27 / 148
第2章 お城の外へ。常識を知る
突然瀕死
しおりを挟む
魔力固定を習得したことにより、オレは万物を創造する能力を得た。
その力は神に匹敵するだろう。
……と言いたいところだが、魔力固定はそれほど便利でもなさそうだった。
仮に、1リットルの水を1秒間出す魔法が、消費魔力1だとしよう。この水を固定した場合、魔力を1万くらい使っている感覚がある。
貴金属などを作り出せば、小遣い稼ぎはできるだろうが、国家の運営に影響を及ぼすほどの利益をあげるのは難しそうだ。
また、元素魔法が本当に「元素」の魔法だということも判明した。
こっちの人たちは地水火風の四元素の魔法と認識している。
けれど、たぶんそれは間違っている。魔力をあらゆる元素──H(水素) Fe(鉄)など──に変化させるのが元素魔法の本質のはずだ。
なぜそう考えるのか。それは同じ大きさでも、石より鉄や金のほうが、はるかに少ない魔力で作成できたからだ。すなわち、石などのように多数の元素からなる化合物は作りづらいということだ。
たとえば水を出すときには、魔力を水素と酸素に変化させ結合するというプロセスが無意識のうちに行われているのだと思われる。だから水系を使えるフィアは本来、風系も使えるはずなんだが……。
説明してもダメだった。「空気から水ができるのは、おかしい」と言われ、フィアには納得してもらえなかった。
たしかに元素理論を知っていないと理解は難しいだろうな。ただ、少なくともオレは、こっち人より効率的に魔法を使えるようになったわけだ。
中学生のころは、元素周期表とか覚えて意味あんの?
人生で使うことなくない?
などとほざいていました。スミマセン、使う機会は立派にありました。
義務教育バンザイ。
ただし、あまり馴染みのない元素の作成は困難だった。
銅や銀は簡単に作れるが、番号の大きい元素は難しい。
その元素を見たことがあるかどうかは関係ないようだ。
無色であるヘリウムの作成に成功し、あやうく酸欠で死にかけたから。
これは純粋にイメージの問題らしい。
* * * * *
「フィア、この塔の残骸はどうすればいいじゃろう? それから塔の修理は」
「好きにすればいい」
……フィアがやさぐれてる。
オレが固定魔法を、あっさり習得してしまったせいだ。
「そもそも『わらわ』は魔力固定を使えたはずじゃろ。だから、もともと出来たことが、また出来るようになっただけじゃ。機嫌を直してほしいのじゃ」
ディニッサが魔力固定を使えなければ、もう入れ替えが解けてるはずだからな。
どうして神様は、あんなダメな子に強大な力を与えてしまったのか。
「……うん、ごめん。でもどうすればいいかわからないのは、本当。私は姫様のお世話と、庭の手入れくらいしかやったこと、ない」
「そうか。ならあとでユルテにでも報告しておくのじゃ。ここは足の踏み場もないから違うところにいくかの」
「どこに?」
いちおう簡単にやられない程度の自信はできた。
だから、街を見にいく手もあるけど……。
朝起きるのが遅かったせいで、そろそろ夕方なんだよな。
うん。今日は訓練に専念しよう。
「魔法について書かれた本を読みたい。たしか、書庫にあるってユルテが言っていたのじゃ」
「ない」
「え?」
「魔法について書かれた本はない」
「ユルテが嘘ついた?」
「違う。勘違い。魔法、じゃなくて『魔術』の本だったら、いっぱい、ある」
「どう違うんじゃ」
「魔法は、魔族の先天的能力。魔術はそれを真似しようと作られた技術。触媒の使用、呪文の詠唱、魔法陣の作成、3つを合わせて、魔力がない人でも、魔法と似たことが、できる」
そんなものがあったのか。なんとなく、そっちのほうがゲームに出てくる魔法使いのイメージに近いな。魔族の魔法は、超能力っぽいから。
「よく知っておるな」
「たいしたこと、ない。私は、魔法の才能がないから、調べた、だけ。普通の魔族は、そんな本、読まない」
謙遜しながらも、フィアは嬉しさを隠せない様子だ。
この子、わりと不憫な人生を送ってきたんじゃないだろうか……?
