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第3章 旧領へ。新たな統治

ルオフィキシラル領の刑罰

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 汚い街を綺麗にするため、スラムの住人を使う。
 たいして金もかからないし、スラム民に仕事を与える事自体にも意義がある。

 貧乏ゆえに犯罪に走るものは多い。そうした民を働かさせれば、犯罪率の軽減も期待できるだろう。ただし、いくつかクリアしないといけない問題点もある。

「ご飯だけ食べて、逃げちゃう人もいるんじゃないかなー?」

 ファロンが口にした疑問は、オレの心配と一致した。
 そうやってズルする奴は必ず出てくるだろう。

「食い逃げは許さぬ。どれほど手間をかけても必ず捕まえて処分する。これにはシロたちが役立つはずじゃ。違反者は魔物に食い殺させると知らせておけば、そうそう食い逃げなどせんじゃろう」

 うまい汁だけ吸おうとするヤツを野放しにすると、制度自体が崩壊する。
 いくら費用がかかろうとも、しっかりと対処する必要がある。

 じっさいに、魔物に喰わせるという過度の罰を与えるかはともかくとして、そうやって脅しておけば十分な抑止効果があるはずだ。

「それで防げるでしょうか……」
「あれ? けっこうキツイ脅しじゃろ。食い逃げしただけで死ぬんじゃぞ?」

 しかしオレの言葉に、ケネフェトは首をかしげていた。
 命がけで食い逃げする奴なんて、まずいないと思うのだが……。

「絞首刑よりは魔物に食い殺されるほうが嫌でしょうけど、どちらにせよ死ぬことには変わりがないわけで……」

 ケネフェトが変なことを言った。
 それではまるで、元から食い逃げは死刑と決まっているようじゃないか。

「……犯罪者にはどんな罰があたえられるのじゃ。たとえば窃盗犯は?」
「犯罪を犯した者の身分によって、罰は変わるのですが、平民なら絞首刑ですね」

「強盗は?」「斬首刑です」
「詐欺は?」「絞首刑です」
「空き巣は」「車裂きです」
「大逆罪は」「釜茹での刑です」

 なんと、すべて死刑!
 ほとんどの犯罪が死刑につながるようだ。この世界全体がそうなのか、ルオフィキシラル領が特殊なのかは不明だが、とにかく厳しい罰則だった。

 こうなると「食い殺し」の脅し効果は、あまり無いと見るべきだろう。

「……魔族の場合はどうなるんじゃ? 減刑されるのかの」
「通常、魔族には自裁が許されています」

 自裁って、自殺のことだよな。結局死刑じゃねーか!
 この世界の法律は極端すぎる……。

「……気が変わったのじゃ。これより死刑は、どう考えても許されない極悪非道な犯人にのみ適用する。街で見つけた窃盗犯などは、捕らえて一箇所にまとめておくのじゃ」

 厳罰化には一定の効果がある。けれど、なんでもかんでも死刑では、デメリットが大きすぎる。「お腹が減ってパンを盗んでしまった。もうどうせ死刑なんだから好き勝手にやろう」などと重犯罪に手を染める者が出現しかねない。

 ……たぶん法律上死刑であるというだけで、じっさいに施行されることはあまりないんだと思う。兵士が少ないルオフィキシラル領で、完全な取り締まりができるわけがないし。

 が、それはそれで問題だ。
 いくら刑罰が重くても、捕まる可能性が低ければ犯罪の抑止にはつながらない。

 ──たとえばシンガポールは、ゴミのポイ捨てに厳しいことで有名だ。
 道端にゴミを捨てると、日本では信じられないような高額な罰金が取られる。
 だからガイドブックなどでは、清潔な街であると紹介されているのだ。

 が、実のところ、観光客が訪れるスポットを外れれば、ふつうにゴミが落ちている。タバコの吸い殻もそこら中にあり、とても理想的な「ファインカントリー」であるとは言い切れない。

 これは、取り締まり制度に起因する。有名な観光地近辺では厳しくチェックしているが、ふつうの住民が暮らす町では、それほど厳重な取り締まりはなされていない。というより人員の確保などの問題を考えれば、そもそもできるはずがない。

 このように刑罰は、その執行率が高まってこそ初めて有効になるのだ。
 たぶんルオフィキシラル領の罰則が重いのは、国力の低さも関係しているのだろう。少ない人員でカバーするために、過大な罰で脅しをかけているのだ。

 しかしすでにオレが兵員を大増強した。
 これからは罰則を緩めて、かわりに検挙率を高める方策に舵を切ろうと思う。

「それでは、捕まえた者の食事やら見張りやらで大変ですぞ。そうまでしてなにか利益がありますかな?」

 ガーナンが、オレの案のデメリットについて指摘してきた。
 やはり商人らしく、かかる費用について気になるようだ。

「捕まえておくのは一時的な措置じゃ。すぐに使いみちができる。……はずじゃ」

 この世界には奴隷制度がない。
 ならオレがかわりに、犯罪者による強制労働システムを作ってやろう。
 捕まえた犯罪者を、タダでこき使ってやるのだ!

 魔王会議ではあくまで、人身売買を禁止していただけのはずだ。
 犯罪者をオレの領内で働かせるだけなら問題なかろう。

「ノランに街の巡回兵を増やすように伝えよ。犯罪者を厳しく取り締まれ。場合によってはシロたちの力を使っても良い」

 シロたちの嗅覚は、犯罪捜査に効果的だろう。
 そうやって力を示せば、ユルテも文句を言わなくなるはずだ。今のところシロたちは、役に立たない無駄飯食いと認定されている。

 シロたち自身のためにも、オレの心の平穏のためにも、ぜひとも魔物軍団には活躍してもらいたいところだ。

 ……けど、ヘルハウンドがちゃんと言うことを聞いてくれるかな?
 シロよりさらに知能が低いようだし、多少の不安はある。うまく働かせられるよう、しっかりと訓練していく必要がありそうだ。

 警察犬の調教って、どうやってるのかなあ。
 今度陽菜に調べてもらおう……。
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