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第3章 旧領へ。新たな統治
毒の空気
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鉱山に住み着いた魔物を倒す。
しかしそれには、毒が蔓延した坑道を進む必要がある。
クルワッハの毒は、吸い込むことで影響を与えるタイプらしい。
そのため、討伐メンバーに選ばれるには、風系魔法を使える必要がある。
……残念ながらオレは、風系魔法を使えるため中に入らざるをえない。
ユルテとの魔法実験で風系が使えるとバレていなければ、使用不可能なふりをして逃げ出していたところだ。それほどに、洞窟からの悪臭がひどい。
外に漏れたガスでこれだけ臭いのだから、中はまさしく地獄だろう。
正直、もう帰りたいです……。
「ファロンは風系を使えるのかの?」
「使えるー」
ファロンは、いかにも嫌そうに鼻を抑えている。
ファロンもイヌ科の獣人だけに、臭いがツライのだろう。まあ、魔物でさえ逃げ出したくらいだから、平気なヤツはいないだろうが。
「わしも風系魔法は使えますぞ! なにせ妖精族の血が流れていますからな」
ブワーナンがいい笑顔で言った。
ブワーナンはドワーフが起源の魔族で、外見はほぼドワーフと同じだ。
ただ、背中から透明な羽が生えている。これが妖精族の証なのだろうが、透き通る綺麗な羽は、ゴツイおっさんの姿にはあまり似合っていなかった。
「ならば、突入メンバーは4人じゃな。フィアとネンズはこの場で──」
「待って。私は、いける。毒耐性が、ある」
フィアが小さく手をあげた。
毒耐性か。元から毒が効かないのなら、風系魔法で魔力を消費しない分効率が良い。しかし余計なことを言わなければ留守番できたのに、生真面目な娘だ。
「ブワーナンは先頭で案内を頼む。わらわはその後ろ。右にユルテ、左にフィア。ファロンは後ろじゃ。では、ゆくぞ!」
* * * * *
狭い入り口から坑道に入った
幅は2mほどで、丸くくり抜かれた穴がまっすぐに伸びていた。
奥は暗く、明かりがある様子はない。
「ブワーナン、明かりはどうするのじゃ? 先にいけば用意してあるのかの」
今回、荷物というほどの物は持ってきていない。
全員ほとんど手ぶらのようなものだ。ブワーナンだけはリュックを背負っているが、そこから明かりを取り出す気配はない。
「明かり? ああ、すみませんな。ドワーフやコボルトには暗視能力があるので、その問題に気づきませんでしたぞ」
「姫様、仕方ないので帰りましょう! この入口は塞いで見なかったことにすれば、一件落着ですよ」
ユルテが、ここぞとばかりに帰還を提案した。
なんとか討伐を中止にできないか、様子をうかがっていたらしい。
だが、その気持ちもわからなくはない。魔法の空気で毒は防いでいるが、臭いまでは防げないのだ。坑道内には、気を失いそうなほどの悪臭がこもっていた。
「待ってくだされ! この鉱床からは、微量ながらミスリルが見つかっているのです。捨て置くのは大きな損失ですぞ!」
ブワーナンが焦ったように両手を振り回した。
顔も真っ赤で、興奮しているのが一目瞭然だ。
ブワーナンの気持ちも、またわかる。
ミスリル硬貨1枚で、1000万円の価値があるほどの超稀少金属なのだ。
まあ、オレとしても、簡単に諦めるつもりはない。
困難が大きいからこそ、無事にクルワッハを退治できれば、民衆の感謝も大きくなるはずだった。それにミスリルも見逃せない。オレの武器を作るのに使えるかもしれない。
「まだ帰るつもりはないのじゃ。わらわが魔法で明かりをつけよう」
あたりを照らすべく、魔法の準備に入る。
火の魔法はまずいかもしれない。可燃性のガスがあった場合、悲惨なことになる。
……自然に光る元素とか、なんかあったかな?
「──狐火」
オレが迷っていると、後ろからファロンの声が聞こえた。
つぶやきと共に、オレンジ色の火の玉があらわれる。
宙を漂う火の玉は、柔らかな光であたりを照らしてくれた。
ふわふわとした狐火は、不思議なことにまったく熱を出していない。触っても手が透き通るだけで、なんの影響もなかったのだ。
「フィア、大丈夫なの?」
狐火を眺めていると、ユルテの声が聞こえた。
その声には珍しく心配そうな気配がにじんでいる。
振り返ると、フィアが苦しそうな顔をしていた。ふだん無表情な彼女が顔をしかめ、脂汗までたらしている。おそらく毒の影響だろう。けれどどうして……?