「じゃあ、書庫──グフォッ」
「姫様!?」
フィアが目を見開く。
突然オレの口から血があふれだしたのだ。
肋骨が折れた。
肺が潰れた。
内蔵の一部が破裂する。
一瞬にして、オレは瀕死の重傷を負ってしまったのだった。
その力は神に匹敵するだろう。
……と言いたいところだが、魔力固定はそれほど便利でもなさそうだった。
仮に、1リットルの水を1秒間出す魔法が、消費魔力1だとしよう。この水を固定した場合、魔力を1万くらい使っている感覚がある。
貴金属などを作り出せば、小遣い稼ぎはできるだろうが、国家の運営に影響を及ぼすほどの利益をあげるのは難しそうだ。
また、元素魔法が本当に「元素」の魔法だということも判明した。
こっちの人たちは地水火風の四元素の魔法と認識している。
けれど、たぶんそれは間違っている。魔力をあらゆる元素──H(水素) Fe(鉄)など──に変化させるのが元素魔法の本質のはずだ。
なぜそう考えるのか。それは同じ大きさでも、石より鉄や金のほうが、はるかに少ない魔力で作成できたからだ。すなわち、石などのように多数の元素からなる化合物は作りづらいということだ。
たとえば水を出すときには、魔力を水素と酸素に変化させ結合するというプロセスが無意識のうちに行われているのだと思われる。だから水系を使えるフィアは本来、風系も使えるはずなんだが……。
説明してもダメだった。「空気から水ができるのは、おかしい」と言われ、フィアには納得してもらえなかった。
たしかに元素理論を知っていないと理解は難しいだろうな。ただ、少なくともオレは、こっち人より効率的に魔法を使えるようになったわけだ。
中学生のころは、元素周期表とか覚えて意味あんの?
人生で使うことなくない?
などとほざいていました。スミマセン、使う機会は立派にありました。
義務教育バンザイ。
ただし、あまり馴染みのない元素の作成は困難だった。
銅や銀は簡単に作れるが、番号の大きい元素は難しい。
その元素を見たことがあるかどうかは関係ないようだ。
無色であるヘリウムの作成に成功し、あやうく酸欠で死にかけたから。
これは純粋にイメージの問題らしい。
* * * * *
「フィア、この塔の残骸はどうすればいいじゃろう? それから塔の修理は」
「好きにすればいい」
……フィアがやさぐれてる。
オレが固定魔法を、あっさり習得してしまったせいだ。
「そもそも『わらわ』は魔力固定を使えたはずじゃろ。だから、もともと出来たことが、また出来るようになっただけじゃ。機嫌を直してほしいのじゃ」
ディニッサが魔力固定を使えなければ、もう入れ替えが解けてるはずだからな。
どうして神様は、あんなダメな子に強大な力を与えてしまったのか。
「……うん、ごめん。でもどうすればいいかわからないのは、本当。私は姫様のお世話と、庭の手入れくらいしかやったこと、ない」
「そうか。ならあとでユルテにでも報告しておくのじゃ。ここは足の踏み場もないから違うところにいくかの」
「どこに?」
いちおう簡単にやられない程度の自信はできた。
だから、街を見にいく手もあるけど……。
朝起きるのが遅かったせいで、そろそろ夕方なんだよな。
うん。今日は訓練に専念しよう。
「魔法について書かれた本を読みたい。たしか、書庫にあるってユルテが言っていたのじゃ」
「ない」
「え?」
「魔法について書かれた本はない」
「ユルテが嘘ついた?」
「違う。勘違い。魔法、じゃなくて『魔術』の本だったら、いっぱい、ある」
「どう違うんじゃ」
「魔法は、魔族の先天的能力。魔術はそれを真似しようと作られた技術。触媒の使用、呪文の詠唱、魔法陣の作成、3つを合わせて、魔力がない人でも、魔法と似たことが、できる」
そんなものがあったのか。なんとなく、そっちのほうがゲームに出てくる魔法使いのイメージに近いな。魔族の魔法は、超能力っぽいから。
「よく知っておるな」
「たいしたこと、ない。私は、魔法の才能がないから、調べた、だけ。普通の魔族は、そんな本、読まない」
謙遜しながらも、フィアは嬉しさを隠せない様子だ。
この子、わりと不憫な人生を送ってきたんじゃないだろうか……?
「じゃあ、書庫──グフォッ」
「姫様!?」
フィアが目を見開く。
突然オレの口から血があふれだしたのだ。
肋骨が折れた。
肺が潰れた。
内蔵の一部が破裂する。
一瞬にして、オレは瀕死の重傷を負ってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
断罪されているのは私の妻なんですが?
すずまる
恋愛
仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。
「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」
ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?
そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯?
*-=-*-=-*-=-*-=-*
本編は1話完結です(꒪ㅂ꒪)
…が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる