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第3章 旧領へ。新たな統治
道路整備
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第二壁の門を抜け外に出た。
一応、ここから先は街ではないということになっている。
しかし実際には、外壁にへばりつくようにスラム街がある。各地から集まった行き場のない者たちが、粗末な家を作って住み着いているのだ。
このようなものができるのも、ある意味当然だ。
なにせ、7割というアホな税率をかましていたのだ。食うに困った農民が逃げてくるのも自然だろう。
街に来たからといって裕福に暮らせるわけではないが、税が取られない分なんとか生きていくことはできる。ちなみに、街の土地はすべてディニッサの所有物となっている。そのため、住人はディニッサの土地を借りて生活しているのだ。
借りているのだから、毎月金を取られる。高級住宅街である第一壁内は、その税金も高く、それが過疎化している一因になっていると思われる。第二壁の外にあるスラムでは、さすがに税は徴収していない。……取れる物もないだろうが。
「人が少ないの……」
「そうでしょうか? むしろ普段より多いように見えますけど」
ケネフェトはそう言ったが、門を出入りする人はかなり少ない。
日本の人混みと比べるのは間違っているだろうが、それにしても人の動きが少なすぎる。まるで病人のように元気のない街だ……。
「領内の道をなんとかしたいのじゃ」
「おお、それはぜひともやっていただきたいですな!」
オレの提案に、ガーナンが弾んだ声で答えた。
道の整備状況は、商人の利益に直結する。たとえば1日で行き来できる場所があったとする。それが道が荒れ2日かかれば、1日あたりの利益は半減するのだ。
とにかくこの国の道はひどすぎる。
道幅は狭いし、路面はデコボコしている。さらにむき出しの土であるために、水はけが悪く、ドロでぬかるんでいるのだ。
とりあえず道を整備して、馬車が行き来できるようにしたい。
今はロバに荷物を乗せて歩いているような状況だ。
悪路ゆえに仕方がないが、効率が悪いことこのうえない。
道が整備され、馬車が一般的になれば交通事情がおおきく改善されるだろう。
ただの荷馬と馬車では、載せられる荷物の量も移動速度もまるで違う。
……正確には知らないけど、たぶん、違うはずだ。
「では領民に賦役を申し付けますか?」
「いや、日当を出して希望者を雇うのじゃ」
オレの発言に全員が驚いたようだった。
「道を整備するのにもお金を払うんですか? そんな無駄遣いをするなら、お城の食糧事情を改善してください!」
またユルテに嫌な顔をされた。
自分の食べ物よりディニッサの服を優先している、とユルテを見なおしていたのだが、やっぱり食い物も大事らしい……。
ただし、ユルテが怒るのも仕方ないことではある。
この世界での公共工事は、領民の強制労働でやるのが当然のようだから。
でもオレはタダ働きはさせたくない。
オレもサービス残業はいやだったからな……! 正確には残業ではなく、絶対に終わらない量の仕事を任されて、家で仕事をする刑だが。
「賦役でも食べ物は支給しておるのじゃろ。ならば、もう少しだけ出費が増えるだけじゃ。それで道が早く整うならその方がよい」
この世界では、街に入るだけで入市税というものが取られる。
つまり人々の移動が活発化すれば、それだけ税収も上がるということだ。
荷物の量によって税が増えるので、馬車が普及すれば、今の税をはるかに凌ぐ金が手に入るはずだ。道路の建設費と維持費を考えても、プラスになる……ような気がする。
本来なら、事前に費用対効果を検討すべきだ。けれどもオレにはそうするだけの能力はないし、部下にもそういった知識がある者はいそうにない。
今は資金的な余裕があるので、とりあえずやってみるのもいいだろう。
それに、もしも道路建設事業が赤字に終わったとしても、公共投資による経済の波及効果は見込めるはずだ。
「──というわけで、道路整備には多大なメリットがあるのじゃ!」
道路建設の利点をとうとうと語ってみた。
我ながら素晴らしいプレゼンテーションだったと思う。
……しかし、やっぱりみんなの反応は芳しくない。
「それならそれで、近くの民を徴発して作れば良いでしょう。道を使うのは平民なのですから、彼らにお金を払う必要などありません」
またユルテに否定された。掃除の時と同じく、道路工事が嫌だというよりは、お金を使うのが嫌という感じだ。
労働者に賃金を払う事により生じる経済効果についても、簡単に説明したのだが理解してはもらえなかった。ルオフィキシラル領のような社会では、乗数効果による経済規模の拡大が期待できるのだが……。
「とにかく、じゃ。道路整備は必ずやるのじゃ!」
最後は権力を振りかざしてゴリ押しした。
こういう時、独裁者は楽でいい。政治改革には最高の制度ではあるまいか。
……まあ、失敗した時の悲惨さは、民主制の比ではないのだが。
「クノ・ヴェニスロへの主街道を再優先に整える。次にルオフィキシラリア近辺の街道、村への小道。次がヴァロッゾ、テパエの順じゃ」
南北には川が流れているので、船を使えばいい。いまでも船着き場は盛況だし。
西への道の整備は急務だ。短時間で大量の食料を運べるようになれば、食品の値も下がるだろう。ついでにシロたちの食費も抑えられる。
「ガーナン、これはそなたらにも利がある政策じゃ。仲間をつのって協力せよ」
「承知しました。もちろん多少の見返りは期待してもよろしいのでしょうな?」
「そうじゃな。道が整備されて何年かは、商売上の優遇措置をしてもよい」
「ありがたいですな。それなら仲間を説得しやすいというもの」
……しかし、我ながらやっていることがひどい。
一人の商人とずぶずぶの関係。しかも特定宗教と癒着している。さらには、強制労働施設の設置まで企んでいる。
まるで時代劇でやられる悪代官みたいな立ち回りだな!