オレはあわてて近寄って、フィアの顔の前に手を伸ばした。
魔法で空気を作って、周囲の毒を追い払う。
「毒は効かないはずじゃろ?」
「ごめん、なさい。毒に強いだけ。ここの毒は、予想より強烈だった……」
「いったん戻ってフィアを置いてきましょうか」
「そうじゃの。さいわい出口はすぐそばじゃ」
フィアを連れ帰ってから、再突入することで話がまとまった。
「待って。私は、一緒にいきたい。役に、立ちたい……!」
しかしフィアは、オレの手を掴んでうったえる。
魔法訓練のときもそうだったが、フィアは役立たずだと言われることを気にしているようだ。その理由はよくわからないが、かなり根深い問題に思える。
「じゃが、離れた場所に空気を送り続けるのは難しいしの……」
魔法は、距離が離れるほどに使用魔力が増大する。しかも洞窟の広さがわからないため、どれだけ魔法を維持しなければならないか不明だ。効率を考えれば、フィアには待機してもらったほうが無難だろう。
「それならフィアが姫様をおんぶしたらどうでしょう? 姫様が後ろから手をまわせば、ほとんどロスなく魔法を使えますし」
フィアの口元に手をかざせば、無駄なく魔法を使えるだろう。だが……。
「それだとフィアが無防備になる。わらわの足を抱えるために、両手がふさがるじゃろ」
「大丈夫……!」
──イメージしてみたが、ぜんぜん大丈夫じゃなさそうだった
というより、おんぶされてダンジョンに挑む冒険者など、いて良いものか。安全性が低いことはもちろん、すごくアホっぽい。
大丈夫な理由を言わないあたり、フィアにも明確な根拠などないのだろう。
フィアは、ただいっしょに行きたいだけだ。
フィアを連れて行くと、魔力消費が増える。おんぶ状態ではオレの戦闘能力も下がる。
あんまりいいことはなさそうだ。
……だが、フィアの必死な形相を見ると、無碍に却下するのもためらわれる。
「わかったのじゃ。このままのメンバーで進むことにする」
しかしそれには、毒が蔓延した坑道を進む必要がある。
クルワッハの毒は、吸い込むことで影響を与えるタイプらしい。
そのため、討伐メンバーに選ばれるには、風系魔法を使える必要がある。
……残念ながらオレは、風系魔法を使えるため中に入らざるをえない。
ユルテとの魔法実験で風系が使えるとバレていなければ、使用不可能なふりをして逃げ出していたところだ。それほどに、洞窟からの悪臭がひどい。
外に漏れたガスでこれだけ臭いのだから、中はまさしく地獄だろう。
正直、もう帰りたいです……。
「ファロンは風系を使えるのかの?」
「使えるー」
ファロンは、いかにも嫌そうに鼻を抑えている。
ファロンもイヌ科の獣人だけに、臭いがツライのだろう。まあ、魔物でさえ逃げ出したくらいだから、平気なヤツはいないだろうが。
「わしも風系魔法は使えますぞ! なにせ妖精族の血が流れていますからな」
ブワーナンがいい笑顔で言った。
ブワーナンはドワーフが起源の魔族で、外見はほぼドワーフと同じだ。
ただ、背中から透明な羽が生えている。これが妖精族の証なのだろうが、透き通る綺麗な羽は、ゴツイおっさんの姿にはあまり似合っていなかった。
「ならば、突入メンバーは4人じゃな。フィアとネンズはこの場で──」
「待って。私は、いける。毒耐性が、ある」
フィアが小さく手をあげた。
毒耐性か。元から毒が効かないのなら、風系魔法で魔力を消費しない分効率が良い。しかし余計なことを言わなければ留守番できたのに、生真面目な娘だ。
「ブワーナンは先頭で案内を頼む。わらわはその後ろ。右にユルテ、左にフィア。ファロンは後ろじゃ。では、ゆくぞ!」
* * * * *
狭い入り口から坑道に入った
幅は2mほどで、丸くくり抜かれた穴がまっすぐに伸びていた。
奥は暗く、明かりがある様子はない。
「ブワーナン、明かりはどうするのじゃ? 先にいけば用意してあるのかの」
今回、荷物というほどの物は持ってきていない。
全員ほとんど手ぶらのようなものだ。ブワーナンだけはリュックを背負っているが、そこから明かりを取り出す気配はない。
「明かり? ああ、すみませんな。ドワーフやコボルトには暗視能力があるので、その問題に気づきませんでしたぞ」
「姫様、仕方ないので帰りましょう! この入口は塞いで見なかったことにすれば、一件落着ですよ」
ユルテが、ここぞとばかりに帰還を提案した。
なんとか討伐を中止にできないか、様子をうかがっていたらしい。
だが、その気持ちもわからなくはない。魔法の空気で毒は防いでいるが、臭いまでは防げないのだ。坑道内には、気を失いそうなほどの悪臭がこもっていた。
「待ってくだされ! この鉱床からは、微量ながらミスリルが見つかっているのです。捨て置くのは大きな損失ですぞ!」
ブワーナンが焦ったように両手を振り回した。
顔も真っ赤で、興奮しているのが一目瞭然だ。
ブワーナンの気持ちも、またわかる。
ミスリル硬貨1枚で、1000万円の価値があるほどの超稀少金属なのだ。
まあ、オレとしても、簡単に諦めるつもりはない。
困難が大きいからこそ、無事にクルワッハを退治できれば、民衆の感謝も大きくなるはずだった。それにミスリルも見逃せない。オレの武器を作るのに使えるかもしれない。
「まだ帰るつもりはないのじゃ。わらわが魔法で明かりをつけよう」
あたりを照らすべく、魔法の準備に入る。
火の魔法はまずいかもしれない。可燃性のガスがあった場合、悲惨なことになる。
……自然に光る元素とか、なんかあったかな?
「──狐火」
オレが迷っていると、後ろからファロンの声が聞こえた。
つぶやきと共に、オレンジ色の火の玉があらわれる。
宙を漂う火の玉は、柔らかな光であたりを照らしてくれた。
ふわふわとした狐火は、不思議なことにまったく熱を出していない。触っても手が透き通るだけで、なんの影響もなかったのだ。
「フィア、大丈夫なの?」
狐火を眺めていると、ユルテの声が聞こえた。
その声には珍しく心配そうな気配がにじんでいる。
振り返ると、フィアが苦しそうな顔をしていた。ふだん無表情な彼女が顔をしかめ、脂汗までたらしている。おそらく毒の影響だろう。けれどどうして……?
オレはあわてて近寄って、フィアの顔の前に手を伸ばした。
魔法で空気を作って、周囲の毒を追い払う。
「毒は効かないはずじゃろ?」
「ごめん、なさい。毒に強いだけ。ここの毒は、予想より強烈だった……」
「いったん戻ってフィアを置いてきましょうか」
「そうじゃの。さいわい出口はすぐそばじゃ」
フィアを連れ帰ってから、再突入することで話がまとまった。
「待って。私は、一緒にいきたい。役に、立ちたい……!」
しかしフィアは、オレの手を掴んでうったえる。
魔法訓練のときもそうだったが、フィアは役立たずだと言われることを気にしているようだ。その理由はよくわからないが、かなり根深い問題に思える。
「じゃが、離れた場所に空気を送り続けるのは難しいしの……」
魔法は、距離が離れるほどに使用魔力が増大する。しかも洞窟の広さがわからないため、どれだけ魔法を維持しなければならないか不明だ。効率を考えれば、フィアには待機してもらったほうが無難だろう。
「それならフィアが姫様をおんぶしたらどうでしょう? 姫様が後ろから手をまわせば、ほとんどロスなく魔法を使えますし」
フィアの口元に手をかざせば、無駄なく魔法を使えるだろう。だが……。
「それだとフィアが無防備になる。わらわの足を抱えるために、両手がふさがるじゃろ」
「大丈夫……!」
──イメージしてみたが、ぜんぜん大丈夫じゃなさそうだった
というより、おんぶされてダンジョンに挑む冒険者など、いて良いものか。安全性が低いことはもちろん、すごくアホっぽい。
大丈夫な理由を言わないあたり、フィアにも明確な根拠などないのだろう。
フィアは、ただいっしょに行きたいだけだ。
フィアを連れて行くと、魔力消費が増える。おんぶ状態ではオレの戦闘能力も下がる。
あんまりいいことはなさそうだ。
……だが、フィアの必死な形相を見ると、無碍に却下するのもためらわれる。
「わかったのじゃ。このままのメンバーで進むことにする」
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