のこととか不安なんだが。
 もう連絡はこないんだろうか……。


 * * * * *


「今日は城の外に出てみようと思う。街に領地運営の実務をやっているところがあるんじゃろ? そこに案内してほしいのじゃ」

「城の外に、ですか……」

 ユルテは城の外に出るのに反対らしい。

「なにか問題があるのかの?」

「お召し物が汚れてしまいますよ。それにどんな危険があるかわかりません」
「服なんて汚すためにあるようなものじゃろ。必要なら着替えてもよい」

 それに突然殺しにくるユルテほど危険なものは、そうそうないだろうし。
 そう思ったが、もちろん口には出さない。

「主を守るのも臣下のつとめじゃろ。外出中の警護はユルテに任せるのじゃ」
「姫様を守る……。それは、新鮮で楽しいかもしれませんね……」

 役目を与えることで、うまく説得できた。
 けれどそれから、城外ではお姫様抱っこ禁止、という指示を了解させるまでにかなりの時間を費やすことになるのだった。


* * * * *


「ディ、ディニッサ様!?」

 城門に近づくと、そこを守っていた兵士が突然土下座した。
 ……なんだこれ。ああ、そういえばオレは「皆殺し姫」なんだったな。

「立ち上がって良いぞ。いつも勤めご苦労じゃな」
「ハハッ。ありがたきお言葉!」

 できるだけ優しく話しかけたつもりだったが、兵士は土下座したままだった。
 ディニッサがどう思われているか、だいたいわかった。まあナメられているよりは、ましだと考えておこう。

 よく見ると兵士は震えていた。
 城門を出てしばらくしてから振り返っても、土下座したままだった。
 どんだけだよ……。


 * * * * *


 政務用の施設は、城から近い高級住宅街にあった。
 門番などはいなかったので、そのまま中に入る。普通は先触れを出すんだろうが、時間がもったいないし、今回は許してもらおう。
 
「これは、どなたでしょうか……?」

 中に入ると、耳が尖った美形が声をかけてきた。
 たぶん男だと思うんだが、女性と言われても納得できる容貌だった。

「わらわは──」
「ま、まさかディニッサ様!?」

 オレが言い終わる前に、答えに到達したらしい。
 彼も門番と同じく土下座した。

 ……ホント、どんな噂が流れているんだろうな。
 目を合わすと殺される、とか言われているのかもしれない。

「うむ。たしかにわらわはディニッサじゃ。だが、そうかしこまるな──」
「ディニッサ様!?」「我らの神が!?」「まさか!」

 またしても、言い終えることができなかった。部屋に次々とエルフが入ってきたのだ。そしてなにやら喚きながら、全員が下座(げざ)っていく。

 なにこれ……。オレとユルテはエントランスホールで、土下座したエルフ達に囲まれることになった。

 あぜんとしているうちに、奥からまた誰かが駆け足で飛び込んできた。

 額の中央から生えている、白く長い角が特徴的な男だ。
 顔立ちがすこし幼い。十代後半というところか。また、他の者よりちょっといい服を着ている。責任者か?

「ディニッサ様! 罪はすべてこの僕、ケネフェト・ロニドゥにあります。他の者はどうかお許しください!」

「いえ、ケネフェト様だけに罪をきせるわけにはいきません。我々も同罪です!」

 ん? 意味不明な展開になっている。
 なんだこいつら、収賄でもしてんのか……?

 どういう事かと、ユルテ見ると、彼女は退屈そうにしていた。役に立たねえ。

「みな落ち着け! まず、ケネフェト、そなたがどんな罪を犯したか詳しく話せ」
「見ての通り、政務にルオフィキシラル教会の者を使ってしまいました」

「……?」

 ルオフィキシラル教会?
 なんのことだか、さっぱり分からない。

「しばし待て」

 オレはユルテを連れて、いったん外に出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...