一応、ここから先は街ではないということになっている。
しかし実際には、外壁にへばりつくようにスラム街がある。各地から集まった行き場のない者たちが、粗末な家を作って住み着いているのだ。
このようなものができるのも、ある意味当然だ。
なにせ、7割というアホな税率をかましていたのだ。食うに困った農民が逃げてくるのも自然だろう。
街に来たからといって裕福に暮らせるわけではないが、税が取られない分なんとか生きていくことはできる。ちなみに、街の土地はすべてディニッサの所有物となっている。そのため、住人はディニッサの土地を借りて生活しているのだ。
借りているのだから、毎月金を取られる。高級住宅街である第一壁内は、その税金も高く、それが過疎化している一因になっていると思われる。第二壁の外にあるスラムでは、さすがに税は徴収していない。……取れる物もないだろうが。
「人が少ないの……」
「そうでしょうか? むしろ普段より多いように見えますけど」
ケネフェトはそう言ったが、門を出入りする人はかなり少ない。
日本の人混みと比べるのは間違っているだろうが、それにしても人の動きが少なすぎる。まるで病人のように元気のない街だ……。
「領内の道をなんとかしたいのじゃ」
「おお、それはぜひともやっていただきたいですな!」
オレの提案に、ガーナンが弾んだ声で答えた。
道の整備状況は、商人の利益に直結する。たとえば1日で行き来できる場所があったとする。それが道が荒れ2日かかれば、1日あたりの利益は半減するのだ。
とにかくこの国の道はひどすぎる。
道幅は狭いし、路面はデコボコしている。さらにむき出しの土であるために、水はけが悪く、ドロでぬかるんでいるのだ。
とりあえず道を整備して、馬車が行き来できるようにしたい。
今はロバに荷物を乗せて歩いているような状況だ。
悪路ゆえに仕方がないが、効率が悪いことこのうえない。
道が整備され、馬車が一般的になれば交通事情がおおきく改善されるだろう。
ただの荷馬と馬車では、載せられる荷物の量も移動速度もまるで違う。
……正確には知らないけど、たぶん、違うはずだ。
「では領民に賦役を申し付けますか?」
「いや、日当を出して希望者を雇うのじゃ」
オレの発言に全員が驚いたようだった。
「道を整備するのにもお金を払うんですか? そんな無駄遣いをするなら、お城の食糧事情を改善してください!」
またユルテに嫌な顔をされた。
自分の食べ物よりディニッサの服を優先している、とユルテを見なおしていたのだが、やっぱり食い物も大事らしい……。
ただし、ユルテが怒るのも仕方ないことではある。
この世界での公共工事は、領民の強制労働でやるのが当然のようだから。
でもオレはタダ働きはさせたくない。
オレもサービス残業はいやだったからな……! 正確には残業ではなく、絶対に終わらない量の仕事を任されて、家で仕事をする刑だが。
「賦役でも食べ物は支給しておるのじゃろ。ならば、もう少しだけ出費が増えるだけじゃ。それで道が早く整うならその方がよい」
この世界では、街に入るだけで入市税というものが取られる。
つまり人々の移動が活発化すれば、それだけ税収も上がるということだ。
荷物の量によって税が増えるので、馬車が普及すれば、今の税をはるかに凌ぐ金が手に入るはずだ。道路の建設費と維持費を考えても、プラスになる……ような気がする。
本来なら、事前に費用対効果を検討すべきだ。けれどもオレにはそうするだけの能力はないし、部下にもそういった知識がある者はいそうにない。
今は資金的な余裕があるので、とりあえずやってみるのもいいだろう。
それに、もしも道路建設事業が赤字に終わったとしても、公共投資による経済の波及効果は見込めるはずだ。
「──というわけで、道路整備には多大なメリットがあるのじゃ!」
道路建設の利点をとうとうと語ってみた。
我ながら素晴らしいプレゼンテーションだったと思う。
……しかし、やっぱりみんなの反応は芳しくない。
「それならそれで、近くの民を徴発して作れば良いでしょう。道を使うのは平民なのですから、彼らにお金を払う必要などありません」
またユルテに否定された。掃除の時と同じく、道路工事が嫌だというよりは、お金を使うのが嫌という感じだ。
労働者に賃金を払う事により生じる経済効果についても、簡単に説明したのだが理解してはもらえなかった。ルオフィキシラル領のような社会では、乗数効果による経済規模の拡大が期待できるのだが……。
「とにかく、じゃ。道路整備は必ずやるのじゃ!」
最後は権力を振りかざしてゴリ押しした。
こういう時、独裁者は楽でいい。政治改革には最高の制度ではあるまいか。
……まあ、失敗した時の悲惨さは、民主制の比ではないのだが。
「クノ・ヴェニスロへの主街道を再優先に整える。次にルオフィキシラリア近辺の街道、村への小道。次がヴァロッゾ、テパエの順じゃ」
南北には川が流れているので、船を使えばいい。いまでも船着き場は盛況だし。
西への道の整備は急務だ。短時間で大量の食料を運べるようになれば、食品の値も下がるだろう。ついでにシロたちの食費も抑えられる。
「ガーナン、これはそなたらにも利がある政策じゃ。仲間をつのって協力せよ」
「承知しました。もちろん多少の見返りは期待してもよろしいのでしょうな?」
「そうじゃな。道が整備されて何年かは、商売上の優遇措置をしてもよい」
「ありがたいですな。それなら仲間を説得しやすいというもの」
……しかし、我ながらやっていることがひどい。
一人の商人とずぶずぶの関係。しかも特定宗教と癒着している。さらには、強制労働施設の設置まで企んでいる。
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